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(前作)

 僕の気持ちとは裏腹に、今日も天気がいい。夕暮れ時の電車内にはまだ人もまばらで、学校帰りの制
服姿や、仕事を早上がりしてきたらしいサラリーマンが散らばっている。僕が乗っている電車は上り方
面。朝のラッシュアワーならともかく、この時間帯なら混雑のしようもない。悠々自適、一列まるごと
空いた座席の端に陣取って、トートバッグを自分の隣に置いたりなんてしている。名前は知っていても
降りたことの無い駅が、今日の目的地だ。来る前に確認した駅名をもう一度確かめて、まだ一駅先だっ たけれど、僕はもう席を立ってしまった。
 駅に着いた。待ち合わせ相手からは、自宅の住所と、そこへの道を事前に教えてもらっている。ここ から先も、もうしばらくは僕一人だ。一緒に駅を降りた何人かの小集団にまぎれて、改札を出る。その 間、『大丈夫かな』『バレないかな』と心配したけれど、どうやら無用だったようだ。それはそうだろう。
『秋月涼』は世間的には売れっ子女性アイドルであり、僕――秋月涼本人――は男なのだから。
 電柱に貼り付けられた番地と携帯電話にメモした住所を照合しながら、あまり人の気配がしない住宅街を歩いていく。二つの数値は徐々に一致しつつある。メモの住所と電柱の住所がそうなった所に、目的はあった。『水谷』の表札、間違いない。誰と会うにしても、携帯電話で連絡を取り合って最寄り駅で落ち合う、ということが多かったものだから、直接呼ばれて自宅を訪ねるなんて久しぶりだった。
僕は、緊張していた。力をこめてインターホンを押す。数秒後、『はい』と細い声が、ノイズを乗せながら返事をする。名前を名乗ると、階段を下りてくる音が玄関のドア越しに聞こえてきた。



「いらっしゃい」
 声の主、水谷絵理ちゃんがドアを開けた。事務所の同期。僕の友達。そして、僕の……。
 行儀良く整えられた履物に合わせるようにして、僕も靴を丁寧にそろえて、一声かけて会釈をしながら、段差を上った。玄関は、何かの花の匂いがした。
 僕を手招きしながら、絵理ちゃんは階段を上っていく。僕も、その後ろに続く。
「涼さん、普段はメガネ?」
「あ、うん。仕事の時はコンタクトにしてるんだ」
「メガネ男子……」
 唇の端をニヤリと吊り上げて、絵理ちゃんが笑った。
「お茶もってくる」
 と一言、僕を部屋へ招くと、絵理ちゃんは再び階段を下りていった。絵理ちゃんの部屋は、本人のすっきりした印象通り、清潔だ。女の子の部屋なんだから当たり前なのかもしれないけれど。ただ、デスクの上にあるパソコン回りの豪華さが僕の目を引いた。モニターが二台もあるし、様々な機材がずらりと並んでいて、うかつに手を触れたら大変なことになりそうだ。部屋の隅には、よく見るとamazonの箱が積み上げてある。これも手を触れない方がよさそう。
 しばらくして、絵理ちゃんはウーロン茶を二人分持ってきた。僕に渡されたグラスの方が、気持ち量が多いように思える。お茶を飲みながら、いつもとは違う絵理ちゃんの格好に視線を移す。いつもの、学校の制服みたいなデザインのブレザーではなくて、薄手の白い七部丈のブラウス。その下には黒いキャミソールで、ブラウスの襟からチラチラと鎖骨が覗く。デニムのホットパンツが、まだ残る暑さを意識させた。長くて白い脚が剥き出しで、目がそこに吸い寄せられてしまいそうだった。


「涼さん、今日は男の子」
 僕が服装を見ていたのに気がついたのか、絵理ちゃんも僕の服装に言及してきた。
「まぁ、絵理ちゃんは知ってるから。着替えるの時間かかるし、アレ」
「女の子の涼さんでもいいのに」
「……いや、それは僕がよくない」
 僕の目が机の上のパソコンに向いた。あんな、『特殊装置』とでも言えそうなレベルの代物を、絵理ちゃんはどう扱うのだろう。
「絵理ちゃん、パソコン好きなの?」
「うん……あ、そうだ」
 絵理ちゃんは僕に応答しながら、パソコンの電源を入れた。ファンの回る音と共に起動が始まり、僕が予想していたよりもずっと早く、よく整頓されたデスクトップの画面が映し出された。
「ここに、全部」
 画面の中で、ポインタが一つのフォルダの周囲をぐるぐると周回した。『R』と、フォルダの名前は一文字だけ。
「全部って、何が?」
「直接見る?」
 フォルダを開き、絵理ちゃんの右手が一枚の画像ファイルをダブルクリックした。
「ぎゃおおおおん!」
画面に大写しになったのは、更衣室で、楽屋で、誰もいない事務所で、『実験』の被験者となった僕の姿。
間抜けな悲鳴を上げる僕を見て、絵理ちゃんがくすくす笑った。



「これなんか、光の当たり具合も気に入ってる」
 カチカチと無機質なクリック音がする中で、画面に映し出されるのはどれもこれも、ノーモザイクで性器が映った画像ばかり。僕が撮られた記憶の無いものもあったりした。思わず僕は目を背けそうになったけれど、画面から目が離れてくれない。
「……」
 と、画像が閉じられた。そして、絵理ちゃんはフォルダの中身を表示していたブラウザを閉じると、それをごみ箱へ放り込んでしまった。
「えっ?」
 僕が呆気に取られている間に、ごみ箱はカサリと音を立て、空っぽになってしまった。モニターの電源も落とされた。
「……」
しんと静まり返った部屋の中に、パソコンのファンの音だけが残る。
「……実験は終わり。もう、涼さんは、自由」
 ぽつりと絵理ちゃんがつぶやくように言った。絵理ちゃんの意図が読み取れず「どういうこと?」と尋ね返してみると、僕の顔を見て、二度、三度と深呼吸した。
「ごめんね、涼さん」
「どうしたの、突然」
「言おうと思っていたけど、今までずっと言えなかった」
「言うって、何を?」
 部屋の空気が固さを増した。



 絵理ちゃんは、胸に手を当てている。呼吸の音までも聞こえてきそう。
「……涼さんが好き」
「えっ」
「涼さんが、好き」
「いや、聞こえなかったわけじゃなくて」
「大事なことだから、二回言った?」
 どくんと胸が鳴った。それは、思ってもいなかった言葉。でも、心のどこかで……。
「えっと、その……本当に?」
僕は絵理ちゃんの裸も見たことがあるし、キスもした。お互いの大事な所も触った。そんなことをしている内に、もしかしたらと心に思い描いたこともあった。
だからだろうか。絵理ちゃんの言葉は驚きこそすれ、信じられないという気分では無かった。
「困ってる時の可愛い顔、女の子みたいな声、柔らかい匂い、さりげなく見せてくれる優しさ……全部、自分だけのものにしたかった」
 絵理ちゃんの視線は、カメラに慣れたこっちが恥ずかしくなるぐらい、僕に注がれる。
「本当は素直に『好き』って言いたかったけど、あんなことを……」
「あんなこと……」
 僕の頭に、今までのことがリプレイされていく。僕の胸中は複雑だった。明かすことのできない機密事項を握られたまま、選択権も無く、被験者であることを強要されるのは、嫌だった。
でも、結局僕は、明確に拒絶の意思を見せなかった。それは、きっと、僕も――。



「わたし、人付き合いが苦手……誰かを好きになっても、どう表現すればいいのか、分からなかった。涼さんが男の子だと知ってから、独り占めしたくなった……?」
 その可愛らしい動機は、胸を更に高鳴らせていく。僕の心に、甘い痺れが走る。
「絵理ちゃん……僕は」
 詰まりそうになる言葉を、喉の奥から無理やり搾り出す。
「僕はヘタレだ。……やらされてることだけど、男なのに女装なんかする」
 拳に力を入れた。
「あんなことをされていたのに、実は……心の中でそれを求めている自分がいたんだ。『また絵理ちゃんと二人きりだ』って思うとね。か、可愛い女の子とキスしたり……その、エッチなことをしたり……ってのは、僕も、男だし……」
 絵理ちゃんは両手を組んでもじもじしながら、僕の言葉を聞いていた。鼓動が耳にうるさいぐらいだ。
次に何を言おうか、頭が回らない。口が勝手にしゃべっているような気がしていた。
「変だよね……でも、僕も、絵理ちゃんが好き。今のを聞いて、もっと好きになっちゃった」 
「……良かった」
 絵理ちゃんが一息ついた。
「嫌われてるって思ってた」
「僕が変わり者なだけかもしれないよ」
「だったら……一緒?」
 大きな目がきゅっと細くなった。
「私も変わり者だから。仲良くやっていける?」
「……そうだね」



 僕の口からも笑いがこぼれた。互いに交し合った言葉の意味を反芻して、顔が熱くもなった。目の前の女の子への愛しさがこみ上げてくる。言葉には言霊が宿る、って、真実かもしれない。本当は、ああいったことをする前に、今みたいな言葉を互いに交し合って、合意を形成するものなんだと思う。僕も絵理ちゃんも、踏んできた手順はちぐはぐだ。でも、ちょっとおかしな人間同士、気持ちの向かう矢印にすれ違いが無いのが、うれしく思えた。
「……」
 絵理ちゃんが僕のほうに向かって両腕を伸ばした。僕が初めて目にするサイン。こうすればいいのかな、と思いつつ、僕も腕を伸ばして、背中に手を回す。ぴったり密着すると、体温の温かさがじんわりと伝わってくる。
「いい匂いするね、絵理ちゃん」
「涼さんこそ」
 首筋に顔を埋めてみると髪の匂いがして心地よい。頬の辺りに、さらさらした髪がかかってきて、ちょっとくすぐったかった。
「涼さん」
「なに?」
「……最後まで」
「最後……」
「うん、今日は、ずっと私一人だから」
一旦お互いの体を離し、絵理ちゃんがカーテンを閉める。僕の方を見て笑ったその瞳は、妖しい光を帯びている。『実験』を、いやらしいことを始めるときの表情に、心の奥底を舐められたような気分になった。



 華奢な肩を抱くと、絵理ちゃんは目を閉じた。
「……ふぁ……は……」
 唇を重ねるだけでは飽き足らず、舌も絡める。温かい。ぬるぬるしている。吐息混じりに絵理ちゃんが鼻から漏らす声を聞くたびに、頭がぼんやりとする。
唇を離して、互いの舌に橋がかかっているのを見て、今度は絵理ちゃんの方から侵入してきた。僕の舌にまとわりつくようにして、歯列の奥にも押し入ってくる。再び唇を離すと、心が締め付けられるように切なくなって、目の前の体をぎゅっと抱き締めた。
「……好きにしていいよ」
「いいの?」
 絵理ちゃんが耳打ちした。
今まで、主導権が僕に委ねられたことは無かった。絵理ちゃんから受けた指示をこなしていくことしか許されていなかったから。
「……ゴクリ」
「あ、生唾飲んだ」
 絵理ちゃんの指摘に、咳払いをして誤魔化す。
「……じゃあ。痛かったら言ってね」
ブラウスの襟をはだけさせて、露になった無防備な首筋に、つっと舌を這わせる。吸血鬼みたいに、軽く歯を立てて首元を甘噛みすると、絵理ちゃんはビクッと肩を震わせた。後ろに回って、僕の身体の正面に絵理ちゃんの背中を寄りかからせる態勢に移して、背後から耳や首筋、背中と、指を滑らせていく。



「くっ、はアッ……ん、く、ん」
 熱い吐息を絵理ちゃんが漏らす。耳たぶを唇で挟むようにしながら、お腹の辺りを撫で回していた手を、上へ。絵理ちゃんのそこは布地越しでもふにふにしていて柔らかく、掌の中で変形するのが愉しい。
「ホック、外すよ」
 服越しの柔らかさを堪能してから、僕は一言添えて、ブラのホックを外しにかかった。初めて触った時はモタついてしまったけれど、『実験』の時に触らされて、随分慣れてしまった。キャミソールを脱がす前に、お腹側から両手を突っ込んで、布地の内側へ侵入する。
「……ぁ、うぅ、あっ……」
 絵理ちゃんに直接触れる。人体の温かさ、さらさらした肌の感触、水風船みたいな弾力。意識しなくても香ってくる、女の子の甘い匂い。そのどれもが、僕を奮い立たせた。僕の息も荒くなる。
「ん、り……涼、さん……」
 揉んでいる内に膨らんできた先端も、指で挟んで刺激する。よりかかりながらも背筋を張っていたけれど、いよいよもって力が抜けて、絵理ちゃんは僕に身体を預ける形になった。心地よい重みが僕にのしかかってくる。そういえば、以前の『実験』で、ずっと触っていて手をつねられてしまったことがある。ここを触っているのはとても楽しいけれど、そろそろ次に移らないと。
「脱がせるよ、絵理ちゃん」
 一声かけて、キャミソールを下着ごと脱がせにかかった。トップレスになった絵理ちゃんは、雪原のような肌を首筋まで桃色に染めて、呼吸を荒げていた。ホットパンツのベルトに手をかける。絵理ちゃんは、嘆息を漏らしながらも、僕を制止しようとはしなかった。



「絵理ちゃん、下も……」
 ホットパンツから伸びた太腿を撫でながら、尋ねる。
「うん……」
 手でするか、口でするか。以前の『実験』の記憶を掘り起こす。そういえば、指で触ったときはちょっと痛がっていたっけ。口の方がベターな選択のように思えた。
背後から正面に回り、ホットパンツを脱がせる。ショーツの中心部には、縦に色濃くなっている場所がある。ゆっくりとずり下ろしていくと、ショーツの裏地と局部が、ねばっと伸びた糸で繋がっていたのが見えた。
「絵理ちゃん、ベッド使ってもいい?」
 体勢を変えるために、絵理ちゃんにはベッドの上に移動してもらった。ショーツすらも脱ぎ去って、もう絵理ちゃんの体を覆い隠すものは何も無い。今までの『実験』は全て、限られた時間の中、日常とは離れた空間で行われていたから、よく考えてみると、こうやってじっくり眺めるのは初めてだ。胸は大きいのに、体幹は細い。強く抱きしめたりしたらぺきっと折れてしまいそうなぐらい。肌の青白さも、どこか危うさをはらんでいる。しかし、僕の目にその儚さは魅力的に映った。つい、先に進むのを忘れて、僕は同い年の女の子のヌードに見入っていた。
「……どうしたの?」
「キレイだよ、絵理ちゃん」
「え……っ!」
 自分でも顔が熱くなるようなクサイ台詞を口にして、返事を言わせないよう、両脚を抱えて、下半身の中心を天井に向けさせる。口でするには、この体勢が一番都合がいい。絵理ちゃんの大切な所へ舌を伸ばした。


「ひゃんっ!」
 小さな悲鳴があがった。クンニリングスはまだ慣れていないけれど、以前の『実験』でやらされたときに、何となくツボは分かったような気がしていた。指を伸ばして、天井の光を反射しててらてら光る、濃いピンク色の花びらを広げる。肌と粘膜の境目になる溝をなぞっていく。
「はあぁっ、ああッ……!」
 甲高い声があがった。僕が愛液をぬぐうようにして舌を這わせる度に、泉には新たな湧き水が噴出してくる。そのまま愛撫を続けていると、絵理ちゃんはいやいやするように首を横に振った。口の中に広がる女の子の味は、よく吟味してみると、少し生っぽいけれど、これが絵理ちゃんのものだと思えば、胸が熱くなった。
「あ、いやっ、そんな……」
 『いや』と言われてすぐに愛撫の手を止めた時、不満そうな目で見られたことがあった。この『いや』は、真に受けない方がいい。女の子の言葉の受け止め方って難しい。
「ふ……あっ、あ、涼さ……も、もう……」
 絵理ちゃんの言葉尻が弱くなってきた。そのまま頂上まで押し上げることにする。
「はっ……ああぁっ……!」
 こらえきれなくなったように声を漏らしながら、絵理ちゃんは達したようだった。
唾液なのか愛液なのか、そのどちらなのかもよく分からないほどべちょべちょになった秘所から口を離し、僕は開いたままになった絵理ちゃんの内ももをスリスリと擦った。
目の前のことをするのに意識を集中させていたせいか、下腹部の中心がとても窮屈になっているのに気がついたのは、ちょうどその時だった。



「はぁ……はぁ……ねぇ、涼さんも」
全身を曝け出した絵理ちゃんとは違って服を着たままだった僕も、脱ぐように促された。もう裸も随分と見られてしまった。絵理ちゃんの前でなら、脱ぐことにあまり躊躇は無い。上半身、下半身と脱いでいく僕を、絵理ちゃんはじっと見つめていた。
「絵理ちゃん……」
この先に何をするかは、知識としては知っている。男女の交わり。性交。動物の言い方をすれば、交尾。英語ではmake loveって言うらしい。
仰向けになったところへ覆いかぶさり、絵理ちゃんのお尻をつかんで軽く持ち上げたところで、僕はあることに気がついた。
「あっ、このままだと……」
 明るい家族計画、というフレーズが頭の中を駆けていく。財布の中に入れておく、って言う人もいるらしいけど、そんな準備が必要なことをするなんて予測しているわけがない。どうしよう、と思っていると、
「これ」
 絵理ちゃんが持っていた銀のパックに詰められた小さなそれを、僕に手渡す。ありがとうと頭を下げながら袋を破き、ずっと硬いままの息子に上着を着せようとしてやると、ビリリと電流が走った。
「……っっ」
 絵理ちゃんに触っている間ずっと放置されていたそれはだいぶ敏感になってしまっていて、少しの刺激だけでも暴発してしまいそうだった。



「どうしたの?」
 絵理ちゃんが体を起こした。
「あっ、いや……こ、堪えが効かなくって、あはは」
 できれば、トイレでも借りて一度スッキリしておきたい。けれど、この場を離れてしまうのも、なんだか空気が読めていないような気がする。僕の中に、ある考えが浮かんだ。
「絵理ちゃん……その、僕も、して欲しいんだけど」
 少しの戸惑いの後、従うことばかりだった僕は、絵理ちゃんにリクエストを出してみた。絵理ちゃんが瞬きする。僕に緊張が走る。
「……うん、分かった」
 要求が通った。絵理ちゃんが了承した。ただそれだけ。でも嬉しくなった。
 ベッドの上に座る僕の両脚の間に、絵理ちゃんが入り込んでくる。僕はもう、涎を垂らしていた。輪郭を確かめるように全体を撫で回され、つやっとした唇の狭間に、僕が飲み込まれていく。
「ンッ……は、うぅっ……」
 温かい。思わずシーツを握り締めた。情けない声が出てしまうぐらいだ。
大きなナメクジが幹を這いずり回る。ときどき、じゅる、と卑猥な音を立てながら、絵理ちゃんが僕をすすった。
上目遣いで見つめてくる視線と目が合う度に、ますます股間に血液が集まっていくようだった。
「はぁっ……気持ちいいよ、絵理ちゃん」
 上下する絵理ちゃんの頭を撫でる。流れるような髪の毛の感触が手にも心地よい。
髪に指を通して頬をそっと撫でてみると、絵理ちゃんは僕の敏感な所を舌でくすぐって答えた。
「涼さんの声、可愛い」



 言葉を発する間にも、絵理ちゃんは僕を扱きたてる。ぐちゅぐちゅと、粘液の擦れる音がする。
指で作られたリングが先端と幹の境目につっかかる度に、ぴくんと震えてしまう。
「そ、そんな……っ」
「スッキリしたい?」
「う……うん」
「……じゃあ」
 絵理ちゃんが正面からのしかかってきた。
「えっ、何を?」
 僕の胸板にもたれかかるようにして、絵理ちゃんは柔らかい膨らみを押し付けてくる。
そのまま、重力に従ってゆっくりと下がってくる。
「ちょっと、試してみる」
 その内、先端から中腹、根元と、ふわっとした壁に包まれた。
「あ、そ、そんなところで……!」
 手で扱かれるのとも、舌が這いずり回るのとも違う、未知の感覚。僕はそれを即座に快感と認識した。
 両手で胸を上下させながら、絵理ちゃんが「どう?」と尋ねてくる。
「すごい……柔らかい」
「涼さん、ここ好きだもんね」
 そう言いながら、絵理ちゃんは顔をうつむけて、舌を伸ばして覆いかぶさってきた。
柔らかい壁に幹が押しつぶされる感覚と、ぬるぬるに包まれる感覚が同時に襲い掛かってくる。



「だっ……! で、出ちゃう!」
 さきほどから溜まっていた興奮が急激な射精感となって、一挙に膨れ上がった。
突如訪れた絶頂に、あらかじめ通達することもできず、僕の先端が爆ぜた。
どろっとした塊が尿道を通り抜けていく度に、体がとろけそうになってしまう。
 絵理ちゃんはじっとしたまま、吐き出される体液を受け止めていた。『口に出してごめん』と言う余裕も持てない。尿道に残った分も吸い出されていく。下半身がゾクゾクした。
「ん……っ」
 絵理ちゃんの頭が僕から離れていく。
膝立ちになって、僕と目線の高さを合わせてから、口の中にまだ入っているであろうものが、ごくり、と喉を鳴らして飲み込まれていく。細い首が収縮し、濁液を飲み込んでいく様が、良く見えた。
「涼さんの味……ヘンだけど、好き」
「……ありがとう」
 吐き出したことも覚えていないかのように、僕は元気なままだ。
少しだけ冷静になった頭で、これからするはずだったことを思い出す。先ほどつけようとしていたそれは、つるつる滑ったけれど、無事に装着することができた。
絵理ちゃんを寝かせて覆いかぶさろうとした時、不意に、入り口の状態が気になった。
「準備は、平気?」
 絵理ちゃんは頷いた。位置の確認も兼ねて、手をそこへ触れさせてみると、確かにしっとりと潤っている。手を触れると、動かしたくなる。



「んっ、あ……や……」
クレバスに沿って裂け目をなぞられてぴくぴくと腰を振るわせる絵理ちゃんが可愛くて、ついそのまま手で触り続けてしまった。
潤いが水浸しになった頃、僕はそこから手を離した。脚を広げてくれたり、位置を教えてくれたり、絵理ちゃんも協力してくれた。
「じゃあ……いくよ?」
 後は前進あるのみ。僕にはここから先の経験は無い。多分、こういうときに力んでしまうのはよくないことだと思い、深呼吸をして体から力を抜く。
腰を前へ。抵抗が強い。押し入らないと前へ進めなさそうだ。でも、強引に行ったら痛そう。
絵理ちゃんはどうだろう。目を閉じて、大きめに呼吸をしている。
押し返してくる力を誤魔化すようにゆっくりと進む。前へは進めている。でも、とにかく狭い。締め付けが強すぎて、痛いぐらいだ。本当にここは穴なんだろうか。穴へ侵入しているんじゃなくて、僕が
絵理ちゃんの壁に穴を開けているんじゃないか。そう思えるぐらいだった。
 じりじりと前進を続けている内に、それ以上奥へ進めなくなった。ここが行き止まりなんだ。
「絵理ちゃん……?」
「ん、な、何?」
「痛くない?」
「痛い」
「ごめんね、けど、僕も痛い……」
「大丈夫……? 力は、抜いてる」



「中で千切れなければいいんだけど……はは」
 どうにか笑顔を作ってみる。きっと引き攣っている。
「もう行き止まりみたいだよ。僕が入り込めるのは、ここまで」
「よ……良かった。死んじゃうかと思った」
 目尻に涙を溜めていた絵理ちゃんが、安堵の息をついた。

「……涼くん」
「えっ……」

 絵理ちゃんが、潤んだ瞳もそのままに、優しく微笑む。
高鳴っていた鼓動が、一際強くなった。
「男の子だって知ってから、呼んでみたかった」
「……僕も、絵理ちゃんにそう呼ばれたかった」
 僕が男だと、心から認識してもらえたように思えたから。

「涼くん」
「なに?」
「痛いね」
「そうだね」



 痛みを堪えながら、お互い、歪んだ笑顔を作った。
ぎこちない表情が可笑しくて、笑った後に絵理ちゃんが愛しくなって、そのまま頭を近づけて口付けを交わす。
「絵理ちゃん、動いてもいい?」
 締め付けられる痛みも、動けば少しマシになるだろうと思って、絵理ちゃんに訊いてみる。絵理ちゃんは指でマルを作った。ゆっくりね、と言われたけれど、こんなギチギチな空間にいてはゆっくり動くのが精一杯だと思う。
「じゃ……んしょ……」
 腰を引き抜く。周りの襞状の壁と擦れて、痛みに混じって快感が背筋を駆け抜けていく。僕を圧迫する暖かい壁が、僕の敏感な部分と強く擦れ、一度腰を引いただけで、呼吸が荒くなった。
「汗かいてる……」
 もう一度自らを押し込もうと思ったとき、下から絵理ちゃんの手が伸びてきて。僕の額を拭った。この子を傷つけないように、できるだけゆっくり。もう一度、僕は頭に念じた。
「もっかい、奥まで行くよ……ん、っく……」
 痛いぐらいに狭い。でも、それ以上に、全方位から擦られるのが気持ちいい。押しては引いて、のリズムが、少しずつ完成されていく。
「はっ……はっ、あァ……」
 眉を下げ、痛みに耐える顔をしながら、絵理ちゃんが吐息混じりに声を漏らした。痛みの強かった内部も少し広がりができて、動きやすくなったような気がする。



「……気持ちいい?」
 絵理ちゃんが問いかけてきた。
「うん……良くなってきた。絵理ちゃんは?」
「痛い、けど……」
「けど?」
「何かを我慢して、ちょっと苦しそうにしてる涼くんの表情……ハァハァ?」
「なっ……何を……」
 顔が熱くなる。何かを我慢してるのは、絵理ちゃんだって一緒のくせに。
「もっと見ていたいな」
「絵理ちゃんって……Sだね」
「そういう涼くんは、Mだね」
 絵理ちゃんの言っていることは正しかった。
だって、苦しそうにしてる表情がいい、なんていわれて、僕の心が沸々とし始めたから。
今までだって、そうだった。きっと、これからもそう。
腰から痛みが少しずつ消えていき、痛かった分が気持ちよさに変わっていく。
「絵理ちゃんっ……」
 もっと気持ちよくなりたい、このまま果てたいという欲望が鎌首をもたげた。
下半身のギアが上がる。
「ひうっ、りょ、涼くん、激しっ……!」
「ご、ごめん……止まらない、よ……」



 絵理ちゃんの締め付けが強くなる。少し余裕のあった内部が、痛いぐらい窮屈な洞穴へと戻っていく。
「ハァ、ハァ……狭い……」
 痛いのに、気持ちいい。気持ちいいのに、痛い。
 絵理ちゃんは、目を閉じることなく、僕のことを見つめていた。
「涼くん……好き……」
 シーツを握り締めていた手が離れて、僕の首に回ってきた。
囁くように言う絵理ちゃんの言葉に、欲望の蓋が開いていく。
湧き上がる絶頂感が、僕の意識を塗りつぶしていく。
それから何往復か、僕は絵理ちゃんの中で達した。ぎりぎりと締め上げてくる内壁は、まるで僕から男の遺伝子を搾取しようとしているかのようだった。
ゴムに穴が空いてしまったんじゃないかと心配になったけれど、引き抜いてみると、外壁は無事なようだった。




「絵理ちゃん……」
ベッドの上に赤い花が散っている。心がチクリとした。
後戻りできないことをした、という罪悪感がこみ上げてくる。
「大丈夫、生きてる」
「い、いや、生きてても、ほら、血が……」
「道で転んだって、血は出る?」
「それは、そうだけど……」
 狼狽する僕とは対照的に、絵理ちゃんは落ち着いている。女の子って、そういうものなのかな?
「ふふっ……その表情、好き」
「また、そんなこと言って……」
 むくりと体を起こし、絵理ちゃんが正面からのしかかってきた。
腕で抱きとめると、絵理ちゃんも背中に腕を回してきた。
「ね、涼くん」
 耳元にウィスパーボイス。心が高鳴る。
「今度、デート行きたい」
「デート……」
「涼くんと、ノーマルなことがしたい」
「……そうだね。今までずっとアブノーマルだったから」
 告白する前にエッチなことをして、エッチをする前に告白して、ベッドの中で初デートの約束をする
やっぱり、どう考えても、普通じゃない。でも、それでいいと思った。
肩に乗っていた顎を持ち上げてキスをすると、絵理ちゃんは照れくさそうにはにかんだ。



「ちょ、ちょっと、絵理ちゃん……ここじゃまずいって、人が、来ちゃう……!」
 数週間後、僕はテレビ局の楽屋の片隅で、絵理ちゃんに両手を拘束されていた。
「今日の実験室は、ここ」
「も、もうおしまいだと思ってたのにぃぃ〜」
「まだまだ、涼くんには未知のエリアがいっぱい……お尻とか?」
 絵理ちゃんの右手には、プラスチックのボトルが握られている。
「ねぇ、絵理ちゃん、その右手に持ってるボトルは、何なのかなぁ、あはは」
「滑りを良くしておかないと、入れた時キズになるから……」
「い、入れる、入れるって、何を、どこにっ……」
「最初は、指から?」
「やめっ、ちょ、そんな所触っちゃダメェェッ」
「困った顔……ハァハァ」
「ぎゃおおおおおおおおん!」
 僕の受難は、まだ続くみたいだ。とほほ。


 The End?

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