ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(4-306)


3月上旬。
2月の厳しい寒さが和らいで、暖かくなって、春が来る。
…と言っても、雨の降るこんな日は、3月と言えど寒く感じてしまう。
こんな日は、心身ともに暖かくなりたい、と思うのは自然な事…だよね?



「夜々先輩」

手に持っているコップから目線を私にずらして。
…何だかんだで一緒に居るからだろうか、夜々先輩の目は決して優しく恋人を見る目ではなく、鬱陶しいモノを見る目だと分かってしまう。
嬉しいような、悲しいような。
複雑な気持ちになりながらも、1つため息。
文句は言わないんで、ため息くらい許してくださいよ?
目を合わせようと顔を上げると、夜々先輩はもう目線を、温かいレモンティーが入っているコップに落としていた。

…ちょっ…

「夜々先輩」
「……何よ」

何でそんなに不機嫌なんですか…

「ちょっと来て下さい」
「めんどくさい」
「ホラ、月が綺麗ですよ?」
「……はぁ?」

アンタ馬鹿じゃない?とか
ドコに目付けてるの?とか散々言いながら、夜々先輩はベッドの上から、窓の近くに座る私の隣に座ってくれた。

「あのねぇ、今雨降ってるんだから月なんか見える訳…」
「あぁー私の勘違いだったみたいですねー」
「…アンタね…―…ッ」


夜々先輩はいつもクールな顔してるから、こんな顔あんまり見ないなって思うくらい、驚いた顔をしていた。

…ちょっと手、握っただけなんですけどね。


「…蕾?」

勘が無駄に良い夜々先輩なら、気付くかなって思ったんだけど、表情を見る限り、まだ気付いてないみたい。

「月なんて、見えませんでした」
「…は?」
「口実です」
「………あ、あー…」

雨が降るこんな夜に、お月様なんて見えませんよ。
隣に、傍に居て欲しかっただけの口実なんです。

「最初から素直に言いなさいよ…」
「……素直に言えば、来てくれました?」
「…当たり前じゃない」

いつもは流される私だけど、今日は違いますよ?
ただ、照れてる夜々先輩の横顔を、今私1人が独占してるんだって。
コレって、かなり凄いですよね?


握っていた手を一旦離し、夜々先輩の腕に自分の腕を絡めて、再度手を握る。
うん、距離が縮まって、暖かい。
その間、夜々先輩は紅茶を口に運びつつ、くっついた部分に目を向けていた。


「…寒かったんで」
「体は冷たくないみたいだけど?」
「う……こ、心が…………って、何言わせるんですか」

むぅ。
もう夜々先輩のペースか。
ちょっと悔しいけど、こうなったら逆転は難しい。
当の夜々先輩は何かニヤニヤしてるし。


…まぁ、いっか。
傍に居てくれてるんだし。


暫く真っ暗の景色を2人で眺めて。
変わらない景色から夜々先輩に目を向けると、夜々先輩もすぐにこっちを見てくれた。
…それだけで嬉しくなる、私って単純?

「…誘ってる、のよね?」
「……あの、言ってる意味が…」
「キスして欲しいって顔してる。いただきまーす」
「ちょ、あのッ…―ッ」


寒い日は人肌恋しくなるって言うけど、夜々先輩も例外じゃ無かったって。
キスする直前、夜々先輩の顔見て気付いた。
…誰でも良いって、訳じゃないんですよね?

夜々先輩は私が誘ってる、って言ったけど。
それが反対になるのは、時間の問題だったんじゃないのかな。
そんな事をボンヤリ考えながら、暖かい背中に手を回した。


…何か大事な事忘れてる気がするけど。




END


【おまけ】

「…完全に私と玉青ちゃん空気だよね…」
「ここで2人を止めれば、俗に言う『KY』ですわ、渚砂ちゃん」
「……でも2人とも、何だか幸せそう」
「えぇ、そうですね」
「ね、玉青ちゃん。私も何だか寒いなぁ」
「それは大変ですね。すぐに温かいミルクティーでも淹れ」
「…玉青ちゃん」
「―ッな、渚砂ちゃん…?」
「……キスして、くれないの?」
「―〜ッ…!!」

「だぁい好きだよ?玉青ちゃん」
「…私もです。渚砂ちゃん」



END

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