復讐鬼・なのは陵辱編��
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nano69_264 2010年08月23日(月) 22:32:49履歴
171 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:11:06 ID:997ot6aE [2/12]
172 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:12:13 ID:997ot6aE [3/12]
173 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:13:39 ID:997ot6aE [4/12]
174 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:14:16 ID:997ot6aE [5/12]
175 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:15:12 ID:997ot6aE [6/12]
176 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:15:59 ID:997ot6aE [7/12]
177 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:16:49 ID:997ot6aE [8/12]
178 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:17:38 ID:997ot6aE [9/12]
179 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:19:13 ID:997ot6aE [10/12]
180 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:20:20 ID:997ot6aE [11/12]
なのはを放り出すと男の身体は光に包まれ、全裸は一瞬で今までと同じ服装へと変わっていた。
バリアジャケットと同じ原理のそれは、男にしてみれば着替える手間を省く最高の衣服だった。
「もう、終わり？ わたしは、まだ……負けてないよ」
乱れたバリアジャケットの裾を直しながらなのはは男を鋭い眼差しで睨み続ける。
犯され大切なものを失ってもなお、なのははその身を空にとどめていた。
決して落ちない……そう誓った思いは、このような事態でもなお彼女を支え続ける。
「当然だ。知っているであろう。我の復讐は、お前を快楽に完全に堕として初めて終わるのだ」
「っく……」
なのはにも親友たちの痴態を見た際に自分も快楽に抗えないのではないかという想いがあった。
だが、その欠片さえもなく犯された事実が……逆に、なのはに強い抵抗の心を呼び覚まさせる。
苦痛では、彼女の心を折ることはできない。
「そんなのあるわけない！ 絶対に……こんなの気持ちいいわけがない！」
「いい目だ。だが、やがてその目も快楽に染まり淫らに変わる」
初めての交わりで男に徹底的になのはは性行為への嫌悪感を植えつけられていた。
なのはは否定するかもしれないが、おそらくなのはの中に初めて芽生えた相手への純粋な憎しみがある。
それらを越えて……快楽に堕ちたのなら。
なのはと、そして彼女を支持する者達は、真の絶望の底に沈むことになるだろう。
「だが、今は少し休むといい。我とて、顔を腫らした女を抱く趣味はない」
「誰のせいなのよ！」
当然のなのはの抗議に男は一瞬だけ申し訳なさそうな顔を浮かべると、無言で背を向ける。
「用が済んだら治療してやる。命が惜しければ離れていたほうがいいぞ？」
それは後ろめたさからではないことがすぐになのはにも理解できた。
男の視線が向けられた先から響くエンジン音。
そして……徐々に大きくなっていく見覚えのある機影になのはは愕然とする。
「そんな……。どうして……」
「仲間想いのお前の言葉とは思えないな。お前が同じ立場なら……どうするかは考えるまでもなかろう」
「あ……」
ここでなのはは、男が自分の犯される様を仲間達に見せ付けた本当の意味を知る。
ただ暴力的に嫌悪だけを抱かされるように犯された意味を知る。
「あなた！ 最初からそのつもりで……っ！」
フェイトやはやてのように、快楽に堕ちた状態ならば助けに来るのに躊躇いを抱くものもいたかもしれない。
だが、ひたすら苦痛を与え続けられる仲間をただ見ているだけでいられる者は、アースラには一人として乗船していなかった。
「クロノくん達を逃がしたのを……あざ笑っていたの？」
「そんなことはないぞ。お前の覚悟は見事だった」
悔しさに震える唇からのなのはの言葉に、男は真顔で答える。
「『人間』への復讐は、お前達３人で果たす。だが……我はあの戦艦に用がある」
迫るアースラを男は鋭く睨みつける。
ひたすらこの場所を目指して、一直線に進んできたのだろう。
機体のいたるところが、浮遊している巨石にぶつかった影響で破損している。
破損はエンジンにも及んだのか、その飛行は安定しているとはとても言えない。
「そうだ。それでいい。あの悪魔の一撃を我が防ぎきってこそ……皆の無念は果たされる」
男は自分の目的を果たす準備をアースラが整えていることを確信し、薄い笑みを漏らす。
「このエネルギー！ まさか……っ！」
「もう一度言うぞ。命が惜しければ離れていろ」
アースラの主砲に収束している、膨大な魔力になのはも気がつく。
それは、男にとってもなのはにとっても忘れることのできない最悪の光。
あのときに自分がいれば……。ずっと男が抱いてきた想いを証明する瞬間がついにやってきたのだった。
「みんな、やめて！ アルカンシェルなんか撃ったら……もう元の世界に帰れないよ！」
次元跳躍に必要なエネルギーのために、アースラは省エネでの戦いを強いられていた。
傷だらけになり、疲弊しながらの戦いが自分を救うために無意味なものになることは、なのはには耐えられなかった。
「引き返して！ おねが……」
悲痛ななのはの叫び声が、男の背後から突然遠ざかる。
「ふん。心配せずとも、ことが済むまでは手は出さぬぞ？」
まるで慌てた様子もなく、まるで予期していたかのように、男はゆっくりと視線をアースラから逸らして中空に向ける。
「分かっています。でも……こうしないと、きっとなのはさんはまたアルカンシェルの前に立ちはだかろうとするでしょう」
「なるほど。その危険性があったか」
「それは、あなたにとっても不本意でしょう？ 撃たせるために……ここまでして舞台を整えたのだから」
「ふん。分かった上で出てきたのか。いい覚悟だ」
なのはを抱えて、男から救出したのはアースラで指揮を執っているはずのリンディだった。
「リンディさん？」
「遅くなってごめんなさい」
クロノが負傷している状況で、最も確実に目的を果たすことができる……一見無謀だが最も確実な人選だった。
「また美しい者が出てきたな。この世界では女の魔法の実力は美しさに比例するのか？」
男の言葉に呼応するように、遠巻きにしていた魔物たちがざわめきだす。
それこそが、リンディの年齢を重ねても衰えぬリンディの美しさの証明だった。
「お世辞が上手ですね。でも、今は素直に聞くつもりにはなれません」
「本心なのだがな。まあ、当然か」
せめても、とばかりに男は魔物たちを一瞥し騒ぎを鎮める。
「我の復讐を邪魔せぬ限り、お前達には手は出さん」
「そうですか。では、わたしもあなたの四つの復讐のうち、三つ目の復讐に関しては邪魔しないことを約束しましょう」
「……なるほど。今はそれでよい」
フェイト、はやてに続き、これから放たれようとしているアルカンシェルへの挑戦は男の三つ目の復讐だ。
現時点で最大の攻撃力を持つ一撃に、リンディたちが手を加える意味はどこにもない。
だが……万が一、それが通用しなかったときに果たされる最後の復讐は認めない。
それは、なのはと運命を共にする覚悟を明白に示した答えだった。
「離して、リンディさん！ ダメだよ！ アルカンシェルなんか撃ったら！」
案の定、なのははリンディの腕から逃れてアルカンシェルと男の射線上に立とうとする。
だが、陵辱で疲弊した身体では体格に勝るリンディを振りほどくには至らない。
「なのはさん、分かって！ 大丈夫。帰る方法は、必ずみんなで考えるから！」
とにかくこの状況を打開しないことには、どの道帰ることはできないのだ。
クロノが傷つき、現状でアースラ最強の魔法使いであるなのはが子ども扱いされる男の実力を思えば、倒せる可能性はアルカンシェルのみ。
「彼さえ倒せば……その時間はいくらでもあるはずよ」
一撃必殺の武器は確実に当たる状況で放つべきであり、本来ならばバカ正直に撃つべきではない。
なのはがスターライトブレイカーを男との戦いの決着の手段に選ばなかったのもそれが理由の一つだった。
だが、男と直接対峙したリンディは確信する。
男の目的がアルカンシェルを撃たせそれをしのぎきることである以上……少なくとも男に命中はする。
リンディの選択は最も理にかなったものだった。
「ダメ！ だって……っ！ この人を殺しちゃうじゃない！」
「っ……！ なのはさん。あなたは……」
犯され多くの絶望を与えられてもなお、男を庇おうというのだろうか。
顔を腫らし愛らしさは削がれても、その優しさだけは少しも変わらないのだろうか？
「どこまでも偽善者め！ やはりこれをしのいだ後は貴様を徹底的に犯し、堕としてやる！」
心からの憎悪と共に男はなのはに吐きつける。
復讐の最後のターゲットに、最大の陵辱を改めて誓う。
「ごめんね。恨んでくれていいから……」
リンディは強く強くなのはを抱きしめる。
きつく閉じた瞳からは、涙が溢れなのはのバリアジャケットを濡らしていく。
なのはがこう言うことは十分に予測できたことだった。
だからこそ、リンディ自ら出て、なのはを抑える役目に当たったのだから。
「エイミィ。カウントダウンをお願い」
ブリッジの指揮はクロノに委ねてきた。
後はクロノがロックを解除すれば、男にアルカンシェルは放たれる。
「ダメ！ やめて！ この人が死んじゃったら！ フェイトちゃんもはやてちゃんも帰ってこないよ！」
「……っ！」
「む？」
予想と違う方向のなのはの言葉に、リンディも男も息を呑む。
「分かるの……。二人が、自分の意思で、この人に従ってるのが」
「ほう。直情的で友情に盲目的なだけの小娘かと思ったが……」
リンディでさえ認めたくなかったことだった。
男を倒せば、いつもの二人が帰ってくる。
アースラの誰もがすがっていた希望を、まさかの人物が否定してしまう。
「ずっと一緒だったんだよ？ だから、あの二人のことは何でも分かるの」
だからこそ……。
なのはは男にその身を差し出すことを決意したときに、過剰に自分が快楽に負けることを恐れた。
それが自分を自分でなくし、大切な仲間を裏切ることに繋がってしまうから。
「だから……この人は、力の差をみせた上で打ち負かさないといけないのっ！ そうしないと、そうしないと！」
その先の導き出される最悪の未来をなのはは口にすることができない。
なのはの様子を見た男は唇の端をゆがめながら、その先を代わりに続ける。
「その通りだ。もしこの場で我が朽ちることがあれば……あの二人は全力でお前達への復讐を成し遂げようとするであろう」
「そんなことは……っ！」
リンディは否定しようとするが、その声は途切れてしまう。
フェイトの母親として。また、遥かに成熟した女性として。
なのはの言葉が正しいことを、彼女もまた深層心理で理解してしまっていた。
「それも一興だ。お前達が戦い殺しあう光景もまた、復讐の着地点としては悪くはない」
己の命など、とうに復讐のために差し出している。
そんな男にとっては命と引き換えに訪れる未来さえも、目的を達したことになる。
「皮肉なものだな。復讐の連鎖というのはいつまでたっても終わることはない」
打ち倒された者を慕うものが新たなる復讐を目論む。
刹那の勝利は、新たな復讐鬼を生み出すきっかけに他ならなかった。
「だからこそ……戦端を開いたお前達の罪はとてつもなく重い！」
男の言葉に、リンディもなのはも反論はできない。
今、自分達が男に挑んでいること自体がすでに、復讐の連鎖に組み込まれているのだから。
「それでも……黙ってあなたの好きにさせるわけにはいきません」
リンディは感情を押し殺した声で淡々と告げる。
「わたしには、今のアースラの乗務員を守る義務があります」
「なるほど。フェイトの母親である前に、艦長であるということか」
「ええ」
もちろん、守るべき乗務員の中になのはが含まれていることは言うまでもない。
指揮官として出向いている以上、私情は挟めないのは当然のことだった。
「ははははは！ いいぞ！ いいぞ！ その葛藤こそが我が復讐……」
「撃ちなさい！ クロノ！」
男の嘲笑を遮るかのようにリンディは叫ぶ。
訪れる未来が変わらないのであれば……耳障りな心を抉る言葉はこれ以上は聞きたくなかった。
アースラの主砲が、男を完全にロックオンしても、リンディは発射命令を叫び続けていた。
「ダメだよ、クロノくん。リンディさん」
「なのはさん？」
驚くほど静かだが、重い声がリンディの叫びを打ち消す。
「そんなに辛い想い……リンディさんには背負わせられない」
「なのはさ……きゃぁああああああああ！」
次の瞬間には、リンディは抱えていたはずのなのはに、アースラの側へと突き飛ばされていた。
それは、純粋な魔法。非殺傷設定がないそれはリンディに浅くはないダメージを与えていた。
それだけではない。これから行われる出来事に手出しが出来ないように、その身は８重のバインドで縛られていた。
「この人の復讐は全部わたしが受け止める。だから……」
「そんな……なのはさん！」
いつの間にか、なのはの手には遠く離れていたはずのレイジングハート。
主の戦う意思に呼応したかのように。戦杖はあるべき場所にその身を置いていた。
「レイジングハート、行くよ。あなただけは……一緒に背負ってくれるよね？」
「OK,my master！」
主の声に呼応するように、宝石に文字が浮かぶ。
同時に、これから放つ魔法を電子音声が告げる。
「starlight breaker」
「やめなさい！ なのはさん！ そんなことしたら、あなたも無事では！」
なのはの意図を悟ったリンディが叫ぶ。
捕縛された身では、止めることもできず、ただそれだけしかできない。
「大丈夫。わたしは……もう絶対に落ちない。どんな復讐も、わたしのところで止めてみせるから」
表情も見えないほどの距離だったが、リンディにはなのはが微笑んだ顔が見えた気がした。
たとえ、親友に復讐の対象にされようとも。
新たな復讐者がどれだけ生まれようとも……全部、全部、受け止める決意を宿していた。
「だって……わたしは、悪魔だから」
その悲しい微笑を見て、誰が彼女を悪魔と呼ぶのだろうか。
たとえ、残虐な道に身を染めることを誓おうとも、その翼が黒く染まろうとも。
今のなのはは、決意を宿した美しい天使に相応しくリンディには映る。
「ほう。面白い。一気にケリをつけることに我も異存はない」
スターライトブレイカー。
それは、周囲の魔力を術式によって無理やりに吸い上げ自分の魔力に還元して放つ大魔法。
「避けてもいいよ？ それはそれで、あなたの復讐は失敗になるんだから」
「ふふふふ。なかなかどうして。こんな状況でも駆け引きとは、侮れないな」
なのはの挑発に、男はあえて応えるように……。
アースラやリンディがその射線に巻き込まれない位置に自らを移動させる。
「来い。これで心置きなく撃てるであろう！」
「そうだね。決着を……つけようか」
なのはが吸い上げる魔力は、その場にあるもの全てに及ぶ。
「なのは！ やめるんだ！」
「クロノくん？ みんな！ どうしたの？」
クロノをはじめとするアースラブリッジにいた戦闘員が次々とその場に崩れ落ちていく。
腕は応急処置を施されているとはいえ、苦痛があることに変わりはないクロノは中でも特に苦痛に顔を歪めていた。
「魔力が……全部なのはに集まってる！ やめろ！ これじゃあ、なのはがもたない！」
それでもブリッジからなのはを見て、叫ぶのをやめない。
アースラのブリッジにいる人間の魔力は、本人達の意思を無視して一つの場所へと収束していく。
「アースラが？ まさか……アースラの航行エネルギーまで吸い取ってるの？」
航行に必要なエネルギーまでもが奪われているのを計器がエイミィに伝える。
このままでは程なくしてアースラはその身を空に浮かべることさえできなくなってしまう。
「くそ！ エイミィ！ どうにか不時着の準備だ！」
「分かってる！ もう！ なのはちゃん！ ここまでやって負けたら絶対に許さないからね！」
ものすごい速度でコンソールを叩くエイミィ。
魔法使いとしての素質がない彼女だからこそ……今、この状況で最も頼りになる存在になっていた。
「っく……ごめんなさい。なのはさん……」
魔力が吸い取られていく感覚の中で、リンディは唇を噛み締める。
結局、少女に全てを背負わせてしまった不甲斐なさがたまらなく悔しかった。
「大丈夫？ レイジングハート？」
「don't worry」
明らかな魔力の過剰供給だった。
宝玉は明滅し、制御が困難なことを示していたがレイジングハートは主の意思を体現するべく処理を続けていく。
満たされた魔力は、なのはの男に傷つけられ腫れ上がった頬や身体中の傷までも癒していく。
光の中に立つ少女は、以前と変わらぬ気高さと愛らしさを完全に取り戻していた。
「いくよ！ みんなの全てを賭けて！」
アースラの主砲に集まっていた魔力の光が縮小していく。
その魔力が行き着く先はもちろん、レイジングハート。
アルカンシェルの強大な魔力さえも……スターライトブレイカーの威力へと還元されていった。
「面白い！ 我も全てを賭けて受けてやる！」
「スターライトーーーーーーーーーーーーー！」
想いの全てを込めて……なのはは最大の魔法の名前を叫ぶ。
「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーー！！」
今、この場でなのは達が放ち得る最大の攻撃だった。
光の奔流……そんな言葉さえも生ぬるい。
全てを飲み込み消滅させる光が、男に向かってまっすぐに伸びていく。
「見ていろ、皆！」
正面から男はその一撃を受け止める。
逃げることもなくあくまで真っ向勝負。
高町なのはという少女との決着は、これこそが相応しい。
「我らは！ このようなものに負け……」
叫びさえも……光の渦にかき消されていく。
通り過ぎた後には、ただひたすらの虚空だけが広がっていた。
「やったの？」
その閃光は、放ったなのはでさえも目を開けていられない状況を作り出していた。
全ての魔力を放出し、荒い吐息をつきながら、なのははゆっくりと目を開いていく……。
「お前の世界では、一撃必殺の後のそのセリフは負けへのフラグではないのか？」
「そ、そんな……」
男の服はボロボロであり、非殺傷設定が解除された一撃は男の身体に多くの傷を刻んでいた。
全身に魔法におけるダメージがあることは明白だった。
「見事な一撃ではあった。この地に来たばかりの我では防ぎきれなかったやもしれん」
だが……全ての力を込めた、生涯最大の全力全開をもってしても……。
男の牙城を崩すには至らなかった。
ダメージを感じさせないほど、男はなのなより僅かに高い空に浮かび、悠然と見下ろしていた。
「sorry my master」
あの規模の魔法をはなっても、レイジングハートは宝玉に多くのヒビが入っているものの砕けてはいなかった。
それはあくまでこの先も主と共に戦うという強い意志が成し遂げた奇跡。
だが……その力の全てを使い果たし、せめてもと主を守護しようとするようにペンダントとなり、なのはの胸元へと戻る。
「ごめんね、レイジングハート……」
休眠状態に入った相棒を、なのはは握り締め涙を流す。
最高の力を与えてくれたのに……それを活かせなかった自分の不甲斐なさが悲しくて悔しかった。
「ふむ。どうやら、おしまいのようだな」
戦杖を失ったなのはを、男は歓喜と憐れみが混ざったような表情で見下ろしていた。
仲間の無念を晴らすことはできたが……目の前の少女の意思と想像以上の奮戦は賞賛されるべきものだ。
高笑いを浮かべることをしないことが、せめてものなのはへの敬意だった。
「まだだよ……。わたしの心は、まだ折れてない」
その力の全てを使い切ったのは、レイジングハートだけではない。
主であるなのはも……最後の一滴まで魔力を搾り出していた。
男を睨みつけようとするが、その視界が歪み霞んでいく。
遠くから聞こえる仲間の悲鳴。
それも全て遠ざかっていく。
（ダメ。わたしが落ちたら、みんなが……）
もう二度と落ちない。そう誓った空だった。
だが、その誓いがついに破られるときがやってくる。
（動いて！ わたしの身体！ 一滴でいいから。飛ぶための魔力を！）
浮力に使う魔力さえもなくした今……。
大空を自由に駆けた少女が、何の支えもなく落ちていく。
「ごめんね。みんな……」
最後に涙と共に呟くなのは。
それを合図に、身体だけではなく、意識も深い深い闇の中へと落ちていく。
これが、後にエースオブエースと呼ばれるはずだった、気高き白い魔法少女の未来はこの瞬間に絶たれたのだった。
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目次：復讐鬼
著者：マルチマックス
172 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:12:13 ID:997ot6aE [3/12]
173 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:13:39 ID:997ot6aE [4/12]
174 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:14:16 ID:997ot6aE [5/12]
175 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:15:12 ID:997ot6aE [6/12]
176 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:15:59 ID:997ot6aE [7/12]
177 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:16:49 ID:997ot6aE [8/12]
178 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:17:38 ID:997ot6aE [9/12]
179 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:19:13 ID:997ot6aE [10/12]
180 名前：復讐鬼・なのは陵辱編�� [sage] 投稿日：2010/06/13(日) 01:20:20 ID:997ot6aE [11/12]
なのはを放り出すと男の身体は光に包まれ、全裸は一瞬で今までと同じ服装へと変わっていた。
バリアジャケットと同じ原理のそれは、男にしてみれば着替える手間を省く最高の衣服だった。
「もう、終わり？ わたしは、まだ……負けてないよ」
乱れたバリアジャケットの裾を直しながらなのはは男を鋭い眼差しで睨み続ける。
犯され大切なものを失ってもなお、なのははその身を空にとどめていた。
決して落ちない……そう誓った思いは、このような事態でもなお彼女を支え続ける。
「当然だ。知っているであろう。我の復讐は、お前を快楽に完全に堕として初めて終わるのだ」
「っく……」
なのはにも親友たちの痴態を見た際に自分も快楽に抗えないのではないかという想いがあった。
だが、その欠片さえもなく犯された事実が……逆に、なのはに強い抵抗の心を呼び覚まさせる。
苦痛では、彼女の心を折ることはできない。
「そんなのあるわけない！ 絶対に……こんなの気持ちいいわけがない！」
「いい目だ。だが、やがてその目も快楽に染まり淫らに変わる」
初めての交わりで男に徹底的になのはは性行為への嫌悪感を植えつけられていた。
なのはは否定するかもしれないが、おそらくなのはの中に初めて芽生えた相手への純粋な憎しみがある。
それらを越えて……快楽に堕ちたのなら。
なのはと、そして彼女を支持する者達は、真の絶望の底に沈むことになるだろう。
「だが、今は少し休むといい。我とて、顔を腫らした女を抱く趣味はない」
「誰のせいなのよ！」
当然のなのはの抗議に男は一瞬だけ申し訳なさそうな顔を浮かべると、無言で背を向ける。
「用が済んだら治療してやる。命が惜しければ離れていたほうがいいぞ？」
それは後ろめたさからではないことがすぐになのはにも理解できた。
男の視線が向けられた先から響くエンジン音。
そして……徐々に大きくなっていく見覚えのある機影になのはは愕然とする。
「そんな……。どうして……」
「仲間想いのお前の言葉とは思えないな。お前が同じ立場なら……どうするかは考えるまでもなかろう」
「あ……」
ここでなのはは、男が自分の犯される様を仲間達に見せ付けた本当の意味を知る。
ただ暴力的に嫌悪だけを抱かされるように犯された意味を知る。
「あなた！ 最初からそのつもりで……っ！」
フェイトやはやてのように、快楽に堕ちた状態ならば助けに来るのに躊躇いを抱くものもいたかもしれない。
だが、ひたすら苦痛を与え続けられる仲間をただ見ているだけでいられる者は、アースラには一人として乗船していなかった。
「クロノくん達を逃がしたのを……あざ笑っていたの？」
「そんなことはないぞ。お前の覚悟は見事だった」
悔しさに震える唇からのなのはの言葉に、男は真顔で答える。
「『人間』への復讐は、お前達３人で果たす。だが……我はあの戦艦に用がある」
迫るアースラを男は鋭く睨みつける。
ひたすらこの場所を目指して、一直線に進んできたのだろう。
機体のいたるところが、浮遊している巨石にぶつかった影響で破損している。
破損はエンジンにも及んだのか、その飛行は安定しているとはとても言えない。
「そうだ。それでいい。あの悪魔の一撃を我が防ぎきってこそ……皆の無念は果たされる」
男は自分の目的を果たす準備をアースラが整えていることを確信し、薄い笑みを漏らす。
「このエネルギー！ まさか……っ！」
「もう一度言うぞ。命が惜しければ離れていろ」
アースラの主砲に収束している、膨大な魔力になのはも気がつく。
それは、男にとってもなのはにとっても忘れることのできない最悪の光。
あのときに自分がいれば……。ずっと男が抱いてきた想いを証明する瞬間がついにやってきたのだった。
「みんな、やめて！ アルカンシェルなんか撃ったら……もう元の世界に帰れないよ！」
次元跳躍に必要なエネルギーのために、アースラは省エネでの戦いを強いられていた。
傷だらけになり、疲弊しながらの戦いが自分を救うために無意味なものになることは、なのはには耐えられなかった。
「引き返して！ おねが……」
悲痛ななのはの叫び声が、男の背後から突然遠ざかる。
「ふん。心配せずとも、ことが済むまでは手は出さぬぞ？」
まるで慌てた様子もなく、まるで予期していたかのように、男はゆっくりと視線をアースラから逸らして中空に向ける。
「分かっています。でも……こうしないと、きっとなのはさんはまたアルカンシェルの前に立ちはだかろうとするでしょう」
「なるほど。その危険性があったか」
「それは、あなたにとっても不本意でしょう？ 撃たせるために……ここまでして舞台を整えたのだから」
「ふん。分かった上で出てきたのか。いい覚悟だ」
なのはを抱えて、男から救出したのはアースラで指揮を執っているはずのリンディだった。
「リンディさん？」
「遅くなってごめんなさい」
クロノが負傷している状況で、最も確実に目的を果たすことができる……一見無謀だが最も確実な人選だった。
「また美しい者が出てきたな。この世界では女の魔法の実力は美しさに比例するのか？」
男の言葉に呼応するように、遠巻きにしていた魔物たちがざわめきだす。
それこそが、リンディの年齢を重ねても衰えぬリンディの美しさの証明だった。
「お世辞が上手ですね。でも、今は素直に聞くつもりにはなれません」
「本心なのだがな。まあ、当然か」
せめても、とばかりに男は魔物たちを一瞥し騒ぎを鎮める。
「我の復讐を邪魔せぬ限り、お前達には手は出さん」
「そうですか。では、わたしもあなたの四つの復讐のうち、三つ目の復讐に関しては邪魔しないことを約束しましょう」
「……なるほど。今はそれでよい」
フェイト、はやてに続き、これから放たれようとしているアルカンシェルへの挑戦は男の三つ目の復讐だ。
現時点で最大の攻撃力を持つ一撃に、リンディたちが手を加える意味はどこにもない。
だが……万が一、それが通用しなかったときに果たされる最後の復讐は認めない。
それは、なのはと運命を共にする覚悟を明白に示した答えだった。
「離して、リンディさん！ ダメだよ！ アルカンシェルなんか撃ったら！」
案の定、なのははリンディの腕から逃れてアルカンシェルと男の射線上に立とうとする。
だが、陵辱で疲弊した身体では体格に勝るリンディを振りほどくには至らない。
「なのはさん、分かって！ 大丈夫。帰る方法は、必ずみんなで考えるから！」
とにかくこの状況を打開しないことには、どの道帰ることはできないのだ。
クロノが傷つき、現状でアースラ最強の魔法使いであるなのはが子ども扱いされる男の実力を思えば、倒せる可能性はアルカンシェルのみ。
「彼さえ倒せば……その時間はいくらでもあるはずよ」
一撃必殺の武器は確実に当たる状況で放つべきであり、本来ならばバカ正直に撃つべきではない。
なのはがスターライトブレイカーを男との戦いの決着の手段に選ばなかったのもそれが理由の一つだった。
だが、男と直接対峙したリンディは確信する。
男の目的がアルカンシェルを撃たせそれをしのぎきることである以上……少なくとも男に命中はする。
リンディの選択は最も理にかなったものだった。
「ダメ！ だって……っ！ この人を殺しちゃうじゃない！」
「っ……！ なのはさん。あなたは……」
犯され多くの絶望を与えられてもなお、男を庇おうというのだろうか。
顔を腫らし愛らしさは削がれても、その優しさだけは少しも変わらないのだろうか？
「どこまでも偽善者め！ やはりこれをしのいだ後は貴様を徹底的に犯し、堕としてやる！」
心からの憎悪と共に男はなのはに吐きつける。
復讐の最後のターゲットに、最大の陵辱を改めて誓う。
「ごめんね。恨んでくれていいから……」
リンディは強く強くなのはを抱きしめる。
きつく閉じた瞳からは、涙が溢れなのはのバリアジャケットを濡らしていく。
なのはがこう言うことは十分に予測できたことだった。
だからこそ、リンディ自ら出て、なのはを抑える役目に当たったのだから。
「エイミィ。カウントダウンをお願い」
ブリッジの指揮はクロノに委ねてきた。
後はクロノがロックを解除すれば、男にアルカンシェルは放たれる。
「ダメ！ やめて！ この人が死んじゃったら！ フェイトちゃんもはやてちゃんも帰ってこないよ！」
「……っ！」
「む？」
予想と違う方向のなのはの言葉に、リンディも男も息を呑む。
「分かるの……。二人が、自分の意思で、この人に従ってるのが」
「ほう。直情的で友情に盲目的なだけの小娘かと思ったが……」
リンディでさえ認めたくなかったことだった。
男を倒せば、いつもの二人が帰ってくる。
アースラの誰もがすがっていた希望を、まさかの人物が否定してしまう。
「ずっと一緒だったんだよ？ だから、あの二人のことは何でも分かるの」
だからこそ……。
なのはは男にその身を差し出すことを決意したときに、過剰に自分が快楽に負けることを恐れた。
それが自分を自分でなくし、大切な仲間を裏切ることに繋がってしまうから。
「だから……この人は、力の差をみせた上で打ち負かさないといけないのっ！ そうしないと、そうしないと！」
その先の導き出される最悪の未来をなのはは口にすることができない。
なのはの様子を見た男は唇の端をゆがめながら、その先を代わりに続ける。
「その通りだ。もしこの場で我が朽ちることがあれば……あの二人は全力でお前達への復讐を成し遂げようとするであろう」
「そんなことは……っ！」
リンディは否定しようとするが、その声は途切れてしまう。
フェイトの母親として。また、遥かに成熟した女性として。
なのはの言葉が正しいことを、彼女もまた深層心理で理解してしまっていた。
「それも一興だ。お前達が戦い殺しあう光景もまた、復讐の着地点としては悪くはない」
己の命など、とうに復讐のために差し出している。
そんな男にとっては命と引き換えに訪れる未来さえも、目的を達したことになる。
「皮肉なものだな。復讐の連鎖というのはいつまでたっても終わることはない」
打ち倒された者を慕うものが新たなる復讐を目論む。
刹那の勝利は、新たな復讐鬼を生み出すきっかけに他ならなかった。
「だからこそ……戦端を開いたお前達の罪はとてつもなく重い！」
男の言葉に、リンディもなのはも反論はできない。
今、自分達が男に挑んでいること自体がすでに、復讐の連鎖に組み込まれているのだから。
「それでも……黙ってあなたの好きにさせるわけにはいきません」
リンディは感情を押し殺した声で淡々と告げる。
「わたしには、今のアースラの乗務員を守る義務があります」
「なるほど。フェイトの母親である前に、艦長であるということか」
「ええ」
もちろん、守るべき乗務員の中になのはが含まれていることは言うまでもない。
指揮官として出向いている以上、私情は挟めないのは当然のことだった。
「ははははは！ いいぞ！ いいぞ！ その葛藤こそが我が復讐……」
「撃ちなさい！ クロノ！」
男の嘲笑を遮るかのようにリンディは叫ぶ。
訪れる未来が変わらないのであれば……耳障りな心を抉る言葉はこれ以上は聞きたくなかった。
アースラの主砲が、男を完全にロックオンしても、リンディは発射命令を叫び続けていた。
「ダメだよ、クロノくん。リンディさん」
「なのはさん？」
驚くほど静かだが、重い声がリンディの叫びを打ち消す。
「そんなに辛い想い……リンディさんには背負わせられない」
「なのはさ……きゃぁああああああああ！」
次の瞬間には、リンディは抱えていたはずのなのはに、アースラの側へと突き飛ばされていた。
それは、純粋な魔法。非殺傷設定がないそれはリンディに浅くはないダメージを与えていた。
それだけではない。これから行われる出来事に手出しが出来ないように、その身は８重のバインドで縛られていた。
「この人の復讐は全部わたしが受け止める。だから……」
「そんな……なのはさん！」
いつの間にか、なのはの手には遠く離れていたはずのレイジングハート。
主の戦う意思に呼応したかのように。戦杖はあるべき場所にその身を置いていた。
「レイジングハート、行くよ。あなただけは……一緒に背負ってくれるよね？」
「OK,my master！」
主の声に呼応するように、宝石に文字が浮かぶ。
同時に、これから放つ魔法を電子音声が告げる。
「starlight breaker」
「やめなさい！ なのはさん！ そんなことしたら、あなたも無事では！」
なのはの意図を悟ったリンディが叫ぶ。
捕縛された身では、止めることもできず、ただそれだけしかできない。
「大丈夫。わたしは……もう絶対に落ちない。どんな復讐も、わたしのところで止めてみせるから」
表情も見えないほどの距離だったが、リンディにはなのはが微笑んだ顔が見えた気がした。
たとえ、親友に復讐の対象にされようとも。
新たな復讐者がどれだけ生まれようとも……全部、全部、受け止める決意を宿していた。
「だって……わたしは、悪魔だから」
その悲しい微笑を見て、誰が彼女を悪魔と呼ぶのだろうか。
たとえ、残虐な道に身を染めることを誓おうとも、その翼が黒く染まろうとも。
今のなのはは、決意を宿した美しい天使に相応しくリンディには映る。
「ほう。面白い。一気にケリをつけることに我も異存はない」
スターライトブレイカー。
それは、周囲の魔力を術式によって無理やりに吸い上げ自分の魔力に還元して放つ大魔法。
「避けてもいいよ？ それはそれで、あなたの復讐は失敗になるんだから」
「ふふふふ。なかなかどうして。こんな状況でも駆け引きとは、侮れないな」
なのはの挑発に、男はあえて応えるように……。
アースラやリンディがその射線に巻き込まれない位置に自らを移動させる。
「来い。これで心置きなく撃てるであろう！」
「そうだね。決着を……つけようか」
なのはが吸い上げる魔力は、その場にあるもの全てに及ぶ。
「なのは！ やめるんだ！」
「クロノくん？ みんな！ どうしたの？」
クロノをはじめとするアースラブリッジにいた戦闘員が次々とその場に崩れ落ちていく。
腕は応急処置を施されているとはいえ、苦痛があることに変わりはないクロノは中でも特に苦痛に顔を歪めていた。
「魔力が……全部なのはに集まってる！ やめろ！ これじゃあ、なのはがもたない！」
それでもブリッジからなのはを見て、叫ぶのをやめない。
アースラのブリッジにいる人間の魔力は、本人達の意思を無視して一つの場所へと収束していく。
「アースラが？ まさか……アースラの航行エネルギーまで吸い取ってるの？」
航行に必要なエネルギーまでもが奪われているのを計器がエイミィに伝える。
このままでは程なくしてアースラはその身を空に浮かべることさえできなくなってしまう。
「くそ！ エイミィ！ どうにか不時着の準備だ！」
「分かってる！ もう！ なのはちゃん！ ここまでやって負けたら絶対に許さないからね！」
ものすごい速度でコンソールを叩くエイミィ。
魔法使いとしての素質がない彼女だからこそ……今、この状況で最も頼りになる存在になっていた。
「っく……ごめんなさい。なのはさん……」
魔力が吸い取られていく感覚の中で、リンディは唇を噛み締める。
結局、少女に全てを背負わせてしまった不甲斐なさがたまらなく悔しかった。
「大丈夫？ レイジングハート？」
「don't worry」
明らかな魔力の過剰供給だった。
宝玉は明滅し、制御が困難なことを示していたがレイジングハートは主の意思を体現するべく処理を続けていく。
満たされた魔力は、なのはの男に傷つけられ腫れ上がった頬や身体中の傷までも癒していく。
光の中に立つ少女は、以前と変わらぬ気高さと愛らしさを完全に取り戻していた。
「いくよ！ みんなの全てを賭けて！」
アースラの主砲に集まっていた魔力の光が縮小していく。
その魔力が行き着く先はもちろん、レイジングハート。
アルカンシェルの強大な魔力さえも……スターライトブレイカーの威力へと還元されていった。
「面白い！ 我も全てを賭けて受けてやる！」
「スターライトーーーーーーーーーーーーー！」
想いの全てを込めて……なのはは最大の魔法の名前を叫ぶ。
「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーー！！」
今、この場でなのは達が放ち得る最大の攻撃だった。
光の奔流……そんな言葉さえも生ぬるい。
全てを飲み込み消滅させる光が、男に向かってまっすぐに伸びていく。
「見ていろ、皆！」
正面から男はその一撃を受け止める。
逃げることもなくあくまで真っ向勝負。
高町なのはという少女との決着は、これこそが相応しい。
「我らは！ このようなものに負け……」
叫びさえも……光の渦にかき消されていく。
通り過ぎた後には、ただひたすらの虚空だけが広がっていた。
「やったの？」
その閃光は、放ったなのはでさえも目を開けていられない状況を作り出していた。
全ての魔力を放出し、荒い吐息をつきながら、なのははゆっくりと目を開いていく……。
「お前の世界では、一撃必殺の後のそのセリフは負けへのフラグではないのか？」
「そ、そんな……」
男の服はボロボロであり、非殺傷設定が解除された一撃は男の身体に多くの傷を刻んでいた。
全身に魔法におけるダメージがあることは明白だった。
「見事な一撃ではあった。この地に来たばかりの我では防ぎきれなかったやもしれん」
だが……全ての力を込めた、生涯最大の全力全開をもってしても……。
男の牙城を崩すには至らなかった。
ダメージを感じさせないほど、男はなのなより僅かに高い空に浮かび、悠然と見下ろしていた。
「sorry my master」
あの規模の魔法をはなっても、レイジングハートは宝玉に多くのヒビが入っているものの砕けてはいなかった。
それはあくまでこの先も主と共に戦うという強い意志が成し遂げた奇跡。
だが……その力の全てを使い果たし、せめてもと主を守護しようとするようにペンダントとなり、なのはの胸元へと戻る。
「ごめんね、レイジングハート……」
休眠状態に入った相棒を、なのはは握り締め涙を流す。
最高の力を与えてくれたのに……それを活かせなかった自分の不甲斐なさが悲しくて悔しかった。
「ふむ。どうやら、おしまいのようだな」
戦杖を失ったなのはを、男は歓喜と憐れみが混ざったような表情で見下ろしていた。
仲間の無念を晴らすことはできたが……目の前の少女の意思と想像以上の奮戦は賞賛されるべきものだ。
高笑いを浮かべることをしないことが、せめてものなのはへの敬意だった。
「まだだよ……。わたしの心は、まだ折れてない」
その力の全てを使い切ったのは、レイジングハートだけではない。
主であるなのはも……最後の一滴まで魔力を搾り出していた。
男を睨みつけようとするが、その視界が歪み霞んでいく。
遠くから聞こえる仲間の悲鳴。
それも全て遠ざかっていく。
（ダメ。わたしが落ちたら、みんなが……）
もう二度と落ちない。そう誓った空だった。
だが、その誓いがついに破られるときがやってくる。
（動いて！ わたしの身体！ 一滴でいいから。飛ぶための魔力を！）
浮力に使う魔力さえもなくした今……。
大空を自由に駆けた少女が、何の支えもなく落ちていく。
「ごめんね。みんな……」
最後に涙と共に呟くなのは。
それを合図に、身体だけではなく、意識も深い深い闇の中へと落ちていく。
これが、後にエースオブエースと呼ばれるはずだった、気高き白い魔法少女の未来はこの瞬間に絶たれたのだった。
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目次：復讐鬼
著者：マルチマックス
- カテゴリ：
- 漫画/アニメ
- 魔法少女リリカルなのは
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