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「あついねー」
「あついねー」


とある9月の昼休み、僕と春香は学校の屋上でのんびりとくつろいでいる。

制服のネクタイを緩めた少しラフなスタイル。おおざっぱな性格の僕は、どうもネクタイというものが性に合わない。
春香も同じようにネクタイを緩めて、あついあついと愚痴をこぼしながら手をぱたぱたとさせながら涼をとっていた。

微かな風にあおられて揺れるシャツの襟。首元からちらちらと見える鎖骨が眩しくて悩ましい。
思わずごくりと唾を飲んでしまう。


「真、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」


まさか春香の鎖骨に見入ってしまったなんて、恥ずかしくて言えやしない。
話題を変えるなんてそんな賢い頭を持っていない僕は、春香から視線を逸らせた。


 青い空。キーンと尾を引く飛行機雲。

 階下に広がる運動場からは、運動部の部活だろうか、生徒達の掛け声が聞こえる。


夏休みが終わったとはいえ、夏が終わったわけではない。
セミはじぃじぃ鳴いてるし、昼間にちょっと走れば汗をかく。僕を含め、大半の生徒は未だ半袖の夏服のままだ。




「ああ。そういえば、はい」
その声を聞いて春香の方を振り向くと、春香がコンビニ袋からアイスを取り出した。

「昨日の宿題のお礼だよー」


春香はそれを僕に手渡した。春香といえば、自分用のアイスを買っていたらしく、その蓋を開けようとしている。
チョコミントのアイス、お値段なんとワンハンドレッドイェン。何ともリーズナブルなプライスである。

まぁ、そんなことを言っても仕方がない。要は気持ちの問題なのだ。
僕はチョコミントが好きで、今もらったアイスはチョコミント。それだけでプライスレスだな、と思う。


「ありがとう」

そう言って僕はもらったアイスの蓋をあけて、ぺろりと一口。うん、おいしい。
昔はミント特有の歯磨き粉みたいな味が嫌で、少し敬遠していたが、慣れると美味しいものである。

 それに、チョコミントのアイスを食べる女の子って、何だか女の子っぽいでしょ?

すっと抜けるハッカの匂いと、舌に残るチョコの甘さ。
 うん、おいしい。

ちなみに春香はストロベリーアイスだ。何とも春香らしい。
ストロベリーもいいなと思ったけれど、僕にはチョコミント位がちょうど良いのかもしれないな、と思った。


 菊地真は屋上でチョコミントアイスを食べて幸せな気持ちになる。
 それで世界が平和になるなんて思わないけれど、僕の世界は平和になる。


何はともあれ、僕はチョコミントアイスにはまっている。それで何も問題はない。
 とてもおいしい。




「満足して頂けたようで」
僕の気持ちが顔に出ていたのか、春香は満足そうな顔で僕を見つめていた。

「春香が作ったお菓子が一番だけどね」

そう言って笑うと、春香が「そういう返事が王子様って言われる理由なんだよ」と注意された。
そんなものなのかな。
うーんと思案して、まぁよく分からなかったから、僕は諦めて屋上に広がる景色を眺めることにした。



「あついねー」
「うん、あついねー」



意味のない会話をとりとめもなく交わしながら、僕と春香はアイスを食べ、青空を眺めて、たまに空を通る飛行機のジェット音を聞いた。

そうしているうちにお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。



 「授業いかないとねー」
 「そうだねー」

 「授業が終わったらお仕事だねー」
 「お仕事だねー」



そんな会話をいくつか交わした後、僕は座っていたベンチから立ち上がろうとした。
春香も僕にならってベンチから立ち上がる。


「ねぇ、真」
「なに?」


どうしたの、と聞くより早く、春香は僕の頬をぺろりと舐め上げた。


「!!?」


ふわりと香るストロベリーの甘い匂い。至近距離まで近づいた春香の顔は、甘ったるい匂いを残して僕の顔から離れた。
僕といえば、突然の出来事に顔が真っ赤になっている。

「アイス、付いていたから」
そう言って春香は僕にニシシといたずらっぽく笑った。


「別に舐めなくてもいいじゃないか」
「舐めちゃダメってわけでもないんでしょ?」
「・・・」


春香と仲良くなって気付いたことがある。春香は、結構イタズラ好きである。
だからといって、この不意打ちはない。

そんな僕の視線に気づいたのか、春香はごめんごめんと軽く謝りながら
「だって、チョコミントのアイスも食べたかったから」
「それだけ?」
「それだけじゃないけど…理由聞きたい?」

春香と仲良くなって気付いたことがもう一つある。僕は、結構春香が好きである。
だから、春香の言葉に乗せられても、あまり悪い気持ちはしないのだ。


「理由が聞きたいな」
「ふーん」

上目越しに僕を見つめた後、春香は僕の首に両手を回した。



「真にキスしたかったから」

そう言って春香は僕の唇にキスをした。
先程とはうってかわって、ディープな口付け。

春香の舌が僕の唇の割れ目にノックをした。僕はおずおずと閉じた口を開く。
そうすると彼女の舌がするりと僕の口の中に入ってきて、僕はいつものようにその舌を絡ませた。
先程感じた甘ったるい匂いが口内から鼻腔へゆっくりと抜ける。
アイスを食べて若干冷たくなっていた舌先が、徐々に熱を帯びていくのを感じた。

お酒も飲んでいないのに、酔ってしまいそうだ。


ゆっくりと唇を離す。


春香の瞳に映る僕の顔は、なんともだらしない顔をしていた。
目の前の彼女は口元を緩めて、16歳らしからぬ妖艶な顔をして、僕に尋ねた。



「真は私とキスするの、嫌だった?」

……そういうことは、する前に聞くもんじゃないかな。
その狡猾さに、思わずため息を漏らす。


「嫌じゃないよ」
「なら良かった」




「あついねー」
「うん、あついねー」
「授業遅刻しちゃうねー」
「うーん。そうだねー」


僕と春香は顔を合わせる。その顔はどちらもイタズラを思いついたような顔をしていて。


「「授業、サボっちゃおうか?」」

今考えていたことを口にしたら、タイミングがかぶってしまって、僕らは笑ってしまった。






 夏は まだ 終わらない。

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