入院第03週

入院第03週(DAY15〜DAY21)

入院第03週のあらすじ
  • 面会&差し入れ。
  • 病棟の種類について。
  • 病棟の朝について。
  • 差額ベッド代と医療保険。
  • 初めての散歩。
  • 入院中の私物持込みについて。
  • 折り紙が流行、その顛末。

初めての面会(DAY15)

私が入院してから初めての面会の時間が来た。
相手は夫である。まだ夫以外とは面会謝絶となっていた。
面会時間は朝食など午前中の用事が済む10時ごろに設定してあった。

久しぶりに会う夫はいつもと変わらない様子だった。
それでも、私が入院した一日目は寂しさのあまり泣いてしまったという。
普段泣くことをみたことのない夫だけに、それを聞くと私も胸にこみあげてくるものがあった。

夫は差し入れに様々な日用品を持ってきてくれていた。
水虫になったため、替えの新しいスリッパ。
熱湯を入れてひび割れてしまったコップの替わりの新品コップ。
普段使っている基礎化粧品。(それまでは化粧品がなく、お肌ガサガサのひどい状態)
食が進むように、ふりかけセット。

それに加えて、私が大好きな洋菓子屋のなめらかプリンを2つも!
本当は私と一緒に食べるつもりで2つ買ってきたのだろうが、両方ともくれるというので私は遠慮なくいただいた。
あとは入院の様子を話したり、次回の差し入れに欲しいもののリクエストをして面会時間を過ごした。
1時間くらいの面会時間はあっという間に過ぎた。
夫は時間が来ると、看護師に引率されて鍵付きの重たいドアの外側の世界に帰っていった。

その後、昼食の時間が来た。
昼食にはなんと、デザートにプリンが付いてきた。
一日に3個もプリンを食べることになるとは思ってもいなかったが、それでも残さずいただいた。
夕食は、差し入れのふりかけのお陰で、ご飯一粒も残さず完食した。
この頃から、私の食欲は回復しており、更に薬の副作用でみるみる太ってしまうことになる。
しかし、風呂場の体重計になかなか乗らなかったため、自分が太ったのを知るのはやや先のことになった。
体重測定が月に1度しかなかったためである。
後付だが、入院生活において体重の自己管理は重要である。

別の病棟(DAY16)

部屋にいても特にやることがない。
そんな時は、廊下のソファのあるコーナーに行くと誰かがいてたむろすることができた。
時間によっては、窓から差し込む太陽で陽だまりになっており居心地が良い。
この日も暇だったので、陽だまりソファに行くことにした。
そこには数名がたむろっていた。

私は会話に加わっているかいないかの境目にいた。
相槌は打つけど、話は右から左に筒抜け。
おばちゃん達の結論なき延々と巡る井戸端会議と付き合えるほどの集中力はまだなかった。
上の空で話を聞いていると、窓から別の階の病棟がよく見えた。
その階には空の車椅子が何台か置いてあった。
「広い病院だなぁ。確かナースステーションに病院の地図があったっけ」
私は病院の案内図があったことを思い出し、ナースステーションに向かった。

案内図をよく見ると、私が入院している病棟は「急性期病棟」と書いてあった。
他には「慢性期」と「老人用」の病棟があるらしい。
車椅子が見えた階は老人病棟らしかった。
それにしても「急性期」って何だろう?私は疑問に思った。
何やら深刻そうな響きである。
本当のところは、病気になったばかりで迅速な手当てが必要な期間のことで、慢性になるよりまだ手前の状態のことなのだが、この時は何だか深刻で重症そうなイメージを受けた。

それにしても、陽だまりソファーコーナーも含めて、いくら天気が良くても全く外気と触れることのできない環境というのは、それなりの閉塞感があった。
私が入院した病棟は、昔ながらの「鉄格子のはまった窓」というのは1つもなく、窓は全てガラスのはめ殺しになっていた。
明るく清潔感あふれる環境なのに、決して外の空気に触れることはできないのである。
だから後に可能となる「散歩」の時間は非常に楽しみなものだった。

ラジオ体操第1第2(DAY17)

病棟の朝は実は早い。
起床は6:30ということになっていて、洗面や着替えを行う。
そして、7:30からラジオ体操の時間があった。
その後8:00からが朝食である。
しかし、私は入院してからこの日まで、7:30以前に起きたことがなかった。
いつも眠くて朝食ギリギリまで寝ていたのである。
毎朝7:50過ぎに起きて10分以内に着替えや洗面をダッシュで済ませていた。
ひどい時には朝食に現れない私を探しに看護師が部屋まで起こしに来てくれることもあった。
私は上が100未満の低血圧で、朝が苦手である。

この日はたまたま朝早く目覚めたため、ラジオ体操に初めて参加することになった。
♪チャーンチャーラチャララ…
お馴染みの、郷愁さえ覚えるメロディが廊下から聞こえた。
ラジオ体操のことはてんで忘れていたので、「何だろう?」と思って廊下に出た。
すると、入院患者が廊下にずらっと並んでいた。
各自の部屋の前の廊下にきれいに一列に並んでラジオ体操をする様子は、ハッキリ言って「刑務所みたい」だった。
なんか怖い集団に混じって自分もラジオ体操をするのかと思うと、気が進まなかった。
しかし、前後の人は一生懸命ラジオ体操をしていたので、自分も周りから浮かないように体操をすることにした。

ラジオ体操はご丁寧に第2まで全部あった。
第1は覚えているとしても、第2の振り付けなんて忘れていた。
仕方が無いので、廊下の前のほうで見本として体操している看護師をちらちら見ながらお手本にした。
毎日まじめに参加している他の入院患者はお手本など見なくても大丈夫なようだった。

せっかく覚えかけたラジオ体操第2だが、次の日以降はまた朝早く起きれなくなったため、体操する機会はほとんど無くなった。
入院中トータルで10回も参加していなかったと思う。
朝は1秒でも寝ていたいたちなので、仕方が無い。
これが強制でなく自由参加なのは本当に良かったと思う。

家賃を下げろ〜(DAY18)

この日、ふと「共有ホールの壁にあるポスターを全部見てやろう」という気になり、貼られている掲示物を全てチェックすることにした。
壁には日本地図から作業療法の手作りの作品や食事の献立表、その他お知らせの紙が貼ってあった。
すると、その中に「差額ベッド代改定のお知らせ」というプリントがあった。
入院で一番お金がかかるのが「差額ベッド代」と聞いていたが、それがさらに値上がりするという。
個室が最も高価で1日1万2千円以上。以下、人数が増えるごとに安くなっていく。
ケチな私は差額ベッド代がどのくらいになるものか、計算した。
そして、このまま二人部屋ではお金がかかりすぎるので大部屋に移りたいと思うようになった。

金額が気になるには理由があった。
私は医療保険に加入していたのだが、その加入日がメンタルクリニックの初診日より先に来るかどうか微妙だったからである。
保険は加入時に病気でないことを明示して入るものなので、初診日の方が前に来ていたら無効になってしまう。
保険が出るのと出ないのとでは、金銭的負担は大分違う。
私の場合はケチって日額5,000円コースにしてしまっていたが、それでも1ヶ月で15万円が支給される。これは大きい。

大部屋への移動について、主治医と相談したところ、ケチなところを半分笑われながら「分かりました」との回答を得た。
部屋の移動は移動先の都合もあるので、タイミングを見て行われるという。
よっしゃ!
小銭を切り詰めるのが大好きな私は心の中でガッツポーズを決めた。
精神病になったからと言って、元々の性格は変わらないものである。

缶詰の中から外へ(DAY19)

前述のように、私のいた閉鎖病棟には開く窓が一つも無かった。
鉄格子のはまった窓がない、というのは気分的にはよかったが、たとえ明るく光が差し込む清潔感あふれる環境であったとしても、外の空気に全く触れることができないというのは、また別の意味での閉塞感があった。
そんな風に感じていたところ、私に外気に触れるチャンスがやってきた。
「散歩」の許可が出たのである。
といっても、病棟を自由自在に出入りすることはまだできない。
「散歩時間」に出入り口のドア付近に集合して、看護師の先導でゾロゾロと病院の庭までおでかけするのである。

この日は初めての散歩時間があった。
私を含めて10名前後が集合していた。
なぜか参加者は全員女性だった。
病棟には男性患者もいるのだが、男性には散歩は人気が無い模様である。

散歩は外に出るのでスリッパから靴に履き替える必要があった。
靴はナースステーションの中に預けられており、勝手に履き替えることはできなくなっている。
病棟内は土足厳禁である。
各自、靴を受け取り、履き替えたら外へ出る準備は完了である。

閉鎖病棟の出入り口、ギギーッと鍵付きのドアが開いた向こう5メートルくらいには、もう一枚の鍵付きのドアが待っていた。
二枚扉になっているのである。
まるでエアロックのように、後ろのドアを閉めた後で前の扉が開けられた。
そして、次は1階まで降りるエレベータにぎゅう詰めになって乗り込んだ。
1階に下りると、庭に向かうため、病棟のメインの出入り口の自動ドアをくぐりぬけた。

とたんに、私は外気を呼吸した。
建物の外では、木の葉が風にこすれるかすかな音がした。
遠くでは鳥の鳴き声がした。
そして、ほのかに土の香りがした。
屋外の喫煙スペースからの煙のにおいが漂ってきた。
そこは完全に「外の世界」だった。
日の光がまぶしい。
「あっ、UVカット忘れちゃった」
紫外線予防クリームを忘れてしまったが、それは些細なことに思えて気にしないことにした。

外に出た皆は、ぞろぞろと庭のほうへと引率されていった。
「庭」といっても、小さなスペースである。
そこには、リハビリセンターのデイケアに通っている人の手による家庭菜園の小さな畑があり、様々な植物が育て中だった。
庭に着くと、自由時間である。
みんな適当に隣の人とおしゃべりをしたりして過ごしていた。
私も看護師と、身の上話に花を咲かせた。
入院して2週間くらいであること、最近は入院当初より調子が良くなって来たこと等である。
自由時間は15分程度であったと思う。
その後、全員でまた、ぞろぞろと病棟まで引率されて戻った。

「外の世界」の印象は清々しかった。
「またあの日のもとに出られるチャンスがあれば、必ず参加しよう」
私はこの「散歩」に味をしめ、またの機会を伺うのであった。

iPodに見る私物持込の状況(DAY20)

病室で暇なときは音楽くらい聴きたいと思うのが普通ではないだろうか。
しかし、私の入院先では病室への私物持込にはさまざまな制約があり、自分のiPodを持ち込み自由に使えるようになるには、各種障壁が立ちはだかったのである。

最初に病室への私物持込のルールについて説明しておくと、安全や病棟内の秩序に配慮するために、以下のものを持ち込むことはできなくなっていた。
1.ひも・ゴムのついた衣類(パーカーなど)
2.ひものついた靴
3.ハイソックス・ストッキング
4.ショルダーバッグなどのひもが長いバッグ
5.刃物、ハサミ、爪切り等
6.現金・貴重品(病室内への持込は不可で、病院に預ければOK)
7.ゲーム類・パソコン・小型テレビ(テレビはホールの1台を共有)
8.携帯電話・PHS(通信は公衆電話か手紙のみ)
1〜5は自殺・自傷防止のため、けっこう厳しくチェックされた。
私の場合、ドローストリング(ウェスト紐付き)のイージーパンツが持込チェックに引っかかった。
次いで、6の現金は分かるとして、7の暇つぶし道具系がダメというのが結構大きい。
そして、7にはギリギリ含まれないiPodやCDプレーヤーは、患者の状況により主治医の裁量によって許可されていた。

私が最初にiPodを持ち込みたいと言ったときは、まだ許可されなかった。
そのため、様子を見て、やっと許可された時は、非常に嬉しかった。
さっそく夫に電話をして、差し入れにiPodを持ってくるようお願いをしていた。

差し入れられたiPodは、「元の世界」にいた正常だった頃の音楽がそのまま入っている。
私は懐かしさのあまりバッテリーが切れるまで、繰り返し音楽を聴いた。
また、iPod(正確にはiPod nano)にはミニゲームが付いている。
暇になるとソリティアでずっと遊んでいた。
しかし、最初のうちは、10時から14時までというように時間制限がついていた。
あっという間に返却の時間になってしまう。
そのうち様子を見て、時間制限は外され自主管理となったのだが、本当にいろいろな事項について「制約の解除」は徐々に段階を踏んで行われるのであった。
ほとんどうざいと思えるほどに。

折り紙に関するエピソード(DAY21)

この頃病棟内で流行しているものがあった。
それは、折り紙。
特に千羽鶴。
暇な入院患者にとって、毒にならない何よりの暇つぶしである。

ことのはじまりは不明だが、誰かが普通の折り紙の4分の1サイズの千羽鶴用折り紙を持ち込んでいた。
共有ホールで何名かが折鶴を折っているのを見て、私もその輪に入ることにした。
「私も入れてください!」

私はさっそく折り始めた。
とっても久しぶりなのに、なぜかこういうものは指が覚えているというか、とにかくお手本もなしに難なく鶴を折ることができた。
これはちょっと嬉しい。

程なくこの折鶴サークルは仲間を増やしていった。
それに伴い、折れた鶴の量も半端ではなくなってきた。
数百以上まとまるとそれは圧巻だ。
入れているビニール袋もパンパンになってきていた。

みんなが「千羽」折れることを期待して一心不乱に折っていた。
千羽鶴というのは、やはり日本人にとっては特別な存在である。
願いをかけるには千羽折らなくてはならないのだ。

しかし、この素敵な計画は残念ながら途中で頓挫することになる。
折れた折鶴は、今度は糸に通して束ねなくてはならない。
その時に使用する「針」「糸」に病院から使用の許可が出なかったのである。
病棟での自傷関連の物の管理ルールは厳しい。

「はぁ?どういうこと?」
みんなは憤ったが、病院側の言うことが絶対なのである。
仕方なく、折れた分の鶴は言いだしっぺの荷物として引き取られた。
退院した後で、ちゃんと千羽鶴にしてくれたかどうだか。
その後のことは私には分からない。

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最新記事はブログ統合失調症患者のクワイエットルーム体験記でお読み下さい。
2007年12月29日(土) 17:28:24 Modified by quiet_room




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