〜一つの愛のカタチ〜
最終更新：ID:II5CaWyu3Q 2009年12月04日(金) 23:41:18履歴
〜一つの愛のカタチ〜
「ほら春香、もう朝よ。起きなさい」
「んにゅ･･あとごふんだけぇ〜」
まだ意識が睡魔に引きずられてる中で誰かに揺り起こされてる気分にお決まりのセリフを吐くと私、天海春香は毛布と羽毛布団を頭にスッポリと被って春の眩しい日
差しを遮る。
「そんな事言って、五分後には『もうあと五分』とか言うんでしょう？早く起きなさい」
（まだ眠い･･もっと寝てた〜い）
本能の赴くまま呼びかけてくる睡魔に引き寄せられ、だんだん意識が遠のく。
「も〜ちょっと寝かしてよおかあさぁ〜ん･･むにゃ･･」
「お、お母さんっ！？ちょっと、寝ぼけてる場合じゃないでしょ！？」
ばさぁっ。
私の愛する人、千早こと如月千早に無理矢理足元から布団と羽毛布団を一気に剥ぎ取られ、冬の冷たい空気ほどではないにしろ冷えた空気が全身の肌に当たり、身体
を丸くして身震いする。
「んひゃぁっ！寒っ！」
「もぅ、いい加減起きなさい！」
引きずられてた睡魔がばびゅんと引っ込んでっ行った拍子に意識が戻ってくると、自分が何も着けていないことに気付いて思わず大事な部分を隠す。
「んんん･･さ、寒いよぉ〜」
「そんな格好なら当然よ。目が覚めたかしら？」
重たい瞼を開けて右目をこしこしと擦って身体を起こすと辺りをキョロキョロと見回す。夕べ、真っ暗の中で抱かれた私は身に着けてた制服を脱がされ、何も着けず
に眠った事を思い出して脱ぎ捨てたはずの制服と下着を探す。
「んぁ･･･あ･･おはよぉ･･あれ？私の制服と下着は？」
「もう洗濯機の中よ。それとシーツも洗いたいから春香は部屋に行って何か着てきなさい。もし、まだ眠たいのなら、シャワーでも浴びてくるといいわ」
すでにデニムのパンツに白のＴシャツ、上には春物の薄い緑のカーディガンに着替えてる千早が私を見下ろす。私の格好に苦笑いしつつも容赦のない言い方はもしか
すると結構怒ってるのかもしれない。
「んじゃあ、さっさとシャワー浴びて着替えるから、もうちょっとだけ待っててね」
私は大事なところを隠したままベッドをぽん、と跳ねて部屋を出ると自分の部屋から適当に下着とお洋服を引き出しを開けるついでに時計を見たら７時半を少し回
っていた。
（あ、まだそんな遅いって訳でも無いじゃん･･って言うか、いつも起きる時間だし）
引き出しの中からサーモンピンクのチェック模様のハーフカップのブラとショーツを、洋服の中からピンクのキャミソールとデニムのミニスカートを取り出すと、両
手で抱えてお風呂場へと向かい、シャワーを浴びてから持ってきた下着と洋服を着てからキッチンに向かう。
「おはよっ、千早。んっ」
「ん･･お早う、お寝坊さん」
コーヒーを淹れてる千早にすっかり恒例となった朝の軽いキスをすると、手っ取り早くハムエッグとトーストにマーガリン、それとレタスとトマトのサラダを持って
リビングのテーブルに置くと千早が洗ったシーツをベランダに干すのとコーヒーを待ってから食べ始めた。
「春香、一つだけ約束事を追加してもいいかしら？」
「ん･･と、何？」
私がマーガリンを塗ってる手を止めて見上げると、千早が真顔になって私をじっと見つめる。
「夕べも話したけど、いくら休みだからと言っても気を抜いてはいけないと思うし、一応取り決めた以上は私と一緒に起きて朝食の準備もしてもらいたいの。だから、
せめて春香も６時半、遅くても７時くらいには起きて欲しいのよ」
（うあっちゃ･･この様子だとまだ怒ってるな･･）
宙月の頃からもそうだったけど千早は怒り出すとやけに説教っぽくなる事があって、その被害は私だけに留まらず、年上の今の律子さんのプロデューサーさんですら
相手にしていた。大人な考えのプロデューサーさんはやんわりと千早の説教をかわしてたし、その頃の私も頻繁に食って掛かってたけど、私だってその頃の私とは違う
し千早の弱点も知っているつもりだ。
「うん。それは解ったけどさ、千早だってたまに寝坊する事もあるでしょ？そういう時はどうするの？」
「わ、私はそんな事ありえないわ。現に今日だって６時半には起きてちゃんとシャワーを浴びたし、それに春香の分も含めて洗濯もしていたもの」
「じゃあ夜、私が頑張っちゃった時は？今までお泊りした時の千早って結構寝坊してた事もあったと思うけど･･」
「あ、そ、それは･･」
「でしょ？千早だってたまにはそういう日だってあるんだし、この先絶対なんて事はないんだもん。勿論私も私なりに頑張ってはみるけど、立場が変わったら私も容赦
しないよ？」
「くっ･･」
だんだん千早の強い口調が弱まってくる。千早は確かに自分にも相手にも厳しい態度を取る事は多いけど、些細なミスを穿り返されると途端に強く言えないところが
あってこっちが強く言い出すと返す事が出来なくなる事も多かった。
「私も千早にそんな事したくはないし、本意じゃないって事は私を千早も解ってる事でしょ？だからあまり文句を言うんじゃなく、起こす時は普通に起こしてもらいた
いなって思うわけ」
「う･･わ、解ったわ。この話はまた今度同じようなケースになってから改めて話をするとして、話題を変えましょ？」
（よしっ、これでやっと話が反れた。こうなれば暫くこの話題は持ち出さないな）
内心申し訳なく思いながらも半分ほどトロトロに溶けるマーガリンをパンに広げる。
「それで、今日の用事は引越しの業者を待つだけなの？」
「ううん。一応今日からこっちに住む事になってはいるんだし、午前中にご近所さんに挨拶周りするつもりだから千早も付き合って欲しいんだ」
「あっ、そうよね･･解ったわ。付き合ってあげる」
「で、それが終わったら、デートしない？」
「んぐっ！？で、でェと！？」
私の思わぬ発言に千早は頬張ってたパンを吐き出しそうになるのを留めて、なんとか飲み込むと声が裏返った。
「あっ、でもそんな大げさ事でもないんだけどね。ただ、ちょっと付き合って欲しいお店があるんだ」
「あ･･そ、そういう事ならちゃんと言いなさいよ･･もぅ･･」
やや隠すようにもう一口パンを頬張ってるけど、千早の顔や耳までは隠しきれてなかった。私も続けてパンを頬張り飲み込むともう一度確認する。
「はぐっ。んっ･･･で、どうする？付き合ってくれるの？」
「ええ、まぁそういうことなら付き合うけど･･どこのお店なの？」
「ホラ、前に一度ブティックに言ったでしょ？そこからちょっと歩くんだけど、あるお店にね」
「随分また思わせぶりに言うのね･･まぁいいわ。じゃあ先ずはその挨拶周りを済ませましょ」
それからは暫く無言の時間が続いて残ったパンとコーヒーを啜り、化粧水と乳液をつけてからご近所さんに挨拶をしに行った。ご近所の方々は私だって事が解っても
すぐに受け入れてくれて、時々サインなんかも求めたりもしたけど、そこはアイドルらしくちゃんと色紙やメモ帳にしてあげると凄く喜んでくれた。大まかなところの
ご近所さんの挨拶を済ませて私達は再び帰ってくると私と千早は一旦別れて部屋へと入り、自分の部屋からニット帽を持ってくると千早も眼鏡をかけて廊下に出てきた。
「春香、終わったわよ」
「うん、こっちも終わり。それで千早にお願いがあるんだけど、これ預かっててくれないかな？」
私はサイフから何枚か１万円を数枚と千円札を数枚を抜き、通帳やキャッシュカードの入ったポーチに挿し込むと千早に渡した。
「これは？」
私の意図を解ってない千早はまじまじとお金の入ったポーチを見る。
「ん〜ちょっとね。これから買いに行くお店で必要な事だから、絶対外に外に出しちゃダメだよ」
「え、ええ･･出すなって言えば絶対に出さないけど･･」
？マークを３つほど付くような感じで訝しげにポーチを見ながらアイボリーのハンドバッグに入れると私達はマンションを後にした。
「それで、その目的のお店って言うのはどこなの？いい加減に教えなさいよ」
春特有の寒空と陽光が交わる中、目的の駅に着いて改札口を出たところで千早が痺れをきらして尋ねてきた。
「うん。ぶっちゃけて言えばジュエリーショップなんだけどさ、他の事務所のコにオーダーメイドをしてくれるお店を聞いたらここの駅にあるって言っててさ、それで
前に下調べしたついでに頼んでみたんだ」
それは３ヶ月くらい前の事。私達が付き合って２年経った記念日の午前中に頼んだもので、その後もちょくちょく電話を貰っては経過や変更などを聞いたりして、よ
うやく先日完成したとの報告が来たので今日その品物を取りに行こうと決めていた。
「そうだったの･･それじゃあ行きましょう？」
一度ブティックを通り過ぎ、さらに歩いて奥まった所にあるジュエリーショップに向かう。
『いらっしゃいませ〜』
店内に入るなり店員さんが一斉に挨拶をしてきて思わずドキッとする。まだ開店して間もないし平日なのもあってお客さんが誰もいなかったから良かったものの、こ
れで注目されるとなると私もこれから来る時に困ってしまう。
「も、も申し訳ございませんっ。た、大変失礼を致しまして･･」
慌てて前と変わらないショートのボブカットをフリフリさせながら店長さんがやってくると私の目の前でペコペコ平謝りをしてくる。なんだかそれが逆に申し訳なく
思えるとさっきまでこみ上げたものが一気に下がり店長さんを止める。
「い、いえ、こっちも事前に連絡しなかったのも悪かったんですから、そこまで謝らなくていいですって。それで、出来上がったものを見せて欲しいんですけど」
「あ、は、はい。ではこちらへ･･そちらのお客様も良ければご一緒に･･」
私の隣の人物見ると店長さんは千早だって事に気付いたのか、僅かに身体を移動して奥の赤い扉の方へと促してくる。
「あ･･えっと･･その、ち･･ちょっとさ、ゆっくり店内を見ててよ。結構いいもの揃ってるから」
「ええ、そうするわ」
「という事なんで店長さん。この人の事、よろしくお願いします」
「かしこまりました。それでしたらなるべく人目に付かぬ様、他の者に伝えますので、暫くお待ちください」
店長さんは一旦離れると比較的背の高い長い髪をウェーブにかけた女の店員さんに声をかけ、二言三言会話を交わすと一緒に戻ってきた。
「ではお客様、私がご案内致しますのでどうぞこちらの方へ」
「あっ、は、はい･･よ、よろしくお願いします･･」
緊張して萎縮しちゃってる千早は促されるまま店員さんに付いて行くのを見届けて、私も店長さんに付いて行くと赤い扉の部屋へと通され、高そうなソファーに腰掛
けると店長さんがすぐに頼んでおいた商品を広げる。
「こういう感じに仕上げましたが、いかがでございましょう？」
「うわぁ〜かわいいぃ･･」
出来上がったのは銀で出来たハートの鎖が大小ランダムにいくつも連なったネックレスで、形を敢えて合わせずにバラバラになってるのがポイント。そして丁度胸元
の部分にあたる一際大きなハートにはその形に沿って小さいピンクサファイアがいくつもちりばめられていた。
「本来ならピンクサファイアの宝石は同じ大きさに並べるのが通例でして、正直私共も初めて耳にした時はいささか疑問でした。ですがこうして見ると、かなりガラリ
と雰囲気が変わりますね･･」
右手でネックレスを直に持って角度を変えると、その度に細かい宝石がアチコチからキラキラと輝きを放つ。
「うん。これならいろんな角度で見られてもキラキラ光って目立つし、テレビやステージで使っても人目を惹きそう･･。はい、これで十分満足ですっ！」
「それは何よりでした。では、前回仕上げた物とご一緒に精算させて頂きますね」
店長さんは手短にあった電卓を手繰り寄せると軽快なテンポと共にカタカタと電卓に数字を打ち込み、最後にイコールのボタンを押した所で反転して私に見せてきた。
「消費税を入れましてこの値段になるのですが･･」
「う〜ん･･端数取って貰えないですかね･･これからもまた利用したいと思ってるんで･･」
少しずつ値段を下げながら贔屓にする事をさりげなくアピールする。先輩芸能人や他のアイドルから学んだ方法だ。
「それでしたら･･この金額で？」
「あ･･ちょっと待ってください･･」
店長さんがもう一度私に電卓を見せた所で私はショルダーバッグからサイフを取り出し、お札や小銭を全部取り出す。
「えっと････今これだけしか持分ないんですよぉ･･バッグの中には化粧品とか必需品しか持ってきてないんで･･」
あえて困ったフリをしてバッグを見せて中身に通帳の類が入ってない事をアピールすると、店長もさすがに苦笑いしてくる。
「う〜ん･･解りました。それではその金額で結構ですんで申し訳ないのですが、端数も頂きたいのですが･･宜しいですか？」
「あっ、はい、それはもう。すいません･･ワガママ言ってしまって･･」
「いいえ。今後ともご贔屓に願えるのでしたらこのくらいは。では領収書を切ってくるので少々お待ち下さい」
店長さんは立ち上がると店内へと消えて行き、再び戻ってくると私に領収書と商品を渡してくれた。
「あっ、この際だから着けて帰っちゃおうかな･･鏡、あります？」
店長さんが隣のスタッフルームから置き形の鏡を持ってきてもらい、商品を渡して僅かに伸びてる後れ毛を持ち上げると私の首の辺りから手を伸ばして留め金を付け
てくれた。
「へぇ･･やっぱり見るのと付けるのとはまた違ってきますね･･これならお洋服とか選ぶのも楽しそう」
鏡を前に身体を左右に揺すってネックレスを見ると、首元にあるピンクサファイアがキラキラと光沢を放つ。
「天海様ならどのようなお洋服もお似合いでしょうし、ネックレスを中心にまとめるのも宜しいかと思いますよ？」
「そうですよね･･本当に今日は有難うございました」
「いいえ、こちらこそ。では入り口までお送り致します」
私と店長さんはその場から立ち去り、店内で物色してる千早に声をかける。
「ごめん、お待たせ」
「もう･･おそいわよ･･って、それが頼んだものなの？」
眉を下げて苦笑する千早が私の胸元に光ってるペンダントに注目して目を丸くする。
「うん、随分時間かかっちゃったけどね。おかげで納得のいく物が出来上がったよ」
「へぇ･･可愛らしいのを作ったのね････ええ、よく似合ってるわ」
「えへへ･･ありがと。じゃあ行こ。どうもお世話様でした」
「はい。次回からお電話頂ければ幸いですので。是非ともまた宜しくお願い致します」
店長さんに見送られながらお辞儀をすると宝石屋さんを後にして、お店が見えなくなった所で千早に声をかける。
「さっき預けたポーチ、もう出してもいいよ。ホント助かった。お礼にお昼は私がオゴるね」
千早の持ってたバッグから通帳や銀行のカードの入ったポーチを返してもらう。
「ええ、じゃあ返すけど･･どういう事なのか説明してよ」
「うん、実はね･･」
扉の奥でやり取りしていた事を説明すると、ようやく千早の表情に明るさが戻ってきて納得してくれた。
「なるほどね･･僅かな差の有り金を見せる事で提示された値段よりも安く買う、と。通帳を預かってくれって言われた時は何事かと思ったけど、そういう事だったの」
「うん。店長さんに『じゃあ千早から足りない分を補ってもらえ』って言われるかと思ってドキドキしてたけどね。これも取り引きするには必要なんだって聞いたんだ」
「なんだか詐欺みたいな行為に思えなくもないんだけど･･これも安く買うための秘訣って事なのね？」
「そういう事。とにかく安く買うにも客としていろいろ手を打たないとね。じゃあ次、ブティックに行こうよ。あそこもそろそろ夏物が入ってると思うし」
千早が黙ってうなずくとそのままの足で私たちはブティックへと向かい、店内に入ると私と千早の姿を見て目を丸くしても声をかけず、せいぜいすれ違う時に小声で
『いらっしゃいませ』と声をかけてくる程度だった。
（はぁ〜やっぱりこのお店だと安心するな〜）
内心宝石屋さんと比較して苦笑しながら店内の新作を物色していると、グレーのパンツスーツに白いブラウスの格好で長かった髪をバッサリと首の辺りまで切り、ソ
バージュでまとめた店長さんがニコニコしながらやってきた。
「いらっしゃいませ。天海様、如月様」
「はい、お久しぶりです、店長さん。髪、切ったんですね。凄く似合ってますよ」
「ありがとうございます、天海様。それで、今日はどういった物をお探しでしょう？」
「新作見に来たんですけど、どんなの入ってます？」
それから暫く千早を交えて店長さんと話しながら新作や値段の下がったもの聞いて回り、私と千早は何着か洋服と下着を買ってお店を出ると、電車に乗って駅の近く
のファミレスに寄ってお昼を済ませるとスーパーで買い物をしてからマンションへと戻った。
「ただいま〜っと」
マンションのエントランスを通ってエレベーターで７階に上がり、私達の家に戻るとキッチンに食材を詰め込んでからそれぞれ買って来たお洋服を仕舞ってリビング
に戻って来る頃には２時を少し回っていた。
「春香、今日も業者さん来るのよね？何時なのかしら？」
「ん〜予定じゃ３時って事にしてあるけど、確か今日はお洋服の残りとベッドとお布団が来る予定になってるよ」
「そう。それならまだ１時間ほどあるみたいだし、干した洗濯物を取り込むから手伝ってくれないかしら？それが終わったら軽くお茶でも飲んで待ってましょ」
「オーケー。じゃあ先に制服からかな？」
「そうね。シーツは後で手伝ってもらいたいから、先に制服を取り込みましょ」
「はぁ〜い」
私と千早はそれぞれの制服と下着を取り込んでから一旦自分の部屋に仕舞うと再びリビングへと戻り、取り込んだシーツを手渡されて千早の部屋のベッドに敷いてシ
ワを伸ばして終わらせると、リビングで千早の淹れてくれたコーヒーにさっき買ってきた安価なお菓子に舌鼓を打つとインターホンが鳴り、時計を見ると３時を回る直
前だった。
「あっ、来たのかな？私が出るね」
立ち上がって壁に添え付けてあるインターホン用の受話器を取ると、案の定昨日来た引越しの業者さんで千早に教わりながら自動ドアのロックを外すと暫くして玄関
のインターホンが鳴り、ドアを開けると昨日と同じ顔ぶれだった。私の部屋に入れて木製のベッドを組んでもらってから空いてるスペースに置いてマットを乗せてもら
うと、明日で最後の納品だって事と納品の時間を確認すると業者さんは帰って行った。
「さて、じゃあやりますかっ」
再び部屋に入って荷物の中身を確認しながら洋服を仕舞うと「雑貨関係」と自分で書いた段ボール箱からペンギンを模した目覚まし時計や鑑なんかを取り出し、千早
のを見て欲しくなって買ったディフォルメされた猫が本体を支えてる形のスタンドライトをベッドのヘッドボードに置く。
（あ〜これも入れてたんだったな･･とりあえず千早に聞いてみよう）
残ったお皿やマグカップの入った箱を持ってキッチンへと向かう途中、さっきまでリビングにいたはずの千早の姿が無かった。
（あ･･自分の部屋かな？）
私は再び廊下に戻って千早の部屋の扉を何度かノックをしたものの、全く反応が無かった。
「千早？入るよ？」
ちょっと重たい扉を少しだけ開けて中を覗くと、ベッドの上でリビングから移したコンポをコードを伸ばしたヘッドホンで音楽を聴いていて、私の気配を察して目線
だけこっちに向けるとリモコンを操作してから耳を覆うほどの大きなヘッドホンを耳からずらして首に引っ掛けた。
「あ、もう終わったの？」
「うん、ベッドは組んでもらってお布団も敷いたし、洋服も仕舞って終わらせたんだけど、あとはマグカップとか雑貨だからさ、どこに置いたらいいかな〜って聞こう
としたんだ」
「あ･･それなら空いてる所ならどこに置いてもいいわよ。ある程度分けてはいるけれど特に専用の棚って訳でもないから」
「うん、解った。ところで何を聞いてたの？もしかして、今度の新曲のデモだったりする？」
「いいえ、単なるクラシックよ。一応新曲のコンセプトも決まりかけているから、少し気分を落ち着かせておこうと思って。春香も聞いてみる？」
さすがに私の中の好きな音楽のジャンルにクラシックなどなく、申し訳なく首を横に振った。
「う〜ん･･悪いけどいいや。そしたら私も終わったら適当に時間潰してるから、また後でね」
「ええ。お風呂に入る時間には私もそっちへ行くようにするわ」
千早が再びヘッドホンを付けてリモコンを操作するとクラシックを聞き始めると私も扉を閉めてキッチンへと向かい、置いといたダンボールから新聞紙に包んである
食器やマグカップを取り出しては場所を確認しながら棚に置いていった。
「うんっ、こんなもんかな？」
まだまだ２人で使う分としては余裕がある、というより食器棚が大きすぎるんだけど、それでも数が増えるとやっぱり見栄えも違ってくる。千早が使ってた食器類は
比較的質素で落ち着いたものが多かったんだけど、私が持ってきたのはお菓子を載せるような可愛らしいものが多いから一緒に並べるとわりと華やかになった。
「で、時間は･･と」
キッチンからカウンター越しにベランダの方にかけてある時計を覗いて見ると、もうすぐ５時になるところだった。
「ん〜そしたらお風呂と食事の準備しちゃおうかな？いつもやってもらってるんだし、たまには私もやらないと」
あえて千早には声をかけず、私の隣の部屋にあるお風呂場に行ってパネルを操作してお湯を沸かすと再びキッチンに戻って冷蔵庫を開ける。
「今日は春キャベツ買ってきたからそれを中心にして･･やっぱ野菜炒めかな？そしたら豚肉にニンジンに･･」
冷蔵庫から次々と食材を何種類か取り出し、シンクの下にあるお味噌とごま油を取り出す。
「ととっ、先にお米研がないと」
何度か炊飯器の圧釜に入れたお米をお水で研いでからスイッチを入れるとおかずに取り掛かる。
「〜〜♪」
「随分ご機嫌ね、春香」
「あ、千早。もういいの？」
まだまだ慣れない包丁捌きに半ばおっかなびっくりでニンジンを切ってると千早がキッチンに入ってくる。
「ええ。随分リラックスできたわ。これでまた曲のイメージも湧くといいのだけど･･」
「結構難航しそうだね、そっちは。やっぱり難しいの？」
「そうね･･作る意欲はあるし漠然とならイメージもあるのだけど･･って、結構入れたわね」
食器戸棚からグラスを取り出そうとして扉を開けた途端千早が目を丸くする。
「ああ、それね。何度か来て見てたらさ、ちょっとスペース空き過ぎてるから実家で使ってない物をお母さんに分けてもらったんだけど、どうかな？」
「ええ、使いきれるかどうか解らないけど、これだけあれば何を作ったとしても料理がより美味しそうよね」
千早がその中から自分の所にあったグラスを取り出すと、冷蔵庫を開け大きめのペットボトルからミネラルウォーターを注ぐと一気に飲む。
「そうだね〜。これであとはお客さんが来ても大丈夫かな？」
「んっ、お客さんって･･誰か呼ぶつもりなの？」
２杯目を注いで一口飲んでからキョトンとして水洗いしたキャベツを千切ってる私を見つめる。
「あっ、いや、その･･言葉のアヤだったんだけど、律子さんくらいは呼んでもいいよね？一応私達の仲は知ってるんだし」
「そうね･･律子くらいなら呼んでもいいけれど･･」
「千早？」
ちょっと意外なくらい千早が難しい顔をするんで手を休めてじっと見つめた。
「あ、いいの、気にしないで。私の思い過ごしかもしれないから。ええ、律子なら歓迎するわ。なんなら春香のお菓子も振舞ってくれれば律子も喜ぶでしょうし」
「う、うん･･」
その表情に引っかかりはしたものの、仕方なく考える事を止めて豚肉をまな板に乗せる。
「あっ、私にもお水頂戴。んっ」
私は一旦手を休めて瞼を閉じて口を窄めて僅かに隙間を作ると、千早も察してミネラルウォーターを口に含むと私の唇に触れ、とくとくと少しずつ私の中に流し込ん
で喉に通すと唇を離した。
「んくっ、美味しかった。ありがと」
「んっ、お粗末さま。それで、今日のおかずは野菜炒めなのかしら？」
「うん。今日はお味噌尽くしで味噌野菜炒めとお味噌汁にしようかなってね。あっ、小さいお鍋の方にお水入れて火にかけたらワカメも出しておいて。後は私がやるか
ら」
「ええ、そのくらいならお安い御用よ。ええと･･」
千早が動いてもらってる間に私も豚肉を適度に切り、フライパンを火にかけて暖めてからごま油を引くといっぺんに食材を入れて炒める。ジュッ、ジュッ、と炒める
音とごま油の香りがキッチンに漂ってくる。
「いい香りね･･あっ、そういえばお風呂沸かしてなかったわね。その間に･･」
「お風呂？沸かしといてあるよ。後はもうお料理するだけになってるから、だいじょぉ〜ぶ」
「あっ、そうだったの？ありがとう。助かるわ」
小さいお鍋にはったお水が沸騰し始めるとスプーンを取り出して適度な量のお味噌をフライパンと両方に入れ、２つのコンロの火を少し弱める。
「これで後は両方とも終われば出来上がりだから･･お皿の方頼んでいいかな？」
千早に頼んで適当にお皿を出してもらうと２人分のお皿に盛り分けて味噌野菜炒めが出来上がり、ワカメも適当な大きさに包丁を入れるとパッパッと小さいお鍋に入
れて一煮立ちさせてから丁度２人分ギリギリの量でお椀に入れた。
「よしっ、かんせ〜ぃ。ご飯はやっておくからさ、千早はテーブルに並べておいて」
「ええ、解ったわ」
千早がわたわたとリビングとキッチンを往復してる間に私も炊飯器からご飯を盛り、箸立てから２膳分のお箸を用意するとリビングのテーブルに並べて座布団に腰掛
けた。
「「いただきます」〜す」
タイミングがズレがちな挨拶から始まった晩御飯はどれも美味しく仕上がってて、野菜炒めに混ぜた豚肉もしっかり火が通っていた。
「ごちそうさま。今日のもとても美味しかったわ」
「お粗末さまでした。これでデザートか何かがあれば、食後の楽しみも増えるんだけどね〜」
あっという間に食べ終わった晩御飯も終わり、片づけを済ませて私は朝の分の食器を片付けながらさっき食べた分のを洗い、千早も急須と湯のみを取り出すとお茶を
淹れてくれた。
「ねぇ千早。ちょっと大事な話があるんだけど、いいかな？」
「え？ええ･･構わないけど･･急にどうしたの？」
２杯目のお茶を催促して湯飲みに入れてもらってから私は真顔になると、千早がキョトンと私を見つめ返す。
「私さ、前に千早からちゃんを抜いて欲しいって言われて呼ぶようになってからいろいろ考えてみたんだ。私がどうして千早にだけちゃんを付けていたのかなってね。
勿論、出会った頃は如月さんって呼んでたし、宙月が決まったって事で身近に接したくて千早ちゃんって下の名前で呼び合ったけど、いつだって一緒にいた時は呼び捨
てでも構わなかったんだよね。お互い良い面も悪い面も見てきたし」
「え、ええ･･そういう事よね･･」
言葉を一度切ってからお茶を一口に含んで口の中を湿らせると再び続けた。
「それでも私がどうしてずっと千早にちゃんを付けていたのか、その理由をちょっと自分で知りたくなったの」
「春香が固執した理由･･？」
「うん。気付かなかった？後から入った後輩のアイドルには呼び捨てにしたり、まぁ年上の律子さん達にはちゃんと『さん』は付けるけど、千早にだけだったんだよ？
『ちゃん』って付けてるのって」
「あ･･言われてみればそうよね。でも、それって私達の付き合いが長いからって理由ではなかったの？」
「うん、それもあるよ。私の後に入ったのって千早が一番近いしね。だけど、理由はそれだけじゃないんだよ」
千早が私の隙を見て冷め始めたお茶を飲み干し、急須から注いで終わるのを待つ。
「そりゃあ一目惚れしてたって言うのも事実だけど、自覚したのは確か･･そうそう、プロデューサーさんに嫉妬してた頃だった」
「しっ･･と？春香が？プロデューサーに？」
「あっ、そういえば具体的な話してなかったよね。あの頃の私ってさ、プロデューサーさんに嫉妬してたんだ。プロデューサーさんがずっと千早とばっかり話をしてた
もんだからプロデューサーさんに取られちゃうような感じがしちゃってさ。それで休憩入れてもらった後に屋上でプロデューサーさんに喚いちゃってさ。ホント、今以
上に子供だったんだな〜って思うよ。えへへ･･」
目を丸くする千早に私も自嘲気味に笑う。あの頃は恥ずかしくて言いたくはなかったんだけど、時が経つとこうして話せるのが少し嬉しかった。
「その時は嫉妬なんて考えもつかなくてさ、あの後律子さんと小鳥さんに相談して、初めて嫉妬してたんだって気づいたんだよ」
「そんな事があったの･･」
「話は戻るけどさ、千早に告白して解散した後もこうして付き合っていく中で私の中の千早の存在が大きくなってさ、特別な存在なんだって思った。だから私は千早に
だけ『ちゃん』って付けてたんだよ」
「そうだったの･･春香がそこまで思ってたなんて知らないで、私の勝手な我侭で呼ばせてしまって悪かったわ。本当に御免なさい」
「あっ、別に謝る必要なんてないんだよ。千早の好意は好意で嬉しいし、千早がそう望むのなら私もなるべく叶えてあげたいもん」
テーブルに手を付いて頭を下げる千早に慌てて私も肩を掴んで身体を起こす。
「それでね、渡したいものがあるからちょっと待ってて。あっ、ついでに少しお風呂沸かしてくるね」
私は立ち上がると一旦お風呂場のパネルを操作してお風呂を沸かすと、戻るついでにキッチンのカウンターの上に置いてあるショルダーバッグを持って再び座布団に
腰掛けると、ショルダーバッグの中から高さが５�僉�長さが１０�兒擁�の小さい箱を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは･･ジュエリーボックス？」
千早はそのジュエリーボックスを顔を近づけてまじまじと見つめてる。
「うん、開けてみて」
千早が外枠にある厚紙から中のジュエリーボックスを抜いて上蓋を開けると２つの指輪が並んでいて、プラチナ特有の限りなく白に近い黄色の卵の剥き身色をしたリ
ングに白と紫の宝石がちょこんと嵌めこまれているけど、その２つの宝石の位置がそれぞれの指輪に左右あべこべに嵌っている。
「指輪、よね･･？２つって事はもしかして･･」
「うん。私達、夫婦になろうよ。男女のそれとか関係なしにずっと一緒に過ごして行きたいから」
「ええっ！？」
千早が両手を私に見せるように広げながら大袈裟な程に背中を仰け反らせる。
「前に夢の事を話した時、本当に千早と離れたくない、千早とずっと一緒にいたいって思った。これを頼もうって思ったのはあの日の午前中だったから順序が逆なんだ
けど、もしかしたらこれを作ろうって思ったからそんな夢を見ちゃったのかもしれない。だけど今はそんな順序なんてどうでもいいくらいに千早を愛してるよ。だから
受け取って欲しいんだ」
まくし立てるように話してからすっかり冷めたお茶を一口飲んで、千早の前にジュエリーボックスを右手で押し出す。
「全く･･私の知らない間に準備なんかして･･しかも有無を言わさぬよう２つも用意するなんて。相変わらず春香は私の考えの上を行くのね」
「え、えへへ･･だってさ、こうでもしないと受け取ってくれそうにないもん。今日だってどれだけ隠すのに必死だったか」
実は前にオーダーメイドで作ろうと思った際、本命は勿論指輪でそっちは結構早く仕上げてもらった。だけど自分のオリジナルの物が欲しかったのも本当の事で、指
輪の事を黙っていたくて何度も何度も作り直してもらっては納得の行く物を仕上げたくてああして少し時間を稼いでいた。
「それで宝石店で私と離れたのね･･すっかり騙されたわ」
「えへへ･･ゴメンね。それでどうなの？受け取ってくれるの？」
「受け取るも何も･･何でも先走って考える春香に手綱を握る人なんて私以外にはいないもの。この指輪、是非受け取らせて戴くわ」
千早はちょっと涙を潤ませながらジュエリーボックスを手繰り寄せて大きく肯いてくれるのを見て私もやっと笑顔になれた。
「ありがと･･ホントにありがと･･これからもヨロシクね、千早」
「ええ、こちらこそ宜しく。それで幾つか質問があるのだけど、いいかしら？」
「うん、いいけど･･？」
千早は手繰り寄せた宝石を反転すると私に見せてくる。
「先ずはこの宝石ね。私も自分の誕生石がアメジストって事は知ってるのだけどそれとはちょっと違うみたいだし、春香のは確か４月だから確か･･ダイヤモンドよね？
だけどそれにしてはちょっと白みがかかっているから何なのかって事と、それとそれぞれ２つの指輪の宝石が左右あべこべになってる理由を知りたいの」
「えっとね･･」
私はもう一度ジュエリーボックスを反転させると千早に見せながら宝石屋の店長さんと話し合ったときの事を思い出しながら説明する。
「先ず嵌めこんである宝石はそれぞれファントムアメジストとホワイトサファイアって言って、ファントムアメジストが千早の、それからホワイトサファイアが私の誕
生日石になってるんだよ。それで左右あべこべにしたのは私の右側には千早が、千早のは右側に私がいるって意味合いなんだ。だからホラ、リングの内側に私のは
『from Chihaya』ってなってて、千早のには『from Haruka』って入ってるでしょ？」
私はジュエリーボックスから指輪を外してリングの内側を見せると千早も肯いて納得してくれた。
「それじゃあ最後の質問。さっき夫婦とは言ったけれど、どっちがどの役をするのかしら？」
「あっ！？え〜それは･･」
（あ･･そこまで考えてなかった･･）
まったく予想してなかった質問に口ごもっていると、千早が眉尻を下げて苦笑する。
「もぅ･･細かい事に考えが及んでないのも春香らしいわね･･でも、そういうことなら私はもう決まってるわ」
「･･へ？」
千早の意外な言葉に私は思わず目を丸くすると千早の言葉を待った。
「私には春香の様に率先して即行動に移すことはあまり出来ないし、どちらかといえば私を引いてくれる事が多いもの。それは今までの出来事で解ってるし、これから
も迷った私を導いてくれると信じている。だから私は春香を夫役に推薦するわ」
千早がそこまで信頼してる事が嬉しい事には違いはないんだけど、それでもやっぱり自分の事となると欠点が先走ってしまう。
「ええっ！？だって私、おっちょこちょいな所もあるし、こうして一緒に過ごしてると千早に迷惑かけちゃうかもよ！？」
私はおたおたと両腕をバタバタ振りながら弁解するんだけど、千早は全く動じないままでくすりと笑った。
「おっちょこちょいなのは今に始まった事でもないし、迷惑なのは一緒にいるのなら同じ事でしょう？それじゃあ逆に言うわ。私がそんな春香を支えてフォローしてあ
げる。これでいいかしら？」
「むぅ･･確かにそれはそれで助かるけどぉ･･」
「それなら決まりね。じゃあ･･はい」
「･･えっ？」
千早は顔を赤らめてはにかみながら静かにスッと左手を私の前に差し出してくる。
「指輪、付けてくれるんでしょう？」
「あっ、うんっ、付けてあげる」
私はジュエリーボックスから千早のを確認すると、右手で支えながら左手の薬指に嵌めこむ。一応私のサイズを基準にして作ってもらった指輪だからちょっぴり大き
めではあったものの、すぐに落ちそうな大きさでもないので安心した。
「へぇ･･並んだ白と紫の色合いもいいし、凄く素敵よ。それじゃあ春香のも付けてあげるわ。はい」
しげしげと指輪を間近で見つめてから千早が手の平を見せるように右手を差し出してくる。
「あっ、うん。お願い」
私は千早の右手に手を重ねるように添えると、くねくねと指輪を回しながら私の左手の薬指に嵌めていく。
「まさか、女の子同士でこうして指輪を嵌め合う日が来るなんてね･･っ」
「え？んぅっ！？」
千早は私の指に指輪を嵌めこんだところで右手で私の左手を掴むと急に引っ張りながら瞼を閉じると、その拍子で前のめりになった私の唇と千早の唇を重ねて合わせ
られ、あまりの急な行動に私は目を丸くして開けたまま固まってしまった。ふっと千早の唇が離れて瞼を開けると、未だに固まってる私を見てクスクス笑い出す。
「んっ･･ふふふ･･春香、すっかり目を丸くしちゃって･･そんなに驚いた？うふふ･･」
「むぅ･･当たり前だよぉ〜いきなりキスなんて思わないしさぁ〜」
唇が離れた事で私もはっと我に返ると思わずぶーたれる。そんな千早はテーブルを回りこんで私の左肩に頭を乗せると両腕を背中に回してきた。
「でもね･･私、凄く幸せよ。私も春香の事を愛しているからと言うのもあるけれど、何よりこうして春香と一緒に生活できる事に幸せを感じてる･･」
「千早･･」
左の耳から囁くように語る千早が愛しく思えて、私も千早の脇の下から腕を通して抱き返した。
「さあ、そろそろお風呂に入りましょう？これで温くしてしまったらまた沸かし直さないといけないし、一緒に入るんでしょう？」
「あっ、うん、そうだね。じゃあ行こっか」
お互いの両腕を解き、冷め切ったお茶を飲み干して片付けると廊下を歩いて自分達の部屋の前に来たところで千早に声をかけた。
「一つお願いがあるんだけど、もう一回制服を持ってきてもらえないかな？」
「え？でも、もう昨日の時点で高校生活は終わったんだし、必要が無いんじゃ？」
「うん、それはもう終わったんだからいいんだけど、今度は千早の制服を着てみたくなっちゃった。だから取替えっこしてみない？まぁちょっとしたコスプレ気分か
な？」
私のお願いに千早の目が丸くして顎に手をあてて考え込んでしまい、ちょっと間を開けてから顔を上げた。
「コスプレ、ね･･確かに私の学校の制服姿は着せて見てみたいとは思うけど･･私は春香の制服が似合わないと思うわよ？」
「そんな事ないって。それとさ、下着は着けないでね。どうせ脱いじゃうんだから」
「あ･･そ、そうね･･解ったわ」
千早も諦めたように僅かに首を縦に振り、私達はそれぞれの制服を持って戻ってくるとお風呂場へと向かい、着てる洋服と下着を脱いで浴室に入った。
「あ〜サッパリしたぁ〜」
お風呂から上がった私達はそれぞれのバスタオルを手にすると身体に付いた水滴を満遍なく拭き取る。ちなみに千早のは無地で真っ白、私のはカラフルな花柄のだ。
「ね、ねぇ･･やっぱり･･私も着ないといけないかしら？」
「んもぉ〜まだ言ってるぅ。往生際が悪いよ」
お風呂に入るなりずっと千早は制服を着るのに抵抗があるみたい。もしかすると下着を着けないのも理由の一つかもしれないけど。
「た、確かに春香の制服は可愛らしいとは思うわよ？だけどいざ袖を通すとなると･･」
「あ〜も〜はいっ！四の五の言わないで袖通しちゃいなよっ。あっ、Ｙシャツは同じのだから自分達のでいいよね」
私は自分の制服がかかってるハンガーからＹシャツのボタンを外して袖を通し、千早の制服がかかってるＹシャツと自分のスカートを渡した。
「もぉ･･しょうがないわね･･全く、強引なんだから･･」
千早も最後の方でブツブツと聞こえなかったけど、ようやく観念しておずおずとＹシャツに袖を通し始めた。一方の私はと言うとテキパキとＹシャツのボタンを留め
て行ってからスカートを履き、ファスナーを上げてからホックを留め金に嵌めるとネクタイを締める。
「へぇ･･やっぱりこうしてみると、なんだか新入生になった気分かも･･」
壁に添え付けてある大きい鏡に自分を写して身体をクネクネ回しながら見ると、見慣れぬ制服姿がとても新鮮に思えた。
「春香･･その･･へ、ヘンじゃない･･かしら？」
「わはぁ〜〜！かわいぃ〜〜〜！！」
私の制服を身に纏った千早がモジモジしているのを見て思わずテンションが上がる。今までミニスカートなんてステージ衣装以外殆ど履かなかっただけに、私のと同
じくらいに新鮮さを感じた。
「大丈夫大丈夫っ！ヘンじゃないよっ！凄く似合ってる！ほらぁっ」
千早の肩をを掴んで無理矢理鏡の前に立たせ、その後ろから私も見ると千早の顔がみるみる赤くなってくる。
「自分のなんて見慣れてないけれど、その･･わ、悪くないかも、ね･･確かに･･」
どうやら千早もまんざらではないみたいで、顔は赤いままでも留めてるリボンやスカートをヒラヒラさせている。
「でしょでしょ。んじゃあまだたっぷり時間もあるし、もう少しだけこのままでいてさ、ちょっとコーヒーでも飲もうよ。ねっ」
「ちょっと、春香、押さない、で･･んもぉ･･」
テンションが上り調子の私は千早の肩を掴んだまま押し出すように洗面所を出るとキッチンへと向かい、コーヒーを入れてもらうとリビングのテーブルを挟む形で座
布団に腰掛けるとテレビのリモコンを操作して電源を入れる。
「あの･･その･･はる、か･･あんまりジロジロみないで･･」
睡眠前なので薄めに淹れてくれたコーヒーを啜りながら千早の姿を見ていると、千早が目を泳がせながら私の方をチラチラ見る。
「え〜だってぇ･･千早の制服姿なんて滅多に見れないのに、そのうえ私の制服を着てるんだから見ない方が損だよぉ〜」
すっかりご機嫌な私はさっきから千早の方をばかり見てて、気分転換にと思ったテレビなんて殆どそっちのけだ。
「あ･･そ、その･･普段なら別に構わないんだけど、その･･下着が･･」
「あ〜なるほどぉ･･そう言われてみればそうだね。えへへっ」
言われて見ると千早のＹシャツの下から薄っすらとピンク色をしたものが目に留まる。それは私も同じ事で、どうやら千早も私がブラを付けてないことで顔を赤くし
てるみたいだった。
「もぅ･･笑って誤魔化さないでよ･･」
「あ、いや、別にそんなんじゃ･･チャンネルチャンネルっと」
ごまかすようにリモコンを持つとチャンネルを変える。
『あっ』
放送局を変えた途端私たちの声が揃ってハモる。たまたま変えた番組が今現在で行われてるであろう各都道府県の犯罪を放送してそれに対するコメントを出演してる
ゲストが答える番組だったんだけど、そのゲストコメンテーターの中に律子さんも加わっていた。
「へぇ〜律子さん、こういう番組にも出演してるんだ･･」
「なるほど･･確かに律子は知的な所を売りにはしていたけれど、確かにこういう番組は律子向きね･･」
さっきまでのやり取りがウソのように私たちは食い入るように律子さんに注目する。ＭＣさんから向けられる質問にも的確に、それもちゃんと要点を抑えて端的に話
す律子さんは私たちには出来ない芸当だ。
「さすがに律子はこう言う所は強いわね･･もしかするとこの先、ゲストではなくＭＣとしてやって行けるのかもしれないわね」
「うんうん。律子さんもさすがだけど、この仕事を引き受けたプロデューサーさんも凄いと思う。確かにこんな仕事なら律子さんの実力が発揮できるんだしね」
それからもすっかり番組に釘付けになった私達は結局最後まで観てしまい、スタッフロールが流れる頃には９時に指しかかろうとしていた。
「さて、そろそろ今度は私達が頑張る時間、かな？」
「はぁ･･春香、その言い方はちょっと洒落にならないわよ」
悪戯っぽく笑う私に千早はあからさまに肩を落として溜息を吐いた。
「えへへ･･んじゃ、行こっか」
リモコンの電源ボタンを押してテレビを消すと、マグカップとコーヒーカップを持ってキッチンで軽く水で洗い流すと千早の寝室へ行こうとしたところで止められた。
「ん？どうしたの？」
「ねぇ、春香。春香のお願いを聞いたんだから、今度は私のお願いを聞いてくれないかしら？」
「いいけど･･何？」
千早は目線を落として遠慮がちにもじもじしていると、ようやく顔を上げて私に顔を向けた。
「今日ベッド届いたんでしょう？そしたらその･･春香のベッドで寝てみたいな･･って」
「あ〜うん。それはいいけど、私のベッドってシングルだから狭いよ？、それでもいいの？」
「ええ、折角届いたのなら、ちょっと寝てみたいかなって興味が湧いてきて、その･･」
なおももじもじしてる私の制服を着てる千早がちょっと可愛らしく思えてきて思わず顔が綻ぶ。
「ふふっ、それでもって言うんならいいよ。あっ、でも枕はもう一つあった方がいいかな。１個で２人分は狭すぎるしね」
「解ったわ。じゃあ先に入って待ってて」
とてとてと歩く千早を見送ってから私はベッドの上のお布団を足元の方へ折りたたんでから座り、新しく買った猫が座ってる台座のスイッチを捻って明かりを点ける
と淡いオレンジの光が部屋中に行き渡る。
「うんっ、やっぱ買って正解だったな〜」
コンコンと開けっ放しだったドアから千早が叩きながら枕を持って入ってくるとキョロキョロと辺りを見渡す。
「お邪魔するわね･･へぇ･･やっぱりベッドの存在感って凄いのね･･それにこのスタンドも可愛らしいわ」
「えへへ･･実は千早が持ってるスタンドが結構気に入っちゃってさ、安物なんだけど触発されて買ってみたんだ」
「いいと思うわよ。猫のデザインがとても春香らしいと思うもの」
猫型のスタンドライトを間近でまじまじと見つめてる千早に私はぽふぽふとお布団を叩く。
「ねぇ、そろそろこっち、ベッドに来てよ」
「あ･･ええ･･それじゃあ、お邪魔します」
私が枕ごとベッドの壁際まで身体をずらすと千早は空けたスペースに枕を置いてから横たわる。
「そういえば、結婚式も戸籍も入れない私達でも、これがその･･し、初夜になる･･のかしら？」
「あ〜うん。言われてみればそうだよね。えへへ･･もう何度もしてるって言うのに、改めて思うと照れちゃうよね」
「ふふ･･確かもそうかもね。それじゃあ、よろしくお願いします」
「うん、よろしく。あ･･んっ」
右肘一つで身体を支えながら私の頬に両手を添えると、徐々に顔を近づいてきて瞼を閉じて唇を重ね合わせた。
「ちゅ･･ちゅっ、ちゅ･･んん･･ちゅっ、んぁ･･ちゅるん･･」
続いて私も瞼を閉じると啄むような軽いものから始まったキスは次第に深くなり、お互いの舌を求め合う。
「んむぅ･･ちゅるっ、はぁむぅ･･ちゅっ、ちゅるっ･･んん〜ぷあっ、んちゅっ」
時折舌を相手の口の中で遊ばせては舌から歯、歯から歯の裏側、そしてまた舌へと戻っては絡ませていくとだんだんと気分が昂ぶり始める。
（あぁ･･キスだけですっごく興奮する･･ほんっと、千早の舌って柔らかくていいなぁ･･）
今まで何度も味わってるはずの千早の舌の感触は未だに飽きが来なくて、いつまでも絡ませていたいと私に思わせてくれる。
千早の口の中から流れ出た唾液が舌を伝って私の口の中に入ってくると一旦離れて飲み込み、今度は私が千早の身体を引き寄せてキスをせがんで唇を合わせると、軽
く数回軽いキスをしてから舌を差し入れた。
「ん･･ぷぁ･･んっ、んくっ。ちゅる･･ん･･ちゅっ、ちゅ･･んむぁ･･」
私は一旦自分から絡ませていた舌を差し入れたまま動きを止めると千早のしたいままに絡ませてあげて、その合間に体勢を入れ替えて千早の身体に上半身だけ覆い被
さると再び舌を動かして千早の舌に絡めていく。
「ふ･･むぁぁ･･ちゅるっ、ん･･んん･･んむぅ･･んぅ･･」
私の中に溜まった唾液を舌を橋渡し代わりに流し込む。すると千早は私の唾液を一滴も逃さないとばかりに舌に絡ませては舌にこびり付いた唾液さえも奪っていくと、
一旦私の両方の頬にに添えてた手に力を込めて放し、口の中に広げると静かに、だけど大きく喉を鳴らせて飲み込むと頬を赤らめてうっとりする。
「ん･･んん･･んくっ。ふふ･･春香のって本当に美味しい･･何度も味わっているのにいつも飽きない･･くすっ」
「えへへ･･私もだよ。千早の舌が柔らかくって飽きないから、ずっと絡ませてたいって思う。ふふ･･」
お互い顔を間近で見ながらはにかみんでいるとどちらからともなく静かに笑みがこぼれると、再び唇を重ねてから僅かにずらして千早の下唇の柔らかさを味わうと、
千早も私の上唇に舌を触れてきた。
「はむ･･んっ、ん･･んっ」
千早の舌が上唇に触れてその形になぞってくるとザラザラとした舌先がこそばゆくて首筋の辺りがぞわぞわとむず痒くなり、お返しにとばかりに私も千早の下唇を全
体的に舐めていく。
「んっ、んん･･ふふ･･くふぐっふぁい･･」
僅かに千早の唇に力が入るともぞもぞと首が動いて微笑む。そんな千早が愛しく思えてくると身体を少しずらして両手を千早の頭を抱えるようにして首に巻きつけて
再び舌を絡ませる。
「ふぁむぅ･･もぉ･･ちはやってかわいい･･んむぅ〜」
舌を絡ませるだけが飽きてきたのか、千早は僅かに私の身体を押し上げてゆっくりと私の左胸へと手を伸ばしてくるとＹシャツ越しに私の胸を揉んでくる。
「んぁ、ん･･あむぅ･･んっ、んんぅ〜」
千早の優しい手つきが私の左胸に伝わってくるようで身体がぴくん、ぴくんと反応する。私も千早の優しさに応えるべく、回していた腕に力を込めて自分の首を少し
傾けて頭を押し付けると、さらに奥深くまで舌を差し入れるとより深く深く絡ませていく。
「んぷっ、んうぅ･･んっ、んぅっ、んぷぁ･･んっ、」
暫く続けていると千早は揉んでいた左胸から再び首の辺りに手が上がっていき、首元に辿り着くと器用に片手で少しずつネクタイを外し始める。私も右腕を千早の頭
から離すと首元に付いてるリボンを引いてしゅる、しゅると少しずつ解いていく。先に解けたリボンを引き抜いて床に落とすと、続けて千早が解いた私の襟に巻かれた
ネクタイを引いて床に落とした。
長い時間絡ませいていた舌を止め、吸い続けていた唇からちゅぽん、と空気を取り込む音と共に離れ、瞼を開けて上気して朱に染まった千早の顔を見つめると、千早
も静かに瞼を開けた。
「ぷはぁ･･ずっとキスしてたいけど、もっと気持ち良くしてあげるね」
「ええ、お願い･･もっと春香の愛、受けたい･･」
千早がこくん、と肯くのを見届けて長い髪を一度だけ左手で毛先まで梳くと、左肩に添えてから徐々に身体の下へと移動させて胸元に辿り着く。
「ふふっ、千早の乳首、キスだけでこんなにしちゃって･･」
スタンドの明かりに照らされた千早の乳首がＹシャツを押し上げ、自己主張するようにそこだけがちょこんと盛り上がっている。
「え･･ぁ･･は、はるかのせいじゃない･･あれだけずっとキス･･してるんだから･･」
見下ろすように私と自分の乳首を交互に見ながら苦しい言い訳をしながら顔を朱から赤に染まっていく。
「ふふ･･それじゃあ、ちゃんと責任取るから気持ち良くなってね･･んっ」
「ふあぁんっ！」
ちょっとシャレをきかせてから千早の左胸に吸い寄せられるように顔を埋めると口に含み、舌を使って隆起した乳首の先端をＹシャツ越しに舌でなぞると千早が一際
大きく嬌声をあげた。
「んぁ･･ぁ･･あんっ、はぁ･･んっ」
すでに固くなってる千早の乳首の周りをゆっくりと円を描くように舌でなぞってると、千早の手が徐々に伸びて私の背中に回ってくる。
「んん･･っ、あ･･は、るかぁ･･き、もちいっ、いけどぉ･･せつな、い･･んっ」
ちはやの要求を聞かずに私はなおもゆっくりと千早の乳首を丹念に舐めていく。やがて口の中から出てきた唾液が千早のＹシャツを濡らしていき、完全に濡れたとこ
ろで一旦止めた。
「えへへ･･見てよ、乳首がここだけ濡らしたからピンク色が出ちゃってるよ」
「はぁん･･ぁ･･ゃ、やだぁ･･み、みせないでぇ･･」
千早が再び瞼を開けて自分の乳首を見た途端、耳まで赤く染めて目を反らした。
「でもぉ、これじゃあバランス悪いから、こっちも同じようにするね。んっ」
「ちょ、ちょっと！はるか、やめ･･んんぁっ！」
私は僅かに身体をずらして反対側の右胸の乳首に顔を埋めると同じ要領で舌を動かす。
「はぁんっ、んぅ･･あんっ、あぁ･･だ、だめ、ってぇ･･いって･･んぁっ！」
（へぇ･･人によって感じ方が違うって聞いたけど、千早って右の方が感じやすいんだ･･）
どうやら千早は右側の方がより敏感みたいで、明らかに左の乳首よりも反応が強かった。千早の身体の事を改めて知るとちょっと嬉しくなると同時にイジワルしたく
なってきて、すっかり濡れた乳首から離れて次第に円を大きく描くと今度は胸全体を舌でなぞっていく。
「ん･･はぁ･･はるぅ、かぁ･･？な、なんで･･？」
それがどうやら千早には優しく感じたのか、僅かに瞼を開けると首を上げて私の方を見つめてくる。勿論そんな問いかけには応えずに続け、右胸全体を濡らし終わる
と再び左胸へと戻って胸全体を舐めていく。
「あぁ･･はる、か･･あっ、や、やめてぇ･･んっ」
「んっ。えへへ･･で、き、あ、が、り」
「はぁ･･はぁ･･やだぁ･･もぉ〜」
再び千早が首を上げて見ると、身に着けてるＹシャツの胸の部分が全体的に私の唾液でピッタリと張り付き、隆起した乳首までくっきりと透けていて、千早も慌てて
私の背中に回してた両腕を引っ込めて自分の胸を覆って隠す。
「う〜んこうして見ると裸よりえっちかも。たまに男子の話で小耳に挟むけどさ、何となく解るかな」
「そ、そんな感心なんかしてないでよ･･こっちはずかしいんだからぁ･･」
すっかり昂ぶってた気分が戻っちゃったのか、千早もさっきから恥ずかしそうに不満を漏らしている。
「しょうがないな･･じゃ、まずはその気にさせてあげなきゃね。ん･･んむぅ･･」
私は再び千早にキスをするとすぐに舌を差し入れて深くさせると、両手で覆っていた胸に右手を潜り込ませてＹシャツ越しにわさわさと動かす。
「うむぁ･･ふぁん･･んむぅ･･んっ、ぷはぁ･･んっ、んぅ〜」
次第に千早が覆っていた両手の力が抜けると左肘で身体を支えながらその両手を動かして胸を露にしてから唇を離すと、口元に付いた唾液が伸びて途中でぷつりと切
れた。口を半開きにしたまま一旦呼吸を整え、再び千早の胸元に顔を埋めると今度は右側の乳首を口に含んで唇で挟んで甘く噛んで軽く擦りつける。
「はぁ･･ん･･んっ、あんっ、んぁ･･」
一度火照っていたせいか少し乳首を甘く噛んだだけで千早がすぐに甘い声を漏らす。それからも私は乳首を吸ったり甘く噛んだりと繰り返しながら千早を昂ぶらせ、
千早の腕に力が込められていないのを確認すると、手で探りながら千早の首元のボタンに手をかけ、ふつ、ふつ、と一つ一つゆっくりと外していく。
「ん･･あぁ･･はる･･んっ･･か？んぅ･･」
Ｙシャツのボタンが外されている事に気付いたのか、時折甘い声を漏らしながら私の名前を呼ぶのを聞こえて一旦唇を離した。。
「んっ、ふぅ･･うん、そろそろ邪魔になってきちゃったから、脱がしちゃうね。身体、起こせる？」
覆いかぶさっていた身体を起こして千早の背中に左手を回して起こすのを手伝い、腰の辺りまでボタンを片手で外すと手首のボタンを外して上半身だけ脱がし、今度
は露わになった胸元に顔を近づけると、熱を帯びた胸全体に何度もキスをする。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅ･･んっ、ちゅっ」
「ちょ、とぉ･･はる･･かぁ、く、くすぐった･･ひゃんっ」
執拗なキスの応酬に千早の身体がくねくねと動いて悶える。構わずキスをしながら私は空いている右手で千早の左膝の内側に手を通して曲げさせて、そのままゆっく
りと何度も撫でながら足の付け根へと動かしていく。
「ん･･んぁ･･はぁぁん･･んっ、はるんぅ、かぁ･･じ、らさない、んっ、でぇ･･」
やがて撫でていた手は足の付け根に辿り着き、女の子に触れたところで中指をその中へと入れると、くちっ、と空気の混ざる音と共に中から蜜が流れ出て私の指にま
とわり付いてくる。
「んっ、あぁあぁ･･」
「んっ、千早の中、すごく熱くて気持ちいい･･このままずっとこうしていたいくらい･･」
千早の身体がびくびく波打つ女の子の中がきゅっきゅっと締め付けてきて心地いい感触が熱と一緒に指へと伝わってくる。
「はる、かぁ･･はぁ、はぁ･･ゆ、ゆびぃ･･う、うごかし、てぇ･･もっときもちよく、なり･･あんっ、なりたいのぉ･･」
「うん。じゃあ一回イッてもらうね。後でもっと気持ち良くしてあげる」
私は中に入れた指を往復させ、今まで焦らしていたせいもあってか急激に千早の女の子が激しく痙攣する。
「はぁん！ああっ！やぁっ！だめっ！きちゃうきちゃうのぉっ･･ぁぁあああぁぁ〜〜っ！！」
体がびくん、びくんと大きく痙攣を起こして千早が絶頂を迎えると、背中を大きく仰け反らせて支えにしていた私の身体から外れて力なくベッドに横たわった。
それから休息を挟んでから３回ほど絶頂と休息を繰り返し、途中で制服を脱ぎ捨てて全裸になって抱き続けた。
「はぁん･･はぅかぁ〜はぅあ･･んあっ･･んあぁんっ」
３回中３回とも焦らしてから達した千早はすっかり呂律が回らなくって半開きの口元の端から唾液が流れ出たまま全身を善がらせている。その度に密着してる私も次
第に身体が火照ってしまい、千早の左足を跨ぐ形で女の子を刺激し続けながら千早の左胸と右耳に愛撫を続けていた。
「んあ･･はぁ･･あっ、ちは･･やんっ、そん、なっ、くねらせ･･んっ、ないで･･んぁっ」
「はぁ、はぅはぁもぉ･･んくぅ･･きもちぃ、いいんれひょぉ･･あんっ、ひゃあ･･もっろぉ･･ひれあれぅ･･ああんっ」
「んひゃっ！？」
どうやら呂律が回らなくなってても意識はしっかりあるようで、両手で私のお尻を掴んでくるとむにむにと動かし始める。
「ち、ちょっとぉ！ちはやぁ･･ああっ！そこぉ････んっ！つよくはぁ･･あはぁ･･だ、だめぇっ！」
私自身お尻はそれほど感じないはずだったんだけど、身体が火照ってるのと千早の手が大きく動くせいでびくびくと反応して思わず耳たぶから口を離してしまう。
「やだぁっ！ああんっ！わたしも･･くうっ！だ、だめぇ･･イッちゃいそう･･」
「ほれららぁ･･ああんっ、ひっひょにぃ･･くぅんっ、ひふぃはひょ･･んあっ！」
千早が手を激しく動かすのもあって思うように加減が出来ず、何とか左手をとに刺激が強くしないように気を配るのが精一杯で、それ以外の密着してる身体に刺激が
伝わってくる。
千早の身体が大きく善がる事で掴んでた私のお尻と跨いでた足が女の子に強い刺激が伝わり、私が掴んでた左胸に力がこもるとほぼ同時に絶頂を迎えた。
「ああっ、だめぇっ！イッちゃう！わたしイッちゃうよぉっ！ああっ、んああぁぁ〜〜！！」
「わらしもぉっ！ふるぅっ！またきちゃうっ！くっ、くぅううぅ〜〜〜んっ！」
お互い別々の方向に背中を仰け反らせて達するとくてっと力が抜けて密着した状態で絶頂の余韻に浸り、先に回復した私はよいしょと声を上げて自分のと千早の後始
末を済ませてから毛布と掛け布団を一緒にかけて千早の回復が終わるのを待った。
「ん････は･･る、か？」
「うん、私はここにいるよ」
それから１０分ほど経った頃か、意識が戻った千早の右隣から寝そべったまま目をしぱしぱと瞬いてる所に囁くように声をかけた。
「わたし･･もしかして、きをうしなってた？」
「うん。私も千早のおかげで達せられたし、ちょっと満足してるよ。あっ、お水飲む？」
前に私がした事を思い出して尋ねてみると、千早が静かに肯いた。
「そうね･･ええ、おねがいできる？」
「ん。ちょっと待っててね」
私は一旦自分の分だけ毛布と掛け布団を剥いで千早を跨ぎながらベッドから出ると、そのままの格好でキッチンに入り、適当な大きさのグラスにお水を注いで戻って
くると、一度半分ほど飲んでから口に含み、千早に口移しで無くなるまで飲ませてあげる。
「んっ、んっ、ん･･んくっ。ふぅ･･ありがとう、美味しかったわ」
「ふふっ、お粗末さま。グラスは明日片付けるから、ここに置くね」
空になったグラスをローチェストの上に置いてから再びベッドに戻り、毛布と布団を一気に被りながらうつ伏せに寝て頭だけ千早の方へ向けると、千早は合わせてた
目を逸らして天井を見つめた。
「ちょっと･･下らない事話すわよ。本当に下らない事だから、あまり深く追求しないでね」
「え？あ･･うん」
天井を真っ直ぐに見つめる千早の表情が今一つ読めず、両腕を枕の下に潜らせると頭を枕に預けた。
「もしも･･もしもよ？私が男だったら、逆に春香が男だったら良かったのかって思う事があるの」
（私か千早が･･おとこぉ！？）
「え･･な･･ちょ･･？！」
普段の千早から想像も付かないような話に思わず頭をあげて目を丸くする。千早は布団の中が温まってきたのか両腕を布団から出すと両手を重ね合わせる。
「だから深く追求しないで。ちょっとした独り言だと思ってよ」
あんまりな事で思うように喋れない私に千早は目線だけ私に向けると眉尻を下げながらすぐにまた天井を見上げた。
「あ、うん。それで？」
「確かについ少し前であれば、恋人だった間柄であればまだ普通に男女の恋愛も出来たでしょうし、結婚も出来たわ」
「･･････」
千早の、それも今までに無いくらい真摯に天井を見上げて話してるの見ていると声をかけられなかった。
「前に宙月の頃の、いつだったかは忘れたけど春香は話してくれたわよね？お母さんに憧れてるって。子供が好きだって」
「あ･･うん、そういえば話したっけね」
それはまだ私達が宙月の頃の、駆け出しで仕事の選り好みが出来ずにいた遊園地でお仕事の合間の休憩中にはしゃいでる４歳くらいの子供と両親の姿を見てぼそっと
『ああいう風に子供と一緒に暮らしたいな〜』なんてこぼした事を思い出した。
「春香に指輪を渡された時にその事をふっと脳裏に過ぎったの。私では春香の望む形の結婚はおろか子供も作れない。そんな私に春香の幸せは満たせられないんじゃな
いかって」
いつのまにか千早の重ねていた両手がギュッと掛け布団を強く握ってる。それがどれだけ千早が考えていたのか、千早が不安に思ってることが良く理解できた。
「千早･･」
「あっ、だからと言って今が幸せじゃないって事ではないのよ？今は今で私も幸せだし、指輪を渡されて夫婦になろうって言われてちょっと驚いたけど、春香の支えに
なりたいと思ったのも本当の事よ。ただ、『もし』とかそういう考えに意味のないことは解っているわ。だけど、だけど考えてしまうのよ･･」
「千早、私と一緒にいてて、楽しくない？」
私の問いかけに千早は少し頭を私の方へ向けてくる。
「っ！そんな事ないわっ。春香と一緒に過ごすのも楽しいし、買い物だって私と違う考え方で選ぶから、それはそれで新鮮よ」
「じゃあ･･好き？」
「ええ･･好きよ」
「愛してくれてる？」
「ええ、愛しているわ。春香に負けないくらい」
ちゃんと言葉にしてくれるのが嬉しくて、私はうつ伏せの状態からもぞもぞと身体を動かして横になると、自分の右の手の平を千早の右手の上に添えた。
「えへへ･･うん、私も千早の事が好きだし、千早の事を愛してるよ。今はきっとそれだけでいいと思うんだ」
「それだけで･･？」
「幸せの形ってさ、人それぞれじゃん？それに人によってはその時々で度合いも状況も変わる想いもあれば、変わらない想いもある。決まりきった枠なんて存在しない
んだよ、きっと」
「枠のない幸せの形･･不定形な存在･･」
千早が再び天井を見上げる。千早に添えていた右手を離してから私もそれに倣って身体を仰向けになる。
「お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいて、家族が一緒に笑い合って笑顔を絶やさない毎日。確かにそれはそれでステキな事だし、家族として理想の形だと思う
よ？その時はそれを現実にしたいなって心からそう思った」
千早の肩が一瞬震えて僅かに腕から先がぴくんと動くのを見逃さなかったけど、私はあえて見ないフリをして言葉を続けた。
「だけど、それが月日が流れてプロデューサーさんに嫉妬してるんだって自覚したのと同時に千早に恋をしてるのが解って、ずっと過去を遡って出会った頃を思い出し
て一目惚れだった事も解って、そして告白した。それからの毎日は凄く充実してるんだって実感してるよ」
私はもぞもぞと身体を反転してぴったりくっつくと、右腕を回して千早の左腕を掴んで千早の身体を片腕で抱きしめる。千早に触れた肌が暖かくてすごく心地良か
った。
「はるか･･？」
そんな私を千早は僅かに頭を動かして間近にいる私を見つめる。一瞬だけ目が合って心臓がトクンと動くとばくばくと大きく動いて思わず目を瞑った。
「確かに心なんて不定形なものだし、新しい恋をすれば変わっちゃうかもしれない。だけど指輪を嵌めた以上、私の心は千早という『形』から変えない。それは大きく
もなったり小さくもなったりするけど、その『形』からは変えないよ。だから、千早も今の私の天海春香の『形』から変えないで。別な方向を見て形を変えちゃって、
自分の素直な気持ちの『形』から変えちゃったら意味、無いと思うな」
「春香･･」
「私は千早が好き。それと同時に愛してもいる。今だって千早の肩を掴んで目が合うとドキドキしちゃうし、抱いたり抱かれたりすると心臓がバクバクして止まらない。
そんな風に思えて、そんな風にさせてくれるのは千早だけなんだよ」
「春香･･ありがとう･･思い切って話して良かったわ･･」
千早の身体がもぞっと動いて私と向き合う形で横になると空いている左手を掴んできた。
「千早は考え過ぎるきらいがあるんだよ。そんな時は、自分の気持ちを優先にしよ。ね？」
「ええ･･私、ちょっと深く考え過ぎていたみたい」
千早は僅かに目線を下げて俯き気味になり、私は首を僅かにふるふると振った。
「私の事を想っての事だもん。気持ち、嬉しいよ」
「ありがとう･･それじゃあこれからは私も気持ちを揺るがさないよう、春香の事は『あなた』って呼ぶわね」
（････え？あな、た？）
「え？別に今まででもいいんじゃ･･？別に私は春香でも構わないけど･･？」
さっき以上の突拍子もない言葉に思わず目をしぱしぱと何度も瞬きをすると、千早は悪戯っぽくふっと頬を緩ませる。
「あら？役とは言っても私達の間柄は夫婦なんでしょ？それなら、私の旦那様を呼ぶのに何の制約があるのかしら？」
「うﾞっ･･そ、そりゃあ確かに制約なんてないけどさぁ〜」
「それじゃあ決まりね。あ･な･た。ふふ･･うふふ･･」
すっかり千早に話のリードを許してしまい、それが嬉しかったのか千早がさっきから肩を揺らして笑ってる。それもやがて止まり、ふっと優しい笑みを浮かべると顔
をポッと朱に染めた。
「ねぇ、キス、してもいいかしら？」
「千早のキスを断る訳ないじゃん。ん･･」
私が瞼を閉じて唇を僅かに窄めると暖かい感触が伝わってくる。ほんの数秒のキスで舌も入ってこなかったけど、私の心をいっぱいに満たしてくれた。
「えへへ･･えいっ」
「きゃっ！？はるか！？」
お礼とばかりに私は千早を仰向けに寝かせて身体の半分ほど覆いかぶさると、千早の首に右腕を巻きつける。一瞬慌てて私の名前で呼んだみたいだけど、そこはあえて
スルーするのがお約束だと思う。
「今夜はさ、このままで寝かせて。もう結構時間経っちゃってるし、そこまで感じてないでしょ？」
「え、ええ･･一瞬身体がぴくっとなったけど、それ程じゃあ･･」
「じゃ、寝よ。んしょ、と」
空いてる左腕をいっぱいに伸ばしてネコ型のスタンドに手を伸ばし、スイッチを捻って電気を消すとオレンジに染まってた空間が一瞬にして真っ暗になる。
「そんじゃ、おやすみ。千早」
「ええ、おやすみなさい･･あなた」
千早も私の背中に手を添えると動かなくなり、千早の温もりを一身に浴びてるとやがて睡魔が襲ってきて深い眠りについた。
「ほら春香、もう朝よ。起きなさい」
「んにゅ･･あとごふんだけぇ〜」
まだ意識が睡魔に引きずられてる中で誰かに揺り起こされてる気分にお決まりのセリフを吐くと私、天海春香は毛布と羽毛布団を頭にスッポリと被って春の眩しい日
差しを遮る。
「そんな事言って、五分後には『もうあと五分』とか言うんでしょう？早く起きなさい」
（まだ眠い･･もっと寝てた〜い）
本能の赴くまま呼びかけてくる睡魔に引き寄せられ、だんだん意識が遠のく。
「も〜ちょっと寝かしてよおかあさぁ〜ん･･むにゃ･･」
「お、お母さんっ！？ちょっと、寝ぼけてる場合じゃないでしょ！？」
ばさぁっ。
私の愛する人、千早こと如月千早に無理矢理足元から布団と羽毛布団を一気に剥ぎ取られ、冬の冷たい空気ほどではないにしろ冷えた空気が全身の肌に当たり、身体
を丸くして身震いする。
「んひゃぁっ！寒っ！」
「もぅ、いい加減起きなさい！」
引きずられてた睡魔がばびゅんと引っ込んでっ行った拍子に意識が戻ってくると、自分が何も着けていないことに気付いて思わず大事な部分を隠す。
「んんん･･さ、寒いよぉ〜」
「そんな格好なら当然よ。目が覚めたかしら？」
重たい瞼を開けて右目をこしこしと擦って身体を起こすと辺りをキョロキョロと見回す。夕べ、真っ暗の中で抱かれた私は身に着けてた制服を脱がされ、何も着けず
に眠った事を思い出して脱ぎ捨てたはずの制服と下着を探す。
「んぁ･･･あ･･おはよぉ･･あれ？私の制服と下着は？」
「もう洗濯機の中よ。それとシーツも洗いたいから春香は部屋に行って何か着てきなさい。もし、まだ眠たいのなら、シャワーでも浴びてくるといいわ」
すでにデニムのパンツに白のＴシャツ、上には春物の薄い緑のカーディガンに着替えてる千早が私を見下ろす。私の格好に苦笑いしつつも容赦のない言い方はもしか
すると結構怒ってるのかもしれない。
「んじゃあ、さっさとシャワー浴びて着替えるから、もうちょっとだけ待っててね」
私は大事なところを隠したままベッドをぽん、と跳ねて部屋を出ると自分の部屋から適当に下着とお洋服を引き出しを開けるついでに時計を見たら７時半を少し回
っていた。
（あ、まだそんな遅いって訳でも無いじゃん･･って言うか、いつも起きる時間だし）
引き出しの中からサーモンピンクのチェック模様のハーフカップのブラとショーツを、洋服の中からピンクのキャミソールとデニムのミニスカートを取り出すと、両
手で抱えてお風呂場へと向かい、シャワーを浴びてから持ってきた下着と洋服を着てからキッチンに向かう。
「おはよっ、千早。んっ」
「ん･･お早う、お寝坊さん」
コーヒーを淹れてる千早にすっかり恒例となった朝の軽いキスをすると、手っ取り早くハムエッグとトーストにマーガリン、それとレタスとトマトのサラダを持って
リビングのテーブルに置くと千早が洗ったシーツをベランダに干すのとコーヒーを待ってから食べ始めた。
「春香、一つだけ約束事を追加してもいいかしら？」
「ん･･と、何？」
私がマーガリンを塗ってる手を止めて見上げると、千早が真顔になって私をじっと見つめる。
「夕べも話したけど、いくら休みだからと言っても気を抜いてはいけないと思うし、一応取り決めた以上は私と一緒に起きて朝食の準備もしてもらいたいの。だから、
せめて春香も６時半、遅くても７時くらいには起きて欲しいのよ」
（うあっちゃ･･この様子だとまだ怒ってるな･･）
宙月の頃からもそうだったけど千早は怒り出すとやけに説教っぽくなる事があって、その被害は私だけに留まらず、年上の今の律子さんのプロデューサーさんですら
相手にしていた。大人な考えのプロデューサーさんはやんわりと千早の説教をかわしてたし、その頃の私も頻繁に食って掛かってたけど、私だってその頃の私とは違う
し千早の弱点も知っているつもりだ。
「うん。それは解ったけどさ、千早だってたまに寝坊する事もあるでしょ？そういう時はどうするの？」
「わ、私はそんな事ありえないわ。現に今日だって６時半には起きてちゃんとシャワーを浴びたし、それに春香の分も含めて洗濯もしていたもの」
「じゃあ夜、私が頑張っちゃった時は？今までお泊りした時の千早って結構寝坊してた事もあったと思うけど･･」
「あ、そ、それは･･」
「でしょ？千早だってたまにはそういう日だってあるんだし、この先絶対なんて事はないんだもん。勿論私も私なりに頑張ってはみるけど、立場が変わったら私も容赦
しないよ？」
「くっ･･」
だんだん千早の強い口調が弱まってくる。千早は確かに自分にも相手にも厳しい態度を取る事は多いけど、些細なミスを穿り返されると途端に強く言えないところが
あってこっちが強く言い出すと返す事が出来なくなる事も多かった。
「私も千早にそんな事したくはないし、本意じゃないって事は私を千早も解ってる事でしょ？だからあまり文句を言うんじゃなく、起こす時は普通に起こしてもらいた
いなって思うわけ」
「う･･わ、解ったわ。この話はまた今度同じようなケースになってから改めて話をするとして、話題を変えましょ？」
（よしっ、これでやっと話が反れた。こうなれば暫くこの話題は持ち出さないな）
内心申し訳なく思いながらも半分ほどトロトロに溶けるマーガリンをパンに広げる。
「それで、今日の用事は引越しの業者を待つだけなの？」
「ううん。一応今日からこっちに住む事になってはいるんだし、午前中にご近所さんに挨拶周りするつもりだから千早も付き合って欲しいんだ」
「あっ、そうよね･･解ったわ。付き合ってあげる」
「で、それが終わったら、デートしない？」
「んぐっ！？で、でェと！？」
私の思わぬ発言に千早は頬張ってたパンを吐き出しそうになるのを留めて、なんとか飲み込むと声が裏返った。
「あっ、でもそんな大げさ事でもないんだけどね。ただ、ちょっと付き合って欲しいお店があるんだ」
「あ･･そ、そういう事ならちゃんと言いなさいよ･･もぅ･･」
やや隠すようにもう一口パンを頬張ってるけど、千早の顔や耳までは隠しきれてなかった。私も続けてパンを頬張り飲み込むともう一度確認する。
「はぐっ。んっ･･･で、どうする？付き合ってくれるの？」
「ええ、まぁそういうことなら付き合うけど･･どこのお店なの？」
「ホラ、前に一度ブティックに言ったでしょ？そこからちょっと歩くんだけど、あるお店にね」
「随分また思わせぶりに言うのね･･まぁいいわ。じゃあ先ずはその挨拶周りを済ませましょ」
それからは暫く無言の時間が続いて残ったパンとコーヒーを啜り、化粧水と乳液をつけてからご近所さんに挨拶をしに行った。ご近所の方々は私だって事が解っても
すぐに受け入れてくれて、時々サインなんかも求めたりもしたけど、そこはアイドルらしくちゃんと色紙やメモ帳にしてあげると凄く喜んでくれた。大まかなところの
ご近所さんの挨拶を済ませて私達は再び帰ってくると私と千早は一旦別れて部屋へと入り、自分の部屋からニット帽を持ってくると千早も眼鏡をかけて廊下に出てきた。
「春香、終わったわよ」
「うん、こっちも終わり。それで千早にお願いがあるんだけど、これ預かっててくれないかな？」
私はサイフから何枚か１万円を数枚と千円札を数枚を抜き、通帳やキャッシュカードの入ったポーチに挿し込むと千早に渡した。
「これは？」
私の意図を解ってない千早はまじまじとお金の入ったポーチを見る。
「ん〜ちょっとね。これから買いに行くお店で必要な事だから、絶対外に外に出しちゃダメだよ」
「え、ええ･･出すなって言えば絶対に出さないけど･･」
？マークを３つほど付くような感じで訝しげにポーチを見ながらアイボリーのハンドバッグに入れると私達はマンションを後にした。
「それで、その目的のお店って言うのはどこなの？いい加減に教えなさいよ」
春特有の寒空と陽光が交わる中、目的の駅に着いて改札口を出たところで千早が痺れをきらして尋ねてきた。
「うん。ぶっちゃけて言えばジュエリーショップなんだけどさ、他の事務所のコにオーダーメイドをしてくれるお店を聞いたらここの駅にあるって言っててさ、それで
前に下調べしたついでに頼んでみたんだ」
それは３ヶ月くらい前の事。私達が付き合って２年経った記念日の午前中に頼んだもので、その後もちょくちょく電話を貰っては経過や変更などを聞いたりして、よ
うやく先日完成したとの報告が来たので今日その品物を取りに行こうと決めていた。
「そうだったの･･それじゃあ行きましょう？」
一度ブティックを通り過ぎ、さらに歩いて奥まった所にあるジュエリーショップに向かう。
『いらっしゃいませ〜』
店内に入るなり店員さんが一斉に挨拶をしてきて思わずドキッとする。まだ開店して間もないし平日なのもあってお客さんが誰もいなかったから良かったものの、こ
れで注目されるとなると私もこれから来る時に困ってしまう。
「も、も申し訳ございませんっ。た、大変失礼を致しまして･･」
慌てて前と変わらないショートのボブカットをフリフリさせながら店長さんがやってくると私の目の前でペコペコ平謝りをしてくる。なんだかそれが逆に申し訳なく
思えるとさっきまでこみ上げたものが一気に下がり店長さんを止める。
「い、いえ、こっちも事前に連絡しなかったのも悪かったんですから、そこまで謝らなくていいですって。それで、出来上がったものを見せて欲しいんですけど」
「あ、は、はい。ではこちらへ･･そちらのお客様も良ければご一緒に･･」
私の隣の人物見ると店長さんは千早だって事に気付いたのか、僅かに身体を移動して奥の赤い扉の方へと促してくる。
「あ･･えっと･･その、ち･･ちょっとさ、ゆっくり店内を見ててよ。結構いいもの揃ってるから」
「ええ、そうするわ」
「という事なんで店長さん。この人の事、よろしくお願いします」
「かしこまりました。それでしたらなるべく人目に付かぬ様、他の者に伝えますので、暫くお待ちください」
店長さんは一旦離れると比較的背の高い長い髪をウェーブにかけた女の店員さんに声をかけ、二言三言会話を交わすと一緒に戻ってきた。
「ではお客様、私がご案内致しますのでどうぞこちらの方へ」
「あっ、は、はい･･よ、よろしくお願いします･･」
緊張して萎縮しちゃってる千早は促されるまま店員さんに付いて行くのを見届けて、私も店長さんに付いて行くと赤い扉の部屋へと通され、高そうなソファーに腰掛
けると店長さんがすぐに頼んでおいた商品を広げる。
「こういう感じに仕上げましたが、いかがでございましょう？」
「うわぁ〜かわいいぃ･･」
出来上がったのは銀で出来たハートの鎖が大小ランダムにいくつも連なったネックレスで、形を敢えて合わせずにバラバラになってるのがポイント。そして丁度胸元
の部分にあたる一際大きなハートにはその形に沿って小さいピンクサファイアがいくつもちりばめられていた。
「本来ならピンクサファイアの宝石は同じ大きさに並べるのが通例でして、正直私共も初めて耳にした時はいささか疑問でした。ですがこうして見ると、かなりガラリ
と雰囲気が変わりますね･･」
右手でネックレスを直に持って角度を変えると、その度に細かい宝石がアチコチからキラキラと輝きを放つ。
「うん。これならいろんな角度で見られてもキラキラ光って目立つし、テレビやステージで使っても人目を惹きそう･･。はい、これで十分満足ですっ！」
「それは何よりでした。では、前回仕上げた物とご一緒に精算させて頂きますね」
店長さんは手短にあった電卓を手繰り寄せると軽快なテンポと共にカタカタと電卓に数字を打ち込み、最後にイコールのボタンを押した所で反転して私に見せてきた。
「消費税を入れましてこの値段になるのですが･･」
「う〜ん･･端数取って貰えないですかね･･これからもまた利用したいと思ってるんで･･」
少しずつ値段を下げながら贔屓にする事をさりげなくアピールする。先輩芸能人や他のアイドルから学んだ方法だ。
「それでしたら･･この金額で？」
「あ･･ちょっと待ってください･･」
店長さんがもう一度私に電卓を見せた所で私はショルダーバッグからサイフを取り出し、お札や小銭を全部取り出す。
「えっと････今これだけしか持分ないんですよぉ･･バッグの中には化粧品とか必需品しか持ってきてないんで･･」
あえて困ったフリをしてバッグを見せて中身に通帳の類が入ってない事をアピールすると、店長もさすがに苦笑いしてくる。
「う〜ん･･解りました。それではその金額で結構ですんで申し訳ないのですが、端数も頂きたいのですが･･宜しいですか？」
「あっ、はい、それはもう。すいません･･ワガママ言ってしまって･･」
「いいえ。今後ともご贔屓に願えるのでしたらこのくらいは。では領収書を切ってくるので少々お待ち下さい」
店長さんは立ち上がると店内へと消えて行き、再び戻ってくると私に領収書と商品を渡してくれた。
「あっ、この際だから着けて帰っちゃおうかな･･鏡、あります？」
店長さんが隣のスタッフルームから置き形の鏡を持ってきてもらい、商品を渡して僅かに伸びてる後れ毛を持ち上げると私の首の辺りから手を伸ばして留め金を付け
てくれた。
「へぇ･･やっぱり見るのと付けるのとはまた違ってきますね･･これならお洋服とか選ぶのも楽しそう」
鏡を前に身体を左右に揺すってネックレスを見ると、首元にあるピンクサファイアがキラキラと光沢を放つ。
「天海様ならどのようなお洋服もお似合いでしょうし、ネックレスを中心にまとめるのも宜しいかと思いますよ？」
「そうですよね･･本当に今日は有難うございました」
「いいえ、こちらこそ。では入り口までお送り致します」
私と店長さんはその場から立ち去り、店内で物色してる千早に声をかける。
「ごめん、お待たせ」
「もう･･おそいわよ･･って、それが頼んだものなの？」
眉を下げて苦笑する千早が私の胸元に光ってるペンダントに注目して目を丸くする。
「うん、随分時間かかっちゃったけどね。おかげで納得のいく物が出来上がったよ」
「へぇ･･可愛らしいのを作ったのね････ええ、よく似合ってるわ」
「えへへ･･ありがと。じゃあ行こ。どうもお世話様でした」
「はい。次回からお電話頂ければ幸いですので。是非ともまた宜しくお願い致します」
店長さんに見送られながらお辞儀をすると宝石屋さんを後にして、お店が見えなくなった所で千早に声をかける。
「さっき預けたポーチ、もう出してもいいよ。ホント助かった。お礼にお昼は私がオゴるね」
千早の持ってたバッグから通帳や銀行のカードの入ったポーチを返してもらう。
「ええ、じゃあ返すけど･･どういう事なのか説明してよ」
「うん、実はね･･」
扉の奥でやり取りしていた事を説明すると、ようやく千早の表情に明るさが戻ってきて納得してくれた。
「なるほどね･･僅かな差の有り金を見せる事で提示された値段よりも安く買う、と。通帳を預かってくれって言われた時は何事かと思ったけど、そういう事だったの」
「うん。店長さんに『じゃあ千早から足りない分を補ってもらえ』って言われるかと思ってドキドキしてたけどね。これも取り引きするには必要なんだって聞いたんだ」
「なんだか詐欺みたいな行為に思えなくもないんだけど･･これも安く買うための秘訣って事なのね？」
「そういう事。とにかく安く買うにも客としていろいろ手を打たないとね。じゃあ次、ブティックに行こうよ。あそこもそろそろ夏物が入ってると思うし」
千早が黙ってうなずくとそのままの足で私たちはブティックへと向かい、店内に入ると私と千早の姿を見て目を丸くしても声をかけず、せいぜいすれ違う時に小声で
『いらっしゃいませ』と声をかけてくる程度だった。
（はぁ〜やっぱりこのお店だと安心するな〜）
内心宝石屋さんと比較して苦笑しながら店内の新作を物色していると、グレーのパンツスーツに白いブラウスの格好で長かった髪をバッサリと首の辺りまで切り、ソ
バージュでまとめた店長さんがニコニコしながらやってきた。
「いらっしゃいませ。天海様、如月様」
「はい、お久しぶりです、店長さん。髪、切ったんですね。凄く似合ってますよ」
「ありがとうございます、天海様。それで、今日はどういった物をお探しでしょう？」
「新作見に来たんですけど、どんなの入ってます？」
それから暫く千早を交えて店長さんと話しながら新作や値段の下がったもの聞いて回り、私と千早は何着か洋服と下着を買ってお店を出ると、電車に乗って駅の近く
のファミレスに寄ってお昼を済ませるとスーパーで買い物をしてからマンションへと戻った。
「ただいま〜っと」
マンションのエントランスを通ってエレベーターで７階に上がり、私達の家に戻るとキッチンに食材を詰め込んでからそれぞれ買って来たお洋服を仕舞ってリビング
に戻って来る頃には２時を少し回っていた。
「春香、今日も業者さん来るのよね？何時なのかしら？」
「ん〜予定じゃ３時って事にしてあるけど、確か今日はお洋服の残りとベッドとお布団が来る予定になってるよ」
「そう。それならまだ１時間ほどあるみたいだし、干した洗濯物を取り込むから手伝ってくれないかしら？それが終わったら軽くお茶でも飲んで待ってましょ」
「オーケー。じゃあ先に制服からかな？」
「そうね。シーツは後で手伝ってもらいたいから、先に制服を取り込みましょ」
「はぁ〜い」
私と千早はそれぞれの制服と下着を取り込んでから一旦自分の部屋に仕舞うと再びリビングへと戻り、取り込んだシーツを手渡されて千早の部屋のベッドに敷いてシ
ワを伸ばして終わらせると、リビングで千早の淹れてくれたコーヒーにさっき買ってきた安価なお菓子に舌鼓を打つとインターホンが鳴り、時計を見ると３時を回る直
前だった。
「あっ、来たのかな？私が出るね」
立ち上がって壁に添え付けてあるインターホン用の受話器を取ると、案の定昨日来た引越しの業者さんで千早に教わりながら自動ドアのロックを外すと暫くして玄関
のインターホンが鳴り、ドアを開けると昨日と同じ顔ぶれだった。私の部屋に入れて木製のベッドを組んでもらってから空いてるスペースに置いてマットを乗せてもら
うと、明日で最後の納品だって事と納品の時間を確認すると業者さんは帰って行った。
「さて、じゃあやりますかっ」
再び部屋に入って荷物の中身を確認しながら洋服を仕舞うと「雑貨関係」と自分で書いた段ボール箱からペンギンを模した目覚まし時計や鑑なんかを取り出し、千早
のを見て欲しくなって買ったディフォルメされた猫が本体を支えてる形のスタンドライトをベッドのヘッドボードに置く。
（あ〜これも入れてたんだったな･･とりあえず千早に聞いてみよう）
残ったお皿やマグカップの入った箱を持ってキッチンへと向かう途中、さっきまでリビングにいたはずの千早の姿が無かった。
（あ･･自分の部屋かな？）
私は再び廊下に戻って千早の部屋の扉を何度かノックをしたものの、全く反応が無かった。
「千早？入るよ？」
ちょっと重たい扉を少しだけ開けて中を覗くと、ベッドの上でリビングから移したコンポをコードを伸ばしたヘッドホンで音楽を聴いていて、私の気配を察して目線
だけこっちに向けるとリモコンを操作してから耳を覆うほどの大きなヘッドホンを耳からずらして首に引っ掛けた。
「あ、もう終わったの？」
「うん、ベッドは組んでもらってお布団も敷いたし、洋服も仕舞って終わらせたんだけど、あとはマグカップとか雑貨だからさ、どこに置いたらいいかな〜って聞こう
としたんだ」
「あ･･それなら空いてる所ならどこに置いてもいいわよ。ある程度分けてはいるけれど特に専用の棚って訳でもないから」
「うん、解った。ところで何を聞いてたの？もしかして、今度の新曲のデモだったりする？」
「いいえ、単なるクラシックよ。一応新曲のコンセプトも決まりかけているから、少し気分を落ち着かせておこうと思って。春香も聞いてみる？」
さすがに私の中の好きな音楽のジャンルにクラシックなどなく、申し訳なく首を横に振った。
「う〜ん･･悪いけどいいや。そしたら私も終わったら適当に時間潰してるから、また後でね」
「ええ。お風呂に入る時間には私もそっちへ行くようにするわ」
千早が再びヘッドホンを付けてリモコンを操作するとクラシックを聞き始めると私も扉を閉めてキッチンへと向かい、置いといたダンボールから新聞紙に包んである
食器やマグカップを取り出しては場所を確認しながら棚に置いていった。
「うんっ、こんなもんかな？」
まだまだ２人で使う分としては余裕がある、というより食器棚が大きすぎるんだけど、それでも数が増えるとやっぱり見栄えも違ってくる。千早が使ってた食器類は
比較的質素で落ち着いたものが多かったんだけど、私が持ってきたのはお菓子を載せるような可愛らしいものが多いから一緒に並べるとわりと華やかになった。
「で、時間は･･と」
キッチンからカウンター越しにベランダの方にかけてある時計を覗いて見ると、もうすぐ５時になるところだった。
「ん〜そしたらお風呂と食事の準備しちゃおうかな？いつもやってもらってるんだし、たまには私もやらないと」
あえて千早には声をかけず、私の隣の部屋にあるお風呂場に行ってパネルを操作してお湯を沸かすと再びキッチンに戻って冷蔵庫を開ける。
「今日は春キャベツ買ってきたからそれを中心にして･･やっぱ野菜炒めかな？そしたら豚肉にニンジンに･･」
冷蔵庫から次々と食材を何種類か取り出し、シンクの下にあるお味噌とごま油を取り出す。
「ととっ、先にお米研がないと」
何度か炊飯器の圧釜に入れたお米をお水で研いでからスイッチを入れるとおかずに取り掛かる。
「〜〜♪」
「随分ご機嫌ね、春香」
「あ、千早。もういいの？」
まだまだ慣れない包丁捌きに半ばおっかなびっくりでニンジンを切ってると千早がキッチンに入ってくる。
「ええ。随分リラックスできたわ。これでまた曲のイメージも湧くといいのだけど･･」
「結構難航しそうだね、そっちは。やっぱり難しいの？」
「そうね･･作る意欲はあるし漠然とならイメージもあるのだけど･･って、結構入れたわね」
食器戸棚からグラスを取り出そうとして扉を開けた途端千早が目を丸くする。
「ああ、それね。何度か来て見てたらさ、ちょっとスペース空き過ぎてるから実家で使ってない物をお母さんに分けてもらったんだけど、どうかな？」
「ええ、使いきれるかどうか解らないけど、これだけあれば何を作ったとしても料理がより美味しそうよね」
千早がその中から自分の所にあったグラスを取り出すと、冷蔵庫を開け大きめのペットボトルからミネラルウォーターを注ぐと一気に飲む。
「そうだね〜。これであとはお客さんが来ても大丈夫かな？」
「んっ、お客さんって･･誰か呼ぶつもりなの？」
２杯目を注いで一口飲んでからキョトンとして水洗いしたキャベツを千切ってる私を見つめる。
「あっ、いや、その･･言葉のアヤだったんだけど、律子さんくらいは呼んでもいいよね？一応私達の仲は知ってるんだし」
「そうね･･律子くらいなら呼んでもいいけれど･･」
「千早？」
ちょっと意外なくらい千早が難しい顔をするんで手を休めてじっと見つめた。
「あ、いいの、気にしないで。私の思い過ごしかもしれないから。ええ、律子なら歓迎するわ。なんなら春香のお菓子も振舞ってくれれば律子も喜ぶでしょうし」
「う、うん･･」
その表情に引っかかりはしたものの、仕方なく考える事を止めて豚肉をまな板に乗せる。
「あっ、私にもお水頂戴。んっ」
私は一旦手を休めて瞼を閉じて口を窄めて僅かに隙間を作ると、千早も察してミネラルウォーターを口に含むと私の唇に触れ、とくとくと少しずつ私の中に流し込ん
で喉に通すと唇を離した。
「んくっ、美味しかった。ありがと」
「んっ、お粗末さま。それで、今日のおかずは野菜炒めなのかしら？」
「うん。今日はお味噌尽くしで味噌野菜炒めとお味噌汁にしようかなってね。あっ、小さいお鍋の方にお水入れて火にかけたらワカメも出しておいて。後は私がやるか
ら」
「ええ、そのくらいならお安い御用よ。ええと･･」
千早が動いてもらってる間に私も豚肉を適度に切り、フライパンを火にかけて暖めてからごま油を引くといっぺんに食材を入れて炒める。ジュッ、ジュッ、と炒める
音とごま油の香りがキッチンに漂ってくる。
「いい香りね･･あっ、そういえばお風呂沸かしてなかったわね。その間に･･」
「お風呂？沸かしといてあるよ。後はもうお料理するだけになってるから、だいじょぉ〜ぶ」
「あっ、そうだったの？ありがとう。助かるわ」
小さいお鍋にはったお水が沸騰し始めるとスプーンを取り出して適度な量のお味噌をフライパンと両方に入れ、２つのコンロの火を少し弱める。
「これで後は両方とも終われば出来上がりだから･･お皿の方頼んでいいかな？」
千早に頼んで適当にお皿を出してもらうと２人分のお皿に盛り分けて味噌野菜炒めが出来上がり、ワカメも適当な大きさに包丁を入れるとパッパッと小さいお鍋に入
れて一煮立ちさせてから丁度２人分ギリギリの量でお椀に入れた。
「よしっ、かんせ〜ぃ。ご飯はやっておくからさ、千早はテーブルに並べておいて」
「ええ、解ったわ」
千早がわたわたとリビングとキッチンを往復してる間に私も炊飯器からご飯を盛り、箸立てから２膳分のお箸を用意するとリビングのテーブルに並べて座布団に腰掛
けた。
「「いただきます」〜す」
タイミングがズレがちな挨拶から始まった晩御飯はどれも美味しく仕上がってて、野菜炒めに混ぜた豚肉もしっかり火が通っていた。
「ごちそうさま。今日のもとても美味しかったわ」
「お粗末さまでした。これでデザートか何かがあれば、食後の楽しみも増えるんだけどね〜」
あっという間に食べ終わった晩御飯も終わり、片づけを済ませて私は朝の分の食器を片付けながらさっき食べた分のを洗い、千早も急須と湯のみを取り出すとお茶を
淹れてくれた。
「ねぇ千早。ちょっと大事な話があるんだけど、いいかな？」
「え？ええ･･構わないけど･･急にどうしたの？」
２杯目のお茶を催促して湯飲みに入れてもらってから私は真顔になると、千早がキョトンと私を見つめ返す。
「私さ、前に千早からちゃんを抜いて欲しいって言われて呼ぶようになってからいろいろ考えてみたんだ。私がどうして千早にだけちゃんを付けていたのかなってね。
勿論、出会った頃は如月さんって呼んでたし、宙月が決まったって事で身近に接したくて千早ちゃんって下の名前で呼び合ったけど、いつだって一緒にいた時は呼び捨
てでも構わなかったんだよね。お互い良い面も悪い面も見てきたし」
「え、ええ･･そういう事よね･･」
言葉を一度切ってからお茶を一口に含んで口の中を湿らせると再び続けた。
「それでも私がどうしてずっと千早にちゃんを付けていたのか、その理由をちょっと自分で知りたくなったの」
「春香が固執した理由･･？」
「うん。気付かなかった？後から入った後輩のアイドルには呼び捨てにしたり、まぁ年上の律子さん達にはちゃんと『さん』は付けるけど、千早にだけだったんだよ？
『ちゃん』って付けてるのって」
「あ･･言われてみればそうよね。でも、それって私達の付き合いが長いからって理由ではなかったの？」
「うん、それもあるよ。私の後に入ったのって千早が一番近いしね。だけど、理由はそれだけじゃないんだよ」
千早が私の隙を見て冷め始めたお茶を飲み干し、急須から注いで終わるのを待つ。
「そりゃあ一目惚れしてたって言うのも事実だけど、自覚したのは確か･･そうそう、プロデューサーさんに嫉妬してた頃だった」
「しっ･･と？春香が？プロデューサーに？」
「あっ、そういえば具体的な話してなかったよね。あの頃の私ってさ、プロデューサーさんに嫉妬してたんだ。プロデューサーさんがずっと千早とばっかり話をしてた
もんだからプロデューサーさんに取られちゃうような感じがしちゃってさ。それで休憩入れてもらった後に屋上でプロデューサーさんに喚いちゃってさ。ホント、今以
上に子供だったんだな〜って思うよ。えへへ･･」
目を丸くする千早に私も自嘲気味に笑う。あの頃は恥ずかしくて言いたくはなかったんだけど、時が経つとこうして話せるのが少し嬉しかった。
「その時は嫉妬なんて考えもつかなくてさ、あの後律子さんと小鳥さんに相談して、初めて嫉妬してたんだって気づいたんだよ」
「そんな事があったの･･」
「話は戻るけどさ、千早に告白して解散した後もこうして付き合っていく中で私の中の千早の存在が大きくなってさ、特別な存在なんだって思った。だから私は千早に
だけ『ちゃん』って付けてたんだよ」
「そうだったの･･春香がそこまで思ってたなんて知らないで、私の勝手な我侭で呼ばせてしまって悪かったわ。本当に御免なさい」
「あっ、別に謝る必要なんてないんだよ。千早の好意は好意で嬉しいし、千早がそう望むのなら私もなるべく叶えてあげたいもん」
テーブルに手を付いて頭を下げる千早に慌てて私も肩を掴んで身体を起こす。
「それでね、渡したいものがあるからちょっと待ってて。あっ、ついでに少しお風呂沸かしてくるね」
私は立ち上がると一旦お風呂場のパネルを操作してお風呂を沸かすと、戻るついでにキッチンのカウンターの上に置いてあるショルダーバッグを持って再び座布団に
腰掛けると、ショルダーバッグの中から高さが５�僉�長さが１０�兒擁�の小さい箱を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは･･ジュエリーボックス？」
千早はそのジュエリーボックスを顔を近づけてまじまじと見つめてる。
「うん、開けてみて」
千早が外枠にある厚紙から中のジュエリーボックスを抜いて上蓋を開けると２つの指輪が並んでいて、プラチナ特有の限りなく白に近い黄色の卵の剥き身色をしたリ
ングに白と紫の宝石がちょこんと嵌めこまれているけど、その２つの宝石の位置がそれぞれの指輪に左右あべこべに嵌っている。
「指輪、よね･･？２つって事はもしかして･･」
「うん。私達、夫婦になろうよ。男女のそれとか関係なしにずっと一緒に過ごして行きたいから」
「ええっ！？」
千早が両手を私に見せるように広げながら大袈裟な程に背中を仰け反らせる。
「前に夢の事を話した時、本当に千早と離れたくない、千早とずっと一緒にいたいって思った。これを頼もうって思ったのはあの日の午前中だったから順序が逆なんだ
けど、もしかしたらこれを作ろうって思ったからそんな夢を見ちゃったのかもしれない。だけど今はそんな順序なんてどうでもいいくらいに千早を愛してるよ。だから
受け取って欲しいんだ」
まくし立てるように話してからすっかり冷めたお茶を一口飲んで、千早の前にジュエリーボックスを右手で押し出す。
「全く･･私の知らない間に準備なんかして･･しかも有無を言わさぬよう２つも用意するなんて。相変わらず春香は私の考えの上を行くのね」
「え、えへへ･･だってさ、こうでもしないと受け取ってくれそうにないもん。今日だってどれだけ隠すのに必死だったか」
実は前にオーダーメイドで作ろうと思った際、本命は勿論指輪でそっちは結構早く仕上げてもらった。だけど自分のオリジナルの物が欲しかったのも本当の事で、指
輪の事を黙っていたくて何度も何度も作り直してもらっては納得の行く物を仕上げたくてああして少し時間を稼いでいた。
「それで宝石店で私と離れたのね･･すっかり騙されたわ」
「えへへ･･ゴメンね。それでどうなの？受け取ってくれるの？」
「受け取るも何も･･何でも先走って考える春香に手綱を握る人なんて私以外にはいないもの。この指輪、是非受け取らせて戴くわ」
千早はちょっと涙を潤ませながらジュエリーボックスを手繰り寄せて大きく肯いてくれるのを見て私もやっと笑顔になれた。
「ありがと･･ホントにありがと･･これからもヨロシクね、千早」
「ええ、こちらこそ宜しく。それで幾つか質問があるのだけど、いいかしら？」
「うん、いいけど･･？」
千早は手繰り寄せた宝石を反転すると私に見せてくる。
「先ずはこの宝石ね。私も自分の誕生石がアメジストって事は知ってるのだけどそれとはちょっと違うみたいだし、春香のは確か４月だから確か･･ダイヤモンドよね？
だけどそれにしてはちょっと白みがかかっているから何なのかって事と、それとそれぞれ２つの指輪の宝石が左右あべこべになってる理由を知りたいの」
「えっとね･･」
私はもう一度ジュエリーボックスを反転させると千早に見せながら宝石屋の店長さんと話し合ったときの事を思い出しながら説明する。
「先ず嵌めこんである宝石はそれぞれファントムアメジストとホワイトサファイアって言って、ファントムアメジストが千早の、それからホワイトサファイアが私の誕
生日石になってるんだよ。それで左右あべこべにしたのは私の右側には千早が、千早のは右側に私がいるって意味合いなんだ。だからホラ、リングの内側に私のは
『from Chihaya』ってなってて、千早のには『from Haruka』って入ってるでしょ？」
私はジュエリーボックスから指輪を外してリングの内側を見せると千早も肯いて納得してくれた。
「それじゃあ最後の質問。さっき夫婦とは言ったけれど、どっちがどの役をするのかしら？」
「あっ！？え〜それは･･」
（あ･･そこまで考えてなかった･･）
まったく予想してなかった質問に口ごもっていると、千早が眉尻を下げて苦笑する。
「もぅ･･細かい事に考えが及んでないのも春香らしいわね･･でも、そういうことなら私はもう決まってるわ」
「･･へ？」
千早の意外な言葉に私は思わず目を丸くすると千早の言葉を待った。
「私には春香の様に率先して即行動に移すことはあまり出来ないし、どちらかといえば私を引いてくれる事が多いもの。それは今までの出来事で解ってるし、これから
も迷った私を導いてくれると信じている。だから私は春香を夫役に推薦するわ」
千早がそこまで信頼してる事が嬉しい事には違いはないんだけど、それでもやっぱり自分の事となると欠点が先走ってしまう。
「ええっ！？だって私、おっちょこちょいな所もあるし、こうして一緒に過ごしてると千早に迷惑かけちゃうかもよ！？」
私はおたおたと両腕をバタバタ振りながら弁解するんだけど、千早は全く動じないままでくすりと笑った。
「おっちょこちょいなのは今に始まった事でもないし、迷惑なのは一緒にいるのなら同じ事でしょう？それじゃあ逆に言うわ。私がそんな春香を支えてフォローしてあ
げる。これでいいかしら？」
「むぅ･･確かにそれはそれで助かるけどぉ･･」
「それなら決まりね。じゃあ･･はい」
「･･えっ？」
千早は顔を赤らめてはにかみながら静かにスッと左手を私の前に差し出してくる。
「指輪、付けてくれるんでしょう？」
「あっ、うんっ、付けてあげる」
私はジュエリーボックスから千早のを確認すると、右手で支えながら左手の薬指に嵌めこむ。一応私のサイズを基準にして作ってもらった指輪だからちょっぴり大き
めではあったものの、すぐに落ちそうな大きさでもないので安心した。
「へぇ･･並んだ白と紫の色合いもいいし、凄く素敵よ。それじゃあ春香のも付けてあげるわ。はい」
しげしげと指輪を間近で見つめてから千早が手の平を見せるように右手を差し出してくる。
「あっ、うん。お願い」
私は千早の右手に手を重ねるように添えると、くねくねと指輪を回しながら私の左手の薬指に嵌めていく。
「まさか、女の子同士でこうして指輪を嵌め合う日が来るなんてね･･っ」
「え？んぅっ！？」
千早は私の指に指輪を嵌めこんだところで右手で私の左手を掴むと急に引っ張りながら瞼を閉じると、その拍子で前のめりになった私の唇と千早の唇を重ねて合わせ
られ、あまりの急な行動に私は目を丸くして開けたまま固まってしまった。ふっと千早の唇が離れて瞼を開けると、未だに固まってる私を見てクスクス笑い出す。
「んっ･･ふふふ･･春香、すっかり目を丸くしちゃって･･そんなに驚いた？うふふ･･」
「むぅ･･当たり前だよぉ〜いきなりキスなんて思わないしさぁ〜」
唇が離れた事で私もはっと我に返ると思わずぶーたれる。そんな千早はテーブルを回りこんで私の左肩に頭を乗せると両腕を背中に回してきた。
「でもね･･私、凄く幸せよ。私も春香の事を愛しているからと言うのもあるけれど、何よりこうして春香と一緒に生活できる事に幸せを感じてる･･」
「千早･･」
左の耳から囁くように語る千早が愛しく思えて、私も千早の脇の下から腕を通して抱き返した。
「さあ、そろそろお風呂に入りましょう？これで温くしてしまったらまた沸かし直さないといけないし、一緒に入るんでしょう？」
「あっ、うん、そうだね。じゃあ行こっか」
お互いの両腕を解き、冷め切ったお茶を飲み干して片付けると廊下を歩いて自分達の部屋の前に来たところで千早に声をかけた。
「一つお願いがあるんだけど、もう一回制服を持ってきてもらえないかな？」
「え？でも、もう昨日の時点で高校生活は終わったんだし、必要が無いんじゃ？」
「うん、それはもう終わったんだからいいんだけど、今度は千早の制服を着てみたくなっちゃった。だから取替えっこしてみない？まぁちょっとしたコスプレ気分か
な？」
私のお願いに千早の目が丸くして顎に手をあてて考え込んでしまい、ちょっと間を開けてから顔を上げた。
「コスプレ、ね･･確かに私の学校の制服姿は着せて見てみたいとは思うけど･･私は春香の制服が似合わないと思うわよ？」
「そんな事ないって。それとさ、下着は着けないでね。どうせ脱いじゃうんだから」
「あ･･そ、そうね･･解ったわ」
千早も諦めたように僅かに首を縦に振り、私達はそれぞれの制服を持って戻ってくるとお風呂場へと向かい、着てる洋服と下着を脱いで浴室に入った。
「あ〜サッパリしたぁ〜」
お風呂から上がった私達はそれぞれのバスタオルを手にすると身体に付いた水滴を満遍なく拭き取る。ちなみに千早のは無地で真っ白、私のはカラフルな花柄のだ。
「ね、ねぇ･･やっぱり･･私も着ないといけないかしら？」
「んもぉ〜まだ言ってるぅ。往生際が悪いよ」
お風呂に入るなりずっと千早は制服を着るのに抵抗があるみたい。もしかすると下着を着けないのも理由の一つかもしれないけど。
「た、確かに春香の制服は可愛らしいとは思うわよ？だけどいざ袖を通すとなると･･」
「あ〜も〜はいっ！四の五の言わないで袖通しちゃいなよっ。あっ、Ｙシャツは同じのだから自分達のでいいよね」
私は自分の制服がかかってるハンガーからＹシャツのボタンを外して袖を通し、千早の制服がかかってるＹシャツと自分のスカートを渡した。
「もぉ･･しょうがないわね･･全く、強引なんだから･･」
千早も最後の方でブツブツと聞こえなかったけど、ようやく観念しておずおずとＹシャツに袖を通し始めた。一方の私はと言うとテキパキとＹシャツのボタンを留め
て行ってからスカートを履き、ファスナーを上げてからホックを留め金に嵌めるとネクタイを締める。
「へぇ･･やっぱりこうしてみると、なんだか新入生になった気分かも･･」
壁に添え付けてある大きい鏡に自分を写して身体をクネクネ回しながら見ると、見慣れぬ制服姿がとても新鮮に思えた。
「春香･･その･･へ、ヘンじゃない･･かしら？」
「わはぁ〜〜！かわいぃ〜〜〜！！」
私の制服を身に纏った千早がモジモジしているのを見て思わずテンションが上がる。今までミニスカートなんてステージ衣装以外殆ど履かなかっただけに、私のと同
じくらいに新鮮さを感じた。
「大丈夫大丈夫っ！ヘンじゃないよっ！凄く似合ってる！ほらぁっ」
千早の肩をを掴んで無理矢理鏡の前に立たせ、その後ろから私も見ると千早の顔がみるみる赤くなってくる。
「自分のなんて見慣れてないけれど、その･･わ、悪くないかも、ね･･確かに･･」
どうやら千早もまんざらではないみたいで、顔は赤いままでも留めてるリボンやスカートをヒラヒラさせている。
「でしょでしょ。んじゃあまだたっぷり時間もあるし、もう少しだけこのままでいてさ、ちょっとコーヒーでも飲もうよ。ねっ」
「ちょっと、春香、押さない、で･･んもぉ･･」
テンションが上り調子の私は千早の肩を掴んだまま押し出すように洗面所を出るとキッチンへと向かい、コーヒーを入れてもらうとリビングのテーブルを挟む形で座
布団に腰掛けるとテレビのリモコンを操作して電源を入れる。
「あの･･その･･はる、か･･あんまりジロジロみないで･･」
睡眠前なので薄めに淹れてくれたコーヒーを啜りながら千早の姿を見ていると、千早が目を泳がせながら私の方をチラチラ見る。
「え〜だってぇ･･千早の制服姿なんて滅多に見れないのに、そのうえ私の制服を着てるんだから見ない方が損だよぉ〜」
すっかりご機嫌な私はさっきから千早の方をばかり見てて、気分転換にと思ったテレビなんて殆どそっちのけだ。
「あ･･そ、その･･普段なら別に構わないんだけど、その･･下着が･･」
「あ〜なるほどぉ･･そう言われてみればそうだね。えへへっ」
言われて見ると千早のＹシャツの下から薄っすらとピンク色をしたものが目に留まる。それは私も同じ事で、どうやら千早も私がブラを付けてないことで顔を赤くし
てるみたいだった。
「もぅ･･笑って誤魔化さないでよ･･」
「あ、いや、別にそんなんじゃ･･チャンネルチャンネルっと」
ごまかすようにリモコンを持つとチャンネルを変える。
『あっ』
放送局を変えた途端私たちの声が揃ってハモる。たまたま変えた番組が今現在で行われてるであろう各都道府県の犯罪を放送してそれに対するコメントを出演してる
ゲストが答える番組だったんだけど、そのゲストコメンテーターの中に律子さんも加わっていた。
「へぇ〜律子さん、こういう番組にも出演してるんだ･･」
「なるほど･･確かに律子は知的な所を売りにはしていたけれど、確かにこういう番組は律子向きね･･」
さっきまでのやり取りがウソのように私たちは食い入るように律子さんに注目する。ＭＣさんから向けられる質問にも的確に、それもちゃんと要点を抑えて端的に話
す律子さんは私たちには出来ない芸当だ。
「さすがに律子はこう言う所は強いわね･･もしかするとこの先、ゲストではなくＭＣとしてやって行けるのかもしれないわね」
「うんうん。律子さんもさすがだけど、この仕事を引き受けたプロデューサーさんも凄いと思う。確かにこんな仕事なら律子さんの実力が発揮できるんだしね」
それからもすっかり番組に釘付けになった私達は結局最後まで観てしまい、スタッフロールが流れる頃には９時に指しかかろうとしていた。
「さて、そろそろ今度は私達が頑張る時間、かな？」
「はぁ･･春香、その言い方はちょっと洒落にならないわよ」
悪戯っぽく笑う私に千早はあからさまに肩を落として溜息を吐いた。
「えへへ･･んじゃ、行こっか」
リモコンの電源ボタンを押してテレビを消すと、マグカップとコーヒーカップを持ってキッチンで軽く水で洗い流すと千早の寝室へ行こうとしたところで止められた。
「ん？どうしたの？」
「ねぇ、春香。春香のお願いを聞いたんだから、今度は私のお願いを聞いてくれないかしら？」
「いいけど･･何？」
千早は目線を落として遠慮がちにもじもじしていると、ようやく顔を上げて私に顔を向けた。
「今日ベッド届いたんでしょう？そしたらその･･春香のベッドで寝てみたいな･･って」
「あ〜うん。それはいいけど、私のベッドってシングルだから狭いよ？、それでもいいの？」
「ええ、折角届いたのなら、ちょっと寝てみたいかなって興味が湧いてきて、その･･」
なおももじもじしてる私の制服を着てる千早がちょっと可愛らしく思えてきて思わず顔が綻ぶ。
「ふふっ、それでもって言うんならいいよ。あっ、でも枕はもう一つあった方がいいかな。１個で２人分は狭すぎるしね」
「解ったわ。じゃあ先に入って待ってて」
とてとてと歩く千早を見送ってから私はベッドの上のお布団を足元の方へ折りたたんでから座り、新しく買った猫が座ってる台座のスイッチを捻って明かりを点ける
と淡いオレンジの光が部屋中に行き渡る。
「うんっ、やっぱ買って正解だったな〜」
コンコンと開けっ放しだったドアから千早が叩きながら枕を持って入ってくるとキョロキョロと辺りを見渡す。
「お邪魔するわね･･へぇ･･やっぱりベッドの存在感って凄いのね･･それにこのスタンドも可愛らしいわ」
「えへへ･･実は千早が持ってるスタンドが結構気に入っちゃってさ、安物なんだけど触発されて買ってみたんだ」
「いいと思うわよ。猫のデザインがとても春香らしいと思うもの」
猫型のスタンドライトを間近でまじまじと見つめてる千早に私はぽふぽふとお布団を叩く。
「ねぇ、そろそろこっち、ベッドに来てよ」
「あ･･ええ･･それじゃあ、お邪魔します」
私が枕ごとベッドの壁際まで身体をずらすと千早は空けたスペースに枕を置いてから横たわる。
「そういえば、結婚式も戸籍も入れない私達でも、これがその･･し、初夜になる･･のかしら？」
「あ〜うん。言われてみればそうだよね。えへへ･･もう何度もしてるって言うのに、改めて思うと照れちゃうよね」
「ふふ･･確かもそうかもね。それじゃあ、よろしくお願いします」
「うん、よろしく。あ･･んっ」
右肘一つで身体を支えながら私の頬に両手を添えると、徐々に顔を近づいてきて瞼を閉じて唇を重ね合わせた。
「ちゅ･･ちゅっ、ちゅ･･んん･･ちゅっ、んぁ･･ちゅるん･･」
続いて私も瞼を閉じると啄むような軽いものから始まったキスは次第に深くなり、お互いの舌を求め合う。
「んむぅ･･ちゅるっ、はぁむぅ･･ちゅっ、ちゅるっ･･んん〜ぷあっ、んちゅっ」
時折舌を相手の口の中で遊ばせては舌から歯、歯から歯の裏側、そしてまた舌へと戻っては絡ませていくとだんだんと気分が昂ぶり始める。
（あぁ･･キスだけですっごく興奮する･･ほんっと、千早の舌って柔らかくていいなぁ･･）
今まで何度も味わってるはずの千早の舌の感触は未だに飽きが来なくて、いつまでも絡ませていたいと私に思わせてくれる。
千早の口の中から流れ出た唾液が舌を伝って私の口の中に入ってくると一旦離れて飲み込み、今度は私が千早の身体を引き寄せてキスをせがんで唇を合わせると、軽
く数回軽いキスをしてから舌を差し入れた。
「ん･･ぷぁ･･んっ、んくっ。ちゅる･･ん･･ちゅっ、ちゅ･･んむぁ･･」
私は一旦自分から絡ませていた舌を差し入れたまま動きを止めると千早のしたいままに絡ませてあげて、その合間に体勢を入れ替えて千早の身体に上半身だけ覆い被
さると再び舌を動かして千早の舌に絡めていく。
「ふ･･むぁぁ･･ちゅるっ、ん･･んん･･んむぅ･･んぅ･･」
私の中に溜まった唾液を舌を橋渡し代わりに流し込む。すると千早は私の唾液を一滴も逃さないとばかりに舌に絡ませては舌にこびり付いた唾液さえも奪っていくと、
一旦私の両方の頬にに添えてた手に力を込めて放し、口の中に広げると静かに、だけど大きく喉を鳴らせて飲み込むと頬を赤らめてうっとりする。
「ん･･んん･･んくっ。ふふ･･春香のって本当に美味しい･･何度も味わっているのにいつも飽きない･･くすっ」
「えへへ･･私もだよ。千早の舌が柔らかくって飽きないから、ずっと絡ませてたいって思う。ふふ･･」
お互い顔を間近で見ながらはにかみんでいるとどちらからともなく静かに笑みがこぼれると、再び唇を重ねてから僅かにずらして千早の下唇の柔らかさを味わうと、
千早も私の上唇に舌を触れてきた。
「はむ･･んっ、ん･･んっ」
千早の舌が上唇に触れてその形になぞってくるとザラザラとした舌先がこそばゆくて首筋の辺りがぞわぞわとむず痒くなり、お返しにとばかりに私も千早の下唇を全
体的に舐めていく。
「んっ、んん･･ふふ･･くふぐっふぁい･･」
僅かに千早の唇に力が入るともぞもぞと首が動いて微笑む。そんな千早が愛しく思えてくると身体を少しずらして両手を千早の頭を抱えるようにして首に巻きつけて
再び舌を絡ませる。
「ふぁむぅ･･もぉ･･ちはやってかわいい･･んむぅ〜」
舌を絡ませるだけが飽きてきたのか、千早は僅かに私の身体を押し上げてゆっくりと私の左胸へと手を伸ばしてくるとＹシャツ越しに私の胸を揉んでくる。
「んぁ、ん･･あむぅ･･んっ、んんぅ〜」
千早の優しい手つきが私の左胸に伝わってくるようで身体がぴくん、ぴくんと反応する。私も千早の優しさに応えるべく、回していた腕に力を込めて自分の首を少し
傾けて頭を押し付けると、さらに奥深くまで舌を差し入れるとより深く深く絡ませていく。
「んぷっ、んうぅ･･んっ、んぅっ、んぷぁ･･んっ、」
暫く続けていると千早は揉んでいた左胸から再び首の辺りに手が上がっていき、首元に辿り着くと器用に片手で少しずつネクタイを外し始める。私も右腕を千早の頭
から離すと首元に付いてるリボンを引いてしゅる、しゅると少しずつ解いていく。先に解けたリボンを引き抜いて床に落とすと、続けて千早が解いた私の襟に巻かれた
ネクタイを引いて床に落とした。
長い時間絡ませいていた舌を止め、吸い続けていた唇からちゅぽん、と空気を取り込む音と共に離れ、瞼を開けて上気して朱に染まった千早の顔を見つめると、千早
も静かに瞼を開けた。
「ぷはぁ･･ずっとキスしてたいけど、もっと気持ち良くしてあげるね」
「ええ、お願い･･もっと春香の愛、受けたい･･」
千早がこくん、と肯くのを見届けて長い髪を一度だけ左手で毛先まで梳くと、左肩に添えてから徐々に身体の下へと移動させて胸元に辿り着く。
「ふふっ、千早の乳首、キスだけでこんなにしちゃって･･」
スタンドの明かりに照らされた千早の乳首がＹシャツを押し上げ、自己主張するようにそこだけがちょこんと盛り上がっている。
「え･･ぁ･･は、はるかのせいじゃない･･あれだけずっとキス･･してるんだから･･」
見下ろすように私と自分の乳首を交互に見ながら苦しい言い訳をしながら顔を朱から赤に染まっていく。
「ふふ･･それじゃあ、ちゃんと責任取るから気持ち良くなってね･･んっ」
「ふあぁんっ！」
ちょっとシャレをきかせてから千早の左胸に吸い寄せられるように顔を埋めると口に含み、舌を使って隆起した乳首の先端をＹシャツ越しに舌でなぞると千早が一際
大きく嬌声をあげた。
「んぁ･･ぁ･･あんっ、はぁ･･んっ」
すでに固くなってる千早の乳首の周りをゆっくりと円を描くように舌でなぞってると、千早の手が徐々に伸びて私の背中に回ってくる。
「んん･･っ、あ･･は、るかぁ･･き、もちいっ、いけどぉ･･せつな、い･･んっ」
ちはやの要求を聞かずに私はなおもゆっくりと千早の乳首を丹念に舐めていく。やがて口の中から出てきた唾液が千早のＹシャツを濡らしていき、完全に濡れたとこ
ろで一旦止めた。
「えへへ･･見てよ、乳首がここだけ濡らしたからピンク色が出ちゃってるよ」
「はぁん･･ぁ･･ゃ、やだぁ･･み、みせないでぇ･･」
千早が再び瞼を開けて自分の乳首を見た途端、耳まで赤く染めて目を反らした。
「でもぉ、これじゃあバランス悪いから、こっちも同じようにするね。んっ」
「ちょ、ちょっと！はるか、やめ･･んんぁっ！」
私は僅かに身体をずらして反対側の右胸の乳首に顔を埋めると同じ要領で舌を動かす。
「はぁんっ、んぅ･･あんっ、あぁ･･だ、だめ、ってぇ･･いって･･んぁっ！」
（へぇ･･人によって感じ方が違うって聞いたけど、千早って右の方が感じやすいんだ･･）
どうやら千早は右側の方がより敏感みたいで、明らかに左の乳首よりも反応が強かった。千早の身体の事を改めて知るとちょっと嬉しくなると同時にイジワルしたく
なってきて、すっかり濡れた乳首から離れて次第に円を大きく描くと今度は胸全体を舌でなぞっていく。
「ん･･はぁ･･はるぅ、かぁ･･？な、なんで･･？」
それがどうやら千早には優しく感じたのか、僅かに瞼を開けると首を上げて私の方を見つめてくる。勿論そんな問いかけには応えずに続け、右胸全体を濡らし終わる
と再び左胸へと戻って胸全体を舐めていく。
「あぁ･･はる、か･･あっ、や、やめてぇ･･んっ」
「んっ。えへへ･･で、き、あ、が、り」
「はぁ･･はぁ･･やだぁ･･もぉ〜」
再び千早が首を上げて見ると、身に着けてるＹシャツの胸の部分が全体的に私の唾液でピッタリと張り付き、隆起した乳首までくっきりと透けていて、千早も慌てて
私の背中に回してた両腕を引っ込めて自分の胸を覆って隠す。
「う〜んこうして見ると裸よりえっちかも。たまに男子の話で小耳に挟むけどさ、何となく解るかな」
「そ、そんな感心なんかしてないでよ･･こっちはずかしいんだからぁ･･」
すっかり昂ぶってた気分が戻っちゃったのか、千早もさっきから恥ずかしそうに不満を漏らしている。
「しょうがないな･･じゃ、まずはその気にさせてあげなきゃね。ん･･んむぅ･･」
私は再び千早にキスをするとすぐに舌を差し入れて深くさせると、両手で覆っていた胸に右手を潜り込ませてＹシャツ越しにわさわさと動かす。
「うむぁ･･ふぁん･･んむぅ･･んっ、ぷはぁ･･んっ、んぅ〜」
次第に千早が覆っていた両手の力が抜けると左肘で身体を支えながらその両手を動かして胸を露にしてから唇を離すと、口元に付いた唾液が伸びて途中でぷつりと切
れた。口を半開きにしたまま一旦呼吸を整え、再び千早の胸元に顔を埋めると今度は右側の乳首を口に含んで唇で挟んで甘く噛んで軽く擦りつける。
「はぁ･･ん･･んっ、あんっ、んぁ･･」
一度火照っていたせいか少し乳首を甘く噛んだだけで千早がすぐに甘い声を漏らす。それからも私は乳首を吸ったり甘く噛んだりと繰り返しながら千早を昂ぶらせ、
千早の腕に力が込められていないのを確認すると、手で探りながら千早の首元のボタンに手をかけ、ふつ、ふつ、と一つ一つゆっくりと外していく。
「ん･･あぁ･･はる･･んっ･･か？んぅ･･」
Ｙシャツのボタンが外されている事に気付いたのか、時折甘い声を漏らしながら私の名前を呼ぶのを聞こえて一旦唇を離した。。
「んっ、ふぅ･･うん、そろそろ邪魔になってきちゃったから、脱がしちゃうね。身体、起こせる？」
覆いかぶさっていた身体を起こして千早の背中に左手を回して起こすのを手伝い、腰の辺りまでボタンを片手で外すと手首のボタンを外して上半身だけ脱がし、今度
は露わになった胸元に顔を近づけると、熱を帯びた胸全体に何度もキスをする。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅ･･んっ、ちゅっ」
「ちょ、とぉ･･はる･･かぁ、く、くすぐった･･ひゃんっ」
執拗なキスの応酬に千早の身体がくねくねと動いて悶える。構わずキスをしながら私は空いている右手で千早の左膝の内側に手を通して曲げさせて、そのままゆっく
りと何度も撫でながら足の付け根へと動かしていく。
「ん･･んぁ･･はぁぁん･･んっ、はるんぅ、かぁ･･じ、らさない、んっ、でぇ･･」
やがて撫でていた手は足の付け根に辿り着き、女の子に触れたところで中指をその中へと入れると、くちっ、と空気の混ざる音と共に中から蜜が流れ出て私の指にま
とわり付いてくる。
「んっ、あぁあぁ･･」
「んっ、千早の中、すごく熱くて気持ちいい･･このままずっとこうしていたいくらい･･」
千早の身体がびくびく波打つ女の子の中がきゅっきゅっと締め付けてきて心地いい感触が熱と一緒に指へと伝わってくる。
「はる、かぁ･･はぁ、はぁ･･ゆ、ゆびぃ･･う、うごかし、てぇ･･もっときもちよく、なり･･あんっ、なりたいのぉ･･」
「うん。じゃあ一回イッてもらうね。後でもっと気持ち良くしてあげる」
私は中に入れた指を往復させ、今まで焦らしていたせいもあってか急激に千早の女の子が激しく痙攣する。
「はぁん！ああっ！やぁっ！だめっ！きちゃうきちゃうのぉっ･･ぁぁあああぁぁ〜〜っ！！」
体がびくん、びくんと大きく痙攣を起こして千早が絶頂を迎えると、背中を大きく仰け反らせて支えにしていた私の身体から外れて力なくベッドに横たわった。
それから休息を挟んでから３回ほど絶頂と休息を繰り返し、途中で制服を脱ぎ捨てて全裸になって抱き続けた。
「はぁん･･はぅかぁ〜はぅあ･･んあっ･･んあぁんっ」
３回中３回とも焦らしてから達した千早はすっかり呂律が回らなくって半開きの口元の端から唾液が流れ出たまま全身を善がらせている。その度に密着してる私も次
第に身体が火照ってしまい、千早の左足を跨ぐ形で女の子を刺激し続けながら千早の左胸と右耳に愛撫を続けていた。
「んあ･･はぁ･･あっ、ちは･･やんっ、そん、なっ、くねらせ･･んっ、ないで･･んぁっ」
「はぁ、はぅはぁもぉ･･んくぅ･･きもちぃ、いいんれひょぉ･･あんっ、ひゃあ･･もっろぉ･･ひれあれぅ･･ああんっ」
「んひゃっ！？」
どうやら呂律が回らなくなってても意識はしっかりあるようで、両手で私のお尻を掴んでくるとむにむにと動かし始める。
「ち、ちょっとぉ！ちはやぁ･･ああっ！そこぉ････んっ！つよくはぁ･･あはぁ･･だ、だめぇっ！」
私自身お尻はそれほど感じないはずだったんだけど、身体が火照ってるのと千早の手が大きく動くせいでびくびくと反応して思わず耳たぶから口を離してしまう。
「やだぁっ！ああんっ！わたしも･･くうっ！だ、だめぇ･･イッちゃいそう･･」
「ほれららぁ･･ああんっ、ひっひょにぃ･･くぅんっ、ひふぃはひょ･･んあっ！」
千早が手を激しく動かすのもあって思うように加減が出来ず、何とか左手をとに刺激が強くしないように気を配るのが精一杯で、それ以外の密着してる身体に刺激が
伝わってくる。
千早の身体が大きく善がる事で掴んでた私のお尻と跨いでた足が女の子に強い刺激が伝わり、私が掴んでた左胸に力がこもるとほぼ同時に絶頂を迎えた。
「ああっ、だめぇっ！イッちゃう！わたしイッちゃうよぉっ！ああっ、んああぁぁ〜〜！！」
「わらしもぉっ！ふるぅっ！またきちゃうっ！くっ、くぅううぅ〜〜〜んっ！」
お互い別々の方向に背中を仰け反らせて達するとくてっと力が抜けて密着した状態で絶頂の余韻に浸り、先に回復した私はよいしょと声を上げて自分のと千早の後始
末を済ませてから毛布と掛け布団を一緒にかけて千早の回復が終わるのを待った。
「ん････は･･る、か？」
「うん、私はここにいるよ」
それから１０分ほど経った頃か、意識が戻った千早の右隣から寝そべったまま目をしぱしぱと瞬いてる所に囁くように声をかけた。
「わたし･･もしかして、きをうしなってた？」
「うん。私も千早のおかげで達せられたし、ちょっと満足してるよ。あっ、お水飲む？」
前に私がした事を思い出して尋ねてみると、千早が静かに肯いた。
「そうね･･ええ、おねがいできる？」
「ん。ちょっと待っててね」
私は一旦自分の分だけ毛布と掛け布団を剥いで千早を跨ぎながらベッドから出ると、そのままの格好でキッチンに入り、適当な大きさのグラスにお水を注いで戻って
くると、一度半分ほど飲んでから口に含み、千早に口移しで無くなるまで飲ませてあげる。
「んっ、んっ、ん･･んくっ。ふぅ･･ありがとう、美味しかったわ」
「ふふっ、お粗末さま。グラスは明日片付けるから、ここに置くね」
空になったグラスをローチェストの上に置いてから再びベッドに戻り、毛布と布団を一気に被りながらうつ伏せに寝て頭だけ千早の方へ向けると、千早は合わせてた
目を逸らして天井を見つめた。
「ちょっと･･下らない事話すわよ。本当に下らない事だから、あまり深く追求しないでね」
「え？あ･･うん」
天井を真っ直ぐに見つめる千早の表情が今一つ読めず、両腕を枕の下に潜らせると頭を枕に預けた。
「もしも･･もしもよ？私が男だったら、逆に春香が男だったら良かったのかって思う事があるの」
（私か千早が･･おとこぉ！？）
「え･･な･･ちょ･･？！」
普段の千早から想像も付かないような話に思わず頭をあげて目を丸くする。千早は布団の中が温まってきたのか両腕を布団から出すと両手を重ね合わせる。
「だから深く追求しないで。ちょっとした独り言だと思ってよ」
あんまりな事で思うように喋れない私に千早は目線だけ私に向けると眉尻を下げながらすぐにまた天井を見上げた。
「あ、うん。それで？」
「確かについ少し前であれば、恋人だった間柄であればまだ普通に男女の恋愛も出来たでしょうし、結婚も出来たわ」
「･･････」
千早の、それも今までに無いくらい真摯に天井を見上げて話してるの見ていると声をかけられなかった。
「前に宙月の頃の、いつだったかは忘れたけど春香は話してくれたわよね？お母さんに憧れてるって。子供が好きだって」
「あ･･うん、そういえば話したっけね」
それはまだ私達が宙月の頃の、駆け出しで仕事の選り好みが出来ずにいた遊園地でお仕事の合間の休憩中にはしゃいでる４歳くらいの子供と両親の姿を見てぼそっと
『ああいう風に子供と一緒に暮らしたいな〜』なんてこぼした事を思い出した。
「春香に指輪を渡された時にその事をふっと脳裏に過ぎったの。私では春香の望む形の結婚はおろか子供も作れない。そんな私に春香の幸せは満たせられないんじゃな
いかって」
いつのまにか千早の重ねていた両手がギュッと掛け布団を強く握ってる。それがどれだけ千早が考えていたのか、千早が不安に思ってることが良く理解できた。
「千早･･」
「あっ、だからと言って今が幸せじゃないって事ではないのよ？今は今で私も幸せだし、指輪を渡されて夫婦になろうって言われてちょっと驚いたけど、春香の支えに
なりたいと思ったのも本当の事よ。ただ、『もし』とかそういう考えに意味のないことは解っているわ。だけど、だけど考えてしまうのよ･･」
「千早、私と一緒にいてて、楽しくない？」
私の問いかけに千早は少し頭を私の方へ向けてくる。
「っ！そんな事ないわっ。春香と一緒に過ごすのも楽しいし、買い物だって私と違う考え方で選ぶから、それはそれで新鮮よ」
「じゃあ･･好き？」
「ええ･･好きよ」
「愛してくれてる？」
「ええ、愛しているわ。春香に負けないくらい」
ちゃんと言葉にしてくれるのが嬉しくて、私はうつ伏せの状態からもぞもぞと身体を動かして横になると、自分の右の手の平を千早の右手の上に添えた。
「えへへ･･うん、私も千早の事が好きだし、千早の事を愛してるよ。今はきっとそれだけでいいと思うんだ」
「それだけで･･？」
「幸せの形ってさ、人それぞれじゃん？それに人によってはその時々で度合いも状況も変わる想いもあれば、変わらない想いもある。決まりきった枠なんて存在しない
んだよ、きっと」
「枠のない幸せの形･･不定形な存在･･」
千早が再び天井を見上げる。千早に添えていた右手を離してから私もそれに倣って身体を仰向けになる。
「お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいて、家族が一緒に笑い合って笑顔を絶やさない毎日。確かにそれはそれでステキな事だし、家族として理想の形だと思う
よ？その時はそれを現実にしたいなって心からそう思った」
千早の肩が一瞬震えて僅かに腕から先がぴくんと動くのを見逃さなかったけど、私はあえて見ないフリをして言葉を続けた。
「だけど、それが月日が流れてプロデューサーさんに嫉妬してるんだって自覚したのと同時に千早に恋をしてるのが解って、ずっと過去を遡って出会った頃を思い出し
て一目惚れだった事も解って、そして告白した。それからの毎日は凄く充実してるんだって実感してるよ」
私はもぞもぞと身体を反転してぴったりくっつくと、右腕を回して千早の左腕を掴んで千早の身体を片腕で抱きしめる。千早に触れた肌が暖かくてすごく心地良か
った。
「はるか･･？」
そんな私を千早は僅かに頭を動かして間近にいる私を見つめる。一瞬だけ目が合って心臓がトクンと動くとばくばくと大きく動いて思わず目を瞑った。
「確かに心なんて不定形なものだし、新しい恋をすれば変わっちゃうかもしれない。だけど指輪を嵌めた以上、私の心は千早という『形』から変えない。それは大きく
もなったり小さくもなったりするけど、その『形』からは変えないよ。だから、千早も今の私の天海春香の『形』から変えないで。別な方向を見て形を変えちゃって、
自分の素直な気持ちの『形』から変えちゃったら意味、無いと思うな」
「春香･･」
「私は千早が好き。それと同時に愛してもいる。今だって千早の肩を掴んで目が合うとドキドキしちゃうし、抱いたり抱かれたりすると心臓がバクバクして止まらない。
そんな風に思えて、そんな風にさせてくれるのは千早だけなんだよ」
「春香･･ありがとう･･思い切って話して良かったわ･･」
千早の身体がもぞっと動いて私と向き合う形で横になると空いている左手を掴んできた。
「千早は考え過ぎるきらいがあるんだよ。そんな時は、自分の気持ちを優先にしよ。ね？」
「ええ･･私、ちょっと深く考え過ぎていたみたい」
千早は僅かに目線を下げて俯き気味になり、私は首を僅かにふるふると振った。
「私の事を想っての事だもん。気持ち、嬉しいよ」
「ありがとう･･それじゃあこれからは私も気持ちを揺るがさないよう、春香の事は『あなた』って呼ぶわね」
（････え？あな、た？）
「え？別に今まででもいいんじゃ･･？別に私は春香でも構わないけど･･？」
さっき以上の突拍子もない言葉に思わず目をしぱしぱと何度も瞬きをすると、千早は悪戯っぽくふっと頬を緩ませる。
「あら？役とは言っても私達の間柄は夫婦なんでしょ？それなら、私の旦那様を呼ぶのに何の制約があるのかしら？」
「うﾞっ･･そ、そりゃあ確かに制約なんてないけどさぁ〜」
「それじゃあ決まりね。あ･な･た。ふふ･･うふふ･･」
すっかり千早に話のリードを許してしまい、それが嬉しかったのか千早がさっきから肩を揺らして笑ってる。それもやがて止まり、ふっと優しい笑みを浮かべると顔
をポッと朱に染めた。
「ねぇ、キス、してもいいかしら？」
「千早のキスを断る訳ないじゃん。ん･･」
私が瞼を閉じて唇を僅かに窄めると暖かい感触が伝わってくる。ほんの数秒のキスで舌も入ってこなかったけど、私の心をいっぱいに満たしてくれた。
「えへへ･･えいっ」
「きゃっ！？はるか！？」
お礼とばかりに私は千早を仰向けに寝かせて身体の半分ほど覆いかぶさると、千早の首に右腕を巻きつける。一瞬慌てて私の名前で呼んだみたいだけど、そこはあえて
スルーするのがお約束だと思う。
「今夜はさ、このままで寝かせて。もう結構時間経っちゃってるし、そこまで感じてないでしょ？」
「え、ええ･･一瞬身体がぴくっとなったけど、それ程じゃあ･･」
「じゃ、寝よ。んしょ、と」
空いてる左腕をいっぱいに伸ばしてネコ型のスタンドに手を伸ばし、スイッチを捻って電気を消すとオレンジに染まってた空間が一瞬にして真っ暗になる。
「そんじゃ、おやすみ。千早」
「ええ、おやすみなさい･･あなた」
千早も私の背中に手を添えると動かなくなり、千早の温もりを一身に浴びてるとやがて睡魔が襲ってきて深い眠りについた。
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すごい良かったです