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私達にはお互い好きな人がいて、その人に思いを伝えられなくて

だけど好きで。好きで好きでどうしようもなくて

その温もりに触れたいと願いながら、いつも一歩手前で踏みとどまってしまう。

 そんな、臆病な私達だから。
 そんな、不器用な私達だから。
 そんな、似た者同士の私達だから。





わたしたちはときどき、セックスをする。





 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「やめ…っ!そんな、は、げし…」
「そんなこといって、もっとしてほしいんでしょ」

普段の私からは想像できないくらい、嗜虐的に微笑んで、私は千早ちゃんの乳房をわしづかみにした。
指先に力を込めると、控えめながらも柔らかい感触。まるで水風船を弄んでいるかのような錯覚に陥る。
その弾力をもっと楽しみたくて。私は乳房をつかんだ手の平の力を緩め、ゆるゆると胸を下からなぞり上げる。


「んん…っ!」

這い上がる快感から逃れようとするかのように、千早ちゃんは細い身体をくねらせる。
逃げられないよう、覆いかぶさってキスをする。
何回目のキスだったかは、3回目位から数えていない。



「…ん…はっ…」

どちらからともなく長い吐息が漏れた。
もっと感じたくて互いに身を摺り合わせ、吐息を交換する。
しばし、唇をむさぼる音とシーツが擦れる音だけが辺りを支配した。

掌を千早ちゃんの肩から隆起を辿って指の腹で刺激を与えつつ腰骨に到達し、また肩へ復路を帰る。
一見ゆったりした往復の度、腹の底から情欲が引きずり出され、息を濡らす。
やがて掌は腿をさすり始めたが、今度はお互い余計な言葉は発しなかった。



         ただ、欲しい。



唇を離すと至近距離で目が逢った。いつもは冷ややかな瞳が、今は劣情に濡れている。
そっと蕾に指をそわせると、その花びらはふるふると震えていて。これから来る快楽を待ち望んでいるかのように思えた。


「はぎわらさん…」

千早ちゃんはおぼつかない様子で両手を私の首に回す。濡れた瞳は私の姿を映す。
「雪歩でいいよ」

軽く頬にキスをして、私は割れ目をなぞり上げた。

「ひゃ……ぁ……あ…っ!!」

待ちくたびれた快楽に、千早ちゃんは身体を反らせる。
その場所は熱く濡れそぼっていて、指を少し動かすだけでそこは淫美な水音を立て始める。

「ゆきほ…も、だめぇ…っ」
「そんなこと言っても…身体は正直だよ?」

秘所を責め立てたまま、私は胸の頂を甘噛みする。
むいたばかりの果実を味わうように、私は彼女の胸に愛撫を続けた。
甘やかな匂いを醸し出すその汗の湿りと、すぐにやぶけてしまいそうな肌の柔らかさ。
いっそ皮が破けるまで噛みついて、皮に隠れた中身まで味わい尽くしてやりたい。
そんな思いを抱きながら、私はねっとりと舌で胸を舐め上げて、その胸元に強く吸いついた。

「……ん、ぅぅ」 鈍い快楽に千早ちゃんは甘い呻きをもらした。

ちゅ、と軽く音を立てて赤い痕をつける。
首筋を舐めると、微かな吐息を漏らして、千早ちゃんは身をよじらせた。

首元に顔を埋めると、先程使ったシャンプーの匂いがした。
その香りの心地よさに頭がくらくらとする。

だけど、違う匂い。本当に好きな人とは違う匂い。



いつだって、こうしたくて、だけどできなくて
だから、私はあの子の代わりに、目の前の彼女を抱く。


「…ゆき、ほ…?」
「もう何も言わないで」

私は有無を言わさず深く口づける。千早ちゃんはその両腕を私の首に回す。

もう何度も身体を重ねあった仲だ。

突然の私の口づけに一瞬とまどったものの、彼女は不器用ながらも私の舌の動きに合わせてその舌を絡ませくれる。
歯列をなぞり、螺旋を描くように。深く深く、口づけを交わす。

「ちはやちゃん」
「ゆき…ほ…」

口づけの合間にお互いの名前を呼びながら、私は指を秘裂の奥へ突き上げた。

「ああぁ!…っんん!ゆき…ほ…!ゆきほっ!」

千早ちゃんの声が私の名前を連呼するのに合わせて痙攣が小刻みに、激しくなった。
限界が近い、のかな? 私は親指を這わせ、彼女の敏感な芽をで挟んで円を描くように愛撫した。

「やぁっっあっ…っん……!」

彼女の震えるタイミング合わせて、私は思い切りその芽を擦り上げた。


「は…あ…っ!…ぁぁぁああああん!」


後頭部から私の髪を力の限り握り締め、千早ちゃんはベッドの上で弓なりに背を反らせて、達した。




私は美希ちゃんが好きで、千早ちゃんは春香ちゃんが好き。
お互い好きな人がいるけれど、その「好き」は違う「好き」。

だから、一番大切な人の瞳に見つめられると、自分の持つ暗い欲情に嫌気がさす。

そんな私達がお互いの寂しさを埋めるために肌を重ねるようになったのはいつだったのだろう。
ずっと昔のことで、ずいぶん最近のことのように思える。

 雪は輝く星を見て自らの儚さに落胆し、月は眩しい太陽を見て自らの影に絶望する。
 だから、雪は月の光を見て星を想い、月は溶ける雪を見て春の訪れに想いを馳せるのだ。



 だから、わたしたちはときどきセックスをする。



愛する人を自分の劣情で壊してしまわないように。自分の劣情を誰かに許してもらうために。



こんなこと、あの子にはできない。

 「ごめんね」なんて言えない。
 「愛してるよ」なんて言わない。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「ん…」

しばらく後、意識を取り戻した千早ちゃんはかすれた声で呟いた。

「おはよう、千早ちゃん」
まだ3時だけどね、そう言いながら私は千早ちゃんの寝ているベッドに腰掛ける。
「そう、もう3時なの」
彼女はぼんやりと腕を天井に掲げて、そのまま掌を開いて、握る。

「何か飲む?」
「コーヒーとお酒以外なら」
「分かった。水入れてくるね」

確か冷蔵庫にミネラルウォーターがあったはずだ。そう言って私はベッドから立ち上がろうとした。

「ちょっと待って」

そう言って千早ちゃんは私の手を掴んだ。冷たい掌。

意外に強く引っ張られて、危うく背中からこけてしまいそうになる。
引っ張られた反動でぼすんとベッドに腰を落とした。


「どうしたの?」
「今日、美希と何かあった?」
「ふぇ?!」

突然の問い掛けに動揺してしまって、図らずも声が上ずってしまった。
そんな私の仕草がおかしかったのか、千早ちゃんはくすくすと笑いをこぼした。

「だって、萩原さんから私を誘うなんて、めったにないことだから」

仰向けだった身体をごろんと動かして、私のほうに身体を向けてそう答えた。
瞳の奥の獣はすっかりと息をひそめていて、その瞳の色は穏やかそのものだった。

どうなの? そう聞かれて、私はとぎれとぎれに言葉を紡ぐ。


「ええと…ちょっと、ケンカしちゃって」
「萩原さんが美希と喧嘩だなんて、珍しいわね」
「私だって怒ること位あるよぅ」

そういってふてくされると、千早ちゃんは少しぽかんとした顔をした。
握った掌が、少し温かくなるのを感じた。


「千早ちゃん…?」
私の問い掛けに千早ちゃんは我を取り戻す。

「あぁ。ちょっと…似ていたから」
「んーと。春香ちゃんに?」
「ええ」
「ふぅん。ちょっと分かるかも」


 千早ちゃんは春香ちゃんが好きで、春香ちゃんも千早ちゃんのことが好きなんだよね。
 そのベクトルが、ちょっと違うだけ。
 どう違うかは、説明できないけれど。


「分かるって…どこが?」
「うーん。なんとなく。だから、うまく言葉にできないかな」
「言葉にできないのなら、分からないのと同じじゃない」

仏頂面になる千早ちゃん。私はそれを見て少し苦笑い。

「あはは、ごめん。でも分かるよ」

私は千早ちゃんの額に軽くキスをする。



道路に新聞配達のバイクが通り過ぎる音が窓越しに聞こえた。もう夜明けが近い。

「もうすぐ朝だね」
「これからどうするの?」
「どうしようかな。今日は別に予定もないし…千早ちゃんは?」
「私もないわ」
「そっか」


ベッドに寝転がる。千早ちゃんの顔はすぐ傍にあって、私は右手を軽く彼女の頬にそえた。

「…ねえ、千早ちゃん」

私がそう呟くと、千早ちゃんは頬にそえられた掌に自身の掌を重ねる。
目を逢わせると、彼女はひどくやさしい顔をして微笑んだ。


 …うん。答えはそれで十分だよね


汗で冷たくなった肌。彼女の胸に顔をくっつける。
そして、何度目か分からない口づけを再び交わした。






私達にはお互い好きな人がいて、その人に思いを伝えられなくて

だけど好きで。好きで好きでどうしようもなくて

だからいつか、この想いがその人に届けばいいなと願いながら

私達は今日も肌を重ねるのです。

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