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「はぁぁ・・・」

大きなため息が聞こえてきたので顔を上げると、そこには愛しい恋人の困ったような顔があった。
・・・クーラーが聞きすぎて寒いのかしら。

「真ちゃん?どうしたの?」

けれど、彼女の顔は逆に赤い。寒いわけではなさそうだ。
じゃあ、悩み事かしら。
それなら協力しなければ、と読んでいた本を閉じて彼女の近くのソファに座る。
彼女は―真ちゃんはちらりと私のほうを見ると、もう一度大きなため息を吐いた。
こ・・・これは、私が悪いのかしら?

「・・・どうしたのー?」
「え!?あ・・・う・・・」

口をパクパクさせる真ちゃんはかわいい。
けれど、このまま放置というわけにもいかないし、真ちゃんの悩み事なら手伝ってあげたい。

「私・・・何かしちゃったかしら?」
「あっ!そういうわけじゃないんです!」
「じゃあ、どうして?」

・・・無理にとは言わないけれど。でも、聞きたいな。
真ちゃんはしばらく目をさまよわせていたが、やがて覚悟を決めたのかまっすぐに私の目を見て――。

「あの・・・。ボク・・・」
「なぁに?」
「あずささんに、渡したいものがあって・・・」

真っ赤になった真ちゃんは、かわいくて、そしてとても綺麗だった。
最近の真ちゃんは男女どちらからも人気がある、まさにトップアイドルだ。
少女らしく、そして大人っぽく、けれどもどこかかっこいい――。
そんな不思議な魅力が、多くの人を惹きつけるのだろう。

「プレゼント・・・?なにかしらー?」
「いや、そんなに大した物じゃないというか、なんというか・・・」
「・・・?」
「とにかく、そんなに期待しないんでほしいんです!」

真ちゃんったら。そんな風に言われたら、余計に気になっちゃうわ。
そう思ったけれど、真ちゃんには内緒にしておこうととりあえず頷いた。
がさごそと真ちゃんがバッグの中をあさる。
何が飛び出てくるのかしらー?

「これです」
「・・・?」

真ちゃんの手の中には、少し大きめの紙袋。
あけてみると、淡い紫色のものが入っていた。
これは・・・。

「・・・マフラー?」
「うう・・・だからイヤだったのに・・・」

真ちゃんは完全に頭を抱え込んでいる。
今は真夏。水着を着る機会が多くなって大変だわ、なんて思っている時期。
なのに、マフラー?

「それ、12月から編んでたんです。でも、仕事がどんどん忙しくなって、編み終わったのが昨日で・・・」

なるほど、よく見ると所々網目が整っていないところがある(といっても目立たないが)。
きっと彼女はコツを誰かに聞きながら、何度も解いてやり直しやり直し編んだのだろう。
そういえば、12月の初めに春香ちゃんと編み物をしているところを見かけたっけ。
あの時は私に作ってくれるんじゃないかーってちょっと期待してたのだけれど。

「・・・ふふっ」
「やっぱり変ですよね、真夏にマフラーなんて。何回もやり直したけど、やっぱりうまくいかないところがあって・・・」

そうじゃない、そうじゃないのよ。
私の目の前でうなだれている真ちゃん。頭を撫でるとちょっと嬉しそうに笑った。
ステージの上でくるくると舞う小さな王子様は、私の前ではかわいらしいお姫様になる。
本当に・・・。本当に、かわいい、私の真ちゃん。

「ううん、嬉しいわ、真ちゃん」
「え?」
「今使えなくても、今年の冬に使えばいいのよ」

くる、とマフラーを巻いてみせる。
冷房で冷え切った体にはちょうどよかった。

「どうかしら?」
「あ・・・、似合ってます。すごく!」
「うふふ・・・ありがとう」

笑顔が戻ってきたわねー。やっぱり、真ちゃんには笑顔だわ。
少し惜しいけれど、マフラーをはずして袋の中にしまう。
そして、ちょっと照れくさそうに笑っている真ちゃんに囁くのだ。

「だから、来年も、再来年も、ずっとずっと一緒にいましょうね?」

真ちゃんは今度こそ最高の笑顔で、はい、と返事をした。

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