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※オリジナル設定で亜美真美は双子じゃないって事になってます。


 鏡を通した先には、別の世界が広がっている。
これは、そんな世界で出逢った亜美と真美の物語。

「ただいまー」
 亜美はパチンと部屋の電気を付け、カバンをベッドへ投げつけた。
カバンはほーぶつせんを描いてベッドの中央にボスンと音を立てて落ちた。
我ながらナイスコントロール。亜美選手、10点。
「よし、それじゃあ今日も会おうかな」
亜美はいつも通り部屋の隅にある大鏡の所へ行き、かかっている布をどけた。
うん、曇りひとつないキレイな鏡。亜美が毎朝ガッコに行く前に手入れしてるかんね。
鏡の中を覗けばそこには相変わらず左右反転した世界が写っている。
でもね、いつも一つだけ、違っているものがあるんだ。
何かって?それはね、
「やっほー、亜美」
 鏡の反側対にいる自分は亜美に向かって手を振って来た。亜美もつられて手を振りながら挨拶する。
亜美が手を振ると、おそろで色違いのヘアゴムを右側につけてる亜美によく似た子が「えへへ」と笑う。
あ、なんか可愛い。
でもね、目の前に写ってる自分は亜美と別々に動いていて、緑色の上着を羽織ってるんだ。
今亜美が着てる服は黄色なのにね?
…そう、これが違っているもの、鏡の向こうにいる自分にそっくりな別人…双海真美だよ。
「ねぇ、亜美。今日は何か楽しい事あった?」
「うん。今日もね、千早お姉ちゃんが痴早になったよ」
 家へ帰ってくると亜美は自分の部屋へ直行して、大鏡に向かう。それが亜美の日課だった。
別に使うのは大鏡じゃなくて手鏡でもいいんだけど、それでも亜美はこれを使って話すのが一番好きだった。
だって、真美がすぐ側にいるように感じるから。



「…なにそれ。千早お姉ちゃんが千早になったってどういう意味?変わってなくない?」
「あれ、真美には話してなかったっけ?亜美の千早お姉ちゃん、とんでもない変態でさ」
「うぇ!?あの『私、歌と結婚します!』って言ってた千早お姉ちゃんが!?」
 真美は驚いて大声を出す。その声にビクッとした亜美は一瞬固まっちゃった。
もう、真美ったら声が大きいんだから。もう、驚かせないでよ。
「うん。こう…『やよいー!(ガバァ』って感じだった」
「…なん、だと…?」
 亜美が千早お姉ちゃんの真似をすると、真美は信じられないものを見た目で亜美を見る。
いや、ホントだってば。本気でこうだったんだってば。信じてよ。
「いや、そんなコト言われたって信じられないっしょ…」
「亜美からすれば、はるるんが腹黒いって事のほうが信じられないよ…」
鏡の先は同じようで全然違う世界。なのに、全然違う世界。不思議を通り越してもはやミラクルの領域。
どうしてこんなにそっくりなのに、どうしてこんなに違うんだろう。
「どうして亜美と真美の世界って、なんでこんなに違うんだろーね?」
「まぁ、確かに違うけど…真美は結構似てると思うな」
 亜美は思わず、はぁ?と言いそうになった。
だって、真美の世界は、はるるんの側に音程さんがいて、ゆきぴょんとまこちんが付き合ってる世界だもん。
全然違うよ。
「そう思うなら、具体的にどこらへんが似てるのか詳しく教えてよ」
「だってね、765プロがあって、そこにみんないて、性格はちょっと違うけど、みんな仲良しなんだもん。
顔も、名前も、声も、ほとんど同じでしょ?」
「そりゃ、まぁ、そうだけど…」
 けど、性格が全然違うんじゃ全然駄目じゃん。なんて思ったり。
「でも、だったらどうして亜美と真美は名前が違うんだろーね?」
「そだね。なんで真美と亜美の名前は違うんだろうね?」
 性格は真美の方が少し大人しいってだけで、亜美と対して変わらない。
好きなものも、嫌いなものも、趣味も。変わらないのに。
亜美は鏡越しに真美と手を重ねる。
触れないけれど、なぜか重ねたら真美のぬくもりを感じられるような気がしたから。
亜美のてのひらには冷たいガラスの感触が広がった。
「亜美達、双子だったらよかったのにね」
「そうだね。名前も一文字違いだし、服も色違いだし。双子だったらよかったね」
 きっとなれたよ、と真美は笑う。
実際、亜美は真美の事を双子のようなものと思ってるし、ましてや鏡に写った自分だなんて思ってない。
それに、そもそも真美を自分だと思ってたらこんな感情は生まれてこないだろーしね。



 しばらく真美と会話していると、下の階からママが「ご飯できましたよー」と亜美を呼ぶ声がする。
あぁ、一旦中止になるのかな。
「…真美、ママがご飯だって」
「あ、亜美もなんだね。真美も呼ばれた」
「…嘘。そっちも?」
 本当にそっくりだね、と二人で笑う。こりゃ、真美の言うとおり結構似てるのかもしんない。
そうやって笑ってるとママが「亜美ー」と少し大きめの声で呼ぶ。
とりあえず今はご飯食べる方が先かな。でも、その前に。
「…真美、」
「ん、どしたの?」
 亜美はもう一度座って、鏡に手を添える。すると真美が手を合わせてくれた。
さわれないけど、今は別にそんな事関係ないや。真美と向かい合うように座って、少しの間見つめる。
「…ん」
 亜美はそっと鏡に口を付けた。
そう。以前真美と一緒に読んだ恋愛小説にあった、最後のシーンのまね。
主人公がヒロインとさよならするとき、電車の窓で関節ちゅーをしてたやつ。
一度、アレをやってみたかったんだ、なんて。
亜美は目を閉じてるから真美がどんな表情をしてるかわかんないけど、きっと困った顔してるのかな?
でも、真美はやってくれた。
「ん…」
 見てないけど、なんでかな…そんな感じがするんだ。ガラス越しに真美の感触が伝わっているような気がした。
 そのあと、亜美と真美は同じタイミングで顔をはなした。
鏡の向こうにいる真美は顔が真っ赤で、すごく恥ずかしそうな顔をして俯いてた。
そんな真美をみてたらなんか亜美まで恥ずかしくなってきて。
「ほ、ほら、亜美。早く、ご飯食べにいかない、と」
「えっ?あっ、うん。そだね」
トマトみたいに耳まで赤い真美があたふたしながら亜美にご飯を食べるようにいってきて。
正直亜美もこの場にいるとふっとーしそうだったから急いで階段を降りて居間へと向かって。
でも、部屋から離れたって顔の火照りは収まる気配はなかった。
廊下で目を閉じたら、さっきの真美の顔を思い出しちゃったんだ。
その瞬間、亜美の顔にますます熱が集まって。
亜美は、口元を抑えて小さく自分のそっくりさんの名前を呟いた。
「…真美」
 こりゃ、当分恥ずかしくて会えないな。

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