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前作

実際には、家に帰ってから我を取り戻し、秋月さんを玄関先に待たせたまま、ベッドの上で
のた打ち回った。私はなんという約束をしたのだろう。
 ただもう後悔も間に合わないようだった。男性だとわかったのが後からであったとはいえ、
 男性の秋月さんの前で自ら裸の胸を晒し、
 男性の秋月さんに胸囲の測定をしてもらい、
 男性の秋月さんが興奮しているのを目の当たりにし、
 男性の秋月さんに「自分の胸を揉め」と申し出たのは他ならない私自身だったから。
「じゃ、じゃあ……始めますよ、千早さん」
「ええ、お願い」
 いま私は自分の家のベッドに、秋月さん……いや、涼、と二人で腰かけている。
 『治療』と言うより、私の気持ちを上向けて女性ホルモンの分泌を得ようというやりかただから、
いまの時間だけは他人行儀をやめようということになったのだ。最初は彼にも呼び捨てで呼んで
もらったが、かえって気分が乗らなかったのでいつもの呼び方に戻してもらった。ひょっとして
私は、我侭な女なのだろうか。
「千早さん……」
「っ」
 涼が、私の後ろに回って両肩を抱いた。部屋着のキャミソールは身に着けたままだけれど、
むき出しの肩に温かい手のひらが乗って、ぴくりと体が反応する。
 この手のひらが、もうすぐ私の胸を揉むのだ。
「怖いですか?」
「そんなことないわ、これもバストのためだもの」
「僕は、少し怖いです」
「どうっ……して?」
 手のひらが動き始めた。腕を滑り降り、私の手を外から包み込んで。いつの間にか彼の
顔は、私の首筋に触れていた。
「千早さんは、なにもしなくても充分きれいだから。これ以上魅力的になった千早さんになんか、
僕じゃとうてい追いつけないから」
「手を抜いたら、承知しないわよ」
 言葉の意味は理解できた。けれど、それに正面から応えることもできず、まぜっかえすような
言葉を返すのが精一杯だった。
「そんなこと、しません。誠心誠意、尽くさせてもらいますよ」
 涼の手が、私の手を離れた。胴に手を回されたかと思うとぐい、と力を感じて、私は軽々と
彼のひざの上に座らされていた。
「あは、千早さん、やっぱり女の子ですね。軽いや」
「あなたのプロフィールは見たわ」
「言っときますけど、筋肉ですからね?ん」
「ふぁ」
 首筋に、キスされた。
「涼、ずるいわ、そこは」
「マッサージの一環ですよ」
 話し合いでは、胸以外には触らないこと、としていた。もちろん厳密に守るのは至難だろう
けれど。さっきのように手を握るとか、背中に触れるくらいは許容範囲だと思っていた。
「千早さん、何度も話したとおり、これはプッシュアップをやって大胸筋を発達させるのとは
わけが違います。単に触るだけじゃなく、ゆっくりマッサージをして、たくさんおしゃべりをして、
いっぱい笑ってリラックスして、あなたの『女性』をもう一歩、前に進ませるための儀式なんです」
あごに向かって顔が移動する。その間、点線を引くように細かくキスが続いてゆく。ちゅ、ちゅ、
ちゅ、という音が肩口から、だんだんと耳元に近づいてくる。
「やっ……だめ」
「我慢ですよ、千早さん」
「だって……まだ、シャワーも」
「気にならないです。千早さんの味だから」
 かりっ。耳たぶに、歯を当てられた。
「んくっ」


「痛かった?」
「平気、だけど」
「だけど」
「これじゃ……バストアップには」
「なりますよ。これからね」
「ひあっ?」
 突然、その胸に手のひらの感触が降って湧いた。暗闇で氷でも当てられたかのような声を
出してしまった。涼は私の耳元で囁きながら注意を逸らし、ひっそりとその手を私のシャツの
下に忍び込ませていたのだ。
「ブラ……してなかったんですね」
「ひっ、つよう、ないもの」
「そんなこと、ありませんよ。女性の大切なところなんですから」
「ん、ふっ」
 はじめはおずおずと。それが次第に大胆になってきて。
 両手で覆いかぶせるように、全体をやわやわと触れて。
 ときどき指を立てて、弾力や形をたしかめるようになぞって。
「く、は、ふうっ」
「気持ちいい?」
「なに言って……たんなる、っ、マッサージ、でしょう……っ?」
「そうでしたね」
「きゃんっ!?」
 先端を、つままれた。強くはなかったけれど……電気を浴びたような衝撃が背骨を走った。
「ここ、ですか?」
「やっ……あ、あ、っ」
 体を丸め、全身のしびれをやりすごそうとするけれど、彼はそこをさらに攻め立てる。
 次々反応してしまう私の体はそう、まるで。
「まるで鍵盤ですね。叩いたり、押したり、ほら」
「ひぅっ!んあ!ああんっ!」
「そのたびに違った音が出る。千早さん、千早さんは本当に音楽が好きなんですね」
「そ……そんな、っあ?」
 胸を刺激されたまま、体を後ろに引かれた。涼が私を抱きすくめたまま、ベッドに仰向けに
倒れこんだのだ。
「そんなに丸まっていないで、もっと体を伸ばしませんか?その方がいい音が出ると
思いますよ」
「え、やあっ、そんなの」
「ストレッチみたいなものです。ほら、いち、に、いち、に」
「ひゃう!ぅうんっ、は、は、あっ」
 足も絡められ、体を伸ばさざるを得ない体勢のまま、いいように胸ばかりを攻められる。
嫌だったらこの腕を振り払えばいいのだろうに、なぜか私の両手は、火照る顔を覆う
ばかりだった。
「千早さんって、ずるいですね」
 後ろから抱きすくめられたまま、両方の人差し指と親指でくりくりと攻め込みながら、
口ではそんな弱気な言葉を紡ぐ。ずるい、とは、どういうことなのだろうか。いまさなかの
行為との落差に戸惑うけれど、意識に霞がかかったようでうまく思考が働かない。
「な……なに、を」
「だって」
「ひああああ!?」
 ぎゅうっ。鷲掴みにされ、千切れそうな力で握られた。これが男の人の力、と思う傍らで、
体はそれすらマッサージの……いえ、もう誤魔化せない……愛撫のひとつとして
受け止めていた。
「だって、こんなに『女の子』なのに。こんなに儚げで、こんなにいい匂いで、こんなに感じ
やすくって、こんなに可愛い声がでるのに」
「く、ぅんっ……ふ、っく」
「その上、女性らしいスタイルまで。僕には、ひとつもないものなのに」


 赤い色の霧で濁ったまま、その言葉だけはしっかりと届いた。さっきはびっくりしたし、
今でもその理由は知らない。でも涼が女性アイドルとして活動しているのは事実で、
それはすなわち女性の魅力を極めねばならないことだった。
「汗ばんできましたね。脱ぎましょう」
「は、やっ」
 キャミソールを2枚重ねで着ているだけの上半身が、あっと思う間もなくさらけ出された。
涼の手は続いて、トレーナーのボトムにかかる……下着にも一緒に。
「いやっ!そっちは、違っ」
「だって風邪ひいちゃいますよ、こんなに……」
 嫌なのなら、……なぜ私は腰を浮かせたのだろう。
「ほら、こんなに湿って。って言うより、ぐしょぐしょじゃないですか」
「……ああ……っ」
「僕の服まで染みちゃいましたよ。あとで乾燥機、貸してくださいね」
 ベッドの上。見た目は女の子そのものの、男性に仰向けに引き倒されて、いま一糸
まとわぬ全裸に剥かれて。いやらしいことを耳元で囁かれて。
 今もまだ刺激を与えられ続けている乳房や、恥ずかしい状態を指摘された足の付け根を
丸出しにしたまま、私はただ顔を覆っていた。
「だいぶほぐれてきましたね。女性ホルモン、感じますか?」
「ふあ……あ」
「どうです?」
「っあ!」
 指で陵線をなぞられ、体が跳ねた。涼は私の胸しか触っていないのに私は全身が
痺れたようになって、身動きどころか声も満足に出せない。
「今の千早さん、最高に可愛いですよ」
「そ、ん、な……っ」
「ほんとです。僕の仕事がマッサージじゃなかったら、もっといろんなこと、したいくらい」
「いろん、な、こと……?」
「ごめんなさい、なんでもないです」
「ひぅんっ」
 耳たぶをくわえられ、歯を当てられた。その感触がまた、神経を一瞬で駆け抜けて
お腹の中心を刺激する。
「ひぁ……は、あっ」
 強烈な快感で口を閉じることもできない。舌を突き出したままかぶりを振ると、溜まった
雫が頬を伝った。
「おっと」
 涼が呟き、唇を添えた。ちゅ、ちゅるっ、という水音。嚥下の気配。
「千早さん、おいしいです」
「やあっ」
 赤ん坊のようなだらしのない仕草を責められているような気がして、ますます頬が
熱くなる。もう、これ以上ないくらい赤面していると思っていたのに。
「恥ずかしくないですよ?千早さんが、僕を受け入れてくれているっていうことなんですから」
「な……なら、……涼」
「はい、千早さん」
 頭の中の赤い霧は、前が見えないほどに濃くなっている。視線も定まらぬまま頬を
舐める涼の舌の感触を追い、無我夢中で唇を合わせた。
「んっ」
「ぅむ、う」
 強く吸い、舌を差し入れて彼の口中をまさぐる。涼が戸惑っていたのは一瞬で、すぐ
私の動きにすがり、添った。
「ぷぁ」
「はあ、っ、千早さんっ」
「そう思うなら、涼」
 私はこの時、初めて手を使った。それまで自分の顔を隠していた両手を外し、……。
 涼の顔と、彼の股間に両手を伸ばしたのだ。
「私にいろんなこと、……して?涼」


 その言葉がスイッチだったのだろうか。涼は薄く笑うと一気に体を入れ換え、私を組み敷いた。
 それからの涼は人が変わったようで、まるで野獣のように私を翻弄した。唇というより口、
むしろ下顎をまるごと食いちぎるかの勢いでキスをし、喉から胸に渡って舌を好き勝手に
這い回らせ、片側の乳首を音を立てて吸う間ももう片方の胸をリズミカルに揉みしだいた。
さっきの鍵盤という表現に浮かされたのか、そのたびに私はあられもない声を上げ、悲鳴を
洩らし、歓喜の涙を流した。涙だけではない。体の中を渦巻く快感に弄ばれるままに私は、
涎と言わず洟と言わず愛液と言わず、体のありとあらゆる孔からありとあらゆる液体を
垂れ流し、ベッドの上を転げ回った。
「ほんとは千早さんの中でいきたいけど」
 そのうち、ゆっくり涼が言った。
「それだけはダメって姉ちゃんに言われてるんです。だから千早さん、口でしてくれませんか?」
 私の鼻先に差し出されたのは、昼間うっかり目撃してしまった彼の……。
 思えばこれが、今日の出来事の元凶ではないか。見るからに憎々しげなそれを、私は
……夢中で頬張り、しゃぶった。
 私の口の中に自分の分身を吐き出したあと、そのあまりの量にむせ返る私を気づかって
くれた時になって、涼はようやくいつもの彼に戻ったようだった。

****

「あの、……ごめんなさい」
「どうして、謝るの?」
 精根尽き果て、死体のように横たわる私の頭を撫でてくれながら涼が言う。その様子には、
さっきまでの強引な風情はかけらもない。
「僕、途中からなんか、ワケわかんなくなっちゃって。千早さん、あんまり可愛かったから」
「私が誘惑した、って言いたいの?私が『あなたに襲われた』って言えないように」
「ええっ?そ、そんなつもりじゃないですようっ」
「ふふ、冗談よ」
 だるく重い腕をなんとか動かして、涼の髪に指をからめ、くしゃくしゃと撫でた。
「正直に言って、私の方も同じだったから」
「え、じゃあ、気持ちよかったですか?」
「……ばか」
 私が身を起こすのを涼も手伝ってくれ、二人でベッドに腰掛け、互いを見つめあい、どちらから
ともなく笑みをこぼした。
「おかしな成り行きだったわね」
「ですね。……僕、セキニンとらなきゃなりませんか?」
 口調は軽かったけれど、どうしていいか困っているらしい。そういう姿も可愛らしいが、あまり
重く受け止められてもこちらが困る。
「なんの?私はマッサージで怪我でもしたのかしら?」
 しばらくキョトンとされたが、わかってくれたようだった。……ということは、彼も私にぞっこん
というわけではなかったということか。それに気づいて、少し胸が締め付けられた。
「なんにしても、今日はありがとう。なにはともあれ、すっきりしたわ、いろいろ」
「どこまでお力になれたか、わかりませんけどね」
「それは困るわ!」
「えっ」
 今回のことは元々は律子が、例によって少しおかしくなっていた私にガス抜きの言い訳を
与えたのだと見当がついていた。涼には罪はない……とはいえ。
 一線を越えなかったとは言っても私の体をもてあそんだ、と言おうと思えば言える状況だ。
こちらがやられっ放しというのもなんだか、悔しいではないか。
 だから私は、私の豹変に面食らっている彼に、こう言うことにした。
「後日また律子に胸を計ってもらいます。そうね、もちろんあなたにも立ち会ってもらうわ。
今日はあれだけのことをしたのだもの、いくらなんでもミリ単位、ミクロン単位の変化くらいは
認められてもいい筈」
「じ、自分でそういう言い方はどうかと」
「その時サイズが増えていればよし、さもなくば」
「……さもなくば?」
 ひどい目に遭うのでは、と戦々恐々が顔に出ている彼を怖い顔で睨みつけ、その後、笑顔に
戻してもう一度だけキスをした。
「さもなくば、効果が出るまで頑張ってもらいますからね。頼んだわよ?」

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