最終更新:ID:qMz67FrXBA 2010年08月23日(月) 03:32:28履歴
「おじゃましまーす」
「へえ。ここが二人の愛の巣ってわけね。なかなかいい部屋じゃない」
「あ、愛の巣ってそんなこと、ないこともなかったりするけどデヘヘヘヘ」
「春香ちゃん、お野菜はこのお皿でいいかしら?」
「あ、はいはい、それでお願いします」
今日は律子さんのお誕生日。
律子さんは今年の春から一人暮らしを始めて、私はちょこちょこ泊まりに来てるんだけど、
事務所の他の子たちはなかなか遊びに来る機会もなくて、
ちょうど誕生日が近づいてたから、じゃあ遅れたけど引っ越し祝いも兼ねて、
みんなでバースデーパーティーしちゃおうってことになりました。
主賓の家でやるってどうなのって気がしなくもないけど。
時期的にお鍋もなんだしってことでメインディッシュは手巻き寿司にして、
他に唐揚げとかサラダとかの副菜を色々と作ることに決定した。
そして今日、私とあずささん、雪歩がお料理班で早めに来て準備中。
真、千早ちゃん、伊織、やよいのお菓子飲み物買出し班が今やってきたところ。
「沢山買ってきてくれたんだねー。重かったでしょ」
「高槻さんの特売情報のおかげで予算に余裕ができたから。余ったらほしい人で分ければいいし」
「さすがやよい、でかした!」
「えへへ、特売は基本です!」
「いい部屋だね。新しいし間取りも広いや。ああ、ボクも一人暮らししてみたいなあ」
真が物珍しそうにキョロキョロしてる。
「アンタはわざわざ一人暮らしなんかしなくても、千早の部屋に入り浸ってるじゃない」
「い、入り浸ってなんかナイヨ?ホントダヨ?」
「そうよ水瀬さん。せいぜい週に2、3回泊まっていく程度だから」
「それ、私がゴシップ記者なら”半同棲状態”って書くわね」
そんなこと言ってる伊織だってあずささんの家にちょくちょくお泊まりしてるの、知ってるんだけどな〜。
美希と亜美真美は今日仕事が入ってたから、小鳥さんが後ほど連れてきてくれることになっている。
「春香ちゃん、冷蔵庫にある生クリーム、使っていいんだよね?」
「うん。あ、私も手伝うね」
あずささんが着々と手巻き寿司の具を作ってくれてる間、雪歩と私でクラッカーに乗せるトッピングを作る。
「私、子供の頃リッツのCM見て、こういうオードブルが出るパーティって憧れてたんだよねー」
「律子さんだけに、リッツパーティ!!なんちゃ……って……」
「ゆき、ほ……?」
「……」
「……」
「こ、こんな寒いダジャレですべるダメダメな私は穴掘って」
「ごめん雪歩!面白かったから!埋まらなくていいから!やよい助けて!!雪歩埋まりそう!!」
いや、本心を言えば寒かったんだけど、人の家で埋まるのは勘弁してね。
ところで主賓の律子さんはどうしているかというと。実は今日まで出張なんです。
765プロオールスターズの写真集を作る企画があって、北は北海道から南は沖縄まで、
撮影地の下見と打ち合わせを十日間かけて一気に片付けてしまうということで、帰ってくるのは今日の夜。
だから律子さんが戻ってきた時には準備万端で迎えられるように、私が留守を預かってるというわけです。
もうとっくに合い鍵だってもらっちゃってるもんね。なんたって彼女ですから。
出張中は毎日電話もメールもしてたけど、付き合い始めてからこんなに長く離れてるのって初めてで、正直すごく会いたい。
帰ってきたらちゅっちゅ責めにして、そのままお姫様抱っこでベッドに連れ込んじゃいたいくらい恋しい。
きっと律子さんは『あん、だめ、せめてシャワー浴びてから……』なんて恥じらうから、
私は『もう待てません。今すぐ律子さんがほしいです!』と野獣のようにスーツのボタンを……。
「春香。ニヤケてるところ悪いんだけど、いいかしら?」
「はっ!千早ちゃん!?な、何?」
「あなた、これ以上ないくらいスケベ面してたわよ」
ああ千早ちゃん、そんな9393した目で見ないで。
「さっき、音無さんから電話があったわ。あと5分くらいで着くって。
最初春香にかけたけどつながらなかったらしいわよ」
「そ、そうなんだ。ありがとうね」
ありゃりゃ。電話鳴ってたんだ。
気づかないくらい妄想に熱中してたなんて、私も小鳥さんのこと言えないなあ。
でもでも、会いたいんだもん。律子さん、早く帰ってきてくださいね。
※ ※ ※
「みんな〜見て見て!りっちゃんの机にはるるんの写真が!」
「ちょ!いつの間に!?」
亜美真美が来たと思ったら速攻寝室に忍び込んだみたいで、机に飾ってあった私の写真を見つけてしまった。
「さっすが〜ラブラブだね!ヒューヒュー!」
「こらー!亜美、真美!よそ様のおうちで勝手に部屋に入っちゃだめでしょ。めっ」
そうそう、ビシッと叱っちゃってね、やよい。
「あらあら、でもとても可愛く撮れてるわねえ」
「すごくよく撮れてるの。ののワってないし」
「どれどれ。確かにいい写真だね。可愛いし、ちょっと大人っぽく見えるかな?」
「律子の前ではいい顔するのね」
「これはいい燃料になるわぁ〜」
あああちょっとちょっと。みんなそんなに見ないでよぅ。それに小鳥さん、燃料って何ですか。
あの写真は、ちょっと恥ずかしいんだよね。
だって今年の私の誕生日、初めてこの部屋にお泊りして二人で迎えた朝に撮ったものだから。
『春香、こっち向いて』
『え?何ですか何ですか?』
あの日、朝起きてから先にシャワー使わせてもらって、次に律子さんが入ってる間、
私はキッチンで朝ご飯の準備をしていた。
恋人の部屋にお泊まりして朝食を作ってあげるのって憧れてたから、私が作ります!って言ったんだよね。
それでハムエッグを焼いてたら声をかけられて、振り向くと律子さんがデジカメを持って立っていた。
『記念写真、撮らせて』
『記念写真、ですか?』
『そう。春香が17歳になった記念と、もう一つ……ね?』
『……はい』
”もう一つ”というのは、つまり初めて愛し合って結ばれた記念、ということで。
だから嬉し恥ずかしな感じでフレームに収まった。
『ありがとう。大事に飾らせてもらうわ。
今日のこと忘れないように、会えない時でもこの写真見て、春香のことを思うから』
『律子さん……』
照れ屋さんな癖に、たまにストレートにドキっとすること言うんだよね、律子さんてば。
愛されてるんだ、ってすごく嬉しくて幸せで、何度もキスしてたらハムエッグが焦げそうになったのもいい思い出。
そんな2ヶ月ちょっと前のことを思い出して、またニヤケかけてたら、ピンポーン。
インターフォンが鳴った。はいはーい。今出ますよ。
『あ、私』
きた!主賓律子さんきた!これで勝つる!
急いで玄関の鍵を開けると、とっても会いたかった私の大切な人が、スーツ姿で立っていた。
「おかえりなさい。出張、お疲れさまでした」
律子さんは大きな鞄を乗せたキャリアを引きずりながら玄関に入ると、ちゅ、と私のほっぺにキスをして、
「ただいま」
と言った。
あのですね、そういうのもいいんですけど、やっぱり十日ぶりの再会なわけで。
私としてはもう、会いたくて会いたくてたまらなかったわけでして。
要するにその、もっといっぱい、キスしてほしいな〜?
「あー、うん。してもいいんだけどね。見られてるわよ?」
「へ?」
振り向くと、リビングに通じるドアを細く開けて、トーテムポールみたいに重なって、
ニヤニヤとこっちを見ている765プロ一同。
「”チュッ、ただいま”だよ!りっちゃんキザだー!!」
「はるるん、”もっといっぱい、キスしてほしいな〜?”だって!!」
「ははははうらやましいか。これがリア充よ!」
「り、律子さん!?」
「二人とも小一時間ほど寝室にこもってもいいのよ!ICレコーダーも持ってきたし!(パシッ)痛っ!!」
「小鳥さんは調子に乗らない!」
「はいはいみなさん、お料理並べるの手伝ってくれるかしら?」
あずささんが助け船を出してくれたおかげで、よくやく騒ぎが収まり。
私は疲れてるだろう律子さんの代わりに鞄を持って、一緒に寝室に行く。
「見られてるなんて、全然気がつきませんでした」
話しながら脱いだスーツを受け取って、ハンガーにかける。
こんな風に自然なやり取りができるのって、なんか嬉しい。奥さんみたいで。えへへ。
「ちょっと見せつけてやろうかなとも思ったんだけどね」
「り、律子さん、大胆ですね」
「ん〜、だってさ」
ジャージに着替えて振り向いた律子さんに、不意に抱き寄せられる。
「すごく、会いたかったもの」
耳元で優しく響く声に、あっという間に顔がポーッと熱くなる。
「春香の顔見たら嬉しくて、野次馬なんかほっといてイチャイチャしちゃおうかなって、一瞬思っちゃった」
「私も、すっごくすっごく、会いたかったです」
そして軽く触れるだけのキスを唇にしてくれた。
「ちゃんとしたのは後でゆっくり、ね」
「はい」
「さて、また出歯亀が現れないうちに、みんなのところにいきますか」
「はい!」
※ ※ ※
パーティーが始まるとみんなハイテンションで食べたり飲んだりお喋りしたり、とても盛り上がった。
みんなでお金出し合って買った引越祝い兼バースデイプレゼントがデジタルフォトフレームで、
くじ引きでプレゼンターになったらしい美希が渡す時に、
「春香の写真、死ぬほど入れちゃえばいいの!」
なんて言うもんだからさっきの写真の件をまた蒸し返されるし。
お料理を取り分けてあげたり、飲み物を注いであげたりと何かする度に、
ヒューヒュー冷やかされて、私と律子さんは照れっぱなしだった。
考えてみればお仕事の時間じゃなくて、でも事務所のみんなと一緒っていう機会はあまりないから、
二人きりの時に何気なくしてるようなことでも、イチャついてるように見えちゃうのかな?
おまけに私も知らされてなかった企画『りっちゃんはるるんのなれそめクイズ』なんてものが
亜美真美司会でいきなり始まって、いつから好きだったとか告白した時のこととか、
根掘り葉掘り聞かれちゃって、恥ずかしかったよぅ。
小鳥さん曰く『結婚式の二次会では定番よ!』らしいんだけど。
そして小鳥さんが買ってきてくれてたケーキにロウソクをつけて、
みんなでハッピーバースデー律子さんを歌ってから切り分けて食べたりして、
楽しい時間はあっという間に過ぎ、小さい子たちもいるから9時前にはお開きになった。
亜美真美と中学生組は伊織んちの新藤さんの車(いつもより大きい車で来てくれてた)で送ってもらって、
他の子たちはタクシーに分乗して帰る。
「みんな、今日は本当にありがとう。気をつけて帰ってね」
「私たちも、とっても楽しかったです」
「春香は……あ、泊まってくのか。そりゃそうだよね」
「張り切り過ぎて明日寝坊しないように気をつけるのよ」
「もうー千早ちゃんまでそんなこと言ってー」
マンションの前でみんなを見送ると、二人きりになった。
「春香も、今日は本当にありがとう。大変だったでしょ」
「いえいえ全然。律子さんのためならエンヤコラですよ。あの、律子さん?」
「ん?」
「ちょっと、目つぶってもらえます?」
「何よ急に……これでいい?」
「じっとしててくださいね」
今日ずっとポケットに入れてた物を取り出して、律子さんの首に付けてあげる。
「はい、もういいですよ」
「……春香、これ……」
「私からの、お誕生日プレゼントです」
律子さんが手に取って見つめているのは、太陽をモチーフにした、シルバーのペンダント。
私の誕生日の時、律子さんは三日月のペンダントをプレゼントしてくれた。
”月”は律子さんなんだって思うと嬉しくて、あれからほぼ毎日つけている。
だから律子さんの誕生日には、何か私にちなんだペンダントをプレゼントしたくて、色々探した末に太陽のにした。
天海の”天”でお天道様だし、太陽のジェラシーもあるし、企画ユニットもパーフェクトサンだったし。
「お誕生日、おめでとうございます。
それから、いつも側にいてくれて、大事にしてくれて、ありがとうございます。
大好きです、律子さん」
暗いからよく分からないけど、律子さんの目が潤んで光ったような気がして、それからぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとう、春香。大事にするわね。私の方こそ、一緒にいてくれてありがとう。
こんな素敵な誕生日を過ごせて、とても幸せ。
来年も、再来年も、ずっとこうしてあなたと誕生日を迎えたいと思ってる。
……好きよ」
自然に二人の唇が重なって、好きって気持ちをうんと込めたキスをした。
「さて部屋に戻ってお風呂に……そうだ、一緒に入らない?」
「えっ?……あ、はい。やっぱり今日の律子さん、なんだか大胆じゃないですか?」
「出張中我慢してた分、ね」
「律子さんがその気なら、私も頑張っちゃいますよ?今夜は寝かせてあげませんからね?」
「ちょっと、お手柔らかに頼むわよ」
「だーめです。十日分イチャイチャするまで、離してあげません。さ、行きましょう?」
「はいはい」
そうして私たちは手に手を取って、二人の愛の巣に戻っていった。
「へえ。ここが二人の愛の巣ってわけね。なかなかいい部屋じゃない」
「あ、愛の巣ってそんなこと、ないこともなかったりするけどデヘヘヘヘ」
「春香ちゃん、お野菜はこのお皿でいいかしら?」
「あ、はいはい、それでお願いします」
今日は律子さんのお誕生日。
律子さんは今年の春から一人暮らしを始めて、私はちょこちょこ泊まりに来てるんだけど、
事務所の他の子たちはなかなか遊びに来る機会もなくて、
ちょうど誕生日が近づいてたから、じゃあ遅れたけど引っ越し祝いも兼ねて、
みんなでバースデーパーティーしちゃおうってことになりました。
主賓の家でやるってどうなのって気がしなくもないけど。
時期的にお鍋もなんだしってことでメインディッシュは手巻き寿司にして、
他に唐揚げとかサラダとかの副菜を色々と作ることに決定した。
そして今日、私とあずささん、雪歩がお料理班で早めに来て準備中。
真、千早ちゃん、伊織、やよいのお菓子飲み物買出し班が今やってきたところ。
「沢山買ってきてくれたんだねー。重かったでしょ」
「高槻さんの特売情報のおかげで予算に余裕ができたから。余ったらほしい人で分ければいいし」
「さすがやよい、でかした!」
「えへへ、特売は基本です!」
「いい部屋だね。新しいし間取りも広いや。ああ、ボクも一人暮らししてみたいなあ」
真が物珍しそうにキョロキョロしてる。
「アンタはわざわざ一人暮らしなんかしなくても、千早の部屋に入り浸ってるじゃない」
「い、入り浸ってなんかナイヨ?ホントダヨ?」
「そうよ水瀬さん。せいぜい週に2、3回泊まっていく程度だから」
「それ、私がゴシップ記者なら”半同棲状態”って書くわね」
そんなこと言ってる伊織だってあずささんの家にちょくちょくお泊まりしてるの、知ってるんだけどな〜。
美希と亜美真美は今日仕事が入ってたから、小鳥さんが後ほど連れてきてくれることになっている。
「春香ちゃん、冷蔵庫にある生クリーム、使っていいんだよね?」
「うん。あ、私も手伝うね」
あずささんが着々と手巻き寿司の具を作ってくれてる間、雪歩と私でクラッカーに乗せるトッピングを作る。
「私、子供の頃リッツのCM見て、こういうオードブルが出るパーティって憧れてたんだよねー」
「律子さんだけに、リッツパーティ!!なんちゃ……って……」
「ゆき、ほ……?」
「……」
「……」
「こ、こんな寒いダジャレですべるダメダメな私は穴掘って」
「ごめん雪歩!面白かったから!埋まらなくていいから!やよい助けて!!雪歩埋まりそう!!」
いや、本心を言えば寒かったんだけど、人の家で埋まるのは勘弁してね。
ところで主賓の律子さんはどうしているかというと。実は今日まで出張なんです。
765プロオールスターズの写真集を作る企画があって、北は北海道から南は沖縄まで、
撮影地の下見と打ち合わせを十日間かけて一気に片付けてしまうということで、帰ってくるのは今日の夜。
だから律子さんが戻ってきた時には準備万端で迎えられるように、私が留守を預かってるというわけです。
もうとっくに合い鍵だってもらっちゃってるもんね。なんたって彼女ですから。
出張中は毎日電話もメールもしてたけど、付き合い始めてからこんなに長く離れてるのって初めてで、正直すごく会いたい。
帰ってきたらちゅっちゅ責めにして、そのままお姫様抱っこでベッドに連れ込んじゃいたいくらい恋しい。
きっと律子さんは『あん、だめ、せめてシャワー浴びてから……』なんて恥じらうから、
私は『もう待てません。今すぐ律子さんがほしいです!』と野獣のようにスーツのボタンを……。
「春香。ニヤケてるところ悪いんだけど、いいかしら?」
「はっ!千早ちゃん!?な、何?」
「あなた、これ以上ないくらいスケベ面してたわよ」
ああ千早ちゃん、そんな9393した目で見ないで。
「さっき、音無さんから電話があったわ。あと5分くらいで着くって。
最初春香にかけたけどつながらなかったらしいわよ」
「そ、そうなんだ。ありがとうね」
ありゃりゃ。電話鳴ってたんだ。
気づかないくらい妄想に熱中してたなんて、私も小鳥さんのこと言えないなあ。
でもでも、会いたいんだもん。律子さん、早く帰ってきてくださいね。
※ ※ ※
「みんな〜見て見て!りっちゃんの机にはるるんの写真が!」
「ちょ!いつの間に!?」
亜美真美が来たと思ったら速攻寝室に忍び込んだみたいで、机に飾ってあった私の写真を見つけてしまった。
「さっすが〜ラブラブだね!ヒューヒュー!」
「こらー!亜美、真美!よそ様のおうちで勝手に部屋に入っちゃだめでしょ。めっ」
そうそう、ビシッと叱っちゃってね、やよい。
「あらあら、でもとても可愛く撮れてるわねえ」
「すごくよく撮れてるの。ののワってないし」
「どれどれ。確かにいい写真だね。可愛いし、ちょっと大人っぽく見えるかな?」
「律子の前ではいい顔するのね」
「これはいい燃料になるわぁ〜」
あああちょっとちょっと。みんなそんなに見ないでよぅ。それに小鳥さん、燃料って何ですか。
あの写真は、ちょっと恥ずかしいんだよね。
だって今年の私の誕生日、初めてこの部屋にお泊りして二人で迎えた朝に撮ったものだから。
『春香、こっち向いて』
『え?何ですか何ですか?』
あの日、朝起きてから先にシャワー使わせてもらって、次に律子さんが入ってる間、
私はキッチンで朝ご飯の準備をしていた。
恋人の部屋にお泊まりして朝食を作ってあげるのって憧れてたから、私が作ります!って言ったんだよね。
それでハムエッグを焼いてたら声をかけられて、振り向くと律子さんがデジカメを持って立っていた。
『記念写真、撮らせて』
『記念写真、ですか?』
『そう。春香が17歳になった記念と、もう一つ……ね?』
『……はい』
”もう一つ”というのは、つまり初めて愛し合って結ばれた記念、ということで。
だから嬉し恥ずかしな感じでフレームに収まった。
『ありがとう。大事に飾らせてもらうわ。
今日のこと忘れないように、会えない時でもこの写真見て、春香のことを思うから』
『律子さん……』
照れ屋さんな癖に、たまにストレートにドキっとすること言うんだよね、律子さんてば。
愛されてるんだ、ってすごく嬉しくて幸せで、何度もキスしてたらハムエッグが焦げそうになったのもいい思い出。
そんな2ヶ月ちょっと前のことを思い出して、またニヤケかけてたら、ピンポーン。
インターフォンが鳴った。はいはーい。今出ますよ。
『あ、私』
きた!主賓律子さんきた!これで勝つる!
急いで玄関の鍵を開けると、とっても会いたかった私の大切な人が、スーツ姿で立っていた。
「おかえりなさい。出張、お疲れさまでした」
律子さんは大きな鞄を乗せたキャリアを引きずりながら玄関に入ると、ちゅ、と私のほっぺにキスをして、
「ただいま」
と言った。
あのですね、そういうのもいいんですけど、やっぱり十日ぶりの再会なわけで。
私としてはもう、会いたくて会いたくてたまらなかったわけでして。
要するにその、もっといっぱい、キスしてほしいな〜?
「あー、うん。してもいいんだけどね。見られてるわよ?」
「へ?」
振り向くと、リビングに通じるドアを細く開けて、トーテムポールみたいに重なって、
ニヤニヤとこっちを見ている765プロ一同。
「”チュッ、ただいま”だよ!りっちゃんキザだー!!」
「はるるん、”もっといっぱい、キスしてほしいな〜?”だって!!」
「ははははうらやましいか。これがリア充よ!」
「り、律子さん!?」
「二人とも小一時間ほど寝室にこもってもいいのよ!ICレコーダーも持ってきたし!(パシッ)痛っ!!」
「小鳥さんは調子に乗らない!」
「はいはいみなさん、お料理並べるの手伝ってくれるかしら?」
あずささんが助け船を出してくれたおかげで、よくやく騒ぎが収まり。
私は疲れてるだろう律子さんの代わりに鞄を持って、一緒に寝室に行く。
「見られてるなんて、全然気がつきませんでした」
話しながら脱いだスーツを受け取って、ハンガーにかける。
こんな風に自然なやり取りができるのって、なんか嬉しい。奥さんみたいで。えへへ。
「ちょっと見せつけてやろうかなとも思ったんだけどね」
「り、律子さん、大胆ですね」
「ん〜、だってさ」
ジャージに着替えて振り向いた律子さんに、不意に抱き寄せられる。
「すごく、会いたかったもの」
耳元で優しく響く声に、あっという間に顔がポーッと熱くなる。
「春香の顔見たら嬉しくて、野次馬なんかほっといてイチャイチャしちゃおうかなって、一瞬思っちゃった」
「私も、すっごくすっごく、会いたかったです」
そして軽く触れるだけのキスを唇にしてくれた。
「ちゃんとしたのは後でゆっくり、ね」
「はい」
「さて、また出歯亀が現れないうちに、みんなのところにいきますか」
「はい!」
※ ※ ※
パーティーが始まるとみんなハイテンションで食べたり飲んだりお喋りしたり、とても盛り上がった。
みんなでお金出し合って買った引越祝い兼バースデイプレゼントがデジタルフォトフレームで、
くじ引きでプレゼンターになったらしい美希が渡す時に、
「春香の写真、死ぬほど入れちゃえばいいの!」
なんて言うもんだからさっきの写真の件をまた蒸し返されるし。
お料理を取り分けてあげたり、飲み物を注いであげたりと何かする度に、
ヒューヒュー冷やかされて、私と律子さんは照れっぱなしだった。
考えてみればお仕事の時間じゃなくて、でも事務所のみんなと一緒っていう機会はあまりないから、
二人きりの時に何気なくしてるようなことでも、イチャついてるように見えちゃうのかな?
おまけに私も知らされてなかった企画『りっちゃんはるるんのなれそめクイズ』なんてものが
亜美真美司会でいきなり始まって、いつから好きだったとか告白した時のこととか、
根掘り葉掘り聞かれちゃって、恥ずかしかったよぅ。
小鳥さん曰く『結婚式の二次会では定番よ!』らしいんだけど。
そして小鳥さんが買ってきてくれてたケーキにロウソクをつけて、
みんなでハッピーバースデー律子さんを歌ってから切り分けて食べたりして、
楽しい時間はあっという間に過ぎ、小さい子たちもいるから9時前にはお開きになった。
亜美真美と中学生組は伊織んちの新藤さんの車(いつもより大きい車で来てくれてた)で送ってもらって、
他の子たちはタクシーに分乗して帰る。
「みんな、今日は本当にありがとう。気をつけて帰ってね」
「私たちも、とっても楽しかったです」
「春香は……あ、泊まってくのか。そりゃそうだよね」
「張り切り過ぎて明日寝坊しないように気をつけるのよ」
「もうー千早ちゃんまでそんなこと言ってー」
マンションの前でみんなを見送ると、二人きりになった。
「春香も、今日は本当にありがとう。大変だったでしょ」
「いえいえ全然。律子さんのためならエンヤコラですよ。あの、律子さん?」
「ん?」
「ちょっと、目つぶってもらえます?」
「何よ急に……これでいい?」
「じっとしててくださいね」
今日ずっとポケットに入れてた物を取り出して、律子さんの首に付けてあげる。
「はい、もういいですよ」
「……春香、これ……」
「私からの、お誕生日プレゼントです」
律子さんが手に取って見つめているのは、太陽をモチーフにした、シルバーのペンダント。
私の誕生日の時、律子さんは三日月のペンダントをプレゼントしてくれた。
”月”は律子さんなんだって思うと嬉しくて、あれからほぼ毎日つけている。
だから律子さんの誕生日には、何か私にちなんだペンダントをプレゼントしたくて、色々探した末に太陽のにした。
天海の”天”でお天道様だし、太陽のジェラシーもあるし、企画ユニットもパーフェクトサンだったし。
「お誕生日、おめでとうございます。
それから、いつも側にいてくれて、大事にしてくれて、ありがとうございます。
大好きです、律子さん」
暗いからよく分からないけど、律子さんの目が潤んで光ったような気がして、それからぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとう、春香。大事にするわね。私の方こそ、一緒にいてくれてありがとう。
こんな素敵な誕生日を過ごせて、とても幸せ。
来年も、再来年も、ずっとこうしてあなたと誕生日を迎えたいと思ってる。
……好きよ」
自然に二人の唇が重なって、好きって気持ちをうんと込めたキスをした。
「さて部屋に戻ってお風呂に……そうだ、一緒に入らない?」
「えっ?……あ、はい。やっぱり今日の律子さん、なんだか大胆じゃないですか?」
「出張中我慢してた分、ね」
「律子さんがその気なら、私も頑張っちゃいますよ?今夜は寝かせてあげませんからね?」
「ちょっと、お手柔らかに頼むわよ」
「だーめです。十日分イチャイチャするまで、離してあげません。さ、行きましょう?」
「はいはい」
そうして私たちは手に手を取って、二人の愛の巣に戻っていった。
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