[503] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:33:09 ID:BvuBLMML
[504] シナイダ sage 2007/10/29(月) 03:35:09 ID:BvuBLMML
[505] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:36:42 ID:BvuBLMML
[506] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:37:49 ID:BvuBLMML
[507] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:39:09 ID:BvuBLMML
[508] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:41:04 ID:BvuBLMML
[509] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:42:53 ID:BvuBLMML
[510] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:44:12 ID:BvuBLMML
[511] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:46:02 ID:BvuBLMML
[512] 『夢の中ではファンタジー(前編)』 sage 2007/10/29(月) 03:47:02 ID:BvuBLMML



 本局からのテレポート施設。
 様々な次元へと移動する際には次元航行艦を利用するか、幾つかある中継ポートを経由する必要がある。

 そして、この中継ポートもその一つ。
 このポートからは次元世界50〜100までの世界への行き来が可能となっており、許可が降りていれば管理外世界への転送も出来る。
 そんなポートにて、転送開始時間を待つ人間たちの間に、一人のショートカットの少女がいた。

「あかんて。あかんあかん。ええかお姉さん、こないな適当なブラじゃええ乳は育たんで? 20過ぎて己の乳が育たんと踏んで形を崩したら意味がない。分かるやろ?」
「は、はあ」

 受付嬢相手にセクハラ紛いの管を巻いている小学生の、少女が。
 その独特の口調の少女は、日頃身に纏っている管理局の制服ではなく、お気に入りの半袖ジーンズジャケットに長袖のシャツを重ね着して膝丈上くらいのミニスカートを履いていた。

 今年2(ピー)歳になる受付嬢はこんな年下の少女になんでこんなこと言われているのか理解出来ず、目を白黒させつつも耳だけは傾けている。
 良い人なのだ。残念ながら。

「私はな成長過程を見て、それが大きく育ってくれたらそら嬉しいことやと思っとる。けどな、一度完成したモノが崩れていくのを見るのは耐えられへんねん」
「はあ」
「せやからお姉さんには是非とも形の合ったブラをしてもらえたらええと思う。形だけやないな、大きさもや」
「!?」

 何故そんなことが分かるのか。
 確かに彼女は、胸が大きい。それも一般人から見れば羨まれる程度にだ。

 しかし幼い頃から発育のよかった彼女は周りの男子からからかわれ、女子から羨望と嫉妬の視線を向けられる己の胸をそれ程好いてはいなかった。
 故にそんな昔からの性癖がたたってか、今でも少しだけ苦しい、小さいサイズのブラジャーをついつい買ってしまう。
 多少潰れようとも、それで胸の大きさが隠れるならいいと、心のどこかで思っていたからだろう。

 目の前の少女はそんなことはお見通しと言わんばかりに指を振って、更に首を振り、肩に手を置いてきた。
 そして真っ直ぐにこちらと目を合わせると、なんだか一番星のようにキラキラした視線を向けてくる。

「そこで、や。お姉さんのブラ―――ぐおぅふ!?」
「お、お客様!?」

 少女がこの世の生物とは思えないような凄い声を出しながら引っ張られていってしまった。
 どうやら彼女を掴んだのは金髪の少年―――いや少女? のようで、肩を怒らせながらもズルズルと苦しむ少女を引きずっていく。

 何やらよく分らなかったが、受付嬢は先程の少女の瞑らな瞳を思い出す。
 ああ、鮮明に思いだすことが可能だ。あそこまで欲望に濁った瞳はそうそう見れるものではない。
 けれど、ブラジャーやらおっぱいに対する情熱は確かなようだったし……。

「……買い替えてみようかな」

 それが、まさか今後の彼女の人生の転機になろうとは誰も思っておらず。 
 話に大筋には何の関係もないのであった。
 金髪の彼は妙な口調の彼女を引っ張って適当に受付から距離を取ると、大きく深呼吸してから叫んだ。

「何やってんのさ、はやて!」
「いやーちょっとおっぱいマイスターとして見過ごせん逸材を見つけたんでつい……」
「何を訳の分からないことを……」

 やれやれ、とユーノは肩をすくめる。
 彼も地球に行くためにこのポートで待っていたのだが―――まさかはやてがいるとは思わなかった。
 あはは、と笑って誤魔化すはやて相手に全く、と呆れたように呟くと、キョロキョロとあたりを見回す。

「ヴォルケンリッターは?」
「ん? ああ、シグナムはザフィーラと別任務。ヴィータは武装隊のほうやね」
「シャマルさんは?」
「あそこ」

 指差されたほうに首を動かしてみる。
 すると、待合場所で手荷物に寄りかかる様にして船を漕ぐ、20代前半の女性の姿がそこにあった。

 ヴォルケンリッター、湖の騎士ともあろう人だ。
 が、疲れれば居眠りの一つもするらしい。

「そっか。それで暇してたわけだ」
「うん。ユーノ君は地球に用事なん? 今からやと向こうに着く頃には夕方やけど」
「まぁ、ね。一応すずかの家に泊まることになってるから」
「……すずかちゃんの?」
「すずかちゃんの」

 ほほぅ、と顎に手を当ててニヤついたはやては、顔を近づけてうりうりと肘で胸を押してくる。

「なんやなんや。私が出掛けとる間にそないなおもろい展開になっとったん?」
「はやてが考えてるようなことじゃなくて、正確には忍さんに呼び出されているんだ」
「忍さん? なんで?」
「いやなんか最近気に入られてるというか重宝されてるというか……」

 正直とっても掴みにくい人なので真意は不明なのだった。
 なーんだ、と詰まらなさそうにぼやくと。

「ま、ユーノ君はあれやろ。フェイトちゃんとラブラブなんやろ?」

 ……と、なんだか凄い発言をして下さった。
 というか意味が分からない。

「ちょっと待った。何それ!?」
「あ、もう出発時刻や。シャマル起こしてテレポーターのほういこかー」
「ワザとらしいスルーしないでよ! 僕とフェイトが何さー!」
「気持はわかるで。ついつい苛めたくなる程可愛いもんなぁ、フェイトちゃん」
「いや、だからね?」
「あーでもあれや。アリサちゃんのこともちっと考えたってな。なのはちゃんは自分でなんとかするやろうけど」

 もう意味が分からない。
 そんなユーノの疑問も、その後に鳴り響いたアナウンスにかき消されてうやむやになってしまうのであった。

―――――――

 翌日。
 海鳴にある聖小の5年生の教室では、1人の少女が帰ってくる代わりに1人の少女が出入りでいなくなっていた。

「やっぱり皆忙しいんだね。はやてちゃんの次はなのはちゃんだもん」
「まー、比較的憂慮してはもらっとるんやけどね。私なんかはレアスキル持ちの前科持ちやから、便利屋扱いはどうしてもしゃーないからなぁ」

 給食に出た紙パックの牛乳をズズズ、と音を立てて啜りつつはやてが肩をすくめる。
 すずかがそうなんだ、と頷いてから口元にトマトケチャップをつけたフェイトへと話題を振る。

「フェイトちゃんは最近どう?」
「私? うーん。基本的にアースラの預かりだから、母さん達に全権があるんだよね。それでも緊急出動とかはあるけど」
「そっか。2人とも、無理だけはしちゃだめだよ」
「あはは、わーっとるって。それにうちの場合はヴォルケンズがおるし」
「私にはアルフもいるから」

 ちなみにそのアルフは現在本局でエイミィの事務手伝い中なのだが。
 そんな会話をしていた中、フェイトが空っぽになっている座席にふと視線を向ける。

「アリサ、大丈夫かな?」
「保健室で寝とるんやろ。後でちょっと様子でも見に行こか?」
「そうだね……でも、あんまり刺激しないであげた方がいいかも」
「? どうして?」

 不思議そうな顔をするフェイトに、すずかとはやては顔を見合せて苦笑する。
 よく分らないフェイトは更に首を傾げて―――

「……あれ?」
「どうしたのフェイトちゃん」
「ん……」
「はやてちゃん?」

 更に怪訝そうに眉をひそめて、はやてが呻く。
 そして唐突に手を軽く動かして、その手の中に小さなベルカの魔法陣を生み出す。

「―――フェイトちゃん、気付いたか」
「はやても? じゃあ、気のせいじゃないね」
「?」
「今、確かに魔力反応が―――」

 瞬間。

「「!!」」

 まるで大地震でも直撃したかのような魔力による揺れを2人が感じ、学校全体が結界のようなもので包みこまれ―――すぐに収束して消えた。
 ガタン、と立ち上がった2人はすぐさまに検索をして発信源を特定する。

「ど、どうしたの? 何があったの2人とも?」
「あかん……」
「え?」
「大変だ……」

 顔面蒼白になった2人相手に、すずかはオロオロと戸惑う。
 そんな彼女にも分かるように、はやてがゆっくりと言う。

「今、なんらかの魔力反応があって、結界が張られたんや。すぐに解けたけどな……でも、その発信源がな」
「う、うん」
「保健室辺りなんや」

 今、アリサ・バニングスが寝ている、その場所である。

―――――――――――

「!」
「どうしたのユーノ?」
「今……魔力反応、かな? この方向は確か―――えっと……そうだ。学校のほうだ」
「ええ? 何々。何かあったの?」

 スパナを持っていた手で空中に軽く印を組む。
 情報処理の演算代用として呪を唱えたり何かを書き示すのは昔からある一般的な手法だ。
 近代ではデバイスという便利な演算装置があるので、強力な魔法を使う時以外で詠唱を行う人はあまりいないが。

 足元に緑色の魔法陣が展開し―――町全体に向けてサーチが放出される。
 月村家の庭で行われていた謎の発明品の横で、超科学である魔法が乱舞する様は何やらシュールでもある。

「やっぱり……一瞬だけど学校で強い魔力反応がありました。今は収まってますけど……うーん……心配だから、ちょっと見てきます」
「うん、いいよ。すずかたちのことよろしく」
「はい。―――それじゃあ、行ってきます」

 ん、と言いながらひらひらと手を振る忍の背を見つつ、なんだかなぁ、と呟きながらも飛翔魔法でその場から飛び去った。

―――――――――――

《はやてちゃん! 聞こえますか!》

 お? と思い頭の中に響いた思念通話のチャンネルを合わせる。
 聞こえてきた声は―――今家で留守番をしている筈の、己の騎士のものだ。

《おおシャマル。今どこにおるん?》
《えっと、い、家のリビングです。なんか今、そちらで魔力反応があった気がしたんですけどっ》
《ブラボーや、騎士・シャマル。しかも私やフェイトちゃんやのうて第三者のもの。今むかっとる》
《私も行きましょうか?》
《うん。不自然でないよーにな。私の保護者ってことになっとるわけやし》
《りょーかいです。ばれない様に変装していきます》

 変装は止めた方が―――と言おうとしたら切れてしまった。
 まあ面白そうだからいいかと思っていると、横を走っていたフェイトが横目でこちらを見る。

「誰?」
「シャマルや。少ししたらこっち来るって」
「そっか。にしても、近づくにつれて魔力を感じるね……これは、広範囲ではなくて高密度に作用してるのかな……?」
「ふむ。狭い範囲―――この場合は保健室―――に限って何かしとる奴がおるってことかな」

 その考察に少し考えてから、頷き返す。

「そうだね。……ただ唐突過ぎる上に限定的だから、ロストロギアの可能性も……ないか」
「ははは、そらそーやろ。ユーノ君が落としたジュエルシードに私が持ってた夜天の書。それもロストロギアやったら三つめやで? 幾らなんでもそんなん聞いたことないわ」
「だ、だよね。てことは人間が相手か―――バルディッシュ。気を引き締めるよ」
《Yes,sir》

 短い返事だが、慣れ親しんだ返答を聞いて頷く。
 はやてはポケットから十字架タイプの待機モードストレージデバイスを取り出し、鎖の金属音を響かせる。

「うちはシュベルトクロイツのβ版と夜天の書しかあらへんけど……なんとかしてみせるわ」
「ユニゾンがいるような状況にはならないと思うけどね。そういえばリインフォースの……後継機はもうすぐ?」

 彼女らに想いを託して消えたあの子の名を継ぐもの。
 各部に盥回しにされつつも、ようやく中身の調整が終わりつつあり、外装を作成してるところだったはずだ。
 ヴィータの希望だったらしい小さな女の子だったようだが―――

 それを聞くとはやてはにへへ、と照れ臭そうに笑う。

「うん、もうちょい。あ、あと聖王教会ってとこの人たちとも仲良うなってな。今度紹介するわ」
「うん、楽しみにしとく……あ、保健室だ」
「いよっし、いくで!」

 周りに人がいないことを確認してはやてが杖を展開する。
 本当ならバリアジャケットも装着したいのだろうが、流石にあの格好では誰かに見られた時に言い訳がきかない。
 フェイトもアサルトフォームのバルディッシュを手にすると、保健室の扉を挟むようにしてはやてと同時に待機する。

「いくで。スリーカウント」
「OK。3」
「2」
「1―――GO!!」

 まずはフェイトが構えたまま中へと突撃して辺りを警戒、その後からすぐさま援護射撃が出来るようにはやてが杖を構える。
 ―――入口付近から見える範囲には誰もいない。どこかに隠れているのだろうか。

 そうして一歩前に進むと―――フェイトたちの身体を、微弱な魔力流が通り抜けていく。
 何事、とばかりにフェイトがバルディッシュに視線を送る。
 と、相方の戦斧は問題ないとばかりに点滅した。

「はやて?」
「いや、今のは検索魔法の余波やな。シャマルがやるとは思えんし―――ってああ、そうやった」
「何? どうかしたの」
「うん。実は地球に来る前のテレポーターでユーノ君に会ってん。そか、きっとユーノ君が使ったんやな今の。人騒がせな」
「え……ユーノ……来てるの?」
「そやけど……あれ、聞いてへん?」

 前に向きなおり、保健室内に気を配りつつ、フェイトが非常に不機嫌なオーラを全身から放ち始める。
 やっべえと思いつつもはやてはなんとかフォローしようと思い―――

「い、いやなんか忍さんに用があるらしいからその、なにゃ、」
「……私、聞いてない」
「や、な? ユーノ君やってその、きっと忙し、」
「……忙しいなら地球まで来ないもん」
「そうやね。うん、全くその通りやね―――ユーノ・スクライアあああああ! この空気なんとかせえええええええええ!」

 ちなみに後半は魂の叫びであり、口には出していないことを明記しておく。
 しかしそんな状態でも敵のことは忘れない2人はジリジリと奥へと間合いを詰めて行き、少しずつ敵がいるかもしれない場所を潰していく。
 そして残るは―――カーテンで遮られた、最奥の一つベッドのみ。

「……先生はどこ行ったんやろ」
「職員室じゃないかな。保健室の正面だし、普段はそっちにいた気がするよ」
「そか。んじゃあ……いくで。アリサちゃん以外がいたら―――」
「殲滅」
「や、確保な。確保。イライラしてるからってなのはちゃん寄りの思考にならんでな」

 本人がいたらそれだけで怒られそうなことを言いつつ、フェイトはカーテンに手を伸ばし、はやてが杖の先をそちらに向ける。
 そして目くばせでタイミングを計って―――払う!

「確保オオオオオオオオオオオオ!!」
「フェイトちゃん殺気が!? 顔の造形が島本な感じに!」

 が、しかし中には特に不審な人物はいなかった。
 念のためにはやてはベッドの下も覗き―――誰もいないことを確認してから、ベッドの上ですやすやと眠るアリサを見る。
 実に何事もなかったかのような態度に、少しばかり拍子抜けしてしまう。

「なんや? 気のせい、ってことか?」
「いや、私たちだけならともかくユーノやシャマルさんも反応してる。“何か”はあったんだ」
「……せやね。少し調べてみようか」
「ん。私がやるよ。ミッド式のほうが向いてるでしょ」
「ああ、うん。悪いね」

 金色の魔法陣を展開し、部屋の中から学校全体に向けてを調べ始める。
 それを置いて、はやてはアリサの近くに寄って、その様子を見てみる。

「……ふむ。なんともないように見えるけ―――ど? ん……なんや」

 夜天の魔道書を中空に取り出してみる。
 するとその本全体が少しばかり発光し、……アリサに反応しているようにも見える。

「何……これ……アリサちゃんに反応して―――夜天の魔道書? ……これは」
「どうしたのはやて」
「私たちでは反応できない―――何かや。なんや? ……夜天の魔道書……能力? ロストロギア……ん、待てよ……」
「……何か分かった?」
「いや、確証はないけど……多分―――」
「あ、はやてちゃんにフェイトちゃん! お待たせしましたっ! 超速で飛んできましたよっ」

 すると保健室のドアが勢いよく開いて、慣れ親しんだ声が中へと響く。

「あれ、シャマル? 場所伝えてへんかったのによーわかったな―――……なんやそれ」
「やだなぁクラールヴィントなら2人の居場所くらい一発ですよ」
「いやそっちやのうて。その、恰好の話」
「あ、似合ってます?」

 そう言う問題じゃな―――いやそりゃあ普段着てるんだし似合っていたけれど。
 その身に纏っているのは、白衣。
 科学者研究者、または医療関係者が羽織っているようなそれである。

 当然のように白衣を身に纏って着こなしたシャマルはふふん、と胸を張る。

「どうです。以前病院では『コート』に『サングラス』と違和感ある恰好でしたけど―――これなら間違いなく、問題なく学校に潜入出来るでしょう」
「ここまで入ってしまってるから文句は言えんけど、その格好は無いわ。一般的に考えて」
「ええええ!? お、おかしいなぁ……局のそのまま流用したんですけど」
「そら管理局内ならええけど……家から学校まで白衣で来る保険医がどこにおんねん。いるかもしれんけど、海鳴にはおらんやろ」
「うふふ。やだなぁ、そんな人いるわけないじゃないですか」
「はは、鏡見てから言えな?」

 ええー、と首を捻っているシャマルは放置し、夜天の書を取り出す。

「やっぱり、夜天の魔道書は基本的にロストロギアやしな。となると―――」
「あれ? 夜天の書どうかしたんですか?」

 今頃気づいたらしく、シャマルはててて、と近づいてきて―――目を見開いた。

「これは……夢?」
「ゆめ?」
「はい。夜天の書は生物を蒐集することで、対象を夢の世界に閉じ込める能力もありますから……いえ、半分以上能力が失われている以上、ありましたが、が正しいですが」
「つまり、どういうことです?」

 フェイトの問いに、真剣な目で答える看護士一名。

「どこかで深層意識―――“夢”にアクセスする魔法、及び能力が使われていて……擬似的なリンクを得て反応しているのかと」
「夢―――……この場、状況下で、夢? ……まさか」
「たぶん、その“まさか”やフェイトちゃん……この場で夢を見とるのは、1人しかおらん」

 2人が振り向く先。
 そこには―――安らか過ぎる表情で眠る、親友の姿が。
 慌ててフェイトが近寄り、アリサの両肩を掴んで身体を揺さぶる。

「アリサ! 目を覚まして! アリサ!」
「……」

 反応がない。
 これだけ強く揺さぶって起きないほどに、強い眠りに入っているとも思い難い。
 なれば。
 これは、やはり外因があると―――考えるのが常道だろうか。

「なるほど……何があるのかは知らんが、アリサちゃんを夢の世界にご招待して閉じ込めとるわけやね」
「なら、助け出さないと!」
「勿論や。シャマル、打開策は……これでええのかな?」
「恐らく、出来ると思いますけど、幾つか問題が」

 夜天の書。
 深層意識にアクセスすることが可能なロストロギアを前に、シャマルは少し考え込む。

 問題があるとすれば……それは一体。

「まずその一。夜天の書で術式を展開する場合、以前のような管制プログラムを担っていたリインフォースがいなくなったので、私がバックアップにつく必要があります」
「? それがなんの問題なん?」
「術者は、対象者の意識に潜伏できません。よって、この場合ははやてちゃんと私が外に残ってフェイトちゃん1人に任せることになります」
「……成程」
「そっか……でも、大丈夫だよ」
「その二。内部に潜伏した人も、失敗すれば中に取り込まれて永久に帰ってこれません。“夢”や“意識”の操作魔法は大概そういう仕掛けになってます」
「……む」

 過去幾千の戦いを潜り抜けたシャマルが言うのだ。間違いないだろう。
 確かにそれは懸念材料とも言えるが―――その程度で引くわけにもいかない。
 フェイトは強く頷くと、自分は平気だという意志を示した。

「平気。私一人でも、なんとかするよ」
「……そう。じゃあフェイトちゃんもこう言っていますし、はやてちゃん。やりましょう」
「そうやね。けど、一つ注文増やすで」
「?」

 首を傾げる2人を見て、少し小気味よく思う。
 まったく、シャマルはともかくフェイトはさっき言ったばかりなんだから失念しないで欲しかった。
 さっきからその反応は―――如実に近づいているというのに。

「もう1人、アリサちゃんの夢に潜入する役、追加や」
「え? 誰を―――」
「あ!!」

 思い出したようにフェイトが大声を出す。

「戦いになるかは知らんけど、やっぱ前線には補助がいた方がええやろ? なぁ?」
「あ、あううううっ!?」

 何やら焦ったような声を出すフェイトを尻目に―――
 近づいていた反応は、彼女たちの姿を見届けたからか、窓から堂々と中へと入ってきた。

 靡く金の髪。
 よく知った半そで半ズボンのバリアジャケット。
 緑がかった瞳で皆を見回し―――

「皆、何があったの?」

 ユーノ・スクライアは、そう言って保健室へと降り立った。

――――――――――――――――――

 事情を説明されたユーノはそうなんだ、と頷く。
 そしてはやての提案にも特に異論はなかったので賛成した。

「分かった。じゃあ僕とフェイトの2人で行こう。いいよね、フェイト」
「……う、うん。い、いいいぃ、―――いよっ!」
「え、何その持ち上げ方……どしたの? なんか壊れたゲーム機みたいになってるよ?」
「最近思うんやけど、ユーノ君こっちの文化に馴染んでるやろ?」

 はやての呆れたような突っ込みは無視しつつ、フェイトの顔を覗き込む。
 赤くなって俯いているフェイトを見て―――なんとなく思い至ったユーノは、フェイトにだけ聞こえるように囁いた。

「もしかして、その……あの時のこと……」
「ち、違うよ! そ、それはまた別の機会にゆっくりと! むしろじっくりと! ねっちりと! ぐっちりと!」
「おっと新語だ。流行るといいね―――じゃなくて。あ、はい―――いやはいでもなくて。あ、あのね?」
「べ、べべ別に緊張なんかしてないよ? 本当だよ?」

 いや聞いてないよ、と答えておくが何やら様子がおかしいなんてレベルじゃない。
 一体どうしたというのか。

「―――ははぁん。フェイトちゃん、あれや、さっきユーノ君に怒っとったやーん? 怒らへんのー?」
「え、何を?」
「そ、そそそれは、その、せっかくこっちに来て、なんていうか、私の……私に……」
「……フェイトに?」

 首を傾げるユーノに。
 テンパった状態で。

「わた―――わたりてつや!!」
「は?」
「う、ううう、もう、馬鹿! ユーノのおバカ! 知らない! あ、違うやっぱ知る!」
「え、えええ? ご、ごめんなさい。あれ?」

 ポカポカと胸板をぶたれて目を白黒させることしか出来やしない。
 微妙な乙女心など理解出来ず、なんだかよく分らず怒られている気がしたが、流されるのが得意なユーノは謝ってしまった。
 それでオチがついたと見たのか、放っておくと終わらないと思ったのか、はやてが笑いながら両手を叩く。

「はいはい。ほんならそろそろ準備してな?」
「あぅ……ほら、行くよユーノ!!」
「あ、はいすいません……」
「なんかユーノ君って強気の相手に腰低いわよね……」
「いや、きっと特に指向性が読めない相手に対しての対応の仕方がわかってへんのよアレ」
「そこ。勝手な推測しない」

 八神組に文句を言いつつも、アリサの傍へと立つ。
 アリサは恩人であり友人であるなのはの親友で―――自分にとっても大切な友達だ。
 何が彼女に起きているのかは知らないが、絶対に助けだす必要がある。

「―――よし。僕は何時でも準備―――あ痛ッ」
「ユーノ。あんまりじろじろ見ないで」
「あ、ああ。ごめん……」

 凄い機嫌悪そうなフェイトに頭をぶたれた。
 確かに女の子の寝顔をじろじろ見るものじゃなかったな、と思いなおして目を瞑って精神を集中する。
 その様子を腹が抱えながら見守りつつ、はやては夜天の書のページをめくり始めた。

「ほんなら、いくで。―――同調開始」
「クラールヴィント。ユーノ君とフェイトちゃん、及びアリサちゃんの意識リンクを夜天の書を媒介にして行って」
《ja―――Verbindung》

 白と緑、二つの魔法陣が回る。
 その中で自然体で立っていたユーノは温かい感触と共に、突如隣の少女に手を握られた。
 思わず目を開けようとして―――

「こ、こっちのほうが、その、たぶん、いいかと思うから」
「あ、あぁうん、そ、そうだね。うん」
「言っとくけど意識切り離すから手ェ握るのあんまり意味ないで。まあいいけど……ほんなら」
「行きますよ!」

 シャマルの掛け声と共に2人は身体に浮遊感を覚える。
 フェイトは過去一度経験したような感覚。ユーノは、初めて覚える浮遊感―――まるで、眠る直前のような、スッと意識が浮くイメージ。

 そしてフェイトとユーノの精神は。
 アリサの意識内……否。

 アリサの意識の中に巣食う、とある場所へと、這入っていった。


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目次:ユノフェお尻(仮題)
著者:シナイダ

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