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「準備は大丈夫、雪歩?」

「はい」

「ならいいわ。今日は雪歩の再デビューの日よ、しっかりやりなさいよ」


そう言うと雪歩は無言で頷いた。
顔付きも目も以前とはまるで違った印象は受ける。
雪歩の決意も私の判断も間違ってなかったのだと私は少し嬉しく思った。

「律子さん」

「どうしたの、雪歩?」

「私の我侭を受け入れてくれてありがとうございます」

「気にする事ないわよ。あれだけの雪歩の思いを聞いたら、なんとかするのがプロデューサーってもんよ」


雪歩はほんの偶然のようなきっかけからアイドルになり、私はそのプロデューサーとなった。
初めて会った時の泣きそうな雪歩の顔は今でも覚えている。
気弱で泣き虫で些細な事で大きなショックを受ける、少々扱い難い娘だった事も事実だ。
デビューイベントでは本番中に泣き出してしまうというトラブルもあった。
私はこんな娘を一人前のアイドルにできるのか、とこれからの苦労を思ってやりきれない気持ちになった事もある。

けれど、世間の反応は意外と甘かった。
雪歩のそのようなところが受ける人には受けたらしく、雪歩は一躍人気アイドルになった。
「思わず守ってあげたくなる、小動物系女の子」というキャッチコピーを見た時は「上手いフレーズを考え付いたわね」と感心したものだ。
事実、私もそのような雪歩だったからこそ、プロデューサーとして頑張って雪歩を育て上げたい、と決心した。


だけど、ある日雪歩から相談を持ちかけられた。

「アイドル活動を・・・休止したい?」

「は、はい・・・」


雪歩からそんな話をされた私は正直な話、いつかこういう事になるだろうとは予想していた。
やっぱり、雪歩にはアイドルは向いてなかったのかもしれない。



「やっぱり、アイドルとして活動するのは大変だった?どうしても、苦しいんだったら・・・」

「い、いえ、そういう事じゃありません」

そして、雪歩は私に全てを話してくれた。

「私みたいなダメダメなアイドルにたくさんのファンができた事は凄く嬉しいし有難い事だと思ってます・・・。
  けど、私はそれじゃ嫌なんです。
  私が嫌いな私をみんなが好きになってくれるより、私が好きな私を好きになってくれた方が私は嬉しいんです」

「だから・・・その為に一度アイドル活動を休止してもう一度本格的にアイドルのレッスンをしたい、と?」

「はい・・・自分でも酷い我侭を言っていると思います・・・けど・・・」

「何言ってるのよ、私は賛成するわ。雪歩がそこまでアイドル活動に対して真剣に考えていてくれたなんて、私は凄く嬉しい」

「律子さん・・・」

「これからはもっとビシビシいくからね、覚悟しなさいよ」

「はい!」


こうして、雪歩はアイドル活動を一時的に休止する事となった。
社長やみんなも最初は驚いていたが、それでも雪歩の思いを知って納得してくれた。
そして、この事はファンにも少なからずの衝撃を受けていたようだった。
それでも、「雪歩がもう一度アイドルとしてステージに立つのを待っている」と応援の言葉も多く送られ、雪歩も私も嬉しく思った覚えがある。


そして、今雪歩は再びステージに立とうとしている。
長い休止期間を得て、もう一度アイドルとして。

「それにしても、雪歩もよく頑張ったわね。以前の雪歩とは別人みたいだわ」

「はい・・・でも・・・」

「どうしたの、雪歩?」

雪歩が顔を俯かせながら呟く。
最近の雪歩には見られなかった弱気な顔に私は少し驚いた。

「今になって思うんです・・・私のあの時の判断は正しかったんでしょうか?」

「雪歩・・・」

「確かに・・・私はこの休止期間を得て、自分の欠点を克服できたと思います。
  でも・・・それと同時に私は変わらなくてよかった筈の部分まで変わってしまったのかもしれません。
  それに・・・以前までのファンが今の私を受け入れてくれるのか・・・それがとても恐いんです・・・」

確かに、と私は思うところがなくもなかった。
以前の雪歩のファンは雪歩のダメだった所を愛してくれていた。
そのダメなところが消えた雪歩をファンはどう思うのか?
その事を考えていなかった訳ではなかった。
それでも・・・。

「元気出しなさいよ、雪歩!」

そう言って、私は元気良く雪歩の背中を叩く。

「キャッ!」

「確かに、前の雪歩のファンが今の雪歩を見て。こんなの雪歩じゃない、と思う人が出てくるかもしれないわ。
  でもね、前の方が良かった、今の方が良い、なんて思わせるより、前の雪歩も今の雪歩もいい、って思わせる事が大事なんだと思うわ。
  確かに雪歩は変わったけど、それでも雪歩は雪歩なんだから」

「律子さん・・・はい、そうですね」

「それに・・・私は今も昔も、これからも雪歩の事が大好きよ」

不意打ちだったのか、雪歩の顔がどんどん赤くなっていく。

「やだ、からかわないでくださいよ・・・」

こういう可愛いところは変わってないんだな、と私は内心ニヤニヤする。
そうこう言っている間に開演の時間が近付いてきた。

「ほら、もうすぐ時間よ、頑張りなさい」

「はい!」


そう言って雪歩はステージへと駆け出していった。
きっと、これから始まるんだろう。

雪歩の新しいFirst Stageが・・・。

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