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scene1
その日は去年までは365日の内の何でも無い――寧ろ、周りと自分との違いを考えれば憂鬱な一日――に過ぎなかった。が、今年からは仲間の誕生日という特別な意味を持つ一日になった。
勿論、クリスマスを彩る事もアイドルにとって大事な仕事で、さっきまではいつも出演している番組のクリスマス特別版・生放送の収録をしていた。
そして、今はスタジオから事務所までの途中にある小さな雑貨屋さんに寄って萩原さんへの贈り物を何にしようかと考えている。
今日の収録があずささんと一緒だったのは本当に幸運だった。プレゼント選びのセンスに乏しい私にとって良きアドバイザーがいてくれるという意味で、そして愛しい人が隣にいてくれるという意味で
プレゼントを受け取った萩原さんの笑顔を想像するのも楽しいだが、何気無い一秒一秒が単純に楽しい…と同時に切ない。
相談の結果、私は急須を、あずささんは湯呑みを贈ろうという事になった。こういう時はなまじ感性が働かない方が良いらしい。あずささんより早く選択を済ませ、先に会計に向かった。
「あらぁ、千早ちゃん。もう決めちゃったの?早いわねぇ」
「はい、私にはよく分かりませんから、迷うだけ無駄かな、と思いまして。分からないなりに色々と考えたんですけどね」
「私もどちらにしようかなぁ…と、二つまで絞り込めたんだけれど…」
「こっちの2個セットとこっちの一品物ですか?」
「そう。雪歩ちゃんの誕生日という意味ではこっちだけれど、『大切な誰かと過ごす特別な誕生日・クリスマス』という意味ではセットの方かなぁ、と思って」
流石は大人の女性というか、恋愛観を大切にしている人というか。或いはあずささんにそういう願望があるのかも知れない
「あずささんならどちらを貰った方が嬉しいか、という観点に立つのも大事かと」
「じゃあこっちにしようかしら」

scene2
クリスマスということでタクシーもつかまらず、30分ほど掛かる帰り道を歩いて帰る羽目になった。私にとって都合が良いと言えばそうかも知れない。
「さっきの話なんだけど、千早ちゃんはそういう予定は無いの?『大切な誰かと二人きりで過ごすクリスマス』みたいな」
「私が?有り得ません。今は歌う事以外は考えられませんから」
嘘…なんだけど。これでも可愛い娘に見られたくて、半年間で付け焼き刃ではあるが、ファッションにも意識を向けている……つもりだ。
周りから「あずささんに刺激にされてビジュアルに気を使い出したか」と誉められた事を考えれば、成果はある……はず。
「あずささんこそ無いんですか?そういう話」
言って、少し後悔した。先日、共演した俳優に声を掛けられた時に「私、恋人がいますから」と断っていたにも関わらず全く男の影は無い。
かと言って、たまに見せる表情は誰か特別な人がいるように感じる。
私は一番身近な男性であるプロデューサー(流石に社長は無いだろう)ではないと当たりを付けていた。
「そうねぇ…好きな人はいるのだけど…多分、気付いて貰えないんじゃないかしら」
そのプロデューサーはと言えば、他の娘の番組の収録現場にいる。小さなプロダクション故の悲しさ、クリスマスというイベントで大忙しなので、音無さんや高木社長までも保護者として現場に出向いている程だ。
つまり、今の発言は『そういう意味』なのだろう、と。
「そうですか、私で良ければ応援しますよ」
だから、いつまでも身に付けていなければならない後輩役の仮面が重く痛い。振られるなら振られてすっきりしたいとも思っているから。
責めて私たちが異性であれば今日という日は話を切り出すには絶好の機会になったはずだ。
「そうね、じゃあいつかお願いしようかしら」
と、苦笑しながら返した。あずささんもまた私がプロデューサーに惹かれているという風に考えているのかも知れない。

scene3
少し沈んだ気持ちだったから、いつ、どこで切り出すべきか迷っていた。そのきっかけを赤信号がくれた。
「事務所に帰ってから渡そうと思ったんですけど…。これ、いつもお世話になっているお礼です」
バッグの中から小さな植木鉢とチューリップの球根を取り出した。春に素敵な花を咲かせて欲しい、そんなロマンチックで良いプレゼントだと思ったのだが…みるみるあずささんの曇っていく。
「ご、ご免なさい。やっぱりこんな物を貰っても嬉しくないですよね」
「そうじゃないのよ…困ったわぁ…。雪歩ちゃんの誕生日のことで頭がいっぱいだったから…私、千早ちゃんへのプレゼントの事、すっかり忘れていて…」
そういう少し落ち度がある抜けた所が、あずささんらしいと言えば、あずささんらしい。そこまであずささんの思考を独占していた萩原さんに少し嫉妬したけれど。
「気にしないでください。私が勝手にあずささんに送りたいだけですから」
「そうはいかないわ。私だっていつも千早ちゃんのお世話になっているから、何かお返しがしたいのだけれど…」
かと言って今から雑貨屋さんに戻ったとしてももう閉まっているだろう事は、お互い分かっている。浮かない表情をして歩く事、1、2分…
「そうだわ!有り合わせで悪いのだけれど、受け取って貰える?」
いそいそと手袋を外して「はい!」と笑顔で差し出しくれた。
「千早ちゃん、寒そうにしてるし調度良いでしょう?」
本音を言えば欲しくない理由が無い。プレゼントというだけで嬉しいのに(変な趣向があるわけではないが)好きな人と物を共有するなんて夢のような話だ。使用済み……と言うのはいささか刺激が強過ぎる気もするけど
「何だか無理矢理奪い取ったみたいで悪いですよ…それに、この手袋ANNA SUIじゃないですか。余計受け取れません」
とは言え、礼儀を欠いた行動をしたくない半分、節操が無い娘と思われたくない半分。ファッションに疎い私でもANNA SUIくらいは知っている。
「良いのよ。それに何だか、姉妹みたいで楽しいじゃない?千早ちゃんが嫌じゃなければ良いけれど」
「い、いえ!尊敬している先輩からのプレゼントだなんて光栄です」
そこまで推されては受け取らない訳にはいきませんね…と苦笑しながらはめてみた。姉妹で、尊敬している先輩か…という落胆を隠す意味でも。

scene4
「千早ちゃん、見て。雪が降ってきたわぁ〜」
まるで子供みたいにはしゃぐあずささん。少し落ち度があっても尊敬する先輩でもお姉さんでも子供みたいでも…全てでこの人を好きなんだな、と改めて気付いた。
「やっぱり、これ…今日の間だけでもお返しします。手袋しないと手が冷えちゃいますから」
「良いのよ、気にしなくて。それはもうあげた物なんだから」
だから、今は少し私がお姉さんぶって一歩を踏み出してみようかな
「だ、だったら…手を繋いで帰りませんか?私の手、ずっと手袋してたから少しは暖かいですよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて迷子にならないようエスコートお願いしようかしら」
「……それに、こうしていると、私も寂しくないですから」
「えっ……?」
「あ、いえ…何でもありません。さ、手をどうぞ」
雪はクリスマスと萩原さんの誕生日を演出するだけでなく、きっかけという贈り物をくれた。
(了)

おまけ
あ「ただいま帰りましたぁ〜」
千「やっと、帰り着きましたね」
雪「あずささん、千早ちゃん、お帰りなさい」
あ「あらぁ、もう帰っていたのね。雪歩ちゃん、誕生日おめでとう」
真「えぇ、今日は雪歩の誕生日ということで早く切り上げて頂いたんです。だから、まだボク達しか帰ってきてないんですけど」
雪「えへへ、現場の方でもいっぱいお祝いしてもらえました」
千「萩原さん、おめでとう。真からは何かもらえた?」
雪「うん、これなんだけど…」
あ「あらあら、素敵な指輪ね」
千「本当、萩原さんによく似合ってるわ」
真「少し値が張りましたからね。そこはクリスマスプレゼントと兼ねて、という事にしてもらいました」
雪「ペアリングだから、半分出すって言ったのに真ちゃん、聞いてくれなくて…」
真「だって、それじゃあ意味が無いじゃないか」
千「真からのプレゼントには見劣りするかも知れないけど、私からはこれをどうぞ」
雪「わわっ!綺麗な急須…ありがとうございます…」
あ「そして、私からはこれ。千早ちゃんと一緒に選んだのだけれど…」
雪「わぁーこっちも可愛い湯呑みですね」
真「夫婦茶碗ですか、何だか照れますね…」
千「あら?別にあずささんは『真と一緒に使え』なんて一言も言ってないわよ」
真「あっ!……いや、その……」
雪「わ、私、お茶入れてくるね!二人にお茶出さないといけないし、折角、貰ったんだから早速使わないと!」
真「あ、雪歩!ちょっと待って!」
あ・千「アラアラ(・∀・)フフッ」

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