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私はあいつが嫌い
だって、あいつは…――――――



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自分で言うのも変かもしれないけど、私は負けず嫌いよ
例え間違ってるのが自分だとしても正直に謝るのには抵抗があるタイプだと思うわ
だって仕方ないでしょ、そういう性分として生まれ育って来たんだもの
今更変えれないし変えようとも思って無い

でも、そんな私も今の状況には少し負けを認めたくなって来る

「それでは、何なりとお申し付け下さい。お嬢様」

……正直後悔してるわ
発端はほんの些細なこと
久々の休暇がこいつ…真と偶然重なって、偶然事務所でバッタリ出会ったってだけ
どうせ暇だしと二人で話したりテレビ見たりしてたけど、途中で飽きて来てね
真は「外に行って遊ぼうよ!」って騒いだんだけど、
そんな気分じゃないわって言ったらまた口喧嘩に…まあそれは別にいいわね…
結局何かゲームでもしようってなった訳だけど、ただするだけじゃツマラナイじゃない?
それで私が提案した訳よ
「じゃあ負けた方は勝った方の召使いになるってのはどう?今日一日ね。
 そうね、あんたが負けたら一日執事よ。その代わり、私が負けたらあんたのメイドになってあげるわ」
真は馬鹿だからすぐ乗って来たわ
勝負はあっち向いてホイ10連続勝負
結果は8勝2敗で当然私の勝ち、あいつは名前の通り真っすぐすぎるのよ、目の動きでバレバレね
まあここまでは想定の範囲内だった訳だけど、ここからが誤算だったわ…

「…………あ〜もう、わかったよ!伊織の執事になればいいんでしょ!
 悔しいけど約束だもんね!」

……まさか本当に乗って来るなんてね……
他のアイドル仲間相手ならともかく、真は私相手だと何かと突っかかって来るから
てっきり「もう一回勝負!もう一回!ね!?」とか言って来ると踏んでいたのよ
それを何度も何度も負かせてイジり倒すっていうそういう算段だったのに、こう素直に来られるとは思って無かったわ…

で、今に至る

「お嬢様?何かございませんか?」

真の方は完全に演技モードに入ってる、私も後戻りはできない
正直真の演技は苦手なのよね
何故かって?そりゃ…ね…私だって、女の子なのよ…

こいつはこの事務所の、いや、数多のアイドルの中でもかなり異質な存在だと思う
美少年とも美少女とも採れる端正かつ綺麗な顔立ち、ハスキーな声、こいつ自身の人柄、そしてこの演技力
特に目を引くのはやはり容姿でしょうね、
あんなイケメンフェイスで迫られて心が揺さぶられない女の子はそうそういないわ
……私だって例外じゃない訳よ
付き合いが長いから普段はどうってこと無いけど、こういう演技をされるとどうしても意識してしまう
だからこいつの演技は苦手なのよ、女の子にドキドキさせられるなんて屈辱じゃない!
しかも私だってアイドルなのよ!何かすごくムカツクわ!
だけど、ここで「やっぱりやらなくて良いわよ」とは言えない
だって、そんなことしたら私がこいつの魅力に落とされた…負けた、何よりの証じゃない
私は雪歩や美希とは違うわ、そんなこと絶対に認めない
もはや真じゃなくて私の方が罰ゲーム状態だけど、いいわ、やってやろうじゃない…!

「そうね、じゃあ早速何かして貰おうかしら?
 まずは…………」




 ――――――――――――――――――




勝った…!
内心で私はそう叫んだ
時刻は既に午後6時、そろそろ仕事を終えたプロデューサーや他のアイドル達が帰って来るはず
この状況を終わらせるには良い口実よね
途中どういう経緯だったか全身マッサージされたりお姫様抱っこされたり色々ギリギリだったけれど、私は勝った!
このスーパーアイドル伊織ちゃんが真如きに負けるはずが無いのよ!
ああ、今はすごく気分が良い、素晴らしいわこの達成感…


「真、そろそろみんな帰って来る頃だろうし、もう止めていいわよ」

「えっ、本当?よかった〜…正直いつまで続ければいいのかドキドキしてたよ。
 この演技、実は結構疲れるんだからさ」

「まっ、所詮それが真の限界ってことね。
 私だったら本当に一日中続けられるわよ」

「ふ〜ん……伊織、何かやけに機嫌がいいね。何か良いことでもあったの?」

「べっつに〜、何も無いわよ♪ニヒヒッ♪」

「……納得行かないなぁ」

「まあ、あんたには一生分からないでしょうね。
 今の私のこの達成感が!」

「達成感?何の話?」

「ヒ・ミ・ツ、よ♪」

「? 変な伊織……?」

「ぜんっぜん変なことなんて無いわよ♪ニヒヒッ♪」

「………………」


急に真の表情が曇った
意味がわからない、今の流れ、何か変な所でもあったかしら?


「…?何よ、急に黙って」

「……伊織がさ、羨ましいかなって……」

…はあ?

「はあ?」

心の声と表の声が同調する、突然何を言い出すのよこいつは

「今日さ、ずっと思ってたんだ。
 腕も足も細くて、体も軽くて、声も笑顔も可愛くて、すごく女の子らしくて…アイドルらしくて…
 僕も伊織みたいな女の子になりたいけど……そうはなれないんだろうなぁって思って…」


…………こいつ


「…………」

「……ごめん、こんなこと伊織に言ったってしょうがないのに…」


…………腹が立つ


「…真っ!!」

「!? は、はいっ!?」

「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、そこまで馬鹿だと思わなかったわ!」 

「な…何だよ!?
 僕だって真剣にさ!」

「黙って聞きなさい!!」

「……はい……」


ムカツク
ムカツク
ムカツク
もういいわ、好き放題言ってあげる


「確かにね、あんたは全然女の子らしく無いわよ!」

「うぐっ……!」

「顔はイケメンで、声質も可愛いというよりはカッコイイ系で
 性格は馬鹿でどうしようも無いぐらい真っすぐで、そしてファンは女の子ばっかり!」

「ううっ……」

「けどね、あんたは大きな勘違いをしてるわ!」

「…?」

「あんたはね、すっごく可愛いのよ!」

「…………へっ?」

このキョトンとしたアホ面、写真に取っときたいぐらいだわ

「わかんないの!?ホント、あんたってズレてるわね!」

「ど、どういう…?」

「女の子らしさと可愛いはイコールじゃないってこと!
 その…上手く説明出来ないけど、あんたは普段から可愛いのよ!」

「そ…そうなの…?」

「そうよ、何ならプロデューサーや雪歩達にも聞いてみるといいわ。
 きっと、私と同じことをあんたに言うでしょうね」

「そう、なんだ…本当に…?」

「何でこの私が嘘吐かなきゃなんないのよ…」

「そう……そうなんだ……えへへ……」

頬に手を付きながら、真は嬉しそうに笑っている
……ほら見なさい、こんな顔見せられて、可愛く無い訳無いでしょうが
ホント、馬鹿ねこいつは…

「大体、私みたいになりたいなんて、ふざけるのも対外にしなさいよね。
 あんた如きがこの伊織ちゃんと対等になろうなんておこがましいにも程があるわ」

「伊織……」

「? 何よ?」

「ありがとう。
 伊織が僕のこといつも見ててくれるってわかって、何だか嬉しかったよ」

真は屈託の無い笑顔を私に向けてそう言った

「か、勘違いするんじゃないわよ。
 あんただって一応765プロの一員なんだから、そんなツマラナイこと気にして調子悪くされたら困るってだけよ」

「あはは、そうだよね。
 でも、伊織のおかげで色々気持ちが吹っ切れたような気がする。
 だから、やっぱりお礼を言わせて欲しいなって。
 ありがとう、伊織」


…やっぱり、私はこいつが嫌いだ
だって…――――――


「あっそう、好きにしなさいよ。
 …私、今日はもう帰るから」

「えっ?みんなと会っていかないの?」

「あんたの相手してたらもう疲れたのよ。
 プロデューサー達にはよろしく言っておいて」

「ちょ、ちょっと伊織!」


引き止めようとする真の声を振り切って私はさっさと事務所を出た
もう日が沈み辺りは暗く、少し寒い
でも、何故だろう
心も体も、すごく温かい


「…あーもう、ホント、イライラするわね…あいつといると…」


私はあいつが…真が嫌いだ
だって…あいつは…



どうしようも無いぐらいカッコよくて……
可愛くて……
そして…………


「結局、あいつに負けちゃったじゃない……私の馬鹿……」


どうしようも無いぐらい、優しいから――――――

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