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終業式も終わって帰り道、三人で並んで歩く。

「今日は暑いねー。そうだ、どっかでアイス買って帰ろうよ。」

春香ちゃんが言う。彼女はこの中では一人だけ下の学年だ。

「そうだね、こう暑いと家まで持たないよ。」

真ちゃんが言う。二人とも汗で制服がべったりと張り付いて、インナーが透けそうになっている。
それは私も同様で、買い食いは駄目だと言う気力も残っていなかった。
正直なところ、私もアイス食べたい。

「それじゃあ、途中の商店によっていこうよ。」
「あれ、珍しい。いつもみたいに雪歩は止めるかと思った。」
「こう暑いと、私も流石に……。」
「あはは、まあ今年最高気温らしいし。まだこれから暑くなるんだろうけど。」

二人とは小学校の頃からの縁であり、なんだかんだと高校までずっと一緒の学校だ。
強い日差しを浴びながら、帰路を三人で並んで歩く。
人や車の姿はほとんど見えず、地面には三つの影が浮かぶのみ。
アスファルトからは陽炎が上り、気温の高さを思わせる。

「いやー、校長先生の話は長かったねぇ。」
「最後の方、先生たちが止めに来てたもんね。」
「それにしても、こう、昼ごろに帰る時って、なんかテンション上がらない?」
「春香はいつもこんな感じじゃないか。それに、今日はそれだけじゃないだろ。」
「ふふ、そうだね。でも、春香ちゃんの気持ちもわかるよ。」

そうだ、私も今日はこの暑さにもかかわらず気分は高揚している。
なんといっても、明日からは、

「明日から夏休みだもんね。」

明日からは夏休みだ。








《来年の話をすると鬼が笑う》









<1.雪歩>

「三人で入っても狭いだけだし、ボクがまとめて買ってくる。」
「どうせクーラーも入ってないしね。それじゃ、真おねがい。私コーラ味ね。」
「あ、私はソーダ味で。お願いね、真ちゃん。」

真ちゃんが店内へ入るのを見送り、店の軒先で一息つく。
隣からも少し疲れたように息を吐く気配がした。

「早く買ってこないかなーアイス。」

私はその声で春香ちゃんのほうを振り向き、唖然とした。
彼女は制服のボタンを二つくらい開けて、スカートをパタパタさせていた。
確かに暑いのはわかるが、流石にこれは端たない。
どうもこの妹のような後輩は、奔放な部分があるように思える。先輩として注意せねば。

「あ、あの、春香ちゃん?」
「どしたの雪歩?」
「スカート、ちょっとどうかと思う……。」
「あ!こ、これは誰も見ていないからであって、普段はこんなことしないよ!?」
「私がいるんだけど……」

真ちゃんも。

「全く、二人とも何やってるのさ。ほらアイス。」

そういって真ちゃんが店から現れた。
春香ちゃんはちょっと顔を赤くしながら目線を横にずらしている。
どうやら今のやり取りを見られて、少し恥ずかしかったようだ。

軒下で休みながら、アイスを開ける。
ソーダ味のアイス。暑いと、アイスクリームよりこういうアイスキャンディが欲しくなる。
そのアイスを二口ほど食べたところで、
横で春香ちゃんがいたずらっ子のような目をして私を、正確には私の持っているアイスを見ていることに気がついた。

「隙ありっ」
「ちょっ、ちょっと春香ちゃん!?」
「ソーダ味もいいねー。あ、真のイチゴももらいっ。」

なんというか、とても自由だ。
こんなことしてても可愛いと思ってしまうのだから、年下っていうのは得なものである。

「ああっ、ボクのアイスまで!ちょっと春香、流石に怒るよ!?」
「あはは、ゴメンゴメン。代わりにこのコーラ味をあげましょう!」
「う、しょうがないなぁ。なら許そう。」
「ほら、雪歩も。あーん。」

そんなことを言いながら私の方にアイスを差し出した。
これは、少し、照れるなぁ。

それにしても、今日の春香ちゃんはやたらと浮かれている。
夏休みがうれしいのはわかるけど、ここまでのものだろうか。

「それじゃ、アイスも食べたし、どっちかの家で遊ぶぞー!」








<2.真>

「それじゃ、アイスも食べたし、どっちかの家で遊ぶぞー!」

春香はなにやら妙に高いテンションのままそう言った。
それにしても、今から?
流石にキツいものがあるんじゃないだろうか。

「春香ちゃん、流石に今から遊ぶのは……」
「なに言ってるの雪歩!終業式の午後からはもう夏休みだよ!
 夏休みの間はたくさん遊ばないと!」
「明日からでもいいんじゃない?今日は帰って休もうよ、春香。」
「私は今から遊びたいのー!」

やっぱり、今日の春香はどこかおかしい。
どこか焦っている様にも見える。

「春香、ちょっと変だよ、どうかしたの?」
「そうだよ春香ちゃん、遊ぶのは明日からでも……」
「だって……」

うつむいた顔。ちょっと拗ねたようだ。
焦るような理由でもあるのだろうか。
このままこの妹分の元気がなくなっちゃうのは困る。

「春香ちゃん、なにか理由があるのなら聞くよ?
 大丈夫。だからそんな顔しないで、話してくれないかな。」

雪歩がそう問いかける。穏やかな声。
なんというか、優しいおねえちゃんって感じだ。
昔から春香をつれまわして遊びにいくことは多かったけど、いまだにこういった事は不慣れだ、
そしてこういうときは、いつも彼女がとりなしてくれた。
ボクは雪歩のこんな女の子らしさに憧れを抱いている。
彼女は笑ってボクだって女の子らしいといってくれるけど。

「だって……」
「だって?」
「今年しかないもん……」
「へ?」

今年?なにが今年しかないのだろうか。
もう春香はすっかり半ベソ状態で、ぐずりながら喋る。

「だって来年は、二人とも受験生で、夏休みに三人でいっぱい遊べるの、今年しかないもん……」

はっと雪歩と顔を見合わせる。
なるほど、春香はそれで、こんな事を言い出したのか。
そういえば、去年もおととしも互いに高校受験とかで遊びに行く回数が減ってたっけ。
さらに大学受験ともなると、その比ではないだろう。

「それに、大学にいったらみんな離れ離れになっちゃうし、
 だから今年はめいっぱい時間を使いたくて……」
「春香ちゃん……」
「まったく、そんなこと気にしてたのか。」
「そんなことって!」

少し怒ったように言う。
雪歩も心配そうにこっちを見てるんで、大丈夫だと目配せを送った。

「大学に行ったって、ボクらの仲が壊れるわけじゃないよ。
 それに、夏休みの間は皆こっちに戻ってくる。また三人で遊べるさ。」
「うん、私も夏になったらこっちに戻ってくるよ。だから、大丈夫だよ春香ちゃん。」
「……本当に?」
「うん。約束する。」
「わかった、じゃあ私も夏になったら戻ってくる。そしたらいっぱい遊ぼうね。」

どうやら泣き止んでくれたようだ。
落ち着いて、ふと、おかしさがこみ上げてきた。

「春香もそんな一年以上も先の事で悩んでたのか。」
「ちょっと真、笑わないでよー。」
「ふふ、『来年の話をすると〜』って言うもんね。」
「雪歩まで!そんなに笑わなくてもいいじゃない。
 ……あははっ。」

しばらく三人で笑い転げる。
さっきまでとは一変した雰囲気、やっぱり春香は笑ってる方がいい。

「うん、わかった。じゃあ遊ぶのは明日からにする。」

ちょっとだけ、残念そうな顔をして春香はそういった。
しかたのない後輩だ。
こういう時には、ボクだってお姉さんぶりたくなる

「今日はみんな疲れてるしね。」

そう、確かにお疲れだ。遊びに行く気力は流石にない。

「だからさ、今日は明日からの計画を立てよう!」
「え?真?」

驚いたような顔でこっちをみる。
雪歩の方を見ると、穏やかな顔で頷いてくれた。

「春香ちゃんはどこに遊びに行きたい?」
「え、えっ、雪歩?」
「山のぼりとか面白そうだよね。春香はどう?」
「あ、えっと、う、海!海行きたい!」

「それじゃあ雪歩の家で計画を立てようじゃないか!」
「え?真ちゃんの家でやるんじゃないの!?」
「私の家でやろっか?」
「よし、春香の家まで競争だ!」
「おおー!」
「真ちゃんまで変なテンションになっちゃった……」

そうして、アスファルトの上を走り出す。
どうやら春香もすっかり元気を取り戻したみたい。
初日から低いテンションで過ごすという事態は避けられそうで何よりだ。
こんないい日に落ち込むようなことは嫌だもんね。なんといっても、

明日から、夏休みだ。










<3.春香>

明日から、いっぱい遊ぼう。
この、二人の一つ年上の友達と、いろんなとこに行きたい。いろんな事をしたい。
楽しみだなぁ、海にも行きたい、山にも行きたい。
あ、その前にまずは水着買いに行かなくちゃ。

そこで、宿題もしなきゃ、と思い出してちょっとテンションが下がる。
わからないとこは雪歩に教えてもらおう。真に聞くのはなんか怖い。
この二人と一緒なら、宿題をするのだって面白いに違いない。そう、



明日から、楽しみにしていた、夏休みが始まる。

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