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きっかけは、音楽雑誌のグラビア撮影だった。

その撮影メンバーに選ばれたのは、私とあずささん、真、春香の4人。
奇しくも二組のカップルであることは外部には絶対漏らせない秘密なのだけど。

8月号ということで、夏祭りをテーマに浴衣を着ることになった。
担当のスタイリストさんはよく知っている人で、それぞれのイメージカラーに合わせた浴衣を用意してくれていた。
ちなみにこのスタイリストさんはいわゆるオカマさんで、765プロのアイドルがお気に入りらしく、
よくメイクや着こなしの相談に乗ってくれたり、時には差し入れまでしてくれたりするため、
うちの事務所では「○○衣装(会社名)のお母さん」と呼ばれている。
実際私たちの親と言ってもおかしくない年齢のはずで、ほとんど親心で何かと世話を焼いてくれる。
私も会う度に『千早ちゃん、ちゃんと食べてる?』と痩せ過ぎを心配されていて、
一緒の仕事の時には栄養満点のお弁当を作ってきてくれたりする。

そのスタイリストさんが私に選んでくれた浴衣は、水色と紺の地に柳の枝と燕が染めてあり、
藍色の帯と合わせると落ち着いた中にもなんとも涼しげな風情が漂う。

『まあ、千早ちゃんよく似合ってるわねえ』

着付けてもらいスタジオに入ると、上品な紫色の地に大輪の牡丹を散らした浴衣を着たあずささんが、にっこり微笑みながら迎えてくれた。

『少し、地味ではないでしょうか』
『そんなことないわよ。かえって千早ちゃんの若さが引き立ってて、とても爽やかで可愛いわ』
『あずささんのも華やかなのに品があって、とても素敵です』

好きな人に褒められたのが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
寄り添って立つと、あずささんがそっと指を絡めてきて、それだけで私は幸せな気持ちに包まれてしまう。

先に撮影が始まっている春香と真の方を見ると、ポーズを変える度に目が合っては照れていた。
きっとあの二人も、恋人の浴衣姿に惚れ直しているに違いない。
実際、黒地に蝶をあしらった真の浴衣も、赤地に白と薄紫の紫陽花が咲いている春香の浴衣も、
どちらもとても美しくよく似合っていた。
しかし二人とも、もう少し押さえないと周囲に怪しまれてしまうのではないかしら。

撮影が終わった後、春香がぼやいた。

『あーん、せっかくこんな綺麗な浴衣着れたのに脱ぎたくないよぅ』

それには私も同感だった。
もう少し着ていたいし、スタジオの中だけでなくどこかへ行ってみたかった。もちろんあずささんと。

するとスタイリストさんが、

『今日のコーディネートは会心の出来だったから、気に入ってくれて嬉しいわぁ。
 実はこれ、アタシの実家の店から強奪してきたの』
『へえー、お母さんの実家は呉服屋さんだったんですか』
『そ。アタシがこの世界入っちゃったから、今は弟が継いでるんだけどね。
 お店の名前が載れば宣伝になるんだから、つべこべ言わずに一番いいのよこしなさい!って持ってきたのよぉ』
『あらあら、そうだったんですか〜。でも本当に素敵な浴衣ばかりですものねえ』
『なんだったら買い取っちゃう?アナタたちなら儲け度外視でうんとお安くしちゃうわよ?』
『はい〜、おいくらでしょうか?』
『ちょ!あずささん、即答ですか!?』

そんな訳で、結局4人とも帯や下駄、小物まで含めて一式買ってしまった。
後で知ったのだがスタイリストさんの実家の呉服屋は結構名の通った老舗で、
撮影で着た浴衣も本来ならかなり値が張る品らしいのだが本当に儲けを度外視してくれたようで、
私たちにもなんとか出せる値段で譲ってくれた。

せっかく買ったからにはどこかへ着ていきたい。
そう思っていたら、こういう時にはやたら行動力のある春香が、事務所近くの下町でもうすぐ夏祭りがあると調べてきた。

『お祭りに浴衣……いいね!キュルルンときちゃうよ!』
『それじゃ、私たちも行きましょうか。ばったり会うかもしれないわね〜』

4人で一緒に行こうと言わないのは、暗黙の了解ということだろう。
私も正直に言えばせっかくの機会だから、あずささんと二人きりで楽しみたいし。

*****

そして今日は夏祭り当日。
仕事が終わってから、事務所の更衣室で萩原さんに手伝ってもらって浴衣に着替え、お祭りをしている町にやってきた。

あずささんと並んでぶらぶら歩きながら、縁日を見て回る。
綿飴やかき氷、フランクフルト、りんご飴。
お祭りに来るなどもう何年ぶりのことだけど、雰囲気は記憶にあるものとあまり変わりない。
電球の光に照らされた、雑多で色とりどりな屋台の数々。

少し離れたところで、わあっと歓声が上がった。
声のした方を見ると、人だかりの中に射的の鉄砲を持ってガッツポーズをする真と、その横で拍手をしている春香が見えた。
どうやら随分高い景品を取ったらしい。

「まあ、さすが真ちゃんね」
「真ったら、せっかく綺麗な浴衣を着てるのに、腕まくりなんかして。
 それに、春香のあのお面はなんなのかしら……?」

春香が頭につけているお面が、黄色いリボンをつけていて何となく春香に似ているのだけど、
でも妙に不気味というか怖い感じがして、あれは流行っているのだろうか。

「千早ちゃん、かき氷食べない?」
「ええ、いいですね」

屋台の前で悩んで、私は結局無難ないちご、あずささんはレモンを選んだ。
先がスプーン状に開いたストローで少しすくって口に入れると、単純な甘さとダイレクトな冷たさが広がる。

しかしおいしいのだけど、歩きながらでは少し食べづらい。
私は立ち食いというものをほとんどしたことがないせいか、どうも気が散ってしまう。
そわそわしている様子に気づいたのか、あずささんが

「どこか座れるところに行きましょうか」

と言ってくれた。

かき氷の屋台がある場所から見えていた、小さな神社に入る。
今日のお祭りはここの神社のものらしく、普段なら夜は真っ暗なのだろうが、
今は神社の名前を書いた提灯がぼんやりと灯っていて、歩くのに不自由ない程度には明るい。

「ちょっとお邪魔しますね〜」

と言いながらあずささんが奥に向かって歩いて行くので、私も後に着いていく。
恐らく神様に断っているのだろうが、とりあえず他に人がいなくて良かった。
鳥居をくぐって正面の拝殿より奥に、更にもう一つ小さな社があり、そこに続く石段に腰掛ける。
ここは提灯の明かりもあまり届いてなくて薄暗い。

「やっぱりお祭りっていいものね」
「そうですね。久しぶりに来ましたけど、たまにはこういうのもいいですね」
「うふふ。千早ちゃんは、もっと遊ばなきゃ駄目よ?」
「そ、そうですか?……あずささんが付き合ってくれるなら、考えてもいいです」

そんなどうということもない会話をしながら、かき氷を食べる。
家で二人きりの時間ももちろんいいのだけど、こうして外で、すぐ側にあずささんの存在を感じているのもいいものだと思う。

「あら千早ちゃん、口の横にシロップがついてるわ」
「あ、そうなんですか」

浴衣と一緒に買った巾着からハンカチを取り出そうとした手を、やんわりと押さえられる。
あずささんの顔が近づいたと思うと、不意に唇の端をぺろっと舐められた。
びっくりして目を見張ると、間近にあずささんの悪戯っぽい笑みを浮かべた瞳。

そんなことをされて何もせずに済むほど、私は聖人君子ではない。
そのまま無言で唇を重ね、初めは啄むように、それから段々深く舌を絡ませ合う。
あずささんの左腕が肩に回されて、抱き寄せられる。
そして夢中でキスをしていると、不意にもう片方の手が、すっと私の浴衣の襟元に差し込まれた。

「あっ」
「大丈夫。誰か来たらすぐにやめるから」

耳元で囁いてまたすぐに唇を奪われる。
あずささんの右手は、指先でゆっくりと私の左胸の中心を円を描くようになぞる。
あっという間に私のその部分ははしたなく立ち上がって、形を主張する。
まるで期待していたかのように。もっと、もっととねだっているかのように。

「千早ちゃんのおっぱいは、とてもエッチね」
「いやっ、……は、恥ずかしいです」
「本当に嫌?」
「んっ……いじわる……」

胸を撫でる指はそのままに、あずささんの唇は首筋に移動してうなじに舌を這わせ、耳たぶを甘噛みする。
汗をかいているのに、と言ってもこの人は止めてくれないのだろう。
普段ベッドでそんなことをされたら、どうなるか知っている癖に。
現に今の私は、大きな声を出さないようにするので精一杯で、あずささんにされるがままだ。

「すごく感じてるのね?」
「くっ、そんな……」
「感じてる千早ちゃん、とても綺麗よ。ぞくぞくしちゃう」

あずささんが囁く一言一言が、体中に響いて媚薬のように理性を奪っていく。
きっと私は、とても淫らな顔をしているのだろう。
もう少し強く刺激されたらそれだけで達してしまいそうなのに、
意地悪なあずささんの指はずっと同じようにゆるゆると胸を撫でるだけで、
私が切ないほどに望んでいる一線を越えては来てくれない。
その埋め合わせをするようにキスを求めると、舌だけは大胆に私の口内で動き回るから余計に高められてしまう。

「あず、さ、さん」
「なあに?」

誰かに見られたらという警戒も何ももう考える余裕はなく、私はただあずささんに溺れ、目に涙まで浮かべて乞う。

「もう……だめ、です」
「どうしてほしいの?」
「んっ……いかせて、くださ、い」
「はい、よくできました」

こんなにも意地悪に責めながら、その微笑みは慈愛に満ちていて。
だから私は、もうこの人なしではいられない。

胸を撫でていた手が浴衣の裾を割って、内股をなぞり上げる。
待ち望んでいた場所に指が触れた瞬間、私は声を上げる代わりにあずささんの肩に咲く牡丹の花を強く噛んだ。

*****

しばらく呆けている間に、あずささんが浴衣の乱れを直してくれていたらしい。

「もう。誰かに見られてしまっていたら、どうするんですか」
「ちゃんと周りには気を配っていたから、大丈夫よ」
「そういう問題ではありません」

口では非難めいたことを言っているが、私は愛された充実感で満たされていた。
いつもは人目に触れるかもしれない場所ではせいぜい手をつなぐくらいだけど、今日は私から腕を組んでみる。
さっきあんなことをしてしまったせいで、大胆になっているのかもしれない。
優しく包み込むように微笑むあずささんと目が合うと、やっぱり少し恥ずかしいけれど。

神社の鳥居を出たところで、向こうから歩いてきた春香と真に会った。
思わずあずささんの腕から離れてしまう。

「二人とも、楽しんでる?」
「はい、それはもう」

一体どれだけ屋台を回ったのか、二人とも景品や食べ物やおもちゃを一杯手に持っている。
春香の頭には、相変わらずあの妙なお面が乗っている。

「神社、人いました?」
「いいえ、今は誰もいなかったわ。私たちも少し休憩してきたところなの」

あずささんはしれっと言っているが、”休憩”の内容を思い出した私は顔から火が出そうだ。
とても春香や真の顔をまともに見られないので、見えないようにあずささんの浴衣の袖を引っ張って促す。

「じゃ、じゃあ私たちはもう一回りしてくるわね〜」
「はい。ボクたちも中でちょっと休もうか。荷物も少しまとめないと持ちきれないし」
「えっ!?そ、そうだね!じゃあね、ち、千早ちゃん」

なんだか春香が動揺しているように見えたのは気のせいだろうか。
別れ際、一瞬あずささんが真に何か耳打ちしていた。
みるみる真の顔が赤くなったところを見ると、よからぬ入れ知恵をしたに違いない。

「何言ったんですか?真に」
「頑張ってね〜って、言っただけよ。うふふ」
「またそんなことを……」
「二人ともとっても初々しくて、なんだか焚きつけたくなっちゃうのよねえ。
 きっと”まだ”なのね。でも今日、もしかするともしかしちゃうかも?」

軽く溜息が出てしまった。
やっぱりこの人は、かなりの悪戯好きだ。

「そろそろ、帰りませんか?」
「そうね。結構歩いたし、お家でゆっくりしましょうか。
 あ、でも」
「何ですか?」
「”よいではないかごっこ”もしないといけないわね〜」

また溜息が出た。今度はかなり深い。

「仕方ないから、付き合ってあげます」

もう一度腕を組んで、私たちは帰途についた。
その晩あずささんの部屋でどんなことをしたかは、とても言えない。

翌日、春香があのお面を事務所に持ってきた。とても不評だった。

<了>

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