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一人でいると肌寒い。
布団をかぶっても外の空気が布団の外から少しずつ入ってくる。
あたたかい場所に包まれていても、どこかさみしい気持ちになってしまう。

そんな秋の夜には。



      ◆ ◆ ◆


 

 ふわり


自分の身体が誰かに抱き締められるのに気付いて、私はうっすらと意識を取り戻す。
抱き締められた方を見やると、栗色の髪の毛がぼんやりと視界に拡がっていた。


   (あぁ、春香か)


思い返せば当たり前の話である。
ここは自分のベッドで、昨晩私はここで眠りについたのだから。春香と一緒に。


きゅっと私を抱き締める腕に力がこもる。
汗が乾ききっていない彼女の肌を背中越しに感じる。
その柔らかい肌の湿りは、いやがおうにもそれまで行為を思い起こさせて、少し顔が熱くなる。
もう何度も重ねた行為なのに、未だこの感情には慣れることがない。

小さく聞こえる彼女の心臓の鼓動。


身体を春香の方へ向けて、彼女をぼんやりと眺める。


少しかがんだ感じで私を抱き締めているから、彼女が今どんな表情をして眠っているのかは分からない。
だけど静かな呼吸とともに肩をゆらしている彼女の姿を見ると、気持ちよく眠っているのかな、と思った。
すぅすぅと、彼女の穏やかな吐息が私の肌をすべる。

春香の髪をゆるゆると梳くと、彼女がいつも使っているシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。
同じシャンプーを使っているのに、私の髪とは違った匂い。私が好きな彼女の香り。
つむじに鼻をあてて、静かに息を吸うと、その香りが鼻腔いっぱいに拡がる。


それだけで、心が温かくなる。ふしぎだ。


自分が春香の近くにいるという実感が嬉しいからなののだろうか。
それとも春香が自分のものであると感じて安心を覚えるからなのだろうか。
…きっと、両方なのだろうな。自分の情けない感情に、我ながら少し苦笑してしまう。

先程まで髪を梳いていた手を、春香の肩に沿わせる。
薄闇からでも分かる彼女の肌の白さ、私は星座の形を追いかけるように彼女のほくろに沿って彼女の肌を指でなぞる。
いつの頃だっただろうか、「千早ちゃんの方が肌は白いよ」と春香が照れ隠しに言っていたことを思い出した。

確かにそうかもしれないが、春香の肌の白さはまた別の白さだ。
健康的な白。血の通った、生きた白だと思う。

そんなとりとめのないことを考えながら、私の指は春香の肩甲骨のあたりに到達した。



なめらかな稜線。


春香とユニットを組んで、彼女の肩甲骨は幾度となく見てきた。
触ろうと思えば、いつでも触ることのできる部分。それでも、そこに触ることは何故か恥ずかしくてできなかった。
今は、触ることができる。 そのことが嬉しくて、私はその稜線を何度も指で往復させる。



「…んぅ…」
かすれた声を漏らして、春香が身じろぐ。それに気づいた私は少し驚いて、指の動きを止めた。
流石にしつこく触りすぎただろうか。息をひそめて春香の様子をうかがう。

もぞもぞと身体を動かして、しばらくすると春香は先程と同様に穏やかな寝息をたて、私を抱き締めたまま眠りへ潜り込んだ。
身体を動かしたからか、彼女の横顔がすこし見える。幸せそうな寝顔。



  まるで、天使が眠っているみたいだ。




ふいに、春香を抱き締めたいな、と思った。

ぎゅっと春香という幸せをこの身一杯に感じたい。
そう思った。


自分の腕に少し力が入る。微かな衣ずれの音が部屋に響く。
「……」
抱き締めようと力を入れたその腕は、春香に触れようとして、そのギリギリのところで止まってしまった。


いつだってさわれそうで、さわれない。
もう彼女とは裸で愛を語り合う仲になっているはずなのに、それでも躊躇してしまう自分がいるのはなぜだろう。



ぎゅっとつかまえると、みえているしあわせが、どこかにちってなくなってしまいそうで。



あぁ、いつだって私は、春香の前だと、自分の想いを正直に形にできない。
まったく…これじゃまるで一目惚れをした少年みたいだ。

私はクスリと笑って、優しく春香を抱き締めた。彼女が壊れてしまわないように。
それを知ってか知らずか、春香は太腿を私のそれに絡ませてくる。
いつもならそれで欲情が駆り立てられるのだが、今夜は不思議とそんな気持ちにはならなかった。

春香の体温が、じんわりと身体に伝わってくる。


 あぁ。

    あたたかいな。


あたたかさと同時に感じたのは、穏やかな眠気。
別に眠気に逆らう理由もない。私はゆっくりとまぶたを閉じた。

まぁ、たまにはこういうのも、ね。



      ◆ ◆ ◆




千早ちゃんは、私を優しく抱き締めて、しばらくすると規則的な寝息を立て始める。
気付かれないように上を見上げると、千早ちゃんはとても幸せそうな顔で眠りについていた。
まるで、この場所が千早ちゃんの天国みたいな感じで。

そんな顔して眠らないでよ。
さっきまで眠ったふりをして千早ちゃんに抱きついた私がバカみたいじゃない。
太腿まで絡ませたのに、…千早ちゃんのばか。

千早ちゃんには罪はない。私の単なる空回りなのだ。
だけど、ちょっとこの目の前の朴念仁に仕返しをしたくなって、彼女の鎖骨あたりを甘噛みした。

「…ん。いたいわよ、はるか」
それでも千早ちゃんは私がまだ寝ぼけていると思っているみたいで、ぼんやりとした口調で私を諭した。

起きてよ。
起きて、私を奪ってよ。
その優しい瞳に、私だけを映してよ。
そう思ったけれど


目の前の愛しい人の寝顔は、とても幸せそうで。


あぁ、女神さまが寝ると、こんな感じなのかなぁ…って不覚にも見惚れてしまった。
その頬に触れたいけれど、その唇を奪いたいけれど、いかんせん、この体制だ。
どうにもならない状態に、私は一つため息をつく。



 でも、まぁ、たまにはこういうのも、ありかな。



そう思って、私は千早ちゃんの胸に顔をうずめて、眠ることにした。
あー。千早ちゃんの髪の毛、やっぱりつやつやだなぁ。うらやましい。


 ちはやちゃんは、やさしすぎるんだよ。


もっと強く抱き締めてくれていいのに。
私はそんなに脆い人間じゃないよ、千早ちゃん。
強く抱き締めたって、絶対に壊れていなくなったりしないから。


…でも。
もし、私がボロボロになったときは、こうやって優しく抱き締めてくれると嬉しいな。


回した腕に少し力を込めて、千早ちゃんの体温を感じながら、私は眠りについた。





作者:百合16スレ138

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