当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

悲しい、夢を見た。
細部は曖昧で、どこに居るかさえ定かではなかったけれど。
律子さんが、私の傍から離れていった。それだけは確かだった。
その事が、とても、とても悲しかった。

*

目覚めの重たい頭を持ち上げ、ゆっくりと体を起こす。
窓の外はまだ仄暗く、夜明けにはまだ時間があるようです。
自分の頬をそっとなでてみる。涙の流れた跡が、消えずに残っているのがわかりました。
私は、隣で律子さんが寝息を立てているのを確かめて、ようやく、一つ息を吐きました。

律子さんとお互いの気持ちを確認してからと言うもの、
こうして、二人の時間を過ごして、時には肌を重ねるような事もありました。
その事が不満だと言う事は、無い。むしろ得がたい幸せを感じているといってもいい。
ただ、その幸せが大きく、深いばかりに。
その幸せがいつか去ってしまう事が怖い。
私たち二人の仲は、女性同士、というだけでも世の目を憚るものです。
それだけではありません。
トップアイドルの階段を着実に上っていく彼女と、ただの事務員である事を選んだ私。
未来への青写真を胸に、先を見据える彼女と、過去の夢想に囚われ続ける私。
私と律子さんの、埋めがたい差が、いつか二人を分かつ事になる、
そういった確信めいたものが、いつも心のどこかに横たわっていました。

「あれ、小鳥さん、もう目を覚ましたのですか?」
ふと隣を見れば、いつの間にか目を覚ました律子さんがこちらを心配そうな顔で見つめていました。
「もう、駄目ですよ。明日も仕事があるんですから、休めるうちに休んでおかないと」
そう、どこか困ったような、そして少し呆れたような表情でこちらを覗き込む律子さん。
普段と変わらないその態度がとても愛おしくて。
私の胸のうちから、ふつふつとこみ上げてくるものを抑える事が出来なくなっていた。
私はそのまま、律子さんにしなだれかかると、律子さんの胸の中に顔をうずめました。
「ちょっと、小鳥さん、何しているんですかっ」
そんな非難めいた言葉が飛んできましたが、構いはしません。
律子さんの背中に手を廻して、そのままきゅっ、とその体を抱きとめました。
「ごめんなさい、でも、少しだけこのままで居させて下さい」
そう言って、暫く律子さんの存在を、体全体で感じようとしていました。

*
私は、心の奥にある不安は伏せたまま、先に見た夢の話をしました。
私の話す夢の話を聞いた律子さんは、はじめはどこか呆れた様に聞いていましたが、
次第に怒ったような、困ったような表情に変わっていきました。
「全く、私ってそこまで信用がないんですか?」
ベッドに向かい合って座る律子さんは、そういって私の顔を見つめると、
とん、と私の胸に飛び込んできました。
さっきとは逆に、私が律子さんを抱きとめる形になります。
私に体を預けたまま、律子さんはぽつり、ぽつりと語りました。
「私がそのままの私でいていい、そう教えてくれたのは小鳥さんです。
だから私が小鳥さんを残したままいなくなるなんて事、ありませんよ。
今の私が私でいられるのも、全部、小鳥さんが居てくれるおかげなのですから」
胸の奥にわだかまったものが全て無くなったわけではないけれど。
今は律子さんの言葉を信じよう、そう思うのでした。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!