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(自分がこんなに嫌な奴だったなんて、なんかショックだな)

終始無言の春香を見つめながら、真は心の中で呟いた。
春香の不実の恋を嘆く親友としての自分と、密かに喜ぶ、春香に好意を抱く自分。
最初はそうではなかった。春香と同じようにプロデューサーが好きだったはずで、なのに、どうして変わってしまったのか。

(うそだ、ちゃんと分かってる)

 プロデューサーに恋する春香が、いつの間にか好きになっていた。
春香が、春香の歌が振りまく幸せな匂い。
春香の笑みが胸をくすぐる。春香の声が胸を躍らせる。
歌っていても踊っていても、離れている時でも春香のことしか考えられない。
春香の好意がプロデューサーに向いていて、何より自分も春香も女である以上、叶わない恋。
想っても想っても無駄なら、せめて春香の笑顔を見ていたい。
そう考えてライブの後、ためらう春香の背中を押して、彼を追う彼女を見つめていたのに、次に見たのは泣き濡れた想い人の顔だった。


 春香が家へ帰るには遅すぎるからと、春香の家に外泊の電話を入れて真の家に連れて来た。
両親は遠征でしばらく帰らない、はずだ。
アイドル活動のことも真一にバレているし、別に両親が居て困るということもないのだが、
どうにも女の子を連れ込むと父はやたら騒ぎ立てて面倒だ。
後ろめたいことはない。自分は女、春香も女。
男女では無いのだから、一つ屋根の下にいても、別にやましいことはない。
それでも少し後ろめたいのは、春香に向く思いが異性に向くそれと同じだからだろうか。
春香にかける言葉もうまく見つけられず、二人黙って歩いて真の部屋へ行く。
真の部屋に入った途端、春香の膝が、折れた。

「・・・・・・春香?」

「ぅ・・・ぁ・・・うわああああああっ!」

なりふり構わない、叫ぶような嗚咽だった。
人の目を気にする必要がなくなったからか。
春香が泣くのを見るのは辛いけれど、涙を見せても構わないくらいに信用されているのは、嬉しい。

(春香の相方なんだから・・・これくらい、いいよね)

堰が切れたように泣きじゃくる春香をベッドに上げて、自分もそこに腰を下ろす。
そっと抱き寄せると、春香はすとんと、素直に真の胸の中へ納まった。
春香は真よりスタイルがいいし。実は、身長も少しだけ高い。
あまり年下であることを意識したことはなかったけれど、胸に顔を埋めてくぐもった声で泣く少女は、確かに自分より小さい。
気付いた瞬間から、今の今に至るまで隠して来た言葉を、もっと深く、胸の内に押し込めるように。
あるいは、あらん限りの力で、その痛みで、春香に思いを刻むように。
力いっぱいに、恋する少女は、恋していた少女を抱きしめた。

(男とか女とかじゃない。春香が男だって構わない。春香のことが好き。春香が、欲しい)

「まこ、と・・・・・・?」

ふと、ある歌の一節を思い出す。
その時には理解しえなかった詞を、今は痛いほど噛み締めることができる。

『慰めたいとか、抱きしめていたいとか。
綺麗なだけの心で、生きて行けなくて』

真と春香は自他が共に認める親友、ユニットとしてはかけがえのない相棒だ。
失恋の悲しみを慰めてやりたいのは嘘ではない。酸いも甘いも分かち合った仲、春香の苦しみは自分も背負いたい。
けれど、抱きしめるという行為が、ただ親愛の情を伝えるだけかと問われたら、それは。
今何もしないなら、春香を抱きしめて慰めてやるだけなら、きっと仲の良い間柄で居られ続けるだろう。
また一緒にアイドルに復帰できる。一緒にショッピングをして、可愛い服を見立ててもらうこともできる。
王子を装って春香の顔を赤らめさせたり、春香の失敗したスイーツに苦笑いをすることもできる。
一瞬の激情に身を委ねるより、間違いなく春香を苦しめないと、分かっている。
それでも、腹に一物抱えて笑うことができるような強さも器用さも、真は持ち合わせていなかった。
だから、せめて自分の性分を捻じ曲げない。
春香が好きだと言ってくれた、真っ直ぐな自分のままでいる。

(笑顔では見つめあえないだろうけど、ボクのメッセージは届けよう)

「ボクは、好きだ」

「え・・・・・・」

(気持ち悪い?おかしいよね、女が女を好きになるなんて)

「春香のこと」

「・・・・・・ぁ・・・・・・」

春香に拒まれることが怖い。今は何より、それが怖くてたまらない。
きっともう、あの笑顔をボクに投げかけてくれることはないだろう。
後悔すると知っていても、それでも、胸を灼く恋慕の情を春香に伝えずにはいられない。
求める相手は、夢に見る王子様のように、お姫様に手を差し伸べてはくれない。
なら、手を差し伸べる側でも構わない。
差し伸べた手を姫が取ってくれるなら、それで間違いなく幸せだ。
 
ねぇ春香、ボクは君のこと、君が想っている人よりきっとずっとずっと好きだよ。
春香がこうして欲しいのはボクじゃないって分かってるけど、でも。

「今だけ、春香の王子様になりたい」

あるかどうか分からない春香の返答を待たずに、ボクは動いた。
やんわりと、春香を抱いたそのまま、前のめりに、なる。
目が逢う。春香はボクを真っ直ぐ見据えている。ボクを押しのけようとはしない。

(なんて言われたか理解できないの?それとも)

あまりに希望的すぎる予想に苦笑いが漏れそうになる。

(どっちでも一緒なんだろうな。もう、戻れない)

唇を重ねる。
やっぱり、春香は抵抗してはこなかった。

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