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縺れ絡まった赤い糸の続き。


今日の朝のことをぼんやりと思い出す。
雪歩はかわいいよ、だって。
それはきっと、そういう意味ではなくただただ、褒めただけなんだろう。
それでもそれでも、……天にも昇るくらい、嬉しいのです。

「はい、それじゃあこれで」
「ありがとうございましたー」

テレビの収録が終わると、早速スタッフさんがこちらへ来て。

「よかったよ雪歩ちゃん。イメージぴったりだった!」
「あ、ありがとうございますぅ」

真ちゃんのおかげだ。
真ちゃんの一言が私に魔法をかけて、私はいま、お姫様になれるの。
ああ、ごめんなさい真ちゃん。私の思いは迷惑だろう、でも。

「また、次も頼むよ」
「はいっ、ありがとうございます!」

今日これからの予定はないから、事務所に戻らなきゃ。
もしかしたら真ちゃんに会えるかもしれない。そう、もしかしたら。



「ただいま戻りました」

事務所の扉を開けると、小鳥さんも社長もいなかった。
いるのは律子さんだけ。予定表にはこれからの時間、誰にも予定が入っていないから帰ってしまっているのだろう。
その律子さんももう帰る支度をしていて、私を見て驚いているようだった。

「雪歩?どうしたの、こんな時間に」
「あ、……ちょっと、明日のことで。大丈夫です、戸締りなんかはやっておきますね」

出来たら一人のほうがいいなぁ。口からとっさに嘘が出る。
律子さんはそのまま荷物をまとめて「気をつけて帰りなさいね」という言葉を残して帰っていった。
やさしいな。律子さんの足音が完全に遠くなってから思う。

「ああ、一人になっちゃった」

自分で望んだのだけれどね。耳鳴りのような静かな世界に沈みきって。
ただ時計の音が、カチカチと、不気味に響く。
……溢れる思いが止まらない。昨日のこと、今日のこと。
一人ぼっちだからかな。人に聞かれないからだ。弱虫め。

「真ちゃん、……好きな人いるんだ。そうなんだ」

目の前がぼやけていく。昨日も、今日の朝も流れることのなかった涙が今、流れているんだ。
告白もしないうちに失恋なんて。この前歌ったそのままだ。
ねぇ、ねぇ、真ちゃん。好きなんだ。大好きなんだ。愛しています、今も、昔から。
思うだけじゃ足りなくて、ついに口にしてしまう。本当は言ってはいけないのに。

「……っ、ま、こと、ちゃんっ、……、」

ああどうしよう、溢れる思いが止まらない。
もともと、おかしかったのは私。女の子を好きになるなんて。
真ちゃんが男の子扱いされるのがイヤだっていうのは知っている。それでも、好き。
真ちゃんが、女の子だから。今の真ちゃんだから好きなんだよ。

「好き、好き……大好き、なのに!」

ダメだよ、好きが止まらないの。
醜い女の嫉妬だと、そう、冷たい目で一蹴されてしまったほうがまだましかもしれない。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、かわいいって言ってくれたのにこれじゃダメだね。
それでも、今だけ、今だけ泣かせてよ。私の世界が終わった、この日だけは。

「ぅ、……ああ、ひ、……っ……あぅ、ぐ、う、」

はじめてあったときは、ただ、かっこいいと思った。
けれど、すぐに間違いだと気付いた。真ちゃんは、私の知る誰よりもかわいい女の子。
私は、今も、女の子を好きであっていいのかと悩んでいる。
でも世界の常識も吹っ飛んでしまうほど真ちゃんのことが好きなんだよ。

「まこ、と、ちゃん……っ、……」

孤独であることがこんなにも開放的で、こんなにも寂しいなんて。
泣いてしまうよ。泣いているよ。私の思いに気付いて。……きづか、ないで。
心の中が洪水だ。けれど大丈夫、明日も私は、真ちゃんと友達でいられる。
今日だけ。泣くのは、今日だけ。
そして、目一杯泣いてからそっと真ちゃんの背中を押すのだ。がんばって、って。親友がするように。

「……ふ、う、ああああ、っ……」

とんとん、規則正しい音がする。
それは私の心臓とシンクロして、ただただ耳にこびりつく。
さよなら、私の恋心。私の好きな人と、私の好きな人が好きな人を結び付けて、そして消えてなくなってしまえ。

「すき、……っ、」

それでも最後の一言。
もうこれ以上は言わない、言わないから最後に。そう、最後に一つだけ。
真ちゃんのこと、

「す……き…っ、」

すき。


ドアの向こう側でどさりと重い音が、した。

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