最終更新:ID:Zk4iWhaGRg 2015年02月04日(水) 12:00:53履歴
気が付けばあまねく知識の海に投げ出されていた
見るもの全てを解き明かし 解き明かしては飽いて捨て続けた
満たされる知識と相反して零れ落ちていく執着 それはまるで砂時計のよう
けれども ただ一つだけ
どうしても 解き明かせないものがあった
あらゆるものを知り尽くして尚 解き明かせぬそれは―――・・・・
求めた解を得られなかった錬金術師は 月の向こうの狼に連れられ彼方へと
狼の咥えた石は 響く声に心裂かれ 二つに別たれる
悲劇の恋人達を繋ぐのは 血で染められた赤い糸
あゞ その腕に眠るは 屍か 怪物か あるいは罪過の遺産か
壊れ転がる人形で築かれた道を踏みしめて
ただ共にあるだけの未来を求める青年に祝福を
そして
それぞれの道を行く旅人達に 一時の平穏を
真実は自ら選び掴み取れ
世界は常に無数の選択の折り重なりによって生まれ出る
旅人達の真実こそ世界の真理 世は多くの矛盾の塊
混沌より生まれ出でた理を求め目を背ける子等よ
さあ 真実を織り上げよ
それらが君達に自由を与えよう
...Good enD...
「あなたの名前は」
PCより
PLより
ごみ袋からノートを拾う。
あちこち汚れてしまっていて、ところどころページが破り捨てられてしまっているけれど、新しい物を買って内容を写せばいいだけの話だ。
先生に質問すれば、破り捨てられているページの内容も教えてくれるだろう。
鞄にノートを閉まって立ち上がる。
じんわり痛む側頭部をそっと触れて確かめれば、じんわり滲んだ赤黒い液体が手についた。
それを見て、家に帰る前には止まっているだろうな…と、ぼんやり考える。
家に帰っても、広い屋敷の中では家族にも鉢合わせしないことが多い。
そもそも、父さまにはリズさんが、お爺様にはお婆様が、当主様には弟様がいて、私から尋ねないと偶然でもない限り逢わないだろう。
そもそもまず絶対に、父さまには会いたくないし、このことを言う必要すら感じない。
私は父さまが大嫌いだから。
幼い頃からずっと虐められていたけれど、一番言いたかった『両親』に何も言えなかった。
父さまは留守が多くて、帰ってきても一方的にぬいぐるみやら装飾品やら、機嫌取りを渡してどこかにいってしまう。
(その理由は今ははっきりわかっているけれど)
父さまと仲たがいした母さまとは一度しか逢ったことがない。
一方的に押し付けられる物と言葉で、私は心底父さまが嫌いになった。
そんな物たちであふれている私の部屋は、まるで人形部屋のよう。
そして私はそんなふわふわした物の中で笑っている父さまの飾り人形みたいだ。
―――愛してくれてる?不器用なだけ?
そんなこと、知ったことではない。私の話なんて、一度も聞いてくれなかったくせに。
だから。
だから、パスが私の話を聞いてくれて、本当に嬉しかった。
私を見て、ちゃんと話してくれて、嬉しかった。
怯えさせても、何をしてもやっぱり話を聞いてくれて嬉しいと思った。
言ってばかりったから…だから、パスの話を聞くべきだったのだろう。
けれども、自分の思いばかり先行して、押し付けてばかりの私は本当に父親似だ。
ルス君はパスのことで追い詰められてて、だから私なんかの言葉に心乱されたのだろうけども。
それでも私の言葉に怒ってくれて、反応してくれて嬉しいと感じた私がいた。
どこまでも身勝手で自分勝手だ。
…誘拐されたという、私の双子の兄だか弟がいれば、違ったのかな。
片割れがいてくれたのなら、傍にいてくれたのならこんな『私』にならなくてすんだのかな。
それでも、大事にしてくれていた仲間がいたから、私はここにいる。
中でも、カイトさんには本当にお世話になりっぱなしだ。…あの後何度か手紙を貰って、楽しい気分にさせてもらえた。
結局、現状を変えることなんて、変える力なんて、私にはないけども。
世界を救う、なんて誰かが決めてくれた目標に沿うより、自分で目標を立てて歩くのは難しいけど。
それでも這いずってでも、進んでみよう。立ち止まってもいいから。
…ひとまずはパスへの『プレゼント』を持って逢いに行こう。
喜ばれるか怯えられるか避けられるかはわからないけども。
あれからパスとは一度も逢ってない。
きっと、ルス君がいるから幸せなのだろう。
それゆえの、『プレゼント』を貴女に。
あちこち汚れてしまっていて、ところどころページが破り捨てられてしまっているけれど、新しい物を買って内容を写せばいいだけの話だ。
先生に質問すれば、破り捨てられているページの内容も教えてくれるだろう。
鞄にノートを閉まって立ち上がる。
じんわり痛む側頭部をそっと触れて確かめれば、じんわり滲んだ赤黒い液体が手についた。
それを見て、家に帰る前には止まっているだろうな…と、ぼんやり考える。
家に帰っても、広い屋敷の中では家族にも鉢合わせしないことが多い。
そもそも、父さまにはリズさんが、お爺様にはお婆様が、当主様には弟様がいて、私から尋ねないと偶然でもない限り逢わないだろう。
そもそもまず絶対に、父さまには会いたくないし、このことを言う必要すら感じない。
私は父さまが大嫌いだから。
幼い頃からずっと虐められていたけれど、一番言いたかった『両親』に何も言えなかった。
父さまは留守が多くて、帰ってきても一方的にぬいぐるみやら装飾品やら、機嫌取りを渡してどこかにいってしまう。
(その理由は今ははっきりわかっているけれど)
父さまと仲たがいした母さまとは一度しか逢ったことがない。
一方的に押し付けられる物と言葉で、私は心底父さまが嫌いになった。
そんな物たちであふれている私の部屋は、まるで人形部屋のよう。
そして私はそんなふわふわした物の中で笑っている父さまの飾り人形みたいだ。
―――愛してくれてる?不器用なだけ?
そんなこと、知ったことではない。私の話なんて、一度も聞いてくれなかったくせに。
だから。
だから、パスが私の話を聞いてくれて、本当に嬉しかった。
私を見て、ちゃんと話してくれて、嬉しかった。
怯えさせても、何をしてもやっぱり話を聞いてくれて嬉しいと思った。
言ってばかりったから…だから、パスの話を聞くべきだったのだろう。
けれども、自分の思いばかり先行して、押し付けてばかりの私は本当に父親似だ。
ルス君はパスのことで追い詰められてて、だから私なんかの言葉に心乱されたのだろうけども。
それでも私の言葉に怒ってくれて、反応してくれて嬉しいと感じた私がいた。
どこまでも身勝手で自分勝手だ。
…誘拐されたという、私の双子の兄だか弟がいれば、違ったのかな。
片割れがいてくれたのなら、傍にいてくれたのならこんな『私』にならなくてすんだのかな。
それでも、大事にしてくれていた仲間がいたから、私はここにいる。
中でも、カイトさんには本当にお世話になりっぱなしだ。…あの後何度か手紙を貰って、楽しい気分にさせてもらえた。
結局、現状を変えることなんて、変える力なんて、私にはないけども。
世界を救う、なんて誰かが決めてくれた目標に沿うより、自分で目標を立てて歩くのは難しいけど。
それでも這いずってでも、進んでみよう。立ち止まってもいいから。
…ひとまずはパスへの『プレゼント』を持って逢いに行こう。
喜ばれるか怯えられるか避けられるかはわからないけども。
あれからパスとは一度も逢ってない。
きっと、ルス君がいるから幸せなのだろう。
それゆえの、『プレゼント』を貴女に。
PCより
PLより
窓から強烈に差し込む朝日の光と酷い頭痛に苛まされ、目を覚ます。
頭を抑えながら痛みを抑えていると、もしやまたあの森に飛ばされた時の様な事が起こったのではないかと思い、
周りを見渡すも古臭い壁紙、原稿用紙が挟まれたタイプライター、オカルト物や俺が好きなジャンルの本が敷き詰められた本棚、
何の事はない、何時もの俺の部屋だ。
俺はベッドから起き上がり、上着を羽織りつつ昨日の事を思い返していた。
今思い返して見ても、昨日の出来事は散々だったとしか言いようがない。
アルモニアからの依頼を受けたかと思うと、次の瞬間には森の中を走り抜くバスに乗っていて、
そうかと思うと古びた古城に連れてかれてカルラとイツミに出会い、其処で行き成り世界を救えだの主を助けて欲しいだの
今日日笑い話にも成らない稀代の天才錬金術師を殺して欲しいと言われ、
それを達成しようと奔走していたら今度は仲間が分裂、バラバラになる所だった。
何とかそれはギリギリ阻止出来たが、もうあんな真似は二度とごめんだ。
俺は上着を羽織り、着替えを済ませてから机のタイプライターの上に置いてある封が開けられていないタバコの箱に目が留まった。
煙草なんて久し振りだな、そう思い箱に手を伸ばし、封を切りタバコを一本口元まで持っていく。
思えば、今回の冒険・・・・・・いや奇怪な事件か?どちらでも同じ意味か、それは正しく人間のエゴのぶつかり合いといっても差し支えなかった。
その中でもルスランとパシフィスタ、それにリュラは凄まじかった。彼処まで愛憎入り参り、そして際限無く堕ちていった関係も中々無いだろう。
ルスランはパシフィスタを守る為に俺達を殺そうとし、パシフィスタは生きようとして世界を滅ぼそうとし、リュラはそんなパシフィスたが愛おしく、
そして俺達・・・いや俺か?俺はそんなパシフィスタを殺そうとした。
あの時の情景を思い返しても、良くもまぁ生き残れたなというのが正直な感想だ。一瞬即発、膨らみきった風船の様な関係だった。
果たしてあいつらは幸せになれるのか、それとも地獄よりも深い下へと堕ちていくのか。
どちらにせよ、俺から見て3人はただ一向真っ直ぐだった。最早世界には彼等しか正常な人間がいないかの様に。
それが間違っているかどうかは、俺には判断が出来なかった。
そんな彼等と同じ位、真っ直ぐだった男が一人居た。カイトだ。
正直なところあいつには随分と助けられた、あいつがいなければ、今頃はこうしてくつろぐ事も出来なかっただろう。
あいつも何だかんだ甘かったが、それも若さの特権か。
しかし、気にかかるのは俺が帰って来た時にアプリコットが何故か歳をとっているかの様に老けており、ジェニファーが居なくなっていた事だ。
皆に聞いたが、やるべき事をやったのだという答えが返ってきた為にそれ以上は何も言わなかった。
ヴァレリーは、果たしてヴェスパーへの思いを断ち切る事が出来たのか。
恐らくは無理だろう、だがあいつはあれでいて中々強い男だ。ヴェスパーが支えずとも一人で歩ける程には。
俺は椅子に深く座り込み、マッチ箱からマッチ棒を一本取り出し火を点け、口元に咥えていたタバコに火を付ける。
気がかりなのは、最後
アザトースとウボ=サスラという規格外の化け物と遭遇した時、俺は確実な死を感じた。
逃れられない死、今まで出会った化け物とは一線を越える程の超常的な力。
最早俺は正気を保てずに、ただただ生を願い続けた後に意識が飛んでしまったが・・・・・目を覚ますと、全てが既に終わっていた。
何が起こったのかさっぱり理解が出来ず、困惑する俺に向かってアプリコットやカイト達は
『俺がアザトースとウボ=サスラを追い返した』
『眠っていた俺は無意識が外に飛び出し、その俺は今世紀最大のエンターテイナーだった』
『最後の最後にイツミにキスをした』
などと俄かには信じ難い話を随分とまぁ流暢にベラベラ喋ってくれた。
どれもこれも恐ろしいまでの活躍っぷりだが、イツミに関しては・・・・正直喜んで良いのかどうか分からなかった。
確かに出会った当初から信用の置ける奴だとは思い、そしてそれは道中で確信へと変わった。
周りが極端に精神的に不安定な奴等で囲まれていた俺にとっては、彼女の存在は一種の清涼剤へと変わっていき、
彼女の考え方、敵はどんな理由があろうとも殺す。その考え方は俺と似たようなものだったのも大きい。
結果から言うと、信用の置ける良い女だとは思っていたが・・・・まさかこうなるとはね、
ああも奴等の前で見栄を切った以上、今更それを取り消すのも男気溢れる行動とはとても言えない。
一生独身で人生を最後まで全うすると思ってたが。思わず笑ってしまい、タバコを吹き出しそうになる。まさかこんな事になるとはな。
何にせよ、その無意識下の俺には少し妙な気分だが礼を言わなければなるまい。
それにしても、そんなにも素晴らしい活躍をしてくれたのなら、インスマスでもカストロネグロでも、それから勿論今回の最初から出て欲しかったよ。
最もそんなのはごめんだが、自我次元論でアザトースが俺の無意識下の心と繋がっているのだの何だの、溜まったもんではない。
根元付近まで吸い続けたタバコの火を、灰皿にタバコを押し付けて消す。
そして、コーヒーでも飲もうかと思い、椅子から立ち上がり家に備え付けてあるキッチンへと向かうと
「・・・・・・あっ・・・・」
既に先客が居た様だ。
「・・・・・何だ、もう起きていたのか。」
俺は小さくこじんまりとしたキッチンで、コーヒーポットに入れたお湯をコンロで沸かしている女性にそう言った。
「・・・はい・・・・・元々使用人でしたので・・・骨身にしみたと言うか・・・・」
その女性の髪はショートカットであり、髪色は白く雪のように透き通った銀髪、彼女の眼の色は狼の毛皮の様な見事な灰色であり、其処には俺が映っていた。
「・・・あの、お茶ならお入れしますが、どうされますか・・・・?」
彼女はオズオズと俺に問い掛けてきた、声からも分かるがどうやら緊張しているらしい。無理もないか、こういうのは初めて何だろう。
俺は頭を掻き、彼女に向かって恥ずかしながら俺が思う飛びっきりの笑顔で言った。
「それじゃあ、アメリカンコーヒーのブラックが飲みたいな。頼めるかイツミ?」
彼女は俺の問いに、こくんと頷き慎ましやかな笑顔でこういった。
「・・・えぇ、勿論ですよ・・・・アラン」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数年後、俺は公園のベンチで気長に座って居た。
朝日が眩しい、たまの日曜日位は家でゆっくりと寝転がっていたい。
だがそんな事を言うと、彼女に
「ダメよ、だっていっつもいっつもいーっつも『仕事だから』って自分の部屋に籠りっきりじゃない!!」
と非常に痛い所を突かれてしまった。やれやれ、何時からそんなに口が流暢になったのか。
俺がそんな事を思っていると眼前にボールが飛んで来た、俺はそれを難なく受け止め、投げ付けて来た小さな犯人に向かって答える。
「おいおい、こんな調子だと俺を病院送りにする事何て一生無理だぞ?」
その犯人は、太陽の光に輝き続けている銀髪を持ち、背丈は俺の腰元にも及ばない少女だった
「あぁん、もう一回!!もう一回!!」
彼女はまるで猫の様に飛び跳ね、せがむ。
彼女の足元には彼女よりも更に小さい、黒髪の子供が不思議そうに彼女を見つめていた。
良く見ると口をモゴモゴして何か食べている、見続けていると苦虫を噛んだ様な表情をして吐き出したがどうやらダンゴ虫を食べてしまっていたようだ。
俺は思わず吹き出してしまった、そんな俺を見て麦わら帽子を被ったイツミが苦笑しながらその黒髪の子供を抱き抱え、優しく話しかける。
「・・・ダメよ、シャーリー。そんなのを食べてしまうと、お腹を壊してしまうわ」
シャーリーはまるで理解出来ていないかの様にコテン、と首をかしげて舌っ足らずな口を動かした。
「・・・・・マンマー・・・」
もっと彼女のその興味深い生態を観察し続けていたかったが、俺はベンチからボールを持って立ち上がり、銀髪の子供に向かってこう言った。
「よ〜し、じゃあ俺と1対1の決闘だ!ターニャ!!負けた方がアイスを奢るんだぞ!」
ターニャは満面の笑みを浮かべ、元気が塊となったかのような声を公園に響かせた。
「望む所よ、パパ!!」
俺はアラン・メイソン
幸せな人生をやっと手に掴む事が出来た作家だ。
頭を抑えながら痛みを抑えていると、もしやまたあの森に飛ばされた時の様な事が起こったのではないかと思い、
周りを見渡すも古臭い壁紙、原稿用紙が挟まれたタイプライター、オカルト物や俺が好きなジャンルの本が敷き詰められた本棚、
何の事はない、何時もの俺の部屋だ。
俺はベッドから起き上がり、上着を羽織りつつ昨日の事を思い返していた。
今思い返して見ても、昨日の出来事は散々だったとしか言いようがない。
アルモニアからの依頼を受けたかと思うと、次の瞬間には森の中を走り抜くバスに乗っていて、
そうかと思うと古びた古城に連れてかれてカルラとイツミに出会い、其処で行き成り世界を救えだの主を助けて欲しいだの
今日日笑い話にも成らない稀代の天才錬金術師を殺して欲しいと言われ、
それを達成しようと奔走していたら今度は仲間が分裂、バラバラになる所だった。
何とかそれはギリギリ阻止出来たが、もうあんな真似は二度とごめんだ。
俺は上着を羽織り、着替えを済ませてから机のタイプライターの上に置いてある封が開けられていないタバコの箱に目が留まった。
煙草なんて久し振りだな、そう思い箱に手を伸ばし、封を切りタバコを一本口元まで持っていく。
思えば、今回の冒険・・・・・・いや奇怪な事件か?どちらでも同じ意味か、それは正しく人間のエゴのぶつかり合いといっても差し支えなかった。
その中でもルスランとパシフィスタ、それにリュラは凄まじかった。彼処まで愛憎入り参り、そして際限無く堕ちていった関係も中々無いだろう。
ルスランはパシフィスタを守る為に俺達を殺そうとし、パシフィスタは生きようとして世界を滅ぼそうとし、リュラはそんなパシフィスたが愛おしく、
そして俺達・・・いや俺か?俺はそんなパシフィスタを殺そうとした。
あの時の情景を思い返しても、良くもまぁ生き残れたなというのが正直な感想だ。一瞬即発、膨らみきった風船の様な関係だった。
果たしてあいつらは幸せになれるのか、それとも地獄よりも深い下へと堕ちていくのか。
どちらにせよ、俺から見て3人はただ一向真っ直ぐだった。最早世界には彼等しか正常な人間がいないかの様に。
それが間違っているかどうかは、俺には判断が出来なかった。
そんな彼等と同じ位、真っ直ぐだった男が一人居た。カイトだ。
正直なところあいつには随分と助けられた、あいつがいなければ、今頃はこうしてくつろぐ事も出来なかっただろう。
あいつも何だかんだ甘かったが、それも若さの特権か。
しかし、気にかかるのは俺が帰って来た時にアプリコットが何故か歳をとっているかの様に老けており、ジェニファーが居なくなっていた事だ。
皆に聞いたが、やるべき事をやったのだという答えが返ってきた為にそれ以上は何も言わなかった。
ヴァレリーは、果たしてヴェスパーへの思いを断ち切る事が出来たのか。
恐らくは無理だろう、だがあいつはあれでいて中々強い男だ。ヴェスパーが支えずとも一人で歩ける程には。
俺は椅子に深く座り込み、マッチ箱からマッチ棒を一本取り出し火を点け、口元に咥えていたタバコに火を付ける。
気がかりなのは、最後
アザトースとウボ=サスラという規格外の化け物と遭遇した時、俺は確実な死を感じた。
逃れられない死、今まで出会った化け物とは一線を越える程の超常的な力。
最早俺は正気を保てずに、ただただ生を願い続けた後に意識が飛んでしまったが・・・・・目を覚ますと、全てが既に終わっていた。
何が起こったのかさっぱり理解が出来ず、困惑する俺に向かってアプリコットやカイト達は
『俺がアザトースとウボ=サスラを追い返した』
『眠っていた俺は無意識が外に飛び出し、その俺は今世紀最大のエンターテイナーだった』
『最後の最後にイツミにキスをした』
などと俄かには信じ難い話を随分とまぁ流暢にベラベラ喋ってくれた。
どれもこれも恐ろしいまでの活躍っぷりだが、イツミに関しては・・・・正直喜んで良いのかどうか分からなかった。
確かに出会った当初から信用の置ける奴だとは思い、そしてそれは道中で確信へと変わった。
周りが極端に精神的に不安定な奴等で囲まれていた俺にとっては、彼女の存在は一種の清涼剤へと変わっていき、
彼女の考え方、敵はどんな理由があろうとも殺す。その考え方は俺と似たようなものだったのも大きい。
結果から言うと、信用の置ける良い女だとは思っていたが・・・・まさかこうなるとはね、
ああも奴等の前で見栄を切った以上、今更それを取り消すのも男気溢れる行動とはとても言えない。
一生独身で人生を最後まで全うすると思ってたが。思わず笑ってしまい、タバコを吹き出しそうになる。まさかこんな事になるとはな。
何にせよ、その無意識下の俺には少し妙な気分だが礼を言わなければなるまい。
それにしても、そんなにも素晴らしい活躍をしてくれたのなら、インスマスでもカストロネグロでも、それから勿論今回の最初から出て欲しかったよ。
最もそんなのはごめんだが、自我次元論でアザトースが俺の無意識下の心と繋がっているのだの何だの、溜まったもんではない。
根元付近まで吸い続けたタバコの火を、灰皿にタバコを押し付けて消す。
そして、コーヒーでも飲もうかと思い、椅子から立ち上がり家に備え付けてあるキッチンへと向かうと
「・・・・・・あっ・・・・」
既に先客が居た様だ。
「・・・・・何だ、もう起きていたのか。」
俺は小さくこじんまりとしたキッチンで、コーヒーポットに入れたお湯をコンロで沸かしている女性にそう言った。
「・・・はい・・・・・元々使用人でしたので・・・骨身にしみたと言うか・・・・」
その女性の髪はショートカットであり、髪色は白く雪のように透き通った銀髪、彼女の眼の色は狼の毛皮の様な見事な灰色であり、其処には俺が映っていた。
「・・・あの、お茶ならお入れしますが、どうされますか・・・・?」
彼女はオズオズと俺に問い掛けてきた、声からも分かるがどうやら緊張しているらしい。無理もないか、こういうのは初めて何だろう。
俺は頭を掻き、彼女に向かって恥ずかしながら俺が思う飛びっきりの笑顔で言った。
「それじゃあ、アメリカンコーヒーのブラックが飲みたいな。頼めるかイツミ?」
彼女は俺の問いに、こくんと頷き慎ましやかな笑顔でこういった。
「・・・えぇ、勿論ですよ・・・・アラン」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数年後、俺は公園のベンチで気長に座って居た。
朝日が眩しい、たまの日曜日位は家でゆっくりと寝転がっていたい。
だがそんな事を言うと、彼女に
「ダメよ、だっていっつもいっつもいーっつも『仕事だから』って自分の部屋に籠りっきりじゃない!!」
と非常に痛い所を突かれてしまった。やれやれ、何時からそんなに口が流暢になったのか。
俺がそんな事を思っていると眼前にボールが飛んで来た、俺はそれを難なく受け止め、投げ付けて来た小さな犯人に向かって答える。
「おいおい、こんな調子だと俺を病院送りにする事何て一生無理だぞ?」
その犯人は、太陽の光に輝き続けている銀髪を持ち、背丈は俺の腰元にも及ばない少女だった
「あぁん、もう一回!!もう一回!!」
彼女はまるで猫の様に飛び跳ね、せがむ。
彼女の足元には彼女よりも更に小さい、黒髪の子供が不思議そうに彼女を見つめていた。
良く見ると口をモゴモゴして何か食べている、見続けていると苦虫を噛んだ様な表情をして吐き出したがどうやらダンゴ虫を食べてしまっていたようだ。
俺は思わず吹き出してしまった、そんな俺を見て麦わら帽子を被ったイツミが苦笑しながらその黒髪の子供を抱き抱え、優しく話しかける。
「・・・ダメよ、シャーリー。そんなのを食べてしまうと、お腹を壊してしまうわ」
シャーリーはまるで理解出来ていないかの様にコテン、と首をかしげて舌っ足らずな口を動かした。
「・・・・・マンマー・・・」
もっと彼女のその興味深い生態を観察し続けていたかったが、俺はベンチからボールを持って立ち上がり、銀髪の子供に向かってこう言った。
「よ〜し、じゃあ俺と1対1の決闘だ!ターニャ!!負けた方がアイスを奢るんだぞ!」
ターニャは満面の笑みを浮かべ、元気が塊となったかのような声を公園に響かせた。
「望む所よ、パパ!!」
俺はアラン・メイソン
幸せな人生をやっと手に掴む事が出来た作家だ。
何処ともしれない場所に、寂れた劇場があった
その劇場の、赤幕がゆっくりと上がる。
強烈なスポットライトの光が灯され、壇上を眩く照らす。
其処には何がそんなに嬉しいのか口角が吊り上げんばかりに笑顔で居る男が居た。
男はパリッとした洒落た高級スーツを着飾っていた。男の髪は闇の様に黒く染まり、眼はまるで深海の様に深く吸い込まれそうな青だった。
男はヴィクトリア朝時代の気取った椅子に座り、周りを興味深そうに見つめている。
男の目の前には良く磨かれたチェス盤と長い間使われていなかったのか、ヒビ割れボロボロのチェス盤が2つ並び乗ったテーブルが置かれていた。
磨かれたチェス盤には、誰も座っていない敵の陣地に白のキングとクイーンが3つ、キングを中心にクイーンが寄り添う形で置かれていた。
男の陣地にはコマは一つも無く、ただただ平坦が広がっているだけだった。
もう一つのヒビ割れたチェス盤には、中央に酷く傷が付いた白のルークが置かれ、その周りには白のコマ、白も黒も軍勢達が全て倒れ伏していた。
男以外は誰も居ない劇場、埃が積もりきった観客席の椅子、みすぼらしい穴があいた床とカーテン、
そして辺りを一通り拝見しつくすと、そのニヤケた口元を開いた。
『自我次元論について君達は知っているだろうか?』
男は盤上のクイーンのクイーンを一つ手にする
『全ての人間は自我次元と呼ばれる異次元へとと繋がっており、そのおかげで人類は魂を手に入れ、心と言う物を持続出来る』
男はそのクイーンを指で遊び、まるで興味が無いかのようにそのコマを見つめていると、不意にそのコマを観客席へと投げ捨てた。
観客席にコマが落ち、劇場にコマが床に当たる音が響き渡る
【心は、単なる脳の科学的反応ではなくて、別次元に由来しているものだということが分かった。】
男が盤上のキングに手を伸ばす。
『そして、心と魂が』
男がキングを自分の陣地の、本来キングが在るべき場所へ置き立てる
【生物の脳には自我次元と呼ばれる異次元に接触できる性質があり、脳と自我次元が接触したときに自我が発生する】
白のキングが置かれた瞬間、純白であったキングは漆黒の闇へと染まり始める
『だが、もしだ。そう、もしも・・・・・・自我が、心が二つある者が居るとしたら』
次の瞬間には闇の様に黒きキングが其処に佇み、周りにはポーン、ナイト、ルーク、ビショップの駒が順に現れ始める。
不思議とクイーンがあるべきキングの横にはコマが無く、マスが空いていた。
【脳は記憶や知性などの「情報」を記録したレコード盤であるが、それ単体では何もできない】
男は盤上に残っている白のクイーンの一つを手に取る。
『その人物のもう一つの心、自我は果たしてアザトースと繋がっているのだろうか?』
男はクイーンを黒の陣地、クイーンが在るべきキングの横へと置く。
白のクイーンは、キングの横に収まる。
【脳が自我次元と接触すると、あたかもレコード盤の上をレコードの針が接触したかのような状態になり、記憶や知性などが再生される】
男は白の陣地、最後に残ったクイーンを一瞥し、男がそれに触れると、徐々にクイーンの造形が歪み始める。
『アザトースとは別の、だが魔王と同等の力を持つ程の存在、その様な物と繋がっていたとしても不思議では無いのではなかろうか』
次の瞬間には、クイーンの存在は無くなり、代わりに小さなビショップが置かれていた。
【一般的な人間の接触している自我次元はアザトースに由来する】
男はボロボロのチェス盤に一つ残されたひび割れたルークを持ち、ボロボロのチェス盤を打ち捨てた。
『メイソンは幾度もの神話生物との遭遇と撃退を繰り返し続け、最後には素敵な女性と出会い、幸せを掴んだ』
そのルークをもう一つのチェス盤の白のビショップの前へと置く。
『彼の冒険は素晴らしい幕引きを迎えた 最早彼が活躍する余地は世界の何処にもない』
男はそれをし終えると椅子に深く沈み、満足気に盤上を見た。
『だが、悲しむべき事では無い』
白の戦力は、小さなビショップに傷ついたルークの二つ。
『メイソンの物語は終わりを告げたが、そのおかげで新たな物語が紡がれる』
対する黒の戦力は、クイーン以外の全戦力。
勝てる筈の無い戦い、終わりが既に見えている無駄な戦い。
『私と、そして彼等の物語が』
男が嫌らし気に笑みを浮かべる。
『私の名は』
『Πανδώρα』
男がその名を口にした途端、盤上に鎮座していたコマ達が揺れ始め、寂れた劇場の光が消える。
『覚えておくと良い』
終わりの見えない闇と静寂が、全てを飲み込んだ。
その劇場の、赤幕がゆっくりと上がる。
強烈なスポットライトの光が灯され、壇上を眩く照らす。
其処には何がそんなに嬉しいのか口角が吊り上げんばかりに笑顔で居る男が居た。
男はパリッとした洒落た高級スーツを着飾っていた。男の髪は闇の様に黒く染まり、眼はまるで深海の様に深く吸い込まれそうな青だった。
男はヴィクトリア朝時代の気取った椅子に座り、周りを興味深そうに見つめている。
男の目の前には良く磨かれたチェス盤と長い間使われていなかったのか、ヒビ割れボロボロのチェス盤が2つ並び乗ったテーブルが置かれていた。
磨かれたチェス盤には、誰も座っていない敵の陣地に白のキングとクイーンが3つ、キングを中心にクイーンが寄り添う形で置かれていた。
男の陣地にはコマは一つも無く、ただただ平坦が広がっているだけだった。
もう一つのヒビ割れたチェス盤には、中央に酷く傷が付いた白のルークが置かれ、その周りには白のコマ、白も黒も軍勢達が全て倒れ伏していた。
男以外は誰も居ない劇場、埃が積もりきった観客席の椅子、みすぼらしい穴があいた床とカーテン、
そして辺りを一通り拝見しつくすと、そのニヤケた口元を開いた。
『自我次元論について君達は知っているだろうか?』
男は盤上のクイーンのクイーンを一つ手にする
『全ての人間は自我次元と呼ばれる異次元へとと繋がっており、そのおかげで人類は魂を手に入れ、心と言う物を持続出来る』
男はそのクイーンを指で遊び、まるで興味が無いかのようにそのコマを見つめていると、不意にそのコマを観客席へと投げ捨てた。
観客席にコマが落ち、劇場にコマが床に当たる音が響き渡る
【心は、単なる脳の科学的反応ではなくて、別次元に由来しているものだということが分かった。】
男が盤上のキングに手を伸ばす。
『そして、心と魂が』
男がキングを自分の陣地の、本来キングが在るべき場所へ置き立てる
【生物の脳には自我次元と呼ばれる異次元に接触できる性質があり、脳と自我次元が接触したときに自我が発生する】
白のキングが置かれた瞬間、純白であったキングは漆黒の闇へと染まり始める
『だが、もしだ。そう、もしも・・・・・・自我が、心が二つある者が居るとしたら』
次の瞬間には闇の様に黒きキングが其処に佇み、周りにはポーン、ナイト、ルーク、ビショップの駒が順に現れ始める。
不思議とクイーンがあるべきキングの横にはコマが無く、マスが空いていた。
【脳は記憶や知性などの「情報」を記録したレコード盤であるが、それ単体では何もできない】
男は盤上に残っている白のクイーンの一つを手に取る。
『その人物のもう一つの心、自我は果たしてアザトースと繋がっているのだろうか?』
男はクイーンを黒の陣地、クイーンが在るべきキングの横へと置く。
白のクイーンは、キングの横に収まる。
【脳が自我次元と接触すると、あたかもレコード盤の上をレコードの針が接触したかのような状態になり、記憶や知性などが再生される】
男は白の陣地、最後に残ったクイーンを一瞥し、男がそれに触れると、徐々にクイーンの造形が歪み始める。
『アザトースとは別の、だが魔王と同等の力を持つ程の存在、その様な物と繋がっていたとしても不思議では無いのではなかろうか』
次の瞬間には、クイーンの存在は無くなり、代わりに小さなビショップが置かれていた。
【一般的な人間の接触している自我次元はアザトースに由来する】
男はボロボロのチェス盤に一つ残されたひび割れたルークを持ち、ボロボロのチェス盤を打ち捨てた。
『メイソンは幾度もの神話生物との遭遇と撃退を繰り返し続け、最後には素敵な女性と出会い、幸せを掴んだ』
そのルークをもう一つのチェス盤の白のビショップの前へと置く。
『彼の冒険は素晴らしい幕引きを迎えた 最早彼が活躍する余地は世界の何処にもない』
男はそれをし終えると椅子に深く沈み、満足気に盤上を見た。
『だが、悲しむべき事では無い』
白の戦力は、小さなビショップに傷ついたルークの二つ。
『メイソンの物語は終わりを告げたが、そのおかげで新たな物語が紡がれる』
対する黒の戦力は、クイーン以外の全戦力。
勝てる筈の無い戦い、終わりが既に見えている無駄な戦い。
『私と、そして彼等の物語が』
男が嫌らし気に笑みを浮かべる。
『私の名は』
『Πανδώρα』
男がその名を口にした途端、盤上に鎮座していたコマ達が揺れ始め、寂れた劇場の光が消える。
『覚えておくと良い』
終わりの見えない闇と静寂が、全てを飲み込んだ。
遅れましたがお疲れ様でした。1920s馬鹿のチャコです。
今回を振り返ると本当にそれぞれの1日1日が非常に濃かったです。もうウォッカを水で割らずにそのまま飲む程に濃かったです。
途中で何度か全滅しそうになったり、ロストしそうな展開もありましたが、それを回避出来たのも一重にPLの皆様のおかげであり、
また少し危ない雰囲気を終始漂わせていたリュラさん、同じようにヴェスパーへの思いを詰め込んだ弟大好きヴァレリーさん、PTのマスコット的扱いで癒されたグルナドさん、
チェーンソーとシーラさんへの執着が凄まじかったジェニファーさん、最後まで常識人と言うか安心出来る人だったカイトさんとのRPも非常に楽しかったです。
またラストの発狂アランRPですが、いやぁ何度も言いましたが非常に楽しかった。
もう、私がぶつけたい感情をそのままぶつけてノリノリでRPする事が出来ました。
KPとPLには多大な感謝を、ここで申し上げます。
では皆様、またお会いした時、その時は是非宜しくお願いします。
今回を振り返ると本当にそれぞれの1日1日が非常に濃かったです。もうウォッカを水で割らずにそのまま飲む程に濃かったです。
途中で何度か全滅しそうになったり、ロストしそうな展開もありましたが、それを回避出来たのも一重にPLの皆様のおかげであり、
また少し危ない雰囲気を終始漂わせていたリュラさん、同じようにヴェスパーへの思いを詰め込んだ弟大好きヴァレリーさん、PTのマスコット的扱いで癒されたグルナドさん、
チェーンソーとシーラさんへの執着が凄まじかったジェニファーさん、最後まで常識人と言うか安心出来る人だったカイトさんとのRPも非常に楽しかったです。
またラストの発狂アランRPですが、いやぁ何度も言いましたが非常に楽しかった。
もう、私がぶつけたい感情をそのままぶつけてノリノリでRPする事が出来ました。
KPとPLには多大な感謝を、ここで申し上げます。
では皆様、またお会いした時、その時は是非宜しくお願いします。
PCより
PLより
ただいまー。
「「おかえりなさーい!」」
やあやあ愛しのチビたち、元気そうで何より。
「早かったねー」「思ってたよりー」
そうかな? 三日も家を空けちゃって悪かったね。
僕がいない間、色々と大変だったでしょう?
「別に困んなかったー」「何一つ問題なかった」
お、おう。それはそれで凹むなぁ……。
「それより」「なにより」
ん? 何かな二人とも。
「「お土産はどうした」」
…………あー……
「やっぱり忘れてた」「予想通り期待外れ」
ひどっ!? 待って待ってあるからお土産! 物じゃないけど!
「ほほう」「というと?」
お話だよ、土産話ってこと。
「お話!? やったー!」「面白いの?」
さて、どうだろうね。
面白いとお前たちが思うかはわからないけど、
山あり谷ありの大長編。そして何より愛にあふれたお話だ。
気に入ってもらえると、うれしいな。
「聞かせて聞かせて!」「今すぐにだー!」
あ、僕色々あって疲れてるから、また明日で。
あのへんな玉に当たってから、妙に体がだるいんだよね……。
「「このへたれがー!!」」
なんとでもおっしゃい。
シャワー浴びたら寝るから、あとよろしくね。
「ぶーぶー」「ダメ人間め」
勘弁してよ、お父さんは長旅で疲れてるんだ。
「「…………あれ?」」
わかってもらえた?
「……うん」「……わかったよ」
それじゃ、お休み。
「「……お休みなさい、××××」」
? 今なんて言ったの?
「「別に、何でもないよ」」
かくして僕は日常に戻る。
狂気の中に見た幸せな幻想は、今も胸にくすぶっているけど。
それ以上に大切なものを得て過去を生き、未来へ向かう。
また会う日まで。
奥に引っ込んだグルナドを見送り、幼い姉弟は顔を見合わせる。
「お父さん、だって」「初めてだよね、自分で言ったの」
「何があったんだろうね」「何かあったんだろうね」
今まで、一度も口にしたことの無い言葉。
自分にはその資格がないと言いたげに、避けていたはずの言葉。
双子のお客様と出掛ける前の彼なら、おそらく一生名乗らなかっただろう。
「あの人たちに今度会ったら」「お礼を言わなくっちゃね」
旅行先で何かあったのは確定だ。
彼を連れだした二人には、感謝するほかない。
「お菓子美味しかったしねー」「全部食べちゃったけどねー」
菓子折りで好感度が底上げされているのはご愛嬌。
からからと笑いながら椅子に腰かけ、先ほどまで読んでいたそれを手に取る。
古ぼけた舞台演劇の台本のページをめくりながら、姉弟は口を開く。
「もう帰ってこないと思ってたよ」「元の時代に戻るかと思ってたよ」
先日、女性物の下着とともに彼の部屋で見つけた、彼の古い私物たち。
舞台演劇の登場人物と、彼らを演ずる役者の名前。
その中に紛れた、見覚えのある名前。
「「グルナド・ピースリー」」
幼い姉弟は、しかし姉は物語を思い描くことに長けており、弟は自分自身の鏡写しだ。
先を見透かすような彼の言動、たまにこぼす昔話、同じ名前、はるか先の公開予定日。
これだけのヒントがあるのだから、彼の物語を推測するのも、たやすいことだった。
夢物語のようだけど、間違ってはいないのだろう。
かの双子のお客様も、おそらくそれに関わっていた。
この時代に彼を送り込んだのは、きっとあの二人なのだろう。感謝してもし足りない。
台本を閉じ、彼の部屋に向かう。元の場所に返しておかなければ、秘密を知ったと気付かれてしまうかもしれない。もう少しだけ、内緒にしておこう。
「よろしくね、お父さん」「世話になるよ、お父さん」
貴方を父と呼ぶために。
「「おかえりなさーい!」」
やあやあ愛しのチビたち、元気そうで何より。
「早かったねー」「思ってたよりー」
そうかな? 三日も家を空けちゃって悪かったね。
僕がいない間、色々と大変だったでしょう?
「別に困んなかったー」「何一つ問題なかった」
お、おう。それはそれで凹むなぁ……。
「それより」「なにより」
ん? 何かな二人とも。
「「お土産はどうした」」
…………あー……
「やっぱり忘れてた」「予想通り期待外れ」
ひどっ!? 待って待ってあるからお土産! 物じゃないけど!
「ほほう」「というと?」
お話だよ、土産話ってこと。
「お話!? やったー!」「面白いの?」
さて、どうだろうね。
面白いとお前たちが思うかはわからないけど、
山あり谷ありの大長編。そして何より愛にあふれたお話だ。
気に入ってもらえると、うれしいな。
「聞かせて聞かせて!」「今すぐにだー!」
あ、僕色々あって疲れてるから、また明日で。
あのへんな玉に当たってから、妙に体がだるいんだよね……。
「「このへたれがー!!」」
なんとでもおっしゃい。
シャワー浴びたら寝るから、あとよろしくね。
「ぶーぶー」「ダメ人間め」
勘弁してよ、お父さんは長旅で疲れてるんだ。
「「…………あれ?」」
わかってもらえた?
「……うん」「……わかったよ」
それじゃ、お休み。
「「……お休みなさい、××××」」
? 今なんて言ったの?
「「別に、何でもないよ」」
かくして僕は日常に戻る。
狂気の中に見た幸せな幻想は、今も胸にくすぶっているけど。
それ以上に大切なものを得て過去を生き、未来へ向かう。
また会う日まで。
奥に引っ込んだグルナドを見送り、幼い姉弟は顔を見合わせる。
「お父さん、だって」「初めてだよね、自分で言ったの」
「何があったんだろうね」「何かあったんだろうね」
今まで、一度も口にしたことの無い言葉。
自分にはその資格がないと言いたげに、避けていたはずの言葉。
双子のお客様と出掛ける前の彼なら、おそらく一生名乗らなかっただろう。
「あの人たちに今度会ったら」「お礼を言わなくっちゃね」
旅行先で何かあったのは確定だ。
彼を連れだした二人には、感謝するほかない。
「お菓子美味しかったしねー」「全部食べちゃったけどねー」
菓子折りで好感度が底上げされているのはご愛嬌。
からからと笑いながら椅子に腰かけ、先ほどまで読んでいたそれを手に取る。
古ぼけた舞台演劇の台本のページをめくりながら、姉弟は口を開く。
「もう帰ってこないと思ってたよ」「元の時代に戻るかと思ってたよ」
先日、女性物の下着とともに彼の部屋で見つけた、彼の古い私物たち。
舞台演劇の登場人物と、彼らを演ずる役者の名前。
その中に紛れた、見覚えのある名前。
「「グルナド・ピースリー」」
幼い姉弟は、しかし姉は物語を思い描くことに長けており、弟は自分自身の鏡写しだ。
先を見透かすような彼の言動、たまにこぼす昔話、同じ名前、はるか先の公開予定日。
これだけのヒントがあるのだから、彼の物語を推測するのも、たやすいことだった。
夢物語のようだけど、間違ってはいないのだろう。
かの双子のお客様も、おそらくそれに関わっていた。
この時代に彼を送り込んだのは、きっとあの二人なのだろう。感謝してもし足りない。
台本を閉じ、彼の部屋に向かう。元の場所に返しておかなければ、秘密を知ったと気付かれてしまうかもしれない。もう少しだけ、内緒にしておこう。
「よろしくね、お父さん」「世話になるよ、お父さん」
貴方を父と呼ぶために。
単行本の表紙裏程度のおまけ
手を引かれるままに歩く。
こうしていると、家で留守を任せている犬みたいなアイツを思い出すけれど、今、ウェンデルの手を握っているのは彼の手ではない。彼よりもずっと小さく、細く、女性特有の丸みと柔らかさを帯びた手。
揺れる蒼い髪を視線で追いながら、何処へ続くかも分からない道を延々と歩き続ける。
「おいっ…!! おい、どこへ連れて行こうってんだよ……!!」
苛立ちを隠せない少女特有の声が響く。
「さあ、何処かなぁ?」
それに答える声もまた、少女特有の幼さを持っていた。
「まあ、何処でもいいんじゃない…? げほっ」
「貴方はちょっと反省しましょうねー」
引きずられる肉袋同然の男が口を開けば、間髪入れずに叩き込まれる蹴り。容赦が無いなと、それら全てを何処か遠い世界で起きている出来事のように、ぼんやりとウェンデルは眺めていた。
――――遠くで泣き声が聞こえた。
「……?」
「ウェンデルー…? どうしたの?」
「……なんでも、ない。きっと気のせいだ」
「そう」
何かが聞こえた気がしたけれど、此処には自分達以外の存在はない。気のせいだ、と結論づけてウェンデルは歩き続ける。
それにしても気が滅入るような空間だった。
四方八方、黒一色で塗りつぶされている。けれどそれは暗さからもたらされる黒ではない。互いの姿は、はっきりと視認できる。だから壁や床自体が元々黒いのだろう、とすぐに分かった。だがそれならそれで問題が在る。光源らしきものが見当たらないのに、どうしてこんなにも此処は明るいのだろうか。
答えの出ることはないだろう疑問に思考を割きながら、ただ黙々と歩く。そうでもしないと、本当に暇で暇で、仕方がない。
「そろそろかなぁ?」
蒼い彼女の呟き。
「何が?」
問う言葉に、彼女が振り返る。
「折角だから、家族ごっこ、やり直そう」
浮かべた笑顔は無邪気そのもの。それでいて抗えない響きを持っている。そう、抗えない。抗おうという意志すら起きない。自然と首が縦に―――・・・・
――――近くで諦めたような溜息が聞こえた。
* * *
「ただいま、ヘンリー」
「うわぁああぁん!! 馬鹿テオーーー!! 遅いんだよぉおぉ!!」
「ちょっ、待て待て待てっ!?」
――――A(はじめ)に戻ってやり直し。
悲鳴が、そこら中に響き渡っていた。鼓膜を突き破らんばかりに響き渡るそれらに珍しく顔を不愉快そうに歪めたまま、血肉で彩られたリノリウムの床を踏みしめる。靴音が響く代わりに、にちゃりと湿った音が足の裏で鳴った。不快。
大好きな血と肉で構成された世界。彩られた建物。どれもこれも大好きなものの筈だ。弱者を踏みしめ虐げる側へと変われた己を何よりも感じられる筈の瞬間。
それが、これほどの不快感を伴ったのは、今回が初めてだった。
「た、…ず け――――」
「………」
最後まで聞かずに額を撃ち抜く。命乞いなんて見苦しいと込み上げる忌々しさ。何もかも。この場所を構成する全てが忌々しくて仕方がない。嫌な記憶を掘り起こされる場所。彼――――いいや、彼女が心を切り刻まれた場所。
――――もしアレを彼女に聞かせていたら、果たしてどうなっていたのだろうか。
考えるまでもなく、リュラ・ブラックウェルに対するあの態度が、きっと一番答えに近いものだということは分かりきっていた。
リュラ・ブラックウェル。
ただ、そこに存在するだけで彼女を傷付けるもの。
友達ができた、と彼女から聞いた時は驚いた。同時に少し寂しくもあった。独占欲と呼ぶほどに強いものではないにせよ、彼女との関係について正しく認識するまでは彼女を唯一無二の友人(親友、と表しても過言では無い)と思っていたから。それでも、祝福するつもりではあったのだ。似たような境遇に置かれていた者同士であったからこそ、確かに通じるもの、分かることがあったから。
けれど、今はそんな気持ちは微塵もない。
知ってしまったから。彼女の気持ちを。その全てとまではいかないまでも。
確かに感じる友情と相反するように存在するコンプレックスを、嫉妬を……恐怖を。
「…………何も知ろうとすらしねぇで…何が友達だ」
衝動に任せて引き金を引く。響く銃声に少し気は晴れるかとも思ったが、頭の中で響くあの女の声はいつまでもこびり付いて取れはしない。
――――…パス、さらに酷い状態…。このままだとすぐ死んじゃうよ…。
銃声、悲鳴、断末魔、飛び散る血肉、靴底を通して伝わる不快な音と感触。
――――…なんで? ルス君。なんでパスこんな状態になってるの…?
悲鳴悲鳴悲鳴銃声断末魔銃声銃声血肉音音音。
――――……ああ、なるほど。不意打ちされて守れなかったんだ…。
「……うるせぇよ…」
ああ、そうだ。不意打ちされて守れなかった。不意打ち、だなんて言い訳だ。結局守れなかった事実だけがそこに残っている。あれほど守ると決意を固めて、決して傍から離さないように、零れ落ちないようにと腕の中、抱き留めていたのに。
人の命は重かった。自分が思っているよりも、ずっとずっと。
ケントゥリアだったら、この程度じゃ死なないのに。前のパスだったら、この程度じゃ死ななかったのに。
自己嫌悪と共に巡った非難にも似た甘え。我ながら、酷い奴だと思った。けれど、仕方がないじゃないか。何万年と"その程度じゃ死なないことが当たり前の世界"で生きてきたのだ。
今更のように知らしめられた命の価値は、あまりにも重かった。
――――違うよ。だったらなんで死にもの狂いでパスのこと助けようとしないの…?
引き金を引く指に力が籠もる。
――――なんで戦ってるの? パスの治療は無駄だからしないの…?
違う、無駄だからじゃない。
……壊すことと殺すことはできても、この両手は、あの場でパスを治してやることだけはできなかったからだ。自分にできることではなかったからだ。
できなかった、からだ。
――――そう、だから戦って、余計パスに負担かけるの…?
そんなつもりじゃなかった。
ともかく、何が何でもあの場を切り抜けなければいけないと、必死だった。切り抜けた先に何があるのか分からないし、彼女が助かる保証があるかどうかさえ分からなかった。それでも、そのまま逃げても無駄だということは、不意打ちを受けてしまったことからも明白だった。
――――…手負いのパス連れて戦っても、ルス君は逃げるよりそっちの方が勝率高い…?
「…そうじゃねぇっつってんだろうが……!!」
吠えるような呻き声を零して歯がみする。逃げ惑っていた最後の一人が死んだ。
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえる。誰か通報したんだろう。通報されて当然のことをしたわけだから、仕方の無いことだが。
「…………」
愛銃に再び弾を込めつつ、"門"を開く。と言っても、彼女の待つ家へ帰る為の"門"ではない。まだ、やり残したことがある。
「……ちったぁ手応えがあるといいんだけどなぁ」
鳴り止まない声に顔を顰めながら一歩、足を踏み入れる。"門"の向こうへ。血肉に染まった校舎から、古き良き日本とやらを感じさせてくれる木造のだだっ広い邸内へ。
「な、なんだっ、貴様…!?」
「さっ、」
戸惑いざわめく愚か者共を見下ろしながら、赤黒く染まった獅子-Ruslan-は嗤う。
「遊ぼうぜ?」
引き金が引かれ、銃声が響き、悲鳴と断末魔が轟いた。
* * *
「日本の分家は壊滅したようです。一つ残らず」
「ああ、知ってる。というか、まあ事の顛末は見守っていたからね。こうなることは予想済みさ」
燃え尽きて黒く炭化し、土地だけを遺してほぼ跡形も無くなった屋敷をぼんやりと眺める。果たしてこの屋敷には、どれほどの人間がいただろうか。全員を把握していたわけではないが、それでも優に50は超える。
不思議と、何の感慨も湧かなかった。
分家を自身が快く思っていなかったから、というわけではない。それならそれで、あの赤い青年に対して感謝の一つくらい沸きそうなものだから。
多分、自分は本当に分家に対して何の執着もなかったのだろう。たった、それだけのこと。
「如何します? 追っ手を放ちましょうか?」
「やめておくといい。何人放とうが何を放とうが、結果は同じだろう」
神に連なるものの加護を受けた不死者に立ち向かえるだけのものなぞ、手元にあるわけがない。
「それよりも、本家に連絡を」
「畏まりました」
淡々とした、極めて事務的なやり取りを終えると同時に部下の姿がかき消える。本家に早速連絡を入れに行ったのだろう。相変わらず仕事……いや、行動の早いこと。
「…さ、て……今日から宿無しか。いや、元からだが……次は何処へ旅に行こうかな」
コートの襟で口元を隠し、長い黒髪を揺らしながら一歩、黒飢偽㐂と名乗っていた青年――――黒飢咎は歩き始める。
「あー……そういや学校も潰されたんだったか……いやはや、職まで無くしてしまうとは私もツイていないなぁ。って、元からか」
くっ、と喉奥で笑いながら静まりかえった街の中を行く。駅へ向かう道すがら立ち寄ったコンビニで、新聞を一部購入した。そのまま店を出て、一面の記事に目を通す。
学校での乱射および生徒教師大量虐殺事件に加え、黒飢家襲撃事件。犯人は不明。犯行に使われたと思しき銃器類は発見されていないが、現場に残されていた弾丸等から恐らく同一犯または複数人による共犯の可能性が高い。しかし、これだけの大惨事でありながら目撃証言もゼロ。
連日連夜新聞を賑わすニュースは、一時的に世間からの強い関心を集めているが、時代の流れに乗っ取って記憶から薄れ、消えてくだろう。
新聞を捲りながら、まあ永遠に犯人は捕まらんだろうなぁ、と独りごちる。
不意に、一つの記事が目に飛び込んだ。
「…………」
小さく口元が歪んだ。
「ああ、可哀想に」
哀れみを込めた言葉は、しかし口元に乗せられた歪んだ笑みによってその意味を逆転させる。
それはとある女性の死亡記事。大量虐殺事件が世間の注目を集めすぎて、端に追いやられてしまっている、事件性を比較すれば実に些細なもの。しかし人命という意味では両者に大小などなく、等しく痛ましい事件であろう、それ。
「君が最後の一人だったのにねぇ」
よもや想いもしなかっただろう、本人"たち"も。
たった一人の青年をかつて虐げた、その過去が、今になって自身の命を奪う牙になろうとは。
微睡みから緩やかに意識が引きずり出され、ゆっくりと覚醒する。真っ先に視界に映ったのは、見慣れたマンションの天井。数度瞬きを繰り返し、ずっとずっと、帰ってきたかったこの場所に漸く帰って来られたのだという現実を頭が理解する。途端に涙腺が緩んで、視界が歪――――む筈だったのだけれど。
不思議なくらい、何の感慨も湧かない自分がいた。
何も思えない、思わない。ずっと此処に帰ってきたかったのに。だから、あんなことをしたのに。心は不思議なほど空っぽで、帰って来れたことを嬉しいと欠片も思わない。涙も出て来ない。そして何より、そう思えない自分自身にさえ、何も思えなかった。
不自然なくらい空っぽの心。少し、心当たりがある。
「…………」
上手く回らない頭に指示を飛ばし、のろのろと起き上がる。身体が重い気がした。
寝かしつけられていたソファから起きれば、ずるり、と滑り落ちるパーカー。ルスランの物だ。ソファの上から手を伸ばして掴み、たぐり寄せる。自分の体温で生温くなっているそれに顔を押しつけるように頬ずりをすれば、薫る彼の残り香。ほんの少し沸き起こる、寂しいという感情。空っぽの心に浮かんだ気持ち。
パーカーを抱きしめたまま、暫しぼんやりと微睡みの余韻に浸ろうとした。
「おはよう」
その余韻を打ち破るように響いた、凛とした声に自然と意識が叩き起こされる。寝起きに冷水を被せられたのに似ている。あくまで例えであって、実際に冷水を被せられたわけでもなければ、その寝覚めが悪いもの、と言うわけでもなかったのだが。
「意識が覚醒してから起き上がるまでに優に5分弱。元々の君の生活リズム等にも依るだろうが……なるほど、ルスランが傍にいなければ自分で行う行為や活動にはこれくらいのラグが生じるのか」
淡々とした語り口。視線を向ければ、射貫かれるような鮮烈な青と視線がかち合う。
「…………。……おはようございます……?」
「ああ。……もう少し改善の余地があるだろうか。少なくとも僕の傍に居るときも、ルスランほどではないにせよ、ある程度、ラグが緩和されるようにしなくてはとてもじゃないけれど――――」
ぶつぶつと小さな唇から零れ落ちる言葉がどんな意味を持っているのか、考えるのも億劫だ。
重たい頭を動かし、ぐるり、と室内を見渡す。腕の中のパーカーの持ち主は、此処にはいないようだった。彼の小さな主は部屋に設えられたガラスのテーブルの前、クッションを椅子代わりに行儀良く読書に勤しんでいたらしい。
「今後からは君の主でもあるけれどね」
心の内を読み取られる。
暫し、その言葉を咀嚼。
理解。
「……そうでしたね」
「………本当にそれはどうにかしないと、従者としてはルスランが揃わなくては使い物にならなそうだね」
表情自体は大して変わらずとも、その言葉から滲み出る呆れを汲み取れないほど愚鈍ではない。ともかく回らない頭で何故呆れられているのか考える。
再び黙考。現状を解析。推測。
そこまでして、考えずとも解答が直ぐ傍に転がっていたことに気が付く。
恐ろしいまでに、自身の反応速度が鈍っている。寝起きのせいかと思って片付けていたのだが、どうやら違うらしい。眠気は完全に打ち払われたというのに、頭は霞がかっているかのようにぼんやりとしていて、何か一つのことを考えるにしても普段以上の時間を要する。単純なこと一つ、考えることさえ数分要る。
この症状には一つ、覚えがあった。
「………自我次元との接触強度が弱まってる……?」
「正確にはルスランとの接触強度だけれどもね」
「……ルスとの…?」
「そう、ルスランとの。………少し弄り回しすぎたかな、記憶も飛んでいるようだね」
「…………」
回らない頭で記憶を辿ってみる。一体自分に何があったのだろうか。一度、死んだのは覚えている(正確には二度目の完全な死を迎えた)。それから蘇生してもらったのも。その後………そう、もう少し調整が必要だと言われたのだ。
あの時は蘇生を済ませただけで、自分が抱えている問題については何一つ解決していなかったのだ。問題――――旧人類の誰もが持ち合わせている"過剰成長"。措置をするからと寝かせられ、心配そうなルスランの顔を最後に意識が途切れて、どれくらい時間が経っているのだろうか。
「一週間くらいかな」
「………はぇ……」
さらりと告げられた時間に、ぽかん、と開いた口が塞がらない。
「だから言っただろう。少し弄り回しすぎたかな、と」
先程の言葉にはそういう意味もあったらしい。会話の流れからそこまでの意図は汲み取れなかった。
「今暫く眠るといい。どうせルスランは、まだ帰って来ない。……眠っている間にもう少し調整しておくよ」
「…………」
言われると同時に遅れて再び眠気がやってくる。
何かされたのか、それとも純粋に自分の身体が疲弊しているのか、単に寝足りないだけなのか。一週間も寝て寝足りないだなんてことはあり得なさそうだが。ただ、言葉に促されるまま、意識は再び微睡みの水底へと引きずり落とされて行く。
「そういえば、」
「……………?」
「苺の花言葉には"幸福な家庭"や、"あなたは私を喜ばせる"なんて意味があるそうだ。最も、彼がそこまで考えていたとは思えないけれどね」
思い出したかのように新たな主はそう語る。何か答える前に、ぶつり、と意識が途切れ、
そして、夢を見た。
* * *
「!!!」
がばりと勢い良く身体を起こす。
じっとりと全身が汗ばみ、呼吸が荒い。とてもとても、嫌な夢を見たような気がする。ざわざわと背筋を這い上り、全身を包む嫌な感覚。
どんな夢を見たのか、全く思い出せない。けれども嫌な夢だった。
どうにか呼吸を整えようとしてみるが、上手く息ができない。水の底で必死に酸素を求めているかのような錯覚。内側から迫り上がってくる嫌悪と恐怖と嫉妬と……ああ、きっと、"あの夢"を見たのだと、漸く答えを得る。
ずっとずっと、そう、"それ"を徹底して身に染み込まされたときから見続けている、夢がある。彼と一緒にいる時は全く見なかったから、今まで忘れていたのだ。
「………るすー…」
急に不安が込み上げてきて、精神が不安定になる。上手く感情の舵取りができない。
「お、起きたか寝坊す…け……って、何泣きそうな顔してんだっ…!? ど、どっかまだ痛むのか…?!」
「…ふぇ………」
キッチンから顔を覗かせたルスランが、慌てたように駈け寄ってきた。いつものように……いや、いつもよりも、酷く心配そうな、何処か、泣きそうにも見える顔で。
のろのろと頭部の重みで血管が圧迫されていたせいで痺れる両腕を上げて虚空へ伸ばす。
壊れ物を扱うような丁寧さで、それでいて決して離しはしないと言うように、抱きしめられる。ぎゅっと、両腕をその背に回した。
「……るすー……るすー…」
寝起きの舌っ足らずな言葉で、ただそれだけを呟く。まるでそれ以外の言葉を忘れてしまったかのようだ、と頭の片隅、僅かばかり冷静な自分が苦笑する。本当にそうだったらいいのに、と思った。同時に、それは困る、とも思った。
「どうした、泣き虫リャーナ」
「………りゃーな?」
「……。……名前、ほら……なんか、思い出せねぇ、とか言ってただろ」
「…うん……」
「…パスは、ニックネームっつーか、ハンドルネームみたいなもん、っつってたし……だから…その、ほら、あれだよ! な、名前…!!」
何処か上擦った声で早口にまくし立てるルスランの言葉をゆっくり咀嚼する。
リャーナ。
彼が決めてくれたらしい、名前。何だかとても、しっくりくる。それが最初から自分の名前であったかのように。
「…………まあ、リャーナって…愛称みたいなもんで……正しくはゼムリャニーカ…って名前、だけど」
「…ぜむ…? ……ロシア?」
「…おう。……あ、や、やっぱり嫌か…? 日本っぽい名前の方が…」
「……ううん…嬉しい」
本当に嬉しい。自分の祖国も、もう思い出せない自分の名前も、大嫌いだったから。とてもとても。思い出せないその名前が、大嫌いだった。その理由ももう、思い出せないのだけれど。
「…意味とか、あるのー…?」
「………あー……」
何だかとても言いにくそうな顔をされる。
そういう顔をされると、余計気になってしまうというもので。
「……ルスー…?」
「………いちご」
「ふみゅ?」
「だ、だから…苺……」
「……苺? ………なんか美味しそうな名前ー」
「う………わ、悪かったな、センスなくって……」
「…なんで苺ー?」
「………前に…ほら……髪、赤くしてみたい、っつってたろ? …俺の色、いいな、とか…なんとか……ほら」
自分の髪を一房摘みながら、ルスランがぼそぼそと言う。パシフィスタ……改め、リャーナの髪のことは人一倍気にする割に、自分の髪のケアは随分と適当で、所々跳ねているし、枝毛もちらりほらり。触れたその髪がごわついているのも、知っている。けどリャーナはその髪が好きで―――いや、それはまた別の話だ。
そういえばそんなことも言ったな、とリャーナが頷くと、ルスランが続けた。
「…俺はお前の髪、好きだし…染めたりとかしてほしくないっていうか…綺麗って思ってる、から……その、そのままでいてほしいんだけど、さ……。……髪は無理でも、その…ほら…名前くらいならそういうのに因んでもいいかなって」
「…………ルスって…」
「…なんだよ」
「そういうとこ、かわいいよね」
「…どういう意味だよ、そりゃ」
不機嫌そう(といっても形だけ)な顔をする彼に抱きついて、髪を撫でる。何も変わっていない、変わらない。確かなものを感じて、嬉しくなる。
「えへへ……ありがとう、ルスー」
「……おう」
「…大事にするね、名前」
「ん…。……それに…リャーナの名前って考えたら……」
「……考えたら?」
「…………赤も、ちったぁ好きになれる………気がする」
「好きになれなくても私が好きだから大丈夫だよ。ルスの赤」
「…リャーナの癖に生意気な」
「どういう意味、それー…」
視線がかち合い見つめ合うこと数秒。どちらからともなく、笑いが零れた。
どこか、ぎこちなかった空気がほぐれて穏やかな空気に変わっていく。そのことが、堪らなく嬉しい。帰って来られたのだと、そう、心の底から思えるから。
あのね、ルス。お願いがあるの。
私の知らないところで変わらないで。
私以外の誰かの為に変わらないで。
私以外の誰かに変えられないで。
変わるなら、変わるのなら。
変わってしまうのなら。
私のせいで全部変わってしまって。
胸の内側、どろりと濁り淀んだ何かが、ずくりとした痛みと共にその存在を訴えた。
「君も実に大胆なことをするね」
「そうか?」
「ああ。無茶、無謀、無理、と言っても差し支え無いレベルだった。今回の件については」
「……そう言われるとぐうの音も出ないな」
静かな店内。店の出入り口には「CLOSE」の掛札。このところ臨時休店が多いな、と一瞬考えたが、元からそうだったか、と思い直す。
湯気と香りを立てる二人分の白磁のティーカップと、綺麗に皿の上に並べられたクッキー。どちらも、まだ手はつけられていない。
「もう少しマシな方法は思いつかなかったのかい」
「あれ以上の手立てが私の手の内にあったとでも思うのかい? ……君と違って私はそれほどの権力も力も持ち合わせてはいないんだよ。単に人と比較した時に強い、というだけでね」
少しばかり唇をとがらせ、視線を膝の上の彼女(いや、今は中身-人格-に合わせて彼と言うべきか)から床の上に落とす。
強引だったことは自覚している。
寄せ集めの素人集団を戦地の只中に投げ込んだも同然だろう、端から見れば。だがアルモニアが信頼でき、そして、あの絶望的な状況の中でも前へ進む力を持っていると思ったからこそ、彼らに託したのだ。……彼らが死ぬかもしれなかったことを、理解しつつも。
「まあ、そうだね。君は神の端くれですらない……が、別に神になりたいわけでもないだろう?」
「神になりたいとは思わないが…もう少し力があれば、と願うことはあるさ。私にだって」
「そうかい。……やはり、君は人でないにも関わらず、人間味に溢れているな」
「そうか…?」
「人間のような君だから、あんな連中が集まるんだろうさ」
あんな、と言われると何だか碌でもない連中が集まったかのようにも聞こえる。
だが、ケントゥリアは決して悪気や悪意からそんな表現をしたわけではないことは、心得ていた。彼女なりに彼らを褒めているのだ。誰かに知られることも、褒め称えられることも決して無いのに、世界を救ってみせた彼らを。
「問題は山積みだったが、最終的に君の求めることは成し遂げて見せた。十分過ぎる程の働きだと僕は評価するよ。僕ではこの問題を解決することは恐らく出来なかっただろうからね」
「お前でもか?」
「僕だから、だよ。神…とは少し違うかもしれないが、そうであっても出来ない事だってあるのさ。人が思うほど万能じゃない。ただ、人が出来ない事が多少出来るに過ぎない。一方で、神に出来ず人に出来ることもあるのは事実だ」
淡々と、まるで参考書から文章を抜粋するが如く淀みなくケントゥリアは語る。それが事実であれ、彼女の持論であれ、酷く正しく思えるのは、きっと己の中でそれを正しいと思えるだけのものが刻まれたからだろう。……今回の一件を経て。
「それはそうと……パシフィスタは大丈夫だったのか?」
「大丈夫ではないね。彼女も彼女で、問題が山積みだ。一つ一つ解決していくつもり…だけど……」
「だけど?」
「………旧人類、というだけでも興味深い存在ではあるからね。僕の中の好奇心旺盛な連中が口だそうと躍起になっているんだよ」
「ああ…なるほど…」
「ルスランのこともあるから、下手に弄るなと牽制してはいるけど……まあ2、3個くらいは妙なオプションがついてしまうかもしれないね」
「……そうか」
自分が拾い、都合良く使い、そして最後の最後で見捨ててしまった彼女を思う。
人でありながら誰とも相容れることなく、ただ利用されるだけ利用され、人としての生涯を閉じ……そして、今度は自分に利用され、2度目の生涯を閉じた。彼女の3度目の生は、もっと祝福されたものであって欲しいと願うのは、あまりにも自分勝手すぎるだろう。それでも、願い、祈らずにはいられない。
出来ることならば見捨てたくなどなかった。
渦巻く後悔に、時折喉が塞がれる。
それでも自分は選ばなくてはならない立場にあった。選ばなければ、どちらも結局得られはしなかったのだ。だから……今の自分を創り上げてくれた、蒼い狼を選んだ。
「その選択を人は非難するかもしれないが、むしろ僕は、懸命であったと思うよ」
「……どの辺が?」
「仮に君が彼女を選んでいたとしても、彼女自身が抱える問題自体はどうにもならなかった。多くの者を巻き込む結果にはなっても、彼女の抱える問題を解決する、良い切っ掛けになったじゃないか」
「…だとしても……心はそう簡単に癒えないだろう?」
「癒えないだろうね。消せない傷は刻まれる。……僕は彼女を治療する為、その心に触れたが……あんな人間は初めて見たよ」
あの子の心に触れたのはケントゥリアと……そして今はルスランの二人だけだろう。アルモニアに彼女の心を知る術は無い。それでも、ケントゥリアの言わんとしていることは伝わっていた。
それはきっと、本質的にあの従者と己が似ていたからこそ、気がつけたことなのだろう。そう思うと、自嘲の笑みが零れ落ちる。
「安心するといい。君と彼女ではどれほど似ていようと根本的な種族と、それによって培われてきたものが違う」
「…今はほぼ同族のようなものじゃないか?」
「子供の中身が幼少期の環境と育ち方で決まるように、種としての根本的な部分はどれほど抗おうと変える事はできない。何処迄行っても彼女には…そしてルスランには、元人間としての部分が残っている。そしてそれが互いに響き合ったからこその二人の今の関係なのだろうさ。……とはいえ、僕に銃口を向けてくるレベルとは思わなかったけれど」
最後の言葉は悪態のつもりなのか。鼻を鳴らしてみせるケントゥリアの頭を、アルモニアは2度3度、優しく撫でる。
「……まあ、」
「ん?」
「どんな結末であれ……このお話はめでたしめでたし、ということで、良いんじゃないかい。問題はやはり山積みだけれどもね」
「……ああ、そうだな」
彼らは誰一人欠けることなく現実に戻って来た。世界中の誰も知らないところで、密やかに世界を救いながら。
そうして各々の現実……日常へと帰っていく。
解決出来ていない問題は山積みだ。けれども世界が続く限り、その問題と向き合うことも、逃げることも、出来る。人類の選択権は失われることなく、残り、続いている。
時間の流れが、あるいは誰かが、積み重なった問題を一つずつ解決に導いて行くだろう。それが、どんな結末であれ。
………少なくとも、この物語の結末は、
「ハッピーエンド、ということで」
「そうだね」
「彼らは、帰ったのですね」
静かな声で、主はぽつりと呟いた。
「……はい」
「ヴォルフガングの計画は、阻止出来たのですか?」
「……はい」
「そう」
それっきり、会話が途絶える。静かな部屋の中、薔薇の香りが切なくも芳しい。噎せ返りそうな薔薇の匂いに混じって薫る紅茶と……ほんの僅かな腐敗臭。
「カルラ様、また……」
「いいの」
動こうとしたイツミを、カルラが制した。
「いいのよ、イツミ。これでいいの」
憑き物が落ちたかのように、凄みの抜けたカルラの表情はとても穏やかだ。ベッドの上で、ただ安寧とした死の眠りを待つ老婆のような穏やかさが、そこにあった。
イツミは悟る。
彼女は此処を死に場所とするつもりなのだと。死ぬ事は出来ない魂を抱え、朽ちて逝く肉体に閉じ込められたまま、ただ一人。永遠とも呼べる時間を、終ぞ帰ることはなかった彼女の主人を想いながら。
「カルラ様、」
「思えば、」
「…………」
「……思えば、貴方にも随分と酷いことをしてしまったわね、イツミ」
「そんなことは…」
そんなことはない、と。
そう言おうとしても、続く言葉は出て来なかった。カルラの自分に対する扱いを嘆く自分が、心の何処かにいたからだ。
――――双子なのに。妹なのに。どうして私を見てくれないの、お姉ちゃん。
何度も口をついて出かけた叫びを、その度に無理矢理喉奥へと押し込めて、ただ淡々と。言われるがまま、人形のように。それが一番楽な生き方だったからだ。何も考えず、淡々と言われたことをする。自己を抑圧することに最初は苦痛を覚えもしたが、慣れれば何の問題もなかった。
目まぐるしく頭を回すことはない。言われたことを如何に実行するかだけに集中していればいい。
さながら、イツミはカルラのマリオネットだったのだ。動ける身体、人間としての可能性を捨てて、ゼペットに操られる人生を選んだピノッキオ。
とても惨めに思えた。
「だからね、イツミ」
「はい……」
「これからは、自分の思う様に、生きなさい」
「………え…?」
「今まで尽くしてくれた貴方に、とても酷いことを言うけれど……私の為に朽ちる選択をしないで欲しいの。今まで、貴方の人生をメチャクチャにしてしまった分……これからは、貴方の為に、生きて欲しい」
「……それ、は…」
何故、今更、だなんて。
それこそ無意味な問いだ。単にカルラの中で全てが終わってしまったからだろう。イツミはもう、カルラにとって不要なものなのだ。
主を救うための手脚を欲したカルラの為に、イツミが居た。だがその主を救う手立ては……少なくともカルラにとっては、半永久的に失われたに等しい。誰かの手を借りなければ此処から出る事すら叶わない身で主を乗っ取ったヴォルフガングを追い続けることなど、出来る筈もなかった。
「ごめんなさいね、最期まで、酷い――――姉で…」
「……ぁ…」
「…気がついていたわ、本当は、貴方が、誰なのか……」
狡い。狡いよ。
言いたいのに、言葉が出ない。いつもなら淡々と、感情に飲みこまれることなく言葉を紡げるのに。忘れかけていた心を取り戻したせいなのだろうか。干からびてしまった種に、彼らが水をくれたせいだろうか。
言葉の代わりに、何百年振りかの涙が溢れてこぼれた。
「好きな人…出来たのでしょう? ……行ってきなさい、イツミ。…最期の……お願いよ。姉として」
* * *
城を出て、久方ぶりに出た外はすっかり様変わりしていた。それもその筈だ。何せ、本来自分は何百年も前の人間なのだから。
給仕服を終ぞ脱ぐことはできなかった。それ以外の服を持ち合わせてはいなかったし、何だかんだでこの格好が一番落ち着くからだ。それに、こちらの方があの人も直ぐに気が付いてくれるだろうと、ほんの僅かばかりの期待。
胸の内から込み上げるその感情には、どんな名が似合うだろうか。
「……あれ…君は……」
「……?」
掛けられた声に、振り返る。
深い青と、目が合った。
存外、再会の時はそんなに遠くないかもしれない。偶然か必然か、どうであれ、此処でグルナド-彼-と鉢合わせた幸運に、イツミは感謝した。
「全く、性格悪いわよね。君に言われたくはないよ。それ、どういう意味ー!? そのままの意味だ、とだけ」
一つの口から二人分の声が代わる代わる、交互に紡がれる。成り立つ会話は、自分について知らない人間から見れば頭の可笑しい人間か、あるいは単なる独り言にしか見えないだろう。それでいい。
「ルー君にはちゃんと説明したの? したじゃないか。君も聞いていただろう? 大事な部分は説明してないじゃないの、それ。大事な部分とは? 態とらしいわね。まあアタシとしてはどっちでもいいんだけど? うふふ」
理知的であるが冷たさを感じさせる顔と、心の底から"あらゆるもの"を楽しむ悪戯心に富んだ少女の顔。代わる代わる、仮面を付け替えるように。
くる、くる、くる、くる。目まぐるしく。
「結局、君だって楽しんでいるんじゃないか。だってだって、ほら!! ルー君がまさかアタシ…っていうか"ケントゥリア"に銃を向けるだなんて!! お母さん、我が子の成長が嬉しいわ。成長と言うのかい、あれは。"ケントゥリア"以外に大切にできるものが作れたのは成長でいいんじゃない? ルスラン自身が成長したというよりも、ルスランの特別に入り込めたゼムリャニーカという存在が異質であると捉えるべきだと思うんだが。リャナたんも凄いわよね、ルー君ってば結構変わったんじゃないの? あの子と逢って。変わったのか、それとも喪失したものを再び得たからそう見えるだけか。まあどちらでも結局は同じことなんだけれど。自己完結するくらいなら言わないでよ、話に割り込めないじゃないのー! 割り込まなくて結構だ。もう一生黙っていてくれてもいいよ。アタシ達の一生ってほぼ永遠じゃないのー!! 嫌よ〜!! ダーリンとももっともっとお話しするんだからぁ!! ああ、もう…君は本当に落ち着きがないというか、五月蠅いというか…。なんですってー!?」
彼女とはここの所、こういう言い合いしかしていない気がする。その話題の中心はルスランではなく、大体は今、奥で彼女の為のダイエット向けスイーツとやらを作っている彼なわけだが。
どうやら二人で言い争っている間、表に出ていた食欲の塊が暴飲暴食の限りを尽くしたようで、言われてみればいつも以上に身体が重く感じられる。
基本的に有事でもなければ動こうという気があまり起きないし、体重なんてどうにかしようがあるから、あまり気にならないのだけれど。
「それで結局、リャナたんってどうなっちゃったわけ? 一先ずもう少し調整を加えてみたところだから、暫くは様子見だね。ふうん? 君達がもう少し大人しくしていてくれれば、こんなに時間が掛からず済んだのだけれど。えー? だってだって、新しいもう一人の従者よ? やっぱりほら、従者をカスタマイズするならちょーっとは自分好みにしてみたくなぁい? ならない。使えるかどうかで十分だろう、その辺は。んもーっ、ほんっとそういうことに対する理解が足りないわねぇ」
やれやれ、と言いたげに肩をすくめられる。その辺りは否定ができないので、特に何の反論も浮かばない。
「一先ずは、ルスランが傍にいなくてもある程度動けるようにする必要性があったからその辺を中心に。ルー君無くしてどうやって動かすの? 結局のところ確固とした自我を発生させることができないからこその反応速度の鈍さだったから、確固たる自我を持たせる必要があったんだ。彼女固有の自我を切り離さなくては旧人類としての問題の一つは解決できなかったからね。そこで、彼女の心に一番近いところにあったルスランと、そしてあの旧人類の精神が持っていた"糸"を使うことで、ルスラン経由で自我を発生させ―――― あーっ!! 長い長いっ!! もっと分かりやすく!! ……はあ。要するに、自我次元をインターネット、自我をインターネット上に作られた彼女個人のサーバー…ホームページでもいいか…、彼女をコンピュータだとするなら、今までは旧人類達が繋がっていた自我次元というインターネットに有線でアクセスしてホームページを編集していたんだ。けれどそれだと問題が在るから、線を引っこ抜いて代わりに無線を取り付け、アクセス先をルスランという別のインターネットにして、そっちに新しくページを作った。……って言えば分かる? 何となく? あ、そう。…で、無線接続だから距離が離れれば当然、接続も弱まる。かといって他のところにアクセスできる設定はされていないし、そもそもルスラン以上の適役がいないから、その辺はどうしようもないということだ。ああ、なるほどなるほど!! ……あ、そういえば、自我次元論だったかしら? あれってホントの所、どうなの? あれも一つの正答ではあるだろうね。アザトースとの接触により自我を発生させている、というのはあながち間違いでは無いし、この世がアザトースの夢であるという事実の"一つ"とも繋がっている。けれども同時に"全く別の"事実も混在し、矛盾に塗れたこの世界だ。あくまでも一つの答えでしかない。国語みたいなものかしら。まあ、そうだね。答えは無限にあり、そのいずれもが正しい。ただ彼女に適応されている答えがそれであっただけのこと。だから上書きしたんだ。貴方の持つ答えに? その言い方は正しいが誤りでもあるね。正確には僕が持つ答えの一つに、だ。ふうん…で、結局のところは何をしたのよー? 見てたじゃないか。見てていまいちわからなかったから聞いてるのっ。君は実に馬鹿だな。なんですってー!? その言葉を聞くのは実に何度目だろうか……まあ、僕がやったことは実に単純だ。彼女の中で最も強い感情を発散させてやる形で自我を形成できるようにしたんだよ。ルスランが傍にいないことが条件だけれどもね。最も強い感情? 負の感情。痛烈で鮮烈で強烈で劣悪で最低で最悪で害悪で………周囲の人間によって形作られた彼女独自のものだよ。それに僕達の在り方を混ぜ合わせた。アタシ達の? 無数の魂が混在する、この在り方をね。ああ、なるほど。……で、そうするとどうなるの? ………少しは自分で考えたらどうだい、まったく。彼女が持つ固有の負の感情については…君も分かってるだろう? 女の子に対するコンプレックスでしょ? コンプレックスなんて可愛らしい表現で済まされるものじゃないけど…まあ、そうだね。人間全般が好きではないようだが、特に、"女性"という性に凄まじく過敏だ。愛憎入り交じってるなんてレベルじゃない。ルー君への愛がピュアピュア過ぎる分、すごく目立つわよねー。まあルー君、すっごい鈍感だから実際目の当たりにしないと永遠に気づかなそうだけど。気が付いたところで彼は気にしないどころか共感を抱くか、より一層彼女を大切にするかのどちらか…あるいは両方な気がするんだが……まあそれは置いておこう。ともかく、ある程度の条件付けをしつつそれを発散させる形で自我を自発的に作れるようにしたんだ。その辺りは多重人格の応用みたいなものも入る。多重人格って応用できるものだったかしら。他人に施す分にはいくらでも。あっそう。で、分かりやすく説明すると? ………。まず、彼女の捕食を通常の物体Xという種とは違うものにしたんだ。違うもの? 僕等と同じような感じだ。魂そのものまで捕食する。ああ、なるほど。そして捕食した魂を彼女の中で……彼女の言葉を借りるならば"更正"させる。もとい、いたぶる、と。平たく言えばそうだね。まあ、本人の中であってもいいし、形を与えてそういうことをして再度吸収する、なんて手もあるだろう。ともかく、それと同時に彼女の"過剰成長"のベクトルを対象に向ける。ふむふむ? そうすることで彼女自身が周囲に過剰成長をもたらすことがなくなるし、彼女自身もあれ以上の過剰成長はしなくなる。旧人類の過剰成長という特質そのものを消すことはできない故の措置だね。その方向でしか成長を出すことができないように弄ってもある。でもそれだと、結局捕食された側が過剰成長したままリャナたんの中に残っちゃうから意味ないんじゃないの? そうだね、そのままだったら結局同じことだが、そこで"更正"という概念が役立つ。彼女は"更正"させては"放棄"する、を繰り返してきた。つまり、"更正"し尽くした相手には興味をなくし、捨ててしまう。その"放棄"先……まあ悪く言うならゴミ箱を僕達に設定した。ゴミ箱じゃないわよアタシはー!! …知ってるよ、僕だってゴミ箱ではない。ただの例えだ。…ともかく、"更正"し尽くされた魂は僕達の方に譲渡され、人格そのものが潰えている魂は僕達の中でただ淘汰されるのみだから……後はわかるでしょ? あ、なるほどー、魔力の無限供給って奴ね! ああ。無限に彼女から魔力供給がされる。僕達は供給されるそれを有効に扱う。永久機関の完成だ。過剰成長してもそれを使うだけの自我が潰れてちゃ結局意味はないものねぇ。そう。これで問題は大体クリアできてる。そうね。でもまだ説明してないわよー、結局ルー君が傍にいないリャナたんの自我はどうなるの? 単純だよ、それは。"更正"によって発生する歪んだ悦楽や嫌悪、羨望……それらで自我を作り上げる。……それ、かなーり危ない性格にならない? どうだろうね。だからそれも含めて経過観察はまだ必要だ。…まあ、後は可能ならば万が一、僕達からルスランへの魔力供給が絶たれた場合も考えて、彼女から無限供給される魔力の受け渡し先の設定の一つにルスランも設定出来ればベストだね。そうねー、その場合、アタシ達ヤヴァヤヴァな状態の可能性があるものね。そういうことだ。僕達の保身の為にも……ルスランには悪いがもう少し彼女については手を加えるつもりだよ。大丈夫でしょ。ルー君の好きなリャナたんの本質が損なわれるわけじゃないんだし。まあ、そうだね」
流石に二人分の言葉を口に出すというのは喉が渇くというもので、そろそろ紅茶の一つでも欲しくなってくる。
そう思ったと同時に、目の前に結露した硝子のコップがことり、と置かれた。中身はよく冷えているココアのようだ。顔を上げれば、優しげな赤い瞳と視線がかち合った。
「珍しいな、二人揃ってるだなんて」
「そうかい? ダーリン〜♥」
二者二様の反応をしつつも、その感情は恐らく似たり寄ったりのもなのだろうな、と異なりながらも同一という存在であるが故に理解する。
ひょい、と軽々抱えられ、膝の上に座らされる。目線がその分だけ高くなるが、それでも彼と同じ目線には背が足りない。
――――彼にはどんな風景が見えているのだろうか?
同じ光景であっても全く捉え方や感じ方、見方が違うことを分かっているからこその疑問。血よりは薄く、ピンクというには濃い赤い瞳に映るものが、とても気になる。
――――いっそ、食べてしまおうか。
可能だろう、自分ならば。彼は神に近くはあるが神では無く、言葉は悪いが自分よりは下の存在だ。喰らおうと思えばきっと、欠片も残さず平らげることができる。
けれども、それではきっと意味が無い。
それをしてしまうと、撫でてくれる手がなくなってしまう。こうして膝に乗せられることも、何も言わずとも察して差し出される渇きを潤す飲物も。だから今はまだ、これでいい。ほんの些細な好奇心でそれらを手放すのは、あまりにも惜しく思えた。
「どうした、ケントゥリア?」
「なんでもない。気にしないでダーリン」
君を喰らう時。
それはこの好奇心が君とのささやかな日常を上回った時か、あるいは……別の誰かが、今の僕達を大きく上回った時だろう。
手を引かれるままに歩く。
こうしていると、家で留守を任せている犬みたいなアイツを思い出すけれど、今、ウェンデルの手を握っているのは彼の手ではない。彼よりもずっと小さく、細く、女性特有の丸みと柔らかさを帯びた手。
揺れる蒼い髪を視線で追いながら、何処へ続くかも分からない道を延々と歩き続ける。
「おいっ…!! おい、どこへ連れて行こうってんだよ……!!」
苛立ちを隠せない少女特有の声が響く。
「さあ、何処かなぁ?」
それに答える声もまた、少女特有の幼さを持っていた。
「まあ、何処でもいいんじゃない…? げほっ」
「貴方はちょっと反省しましょうねー」
引きずられる肉袋同然の男が口を開けば、間髪入れずに叩き込まれる蹴り。容赦が無いなと、それら全てを何処か遠い世界で起きている出来事のように、ぼんやりとウェンデルは眺めていた。
――――遠くで泣き声が聞こえた。
「……?」
「ウェンデルー…? どうしたの?」
「……なんでも、ない。きっと気のせいだ」
「そう」
何かが聞こえた気がしたけれど、此処には自分達以外の存在はない。気のせいだ、と結論づけてウェンデルは歩き続ける。
それにしても気が滅入るような空間だった。
四方八方、黒一色で塗りつぶされている。けれどそれは暗さからもたらされる黒ではない。互いの姿は、はっきりと視認できる。だから壁や床自体が元々黒いのだろう、とすぐに分かった。だがそれならそれで問題が在る。光源らしきものが見当たらないのに、どうしてこんなにも此処は明るいのだろうか。
答えの出ることはないだろう疑問に思考を割きながら、ただ黙々と歩く。そうでもしないと、本当に暇で暇で、仕方がない。
「そろそろかなぁ?」
蒼い彼女の呟き。
「何が?」
問う言葉に、彼女が振り返る。
「折角だから、家族ごっこ、やり直そう」
浮かべた笑顔は無邪気そのもの。それでいて抗えない響きを持っている。そう、抗えない。抗おうという意志すら起きない。自然と首が縦に―――・・・・
――――近くで諦めたような溜息が聞こえた。
* * *
「ただいま、ヘンリー」
「うわぁああぁん!! 馬鹿テオーーー!! 遅いんだよぉおぉ!!」
「ちょっ、待て待て待てっ!?」
――――A(はじめ)に戻ってやり直し。
悲鳴が、そこら中に響き渡っていた。鼓膜を突き破らんばかりに響き渡るそれらに珍しく顔を不愉快そうに歪めたまま、血肉で彩られたリノリウムの床を踏みしめる。靴音が響く代わりに、にちゃりと湿った音が足の裏で鳴った。不快。
大好きな血と肉で構成された世界。彩られた建物。どれもこれも大好きなものの筈だ。弱者を踏みしめ虐げる側へと変われた己を何よりも感じられる筈の瞬間。
それが、これほどの不快感を伴ったのは、今回が初めてだった。
「た、…ず け――――」
「………」
最後まで聞かずに額を撃ち抜く。命乞いなんて見苦しいと込み上げる忌々しさ。何もかも。この場所を構成する全てが忌々しくて仕方がない。嫌な記憶を掘り起こされる場所。彼――――いいや、彼女が心を切り刻まれた場所。
――――もしアレを彼女に聞かせていたら、果たしてどうなっていたのだろうか。
考えるまでもなく、リュラ・ブラックウェルに対するあの態度が、きっと一番答えに近いものだということは分かりきっていた。
リュラ・ブラックウェル。
ただ、そこに存在するだけで彼女を傷付けるもの。
友達ができた、と彼女から聞いた時は驚いた。同時に少し寂しくもあった。独占欲と呼ぶほどに強いものではないにせよ、彼女との関係について正しく認識するまでは彼女を唯一無二の友人(親友、と表しても過言では無い)と思っていたから。それでも、祝福するつもりではあったのだ。似たような境遇に置かれていた者同士であったからこそ、確かに通じるもの、分かることがあったから。
けれど、今はそんな気持ちは微塵もない。
知ってしまったから。彼女の気持ちを。その全てとまではいかないまでも。
確かに感じる友情と相反するように存在するコンプレックスを、嫉妬を……恐怖を。
「…………何も知ろうとすらしねぇで…何が友達だ」
衝動に任せて引き金を引く。響く銃声に少し気は晴れるかとも思ったが、頭の中で響くあの女の声はいつまでもこびり付いて取れはしない。
――――…パス、さらに酷い状態…。このままだとすぐ死んじゃうよ…。
銃声、悲鳴、断末魔、飛び散る血肉、靴底を通して伝わる不快な音と感触。
――――…なんで? ルス君。なんでパスこんな状態になってるの…?
悲鳴悲鳴悲鳴銃声断末魔銃声銃声血肉音音音。
――――……ああ、なるほど。不意打ちされて守れなかったんだ…。
「……うるせぇよ…」
ああ、そうだ。不意打ちされて守れなかった。不意打ち、だなんて言い訳だ。結局守れなかった事実だけがそこに残っている。あれほど守ると決意を固めて、決して傍から離さないように、零れ落ちないようにと腕の中、抱き留めていたのに。
人の命は重かった。自分が思っているよりも、ずっとずっと。
ケントゥリアだったら、この程度じゃ死なないのに。前のパスだったら、この程度じゃ死ななかったのに。
自己嫌悪と共に巡った非難にも似た甘え。我ながら、酷い奴だと思った。けれど、仕方がないじゃないか。何万年と"その程度じゃ死なないことが当たり前の世界"で生きてきたのだ。
今更のように知らしめられた命の価値は、あまりにも重かった。
――――違うよ。だったらなんで死にもの狂いでパスのこと助けようとしないの…?
引き金を引く指に力が籠もる。
――――なんで戦ってるの? パスの治療は無駄だからしないの…?
違う、無駄だからじゃない。
……壊すことと殺すことはできても、この両手は、あの場でパスを治してやることだけはできなかったからだ。自分にできることではなかったからだ。
できなかった、からだ。
――――そう、だから戦って、余計パスに負担かけるの…?
そんなつもりじゃなかった。
ともかく、何が何でもあの場を切り抜けなければいけないと、必死だった。切り抜けた先に何があるのか分からないし、彼女が助かる保証があるかどうかさえ分からなかった。それでも、そのまま逃げても無駄だということは、不意打ちを受けてしまったことからも明白だった。
――――…手負いのパス連れて戦っても、ルス君は逃げるよりそっちの方が勝率高い…?
「…そうじゃねぇっつってんだろうが……!!」
吠えるような呻き声を零して歯がみする。逃げ惑っていた最後の一人が死んだ。
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえる。誰か通報したんだろう。通報されて当然のことをしたわけだから、仕方の無いことだが。
「…………」
愛銃に再び弾を込めつつ、"門"を開く。と言っても、彼女の待つ家へ帰る為の"門"ではない。まだ、やり残したことがある。
「……ちったぁ手応えがあるといいんだけどなぁ」
鳴り止まない声に顔を顰めながら一歩、足を踏み入れる。"門"の向こうへ。血肉に染まった校舎から、古き良き日本とやらを感じさせてくれる木造のだだっ広い邸内へ。
「な、なんだっ、貴様…!?」
「さっ、」
戸惑いざわめく愚か者共を見下ろしながら、赤黒く染まった獅子-Ruslan-は嗤う。
「遊ぼうぜ?」
引き金が引かれ、銃声が響き、悲鳴と断末魔が轟いた。
* * *
「日本の分家は壊滅したようです。一つ残らず」
「ああ、知ってる。というか、まあ事の顛末は見守っていたからね。こうなることは予想済みさ」
燃え尽きて黒く炭化し、土地だけを遺してほぼ跡形も無くなった屋敷をぼんやりと眺める。果たしてこの屋敷には、どれほどの人間がいただろうか。全員を把握していたわけではないが、それでも優に50は超える。
不思議と、何の感慨も湧かなかった。
分家を自身が快く思っていなかったから、というわけではない。それならそれで、あの赤い青年に対して感謝の一つくらい沸きそうなものだから。
多分、自分は本当に分家に対して何の執着もなかったのだろう。たった、それだけのこと。
「如何します? 追っ手を放ちましょうか?」
「やめておくといい。何人放とうが何を放とうが、結果は同じだろう」
神に連なるものの加護を受けた不死者に立ち向かえるだけのものなぞ、手元にあるわけがない。
「それよりも、本家に連絡を」
「畏まりました」
淡々とした、極めて事務的なやり取りを終えると同時に部下の姿がかき消える。本家に早速連絡を入れに行ったのだろう。相変わらず仕事……いや、行動の早いこと。
「…さ、て……今日から宿無しか。いや、元からだが……次は何処へ旅に行こうかな」
コートの襟で口元を隠し、長い黒髪を揺らしながら一歩、黒飢偽㐂と名乗っていた青年――――黒飢咎は歩き始める。
「あー……そういや学校も潰されたんだったか……いやはや、職まで無くしてしまうとは私もツイていないなぁ。って、元からか」
くっ、と喉奥で笑いながら静まりかえった街の中を行く。駅へ向かう道すがら立ち寄ったコンビニで、新聞を一部購入した。そのまま店を出て、一面の記事に目を通す。
学校での乱射および生徒教師大量虐殺事件に加え、黒飢家襲撃事件。犯人は不明。犯行に使われたと思しき銃器類は発見されていないが、現場に残されていた弾丸等から恐らく同一犯または複数人による共犯の可能性が高い。しかし、これだけの大惨事でありながら目撃証言もゼロ。
連日連夜新聞を賑わすニュースは、一時的に世間からの強い関心を集めているが、時代の流れに乗っ取って記憶から薄れ、消えてくだろう。
新聞を捲りながら、まあ永遠に犯人は捕まらんだろうなぁ、と独りごちる。
不意に、一つの記事が目に飛び込んだ。
「…………」
小さく口元が歪んだ。
「ああ、可哀想に」
哀れみを込めた言葉は、しかし口元に乗せられた歪んだ笑みによってその意味を逆転させる。
それはとある女性の死亡記事。大量虐殺事件が世間の注目を集めすぎて、端に追いやられてしまっている、事件性を比較すれば実に些細なもの。しかし人命という意味では両者に大小などなく、等しく痛ましい事件であろう、それ。
「君が最後の一人だったのにねぇ」
よもや想いもしなかっただろう、本人"たち"も。
たった一人の青年をかつて虐げた、その過去が、今になって自身の命を奪う牙になろうとは。
微睡みから緩やかに意識が引きずり出され、ゆっくりと覚醒する。真っ先に視界に映ったのは、見慣れたマンションの天井。数度瞬きを繰り返し、ずっとずっと、帰ってきたかったこの場所に漸く帰って来られたのだという現実を頭が理解する。途端に涙腺が緩んで、視界が歪――――む筈だったのだけれど。
不思議なくらい、何の感慨も湧かない自分がいた。
何も思えない、思わない。ずっと此処に帰ってきたかったのに。だから、あんなことをしたのに。心は不思議なほど空っぽで、帰って来れたことを嬉しいと欠片も思わない。涙も出て来ない。そして何より、そう思えない自分自身にさえ、何も思えなかった。
不自然なくらい空っぽの心。少し、心当たりがある。
「…………」
上手く回らない頭に指示を飛ばし、のろのろと起き上がる。身体が重い気がした。
寝かしつけられていたソファから起きれば、ずるり、と滑り落ちるパーカー。ルスランの物だ。ソファの上から手を伸ばして掴み、たぐり寄せる。自分の体温で生温くなっているそれに顔を押しつけるように頬ずりをすれば、薫る彼の残り香。ほんの少し沸き起こる、寂しいという感情。空っぽの心に浮かんだ気持ち。
パーカーを抱きしめたまま、暫しぼんやりと微睡みの余韻に浸ろうとした。
「おはよう」
その余韻を打ち破るように響いた、凛とした声に自然と意識が叩き起こされる。寝起きに冷水を被せられたのに似ている。あくまで例えであって、実際に冷水を被せられたわけでもなければ、その寝覚めが悪いもの、と言うわけでもなかったのだが。
「意識が覚醒してから起き上がるまでに優に5分弱。元々の君の生活リズム等にも依るだろうが……なるほど、ルスランが傍にいなければ自分で行う行為や活動にはこれくらいのラグが生じるのか」
淡々とした語り口。視線を向ければ、射貫かれるような鮮烈な青と視線がかち合う。
「…………。……おはようございます……?」
「ああ。……もう少し改善の余地があるだろうか。少なくとも僕の傍に居るときも、ルスランほどではないにせよ、ある程度、ラグが緩和されるようにしなくてはとてもじゃないけれど――――」
ぶつぶつと小さな唇から零れ落ちる言葉がどんな意味を持っているのか、考えるのも億劫だ。
重たい頭を動かし、ぐるり、と室内を見渡す。腕の中のパーカーの持ち主は、此処にはいないようだった。彼の小さな主は部屋に設えられたガラスのテーブルの前、クッションを椅子代わりに行儀良く読書に勤しんでいたらしい。
「今後からは君の主でもあるけれどね」
心の内を読み取られる。
暫し、その言葉を咀嚼。
理解。
「……そうでしたね」
「………本当にそれはどうにかしないと、従者としてはルスランが揃わなくては使い物にならなそうだね」
表情自体は大して変わらずとも、その言葉から滲み出る呆れを汲み取れないほど愚鈍ではない。ともかく回らない頭で何故呆れられているのか考える。
再び黙考。現状を解析。推測。
そこまでして、考えずとも解答が直ぐ傍に転がっていたことに気が付く。
恐ろしいまでに、自身の反応速度が鈍っている。寝起きのせいかと思って片付けていたのだが、どうやら違うらしい。眠気は完全に打ち払われたというのに、頭は霞がかっているかのようにぼんやりとしていて、何か一つのことを考えるにしても普段以上の時間を要する。単純なこと一つ、考えることさえ数分要る。
この症状には一つ、覚えがあった。
「………自我次元との接触強度が弱まってる……?」
「正確にはルスランとの接触強度だけれどもね」
「……ルスとの…?」
「そう、ルスランとの。………少し弄り回しすぎたかな、記憶も飛んでいるようだね」
「…………」
回らない頭で記憶を辿ってみる。一体自分に何があったのだろうか。一度、死んだのは覚えている(正確には二度目の完全な死を迎えた)。それから蘇生してもらったのも。その後………そう、もう少し調整が必要だと言われたのだ。
あの時は蘇生を済ませただけで、自分が抱えている問題については何一つ解決していなかったのだ。問題――――旧人類の誰もが持ち合わせている"過剰成長"。措置をするからと寝かせられ、心配そうなルスランの顔を最後に意識が途切れて、どれくらい時間が経っているのだろうか。
「一週間くらいかな」
「………はぇ……」
さらりと告げられた時間に、ぽかん、と開いた口が塞がらない。
「だから言っただろう。少し弄り回しすぎたかな、と」
先程の言葉にはそういう意味もあったらしい。会話の流れからそこまでの意図は汲み取れなかった。
「今暫く眠るといい。どうせルスランは、まだ帰って来ない。……眠っている間にもう少し調整しておくよ」
「…………」
言われると同時に遅れて再び眠気がやってくる。
何かされたのか、それとも純粋に自分の身体が疲弊しているのか、単に寝足りないだけなのか。一週間も寝て寝足りないだなんてことはあり得なさそうだが。ただ、言葉に促されるまま、意識は再び微睡みの水底へと引きずり落とされて行く。
「そういえば、」
「……………?」
「苺の花言葉には"幸福な家庭"や、"あなたは私を喜ばせる"なんて意味があるそうだ。最も、彼がそこまで考えていたとは思えないけれどね」
思い出したかのように新たな主はそう語る。何か答える前に、ぶつり、と意識が途切れ、
そして、夢を見た。
* * *
「!!!」
がばりと勢い良く身体を起こす。
じっとりと全身が汗ばみ、呼吸が荒い。とてもとても、嫌な夢を見たような気がする。ざわざわと背筋を這い上り、全身を包む嫌な感覚。
どんな夢を見たのか、全く思い出せない。けれども嫌な夢だった。
どうにか呼吸を整えようとしてみるが、上手く息ができない。水の底で必死に酸素を求めているかのような錯覚。内側から迫り上がってくる嫌悪と恐怖と嫉妬と……ああ、きっと、"あの夢"を見たのだと、漸く答えを得る。
ずっとずっと、そう、"それ"を徹底して身に染み込まされたときから見続けている、夢がある。彼と一緒にいる時は全く見なかったから、今まで忘れていたのだ。
「………るすー…」
急に不安が込み上げてきて、精神が不安定になる。上手く感情の舵取りができない。
「お、起きたか寝坊す…け……って、何泣きそうな顔してんだっ…!? ど、どっかまだ痛むのか…?!」
「…ふぇ………」
キッチンから顔を覗かせたルスランが、慌てたように駈け寄ってきた。いつものように……いや、いつもよりも、酷く心配そうな、何処か、泣きそうにも見える顔で。
のろのろと頭部の重みで血管が圧迫されていたせいで痺れる両腕を上げて虚空へ伸ばす。
壊れ物を扱うような丁寧さで、それでいて決して離しはしないと言うように、抱きしめられる。ぎゅっと、両腕をその背に回した。
「……るすー……るすー…」
寝起きの舌っ足らずな言葉で、ただそれだけを呟く。まるでそれ以外の言葉を忘れてしまったかのようだ、と頭の片隅、僅かばかり冷静な自分が苦笑する。本当にそうだったらいいのに、と思った。同時に、それは困る、とも思った。
「どうした、泣き虫リャーナ」
「………りゃーな?」
「……。……名前、ほら……なんか、思い出せねぇ、とか言ってただろ」
「…うん……」
「…パスは、ニックネームっつーか、ハンドルネームみたいなもん、っつってたし……だから…その、ほら、あれだよ! な、名前…!!」
何処か上擦った声で早口にまくし立てるルスランの言葉をゆっくり咀嚼する。
リャーナ。
彼が決めてくれたらしい、名前。何だかとても、しっくりくる。それが最初から自分の名前であったかのように。
「…………まあ、リャーナって…愛称みたいなもんで……正しくはゼムリャニーカ…って名前、だけど」
「…ぜむ…? ……ロシア?」
「…おう。……あ、や、やっぱり嫌か…? 日本っぽい名前の方が…」
「……ううん…嬉しい」
本当に嬉しい。自分の祖国も、もう思い出せない自分の名前も、大嫌いだったから。とてもとても。思い出せないその名前が、大嫌いだった。その理由ももう、思い出せないのだけれど。
「…意味とか、あるのー…?」
「………あー……」
何だかとても言いにくそうな顔をされる。
そういう顔をされると、余計気になってしまうというもので。
「……ルスー…?」
「………いちご」
「ふみゅ?」
「だ、だから…苺……」
「……苺? ………なんか美味しそうな名前ー」
「う………わ、悪かったな、センスなくって……」
「…なんで苺ー?」
「………前に…ほら……髪、赤くしてみたい、っつってたろ? …俺の色、いいな、とか…なんとか……ほら」
自分の髪を一房摘みながら、ルスランがぼそぼそと言う。パシフィスタ……改め、リャーナの髪のことは人一倍気にする割に、自分の髪のケアは随分と適当で、所々跳ねているし、枝毛もちらりほらり。触れたその髪がごわついているのも、知っている。けどリャーナはその髪が好きで―――いや、それはまた別の話だ。
そういえばそんなことも言ったな、とリャーナが頷くと、ルスランが続けた。
「…俺はお前の髪、好きだし…染めたりとかしてほしくないっていうか…綺麗って思ってる、から……その、そのままでいてほしいんだけど、さ……。……髪は無理でも、その…ほら…名前くらいならそういうのに因んでもいいかなって」
「…………ルスって…」
「…なんだよ」
「そういうとこ、かわいいよね」
「…どういう意味だよ、そりゃ」
不機嫌そう(といっても形だけ)な顔をする彼に抱きついて、髪を撫でる。何も変わっていない、変わらない。確かなものを感じて、嬉しくなる。
「えへへ……ありがとう、ルスー」
「……おう」
「…大事にするね、名前」
「ん…。……それに…リャーナの名前って考えたら……」
「……考えたら?」
「…………赤も、ちったぁ好きになれる………気がする」
「好きになれなくても私が好きだから大丈夫だよ。ルスの赤」
「…リャーナの癖に生意気な」
「どういう意味、それー…」
視線がかち合い見つめ合うこと数秒。どちらからともなく、笑いが零れた。
どこか、ぎこちなかった空気がほぐれて穏やかな空気に変わっていく。そのことが、堪らなく嬉しい。帰って来られたのだと、そう、心の底から思えるから。
あのね、ルス。お願いがあるの。
私の知らないところで変わらないで。
私以外の誰かの為に変わらないで。
私以外の誰かに変えられないで。
変わるなら、変わるのなら。
変わってしまうのなら。
私のせいで全部変わってしまって。
胸の内側、どろりと濁り淀んだ何かが、ずくりとした痛みと共にその存在を訴えた。
「君も実に大胆なことをするね」
「そうか?」
「ああ。無茶、無謀、無理、と言っても差し支え無いレベルだった。今回の件については」
「……そう言われるとぐうの音も出ないな」
静かな店内。店の出入り口には「CLOSE」の掛札。このところ臨時休店が多いな、と一瞬考えたが、元からそうだったか、と思い直す。
湯気と香りを立てる二人分の白磁のティーカップと、綺麗に皿の上に並べられたクッキー。どちらも、まだ手はつけられていない。
「もう少しマシな方法は思いつかなかったのかい」
「あれ以上の手立てが私の手の内にあったとでも思うのかい? ……君と違って私はそれほどの権力も力も持ち合わせてはいないんだよ。単に人と比較した時に強い、というだけでね」
少しばかり唇をとがらせ、視線を膝の上の彼女(いや、今は中身-人格-に合わせて彼と言うべきか)から床の上に落とす。
強引だったことは自覚している。
寄せ集めの素人集団を戦地の只中に投げ込んだも同然だろう、端から見れば。だがアルモニアが信頼でき、そして、あの絶望的な状況の中でも前へ進む力を持っていると思ったからこそ、彼らに託したのだ。……彼らが死ぬかもしれなかったことを、理解しつつも。
「まあ、そうだね。君は神の端くれですらない……が、別に神になりたいわけでもないだろう?」
「神になりたいとは思わないが…もう少し力があれば、と願うことはあるさ。私にだって」
「そうかい。……やはり、君は人でないにも関わらず、人間味に溢れているな」
「そうか…?」
「人間のような君だから、あんな連中が集まるんだろうさ」
あんな、と言われると何だか碌でもない連中が集まったかのようにも聞こえる。
だが、ケントゥリアは決して悪気や悪意からそんな表現をしたわけではないことは、心得ていた。彼女なりに彼らを褒めているのだ。誰かに知られることも、褒め称えられることも決して無いのに、世界を救ってみせた彼らを。
「問題は山積みだったが、最終的に君の求めることは成し遂げて見せた。十分過ぎる程の働きだと僕は評価するよ。僕ではこの問題を解決することは恐らく出来なかっただろうからね」
「お前でもか?」
「僕だから、だよ。神…とは少し違うかもしれないが、そうであっても出来ない事だってあるのさ。人が思うほど万能じゃない。ただ、人が出来ない事が多少出来るに過ぎない。一方で、神に出来ず人に出来ることもあるのは事実だ」
淡々と、まるで参考書から文章を抜粋するが如く淀みなくケントゥリアは語る。それが事実であれ、彼女の持論であれ、酷く正しく思えるのは、きっと己の中でそれを正しいと思えるだけのものが刻まれたからだろう。……今回の一件を経て。
「それはそうと……パシフィスタは大丈夫だったのか?」
「大丈夫ではないね。彼女も彼女で、問題が山積みだ。一つ一つ解決していくつもり…だけど……」
「だけど?」
「………旧人類、というだけでも興味深い存在ではあるからね。僕の中の好奇心旺盛な連中が口だそうと躍起になっているんだよ」
「ああ…なるほど…」
「ルスランのこともあるから、下手に弄るなと牽制してはいるけど……まあ2、3個くらいは妙なオプションがついてしまうかもしれないね」
「……そうか」
自分が拾い、都合良く使い、そして最後の最後で見捨ててしまった彼女を思う。
人でありながら誰とも相容れることなく、ただ利用されるだけ利用され、人としての生涯を閉じ……そして、今度は自分に利用され、2度目の生涯を閉じた。彼女の3度目の生は、もっと祝福されたものであって欲しいと願うのは、あまりにも自分勝手すぎるだろう。それでも、願い、祈らずにはいられない。
出来ることならば見捨てたくなどなかった。
渦巻く後悔に、時折喉が塞がれる。
それでも自分は選ばなくてはならない立場にあった。選ばなければ、どちらも結局得られはしなかったのだ。だから……今の自分を創り上げてくれた、蒼い狼を選んだ。
「その選択を人は非難するかもしれないが、むしろ僕は、懸命であったと思うよ」
「……どの辺が?」
「仮に君が彼女を選んでいたとしても、彼女自身が抱える問題自体はどうにもならなかった。多くの者を巻き込む結果にはなっても、彼女の抱える問題を解決する、良い切っ掛けになったじゃないか」
「…だとしても……心はそう簡単に癒えないだろう?」
「癒えないだろうね。消せない傷は刻まれる。……僕は彼女を治療する為、その心に触れたが……あんな人間は初めて見たよ」
あの子の心に触れたのはケントゥリアと……そして今はルスランの二人だけだろう。アルモニアに彼女の心を知る術は無い。それでも、ケントゥリアの言わんとしていることは伝わっていた。
それはきっと、本質的にあの従者と己が似ていたからこそ、気がつけたことなのだろう。そう思うと、自嘲の笑みが零れ落ちる。
「安心するといい。君と彼女ではどれほど似ていようと根本的な種族と、それによって培われてきたものが違う」
「…今はほぼ同族のようなものじゃないか?」
「子供の中身が幼少期の環境と育ち方で決まるように、種としての根本的な部分はどれほど抗おうと変える事はできない。何処迄行っても彼女には…そしてルスランには、元人間としての部分が残っている。そしてそれが互いに響き合ったからこその二人の今の関係なのだろうさ。……とはいえ、僕に銃口を向けてくるレベルとは思わなかったけれど」
最後の言葉は悪態のつもりなのか。鼻を鳴らしてみせるケントゥリアの頭を、アルモニアは2度3度、優しく撫でる。
「……まあ、」
「ん?」
「どんな結末であれ……このお話はめでたしめでたし、ということで、良いんじゃないかい。問題はやはり山積みだけれどもね」
「……ああ、そうだな」
彼らは誰一人欠けることなく現実に戻って来た。世界中の誰も知らないところで、密やかに世界を救いながら。
そうして各々の現実……日常へと帰っていく。
解決出来ていない問題は山積みだ。けれども世界が続く限り、その問題と向き合うことも、逃げることも、出来る。人類の選択権は失われることなく、残り、続いている。
時間の流れが、あるいは誰かが、積み重なった問題を一つずつ解決に導いて行くだろう。それが、どんな結末であれ。
………少なくとも、この物語の結末は、
「ハッピーエンド、ということで」
「そうだね」
「彼らは、帰ったのですね」
静かな声で、主はぽつりと呟いた。
「……はい」
「ヴォルフガングの計画は、阻止出来たのですか?」
「……はい」
「そう」
それっきり、会話が途絶える。静かな部屋の中、薔薇の香りが切なくも芳しい。噎せ返りそうな薔薇の匂いに混じって薫る紅茶と……ほんの僅かな腐敗臭。
「カルラ様、また……」
「いいの」
動こうとしたイツミを、カルラが制した。
「いいのよ、イツミ。これでいいの」
憑き物が落ちたかのように、凄みの抜けたカルラの表情はとても穏やかだ。ベッドの上で、ただ安寧とした死の眠りを待つ老婆のような穏やかさが、そこにあった。
イツミは悟る。
彼女は此処を死に場所とするつもりなのだと。死ぬ事は出来ない魂を抱え、朽ちて逝く肉体に閉じ込められたまま、ただ一人。永遠とも呼べる時間を、終ぞ帰ることはなかった彼女の主人を想いながら。
「カルラ様、」
「思えば、」
「…………」
「……思えば、貴方にも随分と酷いことをしてしまったわね、イツミ」
「そんなことは…」
そんなことはない、と。
そう言おうとしても、続く言葉は出て来なかった。カルラの自分に対する扱いを嘆く自分が、心の何処かにいたからだ。
――――双子なのに。妹なのに。どうして私を見てくれないの、お姉ちゃん。
何度も口をついて出かけた叫びを、その度に無理矢理喉奥へと押し込めて、ただ淡々と。言われるがまま、人形のように。それが一番楽な生き方だったからだ。何も考えず、淡々と言われたことをする。自己を抑圧することに最初は苦痛を覚えもしたが、慣れれば何の問題もなかった。
目まぐるしく頭を回すことはない。言われたことを如何に実行するかだけに集中していればいい。
さながら、イツミはカルラのマリオネットだったのだ。動ける身体、人間としての可能性を捨てて、ゼペットに操られる人生を選んだピノッキオ。
とても惨めに思えた。
「だからね、イツミ」
「はい……」
「これからは、自分の思う様に、生きなさい」
「………え…?」
「今まで尽くしてくれた貴方に、とても酷いことを言うけれど……私の為に朽ちる選択をしないで欲しいの。今まで、貴方の人生をメチャクチャにしてしまった分……これからは、貴方の為に、生きて欲しい」
「……それ、は…」
何故、今更、だなんて。
それこそ無意味な問いだ。単にカルラの中で全てが終わってしまったからだろう。イツミはもう、カルラにとって不要なものなのだ。
主を救うための手脚を欲したカルラの為に、イツミが居た。だがその主を救う手立ては……少なくともカルラにとっては、半永久的に失われたに等しい。誰かの手を借りなければ此処から出る事すら叶わない身で主を乗っ取ったヴォルフガングを追い続けることなど、出来る筈もなかった。
「ごめんなさいね、最期まで、酷い――――姉で…」
「……ぁ…」
「…気がついていたわ、本当は、貴方が、誰なのか……」
狡い。狡いよ。
言いたいのに、言葉が出ない。いつもなら淡々と、感情に飲みこまれることなく言葉を紡げるのに。忘れかけていた心を取り戻したせいなのだろうか。干からびてしまった種に、彼らが水をくれたせいだろうか。
言葉の代わりに、何百年振りかの涙が溢れてこぼれた。
「好きな人…出来たのでしょう? ……行ってきなさい、イツミ。…最期の……お願いよ。姉として」
* * *
城を出て、久方ぶりに出た外はすっかり様変わりしていた。それもその筈だ。何せ、本来自分は何百年も前の人間なのだから。
給仕服を終ぞ脱ぐことはできなかった。それ以外の服を持ち合わせてはいなかったし、何だかんだでこの格好が一番落ち着くからだ。それに、こちらの方があの人も直ぐに気が付いてくれるだろうと、ほんの僅かばかりの期待。
胸の内から込み上げるその感情には、どんな名が似合うだろうか。
「……あれ…君は……」
「……?」
掛けられた声に、振り返る。
深い青と、目が合った。
存外、再会の時はそんなに遠くないかもしれない。偶然か必然か、どうであれ、此処でグルナド-彼-と鉢合わせた幸運に、イツミは感謝した。
「全く、性格悪いわよね。君に言われたくはないよ。それ、どういう意味ー!? そのままの意味だ、とだけ」
一つの口から二人分の声が代わる代わる、交互に紡がれる。成り立つ会話は、自分について知らない人間から見れば頭の可笑しい人間か、あるいは単なる独り言にしか見えないだろう。それでいい。
「ルー君にはちゃんと説明したの? したじゃないか。君も聞いていただろう? 大事な部分は説明してないじゃないの、それ。大事な部分とは? 態とらしいわね。まあアタシとしてはどっちでもいいんだけど? うふふ」
理知的であるが冷たさを感じさせる顔と、心の底から"あらゆるもの"を楽しむ悪戯心に富んだ少女の顔。代わる代わる、仮面を付け替えるように。
くる、くる、くる、くる。目まぐるしく。
「結局、君だって楽しんでいるんじゃないか。だってだって、ほら!! ルー君がまさかアタシ…っていうか"ケントゥリア"に銃を向けるだなんて!! お母さん、我が子の成長が嬉しいわ。成長と言うのかい、あれは。"ケントゥリア"以外に大切にできるものが作れたのは成長でいいんじゃない? ルスラン自身が成長したというよりも、ルスランの特別に入り込めたゼムリャニーカという存在が異質であると捉えるべきだと思うんだが。リャナたんも凄いわよね、ルー君ってば結構変わったんじゃないの? あの子と逢って。変わったのか、それとも喪失したものを再び得たからそう見えるだけか。まあどちらでも結局は同じことなんだけれど。自己完結するくらいなら言わないでよ、話に割り込めないじゃないのー! 割り込まなくて結構だ。もう一生黙っていてくれてもいいよ。アタシ達の一生ってほぼ永遠じゃないのー!! 嫌よ〜!! ダーリンとももっともっとお話しするんだからぁ!! ああ、もう…君は本当に落ち着きがないというか、五月蠅いというか…。なんですってー!?」
彼女とはここの所、こういう言い合いしかしていない気がする。その話題の中心はルスランではなく、大体は今、奥で彼女の為のダイエット向けスイーツとやらを作っている彼なわけだが。
どうやら二人で言い争っている間、表に出ていた食欲の塊が暴飲暴食の限りを尽くしたようで、言われてみればいつも以上に身体が重く感じられる。
基本的に有事でもなければ動こうという気があまり起きないし、体重なんてどうにかしようがあるから、あまり気にならないのだけれど。
「それで結局、リャナたんってどうなっちゃったわけ? 一先ずもう少し調整を加えてみたところだから、暫くは様子見だね。ふうん? 君達がもう少し大人しくしていてくれれば、こんなに時間が掛からず済んだのだけれど。えー? だってだって、新しいもう一人の従者よ? やっぱりほら、従者をカスタマイズするならちょーっとは自分好みにしてみたくなぁい? ならない。使えるかどうかで十分だろう、その辺は。んもーっ、ほんっとそういうことに対する理解が足りないわねぇ」
やれやれ、と言いたげに肩をすくめられる。その辺りは否定ができないので、特に何の反論も浮かばない。
「一先ずは、ルスランが傍にいなくてもある程度動けるようにする必要性があったからその辺を中心に。ルー君無くしてどうやって動かすの? 結局のところ確固とした自我を発生させることができないからこその反応速度の鈍さだったから、確固たる自我を持たせる必要があったんだ。彼女固有の自我を切り離さなくては旧人類としての問題の一つは解決できなかったからね。そこで、彼女の心に一番近いところにあったルスランと、そしてあの旧人類の精神が持っていた"糸"を使うことで、ルスラン経由で自我を発生させ―――― あーっ!! 長い長いっ!! もっと分かりやすく!! ……はあ。要するに、自我次元をインターネット、自我をインターネット上に作られた彼女個人のサーバー…ホームページでもいいか…、彼女をコンピュータだとするなら、今までは旧人類達が繋がっていた自我次元というインターネットに有線でアクセスしてホームページを編集していたんだ。けれどそれだと問題が在るから、線を引っこ抜いて代わりに無線を取り付け、アクセス先をルスランという別のインターネットにして、そっちに新しくページを作った。……って言えば分かる? 何となく? あ、そう。…で、無線接続だから距離が離れれば当然、接続も弱まる。かといって他のところにアクセスできる設定はされていないし、そもそもルスラン以上の適役がいないから、その辺はどうしようもないということだ。ああ、なるほどなるほど!! ……あ、そういえば、自我次元論だったかしら? あれってホントの所、どうなの? あれも一つの正答ではあるだろうね。アザトースとの接触により自我を発生させている、というのはあながち間違いでは無いし、この世がアザトースの夢であるという事実の"一つ"とも繋がっている。けれども同時に"全く別の"事実も混在し、矛盾に塗れたこの世界だ。あくまでも一つの答えでしかない。国語みたいなものかしら。まあ、そうだね。答えは無限にあり、そのいずれもが正しい。ただ彼女に適応されている答えがそれであっただけのこと。だから上書きしたんだ。貴方の持つ答えに? その言い方は正しいが誤りでもあるね。正確には僕が持つ答えの一つに、だ。ふうん…で、結局のところは何をしたのよー? 見てたじゃないか。見てていまいちわからなかったから聞いてるのっ。君は実に馬鹿だな。なんですってー!? その言葉を聞くのは実に何度目だろうか……まあ、僕がやったことは実に単純だ。彼女の中で最も強い感情を発散させてやる形で自我を形成できるようにしたんだよ。ルスランが傍にいないことが条件だけれどもね。最も強い感情? 負の感情。痛烈で鮮烈で強烈で劣悪で最低で最悪で害悪で………周囲の人間によって形作られた彼女独自のものだよ。それに僕達の在り方を混ぜ合わせた。アタシ達の? 無数の魂が混在する、この在り方をね。ああ、なるほど。……で、そうするとどうなるの? ………少しは自分で考えたらどうだい、まったく。彼女が持つ固有の負の感情については…君も分かってるだろう? 女の子に対するコンプレックスでしょ? コンプレックスなんて可愛らしい表現で済まされるものじゃないけど…まあ、そうだね。人間全般が好きではないようだが、特に、"女性"という性に凄まじく過敏だ。愛憎入り交じってるなんてレベルじゃない。ルー君への愛がピュアピュア過ぎる分、すごく目立つわよねー。まあルー君、すっごい鈍感だから実際目の当たりにしないと永遠に気づかなそうだけど。気が付いたところで彼は気にしないどころか共感を抱くか、より一層彼女を大切にするかのどちらか…あるいは両方な気がするんだが……まあそれは置いておこう。ともかく、ある程度の条件付けをしつつそれを発散させる形で自我を自発的に作れるようにしたんだ。その辺りは多重人格の応用みたいなものも入る。多重人格って応用できるものだったかしら。他人に施す分にはいくらでも。あっそう。で、分かりやすく説明すると? ………。まず、彼女の捕食を通常の物体Xという種とは違うものにしたんだ。違うもの? 僕等と同じような感じだ。魂そのものまで捕食する。ああ、なるほど。そして捕食した魂を彼女の中で……彼女の言葉を借りるならば"更正"させる。もとい、いたぶる、と。平たく言えばそうだね。まあ、本人の中であってもいいし、形を与えてそういうことをして再度吸収する、なんて手もあるだろう。ともかく、それと同時に彼女の"過剰成長"のベクトルを対象に向ける。ふむふむ? そうすることで彼女自身が周囲に過剰成長をもたらすことがなくなるし、彼女自身もあれ以上の過剰成長はしなくなる。旧人類の過剰成長という特質そのものを消すことはできない故の措置だね。その方向でしか成長を出すことができないように弄ってもある。でもそれだと、結局捕食された側が過剰成長したままリャナたんの中に残っちゃうから意味ないんじゃないの? そうだね、そのままだったら結局同じことだが、そこで"更正"という概念が役立つ。彼女は"更正"させては"放棄"する、を繰り返してきた。つまり、"更正"し尽くした相手には興味をなくし、捨ててしまう。その"放棄"先……まあ悪く言うならゴミ箱を僕達に設定した。ゴミ箱じゃないわよアタシはー!! …知ってるよ、僕だってゴミ箱ではない。ただの例えだ。…ともかく、"更正"し尽くされた魂は僕達の方に譲渡され、人格そのものが潰えている魂は僕達の中でただ淘汰されるのみだから……後はわかるでしょ? あ、なるほどー、魔力の無限供給って奴ね! ああ。無限に彼女から魔力供給がされる。僕達は供給されるそれを有効に扱う。永久機関の完成だ。過剰成長してもそれを使うだけの自我が潰れてちゃ結局意味はないものねぇ。そう。これで問題は大体クリアできてる。そうね。でもまだ説明してないわよー、結局ルー君が傍にいないリャナたんの自我はどうなるの? 単純だよ、それは。"更正"によって発生する歪んだ悦楽や嫌悪、羨望……それらで自我を作り上げる。……それ、かなーり危ない性格にならない? どうだろうね。だからそれも含めて経過観察はまだ必要だ。…まあ、後は可能ならば万が一、僕達からルスランへの魔力供給が絶たれた場合も考えて、彼女から無限供給される魔力の受け渡し先の設定の一つにルスランも設定出来ればベストだね。そうねー、その場合、アタシ達ヤヴァヤヴァな状態の可能性があるものね。そういうことだ。僕達の保身の為にも……ルスランには悪いがもう少し彼女については手を加えるつもりだよ。大丈夫でしょ。ルー君の好きなリャナたんの本質が損なわれるわけじゃないんだし。まあ、そうだね」
流石に二人分の言葉を口に出すというのは喉が渇くというもので、そろそろ紅茶の一つでも欲しくなってくる。
そう思ったと同時に、目の前に結露した硝子のコップがことり、と置かれた。中身はよく冷えているココアのようだ。顔を上げれば、優しげな赤い瞳と視線がかち合った。
「珍しいな、二人揃ってるだなんて」
「そうかい? ダーリン〜♥」
二者二様の反応をしつつも、その感情は恐らく似たり寄ったりのもなのだろうな、と異なりながらも同一という存在であるが故に理解する。
ひょい、と軽々抱えられ、膝の上に座らされる。目線がその分だけ高くなるが、それでも彼と同じ目線には背が足りない。
――――彼にはどんな風景が見えているのだろうか?
同じ光景であっても全く捉え方や感じ方、見方が違うことを分かっているからこその疑問。血よりは薄く、ピンクというには濃い赤い瞳に映るものが、とても気になる。
――――いっそ、食べてしまおうか。
可能だろう、自分ならば。彼は神に近くはあるが神では無く、言葉は悪いが自分よりは下の存在だ。喰らおうと思えばきっと、欠片も残さず平らげることができる。
けれども、それではきっと意味が無い。
それをしてしまうと、撫でてくれる手がなくなってしまう。こうして膝に乗せられることも、何も言わずとも察して差し出される渇きを潤す飲物も。だから今はまだ、これでいい。ほんの些細な好奇心でそれらを手放すのは、あまりにも惜しく思えた。
「どうした、ケントゥリア?」
「なんでもない。気にしないでダーリン」
君を喰らう時。
それはこの好奇心が君とのささやかな日常を上回った時か、あるいは……別の誰かが、今の僕達を大きく上回った時だろう。
皆様、約一週間という期間、お付き合い頂きましてありがとうございました!!
無事にGood enDを迎えることができましたことを嬉しく思っております。
何より道中死人が出かけましたが、最終的に全員生還してくれたことが……。
一日一日が本当に濃く長く感じられた卓でしたが、楽しんで頂けましたでしょうか?
皆様の様々な感情、気持ちが込められたRPと築き上げられていった関係は、KPとしても刺激を受けるとともに、何故自分はKPであってPLではないんだ……!!
と思うほどでした。是非皆様ともPLをいつかしたいものです……(´ `*)
唯一KPとしての心残りは、謎を多く残してしまったことでしょうか……。
その謎についてもきっといつか、どこかで明かせるように……というよりも、卓中の謎になるべく答えを示せるようなKPになれるよう、精進して参ります!!
ではでは、長々と失礼致しました。
皆様と卓を囲めたこと、本当に嬉しく想い、そして此処まで付き合って頂けたことに感謝を!!
ありがとうございました、また、逢う日まで!!
無事にGood enDを迎えることができましたことを嬉しく思っております。
何より道中死人が出かけましたが、最終的に全員生還してくれたことが……。
一日一日が本当に濃く長く感じられた卓でしたが、楽しんで頂けましたでしょうか?
皆様の様々な感情、気持ちが込められたRPと築き上げられていった関係は、KPとしても刺激を受けるとともに、何故自分はKPであってPLではないんだ……!!
と思うほどでした。是非皆様ともPLをいつかしたいものです……(´ `*)
唯一KPとしての心残りは、謎を多く残してしまったことでしょうか……。
その謎についてもきっといつか、どこかで明かせるように……というよりも、卓中の謎になるべく答えを示せるようなKPになれるよう、精進して参ります!!
ではでは、長々と失礼致しました。
皆様と卓を囲めたこと、本当に嬉しく想い、そして此処まで付き合って頂けたことに感謝を!!
ありがとうございました、また、逢う日まで!!
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