最終更新:ID:II5CaWyu3Q 2009年12月04日(金) 17:27:06履歴
初めて足を踏み入れたTV局。
不安とワクワク感が同時に押し寄せてきて、あたしはすごくテンパっていた。
だって、アッチを向いてもこっちを向いても芸能人ばかり。
新人さんばかりとはいえ、みんなキラキラ光っているみたい。
やっとオーディションを受けられるとこまで来たのに、周りを見渡すほどにドンドン自信がなくなっていった。
ワァ…!
急に廊下が騒がしくなった。
どうやらゲスト審査員さん達が通るらしい。
今日は今をときめく一流芸能人が3人、ゲスト審査員として来る。
ガラス越しに見えるその姿は私服でも圧倒的な存在感を放つ。
その中に一人見知った顔がいた。
3人の中でも一際光輝いている765プロの秋月律子。
あたしの従姉、あたしのりっちゃん。
周りのみんながりっちゃんを見ている。
キレイ…素敵…と囁いている。
でしょ、でしょ?あたしの自慢の従姉なんだもん。
りっちゃんが誉められたことが自分のことのように嬉しくて、あたしは舞い上がってしまっていた。
今考えたら絶対にしちゃいけないことだったのに、馬鹿なあたしは少しも気が付けなかった。
「りっちゃーん!」
前室を飛び出して、先を歩くりっちゃんを呼び止めるように大声を出した。
いつもどおり、コラ走らないの!とお小言を言われるかな?と思ったけど、それも何だか気持ちいいじゃん。
あたし、“あの”秋月律子と話せるんだぞ、ってなんか優越感っていうの?
とにかく、あたしは秋月律子と特別なんだって周りにアピールしたくて。
「…………」
振り返ったりっちゃんは一瞬驚いたように口を開いたけれど、すぐに閉じてしまった。
「あれ?律子さんの知り合い?」
「いえ、知らないわ。ごめんなさい、これから準備があるので失礼するわね」
イエ、知ラナイワ。
知ラナイワ…。
あたしは何を間違ったのかちゃんと分かったと思う。
分かったけれど、それは今日のオーディションには出られないということだった。
マネージャーさんには突然お腹が痛くなったと嘘をつき、家には失敗しちゃったと嘘をつき。
部屋にこもって布団を頭まで被って。こんな時、泣ければいいんだろうけど。
何だか自分が情けなさ過ぎて涙の一つも溢れなかった。
突然、バタバタ階段をかけ上がって来る音が聞こえて、バッターン!とドアが開く音がした。
「こんの馬鹿たれーーっ!!」
叫び声と共にけっこうな重量の物が布団越しに投げつけられて来た。
「ウッ…イッターイ!」
「痛いじゃないわよ!馬鹿っ!」
布団をはぎ取られて、更にバカバカと言われる。
鬼の形相をして怒るりっちゃんを見ていたら、あたしはやっと安心して涙を流すことが出来た。
「アンタどうして今日のオーディション受けなかったの!?」
「だって、だって!りっちゃん知らないふりしたから…」
「あたしが知らないふりしたのは、アンタがコネとか八百長とか言わないようによ!」
「だっ、だからだよ。あたしがりっちゃんの従姉妹なんてことスグにバレるじゃん?
受かってもコネだし、落ちてもりっちゃんに恥かかすじゃん?」
知らないでいたならともかく、あたしはよりにもよって審査前にこれ見よがしに審査員に近付いた。
しかも知り合いアピールをしながら。
りっちゃんは無視をしてくれたけれど、わざわざ周りに変な印象を植え付けてしまった。
「……涼、アンタ今日あたしが来るって知ってたの?」
「ろっ、廊下で見るまで、知っ、らなかった」
「ならそのまま無視してれば…」
「嬉し、かったのっ!周りに気後れして自信無くしてたとこに、あたしの自慢のりっちゃんが来て…」
「アンタってほんと馬鹿よね」
「馬鹿っ、だよ。あたしはずっとりっちゃんしか見て来なかったんだもん。りっちゃんが…」
──好きなんだもん。
言ってもきっと誤魔化せる。
今までだって、つい口を滑らせても冗談に出来た。
りっちゃんは自慢の従姉。りっちゃん大好きだよ、と。
そう言うたびに少し困ったように照れて笑うりっちゃんが本当に好きだった。
キレイで格好よくて頼りになって、強がりでちょっと抜けてるとこもあるけれど、それがまたあたしを惹き付けた。
少しでもりっちゃんに近付きたくて、いつかりっちゃんを守れるようになりたくてこの世界に飛び込んだのに。
あたしはホント何やってるんだろう?
「…馬鹿」
「分かってるから、そんなにバカバカ言わな…」
あたしの言葉を遮るように、りっちゃんはあたしの頭を抱き寄せて、もう一度「馬鹿」と呟いた。
「あたしはどんな時でもアンタがそうやって味方でいてくれるから、この仕事やってこられたのよ」
抱き締められた胸から聴こえてくるりっちゃんの心音とあたしのそれが重なる。
どこまでも速く、止まらない鼓動。
シンクロしたリズムが気持ちまで同調しているかのように錯覚させる。
きっとバレない。大丈夫。
「あたし、りっちゃんが好きだよ」
ドクンッ。
一際大きく聴こえたその音はりっちゃんの音?あたしの音?
ヒュウ…と微かに息を吸い込む音が聞こえて、「やーね」と照れた声を出すりっちゃんを想像していたのに、
聞こえてきたのは今まで聞いたことない真剣な声色。
「涼、ゴメン」
何が?何がゴメンなの、りっちゃん。
やだなぁ違うよ。ホラ、いつもの、ホラ。
「あたし、涼の気持ち知ってた」
え…。
「知ってたって言うか、やっと気付いたの」
「そ、それって?」
「あたしが人を好きになったから」
りっちゃんが好きになったのは、あたしじゃないってこと?
不思議と落ち着いている自分に驚いた。
失恋のショックより、もうこの想いを隠さなくていいことに安堵している自分がいる。
「ね、誰か聞いてもいい?」
「まだ涼は知らないかも?事務所の子」
「女…の子」
「うん」
男の人がよかった。
せめて、男の人なら諦めもついたのに。
「あたしの気持ちなんて知りもしないで、他の子を一途に思ってて、」
りっちゃんのこと好きで
りっちゃんのこと好きでもないのに。
「誰よりも弱そうなのに、一度決めたら誰よりも芯が強くて、」
「りっちゃん、その人が好きなんだね」
「……うん」
その人の笑顔に癒され、その人を守りたいとりっちゃんは言う。
あたしと一緒だね。従姉妹だからってそんなとこまで似なくていいのにね。
「あたしも、りっちゃんが好きだから。もう迷惑かけないようにする」
「頑張りなさい。あたしも暫く審査員の仕事断るから」
「ううん大丈夫。コネとか言われてもそんなの吹き飛ばせるくらいの実力付けてみせる」
「口で言うほど簡単じゃないわよ」
「うん。だから名実ともにトップアイドルになれたら。お姫様のキスを頂戴」
「な、な、ななな?!」
その時、りっちゃんが誰を好きでもいい。あたしを好きでなくていい。
貴女を一生守る、誓いのキスを頂戴。
あたしはその一回のために頑張れるから。その後も頑張れるから。
「そうと決まれば!あー、やる気出てきたらおなか空いちゃった」
「ち、ちょっと涼!」
部屋を出たあたしの後ろから、やれ勝手に決めるな!だの、やれ年上への礼儀がどうとかのお小言が飛んでくる。
もう、愛しのりっちゃんからのお小言はあたしにとってご褒美でしかないよ。
「り、涼ーーーーーっ!!」
不安とワクワク感が同時に押し寄せてきて、あたしはすごくテンパっていた。
だって、アッチを向いてもこっちを向いても芸能人ばかり。
新人さんばかりとはいえ、みんなキラキラ光っているみたい。
やっとオーディションを受けられるとこまで来たのに、周りを見渡すほどにドンドン自信がなくなっていった。
ワァ…!
急に廊下が騒がしくなった。
どうやらゲスト審査員さん達が通るらしい。
今日は今をときめく一流芸能人が3人、ゲスト審査員として来る。
ガラス越しに見えるその姿は私服でも圧倒的な存在感を放つ。
その中に一人見知った顔がいた。
3人の中でも一際光輝いている765プロの秋月律子。
あたしの従姉、あたしのりっちゃん。
周りのみんながりっちゃんを見ている。
キレイ…素敵…と囁いている。
でしょ、でしょ?あたしの自慢の従姉なんだもん。
りっちゃんが誉められたことが自分のことのように嬉しくて、あたしは舞い上がってしまっていた。
今考えたら絶対にしちゃいけないことだったのに、馬鹿なあたしは少しも気が付けなかった。
「りっちゃーん!」
前室を飛び出して、先を歩くりっちゃんを呼び止めるように大声を出した。
いつもどおり、コラ走らないの!とお小言を言われるかな?と思ったけど、それも何だか気持ちいいじゃん。
あたし、“あの”秋月律子と話せるんだぞ、ってなんか優越感っていうの?
とにかく、あたしは秋月律子と特別なんだって周りにアピールしたくて。
「…………」
振り返ったりっちゃんは一瞬驚いたように口を開いたけれど、すぐに閉じてしまった。
「あれ?律子さんの知り合い?」
「いえ、知らないわ。ごめんなさい、これから準備があるので失礼するわね」
イエ、知ラナイワ。
知ラナイワ…。
あたしは何を間違ったのかちゃんと分かったと思う。
分かったけれど、それは今日のオーディションには出られないということだった。
マネージャーさんには突然お腹が痛くなったと嘘をつき、家には失敗しちゃったと嘘をつき。
部屋にこもって布団を頭まで被って。こんな時、泣ければいいんだろうけど。
何だか自分が情けなさ過ぎて涙の一つも溢れなかった。
突然、バタバタ階段をかけ上がって来る音が聞こえて、バッターン!とドアが開く音がした。
「こんの馬鹿たれーーっ!!」
叫び声と共にけっこうな重量の物が布団越しに投げつけられて来た。
「ウッ…イッターイ!」
「痛いじゃないわよ!馬鹿っ!」
布団をはぎ取られて、更にバカバカと言われる。
鬼の形相をして怒るりっちゃんを見ていたら、あたしはやっと安心して涙を流すことが出来た。
「アンタどうして今日のオーディション受けなかったの!?」
「だって、だって!りっちゃん知らないふりしたから…」
「あたしが知らないふりしたのは、アンタがコネとか八百長とか言わないようによ!」
「だっ、だからだよ。あたしがりっちゃんの従姉妹なんてことスグにバレるじゃん?
受かってもコネだし、落ちてもりっちゃんに恥かかすじゃん?」
知らないでいたならともかく、あたしはよりにもよって審査前にこれ見よがしに審査員に近付いた。
しかも知り合いアピールをしながら。
りっちゃんは無視をしてくれたけれど、わざわざ周りに変な印象を植え付けてしまった。
「……涼、アンタ今日あたしが来るって知ってたの?」
「ろっ、廊下で見るまで、知っ、らなかった」
「ならそのまま無視してれば…」
「嬉し、かったのっ!周りに気後れして自信無くしてたとこに、あたしの自慢のりっちゃんが来て…」
「アンタってほんと馬鹿よね」
「馬鹿っ、だよ。あたしはずっとりっちゃんしか見て来なかったんだもん。りっちゃんが…」
──好きなんだもん。
言ってもきっと誤魔化せる。
今までだって、つい口を滑らせても冗談に出来た。
りっちゃんは自慢の従姉。りっちゃん大好きだよ、と。
そう言うたびに少し困ったように照れて笑うりっちゃんが本当に好きだった。
キレイで格好よくて頼りになって、強がりでちょっと抜けてるとこもあるけれど、それがまたあたしを惹き付けた。
少しでもりっちゃんに近付きたくて、いつかりっちゃんを守れるようになりたくてこの世界に飛び込んだのに。
あたしはホント何やってるんだろう?
「…馬鹿」
「分かってるから、そんなにバカバカ言わな…」
あたしの言葉を遮るように、りっちゃんはあたしの頭を抱き寄せて、もう一度「馬鹿」と呟いた。
「あたしはどんな時でもアンタがそうやって味方でいてくれるから、この仕事やってこられたのよ」
抱き締められた胸から聴こえてくるりっちゃんの心音とあたしのそれが重なる。
どこまでも速く、止まらない鼓動。
シンクロしたリズムが気持ちまで同調しているかのように錯覚させる。
きっとバレない。大丈夫。
「あたし、りっちゃんが好きだよ」
ドクンッ。
一際大きく聴こえたその音はりっちゃんの音?あたしの音?
ヒュウ…と微かに息を吸い込む音が聞こえて、「やーね」と照れた声を出すりっちゃんを想像していたのに、
聞こえてきたのは今まで聞いたことない真剣な声色。
「涼、ゴメン」
何が?何がゴメンなの、りっちゃん。
やだなぁ違うよ。ホラ、いつもの、ホラ。
「あたし、涼の気持ち知ってた」
え…。
「知ってたって言うか、やっと気付いたの」
「そ、それって?」
「あたしが人を好きになったから」
りっちゃんが好きになったのは、あたしじゃないってこと?
不思議と落ち着いている自分に驚いた。
失恋のショックより、もうこの想いを隠さなくていいことに安堵している自分がいる。
「ね、誰か聞いてもいい?」
「まだ涼は知らないかも?事務所の子」
「女…の子」
「うん」
男の人がよかった。
せめて、男の人なら諦めもついたのに。
「あたしの気持ちなんて知りもしないで、他の子を一途に思ってて、」
りっちゃんのこと好きで
りっちゃんのこと好きでもないのに。
「誰よりも弱そうなのに、一度決めたら誰よりも芯が強くて、」
「りっちゃん、その人が好きなんだね」
「……うん」
その人の笑顔に癒され、その人を守りたいとりっちゃんは言う。
あたしと一緒だね。従姉妹だからってそんなとこまで似なくていいのにね。
「あたしも、りっちゃんが好きだから。もう迷惑かけないようにする」
「頑張りなさい。あたしも暫く審査員の仕事断るから」
「ううん大丈夫。コネとか言われてもそんなの吹き飛ばせるくらいの実力付けてみせる」
「口で言うほど簡単じゃないわよ」
「うん。だから名実ともにトップアイドルになれたら。お姫様のキスを頂戴」
「な、な、ななな?!」
その時、りっちゃんが誰を好きでもいい。あたしを好きでなくていい。
貴女を一生守る、誓いのキスを頂戴。
あたしはその一回のために頑張れるから。その後も頑張れるから。
「そうと決まれば!あー、やる気出てきたらおなか空いちゃった」
「ち、ちょっと涼!」
部屋を出たあたしの後ろから、やれ勝手に決めるな!だの、やれ年上への礼儀がどうとかのお小言が飛んでくる。
もう、愛しのりっちゃんからのお小言はあたしにとってご褒美でしかないよ。
「り、涼ーーーーーっ!!」
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