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「さあ、観念しろ。現行犯だ」
 私のやってきた妨害活動は、そんな風に終わりを告げた。
 どうやら、妙に増えてきた嫌がらせに、楽屋にはカメラがしかけられ、私の行動は既に何度か補足されていたようだ。その日は、だめ押しにその場で取り押さえたというわけ。
 私を捕らえたのは765プロのプロデューサー。そう、あの如月千早の事務所の人間だ。
 だが、彼は私をテレビ局に突き出すでもなく、ましてや官憲に引き渡すでもなく、とある条件を提示してきた。
「765プロに入れ。そんな小細工をしなくても売れるようにしてやる」
 なんと、私、桜井夢子を765プロでプロデュースするという。
 その意図を疑いながら、数々の証拠を押さえられて逆らうことなど出来ない私は765プロに所属することとなり、そして、とんとん拍子にアイドルランクを上げることになった。
 売れっ子アイドルばかりの事務所にいることが刺激となったのか、私が妨害に尽くしてきた力を芸能活動そのもののに注ぎ込むやり方を学べたのか、あるいは――たぶん、これが本当だけれど――プロデューサーの実力か。
 私は思ってもみないほどの早さでAランクに上り、念願のオールドホイッスルにも出演した。アイドルとしての出演は876の秋月涼に先を越されたが、同一事務所からの二人目の出演というのは、それはそれで快挙と認められた。
 そう、私は自他共に認めるトップアイドルの座についたのだ。
「努力して、自分の中に眠る才能を掘り起こし、育て、発揮する。その上で最後の一押しに、なにかをする。お前の考えは、発想としては実に正しかったんだ、夢子」
 その頃の私は、ここまで導いてくれたプロデューサーに心酔していて、さらには、男女の恋愛感情も抱いていた。だから、夜中に仕事だといって連れ出され、車の中でそんな昔のことを持ち出されたとき、どうしようもない切なさに襲われた。
 そうだ、この人は、私の過去を知っている。人気の絶頂で、外を歩けばファンに囲まれて身動きをとれず、どこに行っても絶賛される。そんな状況にあっても、この人は、私の薄汚い内面を知っているのだ。
「ただし、他者への妨害なんてのは、労力の無駄遣いだ。いや、売れてない時点での細工なんて、どれも無駄だ」
 心臓をわしづかみにされるような恐怖と悪寒の中、しかし、彼は微笑みながら私に話し続ける。
「工作ってのは、力を持ってからやるものなんだよ」
 これまで見たこともなかったような昏い瞳で、彼はそう断言した。

 その日から、私の世界は一変した。
 忙しいスケジュールの中、不意に入れられる夜の仕事。
 そこで、私は幾人もの男たちに玩具にされた。いや、中には女性もいた。Aランクアイドルは、誰からも好かれているのだ。
 男のぬめぬめと這う舌に膚を穢され、年下の少女に作り物のペニスで処女を奪われ、秘密のパーティで扇情的な下着姿で給仕させられ、数人の男に一晩中、口とあそことお尻で奉仕させられ、自分の持ち歌でストリップさせられて、悔し涙も枯れた私は乾いた思考で考える。
 そう、私をAランクアイドルに押し上げた、そのことそのものが、目的ではなく手段にすぎなかったのだ。桜井夢子というアイドルの『商品価値』を高めるための。
 これによって、765プロは他のアイドルを売り出すことが出来る。そのうちの何人かは高ランクに達し、そして――どういう風に弱みを握られるのかわからないが――私と同じことをさせられるだろう。
 おそらくは、お姉様や千早さんが私の道を切りひらくためにやっていたように。
「いやあ、君のところだけだよ。こんな有名人を好きにさせてくれるなんて。でも、いいのかね。こんなのは売れない子にさせることじゃないのかい?」
「いや、先生。頂点に立つ者こそ使うべきなのですよ。後は落ちるだけなのですから」
「ははは。熟れた果実をもぎ取ってこそ、か」
 最初の日にプロデューサーと男が交わした会話が、妙に耳に残っている。
 私は処女のまま、その男にお尻の穴を開発され、直腸をえぐる異物感に泣きわめきながらも絶頂するまでに調教されるようになるのだが、まあ、そんなのはどうでもいい話だ。
 いまは、目の前のことに集中するとしよう。
 下卑た表情で、ガウン一枚の私を凝視している老人を喜ばせることに。
「桜井……夢子、です」
 絶対に知っているはずの名を告げながら、私はガウンを落とす。
 醜悪な欲望を露わにする男の視線に素肌をさらし、ヒット曲を全裸で歌って、そして、おそらくはそのまま犯される。
 Aランクである限り、続いていく悪夢。
 私はそんな中にいる。


――――――
――――
――

「なんてことになってたかもしれないんだよ! 夢子ちゃん。本当に良かったね、変な嫌がらせなんてやめて」
「……」
 満面の笑みで十代の少年らしい妄想を語りきった涼を、桜井夢子はあえて責めようとはしなかった。
 お仕置きは、彼の後ろに立つ二人で十分だろうから。
「涼? 人様の事務所のクリスマスパーティに呼ばれておいて、なんて話をしているのかしら」
「秋月さん? その話だと、私も体を穢しているようだったけれど、なにか含むところでもあるの?」
「り、律子姉ちゃんに千早さん? い、いや、これはあくまで今年、夢子ちゃんが真っ当になった……って、ぎゃっ! 痛い痛い痛い痛い!」
 がっちりと顔を掴まれ、そのままひきずられていく涼の姿を横目で見ながら、夢子はクリスマスケーキを平らげるのに戻る。
「ぎゃおおおおおん!」
 どこからか、そんな啼き声が聞こえてきたような気がした。

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