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恋バナをしよう。そう、これは女子高生のおしゃべり、その一つの話題でしかない。
別に彼女の好きな人を探ろうとかそんなわけはない。
そんなわけじゃ、ないのだけれど。

「ね、ねぇ、真ちゃん」
「ん?」
「真ちゃんは好きな人とか……いる?」

真ちゃんは一瞬で真っ赤になった。
……ああ、いるんだ、好きな人。顔真っ赤だよ?
私はそういってからかったのだけれど、心の中は穏やかではなかった。
だって私に思いが向くことなんてないのだから。

「そっ、その……いる、けど。片思いっていうか、」

そうなんだ、私と一緒だね。今度の言葉は飲み込んだ。不思議と苦い。
真ちゃんの顔はまだ赤かったけれど、それは照れているからだけじゃない、と思う。
だって、一瞬泣きそうな顔だったから。私も同じ。

「ねぇ、……その人、誰?」
「……あー、えっと、」

きょろきょろ周りを見渡しているけれど残念、誰もいなかった。
私は好奇心旺盛な、友達の好きな子が知りたい普通の女の子。真ちゃんの好きな人が私であればいいなんて思っていない。
真ちゃんは女の子だから、他の誰より女の子だから、女の子を好きになるわけないのだ。
彼女が好きになるのは王子様、ただ一人だけ。

「……やさしくて、でも、決めるところは決める人で、」
「プロデューサー?」
「ううん。……年上じゃない、よ」

意外。真ちゃん、年上の子が好きなイメージなのに。
同級生だろうか。でも、真ちゃんの通っている学校は女子高だって聞いたけれど。
あるいは年下かもしれない。真ちゃんに上手に甘えてくる後輩とか。

「いつでも会えるの?」
「うーん、大体は。もちろん会えない日もあるけど」

真ちゃんは学校に行く日のほうが少ないとこの前言っていたから学校の人じゃない。
大体いつも会える人、そこまで来ると大分絞られてくる。
同じアイドルとか、……同じ事務所の人とか。もしかしたら私も知っている人かも。
そこまで来て急に、名前を聞きたくないという恐怖心が溢れてきた。

「そうなんだ。……その人のこと、好き、なんだね」
「……そう、だね。好きだよ」

さびしそうに笑う。私の知っている真ちゃんはこんなに大人のように笑う子だったかな。
これ以上聞くと私が泣きそうだ。片思いしている真ちゃんに片思いしている私、なんて救いようのない現実。
せめて真ちゃんの"王子様"が真ちゃんのことを好きでありますように。そうすれば私も諦められるのに。

「……そういえば、さ」
「なあに?」
「雪歩が好きな人は、いるの?」

ボクだけ言うのは不公平だよ。にっこり笑って。
私の好きな人。……いるよ、目の前に。
けれど、真ちゃんにはもう片思いしている人がいるのだ。私の好意なんて迷惑でしかない。
だから私の好きな人の名前は言わなくていい。私が恋心を抱いている、その事実を知って欲しいだけの我が侭。

「いるよ」

一瞬の沈黙。私の顔は今泣きそうだ。私の恋の矢印の残骸が、涙になろうと雨のように降ってくる。
私の大好きな真ちゃんは、どんな反応をしているのだろうか。ちらりと横目で見てみると。
……真ちゃんは泣きそうな顔で、寂しそうに笑っていた。

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