ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(2-308)


「ほら渚砂、コーヒー持ってきなさい。まったくドンくさい娘ね」
「ううぅ・・・・・・へんしゅーちょーが、苛めるよぉー・・・・・・」
ストロベリー新聞社の編集部では、今日も深雪編集長によるイビリが行なわれている。
新人記者の渚砂は、毎日、編集長のヤツ当たりの対象となっていた。
「大丈夫ですか、渚砂ちゃん」
渚砂とは同期入社の玉青が、今日も渚砂を慰める。同期とは言っても、記者としての能力は圧倒的に玉青の方が上で、
渚砂の方は編集長へのコーヒー運びしか出来ない有様だった。
「うん、ありがとう玉青ちゃん。大丈夫だよ、涙は目の淵で、何とか止まってるから」
「偉いですわ、渚砂ちゃん。渚砂ちゃんは、鋼鉄の精神を持ってますのね」
渚砂の頭をナデナデしながら、玉青は恍惚の表情を浮かべていた。愛犬家が飼い犬と戯れるさまに見えなくも無い。
渚砂は渚砂で、嬉しそうにニコニコ微笑んでいるから、まあ良いコンビではある。
「今日も機嫌悪いわね、編集長」
「奥さんの浮気が絶えないのよ。スゴイ美人なんだけど、気が多いらしくて」
「ああ、あの髪の長い人でしょ? 編集長のデスクに写真があったわ」
噂好きの社員たちは、今日もゴシップ話に花を咲かせる。本業の取材も、これくらい熱心にやれば良いのにと、
第三者が見れば思うほどの熱心さであった。
「はいソコ、ムダ口叩かない! あと言っとくけど、私の妻に手を出したら殺すわよ?」
言うまでも無いが、この世界に男性などというものは存在しない。ワンマン編集長の深雪は、妻を溺愛しており、
部下の誰もが妻に取っての“悪い虫”に見えるようだ。変に疑われては解雇されかねず、社員は首をすくめた。

と、編集部のテレビの1つから、最新のニュース映像が流れてくる。ここストロベリー新聞社では、
常にニュース速報に対応できるよう、チェック用に複数のテレビが置かれていた。
“交通事故が発生。橋の上で、スクールバスが横から対向車に接触され、ハンドルが狂いガードレールに衝突”
“バスはガードレールを突き破り停止したが、川に落ちかけている・・・・・・”
「聞いた? 記事を差し替えるかも知れない。そこの無駄口グループ、手伝いなさい」
深雪編集長は、立ち上がるや、軍曹さながらの視線で部下を呼ぶ。銃殺されかねないと思った部下たちは、ただちに追従した。
「バスが川に落ちた場合と、落ちずに済んだ場合の2通り、紙面を用意するわ。落ちなければ問題ないけど、落ちた時が肝心」
眼光鋭く、側の部下たちをねめつける。
「落ちた場合は1面のトップだから、死亡者数を大きく載せなさい。売り上げが上がるわ」
鬼としか言いようが無い編集長の指示により、社員たちは、あわただしく働かされる事となった。
新聞のレイアウトを考えながら、カフェイン中毒の深雪は、イライラと机を指で叩く。
「渚砂、コーヒーはまだ?・・・・・・って、いない!?」
唖然としながら、深雪は近くにいた玉青に詰問する。
「玉青さん、渚砂は何処?」
「あ、いません・・・ね。どうしたんでしょう・・・」
深雪の怒りっぷりに、玉青は冷や汗が止まらない。深雪編集長は鉛筆を手に取ると、片手でベキン!とヘシ折った。
「いい度胸してるわね。これはイビリ甲斐があるわ」
「あの、どうか穏便に、お願いします。コーヒーなら私が持ってきますので・・・・・・」

物見高い野次馬たちは、事故現場の周辺をうろついていた。周辺、と言っても橋には立ち入れない。
バスは橋から、いつ落ちても不思議は無く、近づけるような状況ではなかった。
橋の中間付近で園児たちの乗ったスクールバスは、車体の前半分が、橋からハミ出している。
下方の川までは10メートルほどだ。運転手は、衝突の衝撃で気を失っている。
乗降ドアは、バスの前方にある。乗客はドアからは出られない。取材用のヘリコプターが、
上空から虚しく撮影に専念している。レスキュー隊の到着は、間に合いそうに無い。
「お願い、言う事を聞いて! こっちから出るしか無いの!」
「やだー、怖いよぉ──!!」
バスの中では保育士が、何とか窓から園児を出そうとするが、幼い彼女たちは怯えて動けない。
そして無情にも、ついにスクールバスは前方へと滑り落ちた。
車内からの悲鳴。橋の下へと、車の姿は消えていく。“ああ、助からないのか・・・・・・”と周囲の人間が、
ブラウン管を通した視線が、絶望的な状況に目を閉じかけた瞬間。


「と────────う!!!」
場違いな程の元気な掛け声と共に、風を切って空の彼方から飛来する1人の少女!
橋の下をくぐり抜け、落下していくバスと川の間に彼女は割り込む。
バスは前部が、川の水面に触れるかと思われた寸前で空中で停まり。そして優しく、上昇を始めて。
「スゴイ・・・・・・このバス、飛んでるぅ・・・・・・」
目を丸くして、窓から外を眺める園児たち。バスの下に潜り込んだ空飛ぶ少女は、
軽々と両腕で車体を持ち上げ、浮遊させ橋の上へと戻る。
音も無く、橋に着地をすると、少し車体を持ち直して。大切なプレゼントを差し出すように、
胸の前にバスを持っていって、そこからヒザを折って降ろしていった。
「よいしょ・・・・・・っと」
バスを橋に降ろし終える。一仕事が済んで、少女は笑顔で腰を伸ばした。
「スーパーガールよ!!!」
赤いドレスに身を包んだ少女に、野次馬から拍手と歓声が沸き起こる。少女はそれを受けて、力強く手を振って見せた。
「スーパーガール・ナギサだよっ! みんな、もう大丈夫だからね」
「ありがとー! スーパーガールのお姉ちゃーん!」
大喜びの園児たちに、スーパーガールこと渚砂は温かい視線を向ける。

バスの運転手は、意識を取り戻して乗降ドアを開けた。たちまち渚砂は、飛び出してきた園児たちに囲まれる。
「みんな。これでバスを嫌いになっちゃダメだよ? スクールバスって、みんなを運ぶ、とっても安全な乗り物だからね」
まとわりつく子供たちに、笑顔で渚砂はスピーチする。
その笑顔は、園児たちが大きくなった後も、しっかりと彼女たちの記憶に刻まれるだろう慈愛の表情だ。
「は────い!!」
元気な返事で、渚砂に応答する子供たち。スーパーガールは、とりわけ子供には人気があって、
また渚砂も邪気の無い幼女たちを愛らしく思っていた。
「ねぇ。またスクールバス、幼稚園まで飛ばしてくれる?」
「そもそもバスは飛ばないよ。だから墜落もしないし安全。今日は、たまたま事故だっただけ」
たまに行なう、この手の、子供との質疑応答が渚砂は大好きだ。
「ニンジンとかピーマンとか、ちゃんと食べたらスーパーガールになれる?」
「なれるよぉ。だから地球の平和と美肌を守るために、ご飯を食べようね」
彼女達が愛情を受けて、健やかに育つことを渚砂は願う。渚砂の産みの親が、そして育ての親が与えてくれた、
愛情の尊さを彼女は片時も忘れたことが無かった。
「もう帰らないと。みんな一応、病院には行くようにね? じゃ!」
名残惜しげに園児たちを振り切ると、ドン!と空気を切り裂く衝撃音を残して、スーパーガール・ナギサは橋から飛翔した。
園児と保育士は、いつまでも手を振り、彼方に消えた彼女を見送っていた・・・・・・


数時間後。
「“スーパーガール、園児たちの命を救う”、か・・・・・・」
ある国の地下で、漆黒の髪の持ち主は、壁一面に位置する巨大テレビのニュースを眺めていた。
「実に良い話ね。幼女ってのは大切だわ」
深くウンウンと頷きながら、優雅にバスタブの中で、彼女はシャンパンを飲んでいる。
広大な地下空洞の、周囲の壁は白く、照明も明るく清潔な印象だ。取り付けられた家具は、どれも贅沢な仕様であった。
「そろそろ上がるわ。愛人A、バスタオル持ってきなさい」
愛人を呼びつけた女性は、名を夜々という。ここには壁による仕切りは無い。出刃亀に覗かれる恐れもない夜々は、
悠然と立ち上がって裸身を晒した。
「はいタオルです、夜々お姉さま。あと“愛人A”って呼び方、やめてください」
「何よぉ、桃尻娘。年下のくせに生意気なんだから」
「2つしか違いません!」
ピンク色の髪をした少女は、そう言って頬を膨らませた。夜々は気にする素振りも無く身を拭くと、白のバスローブに身を包む。
「いいのよ。愛人Aの出番は、このシーンだけなんだから。イモの脇役は引っ込んでなさい」
「納得いきません! 待遇改善を要求します!」
「うるっさいわねぇ。これから、“野望に燃える私”をクローズアップする場面なんだから、黙ってなさい」
「女優気取りですか! てか、舞台監督ですか!」
愛人Aは文句が絶えない。そんな彼女に背を向けると、夜々は地下空洞の奥にある、巨大な機械を陶然と見つめた。

“長かったわ・・・・・・この装置が完成するまで。我ながら独力で、良く造ったものね・・・・・・”
これまでの苦労が報われる。そう思うだけで、機械に注ぎ込んだ途方も無い金額の事も、彼女の頭からは消し飛んだ。
科学者の夜々が信頼するものは、自らの頭脳だけだった。だから仲間も居ないし必要ない。金は巧妙に他人から巻き上げ、
地下に居心地の良い自分だけの場所を作った。
夜々に取って世界とは、自分を心地良くさせるべきものであり、そのために自分用に改変すべきだと信じていた。世界は夜々に取って、
自分用にサイズを合わせられる、オーダーメイドのバスローブと大差が無いのだ。
“世界を変える時は来た・・・・・・。でも障害は、あるわね。あの可愛い正義の味方ちゃん”
夜々の目は、すうっ、と細くなる。
“一度、直に話したいわね。ひょっとしたら、味方に付いてくれるかも知れないし・・・・・・”
彼女の頭の中では、すでに様々な“計算”が行なわれていた。
“お会いする時が、楽しみだわ。私の招待を喜んでくれるかしら?・・・・・・スーパーガール”

「えいっ!!!」
という掛け声と共に、愛人Aは夜々の尻を、勢い良く蹴り込んだ。
「わぁぁぁぁぁ!!?」
ドボーン、と音を立てて、バスローブ姿の夜々は湯の張った浴槽に落とされている。
「何するのよ! このチンチクリン!!」
ぷはぁ、と浮上してから、凄まじい形相で夜々が迫る。
「人を無視して野望に燃えてるからです。エロパロには“濡れ場”が必要ですしね」
ホッホッホ、と口に手を当てて愛人Aは笑ってみせる。
「アッタマ来た! 何よ下級生の分際でぇ!」
役柄も忘れて、夜々は愛人Aの手首を掴むと、ドボーンと浴槽に引きずり込んだ。
「あんたなんか光莉の足元どころか、その地下30メートルにも及ばないわよ! 身長と一緒に成長が止まってんじゃないのピンク頭!?」
「蕾には蕾の良さがあるんです! エトワール戦の時、涙目の夜々お姉さまを、誰が部屋で慰めたと思ってるんですか!」
「だっ、誰が涙目よ!! あんたが勝手に部屋に来たんじゃない!!!」
もう訳が分からない。バシャバシャと水音を立てながら、2人の痴話喧嘩は、いつ果てるとも無く続いた。


「スーパーガールが1面を飾る。すると我が社の新聞も売り上げが伸びる。いい事だわ」
ある日のこと。珍しく御満悦の表情で、深雪編集長は、社のビデオルームで昔の映像をチェックしていた。
ちなみに1人では無く、横には玉青もいる。深雪は玉青の能力を高く評価していた。言わば、お気に入りの存在なのだ。
「確か、これが最初の、スーパーガールのTVインタビューだったわね。元々“スーパーガール”って呼称は、マスコミが付けたものよ」
深雪が映像を再生する。そこでは、緊張してカチコチになったスーパーガールに、アナウンサーが路上でインタビューを開始していた。
“今日は、あのスーパーガールに、無理を言って出演の許可を頂きました”
“事件が起きたら即座に飛び立てるよう、短時間の、屋外でのインタビューという条件です。視聴者の方は御不満でしょうが・・・・・・”
そんな事をつらつらと述べるアナウンサーをよそに、スーパーガールはカメラ慣れしてないのか、体が小刻みに震えている。
“・・・・・・さて、では世紀の少女に、お話を伺いましょう。まずは自己紹介をお願いします”
その言葉と共にマイクを向けられた、青ざめた顔のスーパーガールは、普段より1オクターブ上ずった声を発した。
“ス、スーパーガール・ナギサだよっ! よろしくね・・・って、ア! ナギサって言っちゃいけなかったんだ・・・・・・”
あうあうと、傍目にも気の毒なほど、世紀の少女とやらは動揺している。
“あの、お願い! もう1回やり直し!”
“申し訳ないけど・・・・・・事前に言ったでしょう? これ、生放送なの・・・”
“ううぅ・・・・・・じゃ、スーパーガール・ナギサでいいですぅ・・・・・・”
そこで深雪は、映像を止めた。
「この時から、彼女は自ら“スーパーガール・ナギサ”と名乗るようになった・・・・・・結構、アホよね。スーパーガールって」
それが率直な、編集長の感想であった。玉青は困ったように苦笑いをしている。
「それで・・・編集長。どうして私に、この映像を見せて頂けたんでしょう?」
「そこよ玉青さん。貴女には、彼女に接近してもらいたいの」
ずい、と顔を寄せて、深雪は玉青を説得に掛かった。
「私が・・・・・・スーパーガールに、ですか?」
ビックリしている玉青に、深雪は言葉を続ける。
「スーパーガールが活躍を始めてから、もう数年が経つわ。でも彼女の実態は、ほとんど分かっていない」
「は、はぁ・・・・・・」
「最初のインタビューで失敗したからか、もうスーパーガールはロクに取材を受けようとしない。たまにメッセージを少し残すだけ」
少し、眉間にシワを寄せて、
「“みんな、今日も元気にね”とか、“車には気をつけて”とか。それだけカメラの前で言うと、すぐに飛び立っちゃう」
と編集長。明らかに、今のスーパーガールの態度に不満なようだ。
「ピンポンパンのお姉さんじゃ無いんだからさ。もっと踏み込んだ発言を、私も、そして世界も期待してる。誰かが言葉を引き出さなきゃ」
「でも、私なんて、まだ新米に過ぎません。もっと経験豊富なベテランの方が、インタビューを求めた方が良いのでは?」
玉青の言葉に、しかし、深雪は首を横に振った。
「・・・・・・いいえ、逆だと思うわ。すれっからしの、マスコミの人間には、彼女は心を開かないと思う」
部下の前では決して見せなかった、寂しげな表情が、今の編集長には浮かんでいる。
「この業界に長く居るとね。経験を積むたびに、心の大切な部分が欠けていく気がするの。私なんか、イヤな人間の典型でしょ?」
自嘲気味に笑う深雪に、そんなこと、と玉青は慌てて言った。
「スーパーガールは、私が無くした、純朴な精神を持ってる。その彼女に近づけるのは、無垢で綺麗な心を持った者だけじゃないかしら?」
ビデオルームには、しばらく沈黙が訪れた。

「・・・・・・変な話を聞かせてしまったわね。とにかく、スーパーガールの件は、考えておいてね。返事は急がないから」
そう言うと、深雪は立ち上がって、部屋のドアを開けるなり大声で怒鳴った。
「渚砂、コーヒー持ってきなさい! 2人分よ!」
“は、はーい”という返事を確認すると、深雪は再びドアを閉めた。
「・・・・・・あの、編集長。スーパーガールって、別に変装とか、してませんよね?」
「そうね。何か気になるの?」
玉青が何を聞こうとしているか、深雪には分かっていない。
「あの、渚砂ちゃんって、スーパーガールに似てません? スーパーガールも、自分をナギサって、言ってますけど・・・」
その言葉を、深雪はハ!、と鼻で笑い飛ばした。
「あのアホ娘がスーパーガール? そんな訳ないでしょう。しっかりしてよ玉青さん」
編集長は、もうコーヒーの事しか頭に無い。そんな彼女を横に、玉青だけが、何事かを考えていた


渚砂が、自分が地球人ではないと育ての親に知らされたのは、10代前半の頃だった。
その前にも、薄々とは感じていた。自分が普通の人間ではない事は。転んでも切り傷は出来ず、
山登りでガケから落ちた時には初めて空が飛べた。
意識的にパワーを抑えないと、お医者様の注射さえ腕には刺さらない。渚砂は早くから、自分の正体を隠す術を身に付けていた。

赤ん坊の渚砂を乗せたカプセルは、宇宙から地球へと放擲され、とある山村地帯へと衝突した。
人家など、1つあるか無いかという場所で、通りかかった老夫婦によってカプセルは発見される。その夫婦が、渚砂を育て上げた。
娯楽施設など何も無い地域だったが、自然に囲まれた環境は、渚砂に取って最高の遊び場所だった。
小さな頃から、行けない場所など無かった。どんなに走っても息は切れず、どんな無茶にも体は持ちこたえた。
老夫婦は、自分たちが拾った女の子が、人間には不可能な範疇で運動に熱中しているのをたびたび見た。
夫婦は渚砂に、人前では“普通の人間”として振舞うよう教え込んだ。渚砂は素直に、夫婦の教えに従って育つ。

やがて、渚砂の育ての父(女性だが)が、心臓発作で世を去った。未亡人となった母は、渚砂に真実を告げる。
納屋に隠されていたカプセルに渚砂が近づくと、カプセルは輝きだした。納屋の中には立体映像が浮かび上がる。
“娘よ、我が愛しい娘よ。あえて、お前を名では呼ぶまい。お前には既に、心優しい者が付けた名が、あるだろうから・・・・・・”
渚砂は立体映像が語るメッセージに、身じろぎもせず聞き入っていた。これが、父か。これが、母か。2人は優しい表情だった。
立体映像の2人は告げた。自分たちのいる惑星が、消滅の運命にあると。2人は運命を受け入れたが、1人娘だけは助けようとした。
“娘よ。お前を地球へと運んだカプセルには、お前の能力に付いて説明できる機械がある。それで能力を学び、鍛えるのだ”
立体映像は、急速に、おぼろげに成っていく。2人がメッセージを記録した時、惑星の寿命は尽きかけていた。磁場の乱れが生じている。
“お前を育てた、地球に恩を返すのだ・・・・・・どうか無事に育って・・・・・・幸福に・・・・・・”
言葉は不明瞭で、途切れがちだ。それでも渚砂は、次の言葉を間違いなく聞き取った。
“どうか、忘れないで・・・・・・お前の事を、愛してい・・る・・・・・・”
「お父さん! お母さん!」
渚砂の叫びと同時に、立体映像は消失する。声を上げて、その場で渚砂は泣き続けた。

渚砂がスーパーガールとして活動を始めたのは、大学生になってからだった。ちなみに育ての母は、大学卒業を見届けた後、天に召された。
初めは覆面でも被ろうかと思ったのだが、その必要は無いと気付いた。周囲の誰もが、渚砂には関心を払わないからだ。
普通の人間のふりをしろ。そう教えられ育てられた渚砂は、何の個性も無い平凡な人間としか周囲には映らなかった。顔さえ覚えられない。
コスチュームは自分で作った。真っ赤なドレスだ。マンガ的な御都合主義によって、一瞬で渚砂は、いつでも何処でもソレに着替えられる。
ドレスに身を包み、いくつもの人命を救い、いくつもの事件を解決しながら。しかし渚砂は、違う形でも、世界に貢献したいと思った。
大学を卒業した彼女は、ストロベリー新聞社に入社を果たす。
ペンによって、世界を平和にしたい。青臭いと笑われながらも、渚砂は真剣だった。
人の意識を変える事でしか、真の平和は成し得ない。そう渚砂は信じている。
超能力だけでは、できない事があるのだ。それが、これまでの経験を通した、彼女の結論だった・・・・・・

記事を書きたいと願った渚砂だが、しかし現実は、そんなストロベリータルトのように甘いものでは無かった。
「ほら渚砂、全員分のドーナッツ買ってきなさい」
今日も今日とて、深雪編集長のイビリは続く。渚砂の仕事といえば、この手の雑用だけである。
「ううぅ・・・・・・ヒーローは孤独だよぉ・・・・・・」
女の子ならヒロインだろ、というツッコミも今の渚砂には届かない。彼女は涙目で、1人、お使いへと行かせられていた。

昼休み。社の屋上にはベンチがあって、そこで渚砂と玉青は、お昼ご飯を食べていた。
「まあ。大きいですね、渚砂ちゃんのオニギリ」
「へへー。自分で握ったんだよ? お母さんが、こんな風に良く握ってくれたんだー」
ポカポカとした陽気のもと、和気あいあいと、ランチタイムは過ぎていく。
「ところで渚砂ちゃん、つかぬ事を伺いますが」
「何、なにー? 玉青ちゃんのお弁当のオカズ分けてくれたら、何でも答えちゃうよー」


「では私のタコさんウィンナーをどうぞ。ウサ耳の付いたリンゴもあります」
わーい、と5歳児のような笑顔で渚砂は喜んでいる。
「では質問です。渚砂ちゃんは元気ですが、その元気は、何か特別なものを食べてるのでしょうか?」
「んー? 特別なものって?」
「そうですね、例えばプルトニウムとか」
常人が聞けば、引っくり返りそうな質問である。
「そんなもの食べないよー。普通の地球人が食べるものと同じー。玉青ちゃんも、そうでしょ?」
「そう・・・ですね。失礼しました」
玉青はメモを取り出すと、“食べるものは、私と同じ”と記入した。
「あれ? そのメモなぁに?」
「いえ気にせずに。では続いて質問です。渚砂ちゃんは元気ですが、その元気さを数値で表すと、どれほどでしょう?」
「うーん・・・・・・計った事は無いけど・・・・・・百万馬力?」
「なるほど、参考になります」
今度は“推定で百万馬力(前後)”とメモに書き込む。聞く方も聞く方なら、答える方も答える方だった。
「では、とりあえず最後の質問です。渚砂ちゃんに取って、人のあるべき姿とは、どのようなものでしょうか?」
「そうだなぁ・・・・・・一言で言うなら・・・・・・」
うむむむむ、と考えた後、
「アンパンマン!」
と渚砂は元気に回答した。
「ありがとうございます。有意義な時間でしたわ」
「そうなの? 良く分からないけど、玉青ちゃんの役に立てたんなら良かったよー」

「ねぇ玉青ちゃん。あっちの端から景色を眺めようよ!」
お昼を食べ終わって、渚砂が玉青を誘う。屋上の周囲には金網が張ってあるので、端に行っても危険は無い。
「いえ・・・・・・私、高いところは怖いんです・・・・・・」
恥ずかしそうに玉青が笑う。渚砂の方は、小さい頃から山登りをしてた事もあり、高所恐怖症とは無縁である。
玉青の手を、渚砂が優しく握る。玉青は驚いて渚砂を見つめた。
「手、握ってるから怖くないよ? ね、行こ」
そう言うと、渚砂は手を引いて歩き出す。その自然な歩調に、玉青は全てを忘れて、引かれるままに付いていった。
金網の前まで辿り着くと、渚砂は、その金網に顔を押し付けるように近づける。もう彼女には、高所からの光景しか意識に無いようだ。
「本当に、ここからの眺めが好きなんですね・・・・・・」
そう玉青は、渚砂に手を繋がれたまま、微笑んでいる。玉青は景色では無く、ただ渚砂の横顔を見つめていた。
「うん、好きだよー。編集長に怒られて泣いちゃいそうな時も、高い所から下を見てると、元気になれるんだー」
瞳をキラキラさせながら、渚砂は景色に、かじり付いたままだ。
「自分の悩み事もね、何だか小さなものに思えるし。それに、下には同じように、私みたいに悩んでる人も居るのかなぁって思えて」
玉青の視線に気付かないまま、渚砂は話し続ける。
「そうやって、みんなの居る地上を見てると、何かしてあげたくなっちゃうの。だから落ち込んでなんか居られなくなっちゃう」
「・・・・・・スーパーガールも・・・・・・そんなふうに、思ってるんでしょうね・・・・・・」
そう玉青は言った。“アハハ、そうかもね”と、渚砂は答えた。
「でも、スーパーガールも、辛くなったりしないんでしょうか? たった1人で、世界のために頑張って」
「・・・・・・スーパーガールは、やれるだけの事をやりたいんだよ、きっと」
そう渚砂は答える。それは玉青が泣きたくなるほど、優しい声音だった。
「たとえ途中で倒れても、少しでも世界の意識を、良い方向に向けられれば・・・・・・満足なんじゃないかな・・・」
そこまで言うと、渚砂は玉青の方に、顔を向けた。さっきから、ずっと手は握ったままだ。
「ね、玉青ちゃん。まだ高いところは怖い?」
言われた玉青は、渚砂を見つめ。それから、高所からの景色を、何秒か見つめ。・・・・・・そして、再び渚砂に視線を戻した。
「・・・・・・いいえ。渚砂ちゃんのためなら・・・・・・私は高いところも、克服してみせます」
「アハハ、玉青ちゃん何か変ー」
渚砂は何も知らず笑っていたが。この時、玉青は、ある重大な決意を固めていた・・・・・・


お昼休みも終わって、再び渚砂は、仕事に戻っていた。もちろん仕事とは、編集長へのコーヒー運びだ。
給湯室で、コーヒーを淹れようとした渚砂の頭に、突如として声が響いた。
“ハーイ。聞こえる? スーパーガール?”
渚砂は驚いて動きが止まる。
“このメッセージは、人間には聞こえない周波数で発信してる。でも、貴女には聞こえるわよね?”
声は若い女性のものだ。
“貴女を私の家に、招待したいの。でも初対面だし、いきなり誘っても来てくれないわよね? だから趣向を考えてみたわ”
「何を言ってるの?・・・・・・」
相手には聞こえないと知りつつも、そう渚砂は、反射的に呟いた。

「今日は特に機嫌が悪いわね、編集長」
「ほら、奥さんが旅行に行ったから寂しいのよ。そろそろ、飛行機がパリに着く時間だわ」
「あの奥さん、海外でもアレコレ、女の子に手を出してるんじゃないかしら・・・・・・」
今日も噂好きのグループは、編集長に聞こえないよう、オシャベリに花を咲かせていた。
と、社のテレビから、文字速報が流れ出す。
“エールフランス×××便が、シャルル・ド・ゴール国際空港の上空で旋回中。操縦不能の状態”
たちまち、社内は騒然とし始めた。
「×××便・・・・・・?」
他人の不幸はメシの種、と公言して憚らない編集長にとって、飛行機事故は格好の特ダネのはずだ。だが深雪の顔は蒼白となった。
「そんな・・・・・・そんな・・・・・・」
椅子から崩れ落ちるように、深雪は床に倒れこむ。
「編集長!!?」
社員が気を失った深雪に駆け寄る。速報で流れた、操縦不能の機には、深雪の妻が搭乗していた。

“パリって結構、遠いわよね。間に合うかしら? 早く行かないと飛行機が落ちちゃうわよぉ?”
人の耳には届かぬ声が、鈴のような響きで笑う。その声は、無邪気な悪意に満ちていた。
その頃、ストロベリー社では、1人のサボリ社員が給湯室へと向かっていた。そこで時間を潰す気なのだ。
社員の前で、一陣の風が吹いた。屋内では吹くはずの無い突風が。悲鳴を上げて、サボリ社員は尻餅をつく。
「何なのよ、一体・・・・・・」
お尻をさすりながら、社員はボヤくしか無い。特急電車が側を走り抜けたような風圧だった。
無人の給湯室に入ると、そこには空のコーヒーカップが置かれていた。別の離れた場所で、社の窓が1つ、開いていた・・・・・・

意識を取り戻した編集長は、椅子に座り。机の上でヒジを付いて、両手の指を組み合わせる。
組み合わせた両手に、頭を載せるように下を向いて、深雪は目を閉じている。周囲には気遣わしげな社員らが居た。
テレビには文字による速報しか流れない。現場でさえ、詳細は掴めてないようだ。それが皆には、もどかしかった。
もっとも深雪は、ニュースを見る事も聞く事も怖かった。全てが、夢ならいい。そんな子供じみた事を虚しく願っていた。
「神様・・・・・・・・・・・・」
幼児のような、か細い声で、彼女はそう呟いていた・・・・・・

×××便の機長は、懸命にコントロールを取り戻そうと闘っていた。そんな彼女を嘲笑うかのように、機は旋回を続ける。
機は現在、何者かによって遠隔操作されていた。見えざる悪魔の手が飛行機を掴み、気ままに振り回す。
“そろそろ飽きちゃった。要らなくなったオモチャはポイ!ね”
悪魔は、そう呟いた。機は下降を始める・・・・・・下方の空港へと、頭から。エンジンは止まり、機長には成す術がない。
乗客たちの悲鳴が響いた。ある者は泣き叫び、ある者は手帳に遺書を書き終えていた。
ある者は、あと何秒、生きていられるのかと自問して。ある者は、地上に残した愛する人を想い。
そして、ある者は────────奇跡を願った。


乗客は飛行機の底部に、何かが衝突したような響きを感じた。錯覚だろうか?
次の瞬間、錯覚では有り得ない現象が起きた。下方へと頭を向けていたジェット機は、急速に向きを水平へと変えていく。
落下速度は減少し、まるでエレベーターのように、ゆっくりと地上へ接近していった。
「・・・・・・あの子よ! あの子が来たんだわ!!」
確信を持って、誰かが叫ぶ。爆発を思わせる勢いで、機内では歓声が上がった。
真紅のドレスに身を包んだ守護天使が、動かなくなったジェット機を今、空中で持ち上げている。
9500km以上の距離を飛び、150t超の鋼鉄の塊を、渚砂は細い両腕で支えていた。
車輪さえ出せない飛行機を、彼女は空港の空いたスペースへと運び。可能な限り緩やかに、胴体着陸をさせた。

“お見事ね。ま、私も本気で落とすつもりは無かったわ。スーパーガールなら、これくらい簡単でしょ?”
事も無げに、悪意の声は囁く。対する渚砂の目は、怒りに燃えていた。
“私の家に、来てくれるわよね? 来ないなら、次は複数機を一度に落とすわ。1人じゃ止められないかもね”
声が渚砂に、座標を伝える。その場所に向かうべく、彼女は空港から飛び去っていく。何も知らない空港の者たちは、
口笛やら拍手やらを送っていた。
九死に一生を得た乗客らは、隣の者と抱き合い喜んでいる。その喧騒の中で1人、
髪の長い世にも美しい女性は、静かに窓の外へと視線を向けていた。
「あれが・・・・・・スーパーガール・・・・・・ナギサ・・・・・・」
そう、呟きながら。彼女はスーパーガールが、飛び去った方向の空を、いつまでも見つめていた・・・・・・

ストロベリー社でも、×××便の無事はニュースで確認された。
テレビを直視できない深雪に、部下がニュースを伝える。途端に、大きく息を吐いて、体中の緊張を彼女は解いていった。
「ありがとう・・・・・・どうか、仕事に戻って・・・・・・私は、大丈夫だから」
そう言いつつも、再び気を失いかねない様子の編集長が気がかりで、皆は去れずにいた。
と、
「・・・・・・あ、コーヒー!!!」
ガバッ、と擬音が付きそうな勢いで、深雪は椅子から立ち上がる。周囲の部下はギョッと後ずさる。
「渚砂! あんの、アホ娘!! いつも急に居なくなるんだから!!!」
わなわなと怒りに震える編集長を見て、“良かった・・・・・・いつも通りだ”と、皆は安堵した。
「玉青さん・・・・・・は、取材に出かけてたわね。いいわ、自分で淹れます。どうせ私はコーヒーを淹れる部下さえ持てない無能な女よ」
ブツクサ言いながら、今日も深雪は絶好調だ。
「でも、良く渚砂のこと、クビにしませんね。しょっちゅう、姿を消してるのに・・・・・・」
部下の1人が、前からの疑問を口にしてみる。
「当然でしょ? あんな、格好のウサ晴らし、辞められたら困るわ」
“なるほど。ある意味、気に入ってるのねぇ・・・・・・”と、部下は深く納得した。

渚砂が声の誘導に導かれて、飛翔した先は、広大な砂漠だった。
地表の一部に、スライド式の扉が見えた。人が1人、出入りが可能な大きさで、現在は開いている。
彼女は扉の中に入った。扉は閉まり、上からは砂漠の光景しか映らない。扉の表面には砂粒がコーティングされていた。
「ようこそ、スーパーガール。やっと会えたわね、私は夜々」
地下空洞の施設内に、彼女は居た。黒のドレスは胸元が開いて、豊かな乳房を強調している。渚砂とは露出度が大違いだ。
「どう、温度調整も完璧でしょう? 快適な住まいを築くべく、努力してるのよぉ? 砂漠の下にしては自慢できる環境だと思うけど」
ピーコックチェアと呼ばれる、美しい造りの椅子に腰掛け、夜々は妖艶に微笑んで見せる。悪の華が咲いたように渚砂には感じられた。
「もっとも、貴女には温度なんて関係ないわね。北極でも、その薄着のドレスで平気なんでしょ? 暑い寒いなんて感じたことある?」
1人で可笑しそうに笑っている。その声は良く響いた。地下空洞はドーム型になっていて、2人は空洞の端の方にいる。
夜々から15メートルほど離れた入り口付近に、渚砂は立っていた。
「ここって広くてね。数百メートル半径くらい有るのかな。でも出歩くのが面倒だから、家具は入り口付近にまとめて置いてるの。
向こうには食料貯蔵庫もあるわ。この辺にはスーパーも無いしね、蓄えは置いとかなきゃ、ふふふっ。あ、自家用飛行機もあるのよ」
渚砂は無言で、夜々の言葉を受け止めていた。
「・・・・・・さて、お客様が来るのは珍しいから、お喋りが過ぎちゃったわね。本題の話をしましょうか」


「貴女は、ジェット機のコントロールを奪った。その技術を何に使うつもり? 飛行機テロ?」
先に口火を切ったのは渚砂だった。
「あら、せっかちね。いかにもジェット機を遠隔操作したのは、この私。でも考えてるのは、そんなスケールの小さな事じゃないわ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、考えても見てよ。私はここから、どうやってパリ上空の光景をチェックしてたと思う?」
そう言うと夜々は、指を上に向けて見せた。
「・・・・・・衛・・・・・・星・・・・・・?」
呆然と渚砂は言った。
「ご名答♪ 割と頭いいじゃない、嬉しいわ」
本当に嬉しそうに、夜々は笑顔を浮かべていた。
「まあ正確には管制塔のカメラ映像も盗んだけど、この際それは重要じゃないわ。重要なのは、私が軍事衛星をハッキングできるって事」
椅子から身を乗り出すように、彼女は語りかける。
「今の軍事衛星ってね、地上にいる人間は識別できるし、たとえ屋内に居ても熱反応で探知できるの。そして凄いのは攻撃面。
中性子ビームって知ってる? ピンポイントで、建物は破壊せず、人間だけ排除できるのよ。こんなこと一般人は知らないけどね」
夜々の話し方は、熱を帯びたものとなった。
「そして私は、その衛星を自在に操れる。ちょっとデモンストレーションをして見せれば、私に逆らえる人間や国なんて無いわ。
いつでも各国首脳を焼き殺せる私に、誰が攻撃命令を出せる? 仮にミサイルが来たって、私ならUターンさせられるしね」
彼女の瞳は潤み、時々、わななくような吐息が伴う。
「電子制御されてる兵器は、何だって私がコントロールできる。音も無く兵隊さんが来ても、衛星の目は避けられない。皆殺しにするわ」
今の彼女は、万能感に満たされていた。恍惚とした視線が天上の方へと向く。
「手始めにミサイルを暴発させて、あと中性子ビームで政府の要人を殺害する。事前に予告してからね。デモンストレーションとしては、
悪くないでしょ? これで世界は掌握できる・・・・・・たった1人の例外を除けば」
そう言い終えると、ゆっくりと夜々は、渚砂に視線を向けた。

「そう。困った事に、貴女の居場所は衛星でも捕捉できない。音速以上の速度で動く子なんて反則よ? あるいは、
衛星の探査を妨害するような特殊能力を、貴女は持っているのかしら? スーパーガールのナギサちゃん」
気安い問いかけに、渚砂は無言で応じた。
「何にせよ、ナギサちゃんは、私の障害。軍事衛星の攻撃だって、通用するかは分からない。下手に攻撃を仕掛けて失敗すれば、
逆襲されて衛星を破壊されるかも。だから、まずは話してみたかったの・・・・・・どう、私に協力してくれない?」
「・・・・・・本気で言ってるの?」
「本気も本気よ。考えたことは無い? “独裁国家の元首や、世界中のテロリストを消しちゃえば、世界は平和になるのに”って」
渚砂の視線を、夜々は笑みと共に受け止めていた。
「スーパーガールとしての体面が気になるなら、私が代わりに手を汚してあげる。ナギサちゃんは、私を見逃してくれればいい。
洞窟に潜んでる怪しい奴らはテロリストに決まってるんだから、全員、始末してあげる。世界が確実に、平和に近づくのよ?」
噛んで含めるような話し方だった。
「お礼だってするわ、お金なんか幾らだって手に入る。私の意向で人の生き死にが決まるんですもの。皆、払ってくれるわよ。
『助けて! 殺さないで!』なんて叫びながらね。最高だと思わない? 世界を管理できるのよ?・・・・・・」
なおも夜々が続けようとした演説を、渚砂は一言で遮った。
「ふざけないで!」
施設の壁がビリビリと震えた。夜々の顔から笑みが消える。
「命を何だと思ってるの? 生まれた我が子の明日を思う、親の気持ちを考えた事がある? 愛する人が無事で居るよう、願った事は?」
渚砂は、両親の顔を思い浮かべていた。生まれた星の両親と、地球の両親の顔を。
「世の中には、納得できない事だってある! 私だって、いっつも編集長にはイジメられてるけど!」
「え? 編集長?」
「でも、私は未来を信じてる! 貴女みたいに、人命を奪う事が物事を解決するとは思わないわ。
私は両親から愛を与えられ、未来を与えられた! だから私も地球の皆を愛し、未来を与えたいの。未来には皆で育める、
素晴らしい世界が待っていると信じてるから。そういう未来を誰かに与えたくなる、愛の大切さを、私は伝えていきたいの!」
と言った後、
「・・・・・・でも、編集長には、いっつもイジメられてるけどね!!!」
と、渚砂は言葉を締めくくった。


「・・・・・・編集長にイジメられてるってのと、交渉が決裂した事は良く分かったわ・・・・・・」
夜々の目には、冷たい光が宿っていた。渚砂としても、彼女と話す事などは、もう何も無い。
「あっちに見える、黒い鉄の塊が、衛星を操れるって機械ね? 破壊させてもらうわ」
渚砂は夜々から離れた後方にある機械を見据え、一歩、前へと踏み出した。
「させないわ、悪いけど」
言うと夜々は、手元に隠していた装置のスイッチを押す。天井の一点が光り、施設内は緑色に包まれた。
“あっ・・・・・・な、何?・・・・・・”
途端に、一歩も歩けなくなった渚砂は、床に倒れる。夜々は椅子から立ち上がり、ゆっくりとした歩調で前に進んだ。
「残念ね。いい、お友達になれると、思ったんだけど」
倒れたままの渚砂の前で立ち止まり、夜々は勝ち誇る。
「私ね、ナギサちゃんの事は結構、研究してるの。最初のTVインタビューで、貴女は生まれた惑星の名を明かした」
小型のリモコンを持った手で、夜々は天井の一点を指し示す。そこでは宝石を思わせる、緑色の石を通して、光線が放射されていた。
「あの石は、その星から地球に落ちてきた物。その成分は、ナギサちゃんに取って致命的なものよ。地球人の私には無害だけどね」
前のめりに、うつ伏せに倒れた渚砂の体を、横から靴の爪先で夜々は乱暴に動かす。渚砂は仰向けの姿を取らされた。
「ああやって光線を通すと、貴女が動けなくなるエネルギーが放射される。この施設の壁、加工してあるの。おかげで良く、
光が反射してるでしょ? 何でココ、仕切りの壁が無いか分かった? あの光線を施設内の全てに届かせるためよ」
履いている靴の高い踵で、上から渚砂の、胸の突起を踏みつける。くうっ、と渚砂の口から声が漏れた。
「この施設を造るときから、貴女をこうして捕まえる事を考えてた。無敵のスーパーガールを自由に出来るなんてゾクゾクするわ」

夜々の嘲笑を浴びながら、自分の命運が尽きたと渚砂は悟った。体は動かず、踏まれた胸は痛い。今の彼女は弱々しい女子に過ぎない。
“ここで・・・・・・終わりかぁ・・・・・・。頑張ったんだけどな・・・・・・”
死ぬことは怖くなかった。もともと、故郷の惑星が消滅した時、自分も死ぬはずだったのだ。それなのに自分だけが生き残った。
そう知った時から、彼女は自らの身命を賭して、地球の人々を守る事を考えるようになった。
渚砂には友達らしい友達は居ない。子供時代は1人で山を走ってたし、田舎で育った彼女は、都会に出てからも周囲に馴染めなかった。
もっとも、その事実は渚砂を気楽にさせた。お別れを言う必要が無いからだ。自分が居なくなっても、悲しむ者は無いと思った。
「ナギサちゃん。さっき、演説をぶってくれたわね? 愛が、どうとか」
シニカルに笑いながら夜々が言う。
「私が何を望んでるか教えてあげるわ。私はね、地球の人口を減らしたいの。特に年増の女をね」
渚砂の側にヒザを付くと、夜々は赤いドレスの胸元を撫で回した。
「私は若くて綺麗な子が大好き。世界には私が好きなものだけ有ればいい。資源は有限なんだもの、20億くらい人口は減らさなきゃ」
自分は陵辱されるのだと、渚砂は諦観した。それも覚悟は出来ていた。夜々の悪事を止められないことだけが無念だった。
“新聞社のみんな・・・・・・役に立たない社員で、ゴメンナサイ。編集長・・・・・・コーヒー入れるの、また忘れました。すみません”
執拗な愛撫を受けながら、様々な人の顔を渚砂は浮かべていく。そして玉青の顔が、ハッキリと思い浮かんだ。
“玉青ちゃん・・・・・・いつも、本当に親切にしてくれたよね・・・・・・玉青ちゃんは取材で忙しくて、そんなに一緒に居られなかったけど”
回想しながら、自分は彼女が大好きだったんだなぁと、あらためて渚砂は自覚した。
“玉青ちゃん・・・私、憧れてたんだ。同期なのに、すっごく仕事が出来る玉青ちゃんに。何から何まで、私より優れてたね・・・・・・”
夜々は渚砂のドレスを剥ぎ取りに掛かった。単に脱がせるだけでは物足りないのか、力任せに引き裂いていく。
“玉青ちゃんは、私が居なくなったら、心配するかも知れない・・・ゴメンね、玉青ちゃん・・・・・・会いたいよ・・・・・・玉青ちゃん・・・・・・”
彼女を想う渚砂の目から、一筋、涙が落ちた。
「あら、死ぬのが怖い? せめて素敵な気分にさせてあげる。どうせ処女でしょうけど、いい反応を期待してるわ」
夜々は渚砂の涙を、ペロリ、と舌で掬い取る。想いを汚された気がして、渚砂は悲痛に目を閉じた・・・・・・


目を閉じた渚砂は、凄まじい衝撃音を聞いた。夜々は驚いて、渚砂から離れている。
地下空洞の天井に、人が通れるほどの穴が開いていた。砂漠の砂が大量に落ちてくる。
砂煙の中で、1人の女性が立っていた。青いドレスに身を包み、サングラスを着けた彼女は、施設の天井を破壊して侵入してきたのだ。
「だ・・・・・・誰よ、あんた・・・・・・」
恐怖に震えながら、かろうじて夜々が言った。目を開けた渚砂には、彼女が誰か、即座に分かった。
“玉・・・青・・・・・・ちゃん・・・・・・”

「スーパーガールが・・・・・・2人?」
夜々の驚愕ぶりこそ、まさしく見ものだった。
動物園で、檻の外からライオンに石を投げつけて得意げだった子供が、背後の虎に驚く。そんな顔だ。
玉青は上を向くと、飛翔して緑色の石を、装置から引き剥がした。ついでにパンチ1発で装置を破壊し、光の放出を止める。
緑一色だった施設内が、元の光景に戻る。渚砂は再び、体にパワーが満ちていくのを感じた。
「えい!」
気合と共に、天井に空いた穴から、玉青は緑色の石を投げ捨てる。石は空を越え、大気圏外へと旅立っていった。
「何で・・・・・・あんたには、石が効かないのよ・・・・・・?」
「貴女が理由を知る必要はありません」
茫然自失の夜々の前に、緩やかに玉青は着地する。
「あの・・・・・・た」
“玉青ちゃん”と呼ぼうとした渚砂に顔を向けると、玉青は人差し指を唇の前に立てた。名前は言うな、という事らしい。
「私の事は、スーパーガール2号・・・・・・そう呼んでください」
そう渚砂に告げると、玉青は夜々に向き直った。
「貴女の野望は潰えました。観念しなさい」
「け、警察にでも突き出すつもり!? いいわよ、やってみれば!!?」
まだ夜々は強気だった。ハッキングの痕跡は残していない。有罪には成らないという自信があるのだ。
「いいえ? そんな事しません」
しかし玉青は、首を横に振る。夜々は玉青の、怒りの大きさを理解していなかった。
「よくも、私の渚砂ちゃんを・・・・・・」
コブシを握り締め、腕の血管を浮き立たせながら、低い声で彼女は呟く。サングラスで表情が分かりにくいのが、却って怖い。
「ちょ・・・・・・ちょっと・・・・・・その握りこぶしは何?」
玉青からジリジリと後ずさる夜々の後ろで、渚砂が立ち上がった。コチラも、お気に入りのドレスを破かれて、怒りは相当なものだ。
「渚砂ちゃん。前と後ろから、行っちゃいましょう」
グッ、と握りコブシを夜々に突きつけながら、玉青は渚砂に呼びかける。
「何言ってるの!? 前と後ろからって何!!?」
生きた心地がしない夜々が叫ぶ。その夜々の背後で、やはり渚砂が、握りコブシを固めて応じた。
「そうだね、スーパーガール2号! 奥歯をガタガタ言わせちゃおう!!」
「ちょっと!! 冗談でしょう!? エロパロだからって限度があるわよ!!?」
瀧のような汗が、夜々の全身からは噴き出していた。
「あんた達、正義の味方でしょ!!? そんなんアリ!!?」
「バレなきゃいいんです!!!」
素晴らしい断言っぷりで玉青が返す。そして────────

ア────────ッ!!!!!

という叫び声が、砂漠の何処かから、漏れ聞こえた・・・・・・

「それにしても、玉青ちゃんも宇宙人だったなんて知らなかったよ。教えてくれれば良かったのにー」
夜々と、夜々が造ったハッキング装置を、コブシでメタメタにした後。渚砂と玉青は、砂漠を散歩しながら話をしていた。
灼熱の気温も、2人には何の痛痒も無い。ノンビリとした足取りだった。
「ごめんなさい・・・・・・でも、それを言うなら、渚砂ちゃんだって秘密にしてたじゃないですか」
クスクス玉青が笑う。“そっか、それもそうだねー”と渚砂も笑った。


玉青も、渚砂と同様、故郷の惑星を失くしていた。カプセルに載せられて、地球に送られたところまでソックリ一緒。違うのは、
玉青の産みの親も育ての親も、スーパーヒロインとしてでは無く、普通の人生を娘に望んだ事だった。
「ですから一生懸命、勉強しました。一生、スーパーパワーは使わないつもりだったんで、普通に仕事で身を立てようと思って」
そんな玉青だったが、大学生の時に、スーパーガール・ナギサの存在を知る。雑誌に掲載された、スーパーガールの笑顔の写真に、
玉青は一目で心を奪われた。
「もうスーパーガール・ナギサちゃんの可愛いお顔が、頭から離れなくて。あれが私の初恋ですわ」
そう玉青が言った事に、渚砂はビックリした。誰からも気に留められなかった彼女は、可愛いなどと面と向かって言われた事が無い。
「だから私、新聞社に入ったんです。記者になれば、スーパーガールに近づけるかもって期待して。ミーハーですよね」
ストロベリー新聞社に入社した玉青は、そこで腰を抜かすほど驚く事になる。憧れのスーパーガールが、同期入社してたからだ。
更に驚くべき事に、誰も渚砂がスーパーガールだと気付かない。玉青には訳が分からなかった。
「だって変な話でしょう? 新聞社が血眼になって探してるスーパーガールが、その社内でドーナッツ買いに行かせられてるんですよ?
私以外の社員とスーパーガールが一緒になって、何か大掛かりなドッキリとか仕掛けてるのかと思いましたわ」
「んー、でも私なんて、全く目立たない存在だから・・・・・・」
「それは皆の目がオカシイんです! こんなに渚砂ちゃんはキュートなのに、どうして誰も分からないんでしょう?」
本当に不思議らしく、何度も玉青は首をひねっている。聞いてる渚砂の耳は、何だか赤くなっていた。

渚砂と出会うことで、玉青は、自分の生きかたに疑問を持ち始めた。スーパーパワーで、渚砂を側から支えてあげたくなったのだ。
「知識としては、スーパーパワーの使い方は知ってました。ですから渚砂ちゃんと対になるような、
青いドレスのコスチュームも作って、用意だけはしてたんです。ただ私、子供の頃から、高いところが怖くて・・・・・・」
スーパーガールとして活躍するためには、高速飛行による移動が欠かせない。高所恐怖症は、玉青に取って最大の障壁だったのである。
「でも今日、社の屋上で、渚砂ちゃんに手を握ってもらえて。あれで、勇気が沸きましたわ。あの後、取材に行った先で、
サングラスを買いに行ったんです。そしたら、急に“飛行機を落とす”っていうメッセージが来たでしょう? 驚きましたわ・・・・・・」
「うん、ビックリしたよー。でも玉青ちゃんのオカゲで、私は助けられたね。ドレスは破かれちゃったけど・・・・・・」
体のアチコチを露出した格好で、渚砂は苦笑いしている。
「ごめんなさい・・・・・・もっと早く行ければ良かったんですけど・・・・・・どのサングラスを買おうか迷ってしまって」
「ふぇ! 時間が掛かったのはソコなの!?」
「ええ。やっぱりデビュー時のイメージって大切でしょう? 最初に失敗したんじゃ、後々までトラウマに成りかねませんし・・・」
「あ、それ分かるよぉ。私も最初のテレビ取材で本名、言っちゃったしね。おまけに弱点まで悟られちゃった・・・・・・」
何だかアイドル同士の、楽屋での会話のようだ。
「あと正直に言いますけど・・・・・・私、あの施設の上空に、割と早く着いたんです。超感覚で、渚砂ちゃんが中にいる様子は分かりました」
「あ、そうだったんだ」
「そしたら、渚砂ちゃんが、愛について語ってるのが聞こえて。・・・・・・カッコ良かったですわぁ! 生で名セリフが聞けて感激でした」
何とも呑気な話である。
「あ・・・・・・あの時は怒っちゃって、自分でも何を言ったか、良く覚えてないよ・・・・・・」
「私は覚えてますよ。後で、その事に付いても話しましょう。・・・・・・それで、透視能力で中を見たら、渚砂ちゃんが倒れて。
あの黒いドレスの女が、渚砂ちゃんを苛めて、ドレスを引き裂くじゃないですか・・・・・・興奮しましたわぁ」
「ちょっとちょっと玉青ちゃん!?」
「あ、いえいえ。とにかく興奮しつつも怒りも湧き上がった私は、施設に飛び込んだ次第です。渚砂ちゃんの美しさが、
私の決断を鈍らせたんですわ。だって、渚砂ちゃんの毅然とした姿も、陵辱された姿も、お美しいんですもの・・・・・・」
うっとりとした様子で、玉青は感想を述べていた。
「そ・・・・・・そう・・・なの?」
渚砂は渚砂で、顔が赤くなっている。ここは怒っても良い場面なのだが。


「・・・・・・あ、そう言えばさ。あの緑色の光線、何で玉青ちゃんは平気だったの?」
「だって渚砂ちゃんとは、生まれた惑星が違いますもの。私の故郷は、M78星雲にあるんです。あの緑の石は、私には効きません」
「・・・・・・いいの? その設定・・・・・・」
気にしたら負けである。
「あ。あと、お昼休みの時だけど、何かメモしてたでしょ? あれに付いても教えてよー」
「ああ。あれは編集長に仕事を頼まれたんです・・・・・・その事に付いて、これから相談したいんですが・・・・・・」

それから、しばらく経った、ある日の事。
「ほら渚砂、コーヒー持ってきなさい。まったくドンくさい娘ね」
「ううぅ・・・・・・へんしゅーちょーが、苛めるよぉー・・・・・・」
ストロベリー新聞社の編集部では、今日も深雪編集長によるイビリが行なわれていた。
「今日も機嫌悪いわね、編集長」
「奥さんがスーパーガールに夢中らしいのよ。『本当の愛を見つけたわ』とか言って、部屋中に写真を貼ってるんですって」
噂好きの社員たちは、今日もゴシップ話に花を咲かせる。
「はいソコ! 人の傷口いじらない! あんまり言ってると泣くわよ!? 私が泣いたら凄いわよ!!?」
涙目で深雪編集長は、部下たちを睨み付けた。
「・・・・・・まったく、貴女たちも玉青さんを見習いなさい。私も、こんなに彼女が有能だなんて、知らなかったわ」
そう言うと深雪編集長は、玉青から渡されたばかりの原稿を見つめる。
記事の内容は、玉青による、スーパーガール・ナギサとの独占インタビューだった。

昼休み。渚砂と玉青は、社の屋上にいた。
「上手くいきましたね。あの時の、渚砂ちゃんの愛についてのスピーチを中心に、インタビュー形式で記事が書けました」
満足そうに玉青が微笑んでいる。
「でも、いいのかなぁ。2人で打ち合わせして記事を書いて。これってヤラセじゃない?」
「いいんですよ。重要なのは、スーパーガールの言葉を世界に発信できるって事です。絶大な反響があると思います」
そう言われても、渚砂はピンと来てないようだ。だが玉青には確信があった。
「渚砂ちゃんには、編集長も言ってましたけど、純朴な精神があります。その精神から生まれる真っ直ぐな言葉は、
大勢の心に響くはずですわ・・・・・・皆が失った、キラキラした心の輝きを、渚砂ちゃんの言葉は取り戻させてくれるんです」
「私には、良く分からないけど・・・・・・玉青ちゃんが、そう言ってくれるのは嬉しいな」
「渚砂ちゃんなら、心で記事を書ける、いい記者に成れますよ。私が保証します」
「無理だよぉ・・・・・・雑用しか、させてもらってないもん・・・・・・」
落ち込む渚砂に、しかし玉青は言った。
「大丈夫ですよ。次は渚砂ちゃんが、スーパーガール2号の私との、独占インタビュー記事を書けば良いんです。
今の私は、スーパーガール専門の記者として、自由に時間を使える特権を持ってます。渚砂ちゃんも、雑用から逃げられますよ」
「・・・・・・いいのぉ、ソレ!?」
「いいんですよ。渚砂ちゃんは、これまでの扱いが酷すぎたんです。これくらいの事、バチは当たりません。
あ、故郷の星の名と、タマオって名前は書かないでくださいね。特に星の名は、弱点に繋がりますから」

その時、2人の超感覚は、ある銀行が強盗に襲撃されたことに気付いた。銃声も聞こえる。
「事件ですわね、渚砂ちゃん」
スチャッ、と玉青はサングラスを着用する。
「うん。でも、この世に悪の栄えた試し無し!」
渚砂は、玉青と手を繋いだ。“こうやって飛ぶと安心できるから”という、玉青からのリクエストだった。
「あの夜々って人が、何で負けたのか、私知ってるよ。敗因は、とってもシンプルな1つの理由」
歌うように渚砂は、玉青に語りかける。
「“あの人には、素敵な友達が居なかったから”」
渚砂と玉青は、互いに目と目を合わせて微笑んだ。
「テイク・オフ!!!」
一瞬で、赤と青のドレスに着替えた2人のスーパーガールは、平和を守るべく今日も空へと飛び立った。

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