ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(3-265)


鞠子谷愛子が恭しく差し出したファイルの表紙を読んだ瞬間、六条深雪の脳裏に閃光が走った。
もはやミアトルの勝利は絶望的と思われたエトワール選の、逆転の切り札が目の前にある。
「良くやったわ」
労いの言葉もそこそこに、深雪が興奮に震える手をファイルへ伸ばそうとすると
それまで跪いていた愛子がヒョイと立ち上がり、深雪の手の届かない高さへファイルを掲げた。
「……何のつもり?」
苛立ちを隠しきれない深雪が詰め寄ると、いつもの無表情に戻った愛子が淡々と尋ねた。
「深雪様はこのファイルを読んで、どうなさるおつもりですか?」
「しれたこと。今やミアトルにとって最大の障害となった草薙真箏の隙を見つけるのよ。
 エトワール最終選での勝利の可能性を示して、静馬様にやる気を出していただくわ」
「それはミアトルのために?」
「勿論よ」
「嘘ですわ」
「……!」
ピシャリと否定されて、深雪は怯んだ。
「プリンス天音が勝利すると誰もが諦めていた今年のエトワール選に逆転勝利をもたらして、
 その功績で稀代の生徒会長としての名声と再任への足がかりを得る。
 深雪様が求めているのは、ご自身の地位の安泰ではないのですか」
「…………ふふっ」
短い沈黙を経て、深雪は半ば演技、半ば本気で微笑ってみせた。
ここまで見透かされているのであれば、もはや隠し立てや言い繕いは無駄なことと深雪は悟った。
「いつも地味な仕事ばかり黙々とこなして、何を考えているか解らない子と思っていたけれど……。
 私のこと、よくわかっているのね」
「それでは、やはり?」
「そうよ! 何があっても私は会長職を全うしたい。そのためなら手段は選ばないわ!
 静馬様を引きずり出すのも、何も知らない編入生の立場を悪くするのも、
 伝説のエトワールの過去を暴こうとするのも、全て私自身の為よ。悪い!?」
「悪くありません」
興奮してまくし立てる深雪とは対照的に、愛子はただ静かに応じる。
利己心を非難されることを覚悟していた深雪には、そんな愛子の反応が意外に思えた。
「ただ、深雪様がご自分の望みを追求するように、わたくしにも望みがあります」
「何が言いたいの?」
「半日……いえ、1時間で結構です。深雪様をわたくしの自由にさせてください」
「私、を……?」
「それが叶わないのなら、このファイルは焼却炉の中で灰になります。
 草薙雅姫様の伝説は美しいまま語り継がれ、彼女の血を分ける草薙真箏がエトワール位を得る。
 そうなった暁には、アストラエラの覇権はミアトルからスピカへ移ることは明らか。
 ミアトルの凋落を始めさせた不名誉な生徒会長として、あなたの名は記録されることになるでしょう」
「…………恐れ入ったわ。この私を脅迫するとはね」
「脅迫ではありません。……そう、褒美を与えるとお考え下さい」
「言葉を換えても、同じことよ」
答えながら、『物の怪を操る六条院の姫君』という自らの異名を深雪は思い出した。
(他人を利用することばかり考えて、自分の足下を掬われるとはね……。それでも私……私は……!)
短いも激しい葛藤の末、深雪は結論を出した。
「……好きになさい」
絞り出すような深雪の返答を受けて、愛子のポーカーフェイスが僅かに緩む。
折良く室内のクラシカルな壁掛け時計がボォンと音を立てた。
次に時計が鳴るまで自由が失われることを、深雪は覚悟しなければならなかった。

ミアトル生徒会室は異常事態にあった。
開放しておくはずの入口ドアに鍵がかけられている異常。
まだ外は明るいのに隙間無くカーテンが閉められている異常。
そして、自分のそれより高い位置にあるはずの愛子の頭が、視線を下げた先にあるのも深雪にとっての異常だった。
生まれたままの姿になって椅子に浅く座るように要求された深雪は、言われるままにして愛用の椅子に腰掛ける。
幾度も身を預けた革張りの椅子から、ひんやりとした感覚を背中と尻に伝えられて深雪は身震いした。
普段は背筋を伸ばして座っているこの椅子で、今は、跪く愛子の鼻先に秘所を突きつける格好を取っている。
姿勢のだらしなさによるものではない羞恥心で、頬が紅く染まっていくことを深雪には止めようがなかった。
「流石は深雪様。こちらのお手入れも怠りありませんわ」
本心から感嘆した様子の愛子はフーッと息を吹きかけて、深雪の整えられた浅い茂みを軽くそよがせる。
「んっ……。息……吹きかけないでっ……」
「失礼しましたわ」
上目遣いで言葉を送る愛子の顔が、誰にも触れさせたことのない秘所に近づくにつれ、深雪の中で緊張が高まる。
「参ります。深雪様……」
愛子の舌先で秘裂に触れられて、深雪は肘掛けに乗せた両手をギュッと握った。
チョンチョンと表面をつついていた舌先が、続いてチロチロと秘裂をなぞり始める。
「あっ……」
深雪が反射的に両脚を閉じようとする度に、愛子の両腕がそれを押し広げる。
身の置き場がないと言った態の深雪には、股間に埋められた愛子の頭頂部を見つめることと
下半身から染み渡っていく甘い痺れを受け入れることの他には何もできなかった。
唾液を絡ませた舌先で剥き出しにされた花芯をこねくり回されると、
快楽に不慣れな身体が溶け落ちるような錯覚に、深雪は陥りそうになる。
それでも深雪は、言われるままに身体を開いて快楽に流されることは、
生徒会長としての矜持が許さないと思った。
「う……。くっ……」
「感じているのを我慢していらっしゃるのですか?」
蹂躙する舌の動きを止めて、愛子が深雪に尋ねる。
絶え間なく送られ続ける快楽からいったん解放されて、深雪は大きく息を吐いた。
「ハアッ……ハアッ……。休んで……いい……の? 1時間なんて、あっという間……よ」
余裕を示そうと強がる深雪に、身を離した愛子は立ち上がって悲しそうな目を向ける。
身長がもたらすものではない奇妙な迫力に、深雪は内心で怯んだ。
「肉の悦びですら、深雪様の心を開くことはできない……。わたくしは……無力です」
「……?」
「深雪様は強いお人。だけど、悲しいお人……あなたは誰にも本心を明かさない。素顔を見せない」
愛子の視線から深雪は顔を背けた。
「拒絶されるのが恐いのですか? ……だからあなたは、静馬様に憧れていながら気持ちを伝えることができなかった。
 あの桜木花織さんのように、勇気を振り絞ってありのままの心をぶつけることができなかった」
「利いた風なことを言わないで! あなたに私の何がわかるというの!?」
一喝してみせたものの、それが虚勢でしかないことは深雪自身がよくわかっていた。
「一目見て、あなたは私に似ていると思いました。感情を表す術を知らない。
 他人が持った印象通りに自分を演じてみせることと引き替えに、心が守られることを選んでいる。
 だからって、本当に誰にもわかってもらえないなんて悲しすぎるではないですか……。
 喜びでも怒りでもいい。わたくしは、ありのままの深雪様を見てみたい……のに……」
愛子の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
能面のように無表情で、人形のように思っていた愛子もまた、感情を持つ人間なのだと深雪は実感した。
「あなたでも、泣くのね」
「泣きもします。わたくしの気持ちに気付いてくださらない深雪様を恨むことも、
 自由奔放に深雪様を振り回す静馬様を妬むこともします」
そこまで言って、愛子は懐から取り出したハンカチで瞼と頬を拭った。
「それでも……。好きな人の前では、できるだけ笑っていたい」
そう言って笑顔を作ろうとする愛子の手を取って、深雪は愛子の身体を引き寄せると自らの胸に顔を埋めさせた。
「あなたの流儀では、泣きたいときには泣く……。そうでしょう?」
震える肩を抱く深雪は、愛子に対してこれまでとは異なる感情が胸の奥に芽生えるのを感じた。

「ずっと……好きでした深雪様。わたくしの憧れの御方」
愛撫を再開させた愛子は、深雪の身体のそこかしこに口づけの雨を降らせる。
目の前でさらさらと流れる愛子の長い髪を美しいと思った深雪は、何気なくその一房を手に取ってみた。
「きゃぁっ!?」
乳房に口づけしていた愛子がビクリと身体を跳ねさせたので、深雪の方が却って驚いてしまった。
「ど、どうしたというの?」
「深雪様が突然わたくしを愛撫なさるから、その、ゾクゾクと……」
「髪なんかで感じるはずないじゃない」
深雪が反論すると、愛子は拗ねたように鼻をスンと鳴らした。
「そんなことはありません。愛する御方に触れられれば、どこだって……」
(それなら、私が今、感じているのも……)
深雪はそう口にしそうになって、止めた。
無口になった深雪が愛撫の再開を望んでいると解釈した愛子は、指と舌先で深雪の身体が織り成す曲線を丹念になぞる。
そして、心の中での抵抗を止めたときから、愛子に触れられた箇所の肌が一際高い熱を帯びているように深雪は感じていた。
「深雪様、こんなに溢れさせて……。嬉しい……」
秘所から溢れる蜜を一掬いして、テラテラと輝く指先を示してみせると深雪が頬をカアッと紅潮させる。
「そ、そんなもの見せないで!」
「そんなものだなんて……。悦びの証ですのに」
憮然として呟く愛子が秘所に顔を埋め、トロトロに蕩けた果肉に唇を押しつける。
「きゃうっ!」
深雪を味わい尽くすことに夢中になった愛子の唇がちゅっちゅっと音を立てて蜜を吸い上げ、舌先は固くなった花芯を転がす。
「素敵です、深雪様。根本のくびれまでわかるくらい、ピンとさせて……」
「やぁっ……! い、言わないでぇっ……!」
哀願しながらも、指先まで染み渡る快感の激しさに深雪は今にも意識を飛ばしそうになる。
羞恥のあまり面を覆っていた深雪は、ふと愛子の唇が秘所から離れるのを怪訝に思った。
(どうしてやめるの?)
そう言おうとした瞬間、愛子の細い指先が深雪の秘裂を割って中を掻き回した。
「ひっ!」
粘質から硬質にスイッチした快感に深雪が悶えると、愛子が耳元に口を寄せてそっと囁きを送る。
「キスをしながらだと、より高く達することができますわ」
「こ、これ以上……乱れたら……ダメ! おかしくなるっ……」
「お忘れになっては困ります。まだ、深雪様はわたくしのものなのです。拒否は許しません」
ゆっくりと顔を近づける愛子が親指の腹で花芯を押すようにして、内と外から深雪に刺激を加える。
「あっ! いっ……んむっ……」
唇を塞がれた深雪は悲鳴をあげることができなくなった。
舌と舌を絡ませる甘美な感覚に浸りながら、愛子は心の中で深雪にメッセージを送った。
(深雪様……。あなたの偽り無い表情を、わたくしに見せてくださいませ)
花芯をキュッと捻り挙げると、深雪はビクビクっと身をわななかせた。
「んんんーーっっ!」
声にならない悲鳴を上げて果てた深雪の唇から、愛子は名残を惜しみつつ自らのそれを離す。
「はあっ……はあっ……」
肩で息をしつつも恍惚とした表情を浮かべる深雪を見て、愛子の心中に満足感と寂寥感が生まれる。
愛子がふと時計を見ると、約束の時間までまだわずかに残りがあった。
「あと6分間、深雪様はわたくしのものです」
「わ……私にどうしろというの」
「そうですね……。じっとしていて下さい」
そう言うと愛子は、揃えさせた深雪の膝の上にころんと頭を乗せた。
(これで……。もう、わたくし……)
頬に伝わる深雪の温もりを感じながら、愛子は瞳を閉じて、書記に就任してから今日までのことを回想した。
回想の中のどんな場面にも、愛子の視線の先には深雪の姿があった。

時計の鳴る音が室内に響く中、愛子は静かに深雪から身を離した。
深雪が衣服を整える間に愛子が簡単な掃除をし、室内の様子を1時間前に戻す。
椅子にかけ直す深雪のタイミングを見計らって、側に跪いた愛子が再び恭しくファイルを差し出した。
無言でそれを受け取った深雪はファイルの中身に一通り目を通すと、溜息を一つ吐く。
「苦い策になりそうだわ」
己の考案ながら、実施されれば草薙姉妹のプライバシーを多分に踏みにじるであろう策に深雪は顔を歪めた。
「それでも、今はこれに頼るしかないわね。……静馬様のところへ行くから、あなた、供をしなさい」
深雪が普段と変わらない調子で命令を下したので、愛子は驚きを隠せなかった。
「あんな事をしたわたくしが、まだ深雪様のお側にいていいのですか!?」
「あら。あなた、生徒会を辞める気でいたの? 私は力の限り会長職を全うしようと思っているのに」
「それは、その……」
「……私は生徒会長であり続けたい気持ちを、なりふり構わず静馬様にぶつける。
 スピカ生徒会長にも、ル・リム生徒会長にも。心の赴くままに」
そういう深雪の瞳に、強い意志の光が宿っていることに愛子は気付いた。
「だから、あなたは私の一番近くでそれを見届けなさい」
「一番近くとは……どういうことですか?」
「考えればわかるでしょう。返事は?」
「はい。わたくしの深雪様!」
満面に微笑みをたたえた愛子は、これまでになく眩しい存在として深雪の瞳に映った。
(私も、こんな風に笑えるのかしらね)
深雪は内心で独りごちつつも、口をついたのは別の言葉だった。
「話の途中で静馬様に逃げられないようにしないといけないわ。あなたも手を貸して頂戴」
「もちろんです。深雪様のためなら、なんなりと」
「その言葉、覚えておくわ。行くわよ」
深雪が差し伸べた手を、愛子はごく自然に握り返した。
二人は並んで、生徒会室を後にした。
(了)

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