◆qqtckwrihのSSのまとめです。完結した作品および、新作告知、Wiki限定連載等を行っております(ハル SS Wiki)

竜騎士2017年末年始特別編

年末年始騒動



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―――12月28日。世間は年の瀬。田舎町の一軒屋にて。

竜騎士「ふわぁ……、眠いな…………」
女武道家「あっ、おはようございます!」

朝10時。少し遅めに目覚めた竜騎士に、女武道家は早速温かいお茶を差し出した。

竜騎士「どーも。なんか随分と寝ていた気がするな。今日は何日だっけ?」
女武道家「何寝ぼけてるんですか。12月28日、もう年の瀬ですよ」
竜騎士「……もう1年経つのか。早いもんだな」
女武道家「ですねぇ。段々と時間が早く流れてしまっているような気がします」
竜騎士「ああ、随分と早い時間が経ってしまったものだ……」

田舎生活、漂流生活、冒険生活。あまりにも長いようで短かった時間。
結局自らは死した存在となった事も、おおよそ半世紀前だ。

竜騎士「歳は取りたくないもんだ。手もすっかりシワで覆われちまったよ」
女武道家「年老いても笑顔が元気の源ですよ。ずっと一緒に笑ってましょうねっ」
竜騎士「……昔は煩く感じたお前の笑顔も、今見れば随分と元気が出る」
女武道家「そう言って頂けると、私はいつまでも竜騎士さんの傍で笑っていられます」
竜騎士「惜しげもなく恥ずかしい事を言う」
女武道家「ふふっ、お互い様ですよ」

本当に色々あった。歳を取ると同じことばかり思ってしまうが、本当にそうなのだから仕方がない。

女武道家「……あっ、そういえば」

竜騎士が思いに馳せていると、女武道家は両手をパンと叩いた。

竜騎士「何だ?」
女武道家「今年の年末年始は女剣士は帰省しないらしいですよ」
竜騎士「……来ないのか。孫に会えると思ったんだが」

竜騎士は少し寂しそうに俯いた。

女武道家「何でも今年から青空喫茶店の新年フェアをやってみるらしくて。少し遅れて帰省するそうです」
竜騎士「来ないわけじゃないんだな。なら良いんだ」

取り合えず娘夫婦が来てくれるとわかった竜騎士は、安心したように言った。

女武道家「そうですねぇ。ですが、今年の年末は少し静かですね」
竜騎士「……ま、老いた俺たちにとっては静かであるほうが良いかもしれないな」
女武道家「とかいっちゃって、寂しいんでしょう」
竜騎士「わかりきったことを言うな」

竜騎士は少し冷め始めたお茶を"ずずっ"と飲む。
……そうか。今年は静かな正月か。
竜騎士がお茶を飲みながら、再び娘が生まれた時の思い出に馳せていると、その時―――。

「……ジャマをするっ!!」

"がしゃんっ、パリィンッ!!"
突然、家の窓ガラスが割れたと思ったら、誰かが土足のまま居間に踏み入った。

竜騎士「ぶぅーーっ!!?」
女武道家「て、敵襲ーーーっ!!?」

竜騎士はお茶を噴出し、女武道家は驚いて床を転がる。この夫婦、元軍人であり冒険者として齢老いてもまだまだ元気である。

竜騎士「だ、誰だ!?土足で踏み入って……というか人の家のガラスを!」

湯飲みを置いた竜騎士は声を荒げるが、そこに立っていたのは、どこぞで見た風貌と顔。

竜騎士「……って、上官殿!!?」

先ほどから驚きが多い。老いた肉体に心臓を苛めるのは止めてほしい。
しかし、そこに居たのは紛れも無く、竜騎士の軍人だった頃の上官だった。

上官「うむ、上官だ!」
竜騎士「えっ……いや、ちょっと待って下さい。えっ?」

理解が追いつかない。
上官は自分より年上で、すでに隠居生活に入っていると知っていた。しかしココに立つ上官は、どう見ても……。

竜騎士「現役時代のお姿のままなんですが、魔法ですか……ネ?」

若々しい肌がツヤツヤと光る。黒の軍服に張った胸、威勢の良さ、どれを取っても現役時代と遜色ない。

上官「何を言う?私は私だ。というかお前、思ったよりジジイだな。……っていうか目が見えないのか?」
竜騎士「いや貴方が若すぎるし、私は魔力感知で周りのものは見えるわけで……って、ん?」

"思ったよりジジイ"だなと言ったのか?彼女が上官本人なら、自分の年や姿を知っているはずで、その台詞はおかしい。

竜騎士「お待ち下さい。貴方は私が中央軍人時代の上官……では?」
上官「ん?あぁ……言うのを忘れていたな。私は上官だが、お前の先輩の名を受け継いだんだ」
竜騎士「へっ?待って下さい。えーと、しかし貴方は私の先輩によく似ているんですが……」

顔つきやスタイル、何もかも自分の知っている上官と変わらない。だとしたら、彼女は……。

上官「元上官は私の叔母だ。似ているのも無理はないかもしれないな」
竜騎士「おっ、叔母ァ!?」

驚いた。年の瀬にこんな驚くことがあるなんて。

上官「うむ。元上官は私の母の姉だ。説明はこれで満足か?」
竜騎士「それは分かりましたけど、いやはや……」

まんま現役時代の上官が目の前にいるようだ。

上官「よし。納得したなら、さぁ行くぞ」
竜騎士「行くぞ……?」

上官は竜騎士の手を引くと、引っ張り上げ、外に連れて行こうとした。

竜騎士「ちょちょちょっ、どこに行くんですか!」
上官「中央軍本部だ。お前には、しばらく"指導員"をして貰いたい」
竜騎士「は?いや、いやいや!」

竜騎士は手を払うと、「ちょっと待って下さい」と声を荒げた。

竜騎士「色々とですね、突っ込みどころばかり!」
上官「何が問題なのだ」
竜騎士「何が問題って……」

顔をヒクつかせた竜騎士は彼女の顔の前に手のひらを拡げ、一本一本指を折り曲げながら一つ一つ説明する。

竜騎士「一つ、どうして私が指導員なのか!一つ、私は引退の身!一つ、私は表舞台から消えた人間!ましてや軍に顔を見せるなど言語道断!!」

半世紀も前に壮大に葬儀された人間を今さら現役に戻すなどあり得ない話だ。

竜騎士「分かりましたか!?」
上官「……言い分は分かった。しかし知ったことじゃない」
竜騎士「はい?」
上官「簡単に全ての質問に答えよう」

上官は"ごほん"と咳払う。

上官「最近、軍の新入りたちの反発が大きい。私の指導不足もあるが、それを叔母に相談したところ竜騎士という用人を頼れと言われた。半世紀以上前に亡くなったお前の事を、今の若者は顔を知らん。分かったか?」

元上官、竜騎士の先輩がそう言ったのだという。竜騎士は「あの人は……」と言って頭を抱えた。

上官「では行くぞ。お前に拒否権はない。これは軍としての命令だ」
竜騎士「あのね、万が一そうだとしても今は年の瀬よ?来年の春とかにまた出直しなさい」

もう年度跨ぎをするというのに、今から軍の仕事などしていられるか。竜騎士は意地でも断りたかったが、そこは上官の血を引く者である。

上官「煩い。行くぞ」

無理やり竜騎士の手を引いて、外に連れ出す。

竜騎士「あああっ、ちょっと!」
上官「はっはっはっ!さぁ行くぞ!」
竜騎士「ええいっ、もう分かりましたよ!とりあえず顔を出すだけですよ!!」
上官「最初から素直になればいいのだ」
竜騎士「女武道家、31日までには帰ってくる!ちょっと出かけてくるぞォ!」

女武道家は二人のやり取りに懐かしくなりつつ、「いってらっしゃーい」と笑顔でそれを見送ったのだった。

……………
……


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―――12月29日朝10時:中央軍本部、新人演習場。

竜騎士「……本当なのか、アイツらが新人とは」

結局、上官に中央軍本部に連れてこられた竜騎士は、新人演習場を見下ろせる新東から見下ろした光景に絶句していた。

上官「ああいう奴らしか、軍に入隊する希望者がいなくなっているんだ」
竜騎士「要は社会のつま弾き者たちか。仕方なく入隊させたとはいえ……」

本来、朝10時は鍛錬の時間である。
しかし演習場に居る新入りたちはダラけ腐って床に転がったり、欠伸する者、腕に過信し部隊行動を取ろうとしない者、てんで軍人とは呼べない屑の集まりとしか言いようがなかった。

竜騎士「腕が利くやつは数人いるのが救いか。あの金髪と銀髪……冒険学校の出だな」
上官「分かるの?」
竜騎士「魔力感知でな。半世紀前に目を失った分、色々と見えるモノが増えた」
上官「そうなのか。どうだ、奴らを統率させることが出来るか?」
竜騎士「手っ取り早い方法は幾つかあるが……」

恐らくは金髪と銀髪が新人たちのリーダー格。奴らを潰せば、周りの奴らは嫌でも勝者に従うようになると思うが。

竜騎士「……取り合えず、やってみるだけの価値はある」
上官「どうするんだ?」
竜騎士「そこの掃除用具を借りるぞ」
上官「えっ?それはモップ……待って!?」

竜騎士は見下ろし窓、つまりここは4階なのだが窓淵に足を掛けた。

竜騎士「ちょっくら行ってくる」
上官「いや、ちょっと待っ…………」

"ピョンッ"と竜騎士は窓から飛び降りた。

上官「あっ!」

上官は慌てて窓に寄り、演習場を見下ろす。すると、そこには無事モップを持ったまま仁王立ちする竜騎士と、突然ジジイが降ってきた事に驚いた新人たちが彼を囲んでいた。

金剣士「……何だァ、ジジイ。どっから降って来やがった」
銀拳師「俺見てたぜ。あの4階から飛び降りたんだ」
金剣士「な、何!?冗談だろ!」
銀拳師「俺も目ぇ疑ったが、マジだ。何モンだこのジジイ」

睨みを利かせ、竜騎士をジロジロ見つめる。竜騎士はモップを肩にトントンと乗せながら辺りを見渡した。

竜騎士「お前らがリーダーだな。俺が根性を叩き直してやる」
銀拳師「ハァ?何言ってンのお前」
竜騎士「俺がお前らの根性を叩き直すって言ったんだ。このクズ共が」
銀拳師「……舐めてんのか、コラァ!」

銀拳師は、会話の途中に有余る力で拳を振り上げた。しかし、銀拳師の拳を竜騎士は片腕で"ぱしっ"と受け止めた。

銀拳師「なんっ……!?」
竜騎士「おっ、実践なら攻撃を仕掛けるタイミングはそれなりに良いぞ」

周りからは「手を抜いてるんじゃねぇぞー!」と野次が飛ぶが、銀拳師は「任せろォ!」と笑いつつも実際は動くことが出来なかった。

銀拳師(じょ、冗談言うな!動けねェ……!!)

彼は腐っても冒険学校の出身で冒険者の端くれだった。拳を通し、竜騎士という偉大な男の気を全身が嫌でも感じ取ったのだ。

竜騎士「どうした。仕掛けてきたのはお前だ。やられる覚悟も無い奴が、攻撃してきたわけじゃないよな……!」

竜騎士は銀拳師が動けないのをいい事に足払い、その場に転がして顔面に拳を振り下ろす。
銀拳師は「ひぃっ!?殺されッ……!!」と声を上げる。ただ、その拳は顔面スレスレで止まった。

銀拳師「ひっ、ひぃ…ひぃ……!?」
竜騎士「……余裕ぶるには、お前は実力不足過ぎるな」

銀拳師が転ばされたのを見た金剣士は、竜騎士に向かって「コラァ!」と剣を振り下ろした。だが竜騎士はそれを"モップ"で受け止めた。

金剣士「なにっ!?」

"キンッ!"と金属音が弾ける。

金剣士「木で作られたモップなのに斬れないってどういうインチキだよ!?」
竜騎士「そんなことすら分からないのか。魔力硬化という魔法の基本すら……お前らは軍人と呼ぶには脆弱すぎる」

立ち上がった竜騎士は、モップをクルクル回しながら金剣士に近づいた。わざと有余る魔力をモップに有して緑色のオーラを立ち上らせ、その形は"竜"を成していく。

金剣士「ちょっ……!」
竜騎士「覚悟することだな」

竜騎士はモップを腹部目掛けて振り下ろす。金剣士は「うぎゃあ!」と言って目を閉じるが、彼に痛みが来ることはなかった。

金剣士「……はれ?」
竜騎士「お前らには、武器を使うことすら生ぬるい」

竜騎士は「すまないな」と思いながら心を鬼にして、リーダー格である金剣士の頬を思い切り殴り飛ばした。金剣士は鼻血を噴出し、地面を転がりながら「ぎゃああ!」と悲鳴を上げた。

竜騎士(受身すらとらんとは……。しかし、これで……)

目論見は当たる。金剣士を始めとする取り巻き達は、彼が簡単に倒されたことに驚き、身動きすることが出来なかった。

竜騎士「お前たちの中に俺に挑む奴はいないのか。盲目のジジイ一人に仲間がやられたってのに、動く事も出来ないのか?」

再びモップを肩に乗せながら、取り巻き達を威嚇する。だが誰一人として竜騎士に挑むものはいなかった。

竜騎士「やれやれ……嘆くに嘆けんぞこの状況は……」

何という勇気の無さ、何という仲間意識の低さだ。
溜息を吐いて嘆く竜騎士。すると、ようやく遅れて上官が4階から降りてきて「色々と急ぎすぎだろう!」と竜騎士の肩を叩いた。

上官「早すぎるぞ、りゅうき…むぐっ…!」
竜騎士「おっと…俺は騎士長だ」

竜騎士は人差し指で"しぃっ"と彼女の唇を押さえた。

上官「……むぐーっ!」
竜騎士「竜騎士はもう50年前に亡くなりましたからね」
上官「むぐっ…!」
竜騎士「それより、この現状はあまりに酷い。本格的に私が少しでもお手伝いしましょうかね」
上官「むー……」

取り敢えず、竜騎士は依頼をこなしてくれそうか。上官は安心したように「むぅ…」と頷いた。
しかし、その時。完全に戦意を喪失していた取巻きたちとは裏腹に、面子を潰された二人は復讐の炎を燃やしていた。

金剣士「お、おい銀拳師。ちょっといいか……」
銀拳師「いいぜ……。くそが……」

………


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―――深夜。
竜騎士が新人寮の一室で休みを取っている間、上官は自室で考えていた。

上官(竜騎士の有り余る力は叔母の言った通りだった。生意気だった新入りたちを……)

聞きしに勝る力だった。元上官の叔母に聞かされた伝説が今なお生きていることには驚かされたというのに。

上官(年老いた男が……強い者は、どこまでもいっても強いというのか)

自分も鍛錬を積んできた筈だった。しかし彼と比べれば自分はまだまだ赤子だと知る。

上官(貫禄と実力を兼ね備えた完璧な存在だ。竜騎士が若い頃は…本当にどれだけの男だったのか)

歴史に名を残した男だけあるということか。
上官は「私もあれくらい強ければ」と溜息を吐いた。すると、その時。

上官「ん……」

"コンコン"と扉を叩く音。
深夜1時、こんな時間に客など珍しいと上官は「竜騎士か?」と言って立ち上がった。

上官「どうした、こんな時間に……」

静かに扉を開く。だが、そこに立っていたのは―――。

金剣士「こんばんわ」
銀拳師「ドーモ、上官ちゃん!」

問題児たちのリーダー格、金剣士と銀拳師だった。

上官「……こんな時間に何だ。とっくに消灯時間は過ぎているはずだぞ!」

上官が声を荒げた瞬間。
"ぱんっ!"
軽快な音のあと、頬に鈍い痛みが走ったかと思えば、体が床に倒れていた。

上官「な…に……?」

一瞬何が起こったのか理解できなかった。


……
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同時刻、眠りについてた竜騎士。
同じ寮の中で不穏な気配を気づき、目覚めた。

竜騎士「―――…!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……


上官「お前たち、何を!や、やめっ!!」

金剣士は上官の頬を叩き、吹き飛ばされた上官に銀拳師が乗りかかる。身動きができないよう四肢を抑えた。

金剣士「アンタさ、自分が俺らに舐められるからって強い奴わざわざ呼んだんだろ」
上官「そ、そんなこと……」
金剣士「取り敢えずアンタを吹っ飛ばせたので一旦は満足だ。だけどよぉ……」

金剣士は銀拳師を親指で差して、笑いながら言った。

金剣士「こいつ、アンタのことが好きらしいんだよな。相手にしてくれねえかな」
上官「な、何を言ってるんだ!」

銀拳師は「そういう強気なところも好きなんだよなぁ」と言って、軍服の襟の隙間から腕を突っ込む。

上官「っ……!き、貴様ぁ!軍法会議モノだぞ!」
銀拳師「まぁ楽しみましょうよ!悪いようにはしませんから」
上官「や、やめ……!」

金剣士も「手伝うぜ」と言って、暴れる上官のズボンを脱がそうとする。

上官「やめろ!貴様ら!!」

暴れる上官に、金剣士は「静かにしろよ」と再び拳を振るう。
しかし頬を赤くした上官はそれでも怯まず、金剣士はその辺にあった布を上官の口に突っ込んだ。

上官「んぐっ…!」
金剣士「静かにしてろ」
銀拳師「へへっ、こういうのに慣れてるねぇ?」
金剣士「ほっとけ」

上官は屈辱に悔しさに心が折れ掛けても、諦めずに未だ暴れる。
あまりに強気な上官の姿勢に金剣士と銀剣士も「いい加減に暴れるな!」と再三にわたって彼女を殴りつけるが、しかし……。


竜騎士「いい加減にしろよ、お前たち」


それは、静かな一言。
だが本気の怒りを露わにした竜騎士がいつの間にか背後に立っていて、金剣士と銀拳師が彼に気づいた瞬間には壁に叩きつけられるほど吹き飛ばされていた、

金剣士「い、いてっ…!いってぇぇ!」
銀拳師「ぐっ……!?」

竜騎士は自分の羽織っていた上着を上官に掛けると、「軍人以前に人として腐りきっている」と言って、まずは銀拳師に近寄った。

銀拳師「えっ、ちょっ……」
竜騎士「今度は寸止めはせんぞ。気絶も許されん。痛みに悶え、その罪を償え」

竜騎士は銀拳師の肩を掴み、一気に"剥がした"。
肩を外された激痛に銀拳師は「ぎゃあっ!?」と声を上げるが、竜騎士は魔法を唱えてその口を聞けなくした。

銀拳師(しゃ、しゃべれない!!)

髪の毛を掴んで立ち上がらせ、その頬に右左と鼻血が噴き出すほどのビンタを食らわせた。

竜騎士「足の骨も外してほしいか?ついでに顎の骨もどうだ。癖がついて生活に支障が来す様になるぞ」
銀拳師「ッ!!」

この男は本気でやる。殺される。恐怖に怯え、銀拳師は涙を流して必死に首を横に振った。

竜騎士「そうか。ならそこで寝ていろッ!!」

竜騎士の最後の一撃も、敢えて気を失わない程度に横っ腹へ突き入れ、痛み悶えた銀拳師はその場に崩れ落ちた。

金剣士「……テメェッ!!」

その間に、金剣士は上官の部屋に飾ってあった剣を手に取っていた。竜騎士の背中目掛けて振り下ろし、今度はモップもないだろと慢心したのが運の尽き。

竜騎士「何だその攻撃は……」

金剣士の斬撃を竜騎士は"パシッ"と素手で受け止めたのだ。

金剣士「はァ!?ンな馬鹿な話があるかぁ!?」
竜騎士「硬化魔法の類は元々肉体に使用するもの。そして……」

硬化魔法で硬くなった拳で、金剣士の顎を殴りつけた。

金剣士「はがっ…!?」

顎が削り取れたかのような感覚。視界が回り、一回転した体は床を舐める。

竜騎士「……なぁ。俺は元々魔法は苦手な類だったが、目を失い魔力感知が強まって様々な魔法を使うことが出来るようになった」

そう言いながら、竜騎士は気を失いかけてる金剣士の両目の前に二本の指を構えた。

金剣士「えっ、い…まさ…か……」
竜騎士「お前にも目を失えば見えるものが変わるかもしれないだろう?」

両指先に魔力を込める。

竜騎士「二度と光が見えぬよう完全に潰してやる。これは罪の罰だ」

金剣士は「ごめ…なさい……」と懇願するが、竜騎士は本気で殺意を持って肉体から気を発した。俺はお前から本気で光を奪うと。

金剣士「ひっ…、ひぃやああっ!!」

両指が金剣士の眼前に迫った刹那。上官が「や、やめろぉっ!!」と声を荒げた。

上官「やめてくれ"騎士長"……。もういい、分かった……」
金剣士「ひっ、はっ…はぁっ……!じょ、上官……!」

上官は竜騎士の肩を叩いた。

上官「こいつらが改心出来なかったのは私の不甲斐なさのせいだ。上に立つ者に下が着いてこないのは上の責任……もう、痛めつけないでくれ……」

俯いた上官はがっくりと膝を崩した。

竜騎士「しかし、こいつらが改心するには仕打ちがいる。五感の一つ、四肢の一本も奪う他はない」
上官「だが彼らは若く未来がある。それを潰すにはあまりに酷い……。今回の罪は別に償わせるから……」

竜騎士は「ふむ」と言ってトントンと自分の腰を叩いた。

竜騎士「なら、あとは任せよう。俺は帰るぞ」
上官「何…?どこに……」
竜騎士「家だっての。年の瀬は家に帰ってゆっくり、年末を越すのが一番だ。後は任せた」

そう言うと竜騎士はさっさと出て行った。残された上官は「あ、あぁ……」言いながら手に光魔法を込め、吹き飛ばされた銀拳師の元に寄って痛みを和らげた。

銀拳師「じょ、上官ちゃん……」
上官「……今晩のことは忘れてやる。それとも、まだ私を襲うか」
銀拳師「い、いや……」
上官「そうか。なら部屋に戻って寝ることだ。消灯時間は過ぎている……」

正直、彼らに襲われた恐怖もあったがそれ以上に自身の言動に驚いて頭が真っ白だった。

上官(私が襲われたこいつらを守ったなんて……。そうか、こいつらが未熟なのは私が未熟であることもあって……)

銀拳師に回復魔法を施してる間、金剣士はそっと上官の元に近づいて見下ろしながら言った。

金剣士「上官……お、俺たちを助けてくれたのか…よ……」
上官「気にするな。お前らを守るのが私の務めだ」
金剣士「そ、そうかよ……。銀拳師、いつまで休んでんだ。行くぞ、オラ」

金剣士は銀拳師を引っ張ると、出入り口の扉にふらふらと歩いた。そして上官に背中を向けて静かに一言だけ発した。

金剣士「……悪かった」
銀拳師「ご、ごめん……上官ちゃん……」

「少しは姿勢ってやつも考えてみる。」確かにそう言った金剣士は、上官の部屋を後にしたのだった。

上官「金剣士、銀拳師……。これは……彼らの姿勢を変えることが出来た……のか?だけど私は彼らを守ろうとしただけ…で……ほとんどは……」


・・・・・・・・・
竜騎士「はっくしょん!年の瀬の夜に俺は何してんだか……。さっさと帰って温かいお茶で飲もう……」
・・・・・・・・・


上官「竜騎士か……。叔母が認めただけあって、さすがと言わざる得ない…か……。頼りがいがある男というものは……良いものなのだな……」

次の日には金剣士らが纏めた取り巻きたちと共に、若干ながら真面目に稽古に参加し始めた新入りたちが活躍していくのだが、まだ遠い未来の話である。

しかし、こうして竜騎士の短い帰還は終わった。

何事もなく、だが久々の軍の空気に触れた竜騎士は自宅に戻った12月30日、女武道家に何があったのか楽しそうに話したという。

―――…そして、12月31日の夕方。

女剣士「お母さん、お父さん!帰ったよ!娘もお爺ちゃんと遊びたいってさー!」
マスター「お久しぶりです、竜騎士さん」

女武道家は、竜騎士がいない間にこっそりと二人に竜騎士が寂しがっていた事を連絡していた。

竜騎士「……帰ってきたのか!?」

竜騎士にとって、ひと騒動があって大変だった年末。どうやら、幸せなお正月を過ごせそうで何よりである。

…………
……



【 E N D 】



………………

上官「叔母さん、竜騎士という男は何より…本当に頼れる男だった」

(元上官)叔母「フフッ、そうだろう」

上官「男とは軟弱で自己欲の強い生き物であると思っていたのだが……あんな感覚は初めてだった」

叔母「お前なら未だ若い。チャンスだぞ」

上官「い、いや……。確かに年寄りだけど頼りがいがあって…恋愛に年齢は関係ないが……」

叔母「おい、私はそこまで言っていない。そうか、女子としてトキメキがあったんだな」

上官「」

………………
………



【本当に終わり】

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