41 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 01/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:28:02 ID:k8CFjhHE
42 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 02/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:28:32 ID:k8CFjhHE
43 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 03/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:29:07 ID:k8CFjhHE
44 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 04/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:29:45 ID:k8CFjhHE
45 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 05/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:30:18 ID:k8CFjhHE
46 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 06/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:30:50 ID:k8CFjhHE
47 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 07/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:31:21 ID:k8CFjhHE
48 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 08/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:31:52 ID:k8CFjhHE
49 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 09/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:32:30 ID:k8CFjhHE
50 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 10/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:33:09 ID:k8CFjhHE
51 名前:熱き彗星の魔導師たち 26 11/11 ◆kd.2f.1cKc[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 15:33:58 ID:k8CFjhHE

『北部中央区での暴動は拡大中、北部東区でも新たに暴動が発生しました』
 ミッドチルダ地上本部・治安・防衛長官執務室。
 レジアスの執務机の前に、複数の非実体ディスプレィが展開し、悲鳴のような報告が、
次々飛び込んでくる。
『北部中央区の暴動! 参加者が質量兵器を行使しています!』
「何だと!?」
 レジアスの顔色が変わる。
『手持ち形の連射可能な……今のところシールドで凌げますが……』
「スカリエッティめ、最初から仕込んでいたか!」
 レジアスは憤怒の声を上げ、ギリと歯を鳴らす。
「一般人の保護と避難誘導を優先しろ。無理に押さえつけるな」
『了解』
「オーリス、陸5を呼び出せ」
「かしこまりました」
 秘書席に座るオーリスが言い、コンソールを操作する。すると、ディスプレィにクィン
ト・ナカジマの姿が映し出された。
『第5陸士隊、即応状態です』
「北部中央区の暴動で、XI型戦闘機人が扇動している。一般の陸士隊には対応不可能だ」
『了解。鎮圧に向かいます』
「待て。参加者の中に手持ちの質量兵器を持っている者がいる。暴動自体の鎮圧は無理に
行わず、戦闘機人の排除のみを最優先の任務とする」
『了解しました。第5陸士隊、出動します』

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-26:Both the balances of fate

「出動できへんて、どういうことや!?」
 地上本部内・機動6課仮オフィス。
 非実体ディスプレィに向けて、はやては素っ頓狂な声を上げた。
 フォワード2個小隊8名が、その命令を受けるべく、2列横隊で整列していたが、本局か
らはやての元にもたらされたのは、まったく逆の命令だった。
『ミッドチルダ北部各エリアで暴動が発生している。XI型戦闘機人も確認されている。機
動6課は治安の維持と不測の事態に備えて待機せよ、それが本局からの命令だ』
 そこに写し出されたクロノが、苦い顔で言う。
「もう充分不測の事態になっとる! ここで出動せんでどうするんや」
 はやては窓の外を指差しながら、まくし立てた。
『僕も不審に思ってる。今、リンディ統括官が上に突き上げてくれているけど、とにかく
返事ひとつひとつが異常に遅い状況でどうしようもないんだ』
 クロノも怪訝そうな表情をしつつ、弱った口調でそう言った。
「オーリス。長官室。何とかならないの?」
 アリサが不機嫌そうな声で言うと、クロノが映し出されているそれの隣に、同じサイズ
の非実体ディスプレィが現れた。
 そこに表示されたのは、オーリスではなく、レジアス本人だった。
「中将!?」
 はやてが、どこか間の抜けた声を出す。
『事ここに至っては、切るのはカードだけでは済まん様だ』
「!」
 苦々しい表情で言うレジアスに、アリサとユーノの表情が険しくなった。
『アリサ・バニングス特別三等陸佐、ユーノ・S・バニングス特別二等陸尉の遺失文明遺
物管理部機動6課への出向を解除とする。以降両名は自らの判断において最善の処置をと
られたし。かかるすべての責任は……陸士総隊最高指揮官の名において、私が取る』
「よっしゃ!」
 アリサが掛け声をかけてユーノと顔を見合わせる。ユーノは苦々しく苦笑していた。
「待つっス! 2人だけなんてずるいっスよ!」
 ずい、と前に進み出て、ウェンディが不満げに声を上げた。
『ずるいと言われてもだな……』
 レジアスは困惑気に言葉を濁す。
「2人だけであのばかでっかいフネ相手にさせる気っスか?」
『解った……本来陸の所属で、2人に同道を希望する者は?』
 レジアスは苦い顔で、渋々というように、そう問い返した。
「ウェンディ・ゲイズ特別一士!」
 ウェンディは、レジアスの写るディスプレィの隣で、わざとらしく直立不動の敬礼をと
って見せた。
「ギンガ・ナカジマ三等陸曹です」
「マーガレット・リーゼ・G・アルピーノ二士です」
 2人はウェンディの傍らに歩み出て、各々敬礼しながらそう名乗った。
「…………」
「待った」
 続いて出ようとしたティアナを、ユーノが手振りを加えて制した。
「どうしてよ?」
 アリサがユーノの背後から覗き込むようにして訊ねる。
「ティアナは執務官志望でしょ?」
 アリサをちらりと見てから、ユーノは視線をティアナに戻しつつ、言う。
「次元巡航警備部に睨まれる行動は慎んだ方が良いと思う。多分これからやること、ムチ
ャクチャになりそうだし」
「遠まわしにあたしを批難してない?」
 アリサはジト目でユーノを睨む。
「あはは……」
 ユーノは苦笑しつつ、否定はしない。
「…………」
 ティアナは僅かに、戸惑ったように逡巡していたが、
「いえ、行きます。行かせてください」
 力強い表情で、そう言った。
『ユーノの言うとおり、本局での出世の道が閉ざされるかも知れんぞ。それでも良いのか?』
 レジアスが、確認するように訊く。
「構いません。あそこには……多分……親友が、いるんです」
「ティアナさん……」
「ティアナ……」
 力強く言うティアナに、その顔を見てギンガとマギーが小さく呟く。
『解った』
 レジアスが頷く。
『緊急事態につき管理局員は所属を問わず飛行制限を解除している。思う存分やってきた
まえ』
「よし、行くわよ!」
 レジアスが表情を引き締めて言うと、アリサを先頭に6人が飛び出していった。
「はやて!」
「はやてちゃん!」
 そこへ、入れ替わるように、ビハインド小隊を従えているはずのフェイトとなのはの2
人が駆け寄ってやってくる。
「あー、言わんでも解ってるわ、好きにしたらええ」
 はやては苦笑しつつ、ひらひらと手を振った。
「えっと……いいの?」
 フェイトが、困惑気な表情で聞き返す。
「中将1人のクビと退職金で6人分や、二佐で部隊長、執務官に武装隊長、これだけ詰め腹
切ればもう2人ぐらいどうってことないやろ」
 はやては歯を見せて苦笑しながら、そう言った。
「ごめん、はやてちゃん……」
 なのはが申し訳なさそうに言う。
「ありがとう、はやて」
 フェイトも少し申し訳なさそうに例を言ってから、
「行こう、なのは」
「うん」
 と、なのはとともに出て行った。
「よろしかったのですか、主はやて」
 その場に残ったシグナムが、心配気な表情で声をかける。
「これで機動6課は事実上機能喪失、このまま解散やろな」
 むしろサバサバとしたような表情で、はやては言った。
 手近なOAチェアに腰掛ける。
「これで満足か、中将?」
 未だ表示されたままの、ディスプレィの向こうのレジアスに向かって、皮肉っぽい表情
を向ける。
『……緩慢な陸士総隊を補完すべく、独自の機動力を持つ独立部隊の設立。それが君が機
動6課設立にあたって具申した内容だったな』
「あ? ええ……」
 レジアスの言に、はやてはすこしキョトン、として、思わず聞き返す。
『陸とて好んで緩慢だったわけではない。人材さえ足りているならばより積極的かつ迅速
な活動は可能だった。私はそれを望んでいた』
「……それは、そうなんでしょうけど」
『たまたま今回、私の近くにあの2人がいた。だからこういう無理も出来る』
「それは…………」
 はやての視線が、宙を彷徨い、やがて床に伏せられる。
『あの2人がいなかったら? 私は今でもスカリエッティのことを親友と呼んでいたかも知
れんな』
「!」
 レジアスの言葉に、はやての表情が険しくなる。
『それほど追い込まれていたということだ。陸士総隊は……』
「それじゃ……あたしのやってたこと……本末転倒っちゅう事かいな……ははは……」
 視線を這わせたまま、はやては乾いた笑いを上げるように言う。
『表面だけ見ればな……もっとも二佐の具申に対する思惑は……』
 レジアスがそこまで、言いかけたときだった。
『誰だ貴様!』
 ディスプレィの向こう側から、突然、切羽詰った声が聞こえてきた。レジアスの物では
なかった。
『少々おしゃべりが過ぎたようですわね、中将』
『貴様、まさか最高評議会の!?』
 女性の声。対峙し、姿勢を崩しているレジアスが、憔悴した声を上げる。
 女性の右手には、金属製の長い爪のクローが嵌められていた。それは鮮血に濡れていた。
『さぁ、どうでしょう?』
 ザァッ!
 そこで、ディスプレィが消える。
「あかん! リインフォース!」
『はい、主』
 はやてはガラス窓を破って建物の外に飛び出した。そこへ、リインフォースの像がその
背中に現れ、それがはやてを包むように吸い込まれる。
「ユニゾン・イン!」
 白い髪に騎士甲冑姿へと変じたはやてが、ビルの壁面に沿って、一直線に垂直上昇して
いく。
「中将!」
 再度、ガラス窓を破り、治安・防衛長官執務室に飛び込む。
「ぐ……」
 レジアスは執務机の前で仰向けに倒れていた。制服の腹部が切り裂かれ、そこから血が
滲んでいる。
「あら……」
 レジアスと退治していた女性は、はやてがそこに乱入すると、かすかに表情を変えて一
瞥した。
「誰かと思えば、夜天の陛下ではありませんか……」
 女性は鮮血の滴る爪を無造作にしながら、くすりと微笑みをはやてに向けた。
「!? 何の事や?」
 はやては怪訝そうにしつつ、女性を睨みつける。
「中将、しっかりしてください、中将」
 はやては窓枠から飛び降りて、レジアスの元に駆け寄る。心配げな表情で声をかける。
「二佐……こいつの……惑わされるな……」
 呻くように、レジアスはそう言った。身体に力は入っていない。
「おっと、余計なおしゃべりはそこまでにしていただきましょうか」
 女性が1歩、近づいてくる。
 はやては顔を上げ、睨みつけた。
「怖い顔をしないでください。陛下。私達は貴女の味方です」
 女性は薄く笑い、穏やかな口調で言う。
「味方やて!? 何を寝言を抜かしてんのや!」
 はやては逆に、激昂したような口調で怒鳴り返した。
「これは手厳しい。ですが、いつかは解る事です。誰が貴女の味方で、敵なのか」
「…………」
 女性は肩を竦めるようにして言う。はやては睨みつけ続けるが、それに対する言葉が見
つからない。
「あたしは……」
「今はここまで……失礼!」
 はやてが搾り出すように言いかけた瞬間、女性の姿がぶれた。
「シグナム! そいつ逃がすな!」
「承知!」
「何!」
 女性が走り抜けようとした扉の反対側から、疾風の様に、レヴァンティンを構えた騎士
甲冑姿のシグナムが現れる。
 ガキィィィンッ!!
 クローとレヴァンティンの刃が交錯し、火花を散らす。
「これは、ただのデバイスではない……貴様、戦闘機人か!?」
 凌ぎあいながら、シグナムは相手の女性を睨みつけ、低い声で問いただす。
「ふっ、だからどうだというのかしら?」
 スカリエッティ製戦闘機人、No.2ドゥーエは、不敵に笑ってそう答えた。
 だが、口元とは裏腹に、その表情には焦りが見えている。
「はっ!」
 ガシャァッ
 シグナムの気合とともに、ドゥーエは後ろに弾き飛ばされる。
「大人しく縛につけ! そうすれば身の安全は保障しよう」
 シグナムは構えながら、ドゥーエに向かってそう強く言った。
「私達の身の安全を保証する? それで……実験体扱いにでもする気かしら? 妹4人の様
に」
 あざ笑うようにドゥーエは言った。
 シグナムはちらりとレジアスを見てから、
「親代わりとなった男を殺そうとしておいてよく言う」
 と言って、いっそう強くドゥーエを睨みつけた。
『Blutiger Dolch』
「はぁっ!」
 はやての振るうシュベルトクロイツから、6本の紅い刃がドゥーエに向かって迸る。
「レヴァンティン!」
『Ja!Patronenlast』
 ドンッ!
 レヴァンティンがカートリッジを撃発させる。ドゥーエが、はやてからのブラッディダ
ガーを避けたその瞬間に、一気に加速して斬り込む。
「何!?」
 次の瞬間、シグナムは自分の目を疑った。
 ドゥーエは避けなかった。決して避けられない速度ではないはずだったが、炎を纏った
レヴァンティンはそのまま、ドゥーエを袈裟切りにした。
「諜報員は……敵の手には落ちないものよ……」
 ドゥーエは切り裂かれて尚、不敵な笑みでそう言った。
 次の瞬間、動力源がレヴァンティンと干渉したか、それとも自爆装置でもついていたの
か、ドゥーエの身体は爆発に包まれた。
「!」
『Panzerhindernis』
 はやてが咄嗟に、爆発からレジアスを庇うようにクリスタル状のシールドを張る。
「くっ……」
 爆発の煙が晴れる。シグナムの騎士甲冑には傷はついていない。
「申し訳ありません、主、私が軽率でした……」
「いや、今のはシグナムだけのミスやあらへん」
 はやては言いながら、シールドを解除した。
「そんなことより! シャマル!」
『シャマル、長官室や、はよう来て!』
 はやてはシャマルを呼び出しつつ、レジアスの元にかがむ。
「しっかりしてください、中将! すぐに医療班を呼びますから!」
「ぐ……ぅ……だ……めだ、内臓……深く、切り刻まれて……助か……らんよ……」
「しゃべらんといてください! もう!」
 はやては悲痛な声で呼びかける。
「娘、2人、嫁にも……無念、だ……」
「中将!? 止めてください、中将、目を開けて、レジアス中将ぉー!!!!」
 はやての叫びもむなしく、レジアスはがくりと力を失った。

「見つけた!」
 全速に近い速度で飛行するアリサとユーノの、やや下寄りの正面に、その巨体を捉えた。
「どうするの?」
「決まってる、このまま突っ込むわよ!」
「え、ちょ、アリサ!」
 ユーノが止める暇もあればこそ。アリサは一気に高度を落として『聖王のゆりかご』に
突っ込んでいく。
 途端に、パッパッと閃光が走る。対空火器が接近したアリサめがけていっせいに火を吹
いた。
「えーっ!? あわわわっ」
『Protection, Dual exercise』
 大き目の二重盾が現れ、猛烈な射撃を防ぐが、反動で圧し戻される。
 アリサは慌てて急上昇し、離脱した。
「アリサ、いくらなんでも無茶だよ。一応は軍艦なんだから」
「突破できると思ったのよ。ここまで激しいなんて……」
 ユーノは『聖王のゆりかご』の対空射撃のギリギリ範囲外で、並行して飛ぶ。そこへバ
リアジャケットの一部が焦げたアリサが“戻って”来た。
「アリサさーん」
 そこへ、ティアナ達が追いついてきた。
「どうするっスかこれ。近寄りようがないっスよ?」
「んな事は言われなくても解ってるわよ」
 唖然とした様子のウェンディに、アリサは苛立ったような口調で言い返した。
「さすがに、僕も近づいたら防ぎきる自信がないよ」
 ユーノが言う。
「あーもう、そんな事言われたってすぐに妙案なんか思いつかないわよぉ!」
 アリサはそう言って、頭をかきむしった。
「近付く……」
 ギンガがふと気付いたように、その進路の先に視線を向けた。
「アリサさん、ユーノさん」
「ん?」
「何?」
 2人が視線をギンガに向ける。
「これ……どこに向かってると思いますか?」
「どこって、そりゃクラナガンでしょ?」
 何を言ってるんだと言わんばかりに、アリサが言った。
「ですから、クラナガンのどこに向かってるか……です」
「えっ?」
「私達がここまで飛んできたルートを、ほぼ逆になぞってるんです、これの飛行ルート!」
 ギンガの言葉に、アリサとユーノの、いやその場に居た一同の顔色が劇的に変化した。
「ってことは……つまり、この先には!」
「地上本部にぶつける気なのか!?」
 アリサとユーノが、戦慄の言葉を口にする。
「冗談じゃないっスよ!」
「でも、あり得るわ。撃たない所を見ると大量破壊の火器は搭載していないようだけど、
あれがへし折れたら大惨事なんてものじゃないもの」
 ウェンディが声を上げ、マギーは推測を肯定する。
「アリサ! 予言詩の一節!」
 ユーノがはっと、声を上げた。
「あ!」
『中央の地面の司法のビルは簡単に燃えて落下して』
『なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち』
 2人はその一節を思い返し、ゴクリと喉を鳴らした。
「やらせないわよ……」
 アリサは眼下に、その巨体を睨みつけた。
『アリシア! リニス! 取れてる!?』
 ユーノは無限書庫に居るはずの2人に、念話を飛ばす。
『ごめん、遅くなったかな』
 飛行するユーノの傍らに、非実体ディスプレィが現れ、そこにバリアジャケット姿のア
リシアが現れた。
「あれ、アリシア、何でバリアジャケットに?」
 ユーノはキョトン、として訊ねるが、アリシアはそれに答えず、
『その話は後!』
 と、強い調子で言った。
『その巨大艦は「聖王のゆりかご」って言って、古代ベルカで製造された、聖王大戦時の
次元航行戦闘艦よ』
「聖王大戦って」
「そりゃまた、骨董品持ち出してきたっスねぇ」
 ティアナとウェンディが、呆れたように言った。
『侮っちゃいけないわ。装甲の値は現存するどの次元航行艦よりも強いし、全身に施され
たコーティングで、多分アルカンシェルでも1発か2発までは堪えられる』
「ひぇ、御無体な」
 アリサが忌々しそうに言う。
『スペック通りならだけどね…… “旧暦崩壊の次元災害”で、ベルカ世界ごと喪失した
ものと思われていたけど、まさかミッドチルダに持ち込まれていたなんて』
「次元災害発生後から管理局体制が出来るまでの混乱期に、バラして運んだかして隠した
んだ」
『そういうことになるわね』
 ユーノの言葉を、アリシアが肯定した。
「で、薀蓄はいいけど、あれの弱点ってないわけ!?」
 アリサが焦れたような態度で、アリシアに問いただす。
『正直言って、巨大火器を搭載していないということを除けば……』
「それじゃ、止める方法は?」
『これの制御を出来るのは、古代ベルカ聖王の継承者だけなのよ』
「ベルカ聖王?」
 アリサはキョトン、として、鸚鵡返しに聞き返す。
『聖王大戦時の、ベルカの統治者、主君よ。地球流に言うなら、皇帝といってもいいかし
ら』
「ちょっと待って!」
 アリシアの言葉を、慌てたようなユーノの声が遮った。
「ベルカ聖王の血筋は途絶えてるはずだよ! それなら今ここにいるこれはどうやって動
いてるの!?」
『…………復活させたのよ。戦闘機人用の培養胚の技術を使って』
 アリシアは、忌々しそうな表情になってそう言った。
『どうやって手に入れたのかは知れないけどね、ベルカ聖王の遺伝情報を組み込んだ胚を
作り出した。それが……ヴィヴィオなの』
「それで……」
「ちょっと待ってよ! それじゃあなんで一旦、それをこっちに渡すような真似をしたわ
け!? しかもその後、わざわざ強襲して取り戻して……」
 ユーノが納得しかけたが、アリサが声を張り上げて割って入った。
『ヴィヴィオには、というか、聖骸布の遺伝情報でつくられた聖王には、足りないものが
あったのよ。それが、莫大な魔力』
 アリシアの説明に、ギンガが目を伏せた。
『「聖王のゆりかご」の能力を最大限に発揮させるには、膨大な魔力を持っている必要が
ある。そこでスカリエッティはヴィヴィオの体内にエネルギータンクとも言える部分を追
加して、外部から吸収させることにしたわけ』
「外部?」
 アリサがキョトン、として、鸚鵡返しに聞き返す。
『…………莫大な魔力を持ちながら、ランクリミッターでその放出を抑え込んでいる存在。
自然に存在する魔導師……つまり……』
「それで、『器』と『Unlimited Powered』……」
 ユーノが呟くように、その言葉を低い声で言った。
「それじゃあ、あの中にヴィヴィオが居るということは間違いないんですね?」
 ギンガが訊ねる。
『99%間違いないわね』
「ヴィヴィオをフネから離せば、あれも止まるんじゃないですか?」
『はっきりとは言えないけど、可能性としてはそれしかないわね』
 ギンガの言葉を聞いて、アリシアはやや苦々しい表情で答えた。
「それじゃあどの道、あれに乗り込んで止めるって事になるじゃない!」
 アリサは顔を上げて、アリシアにディスプレィ越しに視線を向ける。
「対空火器にどこか、隙はないわけ? 下とか上とか、弾幕の薄いところ!」
『無い。しいて言えば下面だけど、それでもお互いがカバーして死角が出来ないようにな
っているの。むしろ正面か真後ろの方が、まだしも薄いわね』
「どうしろって言うのよ……」
 アリサは唖然として、巨大艦を見下ろした。
「あ、そうだ転送は!?」
 アリサが閃いたというように、指を立ててそう言った。
「それは無理だよ」
 しかし、困惑気な表情のユーノが即座に否定する。
「えー、どうして?」
「転送は基本的に、固定された座標から固定された座標に飛ばす技術なんだ。でも、これ
は動いてるからね。管理局の航行艦の様にトランスポーターを持ってるなら別だけど……」
「ああ、そうか……」
 がっくり、とアリサは肩を落とす。
「同じ理由で、シャマルさんの『旅の扉』も使えない」
 ユーノはそう言ってから。
「僕も考えたんだけど、強烈な砲撃を撃ち込めば、干渉で多少なりとも反応が薄くなるん
じゃないかな。そこへ強行突破をかければ、何とか取り付けるんじゃない?」
「って、それってつまり力技じゃない?」
 アリサが呆れた様に言った。
「そうなんだけど、まぁ、これしか他に考え付かないって言うか……」
 ユーノはそう言って苦笑する。アリサがその正面でがっくりとうなだれた。
「はいはーい、砲撃ならお任せ」
 そう言って、マギーがWS-Fを振り上げるが、
「待って」
 と、その手をそっと止める存在があった。
「なのは! フェイトも」
 アリサがその姿を見て、驚いたように声を出す。ユーノも目を円くしている。
「って、アンタ達は……」
「私は、取り戻さなきゃいけないものがあるから。お仕事より大事なもの、できちゃった
から」
 アリサが気まずそうに声をかけると、なのはは穏やかな口調でそう言った。
「私は、大事なものを失わないために、かな」
 フェイトは、どこか照れたように苦笑して、そう言った。
「なのは、アンタさっきの、アリシアの話……」
 険しい表情で、アリサはなのはに問いかける。だが、なのはは笑顔を崩さない。
「聞いてたよ。それでも、見捨てられないから」
「ああ、もう……相変わらずお人好しなんだから」
 アリサは頭をかきながらぶっきらぼうに言う。
「ほら、L4Uちょっと貸しなさいよ」
「え?」
 アリサに言われて、なのははキョトン、としつつ、銀の杓杖型デバイスの先端をアリサ
の方に向けた。アリサはそこにレイジングハートのコア部を近づける。
『Limiter Released』
 L4Uの全体が鈍く輝き、その声が告げた。
「一応佐官待遇だから、外す権限ぐらいはあるの」
 なのはを直接見ずに、アリサはそう言った。
「ほら、フェイトもバルディッシュこっち向けて」
「あ、う、うん」
 同じ要領で、バルディッシュのリミッターも解除される。
 一同は加速して、巨大艦を追い越して前方へと回り込む。
「さぁて、それじゃあ、行くよ!」
 なのはは振り返りつつ、L4Uを構えた。
「なのはが撃ったら、全員、僕のすぐ後ろに続いて! ぶれると防ぎきれない」
 同じく振り返って、正面に巨大艦を見据えつつ、ユーノが言った。
 全員が頷く。
 L4Uとアンブロークンイージスのカートリッジシステムが作動した。
『Axel stinger, more acceleration』
「シューッ・トっ」
 バシューッ!
「今だ!」
『Round Guarder, Dual exercise』
 緑の巨大な2重盾が発生する。
 ユーノを先頭に、相対速度で一気に巨大艦の舳先に迫る。
「!」
『Floater field』
 オレンジのフローターフィールドが発生し、そこにユーノが突っ込んだ。
「むぎゅ!」
 さらに7人が断続的にユーノの背中に突っ込み、ユーノは思わず声を漏らした。
「ユーノ、制動まで考えていなかったでしょ……」
「ごめんアリサ……助かった」
 ひき潰された状態で腕をビクビクさせながら、ユーノは何とかそう言った。
「取り付いたはいいけど、どうやって中へ?」
 フェイトが艦の装甲を這うような姿勢で言う。
「対空砲台の部分は、さすがに主装甲と同じ強度は無いはずだよ」
 ユーノが言う。
「そういうことなら、任せてください」
 ギンガがそう言って、装甲にブリッツキャリバーを接地させ、そろっと移動する。
「ギンガ、飛べるようになったんだ」
 フェイトがその後姿を見て、呟くように言う。アリサは無言のままフェイトを見てキョ
トン、とした。
「はぁぁぁっ!」
 先程アリサにはげしく浴びせてくれた砲台のひとつに取り付くと、ギンガの声とともに
リボルバーナックルのギアータービンが回転する。
『Knuckle bunker』
 ドゴォッ、ズドォンッ!
 砲塔の基部がクレーター状に凹んだかと思うと、そのままメリメリと全体がこそげ落ち
て、砲塔は落下していった。
「入るわよ」
「オーケー」
 アリサとフェイトが先頭になって、破口から中に侵入する。
「変だな、てっきりA.M.F.がかかってると思ったのに」
 フェイトが怪訝そうに言う。
 アリサとフェイトと背中合わせに、砲座から通路らしき空間に出る。
「スカリエッティがケチったんじゃないの? 侵入されるなんて思わなかったとか……」
 アリサは軽く言いかけたが、それを見て、言葉尻が濁る。
「アリサ?」
「どうやら、そういう理由じゃないみたい」
 アリサは戦慄した笑みを浮かべる。
 通路から顔を覗かせたティアナが、悲痛な声を上げた。
「スバル!!」


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目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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