最終更新:ID:UpdtzFB/8w 2012年08月13日(月) 17:30:31履歴
「はぁぁ・・・」
大きなため息が聞こえてきたので顔を上げると、そこには愛しい恋人の困ったような顔があった。
・・・クーラーが聞きすぎて寒いのかしら。
「真ちゃん?どうしたの?」
けれど、彼女の顔は逆に赤い。寒いわけではなさそうだ。
じゃあ、悩み事かしら。
それなら協力しなければ、と読んでいた本を閉じて彼女の近くのソファに座る。
彼女は―真ちゃんはちらりと私のほうを見ると、もう一度大きなため息を吐いた。
こ・・・これは、私が悪いのかしら?
「・・・どうしたのー?」
「え!?あ・・・う・・・」
口をパクパクさせる真ちゃんはかわいい。
けれど、このまま放置というわけにもいかないし、真ちゃんの悩み事なら手伝ってあげたい。
「私・・・何かしちゃったかしら?」
「あっ!そういうわけじゃないんです!」
「じゃあ、どうして?」
・・・無理にとは言わないけれど。でも、聞きたいな。
真ちゃんはしばらく目をさまよわせていたが、やがて覚悟を決めたのかまっすぐに私の目を見て――。
「あの・・・。ボク・・・」
「なぁに?」
「あずささんに、渡したいものがあって・・・」
真っ赤になった真ちゃんは、かわいくて、そしてとても綺麗だった。
最近の真ちゃんは男女どちらからも人気がある、まさにトップアイドルだ。
少女らしく、そして大人っぽく、けれどもどこかかっこいい――。
そんな不思議な魅力が、多くの人を惹きつけるのだろう。
「プレゼント・・・?なにかしらー?」
「いや、そんなに大した物じゃないというか、なんというか・・・」
「・・・?」
「とにかく、そんなに期待しないんでほしいんです!」
真ちゃんったら。そんな風に言われたら、余計に気になっちゃうわ。
そう思ったけれど、真ちゃんには内緒にしておこうととりあえず頷いた。
がさごそと真ちゃんがバッグの中をあさる。
何が飛び出てくるのかしらー?
「これです」
「・・・?」
真ちゃんの手の中には、少し大きめの紙袋。
あけてみると、淡い紫色のものが入っていた。
これは・・・。
「・・・マフラー?」
「うう・・・だからイヤだったのに・・・」
真ちゃんは完全に頭を抱え込んでいる。
今は真夏。水着を着る機会が多くなって大変だわ、なんて思っている時期。
なのに、マフラー?
「それ、12月から編んでたんです。でも、仕事がどんどん忙しくなって、編み終わったのが昨日で・・・」
なるほど、よく見ると所々網目が整っていないところがある(といっても目立たないが)。
きっと彼女はコツを誰かに聞きながら、何度も解いてやり直しやり直し編んだのだろう。
そういえば、12月の初めに春香ちゃんと編み物をしているところを見かけたっけ。
あの時は私に作ってくれるんじゃないかーってちょっと期待してたのだけれど。
「・・・ふふっ」
「やっぱり変ですよね、真夏にマフラーなんて。何回もやり直したけど、やっぱりうまくいかないところがあって・・・」
そうじゃない、そうじゃないのよ。
私の目の前でうなだれている真ちゃん。頭を撫でるとちょっと嬉しそうに笑った。
ステージの上でくるくると舞う小さな王子様は、私の前ではかわいらしいお姫様になる。
本当に・・・。本当に、かわいい、私の真ちゃん。
「ううん、嬉しいわ、真ちゃん」
「え?」
「今使えなくても、今年の冬に使えばいいのよ」
くる、とマフラーを巻いてみせる。
冷房で冷え切った体にはちょうどよかった。
「どうかしら?」
「あ・・・、似合ってます。すごく!」
「うふふ・・・ありがとう」
笑顔が戻ってきたわねー。やっぱり、真ちゃんには笑顔だわ。
少し惜しいけれど、マフラーをはずして袋の中にしまう。
そして、ちょっと照れくさそうに笑っている真ちゃんに囁くのだ。
「だから、来年も、再来年も、ずっとずっと一緒にいましょうね?」
真ちゃんは今度こそ最高の笑顔で、はい、と返事をした。
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