101 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-01/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:07:16 ID:fwCDBoyW
102 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-02/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:07:38 ID:fwCDBoyW
103 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-03/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:08:00 ID:fwCDBoyW
104 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-04/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:08:23 ID:fwCDBoyW
105 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-05/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:08:47 ID:fwCDBoyW
106 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-06/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:09:09 ID:fwCDBoyW
107 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-07/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:09:31 ID:fwCDBoyW
108 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-08/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:10:04 ID:fwCDBoyW
109 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-09/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:10:29 ID:fwCDBoyW
110 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-10/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:10:52 ID:fwCDBoyW
111 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-11/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:11:37 ID:nS6XSj3r
112 名前:熱き彗星の魔導師たち 19-12/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2008/05/29(木) 04:12:39 ID:99XF61v+

 ヴィィィィン…………
 クラナガン首都高速を、FIAT“NUOVA”500改・『チンク・エント・チンク』を、アリサ
が都心方面に向けて飛ばしていた。
 助手席にはいつものようにユーノが座っていたが、後席には、なのはと、人間形態のザ
フィーラが収まっていた。
「すみません、ザフィーラさん。わざわざ案内してもらって」
「何、聖王協会の事に関しては私が連絡役を引き受けているし、それに、車の方はバニン
グスに同乗させてもらうことができた」
 ザフィーラは、口元で微笑みながら、そう答えた。
「なんの。こっちも地上本部に顔出すついでだったから」
 ステアリングを握りながら、アリサはちらり、と一瞬ルームミラー越しに2人の顔を見
てから、前を向いたままそう言った。
「…………」
 アリサの言葉に、しかし、なのはの表情が、にわかに曇った。

熱い彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-19:The holiday in front of a storm (前編)

「けど、どうして聖王教会系の病院に? 医療施設なら地上本部にだってあるし、より高
度な医療なら本局の方が充実してるんじゃないかな」
 ユーノは、浅く後ろを振り返って、そう訊ねた。
「それも考えたのだが、6課の後見人である、聖王教会の騎士、カリム・グラシア殿から、
是非にという推薦をもらって、主としても、断りにくかったようだ」
「ふーん」
 ザフィーラが説明すると、ユーノは、正面に表情を戻した。
『どう思う?』
 スクランブル付の念話が、アリサの頭に響いてきた。
『なにがよ?』
 不慣れなスクランブルを組んで、アリサは返答する。
『なんかこう、聖王教会って単語にヒットしすぎじゃないかと思うんだけど』
 ユーノは、そう話しかけつつ、ちらりとアリサを見る。
『気に入んないのは確かね』
 アリサは顔を憮然とさせて、そう答えた。
『古代ベルカにまつわるってことじゃ、はやても関係者だし』
『!』
 アリサがそう言ってため息をつくと、ユーノは目を円くして、アリサを見た。
『確かにそうだ……何か、つながりでもあるのかな?』
『今のザフィーラの態度からすれば、今のところ、後見人って以上の関係は推測しにくい
けど』
「どうした? 高町」
 ザフィーラは、先ほどから塞ぎこんでいる様子のなのはを見ると、微かに怪訝そうにし
て、訊ねる。

 なのははザフィーラの声には答えず、
「ねぇ、アリサちゃん。レジアス中将って、信頼できる人……なのかな」
 と、運転席のシート越しに、尋ねる。
「は? どういう意味?」
 アリサは訝しげに眉間にしわを寄せながら、再度ルームミラー越しになのはの顔を見た。
 なのはの表情は、どこか困惑している。
「うん……だってテレビとかじゃなんか、演説で陸士隊の強化ばかり叫んでいるし、はや
てちゃんのこと目の敵にしてるし……」
「お互いいい印象を持ってないのは仕方ないんじゃないかしら? あたしから見れば、中
将は本局から目のカタキにされてて可哀相。それに……」
 アリサはそう言ってから、ちらり、と、助手席のユーノの顔を見た。
『まだそこまで、口外しない方がいいと思う』
 ユーノは、スクランブル付の念話で、アリサにそう言ってきた。
『相手がなのはでも?』
『なのはだからこそ、だよ』
 ユーノの言葉に、アリサは頷きで答える。
「……そう、そんな感じかな」
 アリサは、言葉尻を濁した。
「でもそれは、中将が本局の言うこと聞かないからだよ」
 なのはは、思いつめたような表情で、反論する。
「確かにそれはある意味正しい」
 その言葉に答えたのは、ユーノだった。
「でも、実際問題として、本局側……次元巡航警備部の言うことに従うだけだったら、治
安はもっと悪化してた。もちろん、ミッドチルダもね」
「ちょっと前の陸士隊がどんな状況だったか、アンタ知ってる?」
 ユーノの言葉に、更に追撃するように、アリサが問いかけの言葉を発する。
「え? えっと……」
「バリアジャケットの展開すら覚束ない、接近戦に持ち込まれたらまるでPoor。航空隊は
若干マシだったけど、それでもCランカーが上等な方。Bランカー以上はすぐに本局に引っ
こ抜かれちゃうからね」
 戸惑うなのはに、アリサはステアリングを握って前を見たまま、ずけずけと言った。
「もちろん、次元巡航警備部の方でも、それなりの事情があるだろうから、仕方ないのは
解ってるけどね」
 ユーノが、やんわりとした口調で、そうフォローした。
「中将本人は、うーん、そうね、信頼できる人間だって言っていいと思うわ。確かに、陸
士総隊のトップとしては強権的なところもあるけど、少なくとも自分自身の権力欲の為に
やってるわけじゃないし。信念の持ち主よ。それに……」
 アリサは、そこまで言って、一瞬言葉を区切ると、
「娘に甘いのよね〜」
 おどけたように言って、軽くため息をついた。
 助手席で、ユーノも苦笑した。
 なのはとザフィーラは、呆気にとられて、顔を見合わせた。


「八神二佐がお付きになられました」
 聖王教会──カリム・グラシアお付のシスター、シャッハ・ヌエラは、そのカリムの執
務室に入ると、戸口でそう伝えた。
「解りました。お通しして下さい」
 そう言ったカリムはしかし、戸口から正面の執務机にはいない。
「はい……こちらです」
 シャッハに導かれて、はやてと、その付き添い──レンが、室内に入って来た。
「ちょいご無沙汰やな、カリム、それに────」
 はやては、執務室内に置かれたハイチェアタイプのティーテーブルに向かう、カリムと、
もう1人に、やや苦笑の混じった穏やかな苦笑で、挨拶をする。
「クロノ君も」
「おいおい、仕事中なんだから、ちゃんとカリム少将もしくは騎士カリム、クロノ提督と
呼んでくれよ」
 クロノはそう言いつつも、かつてのような堅物さはやや薄れ、苦笑して冗談めかした口
調になっている。
「あはは、そうやね、いや、そうでした。申し訳ありません」
「いや、別にいいけどね」
 はやての言葉に、やはり苦笑気味の穏やかな笑みで、クロノはそう言った。
「まぁ、立ったままと言うのもなんですから、どうぞかけて下さい」
 カリムはそう促す。はやてはそのまま、
「ほな、お言葉に甘えて」
 と、ハイチェアーに近寄り、腰掛ける為にその背ずりを掴んで少し引いた。
 しかし、
「はやてちゃん、それに、騎士カリム」
 レンは、妙に真剣そうな表情で、はやての背後から声をかけた。
「なんや? レン」
「なんでしょう?」
 2人が、視線をレンに向ける。
「あたし、ちょっとシャッハと、2人きりで話したいことあるんやけど、ええやろか?」
「? 私と、ですか?」
 シャッハはレンの隣に歩みを進めつつ、キョトン、として、そう言った。
「うん」
 そこまで言ってから、レンは、表情を崩す。
「まぁ、所謂野暮用、っちゅうトコや」
 シャッハに向かってそう言ってから、視線をはやてとカリムに戻す。
「んー、あたしは別にかまへんけど、カリムは?」
 はやては、振り返ったままレンにそう言ってから、カリムの方を向いて、伺いを立てる。
「構いませんよ」
 カリムは、口元でにこりと微笑んで、そう言った。

「だ、そうや」
 はやては、レンの方に視線を戻して、そう伝える。
「おおきに。じゃ、ちょっと借りてきます〜」
「すみません、ちょっと行ってまいります」
 レンは軽く挨拶をし、シャッハは軽く頭を下げてから、カリムの執務室を出て行った。
「あの2人で、どんな話があるんだろう」
 その疑問を、クロノが口にした。
「多分、古代ベルカ式の技についてじゃありませんか? 2人とも、結構バトルジャンキー
やし。シグナム程やないけど」
 はやてが言う。
 シャッハも古代ベルカの使い手であり、しかもデバイスは双剣・『ヴィンデルシャフト』。
接近戦に特化したスタイルで、確かにレンと共通する点はある。
「それを君が言うか」
 クロノは、はやての言葉の、その後半部分を捕まえて、苦笑混じりにそう言った。
「あ、ひどーい。クロノ君、あたしをそー言う眼で見てたんか?」
「まぁ、はやてがと言うよりは、うちの愚義妹(ぐまい)や、君や彼女と共通の友人と一緒
になると、って言う感じだけどな」
「フェイト執務官と、高町なのは武装官ですね。確かに人の事は言えないかも知れません
ね」
 クロノの言葉を聴いて、カリムもくすくすと笑った。
「ひどーい、フェイトちゃんもなのはちゃんも、そんな事あらへんよ」
「ああ、そう言うことにしておこうか」
 むくれるはやてに、クロノは苦笑しながら、宥めるように言った。
「で……本題に入りますけど」
 笑顔を幾分緩めてから、カリムが切り出す。
「まずは、機動6課の状況と……そう、レリック事件の現状は、どのようになっています
か?」
「書類での報告の通り……正直、あまり状況はよくあらへんね」
 カリムの問いに、はやては表情を一転、苦く引き締めて、そう言った。
「ホテルでの失敗以降は、新たにあちらにレリックの確保は許してへん。けど、ガジェッ
トの跳梁は、徐々にやけど、以前より活発になってきてる」
「この前登場した、……陸戦III型、だな」
 クロノが、やはり深刻そうな表情で言うと、3人の前に非実体ディスプレィが現れる。
 そこには、すらりとスマートなヒト形ロボットの形状をした、ガジェット・トルーパー
“陸戦III型”の姿が表示されていた。
「地球のアニメでよく見た、そう、ガン○゙ムシリーズのロボットに似ているな」
 クロノが言った。もっとも彼はオタクと呼べるほどには詳しいわけではない。
 本当にリアル系ロボットアニメに造詣の深い日本人なら、「いや、これはモビルスーツ
と言うより、レイバーだろ。っつーかむしろ零式そっくりだし」と言うだろう。

「動きも以前の物と比べて遥かに滑らかになっとる。けど、実際、ガジェットに関しては、
それほど厄介っちゅうこともない」
 はやてがコンソールを操作した。ディスプレィの画像が変わり、開いたウィンドゥに、
ブルーのレオタード状スーツ、目出し穴の無い金属製のカウリング型アイマスク、そして
長髪ストレートのブラウンの髪の、少女が映し出された。
「『量産型戦闘機人』……」
「XI型、と呼ばれていますね」
 はやてが呟くように言うと、カリムが付け足すように言った。やはり表情は、深刻そう
だった。
「正直、A、A+ランカーでも……こいつが複数出てきたら苦戦は必至や。リミッターかけ
とる状態のフェイトちゃんや、なのはちゃんでもな」
「なのはやフェイトでも、か」
 はやての言葉に、クロノは重々しく声を上げた。
「今のところ、こいつらが出てきたら、アリサちゃんとユーノ君に出てもらうしか、解決
策あらへんねん。あ、もちろんあの2人やあたしのリミッター解除できれば、それがベス
トやけど」
 はやては、どこか自嘲気味にそう言った。
「バニングス駐在官夫妻……あのお2人には、リミッターが?」
「かかってないよ」
 軽く驚いた様子のカリムに、クロノが答えた。
「アリサの公式はあくまでC+。婿入りフェレット……ユーノはAA+だからね」
「そうでしたわね……」
 カリムは、どこか落胆したように、軽くため息をついた。
「ただ、今のトコ幸いなのは、量産と言ってもそうそう数は出てこんことや」
「スカリエッティは地下に潜伏していますからね、やはりその状況では、製造できる数は
限られている、といったところなのでしょう」
 はやてが言うと、カリムも同意の言葉を出しつつ、頷く。
「それで……この話は、一旦区切りますが」
 カリムが言う。はやてとクロノは、視線を上げ、カリムに向けた。
「機動6課の現状……先ほどちらりと出ましたが、バニングス駐在官夫妻の起こしている
問題は、現在どうなっているのですか?」
 険しい表情で、カリムは問いかけた。クロノも、はやてに視線を移す。
「あ、それは、なんかアリサちゃんの方も思うところあったらしくて、なんかこう、あた
しの知らん間に解決したようやわ」
 一方のはやては、軽く苦笑しながら、そう言った。
「まぁこっちでも、ヴィータとレン入れ替えさせて、それはちょぉ不満やったんやけど、
それ以降は大きな軋轢起こしてへん」
「まぁ、彼女はともかくとして、ユーノの方は好んで諍いを起こしたがる性格じゃあない
からね」
 はやての言葉に、クロノもやや苦笑気味に笑って、付け加えた。

 そして、クロノは更に続ける。
「アリサ、はやてと距離とってたけど、『“最後の”闇の書』事件の事に関しては、はや
てが不利になるような事は、外ではあまり言わなかったようだよ」
「え!?」
 はやては、目を円くして驚き、視線をクロノに向けた。
「はやては蒐集を指示していなかった、その場面の目撃者だしね。陸士総隊にははやてを
犯罪者扱いする人間もいただろ? でも、アリサはそう言う人間に対しても『はやては積
極的に闇の書を使おうとはしていなかった』で通していたようだよ」
 はやては、元闇の書の主、と言うこともあり、一部の人間からは覚えがめでたくない。
特に陸士総隊ではある理由から、その傾向が顕著だった。
 ズキリ。
「は、はは、そうだったんですか、アリサちゃんがね……」
 急に締め付けられるような痛みを覚えた胸を、はやては無意識に押さえながら、苦笑を
取り繕って、そう言った。
「それでは……この話が一段落した所で、本題に戻ります」
 しかし、カリムの表情は、重いままだった。
「? カリム、どうかしたんか?」
 はやてが訊ねると、カリムは僅かに間をおいてから、意を決したように、顔を上げる。
「それでは、本題に戻ります」
 カリムの様子に、はやてとクロノも、一瞬、息を呑んだ。
「予言詩の解読作業が終わりました。これがその内容です」
 『プロフェーティン・シュリフテン』。カリム・グラシアが持つ特殊能力のひとつ。
 1年に一度、極近い将来に発生する重大事項について、白紙のカードに予言詩の形で浮
かび上がる。
 ただし、古代ベルカ語での記述であることと、内容そのものに関してはカリム自身にも
全く操作できないこと、そして予言された事象が発生するスパンは1〜3年となることが欠
点だった。
 その予言詩の翻訳と解釈の作業が終わった、とカリムは告げたのである。
 ディスプレィに映し出されたその文章に、はやては目を通した。

 古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。
 死者達が踊り、なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、
 それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる。

「…………これは……」
 そう、声を絞り出したのは、クロノだった。
「いまだ解釈の釈然としない点はいくつか残りますが、プレーンな解釈をするのなら、大
地の法の塔とは地上本部、数多の海を守る法の船とは次元航行艦の事を指すと思われます」
「そして、古い結晶が……レリックのことを指すのやとしたら……!!」
 カリムの淡々とした説明の後、はやてが呟くように言い、ゴクリと喉を鳴らす。

「管理局の体制の崩壊────」
「それも、事件は既に現在進行中、首謀者はジェイル・スカリエッティ、と言うことにも
なるな」
 クロノがやはり、重い口調で言う。
「彼の目的ははっきりしませんが、現状の秩序の暴力的な破壊は、なんとしても阻止しな
ければなりません。はやて、機動6課はその為に設立された部署です」
 カリムは真剣な表情で、はやてを見つめ、そう言った。
「わかっとる。そう簡単に、こないな予言実現させてしまうわけにはいかへん」
 はやては力強く頷き、そう言った。
 そして、ふと思い出したように、言う。
「それで、この内容、地上本部には教えたんか?」
「ええ、もちろんですとも」
「ただ、レジアス中将はカリムの能力のことを信じていないからね」
 カリムは頷き、クロノが付け加えるように、しかし否定的な言葉を出した。
「この件に関しても、けんもほろろな態度をとられただけでした」
 カリムは、困惑気な表情になり、ふぅ、と、ため息をついた。
「さよか。まぁ、レジアス中将ならしゃあないやな……」
 はやては言い、クロノと共に、軽くため息をついた。


「じゃ、終わり次第迎えに来るから」
「うん」
 なのはが返事をして、軽く手を振ると、アリサはギアを1速に入れ、チンク・エント・
チンクを発進させた。
 スパパパン、と、クランクケース圧縮式2ストロークエンジンの軽い排気音をたて、市
道をすり抜けていく。
「では、行こうか」
 ザフィーラに促され、なのはは、一見古めかしい木造建築の建物の方へと、歩いていく。
「ところで、あの子にわざわざ会いに来るという事は、処遇に関して、何か思うところが
あるのか?」
 連れ立って歩きながら、ザフィーラは、なのはに、そう訊ねた。
「うん……フェイトちゃんと相談したんだけど、やっぱりきちんと里親、探したほうが良
いかなって。それで、きちんと、あの子なりの生き方をした方が、幸せかなってね」
 なのはは、どこか照れたように笑いながら、言った。
「ほう」
 ザフィーラはそう、声を上げてから、
「私は、主やバニングスと同意見だがな」
 と、いかめしい表情のまま、そう言った。
「えっ?」
 彼女にしては珍しく、意地悪そうに微笑むザフィーラの言葉に、なのははドキッ、とし
て、ザフィーラを見た。
「この際、高町がクロノ提督と籍を入れて、引き取ったらと言うことだ」
「そんな……でも、そうなると2人とも忙しいし、あの子1人ぼっちにすることが多くなっ
ちゃうし」
 顔を紅くしつつ、なのはは慌てたように、言った。
「そうか? 本心では否定していないようだが。それにいざとなれば、高町の御母堂や姉
君もいるだろう?」
「…………」
 ザフィーラが言うと、なのはの表情に、さらに赤みが増す。まるで、湯気が上がりそう
な勢いだった。
 なのはの両親である高町士郎・桃子夫妻には、既に兄の恭也の娘として実孫がいる。し
かし、恭也はその配偶者である忍の月村姓を名乗った上、現在はその忍の仕事の関係でド
イツに定住している為、めったに孫の顔を見ることが出来ないと、2人はぼやいていた。
 特に、士郎は自分は『翠屋』から引っ込んで、初孫・雫の面倒を見る気満々だった為に、
落胆することひときわである。
 クロノとなのはの関係も、既にほとんど公認状態だし、その2人の子供といえば、例え
養子であろうと、猫かわいがりにするのは目に見えている。
「お、お姉ちゃんは、そろそろ自分がお嫁に行かないと、まずいから……」
 話を逸らすかのように、なのはは頬をかきながら、そう言った。

「それに」
 ザフィーラは、そう言って、表情を更に険しくした。
「状況から行って、スカリエッティと何らかの因縁があるのは確実だろう」
「!」
 ザフィーラの言葉に、なのはもまた、表情を引き締める。
「その子を一般人の養子に出して、将来にわたって安全かどうか。それならば高町とクロ
ノ提督なら、本人はもちろん、ハラオウン家はほぼ全員が高度の魔導師かその使い魔だし、
士郎殿は魔導師ではないとは言え、その実力と人柄は信頼に足る」
「…………」
 なのはは、すぐに返す言葉を見つけられず、ただ、ゴクリと、息を呑んだ。
 やがて2人は、病棟である建物の入り口をくぐった。
「時空管理局・機動6課の者だ。八神はやて部隊長の使いで参った」
 やや不躾な態度で、ザフィーラは入り口の受付に伝える。
「少々お待ち下さい」
 受付の事務員が、カウンターの後ろにある扉から事務室らしき室内に入っていく。2分
ほどして、看護師の白衣を来た女性が、室内から出てきて、なのはたちの前に来た。
「お待ちしておりました。高町なのは二尉と、ザフィーラ特別管理官ですね。お待ちして
おりました」
「早速ですが、あの子のところへ、ご案内をお願いします」
 軽く一礼する看護師に向かって、ザフィーラはそう言った。
「はい、どうぞ、こちらへ」
 看護師は、手で2人を導くようにして、2人を先導して建物の中に入った。
「それで、どうなんです? あの子の様子は?」
 ザフィーラの背中越しに、なのはが聞いた。
「ええ、今は、精神的にも落ち着いていますし、肉体的にも、少し筋力の衰えが感じられ
る意外には、健康体と言って問題ありませんよ」
 看護師は、ニコニコとした笑顔で、そう言った。
「よかった」
 なのはは、胸を撫で下ろすようにして、そう呟いた。
「あ、ただ……」
「ただ?」
 看護師がなにか思い出しかけたように言うと、なのはは目をキョトン、とさせて、訊き
返した。
「そちらから見えられた、シャマル医務官でしたか、彼女のリンカーコアが、少し特殊な
形をしている、と仰られていましたね」
「リンカーコアが、特殊?」
 なのはは、鸚鵡返しに訊き返す。
「ええ、ただ、以前にも似たような例を見たことがあるとかで、あまり心配はされてらっ
しゃらないようでしたが」
「以前にも……」
 言われて、なのはははっとすると、小走りに、ザフィーラの前に回りこんだ。

「ザフィーラさん、なにか知ってますか?」
「いや……」
 ザフィーラは、反射的に小さく言ってから、口元に手をあてて、逡巡する。
「心当たりがあるとすれば、月村嬢の事だが……」
 言葉尻を濁すように、そう言った。
「すずかちゃんが!?」
 なのはは、驚愕の声を上げる。
「それと、姉の忍嬢もそうだった。もっとも、2人は姉妹だから、そう言うこともありえ
るのかも知れんが」
「忍さんも……」
 ザフィーラの言葉に、愕然とした様子で、なのはが呟く。
 ザフィーラは、一拍間をおいてから、続けた。
「規模自体は小さいのだが、本来のキャパシティを余している、萎んだ風船のような形態
だった……我々は長きにわたって活動しているが、あのような形態は今まで見たことはな
い」
「そうだったんですか……」
 なのはは、少し俯き加減になって、弱々しく声を出す。
「もっとも、今回シャマルが言っているのが、それとは限らんがな」
「そうですね……」
「まぁ、シャマルが心配していないというのだから、問題はないのだろう」
 少し気落ちしたなのはを気遣ったのか、ザフィーラはそう言った。
 そして、看護師を追いかけて、2人は小走りに進む。
「着きましたよ、こちらの部屋です」
 個室の、病室の前で、シャッハが歩みを止めてそう言う。それから、看護師は、ドアを
ノックした。
『どちらさまで?』
 中から、女性の声が聞こえてくる。子供のものでは、なかった。
「面会希望の騎士ザフィーラと、高町一尉をお連れしました」
 案内の看護師がそう言うと、
『どうぞ、お入りください』
 と、中から、明るい声で、歓迎するように、返答があった。
 それから、看護師はドアを開け、後の3人を招き入れるようにしつつ、共に部屋に入っ
た。
「あ、ママ!」
「!」
 真っ先に目に入ったベッドから、その上に乗っていた、赤と緑のオッド・アイ、透き通
るような淡いブロンドの幼い少女は、なのはを見るなり、そう言って、表情を明るくした。
 右手に持った、ミニカーの玩具を握ったまま、手をバタバタと振り、嬉しそうにする。
「ようこそおいでくださいました」
 中年の小柄な看護師が、なのは達に、そう挨拶する。

「あ、えっと……」
 なのはが困惑していると、看護師は苦笑気味にしながら、さらに言う。
「この子、昨日一晩、高町一尉に会いたがって、しょうがなかったんですよ。ママはどこ、
って」
「そうだったんですか」
 ザフィーラが言う。なのはは、言葉を発さず、すっと、ベッドに近寄った。
「ママ♪」
 カチャカチャと、右手のミニカーを揺らしながら、少女は嬉しそうに微笑み、そう言っ
た。
「うん……良いよ。私があなたのママになってあげる」
 そう言って、なのはは、身を屈め、少女の頭を、優しく撫でた。
「だから……あなたのお名前、教えてくれるかな?」
 そう言って、にこり、と、優しげに微笑んだ。
「ヴィヴィオ!」
 少女は、満面の笑顔で、即答した。
「そっか、ヴィヴィオ、って言うんだね」
 そう言うと、なのはは、ヴィヴィオと名乗った少女を、抱きしめた。
「まぁまぁヴィヴィオちゃん、よかったわねぇ」
 彼女の世話をしていた看護師は笑顔でそう言いながら、なのはの背後から、ベッドに近
づいてきた。
 その光景を、後で、案内の看護師が微笑ましそうに見ていた。
 だが、ザフィーラは、ふと気付き、
「すみません」
 と、2人の看護師に向かって、声をかける。
「あのミニカーは、こちらで与えたのですか?」
「いえ。この子を保護した現場から回収されたものだと伺っておりますが。あの場に他に
玩具を持ち込むような子供はいませんでしたし、この子の持ち物かと」
「ふむ」
 ザフィーラは、短く答え、再び、視線をヴィヴィオに向けた。
「妙だな……」
 ザフィーラは、少し訝しげにそう言った。
「なにが、です?」
 案内役の看護師が訊き返す。
「あまり詳しいわけでは無いが、女の子に持たせる玩具としては、些か不自然ではないだ
ろうか? それも、このような無骨なオフロードカーのミニカーというのは妙な気がする」
 ザフィーラは重い口調で言う。あまりこういう細かいことを気にする性格では内容に思
われているが、いやむしろそれ故に彼が、わざわざそれを口にするのは、なにか重みがあ
る雰囲気がある。
「親が自動車好きだったんじゃないでしょうかね?」
 看護師は、苦笑しながらそう言った。
「まぁ、確かに、世のすべての女性が同じ趣味というわけじゃありませんけど……」
「まぁ確かに、それをいったらシグナムのような例もあるわけだがな」
 本人が聞いたら不機嫌になりそうなことを言い、ザフィーラは軽く、ため息をついた。


 ────なぁ、シャッハ。
「はい?」
「シャッハはここのシスター、それはわかってんねんで」
「? はぁ…………」
「聖王に仕える身、そう言う立場ならしゃあない。けどな、もし教会の誰かが起こした過
ちで、人がようさん困るような事態になったら、シャッハはどないする?」
「もちろん、その過ちを正し、被害者を保護します」
「それが、教会のえらいさんの起こした事件でもか?」
「…………当然です」
「さよか……」
 そこまで言うと、レンは、懐に忍ばせていた高密度ディスクを取り出した。


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目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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