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がきデカ

 小学校高学年になった筆者に父が買い与えてくれた漫画が『がきデカ』だった。これも、父のこだわりの現れだと思われる。がきデカは、山上たつひこ先生作のギャグ漫画で、『ブラック・ジャック』『ドカベン』『マカロニほうれん荘』などとともに80年代の少年チャンピオン黄金期を支えた作品である。あまり知られていないが、少年チャンピオンにも黄金期があったのである。
 父はこれらの作品の中でもマカロニほうれん荘は嫌いだったが、がきデカはとても高く評価していた。父はこのほかに『嗚呼!! 花の応援団』というギャグ漫画も好きだった。後者は、下ネタががきデカよりも過激だったため、小学生の筆者には早いと判断されたのだろう。
 ちなみに、分からない人のために説明すると、マカロニほうれん荘は、ボーボボにそっくりの作風である。話の柱が設定されないままただひたすら脇道にそれていき、区切りも全く見えてこないというものである。例えば漫才であれば、話が脇道にそれていき全然前に進まないのは常であるとしても、「結婚式のスピーチやろうや」「優勝インタビューってやってみたいねん」といった柱が最初に設定される。だからこそ脇道のズレも際立つと思うのだが、マカロニほうれん荘やボーボボは、この柱がないままひたすら脇にそれていくという芸当をやってのけている。多分、こういうのが好きな人もいるということだろう。このへんは、アニメのぱにぽにだっしゅにも同じにおいを感じた。
 がきデカも基本的には下ネタが多い漫画なのだが、まあ、読んで損はないと思う。トムとジェリーの項でも指摘した、漫画・アニメ表現の優位性、すなわち「荒唐無稽な絵ヅラをローコストで展開できる」という利点を存分に生かしている。これは、作者の画力の高さがあってこそだろう。また、この漫画は、おそらく、ギャグ漫画にツッコミという手法を初めて大々的に導入した漫画だと思われる。ウラをとったわけではないので違うかもしれん。
 がきデカより前に、父は赤塚不二夫作品なども兄弟に買い与えていた。今でこそ、赤塚不二夫はギャグ漫画における一つの画期だったとは思うが、初めて読んだ当時は特に笑けるということはなかった。それは、おそらくツッコミという手法が十分自覚的には導入されていなかったからのような気がする。とにかくがきデカは当時の筆者にはおもしろい漫画だった。父が最初に買い与えてくれた1巻から3巻まではなぜかあまりおもしろくなかったが、4巻から急におもしろくなった。作中に出てくる気に入ったフレーズを弟と一緒に覚えた。特に気に入っていたのは、「死刑」や「アフリカ象が好き」といった有名なギャグよりも、「まだあるだろう」や「ウフッ 迷ってしまう」(うろ覚えなので、ちゃんと原作を読んでいただきたい)といった笑ける場面だった。
 作者の山上先生は、がきデカが自分が本当に描きたいものとは相当程度乖離しており、そのようなものが世間でウケたことにだいぶ思い悩んでいたようである。その後筆者は同氏の別の作品である『喜劇新思想体系』や『中春こまわり君』(後者は、がきデカの主人公のその後を描いたもの)を読んでみたが、前者はがきデカを凌駕するレベルの過激で汚穢な下ネタが展開されており、後者はなんというかより衒学的である。両作品の方が、山上先生が描きたいものに近いという感を受けた。何が言いたいかといえば、プロの世界では自分が描きたいものと読者にウケるものの間には齟齬を生じるのが常であるため、作者がわがままを言ってはいけないし、自分が歯牙にもかけないようなものがウケることも間々あるので、とりあえず数を撃つのが大事だということである。ちなみに、これはがきデカからも分かるが、山上先生は哺乳類と国内の観光地が好きである。

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