最終更新:ID:qMz67FrXBA 2010年08月23日(月) 04:03:25履歴
「雪歩・・・」
「真ちゃん・・・」
薄暗い部屋の中、一通りの行為を終えた僕達はそのままベッドへと倒れこんだ。
こういう事をするのも、もう何度目になるのだろうか。
僕と雪歩は同時期にアイドルデビューして、それからずっと一緒だった。
短いようで長いような、長いようで短いような、そんな時間を二人でずっと過ごしてきた。
「ねえ、真ちゃん?」
「どうしたの、雪歩?」
「私達・・・これからもずっと一緒だよね・・・?」
雪歩の問いに僕は笑顔で答えた。
「勿論だよ、雪歩」
そして、僕達はそのまま眠りについた。
明日も仕事なので夜更かしする訳にはいかない。
「うう〜ん・・・」
強い陽射しの中、目が覚める。
隣を見ると、既に雪歩はいなかった。
何か違和感を感じたが、寝惚けた頭はそこまで回らなかった。
「先に事務所行っちゃったのかな?」
着替えや準備を済ませて僕も家を出る。
いつもなら雪歩はこういう時、僕を置いて先に出る事なんてなかったはず。
けれど、雪歩も何か事情があって先に家を出たのだろう。
自分を納得させながら少し駆け足で事務所へ向かう。
「おはようございまーす!」
勢いよく事務所の扉を開ける。
事務所に入って一番最初に目で雪歩を探した。
そして、ちゃんと雪歩がいた事を確認できて思わず安心してしまう。
「おはよう、雪歩。もう、先に出るんなら起こしてほしかったのに」
「ごめんね、真ちゃん、あんまり気持ちよさそうに寝てたから・・・」
いつも通りの会話。いつも通りの朝。
だけど・・・。
「雪・・・歩・・・?」
「どうしたの、真ちゃん?」
どうしてだろう、何かが違う。
目の前にいるのは確かに雪歩なはず。
なのに、何故か別人のような感じすらする。
それも完全に別人という訳ではなく、どこかから感じる些細な違和感。
「君は・・・誰だ・・・!?」
「えっ、どうしたの、真ちゃん?私は私、雪歩だよ?」
「嘘だッ!」
思わず声を荒げてしまい、その声にビクッとする雪歩。
見れば見るほど雪歩でしかない。
なのに、どうしてこうも違和感を拭いきれないのか。
「君は・・・雪歩じゃない・・・。何かが違うんだ・・・」
「真ちゃ・・・」
雪歩が僕に手を伸ばしてくる。
僕は思わず、その手を強く弾いてしまった。
「・・・・・・!」
「あ・・・」
その瞬間、それまで困惑気味だった雪歩の目に涙が溜まっていくのが見えた。
「真ちゃん・・・酷い・・・」
そう言って、雪歩は顔を両手で覆い泣き出してしまった。
僕と雪歩は長い付き合いだったので何度も喧嘩をし、その度に泣かせてしまった事もあった。
けれど、今は違う。
僕が一方的に酷い態度を取って雪歩を泣かせてしまった。
「ごめん・・・雪・・・」
罪悪感は感じる。
それでも、どうしても僕は目の前の雪歩を雪歩と感じる事ができなかった。
その時だった。
最初は目の錯覚かと思った。
雪歩の体が少しずつ消えているのが目に入った。
「ゆ、雪歩!?」
思わず雪歩に手を伸ばす。
しかし、触れる事すら出来ずに雪歩の姿は消えてしまった。
「うわあああああああああっ!!!」
気が付くと、ベッドの上だった。
まだ外は暗く、自分の家のベッドだと気付くのに時間はかからなかった。
「夢・・・?」
ふと、隣を見ると横になっている雪歩がいる。
雪歩がいる事に安心して、それと同時に涙が出てくる。
「どうして、僕は・・・」
その時、微かな音が耳に入った。
泣き声だ。
「どうしたの・・・雪歩・・・?」
横にいる雪歩に声をかける。
振り向いた雪歩の顔は夢の中と同じ泣き顔だった。
「真・・・ちゃん・・・!」
雪歩は起き上がり、僕に抱きついてきた。
「大丈夫、雪歩・・・?」
「ごめんね・・・真ちゃん・・・すごく怖い夢を見たの・・・」
「怖い夢・・・?」
「うん・・・。夢の中に真ちゃんが出てきたんだけど・・・その真ちゃんが・・・私の顔を見て・・・」
「・・・・・・・」
「お前は雪歩じゃない・・・って・・・。なんでそんな事言うのかわからなくて・・・」
「雪歩・・・ゴメン・・・」
一度は止まったはずの涙が溢れてくる。
そんな僕を見た雪歩は心配そうに声をかけてくる。
「真ちゃんが謝る事じゃないよ、私が勝手にそんな夢を見ただけで・・・」
「でも・・・僕は・・・」
僕の泣いている姿を見て、雪歩もまた泣き出して・・・。
二人で長い間、ずっと泣いていた。
陽が登る頃、やっと涙が収まって二人でベッドに腰をかける。
「ねえ、真ちゃん。昨晩の質問覚えてる?」
「うん、僕達がずっと一緒にいれるか、ってやつ」
「うん・・・あの時真ちゃんはああ言ってくれたけど・・・でも・・・」
雪歩が言いたい事はわかる。
僕も本当はわかっていたのかもしれない。
どんなものにも「永遠」という事はないのだと。
あの夢はそんな不安が見せたものなのかもしれない。
変わっていく事に対する不安の・・・。
「僕も雪歩もこれから少しずつ変わっていくんだと思う。そして、変わったその先で僕達が一緒にいれるかどうかは正直わからない」
「うん・・・」
「それでも・・・まだ時間はあると思うんだ。だったら、その時間を大切にしようよ」
「真ちゃん・・・」
そう言うと、雪歩はまた涙ぐんだ。
だけど、これはきっと悲しみの涙じゃない。
そう受け取ってもいいのだと思う。
「雪歩・・・」
僕は雪歩の目を見つめる。
夢の中で言えなかった言葉。
夢の中で聞けなかった言葉。
「雪歩はずっと雪歩のままだよ」
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