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ある日のお昼時。
外は春らしい穏やかな風が吹いており、昼食を外で食べようと、
サラリーマンたちがコンビニ弁当片手に歩いているのが見える。
『春眠暁を覚えず』という言葉があるが、まさしくそれだ。
あまりののどかさに、春の訪れを感じずにはいられない。
だが、そんな外とは対照的に、事務所内は冷え切った空気で満ちていた。

この空気を生み出している張本人達は、ソファに座って無言で顔を突き合わせていた。
普段の、春が服を着て歩いているような雰囲気はどこに行ってしまったのかと思うほど、今の美希は冷たい空気をまとっている。
千早自身も私と同様、普段とはあまりにも違いすぎる美希の姿に多少なりとも動揺しているようだ。
体をこわばらせているのが傍目でもわかる。


『なんで、こんな空気になってるんですか?!重すぎますよ、これ!』
フロアには私と小鳥さんが静かにキーボードを叩く音が響いている。だが、仕事をしているわけではない。
『多分、千早ちゃんの新作CDが原因なんじゃないですかね・・・?』
『え〜?何ですか、それ』
私たちは今、メッセンジャーをやっている。といっても、別にサボりとか、そういうのではない。
あくまで、情報収集だ。
この空気の中、仕事に集中できるはずもなく。
ほかの社員のようにフロアを出たいところだが、見事にタイミングを失ってしまった。
このままだと、事務の仕事に影響が出ることは明らかだ。
なんとかしたいところだが、ここで状況をよく分かっていない私が出しゃばっても、さらにややこしくなるだけだ。
だから、何か知らないかと小鳥さんにメッセによる聞き込みを行っている。
『もちろん歌は問題なかったと思います。問題があるとしたら、トーク部分ですかね』
何か余計なことでも喋ったんだろうか。あの不器用な歌姫は。
『トークですか・・・。何か思い当たるセリフとか、ありましたか?』
『う〜ん。全部聴いたんですけど、そーですねー、思い当たる部分は何点かありますね』
(何点かって、複数あるんかい!・・・って)
『小鳥さん、いつ聴いたんですか?CD来たの、今朝ですよね?』
昼休みの少し前から二人があの状態なので、聞く機会はなかったはずだ。・・・きちんと仕事をしていれば。
今までは、すぐに返事が来ていたのに、かれこれ3分ほど返事がない。
ちらりと、小鳥さんの方を見ると、私と目を合わせまいと、必死に違う方を見ていた。
(これは、お給料カットかな・・・。やる時はきちんとやるんだけどなぁ、小鳥さん)
まぁ、いい。それよりも目の前で繰り広げられていることについて聞かなければ。
『まぁ、今はいいです。それより、原因と思われるようなことって、何なんですか?』
『はい、すみません・・・。えっと、ひとつ目はですね、千早ちゃんが響ちゃんに』
私が書き込まれたそれを目にするのと同時に、美希の声が聞こえた。

「『付き合って』って、どういうこと?」
『私と付き合って、って言っちゃったこと、かな?』

『他にも「我那覇さんとなら高みにいける気がする」とかなんとか』
『それは美希が怒るのも頷けますね』
最後のは私も怒って問題ない気がするけど・・・。
そういうことですか。なんとなく、原因が分かった気がする。
しかし、こうなると完全に2人の問題だ。私が口を出す問題じゃない。
『それにしても、ほぼ同時でしたね、今の! なんかドラマみたい^^』
『^^とかつけてる場合じゃないですよ、小鳥さん』
あきれていると、千早が申し訳なさそうに言うのが聞こえてきた。

「それは、CDの中でも言ったけど、歌を歌うのに付き合ってっていう意味で、その」
「そういう事を言ってるんじゃないの!!」
美希が怒鳴った。
あたりがしんとなる。
美希を除いた私たち3人の動きが一瞬止まった。
「ミキが言ってるのは、なんでそんな誤解されるようなことを言ったのかってことなの!
これが春香だったら、絶対勘違いしてたの!」
この状況にも関わらず、小鳥さんは『しゅ、修羅場ですね!』とか書きこんでいる。
ほんと、この人はどうしようもない。

こっちにはお構いなく、美希は話を続けていた。
「千早さんとミキ、付き合ってるんじゃないの?恋人同士なんじゃないの?
千早さんがミキに「好き」って言ったのはウソだったの?全部・・・ミキの勘違いだったの?」
(ちょっとちょっと!爆弾発言過ぎるわよ!!!)
思わずフロア内を見渡して、わかってはいるが他に聞いている人がいないか確認する。
今の発言は、記者などの外部の人間は勿論、うちのスタッフにも聞かせられない。
『爆弾発言キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!』
『空気読んで下さいよ、小鳥さん』
小鳥さんはテンションが上がりきったのか、私の突っ込みも無視して
一人でメッセンジャーをやり続けている。
実況気分のようだ。
(しかし・・・ますます、動きづらくなってきたわね)

「ねぇ、千早さんにとって、ミキって何・・・?恋人?友達?それとも、ただのユニット仲間?
ミキと一緒だと・・・千早さんは高みにいけないの?ミキは・・・千早さんの一番のパートナーになれないのっ?!」
「それは・・・」
「ミキ、もうわかんないよっ・・・!」
感情が爆発したせいか、美希は言い終わるやいなやその場に座り込み、泣き出した。
駆け寄ってやりたかったが、それは私の役目ではない。
現に、すでに千早がそばに座り込んで、美希の涙をハンカチでぬぐいながら謝っている。
普段は涙なんて見せない美希の泣き声は、聞いているだけの私も辛い気分にさせた。
「ごめんなさい、美希・・・。あれはそういう意味じゃないの・・・」
「ん、ぢはやさんの、んっ、バカぁっ、もう、っく、知らないのっ」
「美希・・・」
「ぢはやさんっ、は、ミキよりも、ひっ、ひびぎの方が、好き、なんでしょっ。・・・もう、ひびぎとユニット組めばっ・・・」
「美希っ!!」

今まで小さかった千早の声が、突然大きくなったと思うと、美希の泣き声がやんだ。
どうしたのかと思って、振り返ると、
「んっ・・・・・」
千早が美希にキスをしていた。

(なっ、なんですとおおおおおおっ!!?)
さすがにこの場を誰かに見られたら、言い訳できないのですけど!?
というか、私と小鳥さんがこの場にいることを覚えていらっしゃいます?
ちらりと見ると、小鳥さんは目の前の展開についていけないのか、顔を真っ赤にしてフリーズしていた。
普段は妄想しているくせに、実際に目にすると固まるとは・・・。
(もしかして、小鳥さんって案外初心?それはそれで、なんか結構かわいいかも・・・って、何を考えているんだ、私は!)
わたわたと慌てているこちらをよそに、二人は完全に私たちのことはアウトオブ眼中。二人だけの世界に行ってしまったようだ。

「美希、確かに我那覇さんは今まで765プロにはいなかったタイプだったわ。
彼女となら、今まで行けなかった高みにもいけるかもしれない」
「・・・・・・」
「でも、私は美希と、あなたと一緒にそこに行きたいの」
「・・・・・・」
「美希。さっきの質問の答えだけど、私にとってのあなたは、恋人であり、友人であり、一番のパートナーよ。これはずっと変わらないわ」
「っ・・・千早さんっ!!!」
「本当に、ごめんなさいね、美希。我那覇さんっていう新しい刺激を前に、私、舞い上がっちゃったみたいで」
「ホントなのっ・・・!千早さんのバカっ。・・・大好きなの」
「えぇ、私もよ、美希。じゃなきゃ、キスなんてしないわ」
「えへへっ。千早さん・・・」

(これ、完全に私たちのこと忘れてるわよねー・・・)
小鳥さんはまだフリーズしていた。
「えーっと〜・・・お二人さん?もう私たち、席を立ってもよろしいですか?」
そ〜っと、二人の空気を壊さないように声を掛ける。
「えっ!り、律子!?」
千早が慌ててこちらを見た。
やはり気づいていなかったようだ。
「そういえば、いたのよね・・・」
「やっぱり忘れてたのね・・・。そんなことだろうと思ったけど」
「ということは、さっきのも・・・?」
「えぇ。ばっちり小鳥さんと見させていただいたわ〜。ま、小鳥さんはショックのあまり、フリーズしちゃったけど」
ははは、と笑って言うと、千早は赤くなった顔を、手で覆い隠してしまった。
「忘れて!」と懇願されたが、あれはそうそう忘れられるものではない。千早には申し訳ないが。
「ま、なんにせよ、二人が仲直りしたみたいで良かったわ。ホント、あの空気じゃ仕事なんて全然手に付かなかったから」
「・・・ごめんなさい」
しかし、これでようやく仕事に手を着けることができる。時計を見ると、既に昼の休憩は終わっていた。
これは急いで手をつけないと、今日の分が終わらない・・・。
そう思っていると、それまで黙っていた美希が急に口をはさんだ。
「え?ミキはまだ、千早さんのこと許してないよ?」
「「え?」」
私と千早、二人の声がそろった。
「確かに千早さんの気持ちも、千早さんがすっごく口下手なのもわかったけど、まだダメなの」
「まだ、ダメって・・・じゃあ、どうすれば許してもらえるの?」
千早が恐る恐る聞いた。

「千早さんはミキのものだってこと、たっぷりわからせてあげるの!
とことんカラダに教え込めば、もうあんなことは言わなくなると思うの!」
ミキは得意げに言うが、その発言はマズくないですか?・・・色々と。どう考えてもヤバイ意味にしかならないんですが。
「えっ!?で、でもこのあと、まだ衣装合わせと雑誌の取材が残って・・・」
そうよ。アイドルとしての仕事はきちんとやらないと。
「だから、それが終わってから千早さんの家でするの。そこなら二人っきりだし、問題ないよね?」
美希が目先のことじゃなく、アイドルとしての仕事を優先するようになるなんて・・・。立派になったわね、美希・・・。
必死で現実逃避をするが、目の前の金髪の口から出るのはまずいセリフのみ。しかもどんどん酷くなっていってる気がする。
「あ、そろそろスタイリストさんと衣装合わせの時間なの。ほら、千早さん、いこ?
・・・あ、律子、小鳥。色々と気を使わせちゃって、ごめんなさいなの。お仕事、がんばってね!
あ、それと小鳥、ロッカーのあれ、全部借りてくの!」
じゃっ!と言い残すと、さっさと千早を連れてフロアを出て行ってしまった。

「全く・・・。さん、をつけろって言ったでしょうが・・・」
美希からの謝罪と激励にわずかに動揺してしまった。
あの子も、ああいうこと、言えるようになったのね・・・と、少しの間感慨にふけってしまった。
「さてと!美希からも言われたことですし、お仕事頑張りますか!ほら、小鳥さんもいつまでも固まってないで、そろそろ働いて下さい!」
未だに固まっている小鳥さんの肩を叩く。と、突然小鳥さんが、
「き、きゃあああああああっ!!!」と、叫んだ。
驚いてのけぞってしまった。いきなり何ですか、小鳥さん、と声をかける。
「ちっ、千早ちゃんと美希ちゃんが、キスッ?!しかも千早ちゃんから!!?まさかの千早ちゃん攻め!?
でも、さっき美希ちゃんが「カラダに教え込む」って言ってたし、ここはやっぱり美希ちゃんが攻めなのかしら!?
しかも私秘蔵のあれを全部借りてくってことは、今夜はかなりハードなプレイをっ・・・!!?」
いきなり意識を取り戻したと思ったら、これだ。
妄想の世界に飛んでいくのは恐ろしく速い。これくらい仕事も速ければいいのに。
(やっぱり、お給料カットは免れないかな・・・)
今日は残業かなと思い、一人デスクに向かった。
今日も765プロは平和である。






おまけ

 〜翌日〜

「お願いします!プロデューサー!!衣装をインディゴスパンクルからポーリータキシードに変えてください!!」
「曲も『エージェント夜を往く』だし、別にいいけど・・・なんで?」
「なっ、なんでもです!!」
「なんでもって・・・」
「別に見られてもいいと思うんだけどなー。そうすれば、千早さんはミキのってわかりやすいし」
「見せられるわけないでしょう!?あんなにいっぱいつけて・・・。それと美希、動きづらいんだけど。もう少し離れてくれない?」
「え〜。美希が離れたら千早さん、また浮気しそうだし、ヤ!!」
「・・・しないわよ」
「ホント〜?」
「・・・・・・あのぅ、話が全く見えてこないんですが」


「あの二人、勘弁してくれませんかね、ホント。いちゃつき具合がレベルアップしてるんですけど」
「まぁまぁ、律子さん、そんな事言わずに。怒ってると、可愛くないですよ?」
「茶化さないでください!!」

「フム、仲良きことは美しきかな、だな!」

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