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「今日は帰るの?」

シャワーから出てきた私を、ベッドにうつ伏せになっていた美希が見上げて聞く。

「うん。泊まるつもりじゃなかったし。
 美希も明日早いんだから、もう寝た方がいいよ」

そう、とあくび混じりに呟きながら横向きに姿勢を変え、ぼんやりとした眼差しで私が着替えるのを見ている。
ベッドカバーと毛布はくしゃくしゃになって足元に丸まっているから、今は美希の全身が露わになっている。
ほぼ完璧に近いプロポーションの裸体は気怠げで、腕も脚も脱力して投げ出され、
輝くような長い金髪は少し乱れて無造作に背中にかかっている。

明日早朝からの仕事が入っている美希は、今夜は事務所が用意したこのホテルに泊まる。
仕事を終えて事務所に戻ってきたら美希からそのことを告げられて、
二人で近くのレストランで夕食を取った後この部屋に来て、さっきまで抱き合っていた。
美希と寝るのはもう何回目だろう。

服を着終わって靴を履き、バッグを肩にかけてから少し考えてベッドに近寄り、
うとうとし始めている美希の髪を手で軽く整えてあげる。

「おやすみ」

それだけ言って、部屋を出た。

ホテルの前で客待ちをしていたタクシーに乗り、行き先を伝える。
ちらりとこちらを振り返った運転手さんは、私の顔を見て何か思い出したような様子だったけど、
行き先を復唱しただけで後は黙って車を発進させた。
芸能人の端くれとしては、こんな時は真っ先に名前を言われる方がいいんだろうけど、
今は誰かと話をする気分じゃなかったから、黙っていてくれる方が有り難い。

タクシーに乗った時の癖で携帯をチェックすると、美希からメールが来ていた。
開いてみるとタイトルはなくて、本文は一言『おやすみ。』とだけ書かれていた。

たった一言のメールを送ってきた美希の気持ちを、推し量るのはやめておこうと思った。
車のラジオから、千早ちゃんの歌が流れていた。

  ※ ※ ※

鍵を開けて玄関に入ると、この部屋の二人の住人どちらのものでもない、だけど見覚えのあるサンダルが目に入った。

廊下を真っ直ぐ歩いて、突き当たりのリビングに入ると、寝室のドアの方から微かに話し声が聞こえる。
ああ、やっぱり。
話の内容までは分からないけど、密やかで湿ったベッドの中での囁き。
そっか。今日はあの子なんだ。そう言えば最近仲良さそうにしてたね。
でもここは私の家でもあるから、遠慮はしないよ。

寝室のドアを開けると予想通り、ベッドの中にはあずささんと雪歩がいた。
毛布はかけられていたけど二人とも裸の肩が出ていて、紅潮して汗ばんだ肌で寄り添っている姿は、
どう見てもついさっきまで情事が行われていたことを物語っている。
突然入ってきた私に、雪歩は息を飲んで怯えたようにあずささんにしがみついた。

「ごめん雪歩。今日は帰ってくれる?」

それだけ言うと私はリビングに戻って、バッグを床に置いてソファに座り、
テーブルの上にあった雑誌を手に取って、パラパラとページをめくった。
さすがに私の目の前であずささんに抱かれたばかりの体を晒すのは気まずいだろうから、
場を外したつもりだったけど、なんかちょっと素っ気なかったかな。私、怖かったかも。
もうこんな光景を見たって怒りもしなくなってるんだけどね。

しばらくして寝室のドアが開いて、雪歩が出て行く気配がした。
リビングを通り過ぎる時、「ごめんなさい……」と言う小さな声が聞こえたけど、私は振り返らなかった。

  ※ ※ ※

ジャケットとスカートを脱いで寝室に備え付けのクローゼットにかけ、
キャミソールも脱いで手に持ち、下着姿のまま洗面所に行く。
キャミソール洗濯機に入れて、ホテルでシャワーは浴びてきたけど一応手と顔を洗う。
タオルで水滴を拭きながら、さっきの雪歩の、怯えた目を思い出した。

ちょっときつい言い方しちゃったかな。
雪歩のことは嫌いではないし、あずささんとベッドにいたことに怒っている訳でもない。
第一、私自身が美希と寝てきたんだから、責める資格はないよね。

きっかけはほんの些細なことだったような気がする。
でも目に見えないごく小さなヒビ割れに、疑惑や嫉妬が流れ込み始めてから、決壊するまではあっという間だった。
一時は怒りや憎しみが爆発したこともあったけど、それも過ぎて、でも以前のような愛情は戻らなくて、
二人とも他の相手を求めるようになっても、相変わらず私たちは別れもせず同じ部屋に暮らしている。
時々気まぐれに抱き合ってみても、やっぱり前の二人に戻ることはできないと思い知るだけなのに、
それでも行き止まりの関係にしがみついている。

隣のお風呂場から、あずささんがシャワーを使っている音が聞こえている。
シャワーのお湯があずささんの肌に当たって滑り落ちていく様子を、隅々まではっきりと思い浮かべることができる。
だってかつては、二人で仲良くお風呂に入ったことだって何度もあったんだから。
ふざけてお湯をかけ合って、シャワーを浴びながら何度もキスをして、抱きしめ合った。

磨りガラスが張られたお風呂場のドアに、あずささんの姿がぼんやりと映っている。
もう私のものではない、何度も他の人に触れられた、でも私が一番よく知っている体。

トクン。
輪郭の曖昧なシルエットをぼんやりと見つめていたら、不意に、私自身が濡れるのを感じた。
求めてるの?ついさっきまで他の子を抱いていたあの人を?罪悪感もなく他の子を抱いてきた私が?
答えを探すより先に、私は下着を脱いで洗濯機に入れ、お風呂場のドアを開けていた。

壁の鏡越しに、あずささんと目が合った。
喜びでも悲しみでも、怒りでも嫌悪でもない表情で、黙ったままシャワーのお湯を浴びている。

近づき、背後から腕を回して乱暴に胸を掴む。
あずささんが、息を飲むのが分かる。きっと痛かったに違いない。でも抵抗はしないんですね。
私はもう片方の手を茂みの中に潜り込ませて、あずささんの中に指を突き立てた。

「っ……!」

スムーズに入ったのは、雪歩との情事の名残のせいだろう。
そう思うと得体の知れない強い衝動が湧いてきて、激しく指を動かす。
愛のない乱暴な行為だけど、私はあずささんの好きなやり方を、感じる場所を知っている。
濡れた髪を顔で無理やり払って、首筋を強く吸い、舌を這わせる。
固く凝った胸の先をきゅっとつまんで、また埋め込むように揉むとあずささんは背中を仰け反らせ、

「もっと、もっと強く、お願い!」

と叫んだ。

めちゃくちゃにしたい。もうそれしか頭にない。きっとあずささんもそうに違いない。
そんな考えが頭を支配して、私は更に激しく手を動かす。
シャワーのものとは違う水音が次第に大きくなる。

あずささんの肩に、まだ新しい赤い痕があるのが目に入った。
一番深い所を強く擦ると同時にその痕を歯で強く噛むと、悲鳴のような声を上げてあずささんは果てた。

  ※ ※ ※

真っ暗な寝室に、二人分の汗とセックスの匂いが満ちている。
さっきシャワーを浴びたのは全く無駄になってしまった。

あずささんがお風呂場の床に崩れ落ちてもまだ私は満足していなくて、そのまま覆い被さって、
体中を強く吸ったり噛んだりしていくつも痕をつけながら、あずささんの太股や膝に自分自身を擦りつけて達した。
まるで獣だ。

それでもまだ、足りない。
もっと、もっと、気が狂う程の快感で、この体を満たしたい。
確かにその時、あずささんもそれを求めていたのを感じた。
バスタオルで体を拭くのももどかしくベッドに倒れ込むと、互いの体を貪り合った。
愛なんてないはずなのに、何度も絶頂を迎えては、また求めた。

最後には疲れ果てて息も絶え絶えになって、ようやく私たちは体を離した。
今、私もあずささんも、互いに背中を向けて寝ている。
最近はずっとこうだ。抱き合っても、達した後は気まずさだけが残る。
でも、こんなにしたのは、心が離れてしまってからは初めてかもしれない。
付き合い始めてからでも、なかったかも。

何にしても、ひどく疲れた。
もう何も考えずに眠ろうと、無意識に枕の位置を直そうとしたら、指先が何かに触れた。
小さく、固い、金属。なんだろう?気になって、手探りで掴み、ベッドを抜け出し寝室を出た。

ついでに喉が渇いていたから、裸のままキッチンに行く。
流し台の小さな明かりだけつけて、冷蔵庫から水を出してグラスに注いで飲みながら、
改めて手のひらに掴んでいたものを見る。

指輪?かなり小さいから多分、ピンキーリングというものだと思う。
シルバーの、ごくシンプルなデザイン。
私のじゃない。知る限りではあずささんもこんなのはしてなかったはずだけど、買ったのかな。
誰かにもらったのかも。

蛍光灯にかざしてよく見てみると、内側に小さく、『Y.H』とイニシャルが刻んであった。
ああ、そうか。
控えめな雪歩の小指に、控えめにこの指輪がはめられているのは、確かによく似合うかも。

どうしてこれがベッドにあったのか、それを考えるのも、やめておこうと思った。
ごめんね、雪歩。ごめんね、美希。
もう体だけなんだけど、それでも離れられないんだ。

迷った末に、結局指輪を持ったまま、また寝室に戻った。
あずささんはもう眠っているみたいだった。
ベッドに潜り込んで、指輪をそっとあずささんの枕の下に置くと、背中を向けて私も深い眠りについた。



百合23スレ851 上記SSの補足

「雪歩ちゃん、昨日はごめんなさいね」
「いえ、いいんです。私がお願いしたんですから、気にしないで下さい。
 ……抱いてくれて、嬉しかったです」
「でも……」
「そんなに悲しい顔しないで下さい。平気ですから」
「……」
「私、ずっと、あずささんのことが好きだったんです。
 私はダメダメだから、あずささんみたいな、
 素敵な大人の女性になりたくて。
 遠くから見て憧れてるうちに、あずささんともっと近づきたい、
 もっと私のことを見てほしい、って思うようになって、
 でも勇気がなくて言えませんでした。
 そしたら春香ちゃんと付き合うようになったって聞いて。
 だから、諦めようと思いました。
 やっぱり、私は見てるだけでいいんだって。

 なのに、春香ちゃんと上手くいってないのを知ったら、
 欲が出ちゃったんです。
 今なら、あずささんは振り向いてくれるかもしれないって、
 いやらしい考えが湧いてきて、
 このまま春香ちゃんと別れてくれれば、
 なんてひどいことまで考えました」

「……実は、昨日、春香ちゃんは帰ってくるかもしれないこと、
 私は知ってたんです」
「そうだったの?」
「はい。
 美希ちゃんがホテルに泊まるのは昨日急に決まったそうですから。
 だから、急に誘われた春香ちゃんは泊まらないかも、と思ってました。
 知ってて私、わざとお願いしたんです。
 あずささんのお部屋に連れて行って下さいって。
 抱かれたら、春香ちゃんと同じ位置に立てるんじゃないか、
 あずささんと別れてって言えるんじゃないか、って思って。

 でも、いざ春香ちゃんと鉢合わせしたら、
 怖くて、何もできませんでした。
 春香ちゃんが怖かったんじゃなくて、
 いえ、びっくりはしたんですけどむしろ、
 あんなところを見たのに怒らないなんて、
 今までどれだけ悲しい思いをしたんだろう、
 どれだけ傷ついてきたんだろうって。
 それにあずささんも、とても悲しそうな顔をしてました」
「……」
「あの時のお二人を見て、私はあずささんの何を知ってるんだろう、
 分かったつもりでいたんだろうって、思い知りました。
 お二人の関係の深さを思ったら、一度抱かれただけの私なんて、
 とても間に入る勇気はありませんでした」

「雪歩ちゃん、私は」
「でも私、諦めませんから」
「え?」
「諦めないことにしたんです。
 結局私は、自信がなかったんです。
 だから、卑怯なことをしてしまいました。
 でも、あずささんのことが好きなのは変えられないです。
 だから、春香ちゃんがどうとかじゃなく、
 堂々とあずささんが好きって言えるように、
 あずささんが好きになってくれる萩原雪歩になれるように、
 もっと成長しなきゃって思ったんです。
 人間としてもアイドルとしても。
 ま、まだ全然、未熟でダメダメですけど」
「……雪歩ちゃん」
「はい?」
「雪歩ちゃんは、素敵な人ね」
「ほ、惚れちゃいそうですか?……なんて、えへへ」
「うふふ。そうね、惚れちゃいそう」
「じゃあ本気で惚れちゃってもらえるように、
 うんと頑張りますから、見てて下さい」
「ええ。いつも、雪歩ちゃんのことを見てるわ」

  ※ ※ ※

「もしもし?美希?」
『あ、春香?』
「うん。今、大丈夫?」
『大丈夫だよ。ちょうどさっき収録終わって、ご飯食べてたとこなの」
「今朝、ちゃんと起きれた?」
『起きれたよ。
 ママと菜緒お姉ちゃんにモーニングコールしてもらったから』
「そう。良かった。風邪引いてない?」
『なんともないよ。なんで?』
「ん〜、昨日私が帰る時、裸で寝てたから。
 毛布かけてあげればよかったなって、後で思ったんだ」
『ありがと。毛布は起きたらいつの間にかかけてたの』
「そっか。……ねえ、美希?」
『何?』
「私は美希に、ひどいことしてるのかな?」
『そうだね』
「う……。はっきり言うなぁ」
『だって、あずさとは別れられないんでしょ?』
「……今はまだ、約束できない」
『ふふっ。春香、正直なの』
「ごめんね」
『謝る必要ないって思うな』
「うん。でも、ごめん」
『春香、ミキを抱く時、すごく優しいよね』
「そうなのかな」
『そうだよ。いつも、すごく優しい。
 春香に触れられてると、ミキ、すごく幸せな気持ちになるの。
 だからひどいけど、許してあげる』
「……」
『でも、そうだな……ミキにひどいことしてるって思うなら、
 あずさの他にはミキだけにして?』
「そ、それは今もそうだよ?」
『前は違ったよね?』
「うっ。で、でも今は本当に美希だけ。あっ、そう言うと語弊があるけど」
『分かってるの。春香の中であずさが特別なのはしょうがないから』
「ごめん……」
『だから謝らなくていいって』
「でも、ごめん」
『もー。言うこと聞かないから、もう一つ罰あげる』
「うん。何?」
『ミキを抱く時は、朝まで一緒にいて。いられないなら、抱かないで』
「……わかった」
『約束だよ?』
「うん。絶対守るよ」
『春香、なんか声が情けないの』
「実際情けないもん。一生、美希には頭上がらないな」
『それは春香だからしょうがないの』
「ひどいなー」
『あはは。あ、そろそろ移動だから切るね。次、取材なの』
「そっか。頑張ってね。じゃあ、またね」
『うん。またね』


(おわり)

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