578 名前:ざふぃーらならだいじょうぶ [sage] 投稿日:2012/05/09(水) 17:43:45 ID:Ixxa6/Y2 [2/8]
579 名前:ざふぃーらならだいじょうぶ [sage] 投稿日:2012/05/09(水) 17:44:49 ID:Ixxa6/Y2 [3/8]
580 名前:ざふぃーらならだいじょうぶ [sage] 投稿日:2012/05/09(水) 17:45:39 ID:Ixxa6/Y2 [4/8]
581 名前:ざふぃーらならだいじょうぶ [sage] 投稿日:2012/05/09(水) 17:47:05 ID:Ixxa6/Y2 [5/8]
582 名前:ざふぃーらならだいじょうぶ [sage] 投稿日:2012/05/09(水) 17:48:33 ID:Ixxa6/Y2 [6/8]

「ただいまー」

 扉を開けて、一人の少女が入ってくる。
 そして、部屋の中で寝ていた一匹の獣に飛びついた。
 まるで向日葵のような笑顔で、幸せそうに毛皮に頬ずりをする光景は、思わず写真に収めたくなるほどに愛くるしい姿である。






 ただ一つ、その部屋が異常なほどの腐臭に覆われてさえいなければ。














 その日、ギンガ・ナカジマが、高町なのはの、またほか数名の失踪を知ったのは偶然だった。
 高町なのはにふとしたことを尋ねるために、普段居るはずの教導室に向かったところ、無断欠勤していることを伝えられた。
 急ぎの用事ではない。
 翌日でも良かったのだが、ついでに執務室にも用事があったので、フェイト・テスタロッサに言伝を頼みにいった。
 すると、彼女も出勤していないということが伝えられた。
 ここら辺から、少し疑念が芽生え始めた。そもそもが、この二人は無断欠勤をするような人間ではない。たとえ、何らかの急用でそうなったとしても、二人同時というのはどうもおかしい。
 二人の親友であるはやて司令ならば何か知っているかもしれないと、司令のところへ足を向けてみたが、なんと、司令も出勤をしていないらしい。それだけでなく、ヴォルケンリッターの面々も揃って欠勤している。

 あからさまにおかしい。
 もしかしたら、何らかの事件に巻き込まれてしまっているのではないだろうか。
 ロストロギアが起こしたことに巻き込まれている可能性もある。
 いずれにせよ、非常事態が起こったという可能性は非常に高い。

 ここで、彼らの失踪をちゃんと報告していれば、銀河の運命は変わったのかもしれない。
 しかし、ギンガは、あいまいな情報のまま報告することを躊躇ってしまった。
 高町家に行ってみて、失踪を確認してからでも遅くはない。そう判断してしまったのだ。

(これで、集団インフルエンザでしたとかじゃ、赤っ恥だもんね)

 つまるところ、ギンガはあまりに甘く、うかつだったのだ。

(……何…この臭い)

 高町なのはの家にたどり着き、ノックをしようとしたところで、ギンガは家の中から溢れている強烈な異臭に気がついた。鼻が曲がりそうとは、まさにこのときに使う言葉だろう。
 明らかにただ事ではない。

(……まさか……とは…思うけど)

 腐臭から、最悪の連想が導き出される。
 もし、この扉の向こうにこの家の住人の――があったとしたら……。

(駄目!そんなことを考えちゃ!)

 頭を振って、嫌な想像を払う。
 とにかくこんなところでたちんぼうしていてもしょうがない。ギンガは腐臭を吸ってしまわないように、器用に深呼吸をして、扉を叩こうとした。


 その時、扉の向こうから、小さな足音が聞こえた。

(誰か…いる!?)

 こんなひどい臭いの中、いったい誰が居るというのか。ギンガは、扉の向こうの人物に気取られないように、そっと中の様子を伺ってみる。
 そもそも、この中にいる人物は正気なのだろうか。ギンガの感性では、とうてい正気で耐えられる環境とは思えなかった。

 背筋どころか、体中に寒いものが走る。

 そして、畳み掛けるように、ギンガの耳は、信じられない声を捕らえてしまった。

(えっ?…う…そ)

 いや、信じられないというのは間違いだろう。信じられないのではなく、信じたくなかったのだ。




(………ヴィヴィ……オ………ちゃん?)

 確かに、扉の向こうから聞こえてくる声は、ヴィヴィオのものだった。
 聞き慣れた声が、かえって扉の向こうの非現実感を高めていた。

(なん…何で、ヴィヴィオちゃんが!?それに……)

 何より、その声が嬉しそうなのだ。
 まるで、恋人と会っているかのように、時には甘えた、時には哀切のにじんだ雰囲気が、扉越しにでも伝わってくる。


 ギンガは、すでに何も考えられない状態だった。頭が真っ白になり、考えをまとめようとしても、まったくまとまらない。


 そして

 いつの間にか

 自分の手がノブにかかっていて

 なぜだか家の中が見えていて

 さっきよりも臭いもきつくなっていて

 それに声もはっきりと聞こえるようになっていて





 要するに―――




 ―――扉を開いてしまったのだ。

 どうやって動いたのかは、まったく覚えていない。ただ、気がついたら、ヴィヴィオが目の前に座っていた。

 何もおかしなところは無い。いつもどおりのヴィヴィオだ。そう、まったくおかしなところは無い。




 そうヴィヴィオには。



 おかしなものはただ一つ。

 ヴィヴィオが抱きしめている、その青い「何か」。
 そして、ギンガはその「何か」に心当たりがあるような気がした。
 そう、それは―――

「……あ?」

 駄目だ!

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!

 気がついてはいけない。思い出してはいけない。考えてはいけない。



 その「何か」が、

 師匠に、

 時おり自分たちの仕事を手伝ってくれていた青い守護獣に似ているなどと。




「いやあああああああああああああああああああああああああ」

 いつの間にか、絶叫していたらしい。気がついたときには、声の出しすぎで咳き込んでいた。


 そんな自分に、ヴィヴィオはいつもどおりに声をかけてくる。

「大丈夫、ギンガさん?どうしたの、いきなり叫んだりして」

 あくまで、ヴィヴィオは笑顔のままだった。なんの含みも持たない、純粋な笑顔。この状況ではそれが一番恐ろしかった。

「おえええぇぇぇ」

 あまりの状況に、体が拒否反応を起こす。知らず、わたしは食べたものを戻していた。

「ギンガさん、ザフィーラを見て、吐くなんて失礼だよ!」

 その時、ヴィヴィオの笑顔が、初めて崩れた。私を睨みつけてくる視線には、憎悪すら宿っている。

「ママもひどいんだよ。ザフィーラが臭いって言うの。はやてさんたちに電話して、わたしとザフィーラを引き離そうとするんだよ」

 違う。

 その目に宿っているのは、憎悪だけではなかった。

 狂気。なにより、そのように呼ばれるものに支配されている。 
 狂ってしまったお姫様は、クルクルと笑いながら、自分のやったことを独白し続ける。

「だから、みんな殺しちゃった。ザフィーラにひどいことするんなら、ママやはやてさんでも許さないんだから」

 ヴィヴィオはそれだけ言うと、あさっての方向に漂わせていた視線を、私の方に合わせてくる。

「ギンガさんはどうかな?ギンガさんもすきだったんでしょ、ザフィーラのこと」

 そして、わたしにその死体を押し付けてくる。
 ベチョッという音とともに、私の顔におぞましい感触のものがくっついてきた。

「ひっ!」

 私はたまらず悲鳴を上げて、顔についているものを引き剥がしてしまう。







「ふーん、ギンガさんもそういうことするんだ。せっかく、ザフィーラと一緒にいるのを許してあげようと思ったのに」

 ヴィヴィオの視線が、限りなく冷めたものになっていることに気がついた。
 そして、ヴィヴィオは死体をもう一度取り上げ、まるで恋人のようにそっと抱きしめると、蛆すら這っているその顔に口づけをした。

「ギンガさんも、本当にザフィーラのこと好きじゃなかったんだね。だって、この姿を愛せないんだもん」

 それだけではない。
 毛皮に顔をうずめ、思いっきり息を吸い込む。常人なら頭が壊れてしまいそうな腐臭で、恍惚の表情を浮かべていた。

「私は違うよ。ザフィーラの匂いなら全部大好き。触り心地も、かっこいい姿も全部変わらない」

 ヴィヴィオの手が、下腹の方をなでている。そこには、死後硬直のせいか勃起状態を保っている、ザフィーラのペニスがあった。

「ザフィーラならなんだって許せるの!だって、私はザフィーラを愛しているんだから」

 手だけではなく、ヴィヴィオの体全体が下に降りていく。
 目を背けたくなるほど無残な、その陰部を、ヴィヴィオは何のためらいも無く、むしろ嬉々として口に含んでいく。




 ヴィヴィオがフェラチオをしている間、ギンガは凍りついたように動くことができなかった。
 どれほど時間が過ぎただろうか。
 AV女優もかくやというような淫猥な光景は、いつの間にか終わっていた。

 ヴィヴィオがこちらに歩いてきた。
 手には凶器が握られているのが分かる。

「ギンガさんもダメだね。ザフィーラのことは渡せない」

 その手が高く振り上げられる。
 次に何が起こるかは分かっているが、体は全く動かなかった。
 まるで、高いところから、この状況を俯瞰している気分だ。
 自分は、壊れてしまったのだろうか。いや、かもしれないではなく、本当に壊れてしまったのだろう。

「バイバイ」

 そして、ゆがんだ笑顔と共にその手が振り下ろされて―――

「キャー!!最高です〜!!!」

 清々しいほどの青空の下、緑が映える芝生の上で、そんな歓声が響き渡った。
 中心にいるのは、シャッハ・ヌエラ。その芝生を所有する建物で働いている人物である。
 その前には、テーブルの上に積み重ねられた本が置かれていた。

「でしょー。自分で言うのもなんだけど、最高傑作だと思うんだよね〜」

 照れるなー、などとのんきなことをつぶやきながら、シャッハは並んでいる人に本を渡す作業に移った。
 列になっている人たちは、本を手渡される前に、シャッハにお金を渡していく。




 要するに、シャッハは教会の片隅で、同人活動を行なっているのだった。



「くれぐれもカリムさんには秘密にしてね。この前バレたときは、かなりやばかったんだから」

 本を渡す時には、そのように言い聞かせておく。
 実のところ、この同人活動は、書いている内容が内容もあって、上司のカリムからは良い顔をされていない。
 今、シャッハたちがいる場所も、死角となるところであり、むしろ気づきづらいだろうと選んだのである。

(それにしても、ヤンデレシリーズがこれほど人気になるとは…)

 本人としては、軽い冗談のつもりで始めたものだったのだが、人気が高くなりすぎて、引くに引けない状況になっていた。

(いい加減、バレるかもしれないし、そろそろ潜るべきかな〜)

 心中はいろいろと揺れているものの、外には見せずに、笑顔で同人誌を売りさばいていく。

「へー、こりゃまたすごい内容やね」

「そりゃあ、もう、今回で一区切り付けるつもりですし」

 さりげなく重大発表がなされ、周囲からはどよめきが起こるも、かまわず続ける。

「色々なジャンルに挑戦したいんです」

 なんとなくネタに詰まった小説家のような言葉だったが、周囲には比較的好意的に受け取られたようだった。

「え〜、私、今回が初めてだったのに、寂しいですよぉ」

 こんなことを言う人もいるが、次回はもっと面白いモノを書いてくると約束する。赤と緑のオッドアイが、嬉しげに細められる。



(…………ん?)



 今は視線を外して、はっきりと姿が見えるわけではないが、自分はこの子を知っている気がする。そう言えば、さっき関西弁が聞こえたような気も……。さらにたった今気がついたのだが、いつの間にか自分の周りには、二人の人しか残っていなかった。

「アノー、ヤガミシレイ?」

 目の前にいる、どことなく狸っぽい(本人には内緒だ)女性に声をかける。口から出た言葉は、カタコトになってしまっていた。

「ん?」



 振り向いた。
 これ以上になくはっきりと八神司令だった。

(え〜と、それじゃあもしかして………)

 下は向きたくなかった。認識しなければ確定はしないと、どこぞの物理学者のような言い訳を脳内で繰り返すも、現実はあまりに非常だった。

「シャッハさんて、絵も文章もとっても上手なんですね」

 聞き慣れた、人懐っこい声が聞こえてくる。

 もう泣きそうだった。

 そして、私の決断は早い。

「すみませんっしたあ!!!!」

 土下座だった。
 これ以上ないほど、綺麗に決まった土下座だった。
 美しさで言えば、今年度最優秀賞を取れるくらいの土下座だった。

「どうか!なにとぞ!カリムさんにはこのことを内密に!!!」

 必死で、目の前の司令に呼びかける。
 その必死さは、たとえ自分が前科百犯の詐欺師であったとしても、許されるのではないかと思うほどである。
 目の前の人も、鬼ではないのだ。なんとかなるはずだ。

 その姿を見て、八神司令は、ポリポリと頭を掻いて、困ったように口を開いた。

「あー、そう言われてもな……」

 そう言って、とある方向に目を向ける。

 嘘であって欲しかった。
 八神司令の視線のむこうにいる人物が、自分の知らない上司であることを願う。

(どうかお願いします!聖王さま!!)

 最後に祈りの言葉を唱え、視線だけそちらに向けてみた。



 カリムさんだった。

 怒っているのかと思えば、さにあらず。完璧な笑顔でこちらを見つめていた。その笑顔はまるで聖母のよう。だれもが、安心してその胸に飛び込んでいくだろう。

 その背中から漂う、どす黒いオーラさえ無ければ。

「シャッハ?」

 自分の名前が呼ばれた瞬間、恐怖で体が震えてしまう。
 極限状態の中どうしたら自分が生き残れるのか、フル回転でシュミレートをし続ける。

「このようなことはやめなさいって、そう言っておいたわよね?」

 顔を上げちゃダメだ。顔を上げちゃダメだ。顔を上げちゃダメだ!
 頭の中で、千の言い訳が生み出され―

 ―そのことごとくが、たった一言で一蹴される。

(「そう、それじゃあ懲罰房へ行きましょうか」)

 もうだめだと、頭の回転も止まり、ただこの天災が過ぎ去るように伏していた。




「はあ、困った人ね。司令の執り成しもあったことですから、懲罰房行きは勘弁しておきます」




 奇跡が起こった。
 耳に届いた言葉が信じられない。果たして、そこにいる人物は本物のカリム・グラシアなのだろうか?

 顔を上げ、感謝と、畏敬に満ちた眼差しを己の上司に差し向ける。

 そして、そのまま私の顔は固まってしまった。

 さっきはチラリと見ただけだったので、気がつかなかったが、カリムさんの後ろには、二人の女性が並んでいた。
 小説の中では、ヴィヴィオに殺された設定にしていた、養母たちが…。

「ただ、この方たちが、あなたに摸擬戦を手伝って欲しいらしいの。今日のあなたは、有給休暇だし、いつまでも付き合ってあげても大丈夫よね」

 笑うしかなかった。
 向こうも、ただただ笑顔だった。

 襟首をつかまれて引きづられていく途中、そう言えば、遺書を書いてなかったと漠然と考えていた。









「大丈夫でしょうか、シャッハさん」

 心配そうに、オッドアイの少女が問いかけてくる。

「んー、まあ、非殺傷設定にはするやろし、間違いはないんやない」

 もっとも、さっき見た、二人の表情から察するに、危険な予感はあるが。
 とりあえず、カリムも傍にいるだろうし、死ぬことはないと思う。

「それにしても、ひどいなあ」

 ヴィヴィオが、小説を手にとって頬を膨らませる。
 当然だろう。なにせこの作品の中では、自分が正気を失った殺人鬼なのだ。
 と言うか、これを平然と手にとっていることが、驚くべき事態である。



「ザフィーラ殺しちゃったら、子供作れないのに」

「………」



(拉致監禁までならありなんか?)



 ヴィヴィオの何気ない一言に、そこはかとない不安を感じる。

(ヴィヴィオとは二人きりにならんように言うとこ)

 ザフィーラに忠告することを決めて、ふと空を仰ぎ見る。
 雲ひとつ無い青空に、燦燦と太陽が輝いていた。


著者:113スレ577

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