ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(2-235)


私はホームに立っていた
誰もいない無人駅に一人で立っていた
もうすぐ来る電車に思いを馳せていると携帯の着信音が鳴った
登録していた着信音で表示される名前は予測できていた
ぱっと開いて着信ボタンを押して通話を開始する
『もしもし、夜々ちゃん?』
「どうしたの光莉?」
2週間ぶりに聞いた声に夜々上ずった声が出てしまう
でもばれたっていい、そんな気がした

『あのさ、電車の時間間違えちゃったみたいなんだ。1時間くらい遅れるかも』
「そう?まぁ気をつけてね」
『もしかして待っててくれてた?』
「いいのよ。そんなこと」
『やっぱり待っててくれたんだ……本当にごめんね』
「だから、いいの。私が好きでやってるんだから」
こうして電話で話せただけでも嬉しい
それにもし、来るまで1日かかって私は待つ
それが光莉なら

プツン、ピーピーピーピーピー
急に通話が切れた
きっとトンネルに入ったのだろう
耳に残る電車のガタン、ガタンという音が寂しげに感じた

5分後には来るはずだった電車の次は1時間13分後
もしかしたら換えられていないのかもしれない紙製の時刻表
待つ時間と一枚の紙は妙に私に似合っている気がした
まるで心の中を写したように

キーーッ、というブレーキ音に反応するも彼女は降りてこない
木製のベンチに座りながらやけに煩く聞こえるミンミンゼミの声に耳を傾ける
その耳にはザッザッとすなとアスファルトの擦れる音がする
珍しいな、と思いながらも振り向く事はしない
待ち人は来ず
来るのは1時間後だ

「夜々ちゃん……」
振り向く事もかなわず首に手を回される
背もたれのないベンチでよかった
たくさん触れる事ができて
「待ったかな?」
「ううん、じゃあ……」
「行こっか」
言い終わる前に遮られ手を繋がれる
私は立って、歩いていく
恋人つなぎの彼女を連れて
二人で体温を共有しながら


別荘までの500mの道
繋いだ手は離したくないのにもじもじとした光莉が気になってしまう
繋いだ右手を見たり、その右手をぐらぐらと動かしてみたり
でも、私が見ると前に向き直ってしまう

別に恥ずかしいことではない
誰もいないし、もちろん誰も見ていない
ストーカーがいれば別……だったら私がそいつを倒してやる
きっと倒せる

避暑地といっても照りつける太陽に、ふと気付く
例え海風があっても密閉された空間には風は来ない
触れているのは手ではなく汗同士だった

なんとなく自分でもとてもいやらしい表現に思えたけど、それならそれでいい
心の声が口から出たら問題だろうけど……
きっと顔を真っ赤にして怒るに違いない
……それはそれでいいか

少なくとも私は気にしない
光莉は気になるのかもしれない
でも、私は気にしない
嬉しいくらい、といったら少し違うかもしれないけど

「光莉、私は気にならないわよ」
「ふぇ、な、何が?」
「あ・せ」
「私だって気に……ならないよ」
「でも……」
「夜々ちゃんが平気なら、私もいいもん」

嬉しいことを言ってくれる
今の光莉はきっと夏のヒマワリよりもずっと輝いている
きっとヒマワリは月見草で光莉がヒマワリだ
……自分でもわけが分からない
とりあえず白い肌に白いワンピースは似合いすぎだ
鼻血で紅く染めないようにしよう

光莉の重い荷物に腕が痺れ始めた頃にやっと別荘へとついた
誰もいない、二人だけの別荘
幽霊でも出てきそうなシチュエーションに期待しながら鍵をさす
カチャ、と小気味よい音にいかにもドアといった感じがする

「夜々ちゃん、お化けとかいないよね」
「そんなのいるわけないわ」
そう応えてみたものの恐怖に怯える光莉を見たいと思うのは変態的なのかもしれない
それでいて、怖がらせることもしたくなかった

「誰も……いないのかな?」
静かな洋館を見渡しながらきいてくる
「そうね、二人だけよ」
「でも、こういうところって執事さんとかメイドさんとかいるんじゃない?」
「あ、ああ、今実家に帰っているのよ。夏だし」
「そっかぁ。そうだよね」
……納得するんだ

別荘に来るのは長期の休みが取れたときだろうに夏休みにいなければ意味がない
そもそもこの別荘には執事なんていない
双子のメイドがいるだけ
そのメイドだって夏と冬以外は仕事もせずにただここに住んでいるだけだ
でも実際、その二人には帰ってもらっている
せっかくの光莉との時間を邪魔されたくない
いても二人でよろしくやっているだろうが、人見知りしそうな光莉のことだ
それに、二人だけというのは緊迫感があって中々……かなりいい

……
…………
………………
我慢していたのに!
抑制できそうもない自分の欲望をどうにかしようと思っていたのに
確かにこれまでもかなり際どい……いや、アウトっぽいこともしてきたけど
何かあったらいいな、と期待もしていたけど
誘っているの、光莉?
誘っているんだね、光莉!
……止めておこう

「どうする?このあと」
「う〜ん、近くに海があったよね?」
「ええ、10分くらい歩いたところにあるわ」
「じゃあ、泳ぎに行こう!」
「そうね」

この暑い日中に海に行くのもどうかと思うが、光の水着姿は見たい
いや、見なければならないんだ!
……って私はあの某青い先輩か
それより酷い……同類か

「あぁーっ」
ふと、耳に入る叫び声
「夜々ちゃーん」
「どうかしたの?」
「水着忘れちゃった」
ああ、どんな水着を買おう……


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