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ホワイトデー。
バレンタインデーのお返しを、主に男の人がする日。
ちょっと前まではこんな日にプレゼントをするなんて、って思ってたけど、今は違う。
もちろんバレンタインにもお互いにチョコレートを贈り合った。
それでおあいこかもしれないけど、そんなの関係ない。
いつだって、恋人らしいことができる口実が欲しいんだ。
だからこの機会に、ちょっと大胆なことをしてみようって思った。

「あーずーさーさんっ」
「あら、なにかしら真ちゃん?」

休憩室のソファーに座っていたあずささんの隣に座った。

「今日ってホワイトデーじゃないですか、プレゼントもってきたんですよ」
「あら、うれしいわ」

にこにことうれしそうにしているあずささん。
そうさせてるのが自分だって思うと、こっちもうれしくなる。

「じゃあ、ちょっと目をつぶってくれませんか?」
「こうかしら?」

あずささんは目を閉じていてもすごいきれいだ、なんて思っている場合じゃなかった。
ちゃんと目を閉じているか目の前で手をひらひらさせたり、
周りに誰もいないかきょろきょろと……挙動不信だけど、恥ずかしいから仕方ない。
安全を確認して、隠していた飴をとりだして自分の口にほうりこんだ。
そして、目を閉じているあずささんの顔に手を添えて、そっと唇を押し当てた。
ボクの口の中から、あずささんの唇へと飴を送り出す。
あずささんは抵抗することもなく、そのまま飴を受け取ってくれた。

(やった! 口移し成功!!)

目的も達成したし、恥ずかしさもあってすぐに唇を離そうとすると

ガシッ
「ん?」

あずささんの両手が、離れようとするボクの頭をしっかりと押さえ込んだ。

「んむぅっ!?」

目を白黒させるボクの口の中に、先ほど送り出した飴があずささんの舌と一緒に帰ってきた。
そのままボクの舌をからめながら、飴を溶かし始めるあずささん。
押さえつけられ、飴が甘いのかあずささんの舌が甘いのか、
乱暴なのか優しいのか訳が分からなくなって、抵抗する気も溶けていく。
ただ、唇も舌も気持ちいいのはよくわかった。

「おいしかったわ、真ちゃん」
「はぁ……はぁ……どういたしまして……」

飴がすっかり溶けきったところで、やっと解放された。
ボクは肩で息をしてるのに余裕そうなところとか、乱れた前髪をそっと直してくれる気遣いとか、ちょっとずるい。
あれほど好き放題に、蹂躙と言っていいほど暴れ回ってたのに。
でも、あずささんに蹂躙されてる。そう思うとちょっとゾクゾクするかもしれない。

「それでね、真ちゃん」
「なんですか?」

やっと息が整ってきた。
そういえばいつの間にかソファーに押し倒されている……なんて考えてたら、あずささんが小さな包みを取り出した。

「私も持ってきたのよ」

可愛らしいラッピングの中に、いくつかの飴が見える。

「受け取ってくれるかしら?」
「……はい、よろこんで」

そういって、あずささんの背中に手を回した。


(……おそまつさまでした)

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