帝国の竜神様閑話04
世の中、仮にも人間社会に席を置く以上、金と食い物だけで生きていけないという事は人間ならば分かっていると思う。
この話は、不意に日本帝国という破綻寸前の貧乏国家に何の因果かやってきてしまった黒長耳族の娘さん達の地位と名誉をめぐる実に日本人的な話である。
黒長耳族の娘さん達は竜の召還という不意にやってきたというのにもかかわらず、この貧乏帝国に実に良く尽くした。
彼女達は、彼女達が元々住んでいた世界で迫害されており、迫害されずに山野に安住できるという一点だけで、この国に忠誠を誓ってくれたのだ。
彼女達は、最初に召還された数が千人にも満たないのにかかわらず実に良く働いた。
魔法を使い森を豊かにし、石人形を使って開発をし、夜になったら殿方の奉仕までした。
ここまで尽くしてくれる女がいるのならば、誰だって彼女達を然るべき地位につけ同じ日本の国に住む同胞として迎えるという気にもなろう。
帝国政府は新聞や映画、講談師から漫画まで使って彼女達との友好をうたった。
特に映画では、その気になれば彼女達は変化の魔法を使って純粋な日本人にもなれるのに、妖艶な和服美人から最後に魔法を解き「本当の私達の姿でこの国に住みたい」という長耳族の歌姫ダーナの美貌に見とれる男性が殺到。
夫婦喧嘩の種にもなるという人気ぶりに帝国政府は彼女たちの移住受け入れと保護に自信を深めてゆく。
だが、彼女達には実は重大な問題があった。
彼女達長耳族と彼女達を召還した竜の撫子を含めて全員が女であるという問題が。
ここから帝国政府の右往左往が始まった。
撫子についてはあっさりと片がついた。
何しろ竜なのだ。神様という事で決着した。下手に地位なんぞ与えて「わらわを人間の地位まで貶めるのか!!」なんて怒られて雷を落とされたらたまったものではない。
問題は長耳族の娘さん達だ。
こまった事に全員が女。
日本の貴族階級は基本的に男性家督相続である。
婿養子みたいな形で家を興した場合その婿側の家の影響力を排除できない。
彼女達、特に長耳族内部の序列の関係からも指導者階級を早急に国家内部に取り組まなければならないのだが、そのシステムが無かった。
更に、黒長耳族内部の特殊問題も露呈した。
「何で、2600年も続く帝国なのに、そんなつい最近できた爵位で私達を列するというのですか!!!」
銀幕の中では決して見せない黒長耳族大長(サキュバス)ダーナの激昂を政府関係者はまったく理解できなかった。
彼女達黒長耳族は無駄に寿命が長い。
老いがないので、死ぬまで望むならほぼ永遠に生きるこの一族にとって、ほんの半世紀前にできた華族制度なんぞ侮辱の一言だったのだろう。
かくして頭を抱えた帝国政府だが、伊達に自称2600年と名乗るだけあって探せばそれなりの回答が出てくるのもこの国だったりする。
宮内省が出してきた位階制度がそれである。
特に、「位階令」(大正15年勅令第325号)の「国家ニ勲功アリ又ハ表彰スヘキ功績アル者」を使い、国籍を与えた上宮中において変化魔法で日本人に化ける事で、外国人を叙位することはない例外から除外させた。
これの優れた点は、改定前の「叙位条例」(明治20年勅令第10号)に制定された「位は従四位以上は華族に準じた礼遇を享ける」という記述を使う事で彼女達を華族階級に取り込むという点だった。
(従一位は公爵、正二位は侯爵、正従三位は伯爵、正従四位は男爵に準じた)
これにより、長耳族大長であるメイヴとダーナに従三位が与えられた。
更に、彼女達の魔法について内務省が「神祇院を使ったら」と持ちかけてきた。
皇紀二千六百年記念に際して神社局に代わって作ったはいいが、社寺局で事が足りて使い道が無く困っていた所だった事もあり、彼女達の公的身分保障と魔法管理をする事となった。
従三位 神祇院 知官事 ダーナ (銀幕更衣)
従三位 神祇院 副知事 メイヴ (富士御前)
これが宮内省と内務省の政治的策術によって強引に作りあげられた彼女達の公的身分となる。
さて、気付いたと思うが、ダーナとメイヴの後ろに()があるが、これは何かというと日本人に化けた時の二人の名前だったりする。
御前や更衣の文字にピンと来た人は鋭い。
彼女達の夜の奉仕が華族の更に上まで及んでいた証拠でもある。
この騒動において軍は何も関与できない、いやする能力が無かった。
その後に彼女達が子供を生んで、枢密院顧問官に就任した時も勢力衰えた枢密院に何ができると気にもしなかった。
宮内省・内務省・枢密院が繋がる、しかも大漁の政府要人の色事情報を持つ神祇院がこれに一枚噛む事の意味を軍は最後まで理解し得なかった。
後に帝国を震撼させたクーデター未遂とその後始末において、軍の打つ手が後手後手に回り軍内部の大粛清と文民統制回復のきっかけとなり、冷戦後帝国神祇院が世界に轟く情報機関に変貌する事になるとは誰も思っていなかった。
更に彼女達の華族階級デビューが女性の社会進出運動を激烈に刺激し、軍や政府内部に女性の登用を認めさせるきっかけとなるなんて誰も考えていなかった。
おまけ
「博之〜♪
メイヴから聞いたのじゃが、この国には神様にも官位があるらしいの。
わらわはどのあたりに位置づけられておるのかのぉ?」
と撫子の意地悪な質問が宮内省と内務省に右往左往される大騒動を引き起こしたのはまた別の話。
帝国の竜神様 閑話04
この話は、不意に日本帝国という破綻寸前の貧乏国家に何の因果かやってきてしまった黒長耳族の娘さん達の地位と名誉をめぐる実に日本人的な話である。
黒長耳族の娘さん達は竜の召還という不意にやってきたというのにもかかわらず、この貧乏帝国に実に良く尽くした。
彼女達は、彼女達が元々住んでいた世界で迫害されており、迫害されずに山野に安住できるという一点だけで、この国に忠誠を誓ってくれたのだ。
彼女達は、最初に召還された数が千人にも満たないのにかかわらず実に良く働いた。
魔法を使い森を豊かにし、石人形を使って開発をし、夜になったら殿方の奉仕までした。
ここまで尽くしてくれる女がいるのならば、誰だって彼女達を然るべき地位につけ同じ日本の国に住む同胞として迎えるという気にもなろう。
帝国政府は新聞や映画、講談師から漫画まで使って彼女達との友好をうたった。
特に映画では、その気になれば彼女達は変化の魔法を使って純粋な日本人にもなれるのに、妖艶な和服美人から最後に魔法を解き「本当の私達の姿でこの国に住みたい」という長耳族の歌姫ダーナの美貌に見とれる男性が殺到。
夫婦喧嘩の種にもなるという人気ぶりに帝国政府は彼女たちの移住受け入れと保護に自信を深めてゆく。
だが、彼女達には実は重大な問題があった。
彼女達長耳族と彼女達を召還した竜の撫子を含めて全員が女であるという問題が。
ここから帝国政府の右往左往が始まった。
撫子についてはあっさりと片がついた。
何しろ竜なのだ。神様という事で決着した。下手に地位なんぞ与えて「わらわを人間の地位まで貶めるのか!!」なんて怒られて雷を落とされたらたまったものではない。
問題は長耳族の娘さん達だ。
こまった事に全員が女。
日本の貴族階級は基本的に男性家督相続である。
婿養子みたいな形で家を興した場合その婿側の家の影響力を排除できない。
彼女達、特に長耳族内部の序列の関係からも指導者階級を早急に国家内部に取り組まなければならないのだが、そのシステムが無かった。
更に、黒長耳族内部の特殊問題も露呈した。
「何で、2600年も続く帝国なのに、そんなつい最近できた爵位で私達を列するというのですか!!!」
銀幕の中では決して見せない黒長耳族大長(サキュバス)ダーナの激昂を政府関係者はまったく理解できなかった。
彼女達黒長耳族は無駄に寿命が長い。
老いがないので、死ぬまで望むならほぼ永遠に生きるこの一族にとって、ほんの半世紀前にできた華族制度なんぞ侮辱の一言だったのだろう。
かくして頭を抱えた帝国政府だが、伊達に自称2600年と名乗るだけあって探せばそれなりの回答が出てくるのもこの国だったりする。
宮内省が出してきた位階制度がそれである。
特に、「位階令」(大正15年勅令第325号)の「国家ニ勲功アリ又ハ表彰スヘキ功績アル者」を使い、国籍を与えた上宮中において変化魔法で日本人に化ける事で、外国人を叙位することはない例外から除外させた。
これの優れた点は、改定前の「叙位条例」(明治20年勅令第10号)に制定された「位は従四位以上は華族に準じた礼遇を享ける」という記述を使う事で彼女達を華族階級に取り込むという点だった。
(従一位は公爵、正二位は侯爵、正従三位は伯爵、正従四位は男爵に準じた)
これにより、長耳族大長であるメイヴとダーナに従三位が与えられた。
更に、彼女達の魔法について内務省が「神祇院を使ったら」と持ちかけてきた。
皇紀二千六百年記念に際して神社局に代わって作ったはいいが、社寺局で事が足りて使い道が無く困っていた所だった事もあり、彼女達の公的身分保障と魔法管理をする事となった。
従三位 神祇院 知官事 ダーナ (銀幕更衣)
従三位 神祇院 副知事 メイヴ (富士御前)
これが宮内省と内務省の政治的策術によって強引に作りあげられた彼女達の公的身分となる。
さて、気付いたと思うが、ダーナとメイヴの後ろに()があるが、これは何かというと日本人に化けた時の二人の名前だったりする。
御前や更衣の文字にピンと来た人は鋭い。
彼女達の夜の奉仕が華族の更に上まで及んでいた証拠でもある。
この騒動において軍は何も関与できない、いやする能力が無かった。
その後に彼女達が子供を生んで、枢密院顧問官に就任した時も勢力衰えた枢密院に何ができると気にもしなかった。
宮内省・内務省・枢密院が繋がる、しかも大漁の政府要人の色事情報を持つ神祇院がこれに一枚噛む事の意味を軍は最後まで理解し得なかった。
後に帝国を震撼させたクーデター未遂とその後始末において、軍の打つ手が後手後手に回り軍内部の大粛清と文民統制回復のきっかけとなり、冷戦後帝国神祇院が世界に轟く情報機関に変貌する事になるとは誰も思っていなかった。
更に彼女達の華族階級デビューが女性の社会進出運動を激烈に刺激し、軍や政府内部に女性の登用を認めさせるきっかけとなるなんて誰も考えていなかった。
おまけ
「博之〜♪
メイヴから聞いたのじゃが、この国には神様にも官位があるらしいの。
わらわはどのあたりに位置づけられておるのかのぉ?」
と撫子の意地悪な質問が宮内省と内務省に右往左往される大騒動を引き起こしたのはまた別の話。
帝国の竜神様 閑話04
2007年03月04日(日) 17:55:14 Modified by nadesikononakanohito