最終更新:ID:G9seWA5QDg 2010年03月19日(金) 17:31:34履歴
「さてと、無線LANはこれでOKだから、後はデータ移行ね」
「手を煩わせてしまって、本当にごめんなさい。私こういうのさっぱりで……。」
「いや、全然気にしなくていいのよ。新品のPC触るのって結構楽しいし」
ここは千早が一人暮らしをしているマンション。
そこで律子が何をしているかというと。
千早が今まで使っていたPCが、最近時々調子が悪くなるようになった。
PC関係に詳しい律子に相談したところ、多分修理で直ると思うが、
保証期間は切れているので相応の修理代がかかるだろう、
今は安くて高性能なものが沢山あるから買い換えてはどうか、と勧められた。
このノートPCはMP3プレーヤーを買った時に、とりあえず音楽データの管理をするためだけに、
小鳥のお古を譲ってもらったものなので、スペック的には数年前のものに相当する。
そこで最近アイドルランクが上がって収入が増えていることもあるし、
思い切っていいものに買い替えようということになった。
とは言え、機械音痴の千早では何を買えばいいのかさっぱり見当がつかず、
結局これも律子に相談することになった。
『やっぱりノートPCが手軽でいいわよね。今のはノートならどれでも無線LANはついてるし……
ってそういえば、千早のとこは無線LANあるんだっけ?』
『むせ、ん……?』
『あーえっと、インターネットにはどうやって繋いでる?』
『どうやってというか、どこにも繋がってないのだけど……』
『マジで!?じゃあずっとオフラインだったの?』
『ええ。メールとか調べ物とかは携帯でやってるし、パソコンをつなぐやり方も知らないから』
『そ、そう。じゃあそこからね』
律子の質問に答える形で色々調べた結果、マンションは光回線が来ていることが分かった。
音楽ダウンロードや動画サイトも十分快適だろう。
『環境としては申し分ないわ。後は買う物買ってセットアップすれば色々楽しめるわよ』
『ありがとう。それにしても音楽データだけを買うことができるなんて便利ね。
YouTubeというのも話に聞いたことはあったけど、クラシック関係の動画も沢山あるなら、
もっと早く知っておけばよかったわ』
『まあ千早の耳だと音質が不満かもしれないけどね。
でもDVDになってない貴重な映像があったり、お試しのつもりで色々聴いてみたい時なんかにはいいと思うわよ』
『その、無線LANというのがあれば、寝室でもインターネットを使えるのね?』
『そうよ。何、エッチな動画でも見るわけ?』
『なっ!?』
『いや、一人暮らしなんだからわざわざ寝室で見る必要はないわね』
『そんなもの見ません!!もう、律子ったら。
寝室にオーディオセットがあるから、音楽を聴きながらブログに感想を書けたら、と思っただけよ。
今までは携帯で長い文章打つのは疲れるから、ノートに書くだけだったけど』
『はは、ごめんごめん。まあその辺もばっちりやりやすいようにしてあげるわよ』
その後回線契約と工事が完了し、律子に選んでもらって注文した新しいノートPCも届いた。
話を聞いたプロデューサーが同じ日の午後に律子と千早のスケジュールを空けてくれたので、
二人で家電量販店に行って無線ルータやケーブルなど必要なものを買い揃えた後、
千早の部屋で只今セットアップ中というわけだ。
と言ってもやっているのは律子のみで、千早はコーヒーを入れたりお菓子を出したりする他は、
何をしているのかさっぱり分からない作業を横で眺めるしかなかった。
「あの、律子」
「ん〜何?」
「今日は、時間は大丈夫なの?」
「ああ、特に予定もないし、大丈夫よ」
「だったらあの、ご飯食べていってくれないかしら。せめてものお礼に」
「あら。如月千早さんの手料理をご馳走してもらえるなんて光栄ね。喜んで頂くわ」
「もう、からかわないで。全然、大したものはできないけど……。
じゃあ、任せて悪いけど、用意してくるわね」
しばらくして。
黙々と作業していた律子は、旧PCのマイピクチャにあるものを見つけて渋い顔になった。
「千早ー。ちょっといい?」
「何かしら」
キッチンからエプロン姿の千早がやってくる。
「この『音無小鳥厳選画像集』ってフォルダは一体?』
「ああ、それはそのパソコンをもらった時に入ってたの。
『マイピクチャフォルダを絶対見てね!』と言ってたから、
音無さんからのプレゼントのつもりだと思うのだけど……」
「えっと、非常にけしからん匂いがするんだけど、見ていい?」
「いいわよ」
ざっとフォルダの中身を見てみると、どうやら765プロアイドルたちの写真のようだ。
ただし隠し撮りの。
「この春香パンチラじゃない。こっちは美希のブラチラ。
あ!これ私が仮眠してた時の!ちょっと口開いてるじゃない恥ずかしい。
……とりあえずあの鳥は明日シメるとして、これも新しいPCに移す?」
「一応お願い」
「了解。じゃあやっとくわ」
視線を画面に戻しかけた律子だったが、もう一度振り返って千早を見る。
「どうしたの?」
「いや、意外とエプロン似合うわね」
「えっ?えっ?」
「若奥さんって感じで可愛いわよ」
「そ、そんな、恥ずかしいわ」
「ああ、そうやって赤くなると一層初々しい新妻っぽいわね」
「もう、知らない」
「あははは」
真っ赤になった千早がキッチンに引っ込む。
しばらく胸を押さえて百面相をしていたことに、律子は気づいていない。
夕食ができた時には、作業は全て終わっていた。
カレーライスとチーズを添えたサラダが並ぶ食卓に、二人で向い合って座る。
「ん、おいしいじゃない。こういうしっかりスパイスが効いてるの好きだわ」
「そう?……良かった、気に入ってくれて」
「うん、おいしいおいしい。こっちのサラダもいいわね」
寝室の本棚には『ひと手間かけてグルメ気分!カレー編』という真新しいレシピ本があるのだが、
もちろん律子は知らない。
「ふーおいしかった。ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
デザートのプリン(これは近所のケーキ屋で買った)まで綺麗に平らげた。
「あの、聞きたいことがあるんだけど」
「ん、何?」
「パソコンの、壁紙っていうのかしら。画面の背景。あれを変えるのってどうやるのかしら」
「ああ、簡単よ。やってみる?」
「ええ。手順を覚えたいの」
二人でPCの前に座る。
律子が説明しながらやってみせるのを、千早が真剣な表情でメモを取りながら聞く。
「で、ここで好きな画像ファイルを選んで……とりあえず春香のパンチラにして、と」
「ちょ、ちょっと律子」
「まあまあ、例だから。で、OKを押せばほら、変わった」
「ありがとう。やり方は分かったけど、どう見ても変態のパソコンね……」
「予想以上にキツいわね……。戻しとくわ」
カチカチとマウスを操作して、Windows標準搭載の地味な壁紙に変える。
「今日は本当にありがとう。助かったわ」
「どういたしまして。私も楽しかったし、おいしいカレーも食べられて得した気分。
分からないことあったら遠慮なく聞いてね。私のサポートはそこらのメーカーよりずっと親切よ?」
「ありがとう。その時は頼らせてもらうわ」
「あ、電車来た。それじゃね。おやすみ」
「おやすみ。気をつけて帰ってね」
最寄駅の改札の向こうに律子が消えるのを見送った後、回れ右して千早は小走りに駆ける。
部屋に着くと着替えもせずリビングのローテーブルの前に座り、
立ち上げっぱなしのPCのスクリーンセーバーを解除する。
カチ。カチ。
先ほどのメモと画面を見比べながら、慎重に一つ一つ操作する。
画像ファイルを選ぶ段になって、『音無小鳥厳選画像集』フォルダを開いて探す。
教えてもらった通りOKボタンを押すと、お下げを解いて眼鏡を外し、
少し頬を赤らめてこちらを見る律子が現れた。
「ふふ……」
恐らく亜美真美辺りがけしかけて、それに小鳥が乗って撮った写真なのだろう。
照れたような困ったような目をしている。
「可愛い……」
思わず、笑みがこぼれる。
普段は小鳥は勿論のこと、プロデューサーだろうが社長だろうが容赦なく説教する律子だが、
こういう時は怒れないことを、千早は知っている。
ひとしきり眺めた後、キスしたら画面が汚れてしまうだろうかと今度は悩み始めて、
長い間千早はPCの前から離れられなかった。
「手を煩わせてしまって、本当にごめんなさい。私こういうのさっぱりで……。」
「いや、全然気にしなくていいのよ。新品のPC触るのって結構楽しいし」
ここは千早が一人暮らしをしているマンション。
そこで律子が何をしているかというと。
千早が今まで使っていたPCが、最近時々調子が悪くなるようになった。
PC関係に詳しい律子に相談したところ、多分修理で直ると思うが、
保証期間は切れているので相応の修理代がかかるだろう、
今は安くて高性能なものが沢山あるから買い換えてはどうか、と勧められた。
このノートPCはMP3プレーヤーを買った時に、とりあえず音楽データの管理をするためだけに、
小鳥のお古を譲ってもらったものなので、スペック的には数年前のものに相当する。
そこで最近アイドルランクが上がって収入が増えていることもあるし、
思い切っていいものに買い替えようということになった。
とは言え、機械音痴の千早では何を買えばいいのかさっぱり見当がつかず、
結局これも律子に相談することになった。
『やっぱりノートPCが手軽でいいわよね。今のはノートならどれでも無線LANはついてるし……
ってそういえば、千早のとこは無線LANあるんだっけ?』
『むせ、ん……?』
『あーえっと、インターネットにはどうやって繋いでる?』
『どうやってというか、どこにも繋がってないのだけど……』
『マジで!?じゃあずっとオフラインだったの?』
『ええ。メールとか調べ物とかは携帯でやってるし、パソコンをつなぐやり方も知らないから』
『そ、そう。じゃあそこからね』
律子の質問に答える形で色々調べた結果、マンションは光回線が来ていることが分かった。
音楽ダウンロードや動画サイトも十分快適だろう。
『環境としては申し分ないわ。後は買う物買ってセットアップすれば色々楽しめるわよ』
『ありがとう。それにしても音楽データだけを買うことができるなんて便利ね。
YouTubeというのも話に聞いたことはあったけど、クラシック関係の動画も沢山あるなら、
もっと早く知っておけばよかったわ』
『まあ千早の耳だと音質が不満かもしれないけどね。
でもDVDになってない貴重な映像があったり、お試しのつもりで色々聴いてみたい時なんかにはいいと思うわよ』
『その、無線LANというのがあれば、寝室でもインターネットを使えるのね?』
『そうよ。何、エッチな動画でも見るわけ?』
『なっ!?』
『いや、一人暮らしなんだからわざわざ寝室で見る必要はないわね』
『そんなもの見ません!!もう、律子ったら。
寝室にオーディオセットがあるから、音楽を聴きながらブログに感想を書けたら、と思っただけよ。
今までは携帯で長い文章打つのは疲れるから、ノートに書くだけだったけど』
『はは、ごめんごめん。まあその辺もばっちりやりやすいようにしてあげるわよ』
その後回線契約と工事が完了し、律子に選んでもらって注文した新しいノートPCも届いた。
話を聞いたプロデューサーが同じ日の午後に律子と千早のスケジュールを空けてくれたので、
二人で家電量販店に行って無線ルータやケーブルなど必要なものを買い揃えた後、
千早の部屋で只今セットアップ中というわけだ。
と言ってもやっているのは律子のみで、千早はコーヒーを入れたりお菓子を出したりする他は、
何をしているのかさっぱり分からない作業を横で眺めるしかなかった。
「あの、律子」
「ん〜何?」
「今日は、時間は大丈夫なの?」
「ああ、特に予定もないし、大丈夫よ」
「だったらあの、ご飯食べていってくれないかしら。せめてものお礼に」
「あら。如月千早さんの手料理をご馳走してもらえるなんて光栄ね。喜んで頂くわ」
「もう、からかわないで。全然、大したものはできないけど……。
じゃあ、任せて悪いけど、用意してくるわね」
しばらくして。
黙々と作業していた律子は、旧PCのマイピクチャにあるものを見つけて渋い顔になった。
「千早ー。ちょっといい?」
「何かしら」
キッチンからエプロン姿の千早がやってくる。
「この『音無小鳥厳選画像集』ってフォルダは一体?』
「ああ、それはそのパソコンをもらった時に入ってたの。
『マイピクチャフォルダを絶対見てね!』と言ってたから、
音無さんからのプレゼントのつもりだと思うのだけど……」
「えっと、非常にけしからん匂いがするんだけど、見ていい?」
「いいわよ」
ざっとフォルダの中身を見てみると、どうやら765プロアイドルたちの写真のようだ。
ただし隠し撮りの。
「この春香パンチラじゃない。こっちは美希のブラチラ。
あ!これ私が仮眠してた時の!ちょっと口開いてるじゃない恥ずかしい。
……とりあえずあの鳥は明日シメるとして、これも新しいPCに移す?」
「一応お願い」
「了解。じゃあやっとくわ」
視線を画面に戻しかけた律子だったが、もう一度振り返って千早を見る。
「どうしたの?」
「いや、意外とエプロン似合うわね」
「えっ?えっ?」
「若奥さんって感じで可愛いわよ」
「そ、そんな、恥ずかしいわ」
「ああ、そうやって赤くなると一層初々しい新妻っぽいわね」
「もう、知らない」
「あははは」
真っ赤になった千早がキッチンに引っ込む。
しばらく胸を押さえて百面相をしていたことに、律子は気づいていない。
夕食ができた時には、作業は全て終わっていた。
カレーライスとチーズを添えたサラダが並ぶ食卓に、二人で向い合って座る。
「ん、おいしいじゃない。こういうしっかりスパイスが効いてるの好きだわ」
「そう?……良かった、気に入ってくれて」
「うん、おいしいおいしい。こっちのサラダもいいわね」
寝室の本棚には『ひと手間かけてグルメ気分!カレー編』という真新しいレシピ本があるのだが、
もちろん律子は知らない。
「ふーおいしかった。ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
デザートのプリン(これは近所のケーキ屋で買った)まで綺麗に平らげた。
「あの、聞きたいことがあるんだけど」
「ん、何?」
「パソコンの、壁紙っていうのかしら。画面の背景。あれを変えるのってどうやるのかしら」
「ああ、簡単よ。やってみる?」
「ええ。手順を覚えたいの」
二人でPCの前に座る。
律子が説明しながらやってみせるのを、千早が真剣な表情でメモを取りながら聞く。
「で、ここで好きな画像ファイルを選んで……とりあえず春香のパンチラにして、と」
「ちょ、ちょっと律子」
「まあまあ、例だから。で、OKを押せばほら、変わった」
「ありがとう。やり方は分かったけど、どう見ても変態のパソコンね……」
「予想以上にキツいわね……。戻しとくわ」
カチカチとマウスを操作して、Windows標準搭載の地味な壁紙に変える。
「今日は本当にありがとう。助かったわ」
「どういたしまして。私も楽しかったし、おいしいカレーも食べられて得した気分。
分からないことあったら遠慮なく聞いてね。私のサポートはそこらのメーカーよりずっと親切よ?」
「ありがとう。その時は頼らせてもらうわ」
「あ、電車来た。それじゃね。おやすみ」
「おやすみ。気をつけて帰ってね」
最寄駅の改札の向こうに律子が消えるのを見送った後、回れ右して千早は小走りに駆ける。
部屋に着くと着替えもせずリビングのローテーブルの前に座り、
立ち上げっぱなしのPCのスクリーンセーバーを解除する。
カチ。カチ。
先ほどのメモと画面を見比べながら、慎重に一つ一つ操作する。
画像ファイルを選ぶ段になって、『音無小鳥厳選画像集』フォルダを開いて探す。
教えてもらった通りOKボタンを押すと、お下げを解いて眼鏡を外し、
少し頬を赤らめてこちらを見る律子が現れた。
「ふふ……」
恐らく亜美真美辺りがけしかけて、それに小鳥が乗って撮った写真なのだろう。
照れたような困ったような目をしている。
「可愛い……」
思わず、笑みがこぼれる。
普段は小鳥は勿論のこと、プロデューサーだろうが社長だろうが容赦なく説教する律子だが、
こういう時は怒れないことを、千早は知っている。
ひとしきり眺めた後、キスしたら画面が汚れてしまうだろうかと今度は悩み始めて、
長い間千早はPCの前から離れられなかった。
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