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・・・3ヵ月後(12週間後)・・・
人気がうなぎのぼりの律子と伊織は今や飛ぶ鳥をも落とす勢いだった。
周囲からも、人気、実力共に認められるアイドルデュオになっていた。
今日は生の歌番組に出演する為に、楽屋で打ち合わせをしていた。
「やっぱりここはこうかなあ?」
伊織は簡単にダンスの振り付けをやってみせる。
「もうちょっと、右手が上かな。」
真剣な表情で律子が駄目出しする。
「この位?」
伊織は少し右手を上げてもう一度振り付けをやってみる。
「うん、OK!じゃあ、私の方見てくれる?」
「りょうか〜い。」
伊織は近くにある椅子に座って真剣な表情で律子の方を見る。
「♪〜」
軽く歌いながら振り付けをやっている。
(綺麗に伸びた手足は見栄えして良いなあ・・・。)
ちょっと悔しく思いながらも、ミスが無いかと真剣な眼差しで律子を見る。
「どうかな?」
一通りやって少し汗をかいて、それをタオルで拭きながら律子は聞いた。
「とりあえず全体的な流れは完璧だけど、意識が足元に行き過ぎちゃって視線が結構下向いちゃってる。まあ、実際カメラが目の前にくれば、そっち向いて問題は無いと思うけど。それだけ気を付ければ大丈夫。」
「う〜ん。そっか〜。昨日足つっちゃって、その時の痛みが少し残ってるんだよね。」
(流石は伊織。誤魔化せなかったわね。)
律子は伊織の的確な突っ込みに苦笑いしながら言った。
「えっ!?昨日ってあのリハの時?」
伊織は昨日のリハーサルで、自分が転倒しそうになる所を律子が支えてくれた所を思い出していた。
「ごめんなさい・・・。」
伊織はシュンとなって俯きながら謝る。
「良いのよ。私達デュオなんだからお互い助け合わないとね。ずっとそうやって来たじゃない。それに、伊織に見て貰っていて動き的に問題ないんだから、そんな顔しないの。」
律子はそう言いながら伊織の傍まで来て、軽くおでこを突っついた。
「う、うん。」
ちょっと気不味そうに苦笑いしながら頷いた。

「昨日の事はもう良いから、ね?もうすぐ本番だからそっちを頑張りましょう。」
「そうね。にひひっ。」
苦い顔をして居た伊織が笑いながら返事をすると、律子の方も軽く微笑む。
コンコン!
控え室のドアがノックされて律子は自分が言うからと黙って自分を指差してからドアを指差す。伊織はコクコクと頷く。
「どちら様ですか?」
入口近くまで来て、律子はドア越しに聞いた。
「律子か。俺だけど開けて貰えるかな?」
「プロデューサー!?合鍵持ってないんですか?とりあえず開けますね。」
驚いた律子だったがとりあえず鍵を開けて中へと招き入れた。プロデューサーは一人の見慣れない髪の長い女の子を連れていた。
「ごめんごめん。合鍵貰うの忘れてたよ。」
プロデューサーは申し訳無さそうに頭を掻いて言った。
「もうっ、しっかりして下さいよ!えっと、それで、そっちは誰です?」
律子は腰に手を当ててプロデューサーを睨んで言った後、一緒に居る髪の長い女の子に視線を移して聞いた。
「ああ、そうそう。二人に紹介しようと思ってね。先々週から新しく事務所に入った如月 千早君だ。ほら、大先輩に挨拶して。」
「初めまして。如月 千早です。お二人の活躍はTVで何度も拝見しています。若輩者ですが、宜しくお願い致します。」
挨拶しただけだが、千早の透き通るような声は控え室に響いた。
「凄く綺麗な声。磨けばもっともっと光りそうね。」
律子は感心したように言う。
「プロデューサー、そんな逸材何処で拾ったのよ?全く、私達に続けてまた良い子見つけたわね。」
少し離れて奥に居た伊織の方もその声にちょっと皮肉混じりに感想を言った。
「あ、ありがとうございます。」
千早はまさか今やメジャーになった二人から誉められるとは思っていなかったので、驚きながらも素直に一礼した。
「尽力するけど、正直俺だけじゃあ不安なんだ。二人からも少しで良いから助力して貰えたら幸いなんだが・・・。」
プロデューサーは手を合わせて二人様子を見ながら言った。

「アンタの頼みだし・・・。まあ、暇な時なら構わないわよ。にひひっ。」
伊織は笑いながら言う。
「正直、私達が口出すまでも無いと思いますけど。まあ、最初は不安だったし、最初のオーディションは落ちるし・・・。」
「うっ・・・。」
プロデューサーは痛い所を突かれて渋い顔をする。
「でも、ここまで来れたのはプロデューサーのお陰ですからね。後は、伊織が居てくれたから、かな。最初は喧嘩したりして正直どうなるかなって思ってたけど、今じゃ何でも話せる相手だし、最高のパートナーだから。」
フォローが入ってプロデューサーはホッとして胸を撫で下ろしていた。
「ま、まあ、最初はソロでデビューしたかったんだけど、今は律子と組んで良かったと思ってるわ。」
一方の伊織ははっきりと言う律子の言葉に照れ臭くなってちょっと赤い顔をしながら言う。
(んふふ、照れちゃって可愛い。)
「プロデューサー、ちなみに如月さんはソロデビューなんですか?」
伊織の様子を見た後、プロデューサーへ向かって聞く。
「ああ、そのつもりだが?」
不思議そうな言い方で答える。
「デュオは仲が悪くなったり、上手く行かない場合もあるだろうけど、私達はお互いに指摘して、尊重して、切磋琢磨し合ってここまで来たの。
勿論プロデューサーの力もあるけどね。ソロだとプロデューサーとの二人三脚だからプロデューサーの影響力が大きい。
プロデューサーが居ない時には貴方一人で色々な事を乗り越えていかなければならないわ。その覚悟はある?」
律子は真剣な眼差しで千早に聞く。
「あります!」
何の迷いも無くしっかりした口調で千早は律子の目を見て答えた。

「どうやら、芯のしっかりした子みたい。ねえ、プロデューサー。」
「ん?」
突然自分に振られて、プロデューサーは律子の方を向く。
「私や伊織よりも気難しそうだから、くれぐれも接し方には注意してあげてね。それさえ気を付ければ私達の後に続く可能性は十分にあると思うわ。」
「そ、そうか?」
「伊織は元々ルックスも良いし能力もあるからソロでデビューしてても売れてただろうけど、冴えない私を相方にした事で伊織一人よりも売れない可能性が高かった。
でも、ここまで育て上げた実績があって、さっき聞いたみたいに本人の実力もある如月さんが売れない訳ないものね?」
「変なプレッシャーをかけるなよ。それに、律子が冴えないなんて言った事ないし、思った事も一度も無いからな。」
ニヤッとしながら言う律子に苦笑いしながらプロデューサーは言った。
「本当ですかぁ?」
訝しげな表情になって律子はジト目でプロデューサーを見る。
「んっ、んっ。そんな話、今は良いんだ。二人はこれからの本番頼むぞ。」
プロデューサーは咳払いして、誤魔化すように話題を変える。
「任せて下さい。」
「私達にまっかせなさーい。にひひっ。」
律子はさらっと、伊織は笑いながら答える。
(これが、大物の余裕なのかしら・・・。)
千早は二人を交互に見て感心していた。

「千早は参考の為に二人を見て、それからオーディションに行こう。」
「はいっ!」
プロデューサーの言葉に千早は力強く返事をした。
「動きとか歌なんかで盗めるものはどんどん盗んで、早く私達の居る所まで駆け上がって来なさい。」
律子は言い方こそきつめだが、ちょっと微笑みながら言う。
「はいっ!ありがとうございます。」
千早は律子の雰囲気にちょっと圧され気味だったが頭を下げながらお礼を言った。
(私達を育ててくれているプロデューサーも居るし、才能もある。相乗効果で、きっとこの子は大きくなるわ。)
頭を下げている千早を見ながら律子は確信していた。
「じゃあ、そろそろADが呼びに来るだろうから、俺達は先に行って見ている事にするよ。さ、千早行こうか。」
プロデューサーに促されて千早は頷いてから歩き出す。
「あの、私が偉そうに言えた立場じゃないですけれど、お二人共頑張って下さい。」
ドアの手前で振り返って、恐縮しながらもはっきりと言う。
「んふふ、言うわね。新しく出来た後輩に無様な姿見せないように頑張るわ。」
ちょっと笑って手を上げながら律子は言う
「にひひっ、見てびっくりして腰抜かさないでよね。」
悪戯っぽく笑って手で拳銃の形を作ってその指で千早を指しながら伊織の方は言った。
(何もかも大物って事かしら・・・。)
二人の予想外の反応に恐縮していた千早は、毒気を抜かれてリラックスしていた。
「すいませ〜ん。本番20分前です。そろそろ良いですか?」
廊下からADの呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあ、プロデューサー、如月さん行って来るわね。」
「アンタも千早もちゃーんと見てなさいよ〜。にひひっ。」
二人はそれぞれそう言うと控え室から小走りに出て行った。
「さーて、俺達も行くとするか。」
「はい。」
プロデューサーと千早の二人も控え室を後にした。

生放送でのアクシデントもなく二人は歌とダンスだけでなくトークも完璧にこなしていた。
(これが・・・トップアイドル・・・。)
千早は元々人や雰囲気に飲まれるようなタイプではなかったが、二人の凄さを目の前でまざまざと見せ付けられて、その雰囲気に飲まれていた。
そして、本番が無事終了した。
「どうだ千早。その内お前もあそこに立つ事になる。いや、立たせて見せる。」
「プロデューサー・・・。宜しくお願いします。」
真剣な顔で言うプロデューサーに千早は無意識の内に頭を下げていた。
その様子を少し離れた所で、オレンジジュースを飲みながら律子と伊織は見ていた。
「あの眼差しにやられちゃうのよねえ。」
そう言いながら律子は伊織の方を見る。
「えっ?」
(何で私を見るの???)
よく分からない伊織は不思議そうに律子を見返す。
「伊織も、あの表情にクラクラって来ちゃった口でしょ?」
意味ありげに自分の口にコップを持っていない左手を当ててニヤニヤ笑いながら言う。
「あっ!?アイツ話したな〜。」
ちょっとムッとした顔になって伊織は言う。
「ふふっ、プロデューサーがそんな事、私に話す訳ないでしょ。」
「ああっ!り〜つ〜こ〜。」
目が笑っている律子を見て、かまかけられたと気が付いた伊織はふくれながら言う。
「ごめんごめん。でもねえ・・・全く、自覚ないのがまた困るのよねえ。」
律子は伊織の方を向いて謝った後、再び視線を千早とプロデューサーの方へ向ける。

「律子だってそうなんでしょ?」
「う〜ん。私は違う、かな。」
「?」
歯切れの悪い否定に伊織は首を傾げた。
「理由はなんにせよ、伊織と組めて良かったわ。じゃなかったらこんな所に居る事なんてありえないし。」
「私も組めて良かったけど、ここにって言うのは違うと思うけど?」
「私一人じゃ、ルックスからいってこんなに売れないよ。」
苦笑いして律子は言う。
「そう・・・かなあ?」
(どれもバランス良くて優秀だと思うけどなあ。)
やっぱり首を傾げたまま伊織は言う。
「伊織が居てくれたからよ・・・。プロデューサーなんて最初から二の次なんだから。」
周囲に聞かれないように律子は耳元に顔を近付けてそっと囁く。
(えぇええぇっ!?)
「わ、私も今は律子の方が・・・。」
伊織は驚きと恥ずかしさで赤くなってドキドキしながらゴニョゴニョと答える。
「私の方が・・・。何?」
意地悪な顔になって更に律子が聞く。
「・・・バカ・・・。」
伊織は照れながら小さな声で言った。

「二人共お疲れ様。」
少しして千早と一緒にプロデューサーが来て声を掛ける。
「どうでしたプロデューサー?」
律子は率直に聞いた。
「文句の付け様もないね。」
「まあ、当然よね。私と律子よ?」
「そうだな。」
間髪入れない伊織の言葉に少し笑いながらプロデューサーは言った。
「私達はこれで帰るから、如月さんを宜しく。くれぐれもオーディション不合格なんてさせないようにね。」
「そうそう。千早、落ちたらプロデューサーの責任で、受かったら自分の実力だと思えば良いから。」
「は、はあ。」
千早は伊織の言葉に困ったようにプロデューサーを見る。千早に見られてプロデューサーは冷や汗を垂らしていた。
「普段はこんな頼りない感じだけど、本番になれば頼りになるから。」
「そうなんでしょうか・・・。」
千早は思わず口が滑って言ってしまう。ハッとして口を抑えたが後の祭りだった。
「もしかして、今回初オーディションなの?」
「はい・・・。」
伊織に聞かれて千早は頷く。
「大丈夫よ。それこそ、私達では失敗してたけど、経験積んで今はそんなヘマしないわ。それとも自分の力に自信無い?」
「そんな事はないです・・・。」
気不味そうにチラッとプロデューサーの方を見ながら千早はボソッと答える。

「それなら大丈夫よ。如月さんの才能は本物だろうし、今さっき目の前で見た私と伊織の全ては貴方の隣に居るプロデューサーが築き上げてきたものでもあるのよ。
伊織みたいに能力あってもプロデューサーに恵まれなければくすぶっていたかもしれないし、逆にパッとしない私でも、実際にここに居るでしょ。
実際ここに来るまでに、能力があってもプロデューサーに恵まれなくて脱落していった人達を沢山見てるからね。」
真剣に言う律子の言葉に千早は聞き入っていた。
「それこそ、私だって「げっ!」何こいつって位、歌とかダンスとかルックスだって悔しいけど勝てないって思う相手沢山居たわよ。でも、コイツのお陰で難局乗り切ってきたから。まあ、代わりにそいつ等は消えてったけどね。」
伊織は腕を組み強い口調で言った。
「ここまで私たちを育てて来てくれているプロデューサーだから、信じてあげて。きっと如月さんの能力をもっと引き出してくれるわ。そこに関してはかくいう私がそうだから間違いないわ。正直ここまで出来るとは私自身驚いてる位だから。」
律子は少し笑いながら言う。
「そうなんですか?」
そういう千早だったが律子の言葉をにわかに信じられないといった感じだった。
「まあ、とにかくオーディション受けてみれば分かるわよ。あんた、先輩やプロデューサー相手に、それだけズケズケ言える度胸あんだから大丈夫よ。にひひっ。」
「すいません・・・。」
そう言われて、千早はちょっと申し訳無さそうにかしこまる。
「こらこら伊織。これからオーディションだっていう可愛い後輩に変なプレッシャーかけてどうするのよ。如月さん、自分を信じるのは勿論、レッスンの成果、プロデューサーの指示に従えば必ず合格できるわ。頑張ってね。」
律子は軽く伊織のおでこに突っ込みを入れてから、千早の方に向き直って軽く肩をポンポン叩きながら言った。
「あ、ありがとうございます。頑張ります。」
千早は少し緊張しながら答えた。
(う゛〜・・・。)
千早に親切に接している律子の姿を見て、伊織は不機嫌な顔になっていた。
(何でそんな奴にそんなに優しくするのよ・・・。)
更に明らかに内心で嫉妬していた。

「そろそろ時間に間に合わなくなるから行こう。」
プロデューサーは時計を見て千早に言った。
「あっ、はい。」
「じゃあ、今日はお疲れ様。次も宜しく。」
そう言うと二人の返事も待たずにプロデューサーは千早を連れて行ってしまった。
「全く・・・。」
やれやれというポーズを取って律子は溜息混じりに呟いた。
「本当にやれやれよね。」
「プロデューサーもだけど・・・貴方もよ。伊織。」
不機嫌な顔で言う伊織に素早く突っ込みを入れる。
「えっ!?私!?」
「そうよ、まだ周りに人も居るし、後輩にあんな態度とっちゃイメージマイナスで勿体無いわよ。」
驚く伊織に苦い顔をして律子は言った。
「だってぇ・・・。」
少しふてくされて言う。
「もう、そんな顔しないの。如月さんにも広告塔になって貰うって思えば良いでしょ?」
「・・・うん・・・。」
律子の言葉に伊織は渋々納得する。
「それじゃ本番も終ったし、帰りましょう。お疲れ様でした〜。」
「そうね。お疲れ様でした〜。」
二人は周りに残っている出演者やスタッフに声を掛けてから、スタジオを後にして控え室に向かって歩き出した。

着替え終わってから、TV局の玄関でタクシーに乗って都内に何ヶ所かある内の一番近いマンスリーのワンルームマンションへと向かった。
売れっ子の二人は一時期一ヶ所に住んでいたが、追っかけに場所がばれてしまい大騒ぎになった。
それを教訓に、定住せずに一ヶ月で移動できる場所を何ヶ所か事務所の方で借りて、日によって終った所から一番近い部屋に点在していた。
あちこちでの出没の情報は流れていたが、定住していないので変な騒ぎにはなっていなかった。
「2060円になります。」
「あ、お釣は良いです。」
律子は三千円を渡して言った。
「毎度〜。荷物下ろすの手伝うよ。」
気前の良い客に気分を良くした運転手は、着替えの入った荷物を下ろしてから軽く二人に手を振って去って行った。
二人はそれぞれ荷物を持って部屋まで移動していった。
部屋で荷物を置いてから、伊織はベッドに身を投げた。
「ふぅ、疲れた〜。」
伊織は大の字になって伸びをしながら言った。
「はい、お疲れ様。」
そう言うと律子はベッドの横に座って両手で持っている内の片方のグラスを差し出す。
「あっ。ありがとう。」
伊織は起き上がってグラスを受け取る。
コクッコクッ・・・
「あ〜美味しい〜。」
冷えたミネラルウォーターを飲んで伊織は満足そうに言った。

「もう少しどう?」
意味有りげに妖しく微笑みながらトーンの下がった声で言う。
(いつものこの笑顔・・・。)
「えっ!?あ、貰おう・・・かな。」
ちょっとドキドキしながら伊織は答えた。
「んふふ。」
律子は自分の持っているグラスに入っているミネラルウォーターを少し口に含む。
そして、そのまま伊織にキスする。
「んっ・・・んっ・・・。」
「んぅ・・・。」
律子の口の中で温かくなったミネラルウォーターがゆっくりと伊織の口の中に流れ込んでくる。
コクンッ
それを伊織は飲み干す。その後からも、温かくねっとりとした唾液が律子の舌と一緒にゆっくりと入ってくる。
「うんっ・・・んぅう・・・。」
「んっ・・・んっ・・・。」
二人は自然と抱き合って目を瞑ってお互いの舌を求めて絡み合う。
「んぷはぁ・・・んちゅっ・・・んっ。」
「んはぁ・・・ちゅぷっ・・・んんっ。」
一回息継ぎの為にお互いの唇が離れる。そこで二人は瞳を開いてお互いを愛しそうに見つめ合う。
(律子・・・。)
(伊織・・・。)
舌はお互いを求め合うかのように触れ合ったまま、宙で動き合う。少ししてお互い間合いが分かっているように瞳を閉じて再度唇が触れ合う。
交互に舌を出し入れし合う。入ってくる舌を受け入れてその内に引いていく相手を求めて入れる。繰り返しているうちにお互いの気持ちと顔が上気し始める。

「んっ・・・はぁあぁ・・・。」
暫くして律子の方から舌と唇をゆっくりと離す。
「律子ぉ・・・離れちゃ・・・いやぁ・・・。」
つーっと糸引く唾液を見ながら伊織は切ない声を出す。
「伊織からも水飲ませて、ね?」
「うん・・・。」
伊織は自分に渡されたグラスに残っているミネラルウォーターを口に含んで待ち切れない気持ちを抑えずにすぐに律子にキスをする。
さっきの律子とは違い一気に押し込む。
「ん゛ん゛っ!?」
律子は驚いて一気に受け入れきれずに口から漏れてしまう。
(にひひっ。)
伊織はやったと内心で悪戯っぽく笑っていた。
ツツーっと顎を伝ってお互いの首筋まで流れていく。伊織の方は敏感に反応してピクッと動く。
(お・か・え・し。)
律子はその反応を見て、キスしていた口を伊織の口から外してそのままミネラルウォーターが流れていった軌跡をなぞるように舌を這わせていく。
「律子・・・キスはぁ・ふぁあん・・・。」
律子の舌が首筋まで行くと伊織は話していた声が甘い声に変わる。
「んっ、ちゅっ、ちゅうぅぅーーー。」
(律子・・・上手・・・。)
「んっ・・・あぁ・・・・ふあぁああ。」
首筋を丹念にキスされると伊織はピクッピクッと動いて背筋からゾクゾクと来る感覚に思わず声が出る。

「伊織・・・時間だからここまでね。」
「ええっ!?」
律子に言われて酔っていた感覚が一気に引いていき驚く。律子の方は離れてから小さな目覚まし付きの置時計を見せる。
時間は既に1:00を回っていた。
「う゛〜〜。」
物凄く不満そうな顔をして唸る。
「明日早いし、続きは週末の本番が終った後にね。それまではキスで我慢して。良い子だから、ね?」
「う・・・うん・・・。」
不承不承伊織は頷いた。
「それじゃあ、おやすみ伊織。」
そう言って律子は頬に軽くキスする。
「おやすみ、律子。」
伊織の方は軽く律子の唇にキスをした。
そして、隣同士一つの大きな枕で眠りについた。

その頃、真夜中のオーディションが終った千早は合格発表を待っていた。
横で一緒に座っているプロデューサーはウトウトしていた。
(さっきまでの真剣な表情とのギャップが・・・。)
千早は声に出していなかったが、うたた寝しているプロデューサーを見て思わずには居られなかった。
「お待たせしました。それでは今回のオーディションの合格者を番号で発表します。」
審査員の一人がドアから入って来て言う。千早も含めて待っていた皆に緊張が走る。
「合格者は二人。3番と15番。呼ばれなかった人は帰って良いよ。それじゃあ、お疲れ様。」
周囲の人の殆どが溜息をつく。深夜という事もあり疲れていて落選したアイドルの卵達はぞろぞろと部屋を後にしていた。
「プロデューサー、起きて下さ・・・。」
横を向いてうたた寝していたプロデューサーに声を掛けようとすると
「おめでとう、千早。」
すっかり、起きていて笑顔で声を掛けてきた。
「あ、ありがとうございます。」
(いつの間に?)
千早は驚いていたが、普通にお礼を言った。
「それじゃあ、ぱっぱと話しつけてくるから待ってて。」
「はい。」
軽く手を上げて、審査員の一人の方へ歩いていく。千早の方は待ちながら部屋をぐるっと見渡した。もう一人の合格者の方は緊張しているのか、ガチガチになって少し震えているようだった。

(私もああいう風に見えるのかしら?)
そう思いながらプロデューサーの方を見ると、もう片方の合格者のプロデューサーも一緒に審査員と話をして居たが対照的だった。
向こうのプロデューサーの方は一生懸命にメモを取って余裕は全く無さそうだった。それに比べて自分のプロデューサーは余裕で談笑しながら審査員と話をしている。さらに、相手のプロデューサーにも話しかけてリラックスさせているようにも見えた。
「・・・。」
思わず無言のまま千早はその三人のやり取りを真剣に見ていた。
暫くして打ち合わせが終ったらしく、審査員が先に部屋から出て行く。プロデューサーの二人は一礼してそれを見送った。完全に出て行くと相手のプロデューサーは自分のプロデューサーにペコペコと頭を下げていた。
その様子を見て苦笑いしながら肩をポンポンと叩いて何か話してから名刺交換をして、千早の元へ戻ってきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま、TV収録は今週末。新人紹介ってことで大先輩と同じ枠だぞ。」
「それって・・・。」
千早は思わず聞いてしまう。
「ああ、律子と伊織と一緒の出演だ。」
(あの二人と一緒・・・。)
さっきまでとは違ってちょっと緊張した千早はギュッと膝の上の手を握った。
「さあ、もう時間も遅いし送っていくから行こう。」
「あっ、はい。」
促されて立ち上がった千早は部屋から出る前にチラッともう片方の合格者を見てみた。
そこは二人の空間よろしく、プロデューサーと一緒に両手を握り合ってブンブンと上下に振って合格を喜び合っていた。

「あの・・・。」
車の中でさっきの光景が気になっていた千早は隣で手帳を覗き込んでいるプロデューサーに聞いた。
「ん?どうした千早?」
不思議そうにプロデューサーは目線を手帳から千早に移す。
「さっきの、もう片方の合格者のプロデューサーと凄く違うんだなと思って・・・。」
千早は正直に言った。
「ああ、最初はあんなもんさ。俺だってあんなだった。ただ、候補生はあんなに大人しくなかったけどな。」
少し笑いながらプロデューサーは言う。
「そうなんですか?」
「ああ、今回と違って激戦でな。律子と伊織に至っては最初のオーディション不合格だったからな。しかもなあ、俺が攻められる前に二人とも最初は仲悪くて喧嘩しちまってな。」
昔を思い出すように少し渋い顔をしながら言う。
「今からは想像もつきませんね。」
「ああ、次のオーディションでは見違えるように変わって、ダントツで文句なしの合格だった。」
「なるほど。」
(最初から全てが上手く行っていた訳ではないのね。)
千早は話を聞きながら心の中でも頷いていた。
「今日も大丈夫とは思って居たが、二人に変なプレッシャーかけられてたからな。それこそ、千早よりも緊張してたよ。」
「本当ですか?そうは見えませんでしたけれど。」
少し訝しげに千早は言う。
「まあ、信じる信じないは千早に任せるよ。着いたら起こすから寝れるなら寝ておいた方がいい。週末までは今まで以上に忙しくなるからな。週末のTVでヘマは出来ないからな。」
「はい。ではちょっと失礼して・・・。」
真面目な顔で言うプロデューサーに返事をしてから、千早はその場で目を瞑った。

・・・週末・・・TV局・・・
「おはようございます。」
「おはようございま〜す♪」
律子と伊織はスタッフ達に元気良く挨拶した。その後、控え室になっている楽屋へと移動した。
「今日は後輩のTVデビューも重なってるから頑張らないとね。」
「えっ!?この前の・・・千早だっけ?」
伊織は律子の言葉に驚いて思わず聞いた。
「そう、如月 千早。」
「じゃあ、アイツちゃんと合格させられたんだね。んもう、律子には教えて、私には教えてくれないんだから。」
ちょっとムッとして伊織は言う。
「今週、全然私達の所に来なかったでしょ?」
「そういえばそうだっ!私達はほっぽっときっぱなし?」
益々機嫌が悪い顔になって伊織は言う。
「それでね、頭来てプロデューサーに携帯で連絡取ったら、如月さんが合格して今日の為に特訓特訓で忘れてたって平謝りしながら言ってたわ。」
ちょっと溜息混じりに律子は言う。
「にひひっ、アイツめ〜。そういうつもりなら今日来たら思いっきり文句言ってやるんだから。」
「許可。」
意地悪な笑いを浮かべて腕を組みながら言う伊織に律子は即座にキッパリと言った。
「ぷっ、あははっ。」
少し見合った後、可笑しくなって二人は笑い合った。

「二人ともおはよう。」
「おはようございます。」
少しして、千早を連れたプロデューサーが楽屋にやってきた。
「おはようじゃ無いわよっ!」
伊織は開口一番プロデューサーに怒鳴った。流石にプロデューサーはたじろぐ。助けを求めるように律子を見るが律子の方は完全に知らん振りする。千早の方はどうして良いか分からずその場で困惑していた。
「ちょっとアンタこっち来なさいよね!」
そういって、自分の足元にある座布団を指差す。
「ああ、如月さんはこっちにね。」
そう言って、律子はいつの間にか千早の手を引いて伊織とは離れた方へと誘導していく。
「あの、良いんですか?」
千早はプロデューサーを横目に恐る恐る聞いた。
「良いの良いの。放って置くプロデューサーが悪いんだし。伊織に本番あの状態で出られたら上手く行くものも行きそうに無いからね。」
ちょっと苦い顔をして律子は答える。
「水瀬さんはそれで良いとして、秋月さんは良いんですか?」
千早は特に怒ったそぶりも全く無いので不思議に思い聞いてみた。
「えっ?私?ああ、私はこの前電話で怒ったから良いの。それに、怒るのはこれからになりそうだしね。」
「?」
意味有りげに笑いながら言う律子を千早は不思議そうに見ていた。

「大体ね!トップアイドルの私達をほっといてどういう了見なのっ!アンタ、プロデューサーでしょ!」
律子からお預けを食っている不満もあり、伊織は大爆発していた。
「い、いや放って置くつもりはなかったんだ。トップアイドルだから君達に任せて大丈夫だと思って居たんだ。律子もいるし・・・。」
そう言ってまた律子の方をチラッと見る。
律子の方はふいっと視線と一緒に首をあからさまに逸らす。それを見てガーンという顔になる。
「アンタがそんなんだから駄目なのよ!」
更にそこへ伊織の駄目出しが容赦なく出る。
「まあ、あっちは放って置いて如月さんは本番前にリラックスしておいてね。」
律子はそう言って軽く肩に手を置いた。その後で、きゅうすにお茶っ葉を入れポットからお湯を出して少し置いてから、お茶を煎れて千早に出した。
(秋月さんはトップアイドルだけど、凄く親切で行き届く人なのね。)
「すいません、恐れ入ります。」
感心して恐縮しながらも千早はしっかりと受け取ってお茶を飲む。
「初めてで色々分からない事もあると思うけど、多少のフォローならして上げられると思うから安心して思い切ってやってね。如月さんなら実力出せば全く問題ないと思うから。」
「ありがとうございます。全力で頑張ります。」
微笑みながら言う律子の言葉に真面目な眼差しで千早は返事した。
(この子は根っから真面目なのね。でも、芯はしっかりしててプレッシャーに潰されないタイプね。)
千早を見ながら律子はちょっと感心していた。

俯いて説教されているプロデューサーを見下ろして怒っていた伊織は、チラッと律子と千早の方を見る。普通に話しているのだが、妙に仲が良い様にしか見えなかった。
(むっか〜!千早、何律子とそんなに仲良くしてるのよっ!!!)
内心で違う嫉妬の爆発が起こった。
「アンタね!黙ってるのは良いけど。今日のスケジュール大丈夫なの?」
そう言われてハッとしたプロデューサーは顔を上げる。
(もしかして・・・。)
それを見て律子の方は嫌な予感がした。
「プロデューサー・・・。まさか・・・。」
律子が何とも言えない顔で聞く。
「すまん、律子力を貸してくれ。」
(あーあ。嫌な予感的中か。)
頭を下げるプロデューサーを見て律子は頭を抑えて苦笑いしながら思った。
「本番まで時間ないから、一緒に行きましょう。ごめん、私だけ後で戻って来るからそれまで二人で待ってて。伊織、AD来たら適当にやり過ごして。後は任せるわ。」
そう言って、律子は立ち上がる。
「まっかせなさーい。にひひっ。」
伊織の返事に律子は頷く。
「すまん、律子。」
「謝ってる暇があったら、行きましょう。」
二人はそのまま、急いで楽屋を出て行った。

「全く、アイツは・・・。」
まだ、怒り足りない伊織は立ったまま愚痴っていた。
「あの・・・水瀬さん・・・今日のスケジュール大丈夫でしょうか?」
流石に今のやりとりに不安になった千早が聞く。
「まあ、アイツだけならヤバイかも知れないけど、律子が居るから大丈夫よ。」
「そうですね。秋月さん、とても良い人ですね。」
伊織の言葉に納得して、さっきのやり取りを思い出しながら千早は言った。
「・・・。」
「?」
(水瀬さんどうしたのかしら?)
突然黙り込んだ伊織をみて、千早は怪訝そうな顔をした。
「・・・。」
(とても良い人?・・・こんな新人如きに・・・。)
プロデューサーへの怒りと律子にお預けを食っている不満に伊織は無意識に千早を睨んでいた。
「・・・。」
(私・・・何か悪い事したかしら・・・。)
睨まれた千早はビビッてはいなかったが、何故睨まれているのか分からずに思わず見返していた。
「なーに、千早?」
「いえ、別に。」
不機嫌な伊織に普通なのだが素っ気無く答える。二人の間に重苦しい嫌な空気が流れる。

「なに、その態度?ムカつくんだけど・・・。」
「どうしろって言うんです?」
あからさまに怒っている伊織だったが、それでも千早は全く動じていなかった。
「その態度が気に食わないわっ!」
「だからどうしろって言うんですかっ!」
伊織から理不尽に怒鳴られて納得の行かない千早の方も思わず声を荒げる。
「先輩相手に良い度胸してるじゃないの。」
「あっ・・・。」
流石にそう言われてハッとした千早は口をつぐむ。
「ふんっ、最初の時の図々しさは何処行ったのかしらね。」
「くっ・・・。」
嫌味を言われて思わず千早は歯を食いしばる。そんな様子を面白そうに見ながら伊織は座っている千早に近付いていく。
「貧相な胸ね。」
伊織は目の前で屈んで千早の胸に触れる。
「やっ・・・止めて下さい・・・。」
赤くなりながら小さな声で言う千早。
「揉めば少しは大きくなるんじゃないのぉ?」
嫌みったらしく言って伊織は小さな千早の胸を軽く撫でるように揉む。
「イヤッ、止めてっ!」
ドンッ
「あっ!?」
伊織は急に反撃にあって、千早に突き飛ばされる。
ガンッ!
「あ゛っ!?」
ズルズル・・・
元々トレーニングをしていてパワーのある千早に、小柄な伊織は近かった壁まで一気に突き飛ばされて後頭部を打って一声変な声を上げそのまま崩れ落ちた。

「えっ!?」
胸を揉まれた恥ずかしさで赤くなっていた千早だったが、伊織の声と壁に当たった音で我に返って思わずそっちを見る。
「み、水瀬さん?」
声を掛けたが、伊織は全く返事をしない。
(わ、私・・・。)
今の状況に流石の千早も顔が青くなった。
「ど、どうしよう・・・。」
そう呟いたが、どうする事も出来ずにその場で固まっているしかなかった。

「二人ともお待たせ。全くプロデューサーには困ったものよね。ってどうしたの?」
暫くして戻ってきた律子は部屋の雰囲気が変なのに気付いて見渡しながら聞いた。
「あの・・・その・・・。」
(この子が動揺するってどういう事?)
あからさまに動揺している千早をみて律子は真面目な表情になって千早に近付いていった。そうすると、視界から千早の体の陰に隠れていた伊織の姿が見える。あからさまにぐったりしている。
「伊織どうしたの!?千早、誰か入ってきてやられたの?」
流石に律子も伊織の状態を見てちょっと動揺して目が泳ぐ。それでも、千早の方へ聞く。
「うっ・・・あっ・・・。」
千早の方は言葉に出せないのか、首をブンブン振る。
(どういう状況なのか・・・千早がこれじゃあ分からない。とりあえず・・・。)
律子は、壁にもたれ掛かっている状態の頭をそっと持つと後頭部にこぶが出来ているのがわかった。そして一旦伊織を静かに寝かせる。
「頭を打っているのね。千早、貴方には後で事情聴くかけど、先に救急車呼ぶけど良いわね?」
律子の言葉に千早はただ、頷くしかなかった。それを確認して律子は先にプロデューサーへ連絡を入れる。
「もしもし、プロデューサー?伊織が頭打って気を失ってるから救急車呼ぶわ。すぐに楽屋に来て。」
それだけ言うと一方的に切って、すぐに救急車を呼んだ。

少しして、プロデューサーが付き添いになって伊織は運ばれて行った。
「とりあえず、本番まで時間ないから。良い千早?聞こえてる?」
両肩を抑えて律子は千早の目の前で聞く。
「あっ・・・はい。」
目の前に律子が居るのは分かっているのだが、心ここに有らずといった感じで千早は返事する。
(参ったわね。千早、かなり動揺してる。私も動揺してるけど、二人でドツボにはまる訳に行かないし。プロデューサーが居ない今、私がここで踏ん張らないと。)
律子は一回目を瞑って深呼吸する。
「千早も深呼吸して。」
「すぅー・・・はぁー・・・すぅー・・・はぁー。」
千早は無言のまま頷いてから、律子に合わせるように深呼吸した。
「とりあえず、伊織は私と打ち合わせ中に足元誤って転んだ。って事にするから。口裏合わせてね。」
「は・・・い・・・。」
(この煮え切らない返事・・・。何かあるのは分かるけど・・・。今は追及すべきじゃないわね。)
微妙に頷く千早を見て、律子はそう判断していた。
「私達は前のVとってある分使うって事で大丈夫だから、後は貴方だけ。良い?千早頑張ってね。もう、しっかりしなさい!」
ピシャッ!
千早の状態を見ていられなかった律子は、そう言いながら両頬を挟むように軽く叩いた。
「あっ!?」
動揺してボーっとしていた千早はそれでハッとする。
「よしっ!気が付いたわね。本番10分前よ。行けるわね?」
「はいっ!」
ウインクして言う律子に千早は真面目な顔に戻ってしっかりと返事をした。

見事にTVデビューを飾った千早はその実力で周りをあっと言わせた。もう一人合格していたアイドル候補生が霞んでしまっていたのは誰の目から見ても明らかだった。
一方律子の方は、上手いトークで伊織の居ない穴を埋めて無難に乗り切っていた。
「はい、本番終了でーす。皆様、お疲れ様でしたー。」
ADの声がセットの中に響き渡る。
「伊織ちゃん、すぐ戻ってくると良いね。」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
大物タレントに声を掛けられて、律子は頭を下げてお礼を言った。
「今日は伊織ちゃんのドキドキトークが無くて安心した反面、活気が無くてちょっと寂しかったかな。それと、新人に食われちゃってたかもね。」
「いえいえ、同じ事務所の如月 千早も宜しくお願いします。」
番組スタッフからも声を掛けられて答えていた。少し離れた所で千早は黙って立っていた。どうして良いか分からない感じだった。そんな千早を心配そうに時々チラチラッと視界に入れながら律子は関係者と話をしていた。
プロデューサーの方も律子とは違う関係者に伊織と千早の事について質問攻めにあっていた。

(全く・・・。しょうがないわね。)
「あ、すいません。伊織の事が心配なんでこの辺で良いですか?」
「おお、ごめんごめん。伊織ちゃんに宜しく伝えてね。」
相手の方はその言葉に謝る。
「はい。それでは、失礼します。」
律子は頭を下げてから、一人で立ち尽くしている千早の方へ近付いて行った。
(本番は大成功したけれど・・・。)
千早は内心複雑だった。律子とプロデューサーのお陰で本番中は歌う事に集中出来ていたが、終わった途端集中力が途切れて楽屋での出来事を思い出してしまっていた。
「如月さん。」
「えっ、あっ、秋月さん、お疲れ様でした。」
突然横から声を掛けられて驚いた千早だったが、声の主が律子と分かるとほっとして挨拶した。
「まだ、関係者が沢山残っているから、恐い顔してちゃ駄目よ。」
「えっ!?」
小さな声で言われた千早は思わず驚いてしまう。
「顔、強張っちゃってる。とりあえず周りに挨拶だけ回って楽屋に帰りましょう。」
「はい、すいません・・・。」
「そんな顔は後ですれば良いから、自然体で、ね?」
「頑張ってみます。」
律子に促されて千早は一緒に関係者に挨拶に回った。律子の方は、挨拶で頭を下げている千早の宣伝をしていた。

(これって、私の仕事じゃないんだけどなあ。)
内心で苦笑いしながら、最後にプロデューサーの所へ回ってきた。
「プロデューサー。」
「ああ、律子、千早、お疲れ様。」
プロデューサーはすっかり忘れてた感じで慌てて挨拶した。
「んもう、挨拶回りしちゃいましたよ。次はお願いしますよ。社長に告げ口しますからね。職務怠慢だって。」
腰に手を当てて、ムッとした顔で律子は言った。
「すまん、すまん。」
「全く、りっちゃんの方がプロデューサーに向いてるんじゃないの?」
謝るプロデューサーを見て周りにいる関係者の何人かが笑いながら言った。
「とりあえず、如月さんは預けますから。後で事務所で会いましょう。それでは、皆さんお先に失礼します。」
「お疲れ様でしたー。」
周りの関係者から挨拶を貰って律子はスタジオを後にした。

・・・二時間後・・・
律子と千早とプロデューサーの三人は別々に事務所に戻って来て、今は一緒に事務所の会議室に揃っていた。
「二人ともお疲れ様。」
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
それぞれ声を掛けてから、飲み物を飲んで一息ついた。
「それで、伊織はどうしたんだ?」
一応律子の申し出で、口裏を合わせていたプロデューサーだったが本当の所を知って置きたいと思って千早に聞いた。
「えっ・・・あの・・・。」
俯いた後、チラチラと律子の方を見る。
(私にだったら話すって事かな・・・その反応は・・・。)
律子はちょっと苦笑いした。
「プロデューサー。とりあえず、事情は私が聞いて話すって事でも良いですか?」
「う〜ん・・・。」
プロデューサーは何ともいえない顔をする。
(この様子だと、プロデューサー帰り気遣って何も聞かなかった感じね。)
「これから、マンションに戻って事情を聞きますから。私だってどういう事か聞きたいですし。」
律子はそう言ってからプロデューサーの言葉を待った。
今日も律子に助けられた事もあり、プロデューサーは少し考え込んでいたが切り出した。
「分かった、後で教えてくれ。じゃあ、後処理してくるから頼む。」
そう言ってプロデューサーは会議室から出て行った。
「すいません・・・。」
千早は完全にプロデューサーが出て行ったのを確認してから律子に頭を下げながら謝った。
「まあ、良いわ。とりあえずマンションに行きましょう。そこで落ち着いてから話しましょう。」
ちょっと溜息をついてから千早を促した。

565 律子×伊織×千早 sage 2005/11/01(火) 20:41:50 ID:kAhzxcTb
あまり家具の無いさっぱりとした部屋に入って千早は思わずキョロキョロしていた。
「ミネラルウォーターで良いかな?」
「あっ、はい。」
千早は返事した後に、何処に座った良いのか分からなくて立って待っていた。
「あれ?その辺に座ってくれれば良かったのに。どうぞ。」
そう言って、クッションを先において千早が座るのを確認してからグラスを渡した。
「ありがとうございます。」
千早は受け取って軽くミネラルウォーターを飲む。
(いきなり本題に入らない方が良いかな・・・。)
そう考えた律子は、今日の収録の感想なんかを暫く聞いていた。
♪〜♪〜
話している途中で不意に律子の携帯が鳴った。
「あれ?プロデューサーからだ。ちょっと待ってね。」
「はい。」
すっかりリラックスしていた千早は素直に返事をしてその場で待っていた。律子の方は立ち上がって千早に背を向けてから通話ボタンを押した。
「はい、律子です。事後処理トラブルですか?」
別れてからさして時間が経っていなかったので、律子は今日の事か次の仕事の件で何かトラブルでも起きたのかと思って聞いた。
「「いや、違うんだ・・・。取り込み中だったか?」」
「いえ、大丈夫です。どうしたんですか?」
「「それがな、落ち着いて聞いて欲しい・・・。」」
ゴクッ
プロデューサーのいつに無い真面目な口調と言葉に思わず唾を飲んだ。
「「伊織なんだが・・・。」」
「はい・・・。」
(何か嫌な予感がするのは、気のせいかしら・・・。)
返事をしながら、律子は少し背筋がゾクッと来ていた。
「「暫く目が覚めないらしい・・・。」」
(えっ!?どういう事?)
一瞬違う事を聞いたのかと思って頭の中でプロデューサーの言葉を反復していた。
「もう少し詳しく・・・。」
(落ち着け、私。)
そう冷静に行っていたが、自分自身の動揺が隠せない。携帯を持つ手が細かく震える。

「「後頭部を強打しているみたいで、脳波に異常が出ているらしい。脳自体には損傷なんかは無いようなんだが。」」
(脳波に異常!?)
ドクンッ!
律子の心臓が大きく脈打つ。
「「今の状態だと暫くは目が覚めないらしい。最悪・・・。」」
「言って・・・下さ・・・い・・・。」
律子は消え入るような声で言った。
「「一生目が覚めないかもしれないそうだ・・・。」」
(一生!?)
「ご両親やお兄さん達には伝えたんですか?」
聞き返している自分が他人ではないかと思える位、律子の思考回路はその場で止まっていた。
「「無論だ。俺だけじゃなくご両親やお兄さん達もどうしてそうなったのか、律子からの連絡を待ってる状態だ。」」
「そう・・ですか・・・。分かりました、必ず聞いて連絡します。少し時間掛かるかもしれませんけれど必ず連絡しますから、待っていて下さい。」
(私・・・何で冷静にプロデューサーと話しが出来ているのかしら・・・。)
律子は無意識の内に声のトーンが下がっていた。
「「わかった。律子、大丈夫か?」」
「大丈夫・・・です・・・。切り・・ます・・・ね。」
プロデューサーの返事を聞かずに律子は一方的に切った。そして、そのまま電源も切った。
「秋月さん、プロデューサーからですか?」
後ろから千早の声が聞こえた。
「ええ、ごめんなさいね。次の仕事の事で相談されちゃったの。」
少し苦笑いしながら律子は振り向いて座った。
「とりあえず、電話の内容は置いといてっと。ゆっくりでも良いから話してくれるかな、今日の楽屋での事。」
にこやかに言う律子だったが、その目は笑っていなかった。

「実は・・・。」
千早は少しずつだが、あった事実を話し始めた。
(伊織・・・。自業自得だわ・・・。)
苦笑いしながら律子は途中まで聞いていたが、最後の千早が突き飛ばしてそうなったというのを聞くと顔付きが変わる。
「つまり・・・誰かが来てどうこうじゃなくて・・・貴方が・・・。」
「はい・・・。すいません・・・。」
律子の奥底から大きな衝動が沸き上がって来た。
(伊織を私から奪ったのはこいつ・・・。私の可愛い伊織はもう目を覚まさない・・・。)
メガネの奥にある瞳の更に奥がどす黒い色になって変に光る。
「謝っても済む問題じゃないのよ・・・。」
「えっ!?」
さっきまでの優しい表情が消えた律子を見て千早は驚く。
「秋月・さ・・ん・・・。」
呼ばれた律子は黙って冷たい瞳で千早を見返す。
(こ・・・恐い・・・。)
千早は律子の激変した雰囲気のギャップを察して小刻みにその場で震える。
「謝りなさい・・・。」
「すいません。」
千早は言われてテーブルに両手を突いて謝る。
「そんなんじゃ、誠意は見えないわ・・・。」
律子はいつもと違う低いトーンで言う。
「どう・・すれば・・・良いんですか・・・。」
少し震えながら千早は消え入りそうな声で頭を下げたまま聞く。

「そうね・・・裸になって土下座しなさい。」
「ええっ!?」
(い、今、何て!?)
流石に驚いて顔を上げて信じられないという顔をして律子の顔を見ながら千早は声をあげた。
「聞こえなかったの?別にやらなくても良いわよ。その時にはどうなるか・・・。」
「脅しですか?」
(トップアイドルになんて潰されない!)
恐がっていた千早だったが今の律子の言葉に納得が行かず思わず聞き返していた。
「千早。私、貴方が馬鹿だとは思っていない。良いわ、さっきの電話の内容教えてあげる。」
そういう律子を千早はキッとした表情で見返していた。
「伊織は貴方に突き飛ばされて後頭部を強打、脳自体に損傷は無いけれど脳波が乱れている。少なくとも暫く目を覚まさない・・・。最悪の場合・・・・・・一生目を覚ま・・さない・・・んだっ・・・・て・・・・・・。」
律子はそう言いながら最後の方は涙を流していた。
「!?」
(泣いて・・・る!?)
それを見て構えていた千早は意表を衝かれて驚く。
「一年近く一緒に居て・・・最初は生意気で・・・気に食わなかったけど・・・。今は・・・可愛くて・・・・妹のように・・・・思って居たのに・・・・。」
「・・・。」
千早は申し訳なく思って無言で俯く。
「それを・・・貴方は・・・・奪った・・・・・許せないっ!!!」
力強く律子の言った最後の所で千早は思わずビクッと震える。
「んふふっ・・・・脅し?・・・・・そう聞こえるの?・・・・あははっ・・・・どうなるかっていうのを芸能界からどうこうとか思ってるの?違うわっ!!!・・・ここまで言えば分かるわよね?」
恐る恐る千早は顔を上げて律子を見る。
「ひっ!」
(わ、笑ってる!?)
怒っているかと思った顔は逆に微笑んでいた。ただ、自分を見る視線は全てを貫通して射抜くような鋭いものだった。
千早は律子の迫力に気圧されて無意識に震えながらも立ち上がる。

「良い子ね。ゆっくり・・・脱いで。」
「・・・はい・・・。」
(私・・今・・はい、って・・言ってる。秋月さんが・・・恐くない・・・何故?)
自覚しながらも嫌じゃない自分が居る事に千早自身驚いていた。
そう思ってはいるが、やはり肌をさらす事には同性とはいえ恥ずかしい事に変わりなかった。
少しモジモジしながら、千早は着ているブラウスの袖のボタンを外し始めた。
律子の方は涙の後を、メガネを外してからウェットティッシュで軽く拭いていた。
千早の手が前のボタンに回る頃、律子は再びメガネをかけ直した。
「どうしたの?手が止まってるわよ?自分で「はい」って言ったわよね?」
律子は意地悪そうに笑いながら言う。
「う・・・。」
少し顔を赤くしながら正面の止まっている一番上のボタンに手を伸ばして外し始める。
胸の部分が肌蹴てきて鎖骨の内側とブラが少しずつ見え始める。
(見られてる・・・。)
視線を感じる千早だが恥ずかしさで正面を向けず、視線とだけでなく顔も逸らしていた。
一番下までボタンを外したが、そこからモジモジしてブラウス自体を脱ぐ事が出来ない。
「どうしたの?焦らしているの?」
「ちっ、違っ・・・。」
律子の言葉に赤くなって言葉が出て正面から思わず律子を見てしまう。
「な〜に?」
千早から見られた律子の方は聞き返して目を細めていた。
「何でも・・・・ありません・・・。」
聞き返されて千早は言葉を続けられずまた、視線を逸らす。

「そう、じゃあ、脱いで。」
律子は淡々と言う。少しモジモジしながらも千早はブラウスを脱ぐ。
(恥ずかしい・・・。)
テーブルの上に置いてから、自分の姿が律子に見られているのが分かり、顔全体が赤くなって恥ずかしそうに白いブラを腕で覆う。
「色気の無いブラね。」
律子は綿の白く飾り気の無いブラを見てボソッと言ったが、千早の方は恥ずかしさでその言葉を聞き取る事は出来なかった。
「次はスカート?ブラ?どっちでも良いわ。」
「許して・・・下さい・・・。」
冷たく言う律子の言葉に千早は自分を抱きかかえて頭を下げながら許しを請う。頭を下げる前にその瞳に涙が浮かんでいたのを律子は見逃さなかった。
しかし、
(許す訳無いでしょ・・・。)
律子の強い本心だった。
「何を言ってるの?千早が自分で脱ぐって言ったのよ。まるで私が悪いみたいな言い方じゃない・・・。」
律子は内心でそう思いながらも、意外そうな口調の後、冷たく言った。
「そ、そんな事は・・・。」
千早は恥ずかしさで頭が回らず、再び律子の方を見てしどろもどろになっていた。
「ほら、早く誠意を見せなさい。」
「くっ・・・。」
言い返せない千早は少し歯を食いしばって言った後、スカートに手を伸ばす。

ジィーー
ジッパーを下ろしながら、一気に床に落ちないように両手で持って、ゆっくりと脱ぎ始める。
「新人アイドルのストリップなんて、まず見れるものじゃないわよね。」
律子は口元だけ少し歪めながら言う。
千早は少し屈んで膝辺りまでスカートを下ろしていた所で言われて、一瞬動きが止まる。
(スト・・リッ・・・プ・・・・。)
逆らえない悔しさ、律子の理不尽な言葉に対する怒り、肌をさらけ出す恥ずかしさ・・・
全てが入り混じって千早の顔は紅潮して、色々な感情を含んだ涙もうっすらと光っていた。
それでも、再度千早は動き始めた。肩膝ずつを交互に上げて、床に着かないように脱いで畳んだ後、右手でスカートをテーブルの上に既に置いたブラウスの上に置く。
「上下お揃いなのね。」
律子の視線の先にはブラとパンツ姿の千早が居た。ブラと同様、特に色気の無い白く下半身を大きく覆うパンツだった。
(ふーん・・・恥ずかしがるのは演技じゃないって事か。)
それだけ肌の露出を嫌う人間なのだと律子は確信した。
千早は右腕で胸を、左手でパンツの部分を隠しながらモジモジして、律子から顔を逸らして何も無い床を見ていた。
(私・・・何しているのかしら。)
そう思いながらも、それ以上動かなかった。いや、動けなかった。

「そこで止まったら貴方自身の言葉を捻じ曲げる事になるわよ。千早、貴方はそんないい加減な人間ではないわよね?」
律子はニッと笑いながら千早の性格を見抜いて、理詰めの言葉で更に追い込んでいく。
「・・・。」
千早は一瞬言葉を発しそうになったが、言い返したくても言い返せずに黙り込んだ。
(こんな事続けるなんて・・・・。でも、自分の言葉を捻じ曲げるなんて・・・・。)
内心で実際に自分がとっている行動と律子が言う言葉の狭間で葛藤していた。
しかし、それ以上物言わぬ律子の視線と雰囲気に気圧されて、止まっていた手を更に動かし始める。
仕方無しにブラを外すべく、両手を後ろへ回した。
千早の両手は小刻みに震えていてホックまで手が掛かったが、やはり、そこで躊躇してしまう。
律子はあえて、それ以上千早を追い込む言葉を出さなかった。右足を上げて左膝に乗せて足を組んでから、右手を顎に当てる。そして、その状態で少し顎を引いて上目使いで千早を改めて見据える。
(黙ってる?許してくれるのかしら・・・。)
千早は少し希望を持って何も言わない律子の方をチラッと見る。
何も言わない律子だったが、どう見ても許してくれるという雰囲気ではない。むしろ、言葉を言われるよりも強い無言のプレッシャーを感じた。
律子は自分を少しだけ見ている千早の瞳をジッと見つめていた。言葉を発さずともその意図は確かに伝わっていた。目が合って少しして千早の方から気不味そうに目を逸らす。
(これ以上は誤魔化せない・・・。でも・・・。)
ホックを外して肩紐に親指を通しながら、まだ内心で迷っていた。

「焦らすのが上手ね。千早・・・。」
「えっ!?」
ブラが胸から離れようかとした時、律子に言われて驚いて千早の動きが止まる。
「普段は真面目だけど・・・そうやって、相手を誘惑するんだ?」
律子は少し卑下するように冷たく言う。
「そっ、そんな事しま・・せ・・・ん・・・・。」
強く言い切ろうとした千早だったが、やっている今の状況から否定し切れず、最後の方は消え入りそうな声になっていた。
「ごめんなさいね。ストリップ続けて頂戴。」
律子はメガネを直しながら冷静に言う。
「くっ・・・。」
皮肉でもあり嫌味なのは分かっていたが、千早は言い返せなかった。そして、止まっていた手を動かしてブラを外す。身長の割に胸は殆どといって良いほど無かった。ただ、小さな乳首は綺麗なピンク色だった。
ブラを外した後、すぐに左腕で胸を隠して右手で肩紐の部分をもってスカートの上に置く。律子の視線を感じていた千早は恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。そして、自分を抱え込むように改めて両腕で胸を隠す。
(は、恥ずかしい・・・。)
千早は恥ずかしさと緊張感から、その体勢で完全に硬直していた。
(胸は無いけれど、下半身にかけてはとても均整のとれた良いプロポーションね。)
ジッと見ている律子がそう思うのも無理はなかった。胸を隠している千早の全身は透き通るように白く、引き締まっている。
貧相な胸の上半身とは違いお腹から下半身へのヒップライン、そこから下にかけての足のラインはとても綺麗だった。
その透き通るような体の白さは時間を追う毎に、恥ずかしさからか艶っぽくほんのり桃色になっていっていた。

「千早、まだ一枚残っているわよ。」
律子は千早に声を掛けたが、全く聞こえていないようだった。
(仕方ないわね。)
軽く溜息をついた後、律子は立ち上がって、わざと千早が逸らしている視線に入るように近付いていった。一方の千早は、頭に血が上ってくらくらして視界が少し歪んでいた。そして、その視界に動く人の足が入って来た。
「千早?」
律子は焦点のあっていない千早を不思議に思って声を掛けた。しかし、聞こえていないようで反応が無い。
(声じゃ駄目って事?仕方ないわね・・・。)
ポンッ
バシッ!
軽く肩に手を置かれただけだったが、千早は大きくビクッと反応する。そして、無意識で反射的にその手を力一杯払い除ける。
「痛っ。・・・ふ〜ん・・・。」
「えっ!?」
いきなり間近で律子の声がして驚いた千早は我に返って顔を上げて声の方を見る。そこには手を痛そうに押さえている律子が居た。
(いつの間に?)
千早は何故律子が間近にいるのかを疑問に思いながら見ていた。
「遠くで声を掛けても反応が無いから、近くに来て声を掛けてみたけれど相変わらず反応無し。仕方ないから肩に手を置いたら・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
千早は今の自分の状況を忘れていつもの様に両手を腿の前に合わせて頭を下げた。
(あっ!?)
頭を下げてその目に自分のあらわになった肢体が入って、千早は慌てて自分の腕で胸を隠した。
「こうやって・・・伊織を・・・。」
少し赤くなって腫れている自分の右手を見て、律子の怒りが再び体の奥底から湧き上がった。恥ずかしくなった千早だったが、低いトーンでの声と、雰囲気を感じ取って硬直した。
「最後の一枚・・・。」
律子はただそれだけ言う。それ以上何をしろと言わない。
ただ、その短い言葉と律子自身から発せられる迫力に千早は何も言い返せなかった。
胸を隠していた腕を仕方なく解いて、両手の親指ををパンツの前の外側に引っ掛けて、残りの指をお尻との間に入れる。
そして、お尻を少し浮かせてゆっくりとパンツを下ろし始める。お尻が完全にあらわになって、前の方もヘアが見え始める。
(あっ・・・やだ・・・。)
蕾のあたりからパンツが離れる時に一瞬だけ蜜が糸を引いて、それを見た千早は恥ずかしくなって思わずその場で止まる。
(へぇ・・・。)
律子はその瞬間を見ていたが、見ない振りをして黙っていた。
「どうかしたの?」
「い、いえ・・・何でもありません・・・。」
律子が素っ気無く聞くと、少し慌てながら千早は否定する。そして、誤魔化すように続けてパンツを下ろし始める。
キュッとしまった足首の所で下ろすのを止めて、右足を軽く上げてパンツを抜いて足を下ろしてから、
今度は左足を上げて完全に脱ぎ切った。染みになっているのに気が付いていた千早は隠すように畳んでから、体勢を起こす。
「几帳面なのね。」
「えっ!?」
パンツを置こうとした瞬間、突然言われてドキッとした千早は動きが一瞬止まって思わず声が出る。
「ストリップして興奮した証拠を隠すように畳むなんて・・・。」
「うっ・・・。」
(見られて・・た・・・。)
言葉に詰まりながら恥ずかしくなって千早は真っ赤になりパンツを置く手が完全に止まっていた。

「それで終りなの?」
「えっ?」
恥ずかしさで体全体の体温が上がって意識が飛びそうな千早だったが、かろうじて聞き取れた律子の言葉の意味が分からずに驚く。
「あらあら、ストリップに夢中になった上に興奮して忘れちゃったのね。」
呆れたように両手を上げて溜息混じりに律子は行った。
「あっ!」
(謝らないと。)
律子に言われて、自分が何の為に裸になったのかを思い出した。
「申し訳ございませんでした。」
千早はすぐにその場で土下座をして謝った。
「許さないわ。」
律子は冷たく言い放つ。
「えっ?何で・・・。こんな・・・格好まで・・・。」
その言葉に驚いて、思わず顔を上げて言う。
「勝手にストリップ決め込んで興奮してるのを見て、誠意と取れる?しかも証拠付きのパンツまで握り締めて・・・。」
返された言葉に千早はハッとして自分の右手を見る。
「あ・・・くっ・・・。」
完全に自分のパンツを握り締めてしまっている状態に、ぐうの音も出ない。

「まあ、私は置いておいて・・・明日、きちんとした誠意をプロデューサーと伊織の家族に見せなさい。
私もちゃんとフォローしてあげるから。」
千早の様子を見ながらさっきまでとは違う、穏やかな口調で律子は言った。
「ありがとうございます。」
(良かった。こんな事されたけれど、やっぱり根は良い人なのね。)
千早はホッとした顔になってから、再びその場で頭を下げてお礼を言った。
「ただし・・・。」
「はい。」
千早は頭を下げたまま返事をする。
「私の言う事をこれからきちんと聞く事。」
「あの・・・それって、どういう・・・。」
含みを持たせた言い方に再び顔を上げて不安そうに律子を見上げながら聞く。
律子はゆっくりと屈んで、千早の頬をそっと右手で撫でる。千早はえも言われぬ感覚になって背筋がゾクゾクする。
(この感覚・・・一体何?)
律子はそんな困惑している内心を見透かすように少し微笑む。
千早はその表情を見て更に背筋のゾクゾク感が大きくなって小刻みに震えている。
ドキドキ・・・ドキドキ・・・
それと同時に、鼓動が早くなっていく。
律子は千早から視線を逸らさずに、頬を撫でていた右手をゆっくりと動かして顎にあてる。そして、左手でメガネを取る。
くいっ!
そして、自分の顔を千早の顔に近付けながら更に自分へと引き寄せる。
「あっ・・・。」
とくん・・・とくん・・・
心の中では顔を逸らそうとしているのだが、妖しく微笑む律子の瞳から目を逸らせない。
むしろ、その瞳に吸い込まれそうになっていた。
「良いわね?」
もう、お互いの鼻先が触れそうな程近くなった律子から言葉と一緒に甘い吐息が千早の唇に触れる。
(い・・・息が・・・こんなに・・・近く・・・。)
千早はその初めての状況と雰囲気に完全に飲まれてボーっとなっていた。
「・・・は・・い・・・・。」
無意識にそう答えていた。
「良い子ね。」
律子はメガネを置いた左手で優しく千早の頭を撫でながら言った。

・・・次の日・・・
律子と千早はプロデューサーと一緒に伊織の入院している病院に来ていた。
伊織の家族に千早から説明をして、そこに律子がフォローを入れる形で、最後は三人で一緒に頭を下げた。
「申し訳ございませんでした。」
「まあ、そういう事なら伊織にも不手際があった訳ですから仕方ないですね。」
伊織の兄は苦笑いしながらそう言った。一方的ではなく事故だったのと、三人の謝罪の言葉に強く言う事は出来なかった。
「あの、すいません・・・。」
律子は頭を上げた後、律子の兄に声を掛けた。
「はい?」
「もし宜しければ、伊織さんを近くで見ても宜しいでしょうか?」
かしこまってお伺いを立てた。
「構いませんよ。伊織は最近会う度に貴方の事を満面の笑みで自慢気に話していましたよ。」
「えっ!?」
(私の事を自慢気に?)
律子はその場で驚いて硬直していた。
「家は私と兄の男兄弟しか居ないですからね。
母親は女性といってもまた違うでしょうし、アイドルを目指すというのと、
勝気な性格ではなかなか同性の友人も出来ないでしょうから。」
少し渋い顔をしながら伊織の兄が言う。
(確かにあの性格はきついから、最初から友達になるというのは難しいかもしれないわね。私も最初は正直敬遠していたし・・・。)
律子は伊織に会ったばかりの頃を思い出していた。
「途中からは、一人前のアイドルとして忙しくなって会っていませんでしたが、いつもTVで見ていました。
貴方と居る伊織は生き生きして輝いて見えました。愛想笑いではない本当の笑顔を見せていたと思います。」
「うっ・・・くっ・・・。」
伊織の兄の言葉を聞いている途中で、一気に思いが込み上げてきて律子は声を抑える為に口を抑えて声を殺していたが、
視界が一気にぼやけて今にも涙が溢れそうになっていた。

「す、すいません・・・。」
そう言って律子は皆に背を向けた。
ぽたっ・・・ぽたっ・・・
その瞬間、一気に涙が頬を伝って床に落ちた。
「うぅ・・・うっ・・・。」
(ごめん・・・ごめん、伊織・・・。)
声は何とか殺したが、溢れ出る涙を止める事は律子に出来なかった。
そんな律子を見て、千早は居た堪れなくなって俯く。それを見て、流石に不味いと思ったプロデューサーは先に千早に声を掛けた。
「千早、とりあえず出よう。」
言葉で返事出来ずに、俯いたまま首を小さく縦に振った。プロデューサーは千早と一緒に入口で一礼してから外へ出た。
「秋月さん。伊織に声を掛けてやって下さい。
すぐに目を覚ますかもしれないし、もしそうでなくても早く目が覚めるきっかけになると思うんです・・・。」
その先を続けようとしたが、伊織の兄はそこで止める。
「凄く不躾な言い方ですが・・・私・・・伊織の事・・・実の妹のように思っています・・・。
たった一年なのに・・・最初は喧嘩ばっかりで・・・でもずっと傍に居るのが当たり前になって・・・
ここに来て思い知らされました・・・。」
「伊織も同じような事を言っていたよ。秋月さんも辛いんだね。」
伊織の兄は律子の言葉を聞いて、そういってから沈痛な面持ちになる。
「すいません・・・。好き勝手いってしまって・・・。」
律子は泣きながらも、律子の兄の方に向き直って頭を下げた。ただ、その間も床に涙が止め処なく落ちていた。
「良いんですよ。さあ、伊織に何か言ってあげて下さい。」
「は・・い・・・。」
律子は返事をした後、ぼやけている視界も気にせず伊織のベッドの枕元へと歩いて行った。
(いつもの寝顔と変わらないのに・・・。)
脳波計はついていたがそれ以外に物々しいものはついていなかった。声を掛ければすぐにでも目を覚ましそうだった。
「ごめんなさい・・・。伊織・・・私・・・待ってるから・・・。」
伊織の顔がみるみる涙で歪んでいく。
(これ以上ここに居たら私・・・。)
律子は無理矢理伊織に背を向けて、伊織の兄に無言で一礼した。兄の方も軽く頭を下げた。
言葉を出したかったが、今口を開いたら自分がどうにかなってしまいそうだった。
そして、逃げるように口元を抑えたまま病室を後にした。

入口でプロデューサーにぶつかりそうになったが、プロデューサーの方が上手く避けた。
「律子・・・大丈夫か?」
「すいません・・・今日は帰らせて下さい・・・。」
涙でボロボロになった顔で言った律子だが、NOと言わせない迫力があった。
「送っていかなくて大丈夫か?」
「一人になりたいから・・・。明日はきちんと事務所に行きます。」
律子はプロデューサーの言葉にしっかりと答えた。
「分かった。お疲れ様。」
「では・・・。」
プロデューサーに一礼して律子は歩き始めた。
途中で俯く千早を見つけて、一瞬凄まじい形相になって射抜くような視線を浴びせる。
(み、見られてる・・・。)
千早は恐くて顔を上げられなかった。目の前を通り過ぎようとする時に細かく震えていた。律子はそんな千早の前で足を止める。
「お疲れ様。千早。」
「あっ・・・お疲れ様・・で・・・す・・・・。」
律子に声を掛けられて千早は恐る恐る顔を上げて見ながら言葉を返す。
「今の私は冷静で居られ続けないから・・・。あそこでフォローしてあげたので勘弁してね・・・。」
感情の爆発を無理矢理抑えながら律子は静かに言う。
「い・・・いえ・・・。ありがとうございました。」
気圧されながらも、頭を下げて千早はお礼を言った。
「プロデューサーを信じて、仕事頑張って・・・。それじゃあ、また。ね。」
「は・・い・・・。」
泣きながらも妖しく微笑みながら言う律子に思わず千早は返事をしていた。
律子はそれだけ聞くと、廊下をゆっくりと歩いて行った。
視界から千早が外れると、怒りの感情よりも悲しみの感情の方が強くなった。
伊織の顔が思い浮かんで、涙が止め処なく溢れてくる。
通り過ぎる患者や看護士などは驚いていたが、律子は全く気にせず病院を出た。

「伊織・・・うぅ・・・伊織ぃ・・・。」
一番近いマンションに戻った律子はベッドに突っ伏して、伊織の名前を呼びながらずっと泣き続けていた。
そして、泣き疲れた律子は何時の間にか眠っていた。
(律子・・・泣かないで・・・。)
(えっ!?)
律子は驚いて目を開ける。
(少し時間は掛かるかもしれないけど、必ず戻るから。だから泣かないで・・・。)
(伊織っ!)
ぎゅっ!
律子は力強く伊織を抱き締めた。
(ちょっとぉ、痛いよ〜。)
(必ず、必ずよっ!)
伊織が痛がるのを無視して、律子は一方的に言う。
(にひひっ。こんな事で律子に嘘言わないよ。)
そう言うと、抱き締めているのにスーッと感覚が無くなり自分の腕から伊織が微笑みながら離れて行く。
(行かないで伊織っ!)
(大丈夫だよ律子・・・また、ね。)
軽く手を振る伊織に、律子は完全に取り乱していた。
「行かないでーー!!!」
律子は自分の叫び声にハッとして目を覚ました。既に真っ暗になった部屋の奥の方へ両腕を伸ばしているのが感覚で分かった。
「はあっ、はあっ・・・。夢・・か・・・。はぁ・・・。」
律子は荒い息をしていたが、現実に返って溜息をついて肩を落とす。
ふとベッドの枕元にあるデジタルの置時計を見ると、午後9:02に変わった所だった。

「・・・。」
その場で少し考えていた律子だったが、とりあえず洗面台の方へ向かった。鏡に映った自分は酷い有様だった。
髪の毛は振り乱れていて、目は充血して真っ赤、更に涙の後が黒くなっていた。
「酷い顔・・・。」
律子は苦笑いしながら呟いた。その後顔を洗ってから、部屋に戻って来て目薬をさした。
その状態で目を閉じたまま、携帯をかける。
「おはようございます。律子です。プロデューサーいらっしゃいますか?」
「「おはようございます。すいません、先程帰られました。」」
電話に出たのは事務所のスタッフだった。
「「秋月さん、プロデューサーの携帯知ってますよね?」」
スタッフの方が不思議に思って聞く。
「はい、プロデューサーのは知ってますよ。
事務所に電話したのは新人の如月 千早さんの携帯番号が分かればと良ければその番号教えて貰えるかなと思って。」
「「分かりますけれど、私の一存では答えられないので、聞いてみようと思いますけれど待てますか?それとも折り返しますか?」」
「こっちは大丈夫なので、このまま待ちます。」
「「分かりました、少しお待ち下さい。♪〜♪〜」」
スタッフがそう言うと保留音が流れ始めた。
よく聞いてみると、今伊織と一緒に売り出している「魔法をかけて」のメロディだった。
ずっと目を瞑っている状態だったので、その曲に合わせていつも二人で歌っている様子が思い浮かんでくる。
(伊織・・・。)
現実を考えるとまぶたが熱くなって来る。
(いけない、いけない。)
少し頬を開いている左手で軽く叩いてスタッフが電話に出るのを待った。
「「お待たせしました。許可が出たのでお教えします。良いですか?」」
「お願いします。」
律子は瞳を閉じたまま、ペンを左手で取って紙の上に置いた。
「「090−・・・・です。」」
「ありがとうございました。では失礼します。」
「「明日事務所で待っています。気を強く持って元気出して下さいね。」」
「はい。」
短く答えて律子は電話を切った。目を開けて記憶していた番号と紙に書いた番号を照らし合わせる。
利き手ではない左手で書いたので、汚い数字だったが読めない程ではなかった。
改めて、右手で紙に番号を書き直してから携帯に登録した。
そして、その番号にかけた。

「あれ?誰だろうこの番号・・・。」
千早は見慣れない番号を見て訝しげな顔をしていた。今日のレッスンも終わり電車を降りて最寄駅から歩いて帰る途中だった。
「はい・・・もしもし・・・。」
あえて名乗らずに電話に出てみた。
「「もしもし、秋月だけど。如月さん?」」
(えっ!?秋月さんが何で?)
聞こえてきた律子の声に千早は驚いていた。
「は、はい・・・如月です。」
少し動揺しながらも、千早は答えた。
「「ほっ、間違って無かったわね。事務所に聞いてかけたのよ。」」
「ああ、そういう事ですか。」
(秋月さん・・・私の考えが分かるのかしら・・・。)
千早は冷静になって答えながらも何とも言えない顔をしていた。
「「もう、今日の仕事は終ったの?」」
「はい、今帰っている途中です。」
「「じゃあ、これから来なさい。」」
「えっ!?これから・・・ですか?」
驚いた千早は、驚いて立ち止まってから大きな声を出してしまう。
周りからの視線を感じて、千早は恥ずかしくなって赤くなる。そして、隠れるように少し外れた路地に入る。

「今からって言われても・・・。場所が分かりませんし・・・。」
流石に困ったように千早は言う。
「「これから住所言うからタクシーに乗ってきて。お金はこっちで払うから。」」
「でも・・・。」
「「私のいう事を聞く事って、言って貴方は何て答えた?」」
「・・・。」
千早は昨日のやり取りを思い出して、その場で赤くなっていた。
「「住所は・・・だからね。待っているわよ、如月さん。」」
「あっ、あのっ。」
ツーツーツー
千早が言い返そうとした時には既に携帯は切られていた。
(どうしよう・・・。)
その場で少しの間悩んでいたが、意を決して歩き始めた。
「さーて、どうする。千早?」
律子は妖しく微笑みながら携帯を置いた。

千早は自分の部屋に戻った後、着替えを鞄に入れてからすぐにタクシーを呼んだ。
(自分で返事をしてしまったとは言え・・・このままじゃいけない・・・。)
タクシーの中でグッと握りこぶしを作って千早は意を固めていた。
律子の方は椅子に座って手を顔の前で組んで静かに目を閉じていた。

♪〜
目の前の携帯が鳴って、律子は携帯を取った。
「・・・もしもし・・・。」
少し間を置いて静かに言った。
「「千早です。目の前まで来ました。」」
しっかりした口調だった。
「お金は?」
「「お願いできますか。」」
「分かったわ。今出るから少し待ってと運転手さんには言っておいて。」
「「分かりましたお待ちしてます。」」
千早の答えを聞いてから律子は携帯を切った。
「来たわね・・・。」
目を開けて呟いてからゆっくり立ち上がる。そして、財布を持って外に出た。
マンションの目の前に止まっているタクシーを見つけて寄って行った。
「すいません、来たので開けて貰って良いですか?」
千早は律子に気が付いて運転手に告げた。
「お待たせしてごめんなさい。お幾ら?」
開いたドアから顔を入れて律子は聞いた。

「10,360円だよ。おっ!あんたテレビで見た事あるよ。」
タクシーの運転手は律子の顔を見て驚いたような顔をして言った。
「ありがとうございます。」
律子はにっこり笑う。
「娘がファンでね。サインとか貰っても良いかい?」
「ええ、構いませんよ。色紙あります?」
嫌な顔一つせず律子は逆に聞き返した。
「いや、流石に無いなあ。どうしたもんか・・・。」
困った表情になって言う。
「少し待って貰えるなら、色紙とペン持ってきましょうか?」
「えっ?本当かい?じゃあ、頼めるかな。代金はまけるからさ。」
運転手は意外に思っていたのか嬉しそうに言う。
「いえいえ、代金は別ですから。とりあえず、お釣は良いんで。これ渡して貰える。」
そう言って律子は、千早に一万円札と千円札を渡した。
「はい、それじゃあ、これでお願いします。」
「悪いねえ。じゃあ、お願いできるかな。」
千早から代金を受け取っているが、眼中に無い感じで律子の方へ言う。
(私どうすれば良いのかしら・・・。)
「貴方はもう少し中で待っててね。」
千早の内心を分かっているかように律子は声を掛けた。
「あっ、はい。」
千早は言われて大人しくしていた。
暫くして律子は部屋から色紙とペンを持ってきた。
「お待たせしました。娘さんのお名前は何ていうんですか?」
「ああ、伊織と言うんだ。」
「えっ!?」
律子は一瞬その場で固まった。千早の方も一瞬顔が強張った。
「確か、もう一人のリボンの子と同じ名前だったな。」
運転手は思い出すように顎に手を当てて言う。

「そ、そうですか。それでは、「伊織ちゃんへ」で良いですか?」
動揺しながらも律子は聞いた。
「ああ、それで頼む。」
運転手に言われて、律子はその場で一気にサインを書き上げた。
「それじゃあ、伊織ちゃんに渡してあげて下さい。
律子がこれからも宜しくって言っていたって一緒に伝えて貰えれば喜んでくれると思います。」
律子は微笑みながらサインを直接渡した。
「いやあ、悪いねえ。今時の若い子にしちゃしっかりしてるし。頑張ってな。」
「ありがとうございます。それじゃあ、行きましょう。」
「はい。」
律子に促されて千早はタクシーから降りた。降りた後黙って千早の前を律子は歩いて部屋に向かっていた。
(何をする気かしら・・・。でも、昨日の様には行かない。)
千早は黙って着いて行きながらも警戒して構えていた。
律子はマンションのドアを開けて、千早を招き入れた。
「いらっしゃい、如月さん・・・。いえ・・・千早・・・。」
「・・・はい・・・。」
目を細めて妖しく微笑む律子を見て、返事をしながら千早は背筋がゾクッとしていた。
「さ、上がって。」
「お邪魔します。」
千早は少し身構える感じで隙を見せずに靴を脱いで揃えた後、律子の後を着いていった。

「空いてる所に座って。何飲む?」
「お任せします。」
この前とは中に置いてある家具類が違い、テーブルは低く小さなものしかなくクッションに座るようになっていた。
(今日は言われるままにはならない!)
千早は意を決してクッションに正座してから、膝の上で握り拳を作って緊張していた。
「オレンジジュースだけど良いかしら?」
律子は両手でグラスを持って来て千早に聞いた。
「構いません。」
千早は答えながら両手を伸ばしてグラスを受け取った。
「頂きます。」
すぐに出て来たのもあって喉が渇いていたので、すぐに口をつけた。
それを横目で見ながら、律子は立ったままグラスに口をつける。
勢い良く飲んでいる千早とは違い、一口だけ飲んで律子はグラスから口を離した。
「あのね、千早。」
「?」
千早は呼ばれてオレンジジュースを飲みながら不思議そうに律子を見上げた。
「このオレンジジュースね、伊織が大好きなの。」
「!?・・・ごほっ、ごほっ。」
切なそうに言う律子の言葉に千早は驚いてオレンジジュースが器官に入ってしまい咳き込んだ。
「今日はプロデューサーとレッスンだったの?」
「けふっ・・・けふっ・・・。そ、そうです。」
少し涙目になりながらも千早は何とか答えた。
「もう、シャワーとか浴びたの?」
「いえ、まだです。」
「私も戻って来てからまだなの・・・。」
妖しく目を細めて千早に言う。
(どういうつもり・・・。)
千早は真面目な表情になってキッと律子を上目使いで睨む。

「ここの、ユニットバス広い設計なの。一緒に入りましょ。」
「ええっ!?」
律子の言葉に千早は驚いて思わず持っていたグラスを落としそうになる。
「別に男の人とじゃないし構わないでしょ?」
「そ・・・それは・・・。」
困った表情になってゴニョゴニョと言う千早。
「ほら、脱がしてあげるから。私も脱がせて・・・。」
「私はいいですっ!」
千早はそう言って素早く身構えて自分を抱え込む。
「そう?だって、自分で脱ぐとストリップになっちゃうし興奮しちゃうんでしょ。ね?」
「う・・。」
思わず言葉に詰まって千早は赤くなる。
「ほら、立って。」
律子は自分を固く抱き締めている内の右手にそっと触れる。ピクッと動くが気にせずに指の間に自分の指をするりと入れて絡める。
(えっ!?な、何で!?)
千早も驚くくらい律子の手に握られた手は、無意識に自分から離れていき導かれるように律子の方へと引き寄せられていた。
そして、その手と一緒に自分も立ち上がっていた。
「今日は素直なのね。」
「えっ・・あ・・・。」
(どうして・・・。)
律子にそう言われた千早だったが、自分でも何故そうなっているのか分かっていなかった。

「先に上着脱がせて・・・。」
律子はそう言いながら自分の胸に千早の手を置く。
どくん・・・とくん・・・
千早は今の状況が良く分かっていなかった。ただ、無意識に律子のシャツの一番上のボタンに両手を伸ばしていた。
緊張しているのと、他人の服のボタンなど取った事の無い千早は悪戦苦闘していた。焦れば焦る程ボタンが外れない。
「焦らなくて良いの・・・こうやるのよ・・・。」
「あ・・・。」
律子にそう言われて添えられた手が触れると思わず声が出てしまう。
(暖かい手・・・。)
律子に手伝って貰うとさっきまで外れなかったのが嘘の様に呆気なくボタンが外れる。
「後はお願いできるわね?」
「はい・・・。」
コツを覚えた千早はどんどんとボタンを外して行った。すると、律子のブラと胸が見えてくる。
(パッと見た目より大きい・・・。私とは比べ物にならない位・・・。)
千早はボタンを取る手が止まって思わず律子の胸に目が行ってしまっていた。
「そんな凝視しなくても後でちゃんと見せてあげるから、まず上着脱がせて、ね?」
「あっ、すっ、すいません。」
律子の言葉に我に返って千早は慌てて誤魔化すように残りのボタンを一気にお腹の所まで外した。
そこまで外すのを確認すると律子はくるっと回って背中を見せる。そして、両腕を千早の方へ出す。
「肩から脱がせてね。」
千早は恐る恐るブラウスの肩の辺りを持って腕からスッと引き抜いた。
背中にはブラの紐が見えていた。腕からシャツが抜け切ると再び律子は向き直る。

薄い紫色のお洒落なブラをしていた。
(私のと違って凄く作りこまれたブラジャー・・・。)
「じゃあ、今度は私が脱がせて上げる。」
自分が見られていたのは分かっていたが、律子は構わず慣れた手つきで千早のブラウスのボタンをゆっくりと外していく。
千早は途中で気が付いて無言だったが、視線は律子の手の動きに写っていた。
されたことの無いシチュエーションに緊張すると同時にドキドキしていた。
ブラウスの下からは、やはり飾り気の無い白いブラが見え始める。
「清楚なのね。白しか着けないの?」
「白しか・・・持っていません・・・。」
ジッとブラごと胸を見られて恥ずかしさで赤くなりながら千早は答える。
(昨日と殆ど変わらないデザイン。もっと良いデザインのもの付ければ少しはお洒落に見えるのに。)
律子はそう思いながら、自然とブラウスの首と肩の部分に手を伸ばす。千早はさっき律子がしたように振り向こうとする。
「大丈夫よ、片腕だけ抜いてくれるようにしてくれれば背中向ける必要無いから。」
「あ、はい・・・。」
完全に律子のペースになっていた。
ブラウスの左腕の部分を抜いた後は、するっと綺麗に手早く脱がす。
(凄い・・・。)
千早は純粋に律子の脱がせる上手さに驚いていた。

「はい、次はスカートね。」
そんな千早を見て言いながら律子は、腰を軽く突き出す。言われた千早はぎこちなく手を伸ばす。
「ジッパーは左前ね。」
少し震え気味の千早の両手を取って左腰に当てる。
さっきまでは律子に触れられると過敏に反応していた千早だったが、今回は自然と手を取られる事に違和感が無かった。
(どうしてかしら・・・。)
不思議に思いながらも、律子のスカートのジッパーを下ろす。
ジーー
すとんっ!
「あっ!」
慣れない手つきの千早は、ジッパーを下ろし切ってからスカートを掴み損ねて床に落としてしまった。
「すっ、すいません。」
思わずその場で謝りながら頭を下げ、慌ててそのまま屈んでスカートを拾おうとする。
「良いのよ、初めてなんだし。真面目なのね。」
そう言って右手で頭を撫でながら、一緒の目線の位置まで屈んで微笑みながら左手を肩に置いた。
(優しい手つき・・・。)
千早は頭を撫でられて不思議な感覚になっていた。
「さ、立って。」
千早のスカートに手を伸ばしていた右手を両手で握ってから立ち上がると、それにつられて自然とスッと立ち上がった。
律子は握っていた手を離して、千早のウエスト部分に両手を伸ばす。止めている部分を探す為に両手を腰に回す。
ちょっと抱きついている感じになる。
上半身のブラ同士が少し触れ合う。伊織とであれば既に胸同士が触れ合って、お互いの体温を感じている頃だった。
それだけ、千早の胸が無いのか、伊織が年齢の割に大きいのかは微妙だった。
千早はどうして良いか分からず、その場で硬直していた。
背骨のあたりから両脇に向かってスカート越しだったが、律子の手がツーっと通ると時々ピクッピクッと小刻みに反応していた。

(見つけた。)
律子は右前にジッパーを見つけて右手で下ろしながら左手でスカートを押さえていた。
ジーー
ジッパーを下ろし終わっても、スカートは内側に全体的に触れるのを感じたが殆ど動かなかった。
(落ちない?)
千早は不思議に思って、視線を下に向けた。ジッパーを下ろした手も含めて両手でスカートを押さえていたのが見えた。
「こうすれば、落ちないのよ。」
律子は千早が見るのを確認してから言う。そして、そのまま屈んでスカートをゆっくりと下ろす。
パンツの色は白で同じだったが、昨日と違い露出度は大分高かった。それでも、普通のものよりも露出度は低めだった。
「左足を上げて。」
千早は言われるままに左足を上げる。それを見てスカートを右足側に寄せる。
「はい、下ろして右足を上げて。」
足を入れ替えて右足を上げる。バランス感覚が良く、千早は右足を上げたまま微動だにしない。
(良いバランス感覚ね。)
少し感心したように足元を見ていた。足首はキュッとしまっていてふくらはぎまでのラインも無駄な脂肪が無く綺麗だった。
それを見ながら、スカートを右側から抜いて低いテーブルの上に畳んで置いた。

二人は、完全な下着姿になっていた。
「昨日は貴方だけに自分で脱がせてしまったけれど、今日は貴方に脱がせて貰ったわ。どう私の下着姿は?」
自分が下着姿になっているのは昨日同様恥ずかしかったが、
目の前に居る律子の下着姿をドキドキしながら千早は見ていた。
下着は上下ともお揃いの薄い紫色で綺麗な刺繍が施されていた。
「シャツを着ているいつものイメージとは全然違います。凄く・・・その・・・グラマラスで・・・。綺麗です。」
千早は暫く見た後正直に答えていたが、最後の方はかなり胸に視線が行っていた。
「ありがとう。胸、気にしてるのね。」
律子にそう言われると、自分の胸を両腕で覆って視線を逸らす。答えはしなかったが、その仕草が答えだった。
そんな千早を律子は改めて頭のてっぺんからつま先まで見る。
「スレンダータイプで無駄な贅肉全くなし。引き締まって綺麗な体・・・。
照れているのね、いつもの透き通る白い肌が桃色に染まっているわ・・・。」
「えっ!?」
千早は律子に改めてそう言われると、物凄く恥ずかしくなって俯きモジモジしながら顔だけでなく耳まで真っ赤になる。
律子は話し掛けずに、妖しく微笑みながらそのまま千早にゆっくりと近付いて行った。
完全に下を向いてしまっている、千早の視界に律子のつま先が目に入った。
(えっ!?)
驚いて顔を上げるとすぐ目の前に律子が居た。

「近付けば全身を見られる事はないわ。さあ、続きよ。今度は私が先にブラを脱がせてあげる。突き飛ばしちゃ嫌よ?」
律子は微笑みながら言うが、千早は最後の言葉を聞いて、少し顔が強張る。
そんな千早を胸を隠して抱え込んでいる腕ごと抱き締めるように背中へ手を回す。
むにゅっ
自分を抱きかかえている腕に律子の胸の柔らかい感触が当たる。千早はピクッとして体全体が強張って細かく震える。
「大丈夫よ、リラックスして・・・。」
律子は千早の耳元で囁く様に言う。
「は・・い・・・。」
(耳に・・・息が・・・。)
千早はそう返事したが、なかなか体の力が抜けなかった。
律子の方は、後ろに回り切った手をブラのホックにかける。慣れた手つきですぐにホックを外した。
そして、自然と千早の方から離れ始めた。
「そのままじゃ、ブラは取れないわ。せめて、脇を開けてね。」
肩紐に手を掛けながら律子は言った。律子はロボットみたいにぎこちなく動く。
脇が開いて腕を通せる間が開くと一気にブラを引き抜いた。
「きゃっ!」
ぎこちなく動いていた千早は、自分の胸が一気に肌蹴てあらわになったので物凄い勢いで、再度腕で胸の部分を隠した。

「見られるのが恥ずかしいのね。じゃあ、また密着しましょう。今度は千早が私のブラを取って。」
そう言うと、律子は両腕を千早の首に回して抱きついた。再び腕に律子の胸の温かく柔らかい感触を感じる。
「これなら恥ずかしくないでしょう?」
「えっ・・・は、はい・・・。」
(何て返事をしたら良いかなんて判断出来ない・・・。)
硬く閉じていた腕をゆっくりと開いて、恐る恐る背中に手を伸ばす。
自然と律子と正面から抱き合う形になり、自分の胸に直接律子の胸がブラ越しだが当たる。
(柔らかくて・・・温かくて心地良い・・・。)
「見ないと分かり難いだろうから、ちゃんと背中を見ながら取ってみて。」
律子に言われて、胸の気持ち良い感触を感じながら返事をせずにそのまま、背中を覗き込むようにして、
律子のブラのホックを探した。体を乗り出すようにするのと、
両腕で背中を探している内に、胸だけでなくお腹や太腿まで触れ合い、そして密着していった。
(伊織とはまた、違った感触・感覚・・・。)
触れ合っている部分を感じながら律子は少しボーっと考えていた。
カチッ
ホックを少しの間どうするのか悩んで動かしていた千早はようやくホックを外す事が出来た。
「外れました。」
変に嬉しくて思わず言ってしまった。
「後は、さっき私がやったのと同じで、肩紐を持って取ってね。」
律子はそう言いって自分から首に回していた両手を外して、自分から離れる。

「あっ・・・。」
千早は温もりが離れていく感じがして思わず声を上げてしまう。
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。」
(何か・・・寂しさを感じた?こうして居たかったのかしら・・・。でもこんな事なんて・・・。)
律子は不思議そうに聞くが、千早は内心複雑だったが慌てて誤魔化す。
「そう?じゃあ、取って・・・。」
「・・・はい・・・。」
改めて正面を向かれて言われて返事をしたが、やはり恐る恐る肩紐に手を伸ばす。
壊れ物を扱うように、肩紐に人差し指と中指を入れて持ち上げる。そして、ゆっくりと自分の方へ引いていく。
その動きに合わせるように律子は腕を上げながら真っ直ぐにしていく。
少ししてブラが外れて律子の胸があらわになる。
ごくっ
思わず千早は動きが止まり眼が釘付けになって息を飲む。
(大きくて綺麗な胸・・・。)
元々、こんなに身近でしかも意識して見た事の無かった千早にはカルチャーショックだった。
(食い入るように見ちゃって・・・。そこまで気になっていたのね。)
律子はそう思いながら動きが止まっている千早が持っている宙ぶらりのブラの間からそっと腕を抜いた。
「千早。」
「あっ。」
千早は呼ばれて我に返ってハッとする。
「ブラありがとうね。次もお願いして良いかしら?」
「はっ、はい。」
慌ててブラを置いてから千早はしゃがみ込んだ。

「両方に手をかけて最初はゆっくり下ろして・・・。」
律子は今の状態に少し興奮して、顔が上気していた。
千早はぎこちない少し震える手を律子の両腰に当てて、パンツを掴んだ。
「お尻の方からね。」
「は・・い・・・。」
千早の方もドキドキしながら人差し指と中指を少しお尻の方へ入れてパンツをずらしていく。
「上手よ、千早。」
律子はその様子を見下ろしながら右手で千早の頭をそっと撫でる。
パンツがお尻から下りきりそうになると、一緒に前側も引っ張られてヘアが千早の前にあらわになる。
(秋月さんのヘア・・・。)
千早は自分の鼓動を感じる位ドキドキしながら見ていた。綺麗に手入れされている様子は自分と違うというのが良く分かった。
「後は、そのまま下ろして・・・。」
「はい。」
静かに返事をして千早は徐々にパンツを下ろす。
ツーー
(えっ!?濡れてる!?)
千早が下ろしている最中、自分が昨日脱いでいたよりもはっきりと蜜が糸を引いた。
動揺してパンツを持っている手が思わず小刻みに震えた。
「んふふ・・・。脱がされちゃって興奮しちゃったのかしら。千早が焦らすから・・・。」
(そんな事・・・言わないで。)
律子にそう言われると千早は照れを誤魔化すように視線を床に逸らしてそのまま黙ってパンツを足首まで下ろしきった。
「お、終りました。」
恥ずかしさで上を向けずにその場で消え入るような声で千早は言った。

「ありがとう。それじゃあ、私の番ね。立って千早。」
頭を撫でるのを止めてしゃがみ込んでいる千早を起こす為に一旦律子の方もしゃがむ。
「ほら。」
視線をずらしている千早の目を見ながら言って、自分のパンツを持っている左手を自分の右出て優しく握る。
「あっ・・・。」
思わず握られた手を見て千早から驚きとは違う声が出る。
(ふふっ、可愛い声出しちゃって。)
「立てるわよね?」
そう思いながらも、律子は優しく千早に問いかけた。
「は、はい。」
そう返事はするが、恥ずかしさで視線を合わせられない。
律子は導くように千早のゆっくりと立ち上がる。それに自然とつられるように千早も立ち上がった。
「胸は隠さなくて良いの?」
「えっ!?キャッ。」
無防備にさらしている胸に気が付いて千早は急いで自分の胸を抱えるようにして隠す。
「それじゃあ、脱がすからね。」
律子はしゃがみ込んでから脇腹からお尻、太ももにかけてを少し見ていた。
(やっぱり自主トレーニングなんかで引き締まっているわね。綺麗な腰、ヒップライン。伊織とは全然違うわね。)
律子はいつも見ている伊織との違いを実感していた。
しげしげと見られて、気になってた千早はチラチラと律子の頭を見ていた。
(何か・・・見られてる・・・。)
恥ずかしさというよりも、何か変な興奮を覚えていた。
そして、少ししてから律子は千早の白いパンツに手をかけた。
「あっ・・・ん。」
(やだっ・・・。)
手が腰の辺りに触れると興奮して敏感になっていた千早から思わず声が漏れる。思わず右手で自分の口を押さえた。

(ふ〜ん。感じちゃってるんだ・・・。じゃあ、ここも多分。)
スルッ
スッ
少しニマッと笑って律子は指を入れて一気に足の付け根まで下ろす。一気にお尻とヘアがあらわになる。
驚いた千早は思わず視線を下に移す。そこで一旦止めてゆっくりと下ろす。
ツー
(やっぱり・・・。)
律子が予想していた通り、千早も濡れた蜜が糸を引いた。昨日とは比較にならない濡れ方だった。
「あ・・あ・・・。」
(わ・・・私・・・私・・・。)
思わずそれを目の当たりにしてしまった千早は真っ赤になりながら動揺して声が出ていた。
「千早も興奮しちゃったんだ?自分で脱ぐより脱がされる方が良いんだ?」
律子は手を止めてから、目を細めて千早の目を見ながら言った。
「ちっ・・違っ・・・そっ、そんなっ・・・事・・・私。」
千早は動揺して胸を隠す事も忘れて、恥ずかくなって両手で顔を覆いながら言う。
その間に律子は千早のパンツから手を離して、自分の下ろしきられて足首で止まっているパンツを脱いで床に置いた。
千早が全く動けない状態なのを見て、律子は右手を千早の蕾に伸ばす。
ちゅくっ!
「ひゃっ!?」
千早は蕾から腰を伝って頭に突き抜けて来た感覚に、思わず爪先立ちになって少し仰け反る。
「んふふっ。」
くちゅっ・・・ちゅくっ・・・
律子は人差し指と中指で蕾をゆっくりと弄ると卑猥な音がする。
「はぁっ!?・・・あぁ・・・だっ駄目っ。」
ギュッ!
甘い声を出し始めた千早だったが、覆っていた両手で千早の右腕を強く握る。
その瞬間、顔を覆っていた両手が離れたので、視界が広がり律子と目が合った。
「離して貰って良い?」
「は・・い・・・。」
妖しく微笑みながら言う律子から目が離せず、自然と自分の両手を律子の右腕から離した。

「私の右手暫く見続けてね・・・。」
そういうと律子は千早の蕾に密着している右手を見せる。
千早は言われるままに視線を律子の右手、つまり自分の股間の辺りに移す。それを見てから律子は自分の右手をゆっくりと引く。
チュッ・・・ツーー
少し粘り気のある蜜が離れるのを惜しむように、合わせた人差し指と中指についたまま、いやらしく糸を引いた。
「はあっ・・・はぁ・・・。」
(こ・・・こんなに・・・。)
千早は興奮気味に息を荒くしていた。律子はその手を自分と千早の視線の間に入れる。
「ほら、こんなに・・・。」
ぬら〜〜
ポタッ
合わせていた人差し指と中指を開くと蜜が糸を引いてから、律子のメガネの上に垂れる。
千早の方はもはや何も言えずに目が目の前で繰り広げられている淫猥な行動に釘漬けになっていた。
そして、律子はその二つの指を自分の口の方へ運ぶ。
「えっ!?」
(まっ、まさか!?)
千早は驚いて目を見開く。
ちゅぴっ、ちゅぷっ
「ぷはぁ・・・。んふふ。千早のえっちな蜜甘くて美味しいわ。」
律子は千早の目を見ながらいやらしく丁寧に指をしゃぶる。
「あ・・・あぁ・・・。」
(す・・・凄い・・・。)
どっくん、どっくん、どっくん
その光景を見て千早はまともな言葉が出ず、興奮して心臓が物凄い勢いで鼓動していた。

千早を見上げていた律子は視線を改めて千早の股間に移すと、少し内腿側に蜜が流れ出て垂れていた。
(凄い興奮の仕方ね。こっちまであてられて興奮しちゃうわ。)
律子はそう思いながらも、再びパンツに手をかけて下ろし始める。それと同時に顔を上げてまた千早を見る。
「んふふ、腿まで垂れちゃってる・・・凄く興奮しちゃってるのね。」
「はぁ・・・そ、そんな・・・はぁはぁ・・・こと・・・。」
もう、頭の中で訳が分からなくなる位、千早の顔も耳も真っ赤で全身も桃色になっていた。
視線だけでなく顔も逸らせず、律子の目を見ているしかなかった。
そして、再びパンツに両手をあてて下ろしきってから、手で千早の足に合図すると、自然と上がって降りる。
すぐに抜き取って、右手で千早のパンツを持ってから、左手で自分のパンツを持って視線はそのままにゆっくりと立ち上がる。
「ほら、千早。見て・・・。」
そう言って律子は両手に持ったパンツを見せる。両方ともしみが出来ているのが一目で分かる。
「そ、そんなの・・・見せないで・・・。」
(私も・・・秋月さんも・・・こんなに・・・。)
そう言って真っ赤な顔のままだが千早は目を逸らせない。
(あっ・・・。)
律子は千早のそんな様子を見ていると内腿に少し違和感を感じる。
ツー
千早同様自分も、内腿から蜜が垂れてしまっていた。
(最近ご無沙汰だったから・・・。)
内心でそう思いながらもさっきまでの千早に感じていた嫌悪感や怒りは無くなっていた。
そして、律子はパンツをテーブルに軽く放る。

そして、右手で千早の左手を握って、それを自分の股間へと持っていく。
「な・・・何を・・・。」
千早の精一杯の言葉だった。
ちゅぷぅっ
(す・・・凄く・・・濡れてる!?)
千早は驚いて、もって行かれた手の方を見る。そうすると、さっき言われた自分同様、内腿から蜜の線が出ているのが見えた。
(垂れてる・・・。)
千早はその光景に目が釘付けになっていた
「私も興奮しちゃってこんなになっちゃった。」
律子はそう言ってから、千早の手を自分の蕾から離した。
人差し指から薬指の指先にぬっとりとついた蜜がついていたが、指についた量が少なかったのか糸は引かなかった。
そして、握ったままのその手を千早の口に持っていく。
「千早、舐めて・・・。」
「は・・・ちゅっ・・んっ・・ちゅぷ・・・。」
返事を聞ききる前に律子は三本の指先を開いた小さな口に入れる。千早は何の抵抗感も無く無心に舐め始める。
(私・・・舐めちゃってる・・・。)
「ぷぁ・・・。」
律子は少し舐めさせた後、千早の口に入っている指を握っている手を引いて抜く。
「味はどう?」
「わ・・・わかりません・・・。」
千早は律子に聞かれたが頭がボーっとして、そう答えるのが精一杯だった。
「んふふ、こんなに汚れちゃったから一緒にシャワー浴びましょう。」
「・・・はい・・・。」
律子はその返事を聞くと、握ったままの手を引いてバスルームへと歩き始めた。千早は促されるままにフラフラと着いて行った。

律子は「ばするーむ」と可愛い字で書かれているパネルが掛かっているドアを開けて千早を招き入れた。
普通よりも広い脱衣場を通過して、浴室のドアを開ける。
湯船は普通のユニットバスとは違い、段差がついていて普通のものの3倍はあろうかという大きさ、
洗い場も3人でも余裕で足りる広さだった。
「凄い・・・。」
ボーっとしていた千早だったが、バスルームの凄さに驚いて我に返って呟いていた。
「部屋が質素な分、こういう所にお金を掛けてるの。
実際あちこちにあるんだけど、戻って寝るだけの事が多いから、浴室と寝室を改装してあるのよ。」
「なるほど。確かに昨日同様、部屋が普通だなとは思っていたんです。」
我に返って冷静になった千早は引かれていない右手を顎に当てながら納得したように頷く。
「どうやら、いつもの感じに戻ったわね。さっきまでボーっとしてどうなるかと思ったけど。
まあ、証拠残ってるから綺麗にしましょう。」
律子はそう言いながら、視線を千早の顔から下げていって内腿に移す。
(証拠?)
千早も不思議に思いながらにつられて視線を落とす。
律子の言う通りしっかりと、自分の内腿には蜜の線が膝に向かって延びているのが見えた。
「う・・・あぁ・・・。」
いつもの綺麗で白い顔に戻っていたが恥ずかしさで一気に真っ赤に染まってまともに言葉を発せない。
そして、それを隠す為に凄い勢いで手を腿に持っていく。
空いていた方の右手は問題なかったが、掴まれていた左手は律子の右手を握ったままだったので、
律子の方が凄い勢いで引っ張られてバランスを崩す。
「きゃっ!?」
どたんっ
そのまま、律子は転んでしまう。
「痛たたた・・・。」
前から倒れるのと手をつくのは危ないと思ったので、自分から尻餅をついた律子は空いている左手でお尻を摩っていた。
「あっ、すっ、すいません。慌ててしまって・・・。」
千早は赤くなりながらも急いで謝った。

「大丈夫よ。だけど・・・そんなに触って欲しいの?」
痛みでちょっとしかめっ面になりながらも、持って行かれた右手を見ていた。
千早は言われて見てみると、握り締めて引き寄せた律子の右手が自分の左手と一緒に内腿にピッタリとついていた。
「えっ!?あっ、ち、違っ。」
慌ててしどろもどろになりながら律子の右手を離す。律子の右手に蜜がついていて少しだけ糸を引いた。
その後、再度蜜の跡を隠して真っ赤になって俯いたまま硬直していた。
(ふう、でも危なかったわ・・・。下手したら伊織の二の舞になりかねなかった。)
律子は千早の力の強さを改めて知って自戒していた。
「まあ、良いわ。とりあえず、綺麗にしましょう。」
律子はそう言って、二つある内の一つのシャワーのノズルの持ち手を取ってお湯を出し始めた。
ザーー
少しして湯気が立ち始める。千早の方は半分訳が分からなくなっていたがシャワーの音で再び冷静さを取り戻し始めた。
(ふう、落ち着かないと。ペースを完全に持って行かれてる。
だけど・・・秋月さんってこんなエッチだったんだ・・・。
普通・・・人のなんて・・・しかも同性のなんて・・・舐められない・・・。でも・・・私も・・・。)
冷静になった千早だったが、さっきの自分の蜜を恍惚とした顔をしながら舐めている様子と
自分が律子の蜜を舐めてしまっていた光景を思い出して、また赤くなっていた。
「もうお湯出てるから使って。熱い冷たいがあるようだったら、そこにあるスイッチで調節して。」
「はい、ありがとうございます。」
お湯の出ているノズルを差し出されて千早はお礼を言いながら右手で受け取った。
左手で温度を見てみると丁度良い。
そのまま、体の方でシャワーを浴びる。
(気持ち良い・・・。)
目を閉じて、シャワーが体に当たる感触と暖かな温度を楽しみながら感じる。

律子はそれを見ながら、もう1つのシャワーのノズルを取ってコックを捻った。
慣れた手つきで温度設定を思いっきり下げて頭から被る。
「んっ・・・冷たっ。」
我慢していたが少し声が出る。チラッと千早を見たが悦に浸っていて気が付いていない様子だった。
(私自身が興奮していてどうするの。こいつは伊織を奪った憎い奴・・・。忘れる所だったわ・・・。)
冷たい水が、律子をどんどん冷静にしていく。更に、千早を見る視線までも冷ややかになっていく。
カシャン!
「えっ!?」
流石にへんな音がして気が付いた千早は目を開けて音のした方を見る。水が出っ放しのノズルが転がっている。
それを見て、何故か千早の背中に悪寒が走った。
(一体何!?)
そこから、視線をあげて、律子の方を見る。律子は俯いたまま立ち尽くしていた。
ただ、さっきまでの雰囲気とは全然違うのが千早には不気味だった。
ごくっ
思わず息を飲む。
「あ、あの・・・秋月・・・さん?」
その雰囲気は千早でさえも声を掛け難くする。

「・・・んふふっ・・・。」
律子が俯いたまま不気味に笑う。その声に、千早は思わずビクッと反応する。
(昨日の雰囲気?・・・いえ・・・それとはまた違う・・・一体・・・。)
千早はお湯が出っ放しのシャワーのノズルを持って、顔をひくつかせながら後ずさる。
「待ちなさい・・・。」
ゆっくりと顔を上げながら律子はゆっくりと言う。思わず、千早は律子の顔を見て目が合う。
「ぅ・・・。」
射抜くような視線に金縛りにあったようになって動けなくなる。
「まだ、綺麗になっていないでしょう?」
律子はそう言いながらゆっくりと千早に近付いて行く。
「ぁ・・・ぅ・・・。」
千早は細かく震えながらも、目が逸らす所か閉じる事も出来ない。
濡れたメガネ越しの律子の鋭い視線は千早の瞳を捉えて放さなかった。

(逃がさないわよ・・・千早。)
目の前まで来て千早を絡め取るように、首に左腕を回して千早の左肩に手を添える。思わずピクッと千早が反応する。
そして、右手を千早の左の胸に伸ばす。
キュッ!
そして、おもむろに乳首を摘んで捻る。
「ひぎっ!」
痛みに思わず千早は声を上げて目を瞑りながらビクンっと体を反らせる。律子は捻るのを止めるが乳首は放さない。
「目を開けなさい・・・。」
少し涙目になって言われるままに目を開ける。
「い、痛いです・・・。止めて・・・下さい・・・。」
目を開けた後、千早は懇願する。
「伊織はもっと痛かったでしょうね・・・。」
キュッ、キューーー!!
律子はそういってから、また乳首を捻って、今度は更にそのまま引っ張る。
「ひぎぃっ!」
千早は目を見開いて悲鳴に近い声を上げて痛がる。
「すいませんっ、ごめんなさいっ、許して下さいっ!」
我慢強い千早は何とか目に涙を溜める所で留まっていて、その涙が溢れそうになりながら必死にその場で頭を下げて謝る。
「目を逸らさない・・・。」
言われると、怯えた眼で細かく振えながら千早は律子を見る。
律子はそんな千早を見て目を細めて笑いながら捻っていた乳首を摘んだままだが元に戻す。
(許してくれる?)
千早はそう思って少しホッとした顔になる。

「嫌よ。」
律子は冷たく言い放つ。細くなった目の中にある瞳は冷酷に光っていた。
「そ、そんな・・・。」
天国から地獄に落とされた感覚に陥った千早は思わず口走る。
「ただ、痛がってるのもつまらないわね・・・。」
「えっ!?い、いやっ・・。」
(こっ、恐い・・・。)
目が逸らせない千早は何をされるのか分からない事で恐怖感が増して、細かく左右に顔を振って震える。
「突き飛ばしたいならそうしなさい。ただし、この乳首は絶対放さないわよ。最低でもちぎれるのを覚悟の上でやりなさい。」
「くっ・・・。」
千早は突き放そうと手を伸ばしていたが、律子の言葉に手が止まる。
律子は左手を後ろに回したまま下ろしながら段々と手前に持ってくる。そして、おもむろに蕾を指でなぞった。
にゅるんっ
一旦固まっていた愛液がシャワーのお湯でまた液体になったのもあってか、ほど良く濡れていた。
「ひあっ!?」
さっきまでの痛みとは対照的に背筋を駆け抜けて頭に響く感覚に声が出る。
中指から小指までで蕾を往復させながら、親指と人差し指でクリトリス付近の皮を弄る。
「ふっ・・・んぅっ・・・。」
千早は下から来る快感に我慢していたが、声がどうしても漏れてしまう。
(ふーん・・・感じてるんだ・・・。)
そんな千早を律子は冷たい目で見ていた。

キュッ、キュッ
くちゅ・・・くちゅぅ・・・
再び右手で何回か乳首を捻って戻すを繰り返した後、ゆっくりと蕾を左手で前後に往復させる。
「ひぃっ・・・んあぁ・・・。だ、駄目・・・ですぅ・・・んぅっ。」
(痛いのと気持ち良いので・・・変になっちゃう・・・。)
また、持たれたままの乳首を捻られて痛みが来た後、断続的に来ている蕾を中心とした快感でそれが消えていく。
キュッ、キューーー!!!
ぐちゅっ、ぬちゅっ、くちゅっ
律子は答えず無言のまま乳首を捻り上げて、蕾の往復を早くさせる。
「ひぃい・・・あぁ・・・お、おかひく・・・なりゅぅ・・・あぁ・・・。」
さっきよりも痛みと快感が同時に襲ってくる。千早はまともに声が出せなくなってくる。
(あった・・・。)
既に、涙とよだれでだらしない顔になっている千早を見ながら、律子は探していたクリトリスを指で一気に剥いた。
「ひゃぁうぅ!」
千早は一気に来た感覚にビクンと痙攣して思いっきり仰け反った。
「おかしくなりなさい・・・。痛みと快感の中でね・・・。」
「ひぃ、ひやぁ・・・。」
冷たく言って律子は千早の言葉を聞かずに一気にクリトリスを摘んで捻り上げた。
「!?!?!?うぐぁあ゛あーーーー!!!」
ビクッビクッビクッ
凄まじい痛みと快感ともいえない感覚が一気に脳天に突き抜けて、
叫び声を上げて千早は思いっきり爪先立ちになって、目を見開いて大きく三回痙攣してイッた。
その直後気を失って、後ろに倒れそうになるのを律子は受け止めるが、
律子に寄り掛かりながら床にズルズルと力なく崩れ落ちた。その様子を律子は冷たい瞳で見下ろしていた。
「虚しい・・・。」
そう呟いて千早をそのままにして浴室を出た。

「くしゅんっ。」
(ん、流石に冷えたかな・・・。)
脱衣場から廊下に出る前にくしゃみをした後、律子は身震いしていた。
そして、また浴室に入って倒れたままの千早をそのままにして、温度設定を変えて普通のお湯にして体から浴び始めた。
さっきと違い、温かなお湯は冷え切った体と一緒に心理状態の氷も溶かして行っていた。
「伊織・・・。」
呟いた後視界が曇る。律子はメガネを取って置いた後、目を閉じて頭からシャワーを浴びる。
ザーーー
(律子〜。明日の仕事も頑張ろうね。にひひっ♪)
(アイツ最近たるんでるわよね!)
(律・・子・・・・あっ・・・気持ち・・・良ぃよぉ・・・はぁあ・・・。)
微動だにせず律子は伊織と一緒に入った事を思い出しながら、その場で立ち尽くしていた。
思い出せば出すほど、涙が溢れてきていた。そんな涙はシャワーのお湯と一緒に流れて行った。
少しして、目を開けてからメガネをかけ直して、無言で倒れている千早の近くまで行ってしゃがんでからお湯をかけ始めた。
少しピクピクしていたが気が付く気配は全く無い。
(流石に明日もあるしこのまま放置って言う訳には行かないわね・・・。)
怒りがある反面、仕事の大切さも重々承知している律子としては放って置けなかった。

暫くかけていると、少し血色が良くなってきて白かった肌が薄く桃色に染まり始める。
(この位で良いかな。)
律子はシャワーを止めて、浴室から出て急いで自分をバスタオルで拭いた後、自分の体を巻いた。
そして、違うバスタオルを持って浴室へ戻った。
「よっ、と。」
倒れている千早の肩を右腕で持って抱き起こす、完全に気絶したままなので長い髪の重みもあって首が後ろにカクンッとなる。
それを見て、腕を首の後ろに回して位置を直しながらバスタオルを左手で首と右腕の間に挟む。
反対側を持ったまま膝の裏に左腕を通してバスタオルに千早の体をくるんで持ち上げる。
(んっ、伊織よりは重いかな・・・。)
そう思いながらも、あっさりと千早を抱いたまま立ち上がる。昔の律子からは考えられない力だった。
昔の温泉での出来事があってから、レッスンの中やそれ以外でも自主的に筋力トレーニングも一緒に入れていた成果だった。
今回の千早に限らず、伊織が疲れ切って浴室で寝てしまうケースが多かったのもあって慣れたものだった。
お姫様抱っこ状態のまま、千早の体が周りにぶつからないように気を付けながら浴室を出た。
(伊織より手足が長いからちょっと厄介ね・・・。)
途中のドアや廊下でぶつかりそうになり、苦笑いしながら歩いていく。
寝室に着いて大きなベッドにそっと寝かせる。
その後で自分を覆っていたバスタオルを取って千早の長い髪を揃えてから包む。
律子は裸のままで千早をくるんでいたバスタオルを取ってまだ濡れている部分を綺麗に拭き始めた。

(きっと裸で寝る事なんて考えられない子だろうな・・・。)
拭きながら肌の露出に思いっきり抵抗のある昨日や今日の事を考えて思っていた。
(綺麗な白い肌・・・。その内プロデューサーに晒す事になるのかしら。)
拭き終わってから改めて全身を見てそんな事を思っていた。
「まあ、どうでも良い事ね・・・。」
少し小さく溜息をつきながら呟いて、布団を上から掛けた。それから、クローゼットの方へ行って着替え始めた。
下着の上下を着てから、すぐに横になっている千早の方に振り向く。
(別に寝るだけだからこれで良いかな・・・。髪は私も千早も起きてからで良いわね。)
・・・・・・スー、スー
そう思って見ていると、気絶状態から睡眠状態に変わったのか寝息が聞こえ始めた。
「回復早いわねえ。基礎体力が違うのかしら。」
感心したように言ってから、律子も一緒の布団に入って眠りに着いた。

気分が高ぶっていたのか、律子の方が先に起きた。横にあるデジタル時計を見ると、AM6:05だった。
「ん〜、良く寝た。」
その場で伸びをしながら横に居る千早の顔を見た。
(良く寝てるわね、でも起こさないと。千早朝からスケジュール入ってたし。)
律子はプロデューサーよりも自分達の事務所の人間のスケジュールを知っている存在だった。
それだけプロデューサーが頼りないのか、律子がしっかりしているのかどちらかは微妙だった。
「千早・・・千早・・・。」
律子は千早をゆすりながら起こす為に呼びかけた。
「うっ・・・んっ・・・えっ!?」
(ここは?・・・えっ?)
千早は最初ボーっと目を開けたがいつもと違う光景に驚いてパチッと目を開けた。
(ここは・・・私の所じゃない・・・。秋月さん・・・昨日・・・私・・・。)
「ひっ!」
そして昨日の事を思い出して、律子を見て短く悲鳴を上げてから、思わず顔が引きつって距離を置くように律子から離れていく。
「怯えている場合じゃない。今日は早朝レッスン入っているでしょ。早くしないと遅刻しかねないわ。」
律子は強い口調で言う。
「あっ!はい。」
ビクビクと怯えていた千早だったが、律子の言葉にハッとして返事をする。

「きゃっ!?」
急いで布団をどかして歩き出そうとして、自分が裸なのに気が付いて赤くなりながら布団で自分の体を隠す。
「恥ずかしがってる場合じゃ無いでしょ!」
「えっ、すいません・・・。」
千早は思わず謝る。
「謝ってる暇があったら、早く着替える!着替えは何処?」
「最初に通して頂いた部屋に・・・。」
どうしていいか迷っている感じで上目使いになりながら言う。
「私に持ってこさせる気?」
「いえっ、い、行きますっ!」
千早は焦って返事をした後、思い切って布団をベッドの上に置いて、寝室から早足で廊下に出て行く。
(あれ?どっちに行けば?)
千早は急いで出たものの部屋の配置が分からず立ち止まった。
「こっちよ。それと、なるべく動かないように着替えて。」
律子は裸のままの千早の横を通り過ぎて先導するように先を歩きながら言った。
「え?はい。」
良く分からなかったが、返事をして千早は律子に着いていった。
最初に通された部屋に入って、律子の方はすぐにカラーボックスの方へ移動した。
千早の方は持ってきたスポーツバッグから下着と上着を出して着替え始めた。
(相変わらずの素っ気無い白の下着・・・。)
着替えている千早を見ながら何とも言えない顔をして律子はドライヤーを出していた。
ブオーーー
千早が着替えている間に、律子が後ろから髪をドライヤーでセットする。
千早はパンツを履いてブラを着けるのに結構動くが、律子の方は上手く動きを追ってセットし続けた。

「すいません・・・。ありがとうございます・・・。」
ブラが着け終わって着替えている手を止めて千早は申し訳無さそうに俯きながら小さく呟く様に言った。
ただ、ドライヤーの音でその声は律子には届いていなかった。
「何でも良いから、早く着替える!」
動きが止まった千早を見て、律子はドライヤーを動かしながら大きな声で言う。
「はいっ。」
千早は驚いて返事をした後、スカートを持って急いで着替えを続け出した。
千早がブラウスまで着替え終わる頃に丁度髪のセットの方も終った。
「とりあえず、ドアから出て右の二番目のドア入れば化粧台があるから、そこにあるの使っても良いし、
自分で持っているのが合ったらそれで化粧して。20分で終らせて遅くても30分後にここを出れるようにして。」
「あの、私化粧はしないんで・・・。」
律子の言葉に困ったように千早は言う。
「化粧水と乳液くらいした方が良いわよ。身嗜みとしてね。
今日は良いから10分で簡単に準備しておいて。歯ブラシはドア出て左の二番目のドア開けて。
そこの下の引き出し開ければ一通り揃ってるから。」
律子はそれだけ言うと、ノートパソコンを出して電源を入れた後、OSが立ち上がるのを待った。
「わかりました。」
その背中に返事をしてから千早の方は部屋を出て言われたドアを開けて中に入った。
綺麗な洗面台があって、お揃いのペアの歯ブラシやコップが置いてあった。
「本当に仲が良いんだ・・・。」
ちょっと呟きながら、ペアの歯ブラシを見ていた。
(秋月さんがあれだけ怒るのも無理ない・・・か。)
何とも言えない表情になった後、ハッとしてすぐに洗面台の下にある引出しを開けて、
新しい歯ブラシと歯磨き粉を出して、歯を磨き始めた。

律子の方は、千早の行き先のレッスン場がある最寄駅までの時間を計算する為にインターネットの時刻表を見ていた。
「レッスン開始が8時15分からだから・・・。あっちに最悪でも8時前につかないと・・・。」
自作のスケジュール表ソフトを見た後、右手でマウスをクリックしながら、左手で器用にキーボードを叩いて入力していた。
(こっちの最寄駅を・・・十分間に合うわね。)
律子はホッとしてメガネを手で直した。その後、電源を落としてから立ち上がってキッチンへと歩き出した。
「準備できました。」
千早は部屋に戻って来て、さっき律子が座っていた方向に声を掛けた。
はっきりとして少し大きな千早の良く通る声が部屋に響いた。
(あれ?居ない?)
声を掛けた方向に律子の姿は無く、思わず千早はキョロキョロと部屋を見渡した。
「その辺に座ってて。まだ時間大丈夫だから。」
「あっ、はい。」
入り口からは死角になるキッチンの奥から律子の声がして千早は中に入ってから昨日と同じ場所に座った。
「朝ご飯しっかり食べていかないと、レッスンもたないでしょうからね。
プロデューサー何だかんだいって教え方上手なんだけどハードだから。」
そう言いながら、持ってきた皿をテーブルの上に置く。皿の上には、卵焼きと海苔の巻かれたおにぎりと漬物が乗せてあった。
「あの、これ・・・。」
千早は律子の方を驚いた顔をして見る。
「普通に食べてる時間ないから簡単だけど作ったの。
これなら時間掛からないし、最悪おにぎりなら持って行っても良いと思ってね。」
律子は不思議そうに見返しながら言った。

「あ、ありがとうございます・・・。」
(昨日の夜と同一人物なのかしら・・・。)
千早はお礼を言いながらそのギャップに内心で悩んでいた。
「一人で食事っていうのも味気ないし、こういうのは昔から慣れているから。
時間あるといってもそんなにある訳じゃないから、とりあえず、食べて。」
「では、頂きます。」
千早は手を合わせてからそう言って、早速おにぎりを取って口に頬張る。
(美味しい・・・。私の好きな塩加減・・・。)
その後、千早は無心になって食べ続ける。そんな千早を、律子は無意識の内に微笑みながら見ていた。
「ご馳走様でした。」
綺麗に食べ終わった後、手を合わせて言う。
「御粗末様でした。さあ、歯を磨いたら出ましょう。私入り口で待ってるから。荷物はそれだけね?」
「はい。あ、でも荷物は自分で持ちます。」
「分かったわ、じゃあ、待ってるから。」
そう言って、律子は皿を持って立ち上がる。同時に千早の方もスポーツバッグを持って立ち上がる。
ジャー
食器洗い機があるのだが、律子はつい癖で皿を普通に洗っていた。
(私・・・如月さんを伊織と重ねているのかしら・・・。一人じゃ寂しいから・・・なのかな・・・。)
少し苦笑いしながら、すぐに洗い終わった。そして手早く着替えてから玄関で千早を待った。

シュコシュコ・・・
千早は歯を磨きながら鏡を見て、身嗜みが大丈夫か確かめていた。
(それにしても・・・。どれが本当の秋月さんなのかしら・・・。
脱がせるのを強制してみたら・・・次には一緒に脱いだり・・・。シャワールームと今朝の対応のギャップだったり・・・。)
千早は真剣な顔になって考え込んで、歯を磨く手が止まっていた。
「如月さーーん、まだーーー?」
「はっ!?」
律子の呼ぶ声で我に返って、急いで磨いてから口をゆすいで洗面所を後にした。
「すいません。遅くなってしまって。」
千早は玄関に来て申し訳無さそうに頭を下げて謝った。
「今それは良いから。靴履いて出ましょう。」
「はい。」
律子は千早が靴を履くのを確認すると、先に玄関のドアを開けた。外は雲一つ無い良い天気だった。
二人は並んでマンションから出て最寄駅へと歩き始めた。
「あの・・・秋月さん・・・。」
「うん?どうしたの如月さん?」
律子は声を掛けられて不思議そうに千早を見た。
「その・・・どれが本当の秋月さんなのかって・・・。」
凄く言い難そうに上目遣いになって恐る恐る聞く。
「どれ・・・ねえ・・・。」
(もしかして・・・怒ってる?)
「凄く失礼に聞こえたなら、すいませんっ。」
律子が眉をしかめて顎に手を当てて考えると、千早は律子が怒ったのかと思い急に謝る。

「どれも本当の私。怒りで貴方をいじめてしまう私も・・・。」
少し声のトーンが落ちて言うその言葉に、千早はビクッと反応して俯く。
「こうやって貴方を面倒見る私も・・・。貴方を伊織と重ねてしまっているかもしれない私も・・・。」
「えっ!?」
続けて出た最後の言葉に千早は驚いて、律子の方を見る。
「今・・・なんて・・・。それって・・・どういう・・・。」
そして、思わず言葉が出てしまう。
「さあ、駅に着いたわ。切符買って来たのに乗れば十分間に合うから。いってらっしゃい。」
「え・・・あ・・・行って来ます。」
質問には答えず微笑んだ律子に言われて、千早はそれ以上聞けずに返事をして切符売り場に走って向かった。
「今日は久しぶりに電車で事務所に行こうかな・・・。」
千早の背中を見送って、少し前の自分を思い出しながら律子は呟いた。

千早はレッスンが終り更衣室でジャージ姿のまま座って、ロッカーをボーっと見ていた。
(秋月さんが朝言っていた意味はどういう事・・・。)
レッスン中は集中していたが、レッスン場に来るまでの間や、終った今もその問いが頭の中を支配していた。
「千早ー!」
「はっ!?」
外からプロデューサーの声が聞こえて、千早は我に返った。
「すいません。もう少ししたら行きます。ロビーで待っていて下さいますか?」
「分かった、待ってる。」
そう言ってから、急いで千早はジャージを脱いで普段着に着替えた。そして、更衣室を出てロビーの方へ小走りで移動した。
「それじゃあ、明日は午後からになるが、ここでダンスのレッスンを行う。
今日同様午後1時に始められるように来てくれ。出来によっては遅くなるから覚悟してくれよ。」
「はい、大丈夫です。」
真っ直ぐにプロデューサーを見てはっきりと千早は返事をした。
「それじゃあ、今日はここで解散にしよう。今日の表現力レッスンで大分表情が出てきたし良い傾向だ。」
プロデューサーは嬉しそうに言う。
「ありがとうございます。」
千早は頭を下げてお礼を言った。
「じゃあ、また明日。今日はお疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
そう言うと、プロデューサーは時計を見ると、びっくりして慌てて玄関の自動ドアに肩をぶつけながら出て行った。
「大丈夫かしら・・・。」
(さっきまでのレッスン中とは別人みたい・・・。)
それを見て千早は心配そうに呟いた。
プロデューサーを何となく視界から消えるまで座ったまま見送ってから、
千早は立ち上がってスポーツバッグを肩から下げてレッスン所を後にした。

綺麗な夕焼けの中、大通りは家路につくであろう人達が多かった。
肩から下げているスポーツバッグがぶつからないように気を付けながら、最寄駅に向かって歩いていた。
♪〜♪〜
携帯が鳴って、千早はポケットから取り出して受信相手が誰なのかを確認した。
「「秋月 律子」」
「・・・。」
昨日の帰りの途中で既に番号登録しておいたのですぐに分かった。
無言のまま思わず顔が少し強張ったが一回深呼吸をして自分をリラックスさせて歩きながら出た。
「如月です。」
「「秋月です。お疲れ様。」」
「お疲れ様です。どうしたんですか?秋月さん。」
挨拶を交わした後、千早の方が聞いた。
「「帰りの途中、ごめんなさいね。プロデューサー、もうそっち出たかしら?」」
「え?出ましたよ?」
出てきた言葉の以外さと焦ってる感じの律子の口調に、千早は不思議そうに答えた。
「今日の出演番組で共演者が急病で出番が早くなっちゃってね。
携帯鳴らしているんだけど、連絡取れなくて。携帯の電源切ってるのかしら・・・。」
(携帯の電源・・・。)
千早は律子の言葉を聞いて、今日のプロデューサーの行動を思い出していた。
「あっ!」
「「えっ!?どうしたの?何かあったの!?」」
突然千早が叫んだので律子の方が驚いて聞く。
「い、いえっ、すいません。プロデューサーですけれど、
今朝私のレッスン始める前に確か電源を切っていたような気がしたので・・・。」
「「・・・・・・。はぁ・・・。分かったわ。ごめんなさいね。」」
少しの無言の後、律子は溜息をついてから、千早に謝った。
「私は良いんですが・・・あの・・・大丈夫ですか?」
千早の方は逆に心配になって聞いた。
「「まあ、何とかするから大丈夫。貴方は心配しなくて良いわ。
レッスンお疲れ様。あ、そうだ。今日のスタジオから貴方のアパート近いのよね。良かったら夕飯一緒にどう?」」
(特に企んでいる感じではないし・・・断るのも失礼かしら・・・。)
凄く自然な口調だったが、千早は昨日の事もあり警戒していた。

「喜んで。何時ごろ何処へお伺いすれば?」
(ちょっと固いかな・・・。)
千早は今日の表現力レッスンを思い出しながら、自分が固くなっているのに気が付いて内心で苦笑いしていた。
「「アパートで出れる用意だけしておいて貰えるかしら。こっちの収録が終ったら連絡を入れるから。それで良いかしら?」」
そう言う律子の言葉の途中から律子の名前を呼んで急かせる声が携帯越しに聞こえている。
「はい、私は良いのでそちらの対応をお願いします。」
「「五月蝿くてごめんなさいね。それじゃあ、また後で。って、あっ!」」
プツッ・・・ツーツーツー
(誰かに切られた感じ・・・。)
千早は何とも言えない顔をして携帯を見ていた。
立ち止まってまた掛かってくるのを待ってみたが掛かってこないのでポケットにしまった。
そして、再び早足で最寄駅へと向かい始めた。

「何するのっ!ってプロデューサー!?・・・・・・何処で油売ってたんですかっ!!!」
一回俯いて肩を震わせた後、物凄い剣幕で律子はプロデューサーに食って掛かった。
ここまで怒っている律子を見たのは初めてだったプロデューサーは、次に言葉も発せず思いっきりたじろいだ。
「後、お願いできますよね?」
律子は青筋を立てながらにっこり笑って言うが、目は笑って居なかった。
そして、その言葉には絶対にNOと言わせない迫力があった。
「わ、分かった。すまん、律子。」
「謝ってる暇があったらさっさと行く!」
律子は左手を腰に当てて、右手で入口のドアを指して言う。プロデューサーは慌てて入口のドアを開けて出て行った。

さっきまで慌てて隣にいたマネージャーは呆気に取られていた。
「さっ、マネージャー。お仕事お仕事。」
律子の方は、そう言ってマネージャーの方を普通ににこやかに見ながら言った。
「は、はい・・・。」
ぽかんとしていたマネージャーは我に返って、律子のギャップに恐る恐る返事をした。
(あら・・・。恐がらせちゃったかしら・・・。)
「それで、今日は何時からの出番予定?」
内心で苦笑いしながらも、さっきまでとは打って変わって少し微笑みながら聞いた。
「えっとですね、本当の予定が19時からだったのが、18時に繰り上がりました。」
驚いていたが、律子の笑顔を見てホッとした顔をして手帳を見ながら言う。
このマネージャーは今日から律子と伊織のデュオの為に雇った女性だった。
プロデューサー一人では二組の面倒を見切れない+千早を確実に見て欲しいという「律子の意見」だった。
まだ、今日が仕事始めだったが、社長が少し前から考えていたらしく基本的な事は全て知っていたので律子は安心していた。
大学を出たてで22歳と若かったが真面目で人当たりの良い逸材だと律子は思っていた。
それは、今日初めて仕事をして感じていたし、周囲からの受けも良く早くも名前も覚えて貰っていた。
「後10分ちょいね。じゃあ、私はセットに入るから着いて来て。」
「はい、宜しくお願いします。」
どちらがマネージャーなのか分からない感じだったが、二人はそのまま生放送が始まる前のセットに入って行った。

「おはようございます。」
律子は先に周りに挨拶をした。
「りっちゃん宜しく頼むよ〜。」
「宜しくお願いします。」
「アドリブあった時のフォローよろしく〜。」
律子の一声に多くのスタッフや出演者から声が掛かる。
(うわ・・・凄い・・・。)
マネージャーは驚いて目をぱちくりする。
「はい。それと、今日私と伊織のデュオの専属マネージャーがデビューです。」
そう言って、隣にいる女性を紹介する。
「初めまして。至らない点が多々あると思いますが宜しくお願いします。」
マネージャーは深々と頭を下げながら言う。
「何だか、立場が逆みたいだな。」
一人のスタッフがそう言うと思わず笑い声が起こる。
「そんな事言ってると後で成長したら痛い目見るぞ〜。」
律子目を細めてがそう言うと、周りがしーんとなる。
「えっ?あ、あの、そ、そんな事は・・・。」
マネージャーはどう取り繕って良いのか分からず、わたわたし出す。律子はそれを見て軽く肩をポンポンと叩く。
マネージャーはハッとした顔をしてから我に返って律子の方を向く。
「はい、じゃあ皆、今日も宜しくねっ。」
そんな空気の中でも気にせずに律子はウインクしながら周りに向かって元気に言った。

生放送も終り、律子はマネージャーと話をしていた。
「今日この後、時間空いてます?」
「ええ、特に無いですけど?」
律子に聞かれてマネージャーは不思議そうに答えた。
「それならマネージャーの初仕事成功のお祝いしません?」
「えっ!?そ、そんな、悪いですよ。」
恐縮して両手を目の前でブンブンと振りながら言う。
「後はね、後輩の初オーディション合格も一緒にどうかなあと思って。」
「それこそ、私は悪いですよ。」
更に恐縮して言う。
「そうそう、ビッグアイドルのりっちゃんじゃなんだから、こっちのスタッフ達と打ち上げも込みでどう?」
そう言って、ADの一人が二人の間に割って入る。
「いえ、まだ仕事もありますし、プロデューサーともお話ありますから結構です。」
こっちに対してはあっさりはっきりと言う。ADはガッカリしながら去って行った。
「ま、しょうがないかな。それじゃあ、私はさっき言った通り後輩のお祝いしにいくからそう伝えておいて。」
「えっ!でもまだプロデューサーとの打ち合わせが・・・。」
律子の言葉に驚いてマネージャーは慌てて言う。
「大丈夫よ、明日の予定わかってるから。
プロデューサーは午後からだけど千早の方に付っきりだし、マネージャーは私と一日あちこち回るだけだから。
それじゃ、明日8時に事務所でね。」
そう言われて、マネージャーは手帳を見てから頭を上げると、既に律子の姿は消えていた。
「はぁ・・。私マネージャーで良いのかしら?」
全て合っているスケジュールに苦笑いしながらマネージャは呟いて首を傾げていた。

律子は局を出ると、前に止まっているタクシーを拾って乗り込んだ。そして行き先を告げてから携帯を取り出して掛け始めた。
「「はい、如月です。」」
「もしもし秋月です。今終ったのでそちらに行きます。」
「「はい、アパートの前で待っています。」」
「後5分もすれば着くから。宜しくね。」
「「それでは、後程。」」
そして、携帯を切った後ですぐに携帯がなる。
(プロデューサーか・・・。)
少し苦笑いして携帯に出た。
「秋月です。」
「「律子か?今何処だ?」」
「んふふっ、内緒です。」
律子は意地悪そうに笑って言った。
「「今、マネージャーのお祝いやってるんだが来ないか?」」
「いえいえ、先に誘ったら断られましたし、偉く恐縮してましたからプロデューサーにお任せしますよ。」
「「そうか、千早の合格祝いと聞いたが?」」
「ええ、食事に誘ってあります。こちらはこちらで任せて下さい。お互い相性もあるでしょうから。」
「「そうみたいだな。」」
プロデューサーが苦笑いしているのが分かった。
「それと、幾ら自分が午後からだからって、マネージャーお持ち帰りしないで下さいよ?」
「「ぶっ!?そんな事する訳無いだろっ!」」
噴出した後で思いっきり怒鳴り声になる。律子はそれが分かっているかのように携帯を耳から離してペロッと舌を出していた。
「それでは、お互いに良い夜をという事で。また、明後日の朝9時に事務所で。」
「「分かった。そっちも千早にあまり変なプレッシャーかけない様にな。」」
プロデューサーの方が心配そうに言う。
「さあ?どうでしょ?」
それだけ言うと、律子は一方的に携帯を切って電源も落とした。
少しして、タクシーがアパートの前に止まった。よく見ると、電灯の明かりの下に千早が立っているのが見えた。
「すいません、乗せる相手が居るんで呼んで来ます。」
律子の声を聞くと、後ろのドアが開く。律子は降りてから千早の方へ寄って行った。
「寒い中ごめんなさいね。待たせてしまったかしら?」
「いえ、今出てきた所なので大丈夫です。」
「そう、じゃあタクシーあそこに待たせてるから。」
そう言って、千早の手を取る。
(冷たい・・・。今出てきた所っていうのは嘘ね・・・。)
律子は千早の手を取った瞬間にそう思った。それだけ、千早の手は冷たかった。
千早の方は慣れた感じで手を引かれるままに着いて行った。
(やっぱり・・・自然と引かれてしまう。何故・・・。)
千早の方は自然な動きとは正反対に自分の心との不自然さを不思議に思っていた。
ただ、握られている手は律子の温もりで温かかった。
そして、二人でタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、この辺詳しいですか?」
律子の方が確認するように聞く。
「それなりには。で、何処に行くんだい?」
無口な運転手はそれだけ聞くと止めていたエンジンを掛けた。
「潮騒に行っても貰えますか?」
「はいよ。」
律子の言葉に返事をすると、タクシーが動き出した。10分もしない内にタクシーが止まる。見るからに住宅街だった。
「あの?こんな所にお店が?」
千早はキョロキョロしながら言う。
「お釣は良いんで。」
そう言うとメーターは4250円をさしていたが、5000円札を渡す。運転手は黙って受け取ってドアを開けた。
「さ、降りましょう。」
「はい・・・。」
先に律子が降りて、促されるままに千早は降りた。二人が降りるとタクシーはすぐ離れるように発進していった。

「ちょっとだけ歩くわよ。」
「あ、はい。」
律子が先を歩いて、千早はそれに着いて行っていた。
(何か言わないと・・・。)
「あの、お仕事、お疲れ様でした。」
千早は無言の空気が気持ち悪くて挨拶をした。
「ああ、ごめんなさい。話は着いてからにしましょう。誰が聞いてるかわからないからね。」
律子の言葉にその後は無言のまま千早は着いて行った。何回か曲がり角を曲がって暫く歩くと明かりが見え始めた。
二人はただ無言で歩いていた。
(何でかしら・・・変に気不味い・・・。)
千早はそう思いながら心の中で苦笑いしていた。
少しすると、律子は表札の無い民家の門を開けて入って行く。
「あっ、あの・・・。」
流石に変に思った千早は後ろから声を掛ける。
「大丈夫よ。隠れ家みたいな所だから。」
律子は後ろを振り向いて答える。
「はあ・・・。」
(大丈夫なのかしら・・・。)
千早は何とも言えない顔をして心配になっていた。
そんな心配をよそに、律子の方は前に向き直ってどんどんと奥に入っていく。
そして、玄関のドアをおもむろに開ける。
カランカラン
良い音がした後、ジャズサックスとピアノの音が漏れてくる。
「え?」
千早は思わず驚いて声を上げる。
「ほら、早く中に入って。音が外に漏れちゃから。」
「あっ、はい。」
慌てて、律子の後を追って中に入った。普通なら玄関なのだろうが作りは全然違い洒落て落ち着いたお店だった。
「秋月様、お久しぶりです。」
「どうも。個室空いてる?」
お互いに顔見知りらしく、自然と会話が流れていく。

「はい、お二人ですか?」
「ええ。後、こっちのお祝いだからちょっと豪勢にして貰える?」
「かしこまりました。」
(お祝い???)
千早は律子の言葉が分からずに不思議に思っていた。
「それでは、お部屋にご案内します。こちらへどうぞ。」
二人は案内されて奥の方へと入って行く。
途中個室らしきものが幾つかあるが、声も音も外に全く漏れておらず、本当に外部とはシャットアウトされている感じだった。
「あの・・・お祝いって何ですか?」
千早は不思議そうに前を歩いている律子に聞いた。
「着けば分かるわ。」
律子は振り向いて意味深な感じで言う。
(一体何なのかしら・・・。)
千早の方はそれを聞いて少し不安になっていた。
「こちらです。」
案内されて入り口のドアを入ると、洒落た部屋だった。
テーブルが合って両向かいに椅子が有り、テーブルの真ん中にキャンドルライトが光っていた。
部屋の中は静かにジャズの曲が流れていた。
「さ、そっちに座って。」
「はい、失礼します。」
千早は慣れない雰囲気に少し緊張しながら返事をして椅子に座った。律子の方はそれを見てから自分も座った。
部屋全体は薄暗くゆらゆらと揺れるキャンドルライトがお互いを幻想的に見せていた。
案内役は二人が入るといつの間にか居なくなっていた。
「あの・・・秋月さん・・・。」
「ん?何?」
聞き難そうだったが千早が聞くと律子は不思議そうに言う。
「食事ですよね?」
「食事も一緒と言った所かしら。」
律子の方ははっきりと答えない。
「さっき言っていた「お祝い」ですか?」
「まあそうなんだけど。もうちょっと待って、ね?」
「はい・・・。」
律子の言葉に千早は渋々と言った感じで頷いた。無言の二人を静かでムーディなジャズの音楽が包んでいた。

少しすると、さっきの案内役が何段もある台車で食事や飲み物を持ってくる。
「とりあえず、そこに置いておいて。後は私達で勝手にやるから。」
「かしこまりました。」
律子が言うと、案内役は一礼して去って行った。
「如月さん。はい。」
律子の方がそう言いながらシャンパングラスを渡す。
「恐れ入ります。」
千早の方はシャンパングラスを受け取った。そして、律子はシャンパンをグラスに注ぐ。その後で自分にも注いだ。
「ノンアルコールだから安心して。それじゃあ、焦らせてしまったけれど・・・。オーディション合格おめでとう。」
「あっ!」
にっこりと微笑んで律子に言われて、千早は合点がいって開いている左手で思わず開いてしまった口を塞ぐ。
「ありがとうございます。」
千早は素直にお礼を言った。
「それじゃあ、乾杯。」
「乾杯。」
チンッ
シャンパングラスを合わせた音が小さく部屋の中に響いた。
お互いに少し飲んでから、律子の方が食事を小皿に取り分けて千早に渡す。
「どうせプロデューサーの事だから、
合格の後での私達との番組に仕上げを間に合わせようとしてレッスンに力はいるばっかりで、お祝いして貰ってないでしょ?」
「・・・はい。」
千早は律子の言う通りだったので素直に返事をした。
「全く。私達も二度目のオーディションで合格した時、
他のソロが大きく成れるかの瀬戸際で直接お祝いして貰えなかったの。
ただ、気の効くスタッフの人達が余りにもだからってお祝いしてくれたの。」
「へえ、そうなんですか。」
(そんな事があったなんて意外・・・。)
千早は今の律子と伊織からは想像も出来ない事だったので驚いていた。
「その感じだと、私が初めてなのかな。お祝いしてあげるのって?」
「そうです。」
「はぁ・・・。周りも何考えてるんだか・・・。」
律子はあっさりと答える千早をみて、呆れた顔をして言った。

「でも、こんな駆け出しに構っている暇も無いでしょうし・・・。」
少し拗ねたようにそっぽを向いて言う
「何言ってるの。プロデューサー、今日から仕事始めの私と伊織の専属マネージャーのお祝いには行ってるのよ。
只でさえこれから一緒の二人三脚でやっていかなきゃならないってのに何考えてるんだか・・・。」
律子は苦い顔をして言う。
「多分、考えてくれていないのかも・・・。」
少し俯き加減になって千早はポツリと言う。
「プロデューサーは知らないけど、私はちゃんと見てるからね。
だから、遅れたとは思ったけど、今日こうやって席を用意したんだし。マネージャーも誘ったんだけど断られちゃったし。
今日は千早一人をお祝いするわ。」
「秋月さん・・・。あの・・・本当に・・・どの秋月さんが本当なんですか?」
少しほろりとした千早だったが真剣な眼差しになって聞く。
「どれも本当の私・・・。ただね、思ったの。」
「?」
千早は真意が掴めずに真剣に律子を見つめていたが少し首を傾げていた。
「貴方に辛く当たった所で現状は何も変わらない。伊織が目覚める訳じゃない。いつも二人で居たから寂しいのかもしれないわ。
貴方を憎む私も居れば、貴方を伊織のように見ている私も居る。
可愛い後輩だって思っている私も居る・・・。色々な思いがごっちゃになっているんだと思う・・・。」
「本当に水瀬さんの事は・・・。」
千早は申し訳無さそうに言う。
「良いのよ。大丈夫、必ず伊織は目覚める。私はそう信じているから。むしろそれを理由に色々してしまってごめんなさいね。」
律子はそう言って頭を下げた。
「えっ!」
(素直に・・・謝られた・・・。)
千早にはカルチャーショックだった。伊織もそうだったが、律子が素直に謝るとは思っていなかったので驚いていた。
「貴方が弟さんを無くしているから気持ち少しは同じなのかなって。」
「な・・・何でそれを!?」
千早は驚いて目を見開く。

「事故なら諦めがつく・・・。いいえ、考え方が変えられるかもしれない。でも、それに起因した原因が目の前に居たら・・・。」
「・・・。」
千早は思わず黙り込んだ。
(秋月さんの言う通り、どうなったんだろう・・・・。)
「でもね、今のも正直言い訳。ずるい言い方よね。」
律子は苦笑いしながらも正直に言う。
「ただね、血は繋がっていないし一年位しか付き合っていないけれど、本当に伊織の事、本当の妹だって思ってるから。
それは、今でも変わらないの・・・。」
「秋月さん・・・。本当に最初に楽屋で思った通りの人なんですね。少し安心しました。
凄く恐い人だって思ってましたから。でも、何処で弟の話を?」
いつもの表情と口調に戻って千早ははっきりと言った後に聞いた。
「事務所のパソコンからデータ取った時に、チラッと見てね。
気になって、身辺調査の人と一緒に忙しい中、貴方の周囲の人に聞いて回ったのよ。」
「そうだったんですか・・・。」
(変に隠さないのね・・・。)
千早は素直に教えてくれた律子に少し好感を覚え始めていた。
「ごめんなさいね、話が逸れてしまって。今日は如月さんのお祝いだから、食べて飲んで気に入ったものがあったら言って。」
「それでは、遠慮せず頂きます。」
そう言って、小皿に盛られた料理に箸を伸ばした。
「さて、私も食べようかな。今日番組側何も出してくれないんだもの。のど渇いちゃったし、お腹もへっちゃった。」
(思い全部言い切ったら楽になった・・・かな。)
律子は微笑みながら言った後、料理を食べ始めた。その顔を見て千早も少しだけ微笑んでいた。
最初の方こそ律子から話しかけるのが多かったが、その内に千早からも話をしていた。
二人はしっかりと食べながらも話に花が咲いていた。そして、美味しく楽しく一時を過ごした。
昨日までの出来事が嘘のように・・・。

「ご馳走様でした。とっても美味しかったです。それに・・・。」
「ん?」
千早が食べ終わっていった言葉の最後が途切れて律子は不思議そうに見ていた。
「その・・・嬉しかったです。」
ちょっと照れ臭そうに千早は小さな声で言った。
「ふふっ、それは良かった。私も正直ホッとしたわ。」
律子は微笑みながら言う。その言葉と表情に、千早の方も何となく微笑んだ。
「そういう顔も出来るのね。」
「えっ!?」
律子に言われて千早は思わず目をぱちくりする。
「今日のレッスンの成果かもしれません。」
「レッスンって言ってもそれはあくまでも営業用もあるからね。今のが作り笑顔でないのならそれで良いわ。」
「表情に関しては・・・正直器用に出来ませんから・・・。」
少し俯きながら千早は言った。
「それなら、自然に出た笑顔なのね。良かったわ。」
律子はにこにこしながら言った。
「えっと、お願いがあるんだけど良いかしら?」
「何でしょう?」
不思議そうな顔をして千早は聞いた。
「今日疲れちゃってね。明日朝早くて一人で起きれる自信がないの。
良かったら泊まりに来てくれないかしら?朝起こしてくれるだけで良いから。」
「構いませんよ。明日は午後からですし。」
「じゃ、お願いね。」
そう言ってから律子は立ち上がって備え付けてある内線の電話で店員を呼んだ。
支払いを済ませてタクシーを呼んで律子のマンションへと向かった。その間のタクシーの中でも、律子と千早は話をしていた。

「三ヶ所目の隠れ家へようこそ。」
律子は少し悪戯っぽく言って千早を招き入れた。
「お邪魔します。あれ?暖かい・・・。」
外の寒さとは違い中は玄関から暖かかった。
「外から遠隔で暖房つけておいたのよ。さ、奥へ行きましょう。」
「はい。」
二人は並んで奥の方へと廊下を歩いて行った。
カチャッ
突き当たりのドアを開けると、前の二つの部屋とは違い和室になっていた。もぐさの良い匂いが漂ってくる。
「落ち着いた良い部屋ですね。」
千早は部屋を見渡してから律子の方へ言った。
「確かにここは落ち着くのよね。とりあえず荷物を置いて。お茶入れるからゆっくりしましょう。」
律子はそう言いながら座布団を置いて千早に薦めた。
「ありがとうございます。」
千早はお礼を言ってその場に座った後、目を瞑って深呼吸する。
(良い香り・・・。)
真新しいもぐさの香りは千早の心をホッと和ませていた。
律子の方は木目の入ったテーブルの上にあるきゅうすにお茶の葉を入れてポットからお湯を入れる。
少しして、湯飲みに何回か分けてお茶を煎れる。
(声を掛けちゃ悪そうね。)
目を閉じている千早を見て律子は静かにそっとお茶の入った湯飲みを目の前に置いた。
静かに目を閉じている千早の前で湯飲みから湯気が立っていた。少しするともぐさの香りにお茶の香りが入ってきた。
「ん?」
千早は変化に気が付いて静かに目を開ける。そこには湯気の立った湯飲みが置いてあった。
「良かったらどうぞ。」
律子は湯飲みを持ちながら言う。
「頂きます。」
千早は湯飲みを持って香りを楽しんだ後、ゆっくりとお茶を口に含んだ。
(美味しい・・・。)
「事務所も含めてあちこちでお茶汲みはしてたから、そこそこいけるでしょ?」
「とても美味しいです。」
千早はにこやかに答えた。

(やっぱり、こういう顔も出来る子なのね。)
「寝ない程度に、ゆっくりして。後でまた一緒にお風呂入りましょ。」
「ぶっ!?」
最初の言葉に頷いて一口お茶を飲み込んだ千早は続けて出た言葉に思わず噴き出してしまった。
「す、すいません・・・。でも・・・。」
近くにあったふきんで拭きながら昨日の事を思い出して顔を逸らしながら呟いた。
「昨日バスルームであった事はもう無いわよ。最初に部屋であった事はあるかもしれないけど、ね。」
律子は目を細めながら言う。千早の方は少し震えながら恐る恐るチラッと律子の方を見る。
「怯えなくても大丈夫よ。大丈夫。」
小刻みに震える千早の手を見て、なだめる様に優しく言ってからそっと自分の手を置いた。
一瞬ビクッと反応するが温かい感触に千早は逸らしていた顔を戻して置かれた手を見る。
(温かい・・・。怖く・・・ない。)
「気持ち伝わったかしら?千早は私にとって可愛い後輩。伊織とはまた違うけれど貴方も妹みたいなものよ。」
「えっ!」
千早は驚いて顔を上げて律子の方を見る。
「言ったままよ。それじゃあ、ゆっくりしてからで良いから後で、ドアを出てすぐ左のドアを開けて入ってきて。
寝室だから。もし寝てたらごめんね。」
律子はそう言うと、置いていた手を離して立ち上がる。
(また・・・温もりが離れていく・・・。)
千早は昨日の抱き合って、離れて行く律子の感触を思い出していた。律子はそのまま、ドアから出て行く。
「あ・・・。」
(行かないで・・・。)
後姿を見て言いかけていたが最後は言葉になっていなかった。
何故か分からないが、弟とは同じような、違うような喪失感に襲われていた。そして、千早の視界は少し歪んでいた。

(開けてしまう・・・。開けるのがどんな意味なのか・・・。私は分かっている筈・・・。)
カチャッ・・・
千早は意を決して寝室のドアを開けた。
「いらっしゃい。千早・・・。」
律子は奥の方にあるベッドに座っていて微笑みながら言った。
一番奥にある淡い光のライトに艶かしく映し出されていた。部屋は薄暗く、その奥のライトしか点いていなかった。
千早は、律子の姿を見て固まっていた。
「そんな所で止まっていないでこちらにいらっしゃい。」
律子はそう言ってから、手を下から差し出す。千早はその手に吸い寄せられるようにゆっくりと歩き始めた。
(私・・・歩いてる!?)
千早は無意識に動き出した自分の体に驚いていた。
そんなうちに律子の目の前まで来て、律子を見下ろしていた。
「さっ、座って。」
律子はそう言いながら左手で千早の右手を握る。
「はい・・・。」
千早は言われるままに律子の隣に座った。顔は平静を保っていたが、内心ではかなりドキドキしていた。
「千早、貴方は自由と孤独の翼を持つ孤高の蒼い鳥・・・。その翼を一時奪う代わりに魔法を掛けてあげる・・・。」
律子は空いている右手を千早の頬に当てて、ゆっくりとそう言ってから優しく、妖しく微笑む。
「ぁ・・・。」
(何か言いたいのに・・・。)
千早は小さく口を開けてそれしか発せなかった。

「千早、キスした事ある?」
「あ、ありません・・・。」
律子のストレートな質問に赤くなって顔を逸らしながら言う。
「じゃあ、それは誰かの為に取っておいて。でも、それ以外は・・・。」
「あっ、あのっ!」
千早は焦って再び正面を向いて言う。
「何?」
「私・・・その・・・そういう趣味・・・とか・・・どうなのかと・・・。」
一旦正面を向いたものの目を合わせ続けていられずに視線を逸らして赤くなりながら言う。
「じゃあ、脱がせたり脱いだりして興奮してしまったのは何故?」
「そ・・・それは・・・。」
千早は再び律子の瞳を正面から見たがそれ以上言えない。
「別に責めている訳じゃないのよ。それに、分かっててここに来たんでしょ?」
「う・・・。」
(見抜かれてる・・・。)
止めの一言を言われて千早は何も言えなくなった。
「それに、貴方は既に二夜も私に全てをさらけ出しているのよ。
今更臆する事も、変に強情になる事もないでしょう?私如きに落とされてしまう程、貴方は安っぽくない。違う?」
律子は千早の心の中の全てが分かっているかのように目を細めて言う。
「・・・。」
千早は何も言い返せずに驚いた表情で律子を見ていた。
「ただね、一つ忘れているわ。例え落ちたとて何度でも貴方は羽ばたける・・・。」
「えっ!?」
(私の逃げ道を示してる!?)
律子の言葉に驚いて千早は声が出る。
「さあ、千早。まずは私を辱めて・・・。脱がせて・・・。」
律子はそう言うとおもむろに立ち上がる。そして、静かに目を閉じた。

(私・・・どうすれば・・・。)
千早は見上げたまま困惑していた。
「立って正面を向けば分かる。昨日やったばかりだから体が覚えているわ。」
律子は目を閉じたまま静かに言った。
(身も心も見透かされている様・・・。)
千早は言われた通り正面に立った。そして、緊張して震えている手を律子の首のボタンに伸ばす。
昨日の最初の時が嘘のように順々にボタンを外していく。
(あれ・・・簡単に外せる・・・。)
千早は内心で驚きながらもあっという間にボタンを全て外し切った。
律子はそれが分かっているかのようにくるりと半回転して背中を見せて、昨日と同じように両腕を前に突き出す。
千早の震えていた手はいつの間にか震えが止まっていた。そして、その手で肩の部分を持ってスッと引き抜いた。
あらわになった背中にはピンクのブラの紐が見えたが、ホックが見当たらない。
「あ・・・れ?」
千早は薄暗くて見えないのかと思い目を凝らして見てみる。
(やっぱり、ホックが無い。)
「今日はね、フロントホックなの。昨日と逆に前に手を回して、上から見ながら外して・・・。」
律子はそう言うと、腕を上げて脇を空ける。
後ろから抱きつく形になって千早は手を律子の脇から前に回しながら、体を密着させて律子の右肩の方から顔を出す。
千早は少し気になって律子をチラッと見たが、相変わらず目を閉じたままだった。
むにゅっ
(や、柔らかい・・・。)
ブラ越しだったが触れた胸の柔らかさに千早は手が止まった。そして、胸の大きさの違いを思い知っていた。
むにっ、むにゅ、ふにっ
千早は一生懸命にホックを外そうとするが、外れずに自然と律子の胸を揉む形になっていた。
「あっ・・・。」
思わず律子から甘い声が漏れる。
ドキッ
千早はその声に驚いて、手だけでなく全身が硬直する。

「んふふっ。千早、そんなにされちゃうと興奮しちゃうわ。」
律子はそう言うと目を開けて横目で千早を見る。千早は視線を感じて反射的に律子の瞳を見てしまう。
「あ・・・・・。」
千早はその瞳に吸い込まれそうになった。
とくん・・・とくん・・・
それと同時に、興奮を覚えていた。
「胸を持ちながら、指で探してみると良いわ。そうすればホックまで辿り着けるだろうから。」
「はい。」
千早は言われるままに、胸を両手で持ってから親指と人差し指で内側を探して行った。少ししてホックが分かり一回で外した。
ぷるんっ
ホックを外したのと同時にブラが外れると、零れ落ちるように両方の胸があらわになって揺れた。
ごくっ
(揺れてる・・・大きくて・・・綺麗・・・。)
昨日とは違う角度から見た律子の胸を見て千早は息を呑んだ。
「千早・・・揉んで・・・。私を気持ち良くして・・・。」
律子は右腕を千早の首に回しながら、少し仰け反って耳元で囁いた。
どくんっ、どくんっ
千早は興奮状態になって胸を強く掴んで揉んだ。
きゅむっ、ぎゅむっ!
「もう少し優しく・・・ゆっくりと・・・。焦らすように・・・。」
耳元で囁かれると、体から勝手に力が抜けて揉むペースが遅くなる。
むにゅぅ、むにぃ、ふにゅぅ
「んぁ・・・上手・・・。ほら・・・見て・・・。乳首が立ってきちゃった・・・興奮してるの・・・。」
千早が見ると、律子の言う通りムクムクと乳首が立ってきているのが目に入った。
(秋月さん・・・いやらしい・・・。)
そう思ってはいたが、胸を揉む手は止まらず興奮が更に高まっていた。

「とりあえず、そこまでにして・・・。下脱がせて。」
律子はそう言って、自分の胸を揉んでいる千早の手の上からそっと自分の手を置いて止めてから、
するっと抜けて再び正面を向いた。千早は少しだけ息遣いが荒くなっていたが、
その場でしゃがんで積極的にスカートに手を伸ばした。
(すっかり夢中になっちゃって。)
律子はそんな千早を見て少し笑っていた。
ジー
すぐにジッパーを見つけて下ろした後、昨日と違いきちんと手で持ってからスカートを下ろし始める。
「あっ!?」
千早は途中まで下ろしかけて、視線にパンツの部分と内腿が入った瞬間声を上げた。
(下着つけているのに・・・腿まで濡れてる・・・。)
思わず見入ってしまい、手が止まっていた。
「千早が上手だから・・・こんなになっちゃった・・・。パンツも脱がせて・・・。」
律子は呟きながら、千早の頭を軽く撫でていた。
「は・・い・・・。」
目は釘付けになっていたが、返事をした後千早はパンツに手をかけて下ろし始めた。
(あれ?糸を引かない?)
途中で糸を引くかと思った千早は不思議に思いながらも下ろして行った。途中でスカートと一緒に足首まで降ろした。
それを確認してから、律子はしゃがみ込んだ。
「ありがとう千早。それじゃあ、今度は私が脱がせるから立って。」
「はい・・・。」
(何か・・・物足りない・・・。)
千早はそう思いながらも返事をして立ち上がった。
「んふふっ・・・。じゃあ下から行くわよ。」
「ええっ!」
少し虚しさを覚えていた千早だったが、その言葉に驚いた。
そんな驚いている千早を無視して、律子はスカートの下から両手を入れた。
そして、スカートの前面を捲り上げて頭を中へ潜らせた。
(えっ!えっ!?)
千早はどうして良いか分からず上半身だけでワタワタしていた。

(流石に何も見えないわね。)
律子は千早がはいているのが長いスカートだったので真っ暗な視界なのは分かっていた。
目を開けていても仕方ないので目を閉じた。
そして、先にパンツに手を伸ばす為に、腿の外側に手を置いた。
ツーー
「ひゃぅんっ。」
腿をお尻の方まで伝ってくる律子の両手にむず痒い感覚を覚えた千早は可愛い声を出す。
律子はその声を聞いて少し口元だけ笑って、パンツの両端に手を掛けてゆっくりと下ろす。
膝まで降ろしている途中で、前方に熱気を感じた。
律子はまるで見えているようにその熱気の中心に舌を伸ばしつつ口を近づける。
くちゅぅっ
「ふぁん・・・。」
律子の舌が濡れている蕾に触れながら奥へと滑っていく。
触れて滑っていく間に、腰から脳天に電気が走るような感覚を覚えて千早は声が出てしまう。
チュッ
そして、唇と蕾がキスをする。
「あんっ。」
千早は興奮して敏感になっていたのか、唇を蕾で感じ取っていた。
(行くわよ・・・。)
ちゅぷっ・・・くちゅっ・・・はむっ・・・れろっ
「あっ・・・やっ・・・はっ・・・んぅっ。」
律子は舌を使って蕾を丹念に舐め始める。千早は伝わってくる快感に声を上げながら背中を仰け反らせる。
少し引け腰になる所を、律子はお尻を持って引き寄せる。顔を股間に密着させて更に舐め続ける。
ぴちゃっ・・・ぴちゅっ・・・れろぉ・・・くちっ・・・
「んっ・・・あっ・・・あんっ・・・ふあぁ・・・。」
(気持ち・・・良い・・・。とろけ・・・そ・・・・う・・・・・。)
千早は襲ってくる快感に力が抜けてきていた。腰がガクガクして膝も少し笑っていた。
ただ、律子がお尻をしっかり押さえて、下から顔で押さえているのでその場から動く事はなかった。
カリッ
「ひあっ!」
ビビクッ
律子は上の前歯に少しだけクリトリスを引っ掛けた。快感の大きな波が一気に千早の全身を駆け抜けて痙攣した。

(んふふ・・・ここ弱いのね・・・。)
律子は蕾から舌を引いて、クリトリスの周りを集中的に舐め始める。
れろっ・・・れろぉ〜・・・くちゅっ・・・
「はぁ・・・そ、そこ・・・らめぇ・・・。」
(すっ、凄い・・・。もっと・・・。)
千早は断続的に続く快感にだらしない顔になってよだれが出ていた。
口では駄目と言っていたが、内心では更なる快感を望んでいた。
(一旦とどめ・・・。)
クリリッ
律子は舌でクリトリス自体を転がした。
「ひぃゃぁああーーーー!!!」
ビクビクッ
大きく声を出した後、二回痙攣して千早はイッた。
力が入らない千早は前屈をするような体制になって律子の上に乗っかる形になっていた。
下半身も力が抜けていたが、律子がしっかりと支えていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
千早は息を荒くしながらボーっとしていた。
「千早・・・まだ、スカートも脱がせてないわ。」
「す、すいません・・・力が・・・。」
(力を入れたくても全然入らない・・・。)
千早は呼びかけられて何とか体勢を元に戻そうとしたが、体が言う事を聞かなかった。
「じゃあ、無理に力入れないでね。寝かせてあげるから。」
「はい・・・。って、えっ!?」
律子は右腕を股に通して左腿に絡ませてから、顔を引いて首に千早のお腹を当てる。
体勢が安定したのを感じて左手で千早の右腕を掴んで一気に立ち上がる。
(こんな力、あんな細い体の何処に!?)
返事をしたとたん、そのまま肩で軽々と抱え上げられて千早は驚いていた。
スカートが顔からはなれて視界が開ける。明かりを感じて律子は目を開ける。
ベッドの位置を確認してそっと、千早を足から寝かせるように寝かせた。

「大丈夫?千早?」
昨日とは全く別人の様に、律子は優しく聞く。
「は・・・はい・・・。」
千早は照れ臭くなって赤くなりながら返事をする。
「ふふっ。最初から飛ばしすぎちゃったかしらね。」
「い、いえ・・・そんな事は・・・。」
(あら、意外な答え。)
律子は予想と違う答えに最初は驚いた顔をしたが、その後いつもの妖しい微笑を浮かべる。
「じゃあ、ちゃんと上から脱がせて上げる。」
そう言って律子は、千早の上に乗った。
千早の方は目の前に揺れる大きく綺麗な胸に目を奪われた。律子はそのまま、ブラウスのボタンを外す。
そして、少し剥いて肌蹴させてからブラを見る。
「あっ、すいません。体浮かせます。」
「後で良いわよ。」
千早がもぞもぞ動こうとすると、律子は肩紐に手を伸ばす。
スルッ
肩紐を一気に手首あたりまで下ろすと、胸があらわになる。
「ああっ!」
千早は恥ずかしくなって両腕を何とか動かして隠そうとする。
がしっ!
「えっ!?」
律子は無言のまま、千早の両手首を掴んだ。
「今更恥ずかしがる事なんてないわよ・・・。羞恥心無くしてあげる。」
そう言うと、右の胸に吸い付いた。
ちゅうぅーー
「あっあぁぁあ。」
千早は乳首を据われてピクピクしながら声を上げる。律子は一旦乳首を吸うのを止めて顔を上げて千早の顔を見る。
「んふふ、千早、上下のお豆が弱いのね。」
「えっ・・・あっ・・・そのっ・・・。」
そう言われると恥ずかしさでしどろもどろになって顔がみるみる赤くなる。

「さっき、気持ち良くしてくれたお礼よ・・・。」
ちゅーー
そう言って、今度は左の乳首を口で摘んで吸う。
「ふあぁぁ。」
千早は頭に響く感覚にピクピクして喘いで、体を仰け反らせる。
ちゅっ・・・くちゅっ・・・ちゅ・・・れろぉ・・・れろっ・・・
律子は交互に丁寧に乳首を舐める。
(気持ち良過ぎて・・・頭が・・・真っ白に・・・な・・・る・・・。)
(んふふっ・・・だ〜め。)
律子は千早の状態がわかっているかの様に少し笑った後・・・
かりっ
きゅっ
「んひあっ!?」
歯で乳首を軽く噛んで、右手で左の乳首を少し強めに摘む。
遠のきそうになった意識が一気に戻される。
こりこりっ
くりくりっ
「ふあぁあ・・・ああんっ。」
(あぁ・・・い、痛くなくて・・・き、気持ち良い・・・。)
律子は歯と右手の親指と人差し指で両乳首を弄る。
千早は既に全身から力が抜けていて隠そうとしている気持ちも吹き飛んでいた。
キュッ
「ひあっ!あ・・・あぁあ・・・。」
(痛い筈なのに・・・気持ち良い・・・なんて・・・何で・・・。)
律子に乳首を捻られたが、昨日と違い痛い所か下手に弄られるよりも気持ち良くなっていた。

「んふふっ・・・千早、エッチな顔してる・・・。」
「そ・・・そんな・・・事は・・・。」
律子に目を細めて言われて、千早は恥ずかしくなって目を逸らす。
「もう一回イかせてあ・げ・る。」
つー
律子はそう言うと、千早の右手首を掴んでいた左手を千早の脇に人差し指を当ててからお腹の方へ伝わせてせて、
へそから下半身へと這わせていく。
その間も、再び口と二つの指で乳首を攻め続ける。
「あぁ・・・あき・・・つ・・んうっ・・・き・・・さ・・あんっ・・ん・・・ふぁあ。」
律子の名を呼びながら千早はまた、意識が遠のき始める。
(き、気持ち良過ぎて・・・私・・・もう・・・。)
カリリッ
キューーー
「きゃんっ!」
両方の乳首を片や胸を押し込むように顔を押し付けて強く噛んで、片や他の指と手で体を押さえつけてから捻って引き上げる。
千早は逃れようとして体を浮かせたはずだったが、上から押さえられて動けない。
(痛いけど・・・昨日と違って気持ち良さも・・・おかしくなっちゃうぅ・・・。)
「ら、らめぇ〜・・・ゆ、ゆるひてぇ・・・。」
(ふふっ、怖がる事無いわ・・・気持ち良くなるだけだから・・・。)
くりゅっ
律子は少し鼻で笑った後、昨日剥いたクリトリスを軽く摘んだ。
「あぁああーーー、ひああぁぁあーーーらめぇーーー!!!!!」
ビクッビクッ・・・ビクッビクッ
千早は頭を左右に振って叫んだ後、大きく二回ずつ痙攣して派手にイッた。
「はぁ・・・はぁ・・・らめぇ・・・おかひくなりゅぅ・・・。」
ピクピクとあちこちを震わせながらも千早はボーっとしてまだ体中を駆け巡っている快感の余波にあてられていた。

(これは、今はそっとしておいて上げた方が良いわね・・・。)
律子はそっと離れようとする。
(また・・・離れて行っちゃう・・・。)
「あひるひひゃん・・・はられないれぇ・・・。」
千早は呂律の回らない口で律子を引きとめようと言ってから力の入らない体を何とか動かそうとするが動かない。
「大丈夫よ、千早。私はちゃんと傍に居るわ。無理に動かなくて良いから。ね?」
そう言ってからすっかり振り乱してしまって顔についてしまっている髪を掻き分けて少し汗ばんでいる額に優しくキスをする。
その後で力の入らない両腕を自分の首に回しながら抱き起こしてキュッと抱き締めた。
ぷにっ
千早の敏感になっている乳首に柔らかく温かい律子の胸が当たり。密着すると温もりが伝わってくる。
(温かい・・・。)
千早は目を閉じて、その感触をより一層感じようとしていた。
暫くそのままでいると、千早自身の抜けていた力が戻ってくる。
ギュッ
律子の首に回した腕に力が入る。
「秋月さん・・・。」
しっかりとしがみつく様に律子を抱き締めて千早は目を瞑りながら言った。
「律子で良いわよ。如月さん。」
律子の方も目を閉じながら呟いた。
「律子さん・・・で良いですか?流石に呼び捨てには出来ません・・・。それと、千早でお願いできますか?」
少し焦りながら千早は問うた。
「ふふっ、注文が多いのね。」
「す、すいません。」
律子の言葉に、目を開けて少しワタワタして謝る。

「両方とも良いわよ。」
微笑んで千早を見ながら律子は静かに言った。
「律子さん・・・優しいんですね・・・。」
千早は呟くように言う。
「どうかしら?」
「こんな私でも抱き締めてくれる・・・。」
(水瀬さんを酷い目に合わせた私なのに・・・。)
目が会っている訳でもないが千早は何となく、視線を床に落とす。
「言ったでしょ。貴方の孤独と自由を奪う代わりに魔法をかけてあげるって。
まだ、魔法の時間は終らないわよ。しっかり捕まっていなさい。」
「えっ?」
そう言うと律子は左腕を背中に回して、右腕を膝の裏から回して抱え上げた。
驚いた千早だったが、しっかりと首に腕を回した腕に力を入れていた。
抱きついている分少し変形ではあるがお姫様抱っこ状態になっていた。
「り、律子さん、降ります。歩けますからっ!」
千早は体勢に気が付いて、赤くなりながらじたばたする。
「だ〜め。それにあんまり暴れるとぶつけるから大人しくする。」
そう言いながら、律子は歩き出して寝室のドアを開けた。

千早は赤くなったまま、黙って律子に抱えられていた。廊下を歩いてプレートも何も無いドアを開けるとバスルームだった。
器用に膝の裏から回している手でスイッチを入れてから足で浴室のドアを開けると中に入った。やはり、昨日同様凄く広かった。
そして、律子はゆっくりと千早を足から下ろした。
「あの・・・重く無かったですか?」
まだ、少し照れ臭いのか千早は赤い顔をしたまま俯いて聞いた。
「伊織よりは重いけど、大した事無いわよ。伊織で運びなれているしね。」
律子は微笑みながら答えた。
(水瀬さんいつもお姫様抱っこされているんだ・・・。)
千早は何となく下を向いたままその風景を想像していた。
「さっ、冷えないうちにシャワー浴びましょう。温度調節は昨日教えたから分かるわよね。」
律子はそんな千早に声を掛けた。
「はい。」
千早は顔を上げて律子の顔を見ながら返事をした。
「じゃあ、これ使って。」
返事をする千早に一つのシャワーのノズルを渡す。
ザーー
ザーー
二つのノズルから、少しすると湯気が立ち始める。まずお互いに自分でシャワーを浴びる。
(ま、まさか昨日みたいな事は・・・。)
まだ昨日の記憶があるので、千早は恐る恐るチラッチラッと律子の方を見ていた。
「恐がらなくても大丈夫よ。昨日と雰囲気違うの位分かるでしょ。」
律子はそんな千早の様子を見て苦笑いしながら言った。
「すいません・・・。」
千早は申し訳無さそうに頭を下げる。
「じゃあ、お詫びに私の体洗って。そこにボディソープとスポンジがあるから。」
「あっ、はい。」
千早は一回シャワーを止めて、スポンジにボディソープをつけてから泡立てる。
それを見て、律子の方も自分の体を流していたシャワーを止める。
「どこからでも好きに洗って。」
律子は手を広げて全身を露にする。

千早はドキドキしながら最初に律子の左手を震える右手で取った。
(随分緊張してるのね・・・。)
目を閉じながら律子は自分の取られた左手から感じる震えに少し苦い顔をした。
「あ、あの・・・。私何か変な事でも?」
律子の表情の変化に不安になって千早は焦りながら聞いた。
「大丈夫よ。ただ、凄く緊張してるんだなって思って。」
目をゆっくり開けて、千早の目を見ながら言った。
「人の体を洗うなんて、小さい頃にやった以外ないもので・・・。」
千早は視線を逸らしながら、気不味そうに答えた。
「私は千早に綺麗にして貰いたいだけだから。私を綺麗にするって思ってくれれば構わないわよ。
同性なんだし緊張する事なんて無いしね。」
律子は軽く微笑みながら言う。
「はい、頑張ります。」
(気合入っちゃって。まあ、緊張は解けたみたいだから良いかな。)
「んふふ。」
千早の反応が可笑しくて、律子は思わず笑っていた。
「では、行きます。」
「はい、お願いね。」
律子はウインクをして返事をした後、再度目を閉じた。
千早の方は、真剣な眼差しになって律子の左手の小指から丁寧に洗い始めた。
(優しくて丁寧な洗い方。几帳面なのね。)
律子は指一本一本を丁寧に洗う千早の細かさに感心していた。
千早はその内、手から腕の方へと洗う位置が移動していっていた。
(細長くて綺麗な腕・・・。TVでもステージでも見たけれど、改めて意識して近くで見ると本当に見栄えする。)
肘から二の腕に掛けて洗っていると、たるんでいる感じは無く、固くも無かった。
(この腕からあの力が出るんだ・・・。こんなに細いのに・・・。)
千早は見栄えだけでなく、そのギャップにも内心で驚いていた。ただ、洗う手を止める事は無かった。
脇まで洗いに来ると、一旦持っていた律子の左手を腰の辺りに戻してから今度は右手の方をそっと手に取る。
こちらも指一本一本丁寧に洗って脇まで洗い切る。
(どうしようかしら・・・。)
千早は背中に回ろうか、正面を洗おうか腕を組みながら迷っていた。

(ん?どうしたのかしら?)
両腕だけが泡まみれになっている律子は間隔が開いたので、どうしたのかと思い薄目を開けて千早の様子を見た。
「どうしたの?千早?」
あからさまに様子が変だったので、律子は目を開けてから千早に聞いた。
「あ、あの・・・前と後ろどちらから洗えば良いのか分からなくて・・・。」
「好きな方で良いわよ。どちらにしても洗って貰うんだからね。」
「はい。」
律子は千早の返事を聞くと目を閉じた。
ゴクッ
千早は正面に立って、律子の胸を見て息を呑んだ。
(やっぱり綺麗で大きい・・・。)
視線は釘付けだったが、ゆっくりとスポンジを持った右手で律子の首を洗い始める。
やはり、丁寧にゆっくりと洗う。首から両肩を洗って、鎖骨の部分も優しく丁寧にスポンジをす滑らす。
そして、ついに胸の上まで来た。
千早はさっきのブラを外している時に揉んだ状況と感触を思い出してドキドキしていた。
そして、まずは左胸の上から撫でるように外側から下へ、下から胸の谷間のある内側へ円を描くように洗う。
むにゅう、むにゅぅ、ぷるんっ
律子の胸は変形して、最後にはしっかりと元に戻るべく揺れる。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
興奮して少し息が荒くなっていた千早だったが、それでも息を殺して今度は右胸を洗い始める。
今度は、スポンジ越しに揉むように洗う。
もにゅっ・・・むにゅっ・・・
(手に感触は無いけれど・・・形が変形するのが・・・とっても・・・いやらしい・・・。)
「あんっ・・・。」
「えっ!?」
突然律子から甘い声が漏れたのに驚いて、千早は手が止まる。
「気にしないで。良いのよ、続けて・・・。」
そう言う律子の顔はさっきと違い少し上気していた。
「はい・・・。」
千早は返事をして、少し名残惜しそうに胸からお腹へと洗い始めた。そして、下腹部まで洗うと一旦止めて後ろへ回った。

(後姿も綺麗・・・。)
千早は律子の後姿を見て軽く息をついていた。それでも、ゆっくりと解いてある長い髪の毛を分けてうなじから洗い始めた。
うなじから背中のラインを一気に腰まで下ろしてその後腰を経由して左の背骨の辺りまでぐるっと回るように洗う。
再びうなじまで上がってきて腰まで下ろして今度は右側の背骨まで洗う。大きな円を描いてから、その内側を交互に洗う。
「んっ・・・気持ち良いよ。千早。もう少し右の背骨の内側洗ってくれるかしら。」
「はい。」
千早は律子に言われて背骨の内側を丹念に洗う。
「うん、そこそこ・・・あ〜気持ち良い。」
律子は顎を上げながら言う。
(な、何だか喘いでるみたい・・・。)
千早にはその様子が色っぽく見えた。
「ありがとう、もう良いわ。残りの部分お願い。」
千早はそのままお尻を洗って、そのまま後ろ腿を洗ってぐるぐると律子の周りを回りながら、足を丹念に下へ向かって行った。
つま先とかかとを洗っていると、律子は自然と左足を上げる。千早は左足の裏を洗った後指の間まで丁寧に洗う。
片足だったが、律子はビクともしていなかった。
(凄いバランス感覚と持久力・・・。)
千早は洗いながら感心していた。そして、左足が終わると律子は右足を上げた。
(流石にボディーソープがついてると危ないかな・・・。)
そう思ったので壁に手を突いて片足立ちした。千早の方は相変わらず丁寧に足の裏を洗った後指の間まで洗う。
そして、終わった後足をつくと、すっかり泡まみれの律子が立っていた。
(ここはどうすれば良いのかしら・・・そのまま洗ってしまって良いのかしら・・・。でもスポンジじゃなんだし・・・。)
千早は手にボディーソープを出して泡立たせてから、律子の股へ手を伸ばした。
くちゅぅっ
(ぬ、濡れてる・・・。)
ちゅぷっ、ちゅくっ、ぐちゅっ
「あっ・・・んあぁ・・・はぁん・・・。」
(直接手で・・・千早・・・上手・・・。)
直接蕾やその周辺をボディーソープのついた千早の右手で洗われると弄られているようで、
律子は思わず喘いでしまう。
千早の方はそれを聞いて変に興奮してしまっていたが、丁寧にゆっくりと洗うのを続ける。
「千早・・・そのまま中まで洗って・・・。」
「えっ・・・あっ・・・はい・・・。」
ドキドキ・・・ドキドキ・・・
既にヘアや股は泡まみれになっていたが、千早は驚きながらもその右手の人差し指を恐る恐る蕾に入れ始めた。
ずにゅううう
「はぁああぁ。」
律子は体を仰け反らせて甘い声を出した。それと同時に人差し指がキュッと締め付けられる。
「はあっ・・・はぁ・・・。」
(温かい・・・それに中はぐちゅぐちゅ・・・。)
千早は興奮状態で、息を荒げていた。
「興奮状態の所、水をさして悪いんだけど洗い流してくれるかしら?」
「あっ、すいません。」
にゅぽんっ
「あぅんっ。」
千早は恥ずかしくなって赤くなって慌てて指を抜いてシャワーのノズルを掴んでお湯を出した。
律子の方は急に指を抜かれたので声が出てしまったが、千早には聞こえていなかった。
ザーー
正面の首から背中へと体を何周か回りながら綺麗に洗い流していく。一通り流し終わると、律子がおもむろに股を広げる。
「奥まで綺麗に洗い流してね。」
「はっ、はい。」
千早はノズルを上に向けて蕾の辺りを綺麗に流す。
(水流が気持ち良い・・・。)
律子の方は少し体がピクピクと動く。少しして綺麗に流し終わると、千早はシャワーを止める。
「あ、あの。終りました。」
ちょっと照れながら千早は正面に立ち直して言った。
「ありがとう。」
律子は目を開けてから微笑みかけた。
「それじゃあ、今度は私が洗ってあげるわね。」
「お願いします。」
千早は頭を下げた。
「んふふっ、任せて・・・。」
律子は妖しく微笑みながらスポンジは持たずに手にボディソープをつけて泡立て始める。

(えっ!?いきなり手で・・・。)
千早は驚いたが、この先どうなるのか不安と期待でドキドキしながら律子の手を見ていた。
(この位で良いかしらね・・・。)
「千早、立っていると足洗い難いから、座って貰って良いかしら。」
泡だった両手を見てから律子は千早に言った。
「はい。」
千早は返事をしてから、言われるままに椅子へと座った。
「まずは左手からね。」
そう言うと律子は千早の左手に右手で絡みつくように握って洗う。
(何だか不思議な感じ・・・。)
千早は他人の指と絡んで洗われる感覚をそう思いながら絡み合っている手を見ていた。
律子は空いている左手を千早の右胸に伸ばす。
むにぃ
「あっ・・・。」
下から揉み上げられる感覚に千早から甘い声が漏れた。
(やっ、やだ・・・。)
千早の方は恥ずかしくなって空いている手で思わず口を塞ぐ。
(んふふ、敏感になっちゃってるのね。)
律子は目を細めながら、右胸をゆっくりとこねる様にして洗う。
「ふっ・・・んっ・・・。」
千早の方は感じていたが声を出さないように我慢して目を瞑って俯きながら体を強張らせていたが、
どうしても声が時々出てしまっていた。
「我慢しなくても良いのよ、千早・・・。」
「えっ!?」
(い、いつの間に!?)
耳元で囁かれた千早は驚いて目を開ける。
「ほら・・・こんなに乳首も立ってきて・・・。」
キュッ
律子は見えているように乳首を摘みながら言う。
「ひあっ!」
千早の方は一瞬で頭に突き抜けた感覚にビクッと反応する。

クリッ、クリリッ、クリクリッ
「あっ・・・やっ・・・乳首ばっか・・りいんっ・・ひゃぁ・・・あぁっん。」
律子の執拗な乳首攻めに千早は声を全く殺せなかった。絡まっていた手からも段々と力が抜けていた。
律子はそんな千早を見ながら、絡めて洗っていた手を離しながら、手首を優しく掴んで腕に手をゆっくりと滑らせる。
ヌルーーー
ゾクゾクッ
千早はその感覚に背筋を少し仰け反らせていた。
乳首を弄るのを止めて、だらんとした千早の右手に指を絡ませて洗い始める。
それと同時に、肩まで行った手を腕の触れてない部分にあわせて再び手首までゆっくりと滑らせる。
「んっ・・・。」
その感覚を感じながら千早は目を閉じて少し顎を上げた。
チュッ
その上げて空いた顎に律子はキスをする。
「ん・・あっ・・・。」
短く鼻と口から声が漏れる。
れろっ、れ〜ろ、れろ〜
舌を喉から左回りにうなじまで舐めてから、再び喉まで戻ってきて、更に右回りにうなじまで舐める。
「はっ・・・あっ・・・はぁっ・・・。」
千早は口を開けて短く声を漏らす。
律子は泡立って何往復かさせた左腕から胸の方へと右手を移動させて、左手を右腕の方へと移動させる。
ヌルーー
むにゅぅ
れろ〜
「はぁぁ・・・んはぁ・・・ふあぁ・・・。」
(ふわふわして・・・私・・・。)
三点それぞれの違う感覚で千早は頭の中がボーっとなってきていた。

キュキュッ
「んひゃっ!」
揉んでいた胸から、一気に乳首を摘み上げた感覚に千早は正気に戻された。
それを確認してから、律子は舐めていた舌を離して正面に向き直った。
そして洗っていた両手を一旦離してから千早の首と顎を持って目線を合わせた。
「まだまだ洗う所残っているから、飛んで行っちゃ嫌よ。蒼い鳥さん。」
「ぁ・・・。」
律子の言葉に、千早は一回顔をみたが、恥ずかしそうに目を逸らした。その後首と肩を軽く揉むように洗ってから距離を置く。
「じゃあ、足に行くわね。」
そう言って律子は両手で左足を持った。
千早は両手で後ろに手を突いてバランスを取っていた。
「千早。」
「はい?」
急に呼ばれて千早は不思議そうに律子を見た。
「この体勢だと、千早の恥ずかしい所が丸見えよ。」
律子は少しニヤッとしながら言う。
「えっ!?あっ!きゃっ!」
千早は言われて真っ赤になってからワタワタとして、左手で蕾を隠した。右手は残してバランス良く体制を維持していた。
「それはそれで、何かえっちね・・・。」
「い、言わないで下さい・・・。」
消え入りそうな声で顔を逸らしながら千早は言った。

「ふふっ、じゃあ、洗うわね。」
律子は手を洗った時と同じように、足の指の間に指を入れて丁寧に洗う。
その後で、足の裏、足の甲と洗ってキュッと締まった足首やかかとを両手で洗う。
その両手がゆっくりとふくらはぎ、すねと上がってきて膝の所を洗って何故か離れていく。
(あ、あれ?)
千早は不思議に思って逸らしていた顔を戻して律子の方を見る。
「今度は右足ね。」
「は、はい・・・。」
(な、何でだろう?)
不思議に思いながらも、バランスを変える為に後ろに突く手を入れ替えて、やはり蕾を凄い勢いで隠した。
律子はそっちを見る事無く無言で、右足を左足と同じように丁寧に両手で洗い始めた。
(マッサージされているみたいで・・・気持ち良い・・・。)
千早は途中で目を閉じていた。今度は膝まで両手で洗い終わると、律子は少しニッと笑う。
目を閉じていた千早にその変化は分かる筈も無かった。
「腿からお尻なんかを洗うから両手でバランスちゃんと取ってね。」
「えっ!?」
そう言って千早が驚くのを無視して、両腕で膝の裏から膝を抱え込んで持ち上げて一気に押す。
「う、うわっ!?」
千早はバランスを崩して一気に後ろに押されて、隠していた左手も後ろに突いた。
「千早のココ・・・ヒクヒクしていやらしく濡れてる・・・。」
「!?!?」
千早は律子に言われて自分の体勢を改めて確認して驚いて真っ赤になった。
(ま、ま、丸見えになってる!?)
「み、見ないで下さい、見ないでっ!」
自分の恥ずかしい格好に足をジタバタさせながら千早は言った。
隠したくてもバランスを取るために手が動かせない。そのもどかしさで益々体を大きく動かす。
「暴れちゃ駄目よ。頭打ちかねないからね。それに洗う為だから、ね?」
「くっ・・・。」
千早は、冷静に言われて仕方なく大人しくなった。

律子は膝を肩にかけて持ち上げて、先に浮いたお尻を洗い始める。
千早の方は全体重の殆どを両腕で支えているので精一杯になっていた。
もにっ、むにっ、もにゅっ
律子は洗いながらも、お尻を揉んでいた。
(引き締まった良いお尻ね・・・。)
そして、そこから腿の外側を揉むように膝まで洗い始める。それと同時に左内腿を舐め始める。
れろ〜
ツーー
「ふあぁ・・・ち、力が・・・。」
千早は内腿を舐められている感覚に力が抜けてきて両腕がガクガクしてくる。
(不味いかな?)
グイッ
律子は腿の外側を洗っていた両腕を千早の腰に回して引き寄せる。それと同時に蕾と唇がキスをした。
チュッ
「あっ!?」
千早は一気に引き寄せられて、両手も宙に浮く。律子の顔が完全に自分の股に密着していた。
くちゅっ、ちゅぴっ、れろっ
「あっ・・・やんっ・・・あんっ。」
律子はそのまま千早の蕾を舐め始める。鼻に千早のヘアが少しかかっていたが気にせずにそのまま舐め続ける。
千早は恥ずかしくて、律子の頭を押さえるが、律子の頭は全く動かない。
「千早のココも密も美味しいわ。」
「そ、そんな事言わないで。」
律子の言葉に、千早は恥ずかしくなって律子の頭を押さえていた両手を放して自分の顔を覆う。
ぐちゅっ、ぬちゅっ、くちゅっ、ちゅぷっ・・・
「あんっ・・・あっ・・・はっ・・・んぅ〜・・・。」
(すっ、凄い・・・き、気持ち良い・・・。)
千早は律子の濃厚な舌技に仰け反りながら喘いでいた。

ぬぬ〜
律子は舌を尖らせて、千早のぐちゅぐちゅになった蕾に軽く挿入する。
「はぅぁあ!」
背中から頭の先とつま先まで一気に駆け抜ける快感に千早は思わず叫んでしまう。足の指が天井に向かってピンッと伸びる。
「あ・・・はぅ・・・あ・・・。」
千早はピクピクしながら短く声が出続ける。
ぬぬっ、ぬ〜、ぬぬっ
「あっ・・・んぅっ・・・あんっ・・・。」
律子の舌の抜き差しで全身が痺れる様な感覚が広がっていく。
それと同時に腰から背中、首、脳天へと快感が突き抜ける。
舌の動きに合わせる様に千早の淫猥な声が浴室に響き渡る。
れろ〜、くちゅぅ、れろ〜〜、ぐちゅっ
「はうっ・・・あぅ・・・ひゃうっ・・・んあぁっ・・・。」
律子は舌を抜き差しするだけでなく、蕾の外側を嘗め回すような動きを更にプラスする。
ぬりゅぅ、ちゅくっ、ぬぬっ、れろぉ〜
「あっ・・・んひぃっ・・・あぁ・・・もぉ・・・らめぇ・・・。」
舌を巻いて愛液を舐め取って、代わりに自分の唾液を蕾の中へ塗りつけるように舐めまわす。
律子の執拗な攻めに耐えられなくなって千早はそう言いながら全身がプルプルと震え出す。
ぬぬっ、にゅりゅ〜、ぬちゅぁ
カリッ
律子の方はそのまま、舌を抜き差しして、上の歯でクリトリスを引っ掛けた。
「んっ、ひあぁぁぁあああーーーー!!!!!」
千早はその体勢のまま、ビクビクと痙攣して天井を仰いで派手にイッた。その後、首だけ後ろにカクンッとなる。
(あっ、首痛めちゃう。)
律子は急いで自分の方に体重移動させてから、千早のお尻を椅子に、
両足を肩から下ろして倒れ込まないように優しく両腕で頭を抱えた。
「はぁ・・・はぁ・・・す、すごかっら〜・・・。」
千早はだらしなくい顔で笑いながらうつろな目で呟いていた。
(余韻に浸っていて、首の方は大丈夫そうね。)
それを見て、律子は安心して、上半身を前の方へと倒れ込ませた。
体に力の入っていない千早はそのまま自分の足に突っ伏す状態になる。

「んっ、冷たっ・・・。」
むにゅっ、むにっ
律子は自分の胸にボディソープをつけて揉んで泡立てていた。
泡立つとぐったりして前のめりになっている千早の両脇から持って体勢を起き上がらせてから、直接胸を背中に押し当てた。
むにゅぅ〜
そのまま抱きついて、上下に動かして腰の方は手を回して洗い続ける。
ぬるぅ〜、にゅりゅ〜、むにゅぅ
(背中にやわらかくて温かい感触が・・・。)
千早は意識が朦朧としている中で、律子の胸の柔らかさを感じていた。
洗い終わって、律子はシャワーでお互いの泡を洗い流す。その間も千早はボーっとしていた。
「千早、大丈夫?」
「あっ、はぃ・・・。」
言われたので返事をしたという感じの千早だった。
「じゃあ、湯船に浸かりましょ。」
千早の返事を聞いてから、律子は手を引いて千早と一緒に静かに湯船に体を沈めた。
「あ〜気持ち良い・・・。」
律子は呟きながら手足をお湯の中で伸ばす。
千早は少しぽわーんとしたまま無言で浸かっていた。
「もっと色々して欲しいし、してあげたいんだけど今日は疲れてるからここまでね。」
「あっ、はい。」
律子に言われて、ボーっとしていた千早はハッとして答えた。
「凄い乱れようだったわね。いつもの冷静さが嘘みたい。」
「えっ、いや、それは・・・律子さんが凄いから・・・。」
千早は照れ臭そうに赤くなって俯きながら言う。照れ臭くて指をお湯の中でいじりながら合わせていた。
「千早も上手だったわ。私もかなり興奮しちゃったし・・・。」
(ふふっ、照れちゃって可愛いわね。)
律子はそう言いながら千早の横顔を見て微笑んでいた。
「そ、そうですか・・・。」
(どう答えたら良いのか分からない。)
千早はちらっと律子を横目で見ながら、小さな声で答える。

「さっきまでのは置いておくとしても、こうやって誰かとゆっくりお風呂に入れるって良いわね・・・。」
「律子さん・・・。」
遠い目をして言う律子に思わず千早は顔を上げて律子の横顔を見る。
「あっ、そうだ。後でプレゼントあるから。」
「プレゼント?」
唐突な律子の言葉に千早は目をぱちくりしていた。
「上がってからのお楽しみよ。」
律子はそう言ってウインクした。
暫く湯船に使ってから今度は頭を洗ってから浴室を出た。
「バスタオルだけ巻いて寝室に行きましょう。」
「はい。」
自分でバスタオルを巻いて、髪に使うバスタオルを持って二人はさっきまで居た寝室へと移動した。
「ドライヤーは、ここに有るから好きなの使って。」
律子はそう言いながらカラーボックスに入っている複数のドライヤーを見せた。
「では、これをお借りします。」
千早は一つ選んでコンセントを差し込んでドライヤーで髪を乾かし始めた。
ブオーー
律子はその間に、端に置いておいた包装してある箱を開ける。そこには、綺麗な刺繍入りの白いブラとパンツが入っていた。
乾かし終わるのを待ってから、律子は千早に声を掛ける。
「千早、これ着けてみて。」
「えっ?これって・・・。」
(凄い刺繍・・・。)
千早はそう思いながらも、律子からパンツとブラを受け取って着けてみた。
(ぴったり・・・。)
余りにジャストフィットするので千早は驚いていた。
「さ、こっちに全身鏡があるから。」
千早は促されて、全身鏡の前に立つ。

「うわぁ・・・。」
(別人みたい・・・。)
千早が驚くのも無理なかった。さっきまで着けていた下着とは比べ物にならない位、見栄えしていた。
「良く似合ってるわよ。」
律子は嬉しそうに微笑んで後ろに立って千早の両肩に手を置いて言った。
「あ、あの、これ高いんじゃ・・・。」
千早は恐る恐る聞く。
「良いのよ。私からのプレゼントよ。同じ白でも全然違うでしょ?」
「え、ええ、まあ・・・。」
(確かにそうなんだけど・・・。)
千早は複雑な心境で曖昧に答えていた。
「貴方のお祝いでもあり、仲直りの意味も込めてね。受け取ってくれるかしら?」
律子は御伺いを立てるように聞く。
「はい、喜んで。」
千早はにっこりと微笑んで答えた。
「それじゃあ、折角だしこのままで寝ましょう。明日の朝宜しくね。」
「はい、お休みなさい。」
二人は大きなベッドに一緒に入った。何となく無言のまま見詰め合っていたが、先に律子の方が寝息を立てて眠ってしまう。
スースー・・・
(律子さんの寝顔がこんなに近くに・・・。)
千早は律子の寝顔を見ながら無意識の内に微笑んでいた。
「律子さん・・・私・・・律子さんの事・・・。」
最後の言葉を言い切る前に、千早は寝息を立てていた。

・・・一週間後・・・
今日は深夜ラジオの生放送が入っていて、律子はそのゲストとして出演していた。
「まだ、伊織ちゃん調子悪いんですか?」
「はい、もう暫く掛かるかもしれません。でも、必ず私と一緒にまた活動を再開しますよ。」
律子はDJの言葉に一瞬ズキッと来たが、明るく答えた。
「いやあ、律子ちゃんだけの話をこうやってじっくり聞くのも良いけど、
ボクはあの伊織ちゃんの辛口コメントや毒舌が好きでね。」
「ふふっ、そうですね。それであちこちに波紋広がっちゃうのが困りものですけどね。」
頭を掻きながら言うDJと返事をした律子は笑い合った。
「それでは、今度は二人でのお越しをお待ちしております。
今夜は秋月律子さんをゲストに迎えてお送り致しました。最後の曲のタイトルコールお願いします。」
「はいっ、今夜のお別れの曲は私のベストパートナー水瀬伊織の早い復帰を願って「Here we go!!」です。」
そして、律子の言葉が終ると、曲のイントロが流れ始める。
「律子ちゃん、お疲れ様でした。」
「こちらこそ、フォローありがとうございました。」
DJの言葉に律子は頭を下げた。
「いやいや、こっちこそ話し易くて助かったよ。本当に早く伊織ちゃん復帰出来ると良いね。」
「はい。それでは、私はこれで失礼します。」
律子はDJや他のスタッフに挨拶してからマネージャーの方へ近付いて行った。
「お疲れ様でした。これどうぞ。」
マネージャーは挨拶しながら温かいお茶のペットボトルを律子に渡した。
「はい、お疲れ様でした。今日は遅くなっちゃったけど明日のスケジュールは楽そうね。」
律子はお茶を少し飲みながら言った。
「そうですね。午後から夕方までだけですから。どうします、送りましょうか?」
「お願い出来ますか?」
「勿論です。」
マネージャーはにっこり笑って答えた。
「それじゃあ、格好はこのままで良いんで荷物持ってすぐに行きましょう。」
「はい、それじゃあ、正面に車回しますので待っていて下さい。」
そう言ってから、マネージャーは走って行った。
「さってと、正面玄関に行こうかな。」
律子は呟きながら、控え室に一旦戻って荷物だけ持って移動した。

♪〜♪〜
(あれ?プロデューサーから?)
律子は送って貰っている車の中で携帯が鳴ったので不思議に思い出た。
「もしもし、秋月です。」
「「律子、喜べっ!!!」」
「はぁ?」
(プロデューサー疲れておかしくなった・・・そんな訳ない、か。)
妙に興奮しているプロデューサーの声に変に拍子抜けして返事をした。
「「聞いて驚け!伊織が目を覚ましたそうだ!」」
「ええっ!?伊織がっ!」
「えっ!?」
流石に驚いて律子は大声を上げる。驚いたマネージャーは、一旦車を止める。
「「俺は事務所から聞いたんだが、伊織のお兄さんが連絡をくれたらしい。
こっちは今千早を連れて向かってる最中だ。そっちも行けそうか?」」
「何言ってるの、行くに決まってるでしょ!」
律子は興奮して強い口調で言う。
「「分かった、じゃあ、向こうで会おう。」」
「はい、では後程。」
(伊織が・・・。)
律子は少し涙ぐみながら携帯を握っていた。
「秋月さん、病院向かいます。それで良いんですよね?」
心配そうにマネージャーは律子の様子を見ながら聞いた。
「すいません、お願いします。」
律子は頭を下げながら答える。
「いえいえ、私も会ってみたいですから。」
マネージャーは微笑みながら言った後、正面に向き直って車を発進させた。
「伊織・・・。」
(戻ってきてくれたのね・・・。)
律子の方はは目を瞑って手を膝の上で合わせて小さく呟いた。

(水瀬さんが気が付いた・・・。)
千早は複雑な心境だった。律子とのわだかまりが消えてから一週間。毎晩二人は一緒だった。
今日は律子のスケジュール的に無理だったが、その甘い時間は千早にとって掛け買いの無いものになっていた。
それが、伊織復帰によって無くなってしまうという不安と寂しさを改めて再認識させられていた。
(それに・・・今までの律子さんとの事が水瀬さんに知れたら・・・私・・・。)
会う事どうこうだけでなく、何を言われるのか、されるのか、それを恐れてもいた。
実際に伊織を突き飛ばした時の事を考えれば、律子よりも酷い事をされるのではないか、許されないのではないか。
そんな不安が大きくなっていた。
「千早、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
プロデューサーは心配そうに千早に聞いた。
「あ・・・多分・・・。」
千早は自信なさ気に小さな声で呟いた。
「あんな事が有ったのは仕方ないさ。千早だけが悪い訳じゃない。
むしろ伊織の方に非が有ると言っても過言じゃない。お互い謝れば大丈夫さ。
伊織はああいうきつい性格だが、道理が通ればちゃんと認める。律子も居るしな。」
プロデューサーはフォーローするように千早に言った。
「そう・・・ですね・・・。」
(前だったら律子さんが居る事で安心できたのだけれど・・・。今はむしろ逆かも・・・。
律子さんはどう収めるつもりなんだろう・・・。)
千早は曖昧に返事をした後、自分の気持ちを誤魔化すように車窓の外の夜景を見ていた。

「一週間半か・・・。」
伊織はベッドで起き上がりながらうさちゃんを抱き締めて呟いていた。
「もうすぐ、秋月さん達が来るそうだよ。」
「えっ!?律子が来てくれるの?」
伊織は少しやつれてはいたが目を輝かせて兄に聞いた。
「ああ、ついさっきまでラジオ聞いてただろ?」
さっきまで律子がゲスト出演していたラジオを二人してイヤホンで聞いていたのだった。
「あれって生だったの?」
伊織は驚きながら兄に聞いた。
「ああ。それが終ってこっちに来てくれるそうだ。」
「嬉しい・・・。」
伊織は少し涙ぐみながらも笑顔になって呟いた。
(この分なら秋月さんが来れば早々に回復出来そうだな。)
伊織の兄はホッとした顔でそんな伊織を見ていた。
ガチャッ
病室の入口のドアが開く音がして、伊織と兄はそちらを見た。
「お父さんっ!」
「親父!」
二人は驚いて思わず声を上げた・
そこには、いつも忙しくてここにも最初に倒れて以来、来ていなかった伊織の父の姿が有った。
「大分やつれたが気が付いて元気のようだな。」
いつもは見せないホッとした表情で父親は言った。
「心配かけてごめんなさい・・・。」
伊織は俯きながら謝った。
「謝る必要はない。そう思うのなら、その分頑張ってもっと大きくなってから私を呼び出すぐらいの存在になれ。
そして、早くもっと元気な姿を見せつけてみろ。」
父親はしっかりとした口調で言った。
「う、うん。律子と一緒に呼び出すんだから。」
伊織は父親に触発されて胸を張ってしっかり目を見て言い返した。
「その息だ。それじゃあ、またな。」
伊織の言葉に少し笑いながら伊織の父は手を振ってすぐに病室から出て行った。
「行っちゃった・・・。」
伊織はうさちゃんを抱き直しながら、父親の出て行ったドアを見て呟くように言った。
「全く素直じゃないよな親父は。」
(呼び出されなくても自分から来てるって。それに、伊織もやっぱり親父の娘だよな。)
「えっ?」
笑いながら言う兄の言葉が分からずに、伊織は不思議そうにしていた。
コンコン
「どうぞ。」
ドアがノックされて兄の方が答えた。
「失礼します。」
入ってきたのは律子と伊織の知らない女性だった。

「律子・・・。」
「伊織・・・。」
二人はお互いに見つめ合って瞳が潤んでいた。
(私の入っていけない二人の世界を感じる・・・。)
マネージャーは黙って、律子の後ろに立っていたがその雰囲気を察していた。
兄の方もあえて何も言わずにマネージャーの方に一礼した。マネージャーの方もそれに気が付いて返礼した。
律子は伊織を見つめたまま引き寄せられるようにベッドの方へ歩いていく。
伊織の方はベッドの上で両手を広げて律子を待ち構えた。律子は伊織の目の前まで来て微笑んだ。
「良かった・・・。」
そう呟くと、律子の目から涙が溢れ頬から涙が伝った。
「帰ってきたよ、律子。心配かけてごめんね。」
伊織の方も耐え切れずに涙が目から溢れ出した。
「お帰り・・・。」
そう言って律子は伊織をギュッと抱き締めた。
「ただいま・・・。」
伊織の方もそう言ってから力強く律子を抱き締め返した。
(本当に二人は良い関係なのね。)
マネージャーはその二人の様子を見てホロリとしていた。
(やはり、秋月さんは別格のようだな。)
伊織の兄の方は微笑みながら二人の様子を見ていた。
律子と伊織はそのまま目を閉じてしっかりと抱き合ったまま動かなかった。

コンコン
暫くして再びドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
兄の方が静かにノックに答えた。
「失礼します。」
今度はプロデューサーと千早が入ってきた。
「心配とかの前に、二人は大丈夫そうだな。」
プロデューサーの方は抱き締めあっている二人の様子を微笑ましそうに見て言った。
「そう・・・ですね・・・。」
一方の千早の方は少なからずショックを受けていた。
(ショックを受けてる自分が居る・・・。悔しいと思う自分が居る・・・・。私・・・醜い・・・。でも・・・。)
内心で複雑な思いがぐるぐると巡っていた。そんな葛藤を抑えながら千早は平静を装っていた。
「伊織、律子。感動の再会の中水をさして悪いんだが、話させてくれないか?」
プロデューサーの言葉に気が付いて伊織は目を開けた。
(今良いとこなんじゃないの!)
面倒臭そうな顔をしてプロデューサーを睨んだ。
「そうね、とりあえずっと。」
「あっ・・・やだっ。」
(離れちゃ嫌っ!)
離れようとする律子にしがみついて伊織は放そうとしない。
「こらこら、大丈夫。後で幾らでも抱き締めてあげるから、ね?」
律子は微笑みながらそう言って伊織の目を見ながら頭を撫でる。
「うぅ〜。」
伊織は口を尖らして渋々律子から離れてプロデューサーの方を向いた。
律子の方はベッドの横にある椅子に座って双方が見えるように向き直った。

(ここからが本当の正念場・・・ね・・・。)
律子は真剣な目つきになってから、メガネの真ん中の位置をを中指で直した。
「さてと、まずは千早からだ。」
プロデューサーは隣に居る千早に声を掛ける。
「あっ、はい・・・。水瀬さんすいませんでした。」
千早は促されてから、おずおずと一歩前に出て深々と頭を下げた。
その後で少しの間沈黙が流れる。周りに緊張感が漂う。
(伊織・・・どうするの?)
律子は内心ハラハラしていた。
少しして腕を汲んでいた伊織が意を決したように一回頷く。
「あ〜・・・まあしょうがないわよね。私が原因作った訳だし。
どっちかって言うとそっちの方が辛かっただろうから。
この場であの件についてはチャラにしましょう。私の方こそごめんなさいね。」
伊織は苦笑いしながらも、最後は頭を下げた。
「えっ!?」
(あ、謝られた・・・。許された・・・。こんなにあっさり・・・。)
頭を上げてから千早は予想に反した伊織の言葉に驚いて顔を上げて伊織を見ていた。
「なによ。私が謝ってるってのに不服な訳?」
千早の反応にムッとした表情で伊織が聞く。
「い、いえ。ありがとうございます。」
ホッとした千早はその場で微笑みながら答えた。
(こいつ・・・こんな顔できたんだ・・・。それに化粧覚えたのね・・・。)
伊織は冷静な目で千早を見ていた。
(ふう、伊織がこんなにあっさり認めるとは私も思わなかったけど、良かった。
だけど、千早との事は私から話さないといけないわね。
でも、折角良くなったこの空気の中でそれは言えない・・・。先送りになっちゃうけど仕方ないわね。)
律子は安心した後で、まだ残っている大きな問題を考えていた。
「じゃあ、とりあえず、この件に関してはこれで終りという事で。
後はっと、伊織は知らないだろうからこちらの女性の紹介をする。」
「律子と一緒に来たから気になっていたのよね。で、何者?」
伊織はストレートに聞く。
「伊織と律子のデュオの専属マネージャーだ。」
「はぁ?意味不明なんだけど。」
プロデューサーの言葉に伊織は言っている意味が分からずにすぐに聞き返した。
「俺一人じゃあ、伊織と律子のデュオと千早の面倒見切れてなかったのは分かってただろ?
だから、俺が千早を集中してプロデュースする為に彼女を雇ったんだ。」
「な〜んだ。アンタの能力が足りないからその穴埋めな訳ね。」
「ぐっ・・・。」
伊織はジト目でズバッという台詞にプロデューサーはぐうの音も出なかった。
「丁度先週から付いて貰っているけれど、彼女敏腕マネージャーよ。」
「へ〜。」
何も言えないプロデューサーに代わって律子か説明すると、伊織はマネージャーの方をまじまじと見る。
「水瀬さん、初めまして。最初に挨拶できなくてごめんなさい。至らない点も多いと思いますが宜しくお願いします。」
伊織の視線が自分に来るとマネージャーの方が頭を下げて挨拶した。
「律子が太鼓判押すのもあるし、誰かと違って真面目で良く気が効きそうね。こちらこそ宜しくね。にひひっ♪」
「ぐはっ。」
「あ、えっ、え〜と・・・。」
伊織の皮肉交じりの言葉に更にダメージを受けるプロデューサーを見て
マネージャーはどうして良いのか分からず少しオロオロしていた。
「こらこら伊織。マネージャーを困らせるんじゃないの。」
困っているマネージャーを見て律子は苦笑いしながら合いの手を入れる
「はいはい。で、アイツは良いんだ?」
伊織はプロデューサーの方を見ながら聞く。
「日頃の行いの差よ。」
律子は悪戯っぽく言ってウインクして答える。
「俺にはフォロー無しかよ。まあ、良いか。それじゃあ、千早は明日早いからこの辺で送って行く。
そっちはそっちで任せる。それじゃあ、またな伊織。」
愚痴った後、腕時計を見ながらプロデューサーは言う。
「はいはい。千早、アンタも頑張んなさいよ。」
「はい。ありがとうございます。それでは皆様、失礼致します。」
伊織の言葉にお礼を言ってから、千早とプロデューサーは病室から出て行った。

「良かったな千早。」
「はい。」
(でも・・・その後の事は・・・。)
確かにこうなった根本はあっけなく解決したが、その後の律子との関係がばれるのを恐れていた。
(水瀬さんに隠し通せるかしら・・・。)
千早は難しい顔をしていた。
「明日のオーディションはかなりの激戦になるだろうが、千早の実力があれば大丈夫だ。」
プロデューサーは難しい顔をしたのをどうやら勘違いしているようだった。
「はい、明日も宜しくお願いします。」
(余計な事を考えずに、明日の事を考えよう。)
千早は気持ちを切り替えて病院の廊下を歩いて行った。

「すいません。今夜泊まって行っても良いでしょうか?」
律子は兄の方にお伺いを立てた。
「ええ、構いませんよ。そちらが大丈夫であれば、伊織も喜びます。」
「律子、大丈夫なの?」
伊織の方は心配そうに律子に聞く。
「大丈夫、大丈夫。明日は午後から夕方までだしね。朝にでも帰って寝れば余裕よ。
マネージャーは帰ってゆっくりして貰った方が良いかな。運転もするしね。」
「宜しいですか?」
マネージャーの方は実際どうして良いか分からずに、声を掛けられるのを待っていた。
「ええ、明日連絡入れるので迎えに来て貰っても良いですか?ここの近くのマンションに行きますんで。」
「分かりました。お昼を考慮して、12:00までに連絡が入らなかったら、こちらから連絡入れさせて頂きますので。」
「はい、宜しくお願いします。今日は時間外の運転お疲れ様でした。」
「いえ、こうして水瀬さんの元気な顔も見れましたし良かったです。
お二人とも、これからも宜しくお願いします。それでは、失礼致します。」
「宜しくね〜。にひひっ♪」
伊織の言葉を受けて、更に無言で一礼してからマネージャーは病室から去って行った。
「随分としっかりしたマネージャーね。アイツとは大違い。」
出て行った後、感心したように伊織は言った。
「そうね、人当たりも良いしかなりの逸材よ。私が頼み込んだんだけど、あんなに良い人が来てくれるとは思わなかったわ。」
律子の方は嬉しそうな顔で言う。

「アイツも悪くないんだけど、スケジュール管理がイマイチだったのよね。
律子居なかったら洒落になっていないの何回あった事か・・・。」
伊織は少し溜息混じりに呟いた。
「まあ、人間万能じゃないから。それに、私達との事でスケジュール管理だって少しは良くなってる筈だからね。
千早の方は上手く育てて貰わないと。」
律子も少し心配そうな表情になりながら言う。
「アイツだからちょっと不安はあるけどね・・・。」
伊織は本音を漏らした。
「二人とも悪いね。私も帰ろうか?」
伊織の兄の方が二人の会話に間が空いた所で割って入った。
「そうしてくれると嬉しい。」
「伊織っ!」
さらっと言う伊織に律子は突っ込んだ。
「ははは、良いんですよ。それじゃあ明日の朝入れ違いになる位にまた来るよ。」
「ありがとう、お兄ちゃん。」
伊織は出て行く兄に向かって手を振った。兄の方も軽く手を振り替えしてから去って行った。
その後無言で二人は見つめ合った。
「律子・・・。」
「伊織・・・。」
二人は囁き合うと自然な動きで唇を重ねた。軽くキスをすると離れる。
「じゃあ、私が眠っていた間の話聞かせてくれる?」
「良いわよ。ただ、眠くなったら寝てね。」
「オッケ。」
「じゃあ、まずは・・・・・・。」
律子は千早との夜の話以外の全てを朝まで話していた。
(千早との話は、今出来ない・・・。)
どうしても千早との事だけは言いたくても言えなかった。

「じゃあ、私は帰るわね。お休み。」
「お休み。気を付けてね。」
「うん。」
チュッ
二人は別れ際に軽くキスした。そして、律子は軽く手を振りながら病室から出て行った。
律子の後ろ姿を見送った後、伊織には引っかかる点が幾つかあった。
(律子は千早の事、如月さんって呼んでたわよね・・・。)
その疑問を律子に聞こうとは思っていなかった。伊織は顎に手を当てて考えていた。
(それに、すっぴんだった千早の化粧・・・。昨日今日一人で始めた感じじゃない・・・。
律子は気のせいか千早の事、あえて言ってなかった感じがする・・・。)
「私が居ない間に何かあった・・・。」
さっきまで律子が座っていた椅子を見ながら呟いた。
(そういう事かな・・・。ここは千早に聞くのが良さそうね・・・。)
伊織は何となくだが、律子と千早の関係を感じ取っていた。
「昨日は私にしてはかなり譲歩して解決したと思ってたけど、それだけで終りって訳じゃないのかな・・・。ふぁ〜あ・・・。」
(全く病み上がりなんだから、余計な事考えさせないで欲しいわよね。)
伊織は欠伸をした後、うさちゃんを枕に乗せてその横に頭を乗せて目を瞑った。
ずっと寝ていたとはいえ、朝まで話していた疲れであっという間に寝息を立て始めていた。

・・・三日後・・・
伊織は全ての検査を受けて異常無しという事で退院する事になった。
今日律子は福岡での仕事が入っていてマネージャーと共に来れなかったが、プロデューサーと千早が代わりに来ていた。
「伊織、退院おめでとう。すっかり元気になったな。」
「まあね、当たり前でしょ。体調管理も仕事だってうるさく言ったのはアンタだしね。」
伊織は少し嫌味っぽく言ってはいたが、嬉しそうに笑っていた。
「退院おめでとうございます。」
千早はそう言って花束を伊織に渡した。
「ありがとう千早。そうそう、今夜暇?」
「はい、夕方でレッスン終りますので予定はありませんが?」
突然伊織に聞かれて千早は不思議そうに答えた。
「それじゃあ、退院祝い終わった後でちょっと話しない?」
「ええ、構いませんよ。」
(話って・・・まさか・・・。)
千早は内心でドキドキしていたが、平静を装って答えていた。
「じゃあ、プロデューサー。レッスン後に千早借りるわね。」
「ああ、くれぐれも虐めないようにな。」
少し冗談交じりにプロデューサーが言う。
「アンタの鬼レッスンの方がよっぽどイジメじゃないの〜?」
伊織は気にせずジト目で言い返す。
「あのなあ・・・。まあ、分かった。そっちはそっちで夜まで体力残しとけよ。話してる途中で寝るとかして千早を困らすなよ。」
「アンタと違うから大丈夫よ。にひひっ。」
千早の方は二人のやり取りに口を挟めずお互いを見比べているだけが精一杯だった。
「じゃあ、私は先に帰るから。退院のお出迎えありがとうね。」
伊織はウインクしながら言った。
「ま、仕事だしな。」
プロデューサーの言葉に何とも言えない顔でどう言って良いか分からない千早と、ジト目でプロデューサーを見ている伊織が居た。
「アンタねえ・・・。千早の前でそんな態度取るんじゃないわよ。」
「はいはい。」
プロデューサーは軽く流してから伊織を見送った。

沈んでいく夕日を見ながら伊織はコードレスの電話を持っていた。
「もしもし、水瀬ですけれど。」
「「ああ、伊織ちゃん!今日退院したんですってね。おめでとう。」」
電話越しに話しているのは事務所の中でもデビュー当時から親身にしてる事務の女性だった。
「ありがとう・・・。」
ちょっと嬉しくなって伊織は目頭が熱くなっていた。
(いけない。)
「えっと、今日の律子のスケジュール分かるかしら?マネージャーの電話番号聞いてあるんだけど仕事中だと悪いと思って。」
ふと我に返って聞いた。
「「ちょっと待ってね。」」
向こうがそう言うと保留音に変わる。
(あ・・・。私の曲だ・・・。)
伊織は保留音のメロディーを聞きながら目を瞑って静かに待っていた。
「「お待たせ。午後4時から5時までは移動の時間なので今なら掛けても大丈夫よ。」」
「ありがとう。」
「「無理しないでゆっくり休んでから来てね。」」
「うんっ、にひひっ。それじゃあ、また事務所で。」
伊織はそう言ってから切って、貰ったメモを見ながらマネージャーに電話を掛けた。
「「はい、どちら様ですか?」」
警戒する感じで少し怪訝そうに聞くマネージャーの声だった。
「お疲れ様です。伊織です。」
「「どうしました?何かありましたか?」」
少し焦りながらマネージャーは聞いた。
「ううん。律子傍にいるかな?」
「「ええ、代わりましょうか?」」
「お願い。」
「「はい、ちょっと待って下さいね。」」
マネージャーは返事をしてから向こう側の音声が少し漏れていた。二人のやり取りも少し漏れて聞こえていた。

「「もしもし、伊織?」」
律子は驚くように聞く。
「うん・・・。今日ね退院して今部屋に居るの。」
伊織は目を閉じて律子の声を感じながら答えた。
「「今日はごめんね。仕事キャンセルしてでも行きたかったんだけど・・・。」」
携帯越しながらも申し訳無さそうな声が聞こえてくる。
「ううん、良いの。その言葉が聞けただけでも。」
「「明日の夕方には帰れるから、その時に改めて退院祝いさせてね。」」
「うん、待ってる。仕事頑張ってね。」
「「任せといて。ちゃんと伊織の事も宣伝しておくからね。次にこっちに来る時は伊織も一緒よ。」」
「うんっ・・・うん・・・。」
(律子の思いやりがこんなにも嬉しいなんて・・・。)
返事をしながらいつの間にか伊織は涙声になっていた。
「「大丈夫?伊織!?どこか具合でも悪いの!?」」
律子は驚いて聞く。
「ううん、嬉しくなっちゃって。ごめんね。それじゃあ、またね。」
伊織は照れ臭くなって、それだけ言うと自分から電話を切ってしまった。
(ダメダメ・・・。とても千早の事なんて聞けないわ・・・。)
ちょっと溜息混じりに苦笑いしてから伊織は沈んで行く夕日を見ていた。

「はぁ・・・。」
千早は暗くなった帰り道で歩きながら溜息をついていた。
今日のレッスンは千早の得意なボイスレッスンだったが音を外すだけでなく集中力も全然なく酷い有様だった。
(やっぱり水瀬さんの事が気になって集中出来ない・・・。それに、毎日会っていた律子さんと会えないというのも・・・。)
「はぁ・・・。」
今日もう何度目になるか分からない溜息をまたついた。
(しかもこれから水瀬さんと会う事になってるし・・・。どんな顔をして会えば良いのかしら・・・。)
千早は苦笑いしながらも、最寄駅に向かって歩いて行った。

「プロデューサー、千早はもうレッスン終ったの?」
伊織は暗くなってきて、窓際から移ってソファに寝転びながら電話を掛けていた。
「「ああ、さっき終って今駅に向かってると思うぞ。」」
「相変わらずの鬼しごきなんでしょ?」
少し意地悪そうな感じで言う。
「「知るかっ!でもなあ、得意分野だったのに今日の千早はボロボロだったな・・・。」」
「そうなの?」
プロデューサーの言葉に伊織は不思議そうに聞いた。
「「ああ、心ここに有らずって感じだったな。俺がどうかしたのか?とか聞いても何でもないですの一点張りだったし。
あんな千早を見るのは初めてだ・・・。」」
プロデューサーは意外そうに言う。
「ふ〜ん。女心は複雑だからね。アンタには分からないのよ。」
「「ぐっ、どうせ俺には分からないよ。じゃあ、これからそっちに行くから伊織大先生に聞いて貰いますかね。
それで後で教えてくれるかな。ま〜さか「分からない。」なんて答えは伊織大先生から聞く事もないだろうしねえ。」」
プロデューサーの方は思いっきり皮肉を込めて言う。
(言ってくれるじゃないの・・・。)
「フンッ!あったり前でしょ。アンタと一緒にしないで頂戴。
ちゃんと聞いて話せる事だったら教えてやるわよ。ちゃんとオレンジジュース用意して待ってなさいよ。」
伊織の方はいつもの口調であっさりと言い放った。
「「ちゃんと100%の良い奴用意するから。これからの千早の事にも関わってくるからな。真面目に頼んだぞ。」」
プロデューサーはさっきまでとは一変して真面目に頼んできていた。
(全く・・・。)
「そこまで言うなら仕方ないわね。この私の実力を信じなさいって。」
伊織は少し呆れたように言った。
「「お前の実力は分かってるからな。まあ、とりあえず無理はするなよ。今は体を一番に考えてくれ。」」
「あ〜ら、無理させようとしてるのは何処の誰かしら〜?」
「「あ〜、もう分かったよ。じゃあ、またな。」」
「じゃあねえ、にひひっ。」
伊織は悪戯っぽく笑うと電話を切った。
(千早が心有らずになる状況か・・・。私との事まだ引き摺っている事も考えられるわね。
あんまり頭下げるの好きじゃないんだけど、気にしてるようならもう一回位仕方ないか・・・。
アイツの為でもあるし・・・律子にも良いとこ見せたいし。)
真剣な顔つきになって、机の上を見ながら考えていた。その視線の先には、律子と二人で写っているツーショットの写真があった。

暫く写真を見ていたが、ふと思いついたように伊織は立ち上がる。
「オレンジジュース・・・。」
(アイツと離してたら急に飲みたくなっちゃった。)
一言呟いてから伊織は冷蔵庫の方へ歩いて行った。

ピンポーン
千早はインターホンを鳴らす手が少し震えていた。
(こんな変な緊張は初めて・・・。)
そう思ってドキドキしながら待っていた。
「はいはい、どちら様?」
いつもの明るい伊織の声が聞こえてくる。
「如月千早です。」
千早はなるべく無感情になるように勤めて答えた。
「じゃあ、ロック外すから上がって来て。くれぐれも後ろから誰か入ってこないか確認してから来るのよ。」
「はい。」
伊織に念押しされて千早は返事をすると、奥の扉の方へ立った。
カチッ
ロックが外れる音がして、扉が開いた。
中に入ってから自動ドアが閉まるまできちんと見てから千早はエレベーターに乗った。
その後目的階を押してドアを閉めた。
(出来るだけ・・・出来るだけ感情を殺して・・・。)
自分に言い聞かせるように思いながら軽く頬を叩いた。
「はあ〜。」
パンッ!
目的階について扉が開きかけて深呼吸してからもう一回自分の頬を強く一回叩いた。
「アンタ何やってんの?」
「えっ!?」
目の前に不思議そうな顔をしている伊織が居た。思わず千早は驚いてまじまじと見返していた。
「何よ、人が迎えに来ちゃおかしいって言うの?」
伊織はうさちゃんを抱きながら不機嫌そうに言った。
「い、いえ、そういう訳では。」
千早はしどろもどろになって答える。

「ふんっ、まあ良いわ。とりあえずエレベーターから降りなさいよ。他の階から呼ばれてるわよ。」
伊織はジト目でそう言いながら、開閉スイッチを押していた。
「す、すいません。」
千早はばつが悪そうに言ってからエレベーターを降りた。
(・・・何とも言えない空気・・・。)
無言で前を歩いている伊織を見ながら千早は内心穏やかではなかった。
「さ、入って。」
伊織はドアを開けると千早を先に入れてから、ドアを閉めた。
千早の方はここに来るのは初めてだったので何となく周りを見渡していた。
「大したもの無いわよ。内装はそんなに凝ってないから。ほら、そんなとこでキョロキョロしてないでこっちよ。」
伊織は廊下の奥から千早を急かした。
「あっ、はい。」
千早は慌てて伊織の後を追った。伊織が先にドアを開けて入ってから千早もそれに続く。
部屋の中は今までとは違う雰囲気だった。落ち着いた感じで高級感漂う内装に家具。
「・・・。」
圧倒されて声も出ずに千早は周りをゆっくりと見ているしか無かった。
「そっちに座って。今はジュースしかないけど我慢してね。」
千早が見ている間に伊織は自分のグラスと千早のグ為のグラスを持って来ていた。
「それでは、失礼します。」
落ち着かない感じではなったが、千早はそう言うと椅子に座った。伊織の方はグラスを置いてから真正面の椅子に座った。
「ま、とりあえずレッスンお疲れ様。それでも飲んで一息ついて。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて頂きます。」
千早はそう言うと、目の前に出されたジュースに口をつけた。
「あ・・・。」
(美味しい!)
驚いて言葉が出なかった。
「ふふん、驚いたでしょ。厳選素材から絞ったグレープジュースよ。
それ飲んじゃうと、そこら辺にある100%のすら霞むわよ。にひひっ。」
伊織は得意そうに言ってから笑って言った。
(やっぱり素質なのかな・・・。トップアイドルになっても初めてテレビで見た時と全然変わらない。)
千早はグレープジュースを飲みながら改めて伊織を見て思った。

(さ〜て、どう切り出そうかしら。)
伊織はジュースを飲みながらグラス越しに千早を見て考えていた。
「とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
「これを飲んで、「まあまあね。」位言える様になりなさいよ。アンタ実力はあるんだから。」
「は、はあ・・・。」
伊織の言葉に困ったような顔をして千早は返事をした。
「でも、得意なレッスンで駄目出し食らうようじゃ、その道のりも遠そうよね。」
「えっ!?」
ジト目をして言う伊織の言葉に驚いて千早は眼を見開く。
「アイツにさっき電話で聞いたのよ。もしかしてアンタ私の事まだ気にしてるの?」
少し困ったように伊織の方が聞く。
「え・・・あ・・・その・・・。」
(冷静でいようとしてもそんな顔されたら・・・。)
後ろめたい気持ちの有る千早はどう答えて良いのか分からずしどろもどろになって何もいえなくなり俯いていた。
「私もね頭下げるの嫌いなんだけど、楽屋では本当に悪かったわ。謝るから許してよ・・・。」
頭を下げて言ったのは、伊織としての最大限の譲歩だった。
(くっ・・・。それはもう良いのだけれど・・・。)
正直頭を下げられて、千早は困っていた。
「許してくれるまで頭上げないんだから!」
伊織が頭を下げたまま強く言った。
「・・・・・・わかりました・・・。」
少しの沈黙の後、千早は絞り出すような声で言った。
「ほんとっ!ほんとねっ?」
伊織は下げていた頭を上げて千早に迫りながら聞いた。
「はっ、はい・・・。」
(とても駄目だなんて言えない・・・。言える雰囲気じゃない・・・。)
千早は引きつった苦笑いをしながら返事をして頷いた。ただ、真正面から伊織の目を見る事は出来なかった。
「そうと決まれば・・・。もしもし伊織だけど、例のものお願いね。15分以内よっ!」
そう一方的に携帯を掛けて切った。
「あ、あの・・・何を?」
流石に呆気に取られて千早は聞いた。

「まあ、最長でも15分以内には分かるわよ。」
伊織はそう言いながらにやりと笑った。千早の方は少し冷や汗をかいて気が気ではなかった。
「こ、これ・・・。」
あれから15分が経って、二人の前には豪華な食事が並べられていた。その様子を見て千早は思わず呟いていた。
「律子とかアイツに聞いてね。初オーディション合格したって。それプラス、今回の件の仲直りって事で用意してたのよ。」
(律子さんやプロデューサーの言う通り、言葉はきついけれど根は優しくて良い人なんだ。)
千早は伊織を見ながら二人の言葉を思い出していた。
「さあ、冷めちゃうの勿体無いからさっさと食べちゃいましょ。いただきま〜す。」
伊織はそう言うと、先に目の前にある料理を頬張った。
「では、頂きます。」
千早の方も、レッスンが終ってお腹が減っていたのもあり遠慮なく箸を伸ばした。

食べ終わってから少しして、レッスンの疲れと、満腹感で千早はウトウトしていた。
少しすると緊張感が途切れたのもあって寝息を立てていた。
「全く、しょうがないわね・・・。」
伊織はそう言いながらも寝室から毛布を持って来て、千早を起こさないように掛けた。
(流石に律子みたいにパワー無いから運ぶのは無理か。起きるまで待つか。)
千早の寝顔を何となく眺めながら色々な事を考えていた。
(最初は律子に親切にされてるのを見て、変に嫉妬して・・・。)
(自分の先輩としての立場を利用して・・・。)
(終いには自分に返って来た・・・。)
「ホント、自業自得よね。」
伊織は呟きながら苦笑いしていた。
(だけど・・・。いつ化粧覚えたのかしら・・・。)
伊織は少し気になって、千早の近くまで来て顔をジーッと見ていた。それと同時に匂いを嗅いだ。
「香水・・・。悪くないの選んでるわね。化粧水に乳液に・・・ファンデが少しってとこかしら。」
細かく見ながらぶつぶつと言っていた。
(相手に気を使う感じ・・・。好きな相手でも出来た?アイツかな?)
伊織は考えを巡らせながらソファに座って天井を見上げた。
「律子今頃、福岡で何してるのかしら・・・。」
遥遠くに居る律子に思いを馳せていた。

「マネージャー。福岡は美味しいもの沢山あって困るわね。」
「あんまり食べ過ぎると、後で泣きますよ。」
律子とマネージャーは福岡の夜に出ている屋台で笑い合いながら舌鼓を打っていた。
「本当に美味しくてどんどん入っちゃう。」
そう言いながら、律子の方は既にとんこつラーメンの替え玉を食べ終えようとしていた。
「そうですね。私も福岡は初めてで、雰囲気や味が気に入りました。」
マネージャーもにっこり笑いながら言う。
「今度来る時は伊織も絶対一緒にね。」
「ええ、三人でまた屋台に来ましょう。」
二人で言い終わった後、周りに居た客の一人が律子に気が付いた。
「あっ!あんた秋月律子じゃないか?」
「えっ!?」
その声に皆驚いて律子の方を見る。
「あっ、はい。そうですよ。」
律子の方は嫌な顔一つせずに笑顔で返事をした。
「サイン貰っても良いかな?」
「ええ、構いませんよ。」
「こっちも〜。」
次々と来るファンに律子はサインを書いたり握手したりして応えていた。
「あの・・・。水瀬さんの復帰はまだですかね?」
一人のファンがおずおずと小さな声で聞いた。
「そうですね、多分一週間以内には皆さんの前に元気な姿を見せられると思いますよ。」
「ほっ、本当ですかっ!?」
聞いた相手の方が驚いて目をぱちくりする。
「ええ、休んでいた分、もっとパワフルになって戻ってくるかも。んふふっ。」
律子は面白そうに笑いながら言った。

「っくしゅん。」
伊織の方は暇そうにソファで足をぶらぶらさせている途中でくしゃみが出た。
(あら・・・風邪かしら?私も毛布かぶってようかしら。)
そのまま、寝室に行って自分用の毛布を持って戻ってきた。そして、それにくるまって千早が起きるのを待った。
ただ、少しすると伊織の方がウトウトし始める。
(うわ・・・。不味いわ・・・。)
伊織は毛布をソファに置いてから軽く頬を叩いた。
「う゛〜・・・。」
眠気が取れないのに何とも言えないもどかしさを覚えながら唸った。その後、すぐに洗面所へ行って冷たい水で顔を洗った。
「ん〜・・・冷たっ。」
タオルで顔を拭いて、鏡を見直す。
「うんっ!一時的とは言え眠気はばっちり吹き飛んでいるわね。今の内に千早を送り返さないとアタシがヤバイわ。」
鏡の自分を見ながら頷いて言ってから、足早に部屋へ戻った。
「千早!千早っ!!」
伊織は揺さぶりながら千早を起こす。
「ん・・・う・・ん・・・。」
千早の方は眠りが深いのかなかなか起きない。
(どうしたもんかしらね・・・。)
伊織は腕を組んで寝息を立てている千早を見ながら考えていた。
「まずは、タクシーね。」
すぐに受話器を取ってタクシーを一台呼び寄せた。
その後で、再び洗面所に言ってタオルを冷たい水に濡らしてから絞った。そして、それを持って部屋へ戻った。
(これでどう?)
ムギュッ!
伊織は濡れタオルを顔に押し付けた。

「ひゃっ!?」
いきなり冷たい感触を顔面に感じた千早は驚いて飛び起きた。そして、反射的にタオルと一緒に伊織を払い除けていた。
「イタタタ・・・。」
「えっ!?あっ!?」
状況が全く分からず千早は混乱していた。
「とりあえず起きたわね。下にタクシー呼んであるからさっさと行くわよ。」
伊織は立ち上がって、千早を促した。
「は・・・はい?」
生返事だったが、千早は急いで伊織の後を追った。
マンションの玄関を出ると二人から、白い息が出ていた。すぐ前に一台タクシーが止まっていた。
「来てるわね。なんだかんだで疲れてるみたいだから、今日は帰ってゆっくり休んで明日から頑張んなさいよ。」
「はい、今日はありがとうございました。」
千早は頭を下げてお礼を言った。
「別に気にしなくて良いわよ。気を入れ替えて、アイツがなんも言えなくなる位の出来を見せ付けてやんなさい。
そして、さっさと私や律子の居る所まで駆け上がってアタシにご馳走しなさいよ。」
「うふふっ、はい、お約束します。」
千早はおかしくなって笑いながら答えた。
「何へらへらしてんのよ。ま、良いわ。これで足りるだろうから。じゃあね。」
伊織は一万円札を渡しながらそう言うと、すぐに背を向けて中へと入って行った。
(これが水瀬さんのスタイルなのね。)
千早は受け取った後、ちょっと止まって伊織を見送ってから、タクシーに向かって走って行った。
「ふぁ〜あ・・・。」
伊織は部屋に戻る間に大きく欠伸をしていた。
(やっぱり効果は一時的だったわね。さっさと戻ってシャワー浴びて寝よっと。)
足早に部屋に戻ってすぐにバスルームへと向かった。
(水瀬さん・・・全部言い切って・・・頭まで下げて・・・良い人なのに・・・私は・・・嫌な女だ・・・。)
千早はタクシーの窓から外を空ろな目で見ていた。

・・・一週間後・・・
伊織はすっかり回復して、二日前から現場に復帰していた。昨晩は久しぶりに律子との甘い夜を過ごしてご機嫌だった。
「今日もガンガン行くわよっ!にひひっ♪」
「伊織、そんなに飛ばして大丈夫か?」
プロデューサーの方が心配して伊織に声を掛けた。
「誰に向かって言ってんのよ。もう体調はばっちりよ。他の奴等なんて私と律子の前には無力なんだから。」
伊織は自信たっぷりに左手を腰に当ててプロデューサーを右手の人差し指で差しながら言い放った。
「プロデューサー。伊織、倒れる前よりもパワフルよ。心配しなくても大丈夫。むしろ、自分を心配した方が良いかも。」
「えっ!?」
律子が意味有り気に言うのを聞いて、プロデューサーは思わず二人の方を交互に見ていた。
「ふふっ。マネージャー。今回のオーディションの後半まで後何分?」
プロデューサーの驚いた顔がおかしくて律子は笑いながらマネージャーに聞いた。
「後30分切りました。」
マネージャーの方は時計を見て真剣な表情で答える。
「千早の方はどうなってんの?アンタここに居て良いの?」
「げっ!」
伊織の言葉に物凄い勢いでプロデューサーは走って行った。
「全く・・・あの人は。」
律子は呆れたように頭を押さえながら呟いた。
「あんなんじゃ、千早が可哀相じゃない。ったく、何考えてんだか。」
伊織の方も、腕を組みながら溜息混じりに言った。
「今回はこちらも、あちらも強敵が揃ってますからね。」
会場内を見渡してマネージャーは神妙な顔をして二人に言う。
「な〜に言ってんの。律子の実力は完璧に見て分かってるだろうし、アタシだって決める時はバシッと決めるわよ。
見てなさい、前半なんかよりもダントツで合格してやるんだから!」
少しポーズをとって自信満々に言い放つ。

「ふふっ、そうね。前半の接戦に見えるのが嘘ってくらい驚かせる事になるわよ。」
伊織の言葉をどう取って良いのか分からずに困った表情をしたマネージャーに、律子は肩を軽く叩きながら言った。
「はあ・・・。」
(確かに秋月さんが凄いのは分かってる・・・。でも、水瀬さんの本当の実力をまだ見た事が無い・・・。)
流石に心配なマネージャーは生返事しか出来なかった。

「プロデューサー・・・。何処に行っていたんですか?」
千早は冷静ながらも、少し怒気を含んだ感じで聞いた。
「はあ・・・。はあ・・・。スマン、律子と伊織のとこに行ってた。」
「お二人はどうでしたか?」
少し冷たい目で見ながら千早は聞く。
「問題無しだな。悪かった。」
そう言うと、プロデューサーはネクタイを締め直してキリッとした表情になる。
(スイッチが入った・・・。)
千早はこういうプロデューサーを何度も見ていた。
「後5分だ。行けるな?」
「はい、既に準備は万端です。」
さっきまでの情けない表情とは一転、真剣な表情になって聞くプロデューサーに千早の方も真面目な顔になって返事をした。
「良し、審査員が呼んでる。お前なら絶対に勝てる。行って来い。」
「はいっ!」
千早は返事をしてから小走りにステージの方へと走って行った。

「う・・わ・・・。」
マネージャーは伊織が加わった律子とのデュオを見て驚きの声を上げていた。
(水瀬さん凄い・・・。秋月さんだけでも凄いのに、
二人の息がぴったりで一人の時とは違う独特の雰囲気をかもし出している・・・。1+1=2なんかじゃない・・・。)
審査員の方の注目も凄いものだった。何人かは完全に二人に目を奪われていた。
(これが二人の本当の実力・・・。)
その内にマネージャーも二人の雰囲気に飲まれて声も出ずにずっと目が釘付けになっていた。
そんなマネージャーの少し後ろで、黙ってプロデューサーと審査の終った千早も二人を見ていた。
(やっぱり凄い・・・。水瀬さん生き生きしてるし、律子さんと息がぴったり・・・。律子さんのすぐ隣で・・・。)
千早はそう思いながら、手をギュッと握った。律子の隣にいて笑顔で輝いている伊織に少なからず嫉妬していた。
少しして、審査の方が終った。
「お二人とも凄いです。本当に凄かったです!」
マネージャーの方がタオルを二人に渡しながら興奮気味に言った。
「あったり前でしょ。アタシ達を誰だと思ってんのよ。にひひっ。」
伊織は得意満面の表情で言いながら笑った。
「ブランクがあったとはいえ、流石は伊織。隣に居て安心感があるから私も思いっきり出来たわ。」
律子の方は、そんな笑顔の伊織を見ながら微笑んで付け加えるようにマネージャーに言った。

「二人ともお疲れ様。」
プロデューサーの方が、両手で二つのペットボトルの水を差し出しながら言う。
「ありがとうございます、プロデューサー。」
律子はお礼を言ってから受け取って早速飲み始めた。
「あら、アンタの割には気が効くじゃない。」
そう言いながら伊織の方も受け取って早速飲み始める。
「こくっこくっ。ふぅ・・・で、そっちは大丈夫だったワケ?」
一通り飲んでから伊織の方が聞いた。
「私は全力を出し切りました。」
千早はキッパリと言った。
「まあ、大丈夫かな。」
そう言うと伊織はジト目で言ったプロデューサーを見る。
「何だよ、伊織。」
逆にジト目になってプロデューサーの方が聞く。
「それで落ちたら、アンタの力不足って事よね。」
「まあ、現場を見てないから何とも言えないけど、大丈夫って言ってるから、ね。」
律子は伊織をなだめる様に言う。
「こっちは、見ての通り文句無しよ。後はそっちだからね。千早自身としての手応えはどうなの?」
「最中は集中していて周りを見る余裕がありませんから。何とも言えません・・・。」
伊織に聞かれて少し申し訳無さそうに千早は答えた。
「そんな顔しなくても良いわよ。そこまで集中してたんなら問題ないでしょ。後は結果待ちね。
ルーキーズは最初の登竜門だもんね。」
千早に向かって言った後、律子に向き直って言う。
「そうね。私達の時よりも強敵が多いけど、今の千早の言葉なら大丈夫そうね。
プロデューサー、先に千早の結果発表なんでしょ?」
「ああ、じゃあ、行くか。」
プロデューサーの言葉に皆が一緒になって移動した。

ルーキーズの合格発表には最後まで残った千早以外の5組のユニットが控えていた。
それぞれが、千早ではなく律子と伊織を見ると驚いたり、緊張して挨拶したりと反応は様々だった。
「初々しいわねえ。」
伊織は軽く手を振って挨拶に答えながら言っていた。
「そうね。私達は他に誰が居てもこんなに緊張したりしていなかったけどね。」
「まあ、いずれ抜いてやるとしか思ってなかったし。」
律子の言葉に伊織は腕を組んで周りを見ながら言った。
(動きが自然・・・。)
千早は伊織の行動をチラッと見て、少し眉がピクッと動いたが冷静を装って視線を逸らした。
「先輩なんかで来ているのは居なさそうね。」
伊織は周りをキョロキョロしながら言う。
「それこそ、私達と同じなんじゃないのかしら?」
伊織の言葉に律子は答えながら一緒になって周りを見渡す。
「後輩どころじゃないってとこかしらね。」
「それに、スケジュールが合わないだけかもしれないしね。
私達だって他に仕事入っていれば、ここには来れてなかったでしょうし。」
腕を組んで顎に手を当てながら律子は呟くように言う。
「確かにそうよね・・・。アンタ狙って両方のオーディション受けさせたワケ?」
意外そうな顔をしながら伊織はプロデューサーを見た。
「さあな。それよりそろそろ発表だ。静かにしとけ。」
プロデューサーの言葉に皆が静かになる。
(水瀬さんの言う通り、本当にこの会場のマッチングを考えていたのかしら・・・。)
横のプロデューサーを千早は上目遣いで見ていた。
「さあ、若手の登竜門。ルーキーズの合格者発表だ。
今回は質の高いオーディションになった。合格は一組だけだ。さあ、行くぞ。」
審査委員長の言葉に皆が静かになって固唾を飲んで言葉を持った。
「合格者は・・・。」
一気に周りに緊張が走る。

「NO.6の如月千早だ!」
「あ・・・。」
発表されると、思わず千早は手で口を押さえた。
「おめでとう。」
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
プロデューサーとマネージャーの言葉に嬉しそうにお礼を言った。
「おめでと。流石は千早よね。この調子で駆け上がってきなさいよ。にひひっ。」
「おめでとう、千早。」
笑いながら言う伊織と、律子を見て、千早は黙って頭を下げた。
「さあ、ルーキーズの合格祝いしなくちゃね。」
伊織は周りに向かって言った。
「そう行きたい所だがなあ。伊織、お前はまだ仕事がある。」
「ええっ!?そんな話聞いてないわよ?」
プロデューサーの言葉に伊織は驚きながらも眉を潜めながら言う。
「復帰の祝い番組だよ。すまん、俺が言い忘れてた。」
申し訳無さそうに頭を掻きながら言う。
「ムッカ〜!アンタ何やってんのよ!で、何時からなの?」
「マネージャー分かる?」
怒っている伊織を抑えながら律子は聞いた。
「いえ、私の方も何も聞いていませんので・・・。」
申し訳無さそうに答える。
「律子は?」
「ううん、全然知らないんだけど・・・。いつ決まったんですか?」
律子は一旦伊織を見て言ってから、心配そうにプロデューサーに聞く。
「今朝。21時から横浜でなんだが・・・。」
「21時!?」
時計を見て、プロデューサー以外の皆が声を上げる。残り一時間を切っている。
「ア、アンタねえ・・・。」
流石の伊織も怒る途中で言葉が止まる。

「私すぐに手配しますので、水瀬さん用意して下さい。
それから、両方のテレビ出演の日取りが決まったら、
プロデューサーでも律子さんでも構わないので水瀬さんのスケジュールを私にメールで送って下さい。
お願いします。水瀬さん、すぐに行きましょう。」
焦りながらも、テキパキと周りに言う。
「分かったわ。それじゃあ、すぐに着替えるから車回しといて。」
「はいっ!」
伊織とマネージャーは素早く動き出し別れて走って行った。
「プロデューサー・・・。」
去って行った二人を見送った後、律子は腕を組んでジト目でプロデューサーを見ていた。
「いやあ、今日の二組のオーディションですっかり忘れてた。」
「全く・・・。」
溜息混じりに律子は呆れたように呟く。
「水瀬さん・・・。間に合うんでしょうか・・・。」
千早は心配そうに呟く。
「どうかしら・・・。まあ、マネージャーが何とかしてくれると思うけど・・・。
とりあえず、私達のテレビ出演の日取り決めてきて下さいね。それと、伊織のスケジュールの連絡もお願いします。
私は千早を連れて帰りますから。」
「おいおい、せめて手伝ってくれよ。」
素っ気無い律子に、プロデューサーは困ったように頼む。
「嫌です。さあ、千早帰りましょう。」
律子はきっぱりと断った後、千早の方を見て微笑みながら言う。
「あ・・・、でも・・・。」
千早は気不味そうにプロデューサーを見る。
「良いのよ。それでは、お疲れ様でした。」
律子は二人を無視して言い切ってから、千早の手を取って部屋から出て行く。
千早の方は、申し訳無さそうにプロデューサーに一礼してから去って行った。
「まあ、しょうがないか・・・。さて、仕事仕事っと。」
プロデューサーは諦めて、番組出演の打ち合わせに入る為に関係者の方へと移動して行った。

「あの・・・。良かったんですか?」
手を引かれながら後から着いて来ている千早は気不味そうに聞いた。
「良いのよ。あそこで甘い顔見せたら、プロデューサーの為にならないから。
今後の千早との事もあるからね。今までみたいに、私が付いていてあげられる訳じゃないから。」
少し苦笑いしながら律子は答えた。
「そう・・・ですね・・・。」
(プロデューサーとはいつも一緒に居れても、律子さんとは・・・。)
千早は小さく呟くと、力無く俯いた。
「合格したんだからそんな顔しないの。」
そう言って律子は歩くのを止めて、俯いた千早の頭を優しく抱き寄せる。
むにゅぅ
「あっ・・・。」
(柔らかくて・・・温かい・・・。)
千早は小さく声を上げて律子の胸の感触と暖かさを感じながら、律子に抱きついた。
「お祝いがてらに、今夜はゆっくりしましょう。」
律子はそう言いながら千早の頭を撫でる。
「はい。」
律子に言われて、千早は返事をしながら顔を上げる。
(この笑顔に吸い込まれてしまいそう・・・。)
千早は律子の微笑んだ顔を見て少しポワーっとしていた。
「疲れてるの?大丈夫?」
律子は心配そうに聞く。
「いえ、大丈夫です。」
そう言って、千早は甘えるように律子の胸に再び顔を埋める。
(いつもの無表情とのギャップ・・・。孤高の青い鳥は、寂しがり屋の優しさを受け、その孤独を捨てた。
でもね・・・今はまだ通過点なのよ千早・・・。)
律子の顔から笑顔が消え、そんな千早を見下ろしていた。

「はぁっ・・・はあっ・・・。何とか間に合ったわね。」
「そ・・・そうですね・・・。」
伊織とマネージャーは息を切らせながら何とかスタジオに滑り込みで間に合った。
「じゃあ、私は出演する準備すぐするから、どういう流れなのかだけ聞いてきてくれる?楽屋に居るから宜しくね。」
「はい、すぐ行きますので。」
「頼りにしてるわよ。」
それだけ言うと、お互いに分かれて離れて行った。
「おはよう伊織ちゃん。久しぶりだね。」
「どうも、久しぶりなんで頑張ります。にひひっ♪」
途中ですれ違う共演者に笑いながら挨拶してから急いで楽屋へと早歩きで移動して行った。
(全く、アイツは何やってんのよ!)
汗だくになった顔をウエットティッシュで拭いてから、自分でメイクを始める。
「マネージャー居てくれて本当に助かったわ。」
少し溜息混じりに伊織は言った。
「本番10分前なんでスタジオにお願いします。」
「はいはい、すぐ行くから。」
楽屋の外から聞こえるADの声に答えながら伊織は簡単だがメイクを終えていた。
ガチャッ
「失礼します。」
マネージャーが少し息を切らせながら入ってきた。
「お疲れ様。とりあえず、水でも飲んで頂戴。」
そう言って伊織は、コップに入れた水を渡す。
「ありがとうございます。」
マネージャーは一気に水を飲んだ後一回大きく深呼吸する。
「ふうっ、お待たせしました。今日の番組は21時から23時までの生です。
伊織さんは復活のゲストとして22時過ぎに歌う予定になっています。
歌は「Here we go!!」です。後はトークが主になります。」
いつもの手帳を見ながら説明する。
「オッケー。ありがとね。全く、アイツ絶対後で文句言ってやるんだから!」
「あ、はは・・・。それはそれとして、行けますか?」
ちょっと困った表情になりながらも、伊織に聞く。
「あったりまえよ。誰に向かって言ってるの?にひひっ。」
伊織はマネージャーに笑いかけた後、さっそうと楽屋を出てスタジオへと移動した。

番組が始まってから、今日の出演者の紹介がされ始める。そして、最後に伊織の紹介になる。
「さあ、今日最後の紹介は、久しぶりの水瀬伊織ちゃんだ!」
伊織が袖から現れると、一般の客から拍手と歓声が上がる。
そして、共演者からも拍手で出迎えられる。
伊織の方は、回りに頭を下げながらゆっくりとインタビューを受ける立ち位置まで移動する。
「久しぶりだね、伊織ちゃん。具合はもう良いのかい?」
ちょっと心配そうに司会者が聞く。
「お久しぶりです。皆さんも。もう完全復活よ。にひひっ♪」
伊織は一礼した後、満面の笑みで答える。
「さっきまでオーディションだったらしいけど大変だねえ。」
「いいえ、オーディションも楽勝だったし、律子とのデュオは無敵なんだから。」
ポーズを取って自慢げに言う。
「どうやら、本格的に復帰と見て間違いないね?」
「はいっ、ここに居る皆、テレビを見てくれているファンの皆、お待たせ。
水瀬伊織はここに完全復帰よ!今夜は私の歌声もトークもちゃーんと聞いてなさいよ。」
伊織はそう言って2カメに向かって指を刺しながらポーズをとる。
「伊織ちゃんには、後でばっちり歌って貰うから宜しくね。じゃあ、今日の一曲目は・・・。」
番組の進行は問題無く進み、22時過ぎに伊織の番がやってきた。
「さあ、皆さんお待たせ。本日の復活ゲスト、水瀬伊織ちゃんで曲は勿論「Here we go!!」」
♪〜
短いイントロが流れてくる。
(さあ、行くわよ〜!)
伊織は軽く目を瞑ってから、再び開けて歌い始めた。

わがまま言って(メッ)
(中略)
瞳で絶対見つめたいから GO!
うふふふっ

見事に歌い終わって拍手が起こった。
(流石は水瀬さん。)
マネージャーは嬉しそうに微笑んで伊織を見ていた。

そして、番組は23時少し前に終了した。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした〜。」
マネージャーと一緒に周りに挨拶を済ませてから、二人で楽屋に戻った。
「はあ、一時はどうなるかと思ったけど何とかなったわね。」
伊織は楽屋の畳の上にある座布団に座りながら言った。
「お疲れ様でした。お茶でもどうぞ。」
マネージャーは湯飲みにお茶を入れて伊織に勧める。
「ありがと。マネージャーもゆっくりして頂戴。」
そう言って、自分の向かいの席を勧める。
「それでは、お言葉に甘えて。」
マネージャーは座った後、自分のお茶を入れた。そして、二人でゆっくりとお茶を飲み始めた。
「本当、今回はマネージャーが居て助かったわ。律子の言う通り敏腕マネージャーよね。感謝してるわ。」
「いえ、そんな事無いですよ。」
マネージャーは褒められて少し照れながら謙遜して答える。
(しっかりしてるけど、変にすれてなくて素直なのよねえ。)
伊織はそんなマネージャーを見ながらお茶を飲んでいた。少しの間、二人は雑談しながらお茶菓子を食べていた。
二人とも夕飯を食べていなかったので思ったよりお腹が減っていて用意されていたお茶菓子はあっという間に無くなった。
「ふう、食べちゃった。ちなみに明日のスケジュールってどうなってるの?」
伊織はお腹が膨れて少し眠くなってきてウトウトしながら聞いた。
「え〜とですね、10時から律子さんとデュオでの番組収録があります。
その後は14時からレッスンです。終わった後20時からラジオ出演となっていますね。」
手帳を見ながらスラスラと答える。
「そっか〜、収録は東京なの?」
「はい。お台場ですね。」
「それじゃあ、向こうに戻ってから寝ようかな。悪いけど送って行ってくれる?」
「勿論構いませんよ。眠かったら車の中で寝ても構いませんから。」
マネージャーは微笑みながら答える。
「よしっ、そうと決まればさっさと行きましょ。ここで寝ちゃったら流石にヤバイもんね。」
「うふふ、そうですね。かしこまりました。」
伊織が立ち上がりながらそう言うと、マネージャーもそれに合わせて立ち上がる。
そして、二人で楽屋を後にして局から車で東京方面へと戻って行った。
「送ってくれてありがとうね。明日は律子を迎えに行って直接局に行っちゃって。私は近いからそのまま行くわ。」
「すいません。お気遣い頂いて。」
マネージャーは申し訳無さそうに言う。
「何言ってんの。今日だって頑張ってくれたじゃない。
アイツと違って良くやってくれてるんだからこんくらい私もしないとね。それじゃあ、お休み。また明日ね。」
伊織はにっこり微笑んで言う。
「はい、お休みなさい。それでは、失礼致します。」
一礼してマネージャーは去って行った。
「ホント、良く気が効くし大したもんだわ。」
伊織は感心したように去っていく車を見送って呟いていた。
「うーん、まだ終電とかはある時間かあ・・・。」
何となく思いを巡らせ少ししてから大きく頷いて、すぐに行動を開始した。
都心のマンションに着くまでには大して時間は掛からなかった。
「あ、ここで良いわ。お釣は良いから。」
そう言うと伊織は1万円札を渡してタクシーを降りた。
(にひひっ。まさか私が来るとは律子も思ってないでしょうね。)
悪戯っぽく笑ってから伊織はそっと勝手知ったるマンションの中へと入って行った。
合鍵でそっと玄関を開けて、靴を抜いてから足音を忍ばせて廊下を歩いていく。
「・・・あっ・・・んっ・・・。」
(声?)
伊織は少し止まって怪訝そうな顔をしていた。そこから、ソロソロとゆっくりと歩みを進め始める。
「・・・ふぁ・・・律子・・・さん・・・。」
(千早の声!?)
ドアが少し開いていてそこから声が漏れていた。
(どういう・・・。)
伊織はドアの隙間から部屋の中を覗く。
「!?」
伊織は危うく声が出そうになったが、必死に両手で口を押さえた。

部屋の中では律子と千早が裸で抱き合っていた。
(こ、これって・・・どういう・・・事?・・・。)
伊織は見開いた目を閉じる事無く、中で起こっている光景に目が釘漬けになっていた。
律子と千早は夢中になっているようで、伊織には全く気が付いていないようだった。
「律・・子・さ・・んぁっ・・・はあぁ・・・。」
「んっ・・・千・・・早・・・。」
まるで見ている伊織に見せ付けるかのように、二人は激しく絡み合っていた。
(律子と・・・千早が・・・何で・・・。)
信じられないという表情で、思わず一歩後ずさった。伊織は混乱して訳が分からなくなっていた。
(私・・・ここに居たら・・・。)
伊織はフラフラしながらも玄関に戻って靴を履こうとするが、上手く履けない。
(あれっ?・・・あれっ?)
焦れば焦る程、上手く靴が履けない。諦めて靴を持って靴下のまま外に出た。
「律子と・・・千早が・・・裸で・・・。」
ぶつぶつと言いながらうつろな目で、伊織は暫くマンションから靴を履く事さえ忘れて靴下のまま歩いていた。
その内、無意識にタクシーを止めて、最初に戻ったお台場近くのマンションまで戻った。
タクシーから降りてからもフラフラしながら寝室まで辿り着いてベッドに倒れ込む。一緒に持ったままの靴を放る。
「私は・・・一体・・・何を・・・見た・・・の?」
伊織は真っ暗な部屋の天井を見ながら誰に言うでもなく呟いた。その後、色々な考えがぐるぐると頭を回り続けていた。
(何で?)
(どうして?)
(どうなっているの?)
(律子と千早が・・・。)
知らない間に涙が出ていて頬を伝っていた。
そして、一睡も出来ずに朝が来ていた。

「あ、あの・・・。」
「・・・。」
伊織は放心状態のまま、駅や電車で声を掛けられても全く気が付かずフラフラと局へ向かっていた。

「遅いわね伊織・・・。とっくに来てても良いのに・・・。」
先に局について楽屋に入っていた律子は時計を見て難しい顔をしながら呟いた。
「そうですね・・・。私、来ていないか探しに行ってきます。」
「お願い。」
律子の返事を聞いてから、マネージャーは楽屋から出て行った。
「一体どうしたのかしら・・・。」
全く思い当たる節の無い律子は心配そうに言いながら両肘を突いて入口のドアを見ていた。

(水瀬さん疲れていたのかしら・・・。)
マネージャーは今日来ている関係者やスタッフに聞きながら伊織を探して局内を走り回っていた。
「すいません。」
「はい?」
マネージャーは声を掛けられたので振り返った。
「水瀬さんが正面玄関に来たそうです。」
「ありがとうございます。」
声を掛けてきた相手に一礼すると、マネージャーは勢い良く走り出した。

「水瀬さんっ!」
マネージャーはフラフラ歩いている伊織に声を掛けたが反応が無い。
周りに何人か人が居て声を掛けているがまるで居ないかのように相手にもしていない。
周りはマネージャーが来たのに気が付いてホッとした表情になった。
「後はお願いします。」
「わかりました。ありがとうございます。」
マネージャーはそう言って伊織を黙って促して歩き出した。
(どう見ても様子がおかしい・・・。)
楽屋に真っ直ぐ向かわずに、伊織を椅子に座らせてから飲み物を買って来ている途中でマネージャーは難しい顔をしていた。

(昨日の夜から今朝までの間で何かあったに違いない。そうでなければあんな酷い状況になる筈が無い・・・。
昨日分かれるまであんなに元気だったのだから。)
周りに誰か居る時は笑顔で応えていたが、誰も居ないと神妙な面持ちになっていた。
「水瀬さん。100%のオレンジジュースですよ。」
笑顔でそう言ってから伊織の手を取ってペットボトルを持たせようとするが、全く力が入っていなかった。
マネージャーは困った表情になって伊織の隣に座る。
「水瀬さん・・・。昨夜何かありましたね。」
小さな声で囁くように言うと、さっきまで無反応だった伊織がピクッと動く。
(やっぱり。)
当たって欲しくなかったが、予想通りだった。
「これから収録です。無理なら秋月さんだけにお任せ・・・」
「ダメっ!!!律子を一人になんて出来ないっ!私一人なんて嫌っ!」
伊織は「秋月さんだけ」という言葉を聞いて興奮状態でマネージャーに掴みかかりながら言う。
マネージャーの方は驚いて伊織の方を見る。
「水瀬さん。昨日寝ていませんね・・・。収録まで1時間位あります。30分眠って、
残り30分で用意して秋月さんと一緒に行きましょう。」
マネージャーは掴みかかられていたが、優しい口調で伊織に言いながら頭を撫でた。
「そうするわ・・・。」
伊織はハッとしてマネージャーから手を離してボソッと言うと隣に座り直す。
「大丈夫ですよ。秋月さんはもう来ていますし、水瀬さんは一人じゃなく一緒ですよ。」
「うん・・・。ごめんね・・・。」
微笑みながら言うマネージャーを見て、気不味そうに伊織は謝った。
「構いませんよ。どうしましょうか。ここで眠ります?それとも楽屋まで行きますか?」
「ここで良いわ・・・。限界・・・だ・・・か・・・。」
伊織は言い切る前に、マネージャーの膝の上に倒れ込んで寝息を立てていた。
(とりあえず落ち着いたみたい。良かった。)
マネージャーはホッとして伊織の寝顔を見ながら、優しく頭を撫で始めた。

「あの、すいません。」
その後で近くを通りかかったスタッフを伊織が起きないように小さな声で呼び止める。
「何っスか?」
呼ばれた若い男性スタッフは気が付いて、小さな声で聞いてくる。
「お忙しい所すいません。悪いんですけれど秋月律子の楽屋へ行って、
本人にマネージャーと水瀬伊織がここに居るって伝えて頂けませんか?」
ぼそぼそと相手に耳打ちする。
「良いっスよ。来るように行った方が良いっスか?」
相手の方は気を効かせて聞き返してくる。
「いえいえ、後は本人の判断にお任せしますと、加えて伝えて下さい。私動けないもので、すいませんが宜しくお願いします。」
「構わないっスよ。ついでにサインとか貰っても良いっスかね?」
「良いですよ。」
マネージャーは少し笑いながら答えた。
「じゃあ、すぐ行って来るっス。」
そう言うが早いか、男性スタッフは走ってその場を去って行った。
(これで良し・・・と。)
マネージャーは目を瞑って深呼吸してから、再び目を開けて伊織の寝顔を見ていた。

コンコン
「どちら様ですか?」
「スタッフ何スけど。」
(スタッフ?)
律子は怪訝そうな顔になる。
「マネージャーさんからの伝言を紙で預かって来たっス。」
「分かったわ。」
律子は慌てて席を立って、すぐに入口のドアまで駆け寄った。ドアを開けると自分と同じ位の年齢の男性スタッフが立っていた。
「これっス。」
そう言うと、半分に折ったメモ用紙を律子に差し出す。律子は受け取って、すぐにその場で広げた。
{マネージャーさんとみなせいおりさんが一緒に3Fの自動販売機の近くのベンチに居ます。
行くかどうかは律子さんにお任せします。}
(この人が書いたのかな?)
何とも言えない顔で、律子は男性スタッフを見る。
「準備している時に、伊織ちゃ・・・いや、水瀬さんが来てないって騒ぎになってたんで、
変に言葉にしない方が良いかなと思って書いたっス。」
気不味そうに男性スタッフは律子を見ながら言う。
「そういう事ね。ありがとう。ついでに道案内頼んでも良いかしら?」
「構わないっスけど、俺と一緒で良いんスか?」
律子の言葉に男性スタッフは驚いて聞き返す。
「良いわよ。お願い。」
「じゃあ、こっちっス。」
男性スタッフは緊張しながら律子を促して歩き始めた。

暫くすると、マネージャーと膝枕されて眠っている伊織が見えてきた。
「ありがとう。」
「いや、構わないっスよ。それで、サインとか後で良いんで貰っても良いっスかね?」
「良いわよ。」
「俺、デビューしてからずっと二人のファンで、伊織ちゃ・・・水瀬さんが体調不良で出られない時本人も、
律子さ・・・いや、秋月さんも元気なかったんで心配してたんスよ。でも、最近また二人で元気な姿が見れて安心してたっス。」
言葉を選びながら男性スタッフはとつとつと言った。
「ありがとう。後で、私と伊織のそれぞれと二人で書いた三枚のサイン送らせて貰うわ。」
「ありがとうっス。それじゃあ、俺仕事戻るっス。」
男性スタッフは律子の言葉に小躍りしながら走って去って行った。
「ぷっ。」
律子はその様子がおかしくて思わず吹き出した。その後、改めて伊織とマネージャーの方に向き直ってゆっくりと近付いて行った。
「あ、秋月さ・・・。」
マネージャーが気が付いて声を掛けている途中で律子は唇に人差し指を当てて言葉を遮った。
その後で、一回頷いてからマネージャーの隣に座った。
そして、無言のままマネージャーに膝枕されて気持ち良さそうに眠っている伊織の頭をそっと撫でた。

30分が経って、マネージャーは先に律子の肩を叩いて自分の腕時計を見せた。
律子は時計を見ると、収録30分前になろうとしていた。
「水瀬さん。30分前ですよ。」
「マネージャー、起こさなくても私一人で・・・。」
律子がそう言うとマネージャーが首を横に振る。
「水瀬さんは秋月さんと収録に臨みたいとおっしゃっていましたから。」
「そう・・・。」
(このまま、寝かせておいてあげたい・・・。)
律子は複雑な表情で伊織を見ていた。
「ん・・・うん?」
伊織は眠そうに目を開けた。マネージャーの顔と一緒に律子の顔も視界に入った。
「伊織、大丈夫?」
律子は心配そうに伊織に聞く。
「うんっ、ちょっと眠いけど大丈夫よ!」
伊織はそう言って、その場でガッツポーズを取る。
(良かった、とりあえず大丈夫そうね。)
マネージャーはホッとして二人を見た。
「よっ・・・と。」
伊織は自分で勢いをつけて起き上がった。
「マネージャー、楽屋に案内して頂戴。」
「はい。では、お二人とも参りましょう。」
そう言うと、マネージャーは立ち上がって先に歩き出す。
そして、伊織は律子の手をギュッと握りながら後を追って歩き始めた。

収録開始ギリギリでスタジオに入って周りを心配させたが、そんな心配を吹き飛ばすくらい二人の出来は良かった。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした〜。」
律子と伊織は周りに挨拶してから楽屋へ戻った。
「・・・と言う訳なの。だから書いて貰って良い?」
伊織が寝ていた間の出来事を律子は話して、伊織に色紙を渡していた。
「あら、今時殊勝な奴じゃない。名前が分かるなら、誰々へってサービスしてあげるけど。マネージャー知ってる?」
伊織はマネージャーに聞いた。
「はい、お二人が収録中に聞いておきましたよ。サボリだって大目玉食らったみたいだったんでそこもフォローしておきました。」
「流石マネージャー。」
「ホント、流石よね。」
二人は感心したように言った。
「いえいえ、そんな事無いですよ。」
相変わらず、褒められると照れ臭そうに言う。
「それでですね、彼の名前ですが・・・。」
それを聞きながら、二人はすぐに三枚のサインを書き上げた。
「伊織ちゃん特製のサインなんてまず無いし、こんな三枚セットなんて今までも無いから家宝物よね。にひひっ♪」
伊織は出来上がった三枚の色紙を見ながら得意気に言う。
「確かに、こういう三枚セットのサインは初めてね。」
律子の方は伊織の言葉に記憶を辿りながら呟いた。
「では、私がお届けしてきますね。戻ってきたら次のレッスン場に行けるように用意しておいて下さい。」
「はいはい。」
「彼に宜しく伝えてね、マネージャー。」
二人の言葉に一礼して答えてから、マネージャーは楽屋から出て行った。
「伊織、大丈夫?」
「うん、まだ眠いけど移動途中で寝れば問題無いと思う。」
「そっか。」
伊織の言葉にホッとした表情になって律子は微笑んだ。
「マネージャーが戻ってくる前に準備しちゃいましょ。」
「そうね。」
そう言って二人はすぐ出れるように準備をし始めた。

伊織はレッスン場へ移動中、出来るだけ眠っていた。
「伊織、朝ネボスケだったなんて思えない出来だぞ。」
いつもと変わらない出来に、レッスン中プロデューサーが驚きの声を上げた。
「フンッ、アタシを誰だと思ってるの。それと、ネボスケとか言ってんじゃないわよ。失礼ね!」
伊織はプロデューサーを指差してそう言いながらも、満更でもない顔をしていた。
「言ったな伊織。じゃあ、手加減無しで行くからな。覚悟しろよ。」
プロデューサーは伊織の言葉を聞いて言葉を返した。
「変な力入れないで、ちゃんとレッスンして頂戴ね。」
「そうですよ。いつも通りでお願いしますね。」
「当たり前だろ。」
二人に突っ込まれてプロデューサーは苦い顔をして返した。

「今日のゲストは復活のデュオ、秋月律子ちゃんと水瀬伊織ちゃんでした。
お別れの曲は、今売り出し中の今夜のゲストの二人の後輩、如月千早ちゃんで「蒼い鳥」」
DJのタイトルコールに伊織はちょっと眉を動かしたが、誰もそれに気が付かなかった。
イントロが流れ始めて、三人はヘッドホンを取った。
「二人ともお疲れ様。」
「ありがとうございました。」
二人はDJの言葉に頭を下げた。
「いやあ、久しぶりに伊織ちゃんと話が出来て楽しかったよ。」
「そう言って貰えると嬉しいわ。にひひっ。」
伊織は機嫌良さそうに笑いながら答える。
「また、良かったら二人で遊びに来てね。」
「はい。」
「は〜い。」
二人は返事をした後、収録スタジオを後にした。

「今日はお疲れ様でした。」
マネージャーはそう言いながら二人に紙コップに入ったジュースを渡した。
「ありがとう。」
律子の方は紙コップを二つとも先に受け取りながら言う。そして、伊織に一つを渡す。
「ありがとう、律子。ふぁ。これで、後はゆっくり寝れるわね。」
伊織の方は受け取りながら出そうになる欠伸を噛み殺して言う。
「んふふ、お疲れ様。」
そんな伊織の様子を見て律子はジュースを少し飲みながら言った。
「え〜と・・・飲みながらで良いので聞いて下さい。明日は、バラバラのスケジュールになります。
私は水瀬さんに、プロデューサーが秋月さんに付きます。」
「え?千早は大丈夫なの?」
伊織は不思議に思って思わず聞いた。
「如月さんは明日お休みですね。」
マネージャーは手帳を少しめくって千早のスケジュールを確認しながら言った。
「ルーキーズ受かったばっかりで休んでて良いワケ?随分と余裕じゃない?」
少し皮肉交じりに伊織が言う。
「プロデューサーの話ですと、そのご褒美のお休みだそうですよ。」
マネージャーが手帳を閉じながらフォーローの言葉を入れる。
「なんだ、そういう事ね。ま〜たアイツサボル気かと思ったわ。」
「そうだったら、私がお灸据えとくわよ。」
伊織の言葉に律子は苦笑いしながら言う。
「ごめんね遮っちゃって。スケジュールの続きお願い。」
「はい。」
その伊織の言葉を聞いて、マネージャーは再度手帳を開く。
「水瀬さんは、午前中何もありません。13時から雑誌取材。14時からラジオのゲスト出演。
移動して17時からグルメ番組の収録で21時終了予定です。」
「ねえ、マネージャー。私グルメ番組とか出てて良いワケ?」
伊織は何とも言えない顔をしながら聞く。
「バラエティーではなく、大御所の方との共演なので顔を売るという事で
出ておいた方が良いだろうとのプロデューサーの判断です。」
「まあ、そういう事なら良いけど。バラエティーとかで安っぽくなりたくないわ。」
伊織の言葉にマネージャーは苦笑いしていた。

「その辺は考慮されてると思いますよ。変わって秋月さんの方です。
まず8時に今日向かうマンションの近くのレッスン場でダンスレッスン。午前中一杯だそうです。」
「来たわね〜。今日はちゃんと寝ておかないと不味そうね。」
律子は苦笑いしながら言う。
「移動して13時から写真集の撮影。予定では17時までです。
その後移動と食事を済ませて19時からボイスレッスン。22時に終了予定です。」
一気に言い切ってマネージャーは手帳を閉じた。
「私の方は明日ハードになりそう。」
「アイツ絶対サドっ気有るわよ。ホントにレッスンは鬼なんだから。」
伊織はきっぱりと言い切った。
「私もそう思う時ある。でも、そのお陰で今日の私達が居るからね。」
「それこそ、そうでなくちゃやってらんないわ。」
「んふふっ、確かに。」
伊織がムッとした表情をしながらいう言葉に律子は少し笑いながら相槌を打つ。
「お二人の合流は、明後日の夜になります。それまでは私とプロデューサーからスケジュールを聞いて行動して下さい。
明日についてご質問はありますか?」
「ありませ〜ん。」
「アイツと違って文句無しね。」
そう言ってから三人で少し笑い合った。

二人はマネージャーにマンションへ送って貰って帰って来ていた。
「今日はお疲れ様。」
「うん、ごめんね心配掛けちゃって。」
伊織は律子の言葉に謝った。
「良いのよ。まだ復帰して間もないし、疲れているんだろうからね。今日はゆっくり寝てね。」
律子は伊織を気遣って言う。
「律子も明日は大変だろうから早く寝てね。」
「そうしないと、明日持ちそうも無いから。」
今夜は大人しくシャワーを浴びた後、二人でベッドに潜り込んだ。
伊織の方は数分も経たない内に寝息を立て始めた。
(よっぽど疲れていたのね・・・。)
律子は微笑みながら暫く伊織の寝顔を見ていた。
「さてと、私も寝ないと。伊織、おやすみ・・・。」
チュッ
軽く伊織と唇を重ねてから、灯りを消して律子も眠りについた。

「ん・・・眩し・・・。」
伊織は差し込む朝日の眩しさに目を覚ました。
(律・・・子・・・。)
すぐ横を見たが、律子の姿は無かった。
視線のその先にある時計に焦点を合わせると、10時を回っていた。
「ふう、随分と寝ちゃったのね・・・。」
溜息をついた後、そう呟きながらベッドから身を起こした。辺りを見渡すとテーブルに目が行った。
移動してみると、書き置きとラップに包まれた食事が置いてあった。
「「伊織へ
ぐっすり眠っているようだったので起こすと悪いと思ったので先に出ます。
食事を用意しておいたので良かったら食べて出てね。
律子」」
(律子・・・。)
思わず書き置きを手にとって胸で抱き締めていた。
少ししてから、食事をレンジで温めてから食べた。
(どうせなら一緒に食べたかったな・・・。)
食べながらそう思ってると、不意に携帯が鳴った。
「んぐっ!?」
びっくりした伊織は思わず喉におかずを詰まらせた。味噌汁を一気に飲んで胸をドンドンと叩いて何とか飲み込んだ。
そして、慌てて携帯に出た。
「もしもし。」
「「おはようございます。」」
携帯越しに聞こえてきたのはマネージャーの声だった。
「おはよう。」
「「一応起きているかどうかと秋月さんから心配の電話を頂いたので、お電話入れさせて頂きました。」」
「わざわざ、ありがとうね。」
伊織はさっきの喉を詰まらせた時から少し涙目になっていたが、普通に答えた。
「「また、後で迎えに行きますので今日も宜しくお願いします。」」
「こちらこそ頼むわね。頼りにしてるんだから。」
「「ありがとうございます。それでは後程。失礼致します。」」
「はいはい、じゃ、後でね。」
それだけ言うと、携帯を切った。

「は〜。死ぬかと思ったわ。」
携帯をテーブルに置いてから椅子に寄りかかって天井を見上げながら言った。
(あ、食べないと。)
ふと我に返って、残った食事をしてから伊織は準備を始めた。

千早はオフだったが、自分からトレーニングをするべくジムに来ていた。
(休みとはいえ、少しでも自分を磨いて水瀬さんや律子さんの居る所まで・・・。)
その表情は真剣そのものだった。

「はあっ・・・はあっ・・・。」
汗だくになった律子はしゃがみ込んで肩から息をしていた。
「お疲れ様。」
上から声がして、律子は見上げた。そこには、スポーツドリンクを差し出しているプロデューサーが居た。
「はあっ、ありがとう・・・はあ、ございます。」
息を切らしながらもお礼を言って律子は受け取って、少し口に含む。その間にも髪を伝って汗が床に落ちていた。
「シャワーを浴びたら、移動して食事を取って写真撮影だ。」
「全く、イジメかと思いますよ。このしごき方は。」
律子は苦笑いしながら言う。
「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。これも律子の為だ。」
「分かってますよ。手貸してくれます?」
悪戯っぽく笑ってから、手を差し出す。プロデューサーは無言でその手を取って律子を立たせた。
「それじゃあ、シャワー浴びてきますからプロデューサー待っていて下さい。」
そう言うと元気良く律子は走って行った。
(全く、大したバイタリティーだ。)
プロデューサーは感心しながら見送っていた。

「良いですか、水瀬さん。くれぐれも失礼の無いようにお願いします。」
「芸能界でもかなり気難しいって事位は知ってるわ。まかしといて。ヘマはしないわ。」
都内にある飲食店の片隅でマネージャーと伊織は小さな声で真剣にやり取りしていた。
すっかり早くなった夕暮れが、店内を照らしていた。
グルメ番組の収録まではまだ30分以上あったが、最後に来る大御所の事を他の出演者やスタッフが先に揃って待っていた。
出演者は大御所以外に伊織を含めて二人。そちらもかなり緊張している様子だった。
流石の伊織も、他の二人同様緊張していた。
それから、少しして周囲がにわかにざわつき始めた。
(来た。)
(来ましたね。)
思わず、伊織とマネージャーは真剣な表情で顔を合わせて頷く。伊織は一回大きく深呼吸してマネージャーから離れて行った。
「水瀬伊織です。今日は宜しくお願いします。」
伊織はそう言って、大御所に頭を下げた。
「こちらこそ宜しく。律子君同様見させて貰ってるよ。随分と歌上手くなったね。それじゃあ、また後で。」
「ありがとうございます。」
軽く手を振って離れていく大御所にお礼を言って再度頭を下げた。
(笑えなかったわ・・・。アタシとした事が完全に雰囲気に飲まれてた・・・。)
伊織はその場で冷や汗をかいていた。
「水瀬さん、大丈夫ですか?」
マネージャーが心配そうに駆け寄って聞いた。
「大丈夫よ。褒められて嬉しかったけど、完全に雰囲気に飲まれたわ・・・。」
「そうですか。でも滅多に褒める方では無いですから、良かったですね。」
マネージャーは青い顔をしている伊織を気遣いながら言う。
「そうね。後は、私もまだまだひよっ子だって思い知らされたってカンジ。」
伊織の方は少し苦い顔をして言った。
「本番、頑張りましょう。」
「まっかせなさい。にひひっ♪」
マネージャーの真剣な表情と言葉に対して、伊織は笑いながら答えた。

しかし・・・
ガシャーーーン!!!
ビシャッ!
バシャー
「ふえっ!?」
伊織は目をぱちくりした。自分に何が起こったのかその瞬間分からなかった。
ツーっと頭やオデコ、頬を伝って冷たい液体が落ちていく。その液体が顎に溜まってぽたぽたとテーブルや衣装に落ちる。
店員が伊織の目の前で転んで、料理に付けるタレの入った皿を思いっきりぶちまけてしまっていた。
辺りにタレの良い香りが充満していた。店員は真っ青になって、周囲のスタッフの時間も少しの間止まっていた。
「な、な、な・・・。」
伊織は肩をプルプル震わせて俯く。その間にも、ぽたぽたとタレが垂れていた。
「何をやっとんじゃ、馬鹿者っ!」
伊織が頭を上げて怒鳴ろうとした瞬間、大御所が一喝した。その声の大きさに思わず伊織は両耳を抑えた。
タレは伊織だけでなく周りの出演者にもかなりかかっていた。
大御所には少しかかっていなかったのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
現場は騒然として、マネージャーも慌てて飛び出して伊織をその場から離れさせた。
「一体何考えてんのよっ!」
伊織は離れてから怒りを爆発させた。マネージャーは必死になってタオルで伊織を拭いていた。
「マネージャー、着替えあるわよね?」
「はい、でも、このタレの匂い早くしないと二、三日・・・いえ、もっと残りそうです。」
マネージャーは匂いを嗅ぎながら困った顔をして言う。
「ええっ!?ちょっとどうするのよ!明日以降だって仕事じゃない。」
「すぐ落とせば大丈夫だと思うんですけれど・・・。」
マネージャーは苦しそうにそこまで言って言いよどむ。
「じゃあ、すぐに落としてよ!って、あっ・・・。」
伊織は怒鳴ったが、気が付いて黙り込んだ。
(そっか、大御所居るから勝手に抜ける訳に行かないのね・・・。)
「すみません。すみません・・・。すみま・・・せん・・・。」
マネージャーは拭きながら申し訳無さそうに何度も謝る。最後の方は少し涙目になっていた。
(何も泣かなくても良いじゃない・・・。)
「良いわよ・・・。そんなに謝らなくても・・・。アタシが悪かったわよ・・・。」
伊織は気不味そうにそっぽを向きながら謝った。
「着替えすぐに持ってきます。」
涙をすぐに拭いて、マネージャーは走って行った。
(全く何て日なのっ!)
伊織は怒鳴るに怒鳴れず無言のまま濡れタオルで髪と頭を丹念に拭いていた。
マネージャーが服を持って来ると、場所を借りて伊織はすぐに着替えた。
ただ、マネージャーの言った通りで香水などをつけても匂いが全然取れなかった。
「しつこい匂いね・・・。これと二、三日以上付き合いながら仕事しなくちゃいけないワケ?」
伊織は分かってはいるのだがそう言わずには居れなかった。
「はい・・・。」
マネージャーは申し訳無さそうに答える。
「あ〜も〜分かったわよ。もう言わないから、そんな顔しないでよっ!」
伊織は根負けしてそう怒鳴る様に言った。
「すいませんが、タオルで拭いていて下さい。私はこれからどうするか打ち合わせに行ってきます。」
「はいはい。」
伊織は生返事で、タオルを取って再び髪を拭き始めた。マネージャーはそれを見て申し訳無さそうに離れて行った。
「もうっ!あんな顔されたら怒れないじゃない!」
バシッ!
伊織はマネージャーが居なくなったのを確認して、怒鳴りながら壁に向かって拭き終わったタオルを投げつけた。

「あのすいません・・・。」
マネージャーは恐る恐る大御所に声を掛けた。近くに居た大御所のマネージャーが口を開こうとした瞬間、それを遮った。
「誰で、何かな?」
「私は水瀬伊織のマネージャーです。」
そう言いながらマネージャーは名詞を差し出した。
「ふむ、周りは外せ。」
近くに居るマネージャーとスタッフに大御所は静かに言う。周りはその言葉に一礼して離れて行った。
(二人きり・・・。)
マネージャーに緊張が走った。
「それで?」
大御所は落ち着いた渋い声で聞く。
「恐れ多いお願いですが、水瀬伊織に時間を頂けませんでしょうか。」
「時間?」
大御所の方は真意が分からずに訝しげな表情をして聞き返した。
「先程、水瀬伊織が浴びたものですが、多分すぐに落とさないと一週間近く匂いが取れないと思います。
そのお時間を頂けませんでしょうか。お願いします。」
マネージャーはその場で土下座をして言った。
「それは、俺を含めて他の出演者もそうなのか?」
「いえ、付いた量が少ないので大丈夫だと思いますが、念の為早く洗った方が良いと思います。」
マネージャーは大御所の問いに頭を上げずに答える。
「しかし、何故それが分かる?」
「入っている材料を先程聞きまして、それと化粧品や肌で化学変化を起こしてしまうのです。」
「ふむ、そういう知識があるのだな・・・。」
そう言ってから暫く沈黙の時間が流れる。その間もマネージャーは頭を上げずに待っていた。

「分かった、今日の収録は中止させよう。改めて時間を取るように俺が番組側に交渉しよう。
俺のマネージャーからそっちの事務所に連絡入れさせるから、早く連れて行くと良い。伊織君は良いマネージャーを持ったな。」
(可愛い顔をして大した度胸もありおる。)
大御所はマネージャーを見下ろしながら、楽しそうに目を細めていた。
「ありがとうございます。」
マネージャーは顔を上げて大御所を見てから再度頭を下げた。
「失礼致します。」
そして、すぐに立ち上がってから再度一礼すると、すぐに走り出した。
「おい・・・。」
「はい。」
大御所の言葉にマネージャーが陰から現れる。
「聞いてたな。」
「はい。」
当たり前のように大御所は言い、マネージャーは静かに返事をする。
「すぐに番組の責任者を呼べ。その足で他の出演者にもこの事を伝えて帰らせろ。」
「かしこまりました。」
一礼するとマネージャーは離れて行った。
「とんだ事になったが、良いものを見たからそれで帳消しにするか。」
大御所は少し笑いながらそう呟いた後、慌てて来る番組責任者を見ると表情が変わり鋭く睨んだ。

「ちょっとマネージャー、良いの?収録は?」
伊織は不思議がりながら、運転しているマネージャーに聞いた。
「中止になりましたので一刻も早く洗い流しましょう。」
「う・・ん・・・。」
(本当かしら?でも洗えるなら良いかな。)
伊織は引っかかる感じだったが、洗える事は正直嬉しかった。
二人はすぐ近くにある銭湯へとやってきた。只の銭湯ではなく、世間ではスーパー銭湯と呼ばれている場所だった。
「私が頭を洗いますから、水瀬さんは顔や体を洗って下さい。」
「わ、分かったわ。」
手際良く脱いで行くマネージャーの体を伊織は生返事で思わず見つめていた。
(律子よりスタイル良いわね・・・。)
「あの?水瀬さん?」
マネージャーは脱いでいる途中で伊織の動きが止まっているのに気が付いて声を掛けた。
「あっ、すぐ脱ぐから。」
伊織も声を掛けられてすぐに脱ぎ始めた。
マネージャーは先に脱ぎ終わって、伊織が脱いでいくものを手早く受け取ってビニールに入れて口をしっかり縛ってから
別のロッカーにしまう。そして、裸になった二人は浴室へと入って行った。
すぐに分担して洗い始めた。伊織は先に顔を洗ってから目にシャンプーが入らないように目を瞑って体を丁寧に洗い始める。
マネージャーは、シャンプーで髪の毛を丁寧に洗い始める。なるべく垂れていかないように気を使って洗っていた。
暫くすると全身泡まみれになった伊織が出来上がった。そして、隣のと合わせて二つのシャワーで洗い流した。
くんくん・・・
その後、二人で再度匂いを嗅ぐとまだ匂いが付いている。
「嘘っ!?全然取れてないじゃないの!」
「とりあえず、後二回くらい洗ってから試しましょう。」
「そうね。お願い。」
二人は真剣な顔になって再び洗い始めた。
それから最終的に合計で5回泡まみれになってようやく匂いが取れた。二人は安心した後、ドッと疲れが来た。

「はあ、先入ってるわね。」
そう言い合うと伊織は浴槽の中へ浸かった。
「洗ったら行きます。」
マネージャーは伊織を見送りながら、その背中に向かって返事をした。
「ふう・・・。」
(とんだ一日だったわ・・・。)
伊織は溜息をついた後、体を伸ばして高い天井を見上げた。
(でも、何ですぐ帰れたのかしら?大御所が居ていきなり撮影中止だなんて普通ありえない。
それこそ、大御所が中止って言わない限り。でも、あの状況じゃ言うワケない・・・。)
伊織は天井が霞む湯気を見ながら、真剣な表情になって考えていた。
ちゃぷっ
(んっ、温かい・・・。)
マネージャーは体を洗い終って、手で温度をみた後に湯船に右足を入れた。
スーツ姿の時とは違い、一糸まとわぬ姿は同性の女性の視線さえ惹きつける程その全身は綺麗だった。
(水瀬さんは・・・と。)
マネージャーは周りを見て伊織の姿を探した。何人かが自分の姿を見ている事は分かったが慣れてるのもあり気にしなかった。
(あ、居た。)
マネージャーは伊織の姿を見つけて、浸かりながらゆっくりと伊織に近付いて行った。
「水瀬さん、大丈夫ですか?」
「ん?」
天井を見ていた伊織はマネージャーの声に気が付いてそちらを向く。
「まあね。昨日といい、今日といいありがとね。」
「いえいえ、マネージャーですから。当然ですよ。」
お礼を言われると照れながら、マネージャーは答える。
「ねえ、マネージャー聞きたい事があるんだけど。」
「はい?」
照れていたマネージャーは不思議そうな顔をして、伊織を見た。
「さっきの中止になったって嘘でしょ?」
伊織は上目遣いで聞いた。
「何でそう思うんですか?」
マネージャーは自然な感じで聞き返す。

「だって、大御所が居るのに即中止ってワケにもいかないでしょ。アタシの犠牲くらいなら続けられただろうし。
ねえマネージャー、本当の事教えて。」
「う〜ん。」
伊織の言葉にマネージャーは困った表情になる。
「マネージャーなんだから、答える義務あるでしょ?」
「そう言われると辛いですね。わかりました。実はですね・・・。」
マネージャーは包み隠さずにさっきの大御所とのやり取りを説明した。
「アンタ・・・度胸あるわね・・・。」
伊織は目をぱちくりして呆れ半分、感心半分で言う。
「私は水瀬伊織のマネージャーです。一番大事なのは水瀬さんですから。」
そうきっぱりと言ってマネージャーは微笑んだ。
「ホント、アンタって・・・。」
伊織は何とも言えない表情になる。
「だけど、アイツそれ知ったら生きた心地しないでしょうね。にひひっ。」
続けて言った後に表情が変わって悪戯っぽく笑う。
「言った私も、未だにドキドキしていますよ。」
苦笑いしながらマネージャーは本音を漏らした。
「でも、本当にありがと。感謝してるわ。」
伊織はマネージャーの肩に目を瞑って寄りかかりながら言った。マネージャーは無言のまま頬を掻いて照れ臭そうにしていた。

すっかり綺麗になってリラックスした二人は銭湯を後にしていた。
今日のスケジュールは終っていたので、伊織の提案を元にマネージャーが運転する車で少し都心をドライブしていた。
「すいません、携帯が鳴っているので車止めます。」
「はいはい。」
マネージャーは伊織の返事を聞いてからすぐにハザードを出して車を端に寄せて止めた。そして、振動し続ける携帯に出た。
「はい・・・はい・・・はい、かしこまりました。今隣に居ますのでその旨伝えます。お疲れ様です。」
「誰から?」
伊織は気になって聞いた。
「プロデューサーからです。先程の件が正式に延期になったと事務所へ連絡が入ったそうです。
スケジュールは決まり次第、先方の番組スタッフから入る事になったそうです。」
「あいつ何があったか知らないだろうけど寝耳に水だったでしょうね。にひひ。」
「ええ、かなり動揺していた感じでしたね。くすくす。」
二人は余りに予想通りなプロデューサーの反応におかしくなって笑い合った。
「さて、水瀬さん。今の電話は良いとして、夕食はどうしますか?」
「これ以上マネージャーに気を使って貰うの悪いからこっちはこっちで済ますわ。
マネージャーには明日に備えてゆっくりして欲しいかな。」
伊織の本心だった。
「そうおっしゃるのでしたら、送って行って私は事務所に戻りますね。」
「え?戻るの?」
「ええ、今日の報告しないといけませんしね。」
「さっきの話は、全部話さないわよね?」
伊織は心配そうに聞いた。
「いえ、社長とプロデューサーには全部お話します。そうで無いと後々何かあった時に困るでしょうから。」
「そっか・・・。」
伊織がそう言った時、マンションの前に到着した。
「大丈夫ですよ。水瀬さんは心配しないで明日に備えてゆっくり休んで下さい。」
「分かったわ。じゃあ、明日も宜しくね。」
「はい、それではまた明日迎えに来ますね。」
挨拶を交わして伊織が降りてからドアを閉めると、マネージャーは車を発進させて去っていった。

「さて、と・・・。」
伊織は時計を見ながら、部屋へと戻って行く。
そして、自分の携帯を見ながら部屋にある電話の番号をゆっくりと押して掛けた。

♪〜♪〜
千早は携帯が鳴ったのでポケットから取り出した。
(知らない番号・・・。)
「はい・・・。」
少し迷ってから名乗らずに出た。
「「伊織だけど。千早?」」
(何だ、水瀬さんか。)
「はい、如月です。」
千早はホッとしながら返事をした。
「「もう夕飯食べた?」」
「いえ、今アパートに戻っている最中で、戻ってから何か作ろうと思っていました。」
「「それだったら、一緒に食べない?」」
「あれ?そういえば水瀬さん、今グルメ番組の最中じゃないんですか?」
千早は昨日プロデューサーから二人のスケジュールを聞いていたので、不思議に思って聞き返した。
本当は律子の方だけ分かれば良かったのだが、片方だけ聞くのもおかしいので、伊織の分も聞いていた。
「「そうなのよ。その辺の話も聞いて欲しいのよ。律子は今夜会えそうに無いし・・・。」」
(そう・・・。今夜は会えない・・・。)
千早は伊織の言葉に歩いていた足を止めてちょっとピクッとしていた。
「分かりました。今どちらにいらっしゃるんですか?」
「「今日は千早のアパートからちょっと離れた所よ。地図送るから、タクシーに乗って来て頂戴。前と同じで良いわよね?」」
「はい、それじゃあ一旦着替えてから行きます。」
「「着いたらこの番号に掛けて頂戴。」」
「はい。では後程。」
(番組で何かあったのかしら?それとも急遽中止とか?)
千早は携帯を切って、思いを巡らせながら再度歩き始めた。

(千早待ってるわよ・・・。)
伊織の方は受話器を置いた後、口元が少しだけ歪んでいた。

千早はマンションい着いてタクシーを降りた後、前と同じく伊織の後を着いて行っていた。
「いらっしゃい。さ、上がって。」
伊織は先に玄関のドアを開けて入ってから、千早を促した。
「お邪魔します。」
「堅苦しいのは良いから。」
丁寧に一礼する千早の手を引いて伊織は奥へと進んで行った。
「わぁ・・・。」
部屋の中を見て千早は驚きの声を上げた。部屋には豪華な食事が既に用意してあり、更に立派な飾り付けまでされていた。
「ま、座って頂戴。」
伊織は当然といった表情で驚いている千早に席を勧める。
「あ、はい。」
ちょっと呆気に取られていた千早は我に返って慌てて席に座った。
「じゃあ、まずは乾杯しましょ。」
「はい。」
二人は既に入っているシャンパンのグラスを持つ。
「じゃ、千早のルーキーズ合格に。かんぱ〜い!」
「乾杯。ありがとうございます。」
チンッ
軽くグラスを合わせてからそれぞれ一口飲む。
「美味しい・・。」
千早は目をぱちくりして驚く。
「ついさっき入れたばっかりだからシャンパンの気は抜けて無いと思うけど。ゆっくり食べながら話でもしましょ。にひひっ。」
伊織はそう言ってから、慣れた手つきで並べられた食事に手をつける。
(どれから食べたら良いのかしら・・・。)
千早は綺麗に並べられた料理を見て悩んでいた。
「何やってんの?冷めちゃうと美味しくないのもあるから好きに食べなさいよ。料理は逃げないんだから。」
「はい。」
ちょっとぎこちなくだが、千早は近くにあるものから順々に取って口に運んだ。
(どれも、本当に美味しい・・・。)
一口食べては感心仕切りだった。
少しすると千早の方も大分慣れてきて、今日あった事をお互いに話しながらゆっくりと食事が進んだ。

「大変だったんですね。」
デザートのプリンを食べながら、千早が言った。
「ホント、散々だったわよ。でも、マネージャーのお陰で助かったわ。」
伊織の方もプリンを食べながら怒った後、マネージャーの事になると笑顔になる。
(水瀬さん、マネージャーと息が合うみたい。)
千早は嬉しそうに話す伊織を見ながらそう思っていた。
「ちなみに千早、明日早いの?」
「いえ、明日は夕方にレッスンが入っているだけです。」
「そうなの?」
伊織は驚いたように聞き返した。
「はい。明日はプロデューサーが律子さんに付きっ切りになるので、レッスンが一緒になる夕方だけなんです。」
「ふ〜ん・・・。」
(やっぱり、自然に「律子さん」って言ってる。特に「一緒に」って所で随分とご機嫌な感じね。)
伊織は冷静な目で千早を見ていた。
「あの、それが何か?」
自分を見る伊織を見て不思議そうに聞き返した。
「ルーキーズも受かったし、忙しくしてるのかと思ったの。そしたら意外な答えでね。アイツやる気あんのかしら。」
「時々私もそう思います・・・。」
呆れ気味に言う伊織に千早は少し苦笑いしながら言った。
「全く・・・。まあ良いわ。それよりもこれからが本題よ。」
「はい?」
改まる伊織に千早は不思議そうな顔をする。
「ねえ、千早。昨日の夜何処に居た?」
「えっ?」
千早はドキッとして、スプーンですくっていたプリンを皿に落としてしまった。
「聞こえなかったの?」
「い、いえ。昨日は真っ直ぐ帰ってアパートでゆっくりしていました。」
(本当の事なんてとても言えない。)
千早は焦りながらもスプーンを持ち直して、いつもの感じで冷静に答えた。
「へえ・・・。じゃあ、別の質問。いつから律子を「秋月さん」から「律子さん」って呼ぶようになったの?」
(冷静に嘘ついてくれるじゃないの・・・。)
伊織は言いながら内心で愚痴っていた。

「え・・と・・・。水瀬さんが意識を失っている間です。
律子さんは、先輩として良くしてくれるので、ご本人に了解を得て呼ばせて頂いています。」
少し思い出すように目を瞑りながら答えた。
「ナルホドね・・・。」
(上手く言い逃れるじゃない・・・。)
伊織は目を閉じている千早をジト目で見ていた。
「じゃあ、最後の質問ね。」
今度は伊織の方が目を閉じる。そして、千早の方が入れ替わるように瞑っていた目を開ける。
(何だろう・・・。今日の水瀬さんいつもと雰囲気が違う・・・。)
千早は違和感を覚えながら、伊織の質問を待った。
「私は昨日ギリギリ仕事に間に合いました。収録も無事23時頃終りました。さて、私はその後どうしたでしょう?」
「???」
千早は伊織の質問の意図がいまいち分からなかったので首を傾げた。
その間に、伊織は目を瞑りながらも器用にプリンを一口食べた。
「ちゃんと答えは言ってあげるから、千早が思いついた答えで良いわよ。」
伊織は冷静に言いながら、またプリンにスプーンを伸ばした。
(「どうした」だと範囲が広すぎて絞り込むのが難しい。近くのマンションに行って眠った。こんな答えで良いのかしら・・・。)
千早の方は真剣に考えていた。
(でも、それはありきたりだし・・・。マネージャーと食事をしたとか・・・。
番組共演者と遊びに行った・・・。違うかしら・・・。)
腕を組んで千早は幾つも出てくる選択肢の内、どれを選ぼうか迷っていた。
伊織の方は、目を瞑ったまま相変わらずプリンを口に運んでいた。
そして、千早からの答えを待っている間にプリンが無くなった。
「タイムアップよ。」
伊織が目を開けながら言う。
「では、ありきたりですが・・・マネージャーと食事に行った後、その近くのマンションへ行ってマネージャーと別れて眠った。」
千早は真剣な表情になって真面目に答えた。
「ブー。両方外れ。」
伊織はスプーンを置かずに言った。

「両方?どう外れなんでしょうか?」
(マネージャー以外と食事をしたとか、マネージャーと一緒に眠ったとか。そういう事かしら?)
千早は色々な選択肢を思い浮べながら聞いた。
(聞いてくるとは好都合ね。)
伊織は内心しめたと思っていた。
「では、正解。私は仕事が終った後、
今日の移動の事を考えてマネージャーに横浜からお台場の近くのマンションまで送って貰ったわ。
マネージャーとはそこで別れた。」
「はい。」
伊織の言葉に千早は真剣に聞き入っていた。
「そこで、寝ようかと思ったんだけど気が変ったの。」
伊織の方は淡々と続ける。千早は黙って頷きながら聞く。
「アンタのルーキーズのお祝い出来なかったから、今夜にでもお祝いしてあげる相談をしに行く為に、
律子が行くであろうマンションに向かったの・・・。」
「!?」
(ま・・・まさか・・・。)
千早の顔から血の気が引いて行くと同時に、持っていたスプーンと一緒に手が小刻みに震える。
「そこで、律子がその時アパートに居る筈のアンタと・・・。」
伊織はそこまで言うと言葉が途切れる。持っていたスプーンを千早に向けながら睨んで初めて怒りを露にした。
「み、水瀬さん・・・。」
千早はそれしか言えなかった。
「余りのショックで一睡も出来なかったわよ・・・。
この前の時、アタシが謝っても生返事っぽかったのは律子との事があったから、そうよね?」
伊織の気迫に、千早は硬直して何も答えられない。否定出来ずに黙っている事がその答えだった。
「それに、その化粧。律子から習ったわね・・・。」
「・・・。」
千早はやはり何も答えられなかった。否定も出来なかった。
カシャン
ピクッ
伊織がその場でスプーンを無造作に放り投げた。それが落ちた音がすると、千早の全身が大きく反応する。

「千早・・・アンタは・・・律子に・・・アタシの事で・・・怒りを・・・ぶつけられた。その後・・・手ほどきを・・・受けた。」
(アイドルとしての心得も、化粧も、ベッドの上でも・・・。)
そう言いながら、伊織はテーブルの向かいにいる千早を鋭く睨みながら近付いていく。
(こ・・・来ないで・・・。)
千早の方はその姿を目で追うが、口もきけず体が小刻みに震えるだけで全く動かない。首を横に振る事すら出来なかった。
律子の時とは違う、得も言われぬ恐怖だった。
「そして・・・アンタは・・・律子を・・・好きに・・・なった・・・。」
伊織の言葉は怒りが込められていたが、言い方に抑揚が無く一定で区切られていた。逆にそれが千早の恐怖を増徴していた。
「ご・め・・ん・・・な・・・・さ・・い。」
俯いて涙を流しながら震える小さな声で千早は謝った。
「何で謝るの。何を悪く思っているの?」
すぐ近くまで来た伊織はしゃがんで下から上目遣いをして聞いてくる。
「そ・・・それ・・・は・・・。」
「それは?」
伊織は間髪入れず聞く。
「上手く・・・言えません・・・。」
「・・・。」
伊織は無言のまま千早の瞳を見続けた。千早は顔は背けなかったが、目を合わす事が出来なかった。
「こんな時・・・律子だったら優しく・・・してくれたんでしょうね・・・。」
「はい・・・。はっ!」
千早は無意識に返事をしてしまい、慌てて両手で自分の口を塞いだ。
「相変わらず・・・いい度胸よね・・・。」
伊織は顔を強張らせて口元をひくつかせながら言った。
「アタシはね・・・アンタを可愛い後輩だって思ってた・・・。
だからいつもだったら絶対に下げない頭だって下げた。
わだかまりがあって活動に支障をきたして欲しくなかったから・・・。なのにアンタは・・・アンタは・・・。」
伊織は怒りだけでなく耐え切れず目から涙を流していた。千早の視界の端にフローリングの床に落ちた涙が映った。
(水瀬さん!?)
思わず逸らしていた視線で伊織の顔を見た。

「何にしたって許されない事だけど・・・平然とした顔で嘘ついて・・・。ずるいじゃないの!それがアンタのやり方なのっ!」
伊織は千早のブラウスの胸元を両手で握りながら言い寄る。千早は何も言えなかった。
ただ、気不味さで視線だけでなく顔を逸らさざるを得なかった。
「答えなさいよっ!千早っ!!!」
伊織は右手をブラウスから放して、千早の顎を持って自分の方へ無理矢理向かせる。
千早は嫌がるが、流石に首の力だけでは抗えなかった。
「嫌だったら突き飛ばせば良いでしょ!邪魔な私はまた病院送り、そうすれば大好きな律子と二人きりになれるでしょ!」
伊織は皮肉を込めて嫌がる千早に怒鳴る。
「そんな事・・・できません・・・。」
目を逸らしたままで、小さな声で千早は言った。
「あっそ。自分で好き勝手やっといて、律子を独り占めしたくないんだ?」
伊織は怒りに任せてとんでもない質問をする。
「出来たらそうしたいですけど・・・。律子さんに嫌われたくありません・・・。」
(今度そんな事したら・・・。どうなるか・・・。)
千早の本音だった。
「ふ〜ん・・・。」
伊織はその答えにキレる寸前になって顔全体がピクピクと動いていた。その後、一回目を閉じた.
「アタシはね、アンタとは違うわ・・・。」
「えっ!?」
変に冷静になった言葉を聞いて、驚いた千早は伊織を見た。
「アタシは律子を独り占めしてきたし、アンタなんかに渡さないわっ!律子に嫌われる?それでも良いわ。
そんなの時間が経てばどうにでもなる・・・。アタシはアンタを許さない。覚悟しなさいよ・・・。」
そう言って伊織は不敵に笑う。
「止めて下さ・・・あれ?」
千早は自分の顎を持っている伊織の手を引き剥がそうとして、伊織の右手首を握ったが力が入らない。
「水瀬さん、何を?」
驚いた千早は思わず聞いてしまう。
「アンタが力ある事くらい前の出来事で分かってるわ。
だからさっきの美味しいって言ってたシャンパンを飲んでいたグラスに薬を塗っておいたの。」
伊織は悪びれも無く、さも当たり前のように言った。

「酷い・・・。」
「はあ?酷い?アンタがそんな事いうワケ?笑っちゃうわね。
正直言えば話し合いで何とか片つけようと思っていたし、
後はお互い弱い睡眠性のあるものでも口に入れて寝ちゃえば良いと思ってたのよ・・・。だけど、もうそんな気は更々無いわ。」
伊織は再度怒りを露にしながら、吐き捨てるように言った。
「くっ・・・。」
「アタシは律子みたいに優しくないわよ。
律子から聞いてるか知らないけど、アタシはアンタよりずっと前から律子と絡んできてるからね。
勿論律子は好きだし・・・アンタは今さっき大嫌いになったわ。」
伊織は立ち上がって、千早の顎を持って自分の方を向かせたまま言い放つ。
「どうする気です。」
千早はその言葉に、睨みながら見上げる。
「自分が悪いのに、悪いのはアタシみたいな態度よね・・・。全くムカついちゃうわ。
まあ、逆らえないから良いけどね。にひひっ。」
伊織は皮肉を言ってから悪戯っぽく笑う。
「私は屈したりしませんっ!」
千早はその場で叫ぶ。
「勝手にすれば?その代わり・・・後で泣きが入っても許さないんだから。覚悟しなさいよ・・・ち・は・や。」
そう言って伊織は一旦両手を放してから、再度千早のブラウスの首のボタンに手を掛ける。
「な、何してるんですか!?」
千早は驚いて声を上げて止めさせようと両手で伊織の手を持つ。
伊織は何も答えず手を持たれているのも関係なく、慣れた手つきであっという間にボタンを外し終わる。
前面を開くと洒落た白いブラが見えた。
「あら、随分とお洒落なブラね。まあ、律子に買って貰ったんだろうけど。」
そう言われると、千早は思わずピクッとする。
「まあ、そんな事どうでも良いわね。」
伊織は興味無さそうに言いながら、ブラを無造作に引っ張る。暫くしてブチッという音と共にブラが外れた。
「あっ!」
千早は思わず声を出す。
「律子に買って貰ったブラ壊れちゃったわね。」
伊織は嫌味たっぷりに言う。
「水瀬さん・・・貴方って人は・・・。」
千早は表情が変わり、伊織を更に睨む。

「自業自得でしょ?態度はでかいのに、それに比べて貧相な胸・・・。」
伊織は馬鹿にしたように呆れた表情で言った。
「くっ・・・。」
「律子にどうされてたのかしらねえ・・・。」
そう言いながら、伊織は千早の胸に手を伸ばしていく。
「止めて下さい。」
千早はそう言って、伸びてくる手を止めようと両方の手首を掴む。
しかし、力が入らずにそのまま伊織の両手が千早の両方の乳首を摘む。
「千早、アタシこれでもね気持ち良くする術は心得ているのよ・・・。」
そう言いながらニッと伊織は笑う。
(どういう意味!?)
言葉の真意が分からずに思わず千早は伊織を見る。
クリクリクリッ
「んひゃっ!?」
伊織は親指、人差し指、中指の三本で千早のピンク色の乳首を転がす。
元々乳首が感じ易い千早は、背筋から首を通って一気に頭までその感覚が駆け抜けて声が出てしまう。
「へえ・・・。千早ここ弱いんだ。」
伊織はニヤニヤしなから、顔を千早に近づける。千早は赤くなって顔を逸らす。
「どうなの?」
クリクリッ、クリクリッ
そう言いながら伊織は更に三本の指で乳首を器用に転がす。
「んっ・・・くっ・・・んあっ・・・くぁ・・・。」
(水瀬さん・・・上手・・・こんな・・・。)
千早は何とか我慢しようとして声を殺すが、どうしても声が漏れてしまう。
「返事できないくらい良いんだ?」
伊織は相変わらずニヤニヤしながらも、継続的に乳首を攻め続ける。
クリッ、クリクリッ、キュッ
「あっ・・・んふっ・・・うぁ・・・ひあっ。」
最後に乳首を摘まれると、千早の伊織の両手首を掴んでいた両手から力が完全に抜けだらんとなった。
乳首自体もムクムクと起き上がってきていた。
「嫌な相手でも、体は正直よね。でも・・・。」
キューーー!!!
伊織はそこまで言ってから力一杯摘んだ乳首を引っ張った。

「ひゃあぁぁーーーー!!!」
ビクッビクッ
千早は叫びながら二回大きく痙攣してイッてしまった。
「へっ!?」
(痛がらない?それどころか今のでイッたの!?)
伊織は予想外の反応に驚いて思わず手を離していた。
「ア、アンタどういう感覚してんのよ・・・。」
信じられないといった表情で伊織は呆れたように呟いた。
(水瀬さん・・・凄い・・・。)
言われた方の千早は返事できず、呆けた表情になって目は宙を見ていた。
(何となく分かったわ。強く、痛くしても意味無いって事ね。通りでアイツの鬼しごきにも全く音を上げてないワケだわ。)
伊織は呆けてる千早を冷静に見て思っていた。
(だったら方法を変えようかしら。にひひっ。)
「千早・・・狂わせてあ・げ・る。」
そう言ってから、伊織はニヤリと笑った。
「狂わせる?」
伊織の言葉にハッとして我に返りながら千早が怪訝そうに聞いた。
「言葉じゃなくて、行動で教えてあげるわ。たっぷりね。」
キュッ、キューーー!!!
ゆっくりと言いながら、千早の両乳首を再度摘んで今度は捻り上げた。
「んひゃぅぁっ!」
イッたばかりで敏感になっている体全体に電気のような快感が走り、千早はその場で仰け反る。
「だ・・・駄目ぇ・・・。」
千早は何とか小さな声で言う。
「な〜に〜?」
クリクリ、コリコリ、クリッ
伊織は聞こえない振りをして、乳首を引っ張ったまま三本の指で転がすように弄る。
「ひゃうっ・・・ふぁあ・・・あんっ・・・。」
(こんな事・・・水瀬さん・・・感じすぎちゃう・・・。)
千早の否定も虚しく、余りの気持ち良さに喘いでしまっていた。

「ほらほら、どうしたの?」
(コイツ、こういう気があったのね。)
伊織は少し面白くなってきていた。
答えられないのを分かっていて、尚も続けて乳首を弄り続けた。
キュキュッ
引っ張るのを止めて、代わりに三本の爪を軽く立てて乳首の根元に食い込ませて先の方を指で包み込む。
「ひぁあっ。だっ、駄目ぇえええーーーー!!!」
千早は元々仰け反っていたが、更に仰け反って胸の方が頭よりも高い位置になって派手にイッた。
伊織はそれを見てそっと両手を離した。
千早の頭は椅子の後ろになっていて、目は壁を見ていた。
ゆっくりと浮きそうになっている体が戻っていき、頭が元の位置に戻っていくが、
椅子にもたれ掛かったまま天井を見上げて、荒い息をついていた。
「だらしない顔して・・・。」
伊織は上から千早の顔を見下ろした。千早の瞳は遠くを見ていて、伊織に焦点が合っていなかった。
唇の端からは、よだれが少し垂れていた。
「ねえ、千早?」
伊織が聞くと、千早の目の焦点が伊織に合う。
「は・・・い・・・。」
返事をするものの、目はトロンとしていた。
「律子とキスはしたの?」
「して・・・ません・・・。」
伊織の質問に、何故か悔しそうな表情になって千早は答えた。
「何で?」
(どうして悔しそうな顔になるのかワカンナイ。)
伊織は聞きながら不思議に思っていた。
「律子さんが・・・キスは・・・本当に好きな人に・・・取っておけって・・・許して・・・くれません・・・でした・・・。」
千早はそう言いながら、目に涙を浮かべ始めていた。
「そう・・・。本当に好きだから、したいのにね。」
「はい・・・って、あっ!」
(しまった!)
伊織の自然な言葉に思わず同意してしまった千早は顔を逸らす。

「言えば良いじゃない。好きだって。好きなんでしょ?」
伊織は怒るでもなく冷静に逸らした顔を両手で持って、自分の方を向かせながら言う。
「言いました。勿論好きです。でも・・・でも・・・一時的なものだろうからって・・・。
そう言って、律子さんは・・・してくれません・・・。」
千早は目線を逸らしたまま、再び悔しそうな顔をして答えた。その内に、溜まっていた涙が目から溢れ出した。
「何でそんな事聞くんですか・・・。」
逸らしていた視線を戻して、千早の方が聞く。
「そりゃあね、ムカつくけど・・・。二人が本気なのかとか気になるじゃない。」
(面と向かって聞き返すんじゃないわよ。)
そう言いながら、伊織の方が気不味くなって視線を逸らす。
「そうです・・・よね・・・。私だって気になります。水瀬さんは律子さんとキスしてるんですよね?」
「あったりまえでしょ!」
千早の質問に、伊織は千早を見返しながら力強く答える。
「何で私には・・・してくれないんだろう・・・。」
呟きながら千早は悔し涙を流し続けていた。
「まあ、それが分かれば良いわ。さて、千早。続きよ・・・。」
そう言うと、伊織は三度千早の乳首を三本の指で摘む。
「えっ?んくっ。」
既に二回イッた千早の乳首の感覚は、摘まれるだけで全身が痺れるようにまでなっていた。
「そんな涙の訳なんて忘れる位、よがり狂うと良いわ。」
伊織はニヤリと笑ってそう言った。
「だ、駄目です。水瀬・・・さんぁあっ。」
(駄目なんだけど・・・気持ち良くて・・・駄目・なん・・だけど・・・。)
千早は言葉を続けようとしたが、途中で乳首を弄られて脳天に突き抜ける快感に喘いでしまう。
伊織の言葉に恐怖を感じたが、心の何処かで期待をしていた。

10回までイッたのは覚えていたが、それ以降は頭の中が真っ白になって覚えていない。
伊織はわざと気を失わせずに、何度も何度も千早を乳首だけでイかせ続けた。
千早は目の焦点は合っておらず、だらしなく口を開けたまま、涎を垂らしていた。
腕は椅子にもたれかかって力なくだらんとしている。時々全身がピクッピクッと痙攣する。
伊織が散々弄った乳首は両方とも大分赤くなっていた。ジンジンとしている乳首にさえ、千早は快感をおぼえるようになっていた。
「あっ・・・やっ・・・りんりん・・・すりゅう・・・。」
恍惚とした表情になり呂律の回らない声で時々そう言っていた。
(落ちたわね。)
伊織は少し離れて千早の様子を見ていた。よく見ると、椅子に座っているスカートの下側がかなり濡れているのが分かる。
(洪水っていうのはまさにこういう事かしらね。)
見ながら、再び千早に近付いてしゃがみ込む。
そして、スカートをまくりながら、内桃のラインを指でツーっと股の内側に掛けてなぞって良く。
「ふあぁああ。」
千早はゾクゾクッとして思わず声が出る。伊織がスカートをまくり切ると、だらしなく開いた股の間から指に熱気を感じる。
(凄い状態ね・・・。)
「さあ、千早。もっと狂わせてあげるわよ。」
ちょっと唾を飲んだ後、伊織はそう言って指を正面から股とパンツの間に滑り込ませる。
ぐちゅぅ
凄まじい濡れ方だった。入っていく指があっという間に濡れる。
(トロトロというより、ドロドロね。)
伊織はその感覚を楽しむように、途中からはゆっくりと指を中に入れて行く。
「ああぁ・・・らめぇ・・・。」
指が入っていく感覚にさえ、背筋がソクソクして感じてしまう千早は鼻に掛かった声を上げる。

一番長い中指が最初にしっとりと濡れたヘアに当たり、直後にクリトリスに触れる。
「クリはらめぇぇえええーーーー!!!」
その瞬間に頭が真っ白になるくらいの感覚が突き抜けて、千早は叫びながらイッた。
「ふ〜ん。駄目なんだぁ。」
伊織は嬉しそうにそう言う。
「ら、らめぇ・・・おかひくなりゅぅ・・・みられひゃん・・・ゆるひれぇ・・・。」
(これ以上は本当に駄目ぇ。)
千早は残った力と意識でもぞもぞ動きながら言う。ただ、意識通りに体が動かない。
「大丈夫よ、その内に気持ち良くなって自分から求めるようになるから・・・。」
伊織は目を細めて静かに言う。
くりっ
そして、クリトリスを親指と人差し指で優しく摘んだ。
「ひゃぁぁあああああーーーー!!!」
全身に電気が走る感覚が駆け抜けて、その後に快感があちこちにつきぬける。
全身を大きく痙攣させ、叫びながら千早は今日一番派手にイッた。
その後、目の前が真っ白になり気を失って力なくぐったりとなった。
「ここまで来ると凄いわよね。」
伊織は手をパンツから引き抜いてぐっしょり濡れた手を見ながら、感心したように言った。
「今日はここまでにしてあげる。でも、次はこっちを集中砲火かしら。屈しない、んだもんね。」
伊織はニッと笑いながら言う。
そして、荒い息をしながら気を失っている千早を見て、濡れた右手の指を開くと、それぞれの指の間を繋ぐように蜜が糸を引いた。

「はあ・・・はあ・・・。後の事まで考えた方が良いわね。」
伊織は額に汗をかいて息を切らせながら、脱衣場で服を脱いでいた。
気絶した千早をどうにか動かそうとしたが、力不足でまともに運べなかった。
仕方なく、救助方法になっている、毛布で体を包む方法で引き摺って寝室まで運んだ。
その後、何とかベッドまで引き上げて布団に放り込んで来た。
(後は、起きた後どうするかよね・・・。)
伊織はシャワーを浴びながら真剣な表情になって考えていた。
(良く考えたら、律子って力持ちよね。私を軽々と運ぶし、きっと千早も軽々と・・・。)
体を洗いながら、自分にされた事を千早に置き換えて考えるとムカムカしてきていた。
「ほんの少しの間とはいえ、ムカつくわ!」
バシィッ
伊織はボディーソープのついたタオルを乱暴に壁に向かって叩き付けた。浴室にはその音が軽く反響していた。
少しして落ち着いた後丁寧に髪を洗ってから、湯船にゆっくり浸かった。
「今日はとんでもない事目白押しだったわ・・・。」
そう呟きながら目を瞑って今日の出来事を思い出していた。ただ、その内ウトウトし始める。
「・・・はっ?!」
(いけない・・・。早く上がって寝ないと不味いわ。)
伊織は首を横に振って湯船から上がる。タオルで体を簡単に拭いてから浴室を出た。
バスタオルで改めて綺麗に体を拭いた後、違うバスタオルで髪を拭きながら寝室へ移動した。
「途中からバタバタしてたし、いつもしない緊張なんてしたから、流石に疲れたわ・・・。」
伊織は呟きながらベッドに倒れ込んで、千早の隣に潜り込んでから髪を丁寧にバスタオルに巻いた。
そして、枕に頭を乗せて目を閉じると、あっという間に眠りの世界に入って行った。

「ん・・・。」
千早は差し込み始めた朝日に薄目を開いた。
「あ・れ・・ここ・・・は?」
目を擦りながらゆっくりと体を起こす。少しして自分が裸なのに気が付く。
(ええっ!?)
千早は驚いて掛け布団で自分の体を覆う。そうすると、伊織の方から自動的に掛け布団を引き剥がす形になった。
(水瀬さん?)
まだ、半分寝惚けている千早は状況が把握出来ていなかった。
(え・・と・・・私・・・昨日・・・。)
千早は少しボーっとして伊織の寝顔を見ながら思い出していた。
「!?」
思い出して思わずその場で硬直する。
(わ、私・・・水瀬さんに・・・乱れて・・・。)
思い出せば出す程、千早の顔がみるみる赤くなる。最初は何気なく見ていた伊織の顔が見ていられなくなって、顔を背ける。
「う・・・ん・・・。」
ビビクッ
伊織が寝返りを打ちながら起きそうになると千早は過敏に反応する。
(わ、私どうすれば・・・。)
いつもの冷静さを失い赤い顔をしながら動揺していた。
どうして良いか分からない千早は、とりあえず引き剥がしてしまった掛け布団をそっと伊織に掛けて、
自分も布団に潜り込んで横になった。
ただ、恥ずかしくて伊織の方を向く事が出来ないので壁とにらめっこ状態になっていた。
(私・・・あんなに・・・乳首だけだったのに・・・。)
ドキドキしながら何となく右手を自分の胸に伸ばす。
「んくっ。」
自分の人差し指が右の乳首に触れると、それぞれから電流のように感覚が体中に伝わっていく。
じゅん
(あ、やだ・・・。)
条件反射のように千早の蕾からは蜜が溢れ出す。
「な〜に、朝からさかってるのよ。」
「!!!」
後ろから伊織の声がして千早はその場で固まる。

「癖になっちゃったんでしょ。生真面目、冷静が嘘の様よね。」
「・・・。」
千早は真っ赤になって俯いた。髪の間から見えている耳まで真っ赤になっていた。
「まあ、まだまだ時間はあるし・・・。」
伊織はそういってから、背中を向けている千早の両腹から両手を入れる。
「えっ!?」
千早はお腹に触れる感触に驚いて声を上げる。
「手伝ってあげるわ。」
伊織は囁くように言う。
「て、手伝うって!?」
千早は固まったまま聞き返す。
「気持ち良くなりたいんでしょ?自分で乳首弄って頂戴。クリ攻めてあげるから。」
「そ、そ、そんな、結構です。」
千早はその場でワタワタしながら慌てて言う。
「それとも、アタシに全部して欲しいワケ?」
悪戯っぽく言ってから前に回した両手を千早の股へと伸ばしていく。
「そ、そんな事は・・・。」
(あっ、背中に息が・・・。)
千早は否定し切れなかった。やはり、心の何処かで悦楽に対する期待があるのかもしれない。
「ふ〜ん、否定しないんだ?じゃあ、半分にしましょ。」
「半分?」
伊織の言葉の意味が分からず、千早は不思議そうに聞き返す。
「んもう、変な所で鈍いわね。左側は私、右側は千早自身でってコト。
自分の方が良ければアタシの手をどければ良いし、アタシの方が良ければ求めれば良いわ。」
伊織の言葉は小悪魔の囁きだった。
「あ・・・。」
(何で私迷っているんだろう・・・。)
千早は即答出来ず、迷っている自分を不思議に思っていた。
「じゃあ、始めるわよ。」
伊織は千早の返答を待たずに左の胸に指先で触れると、千早はピクッと小さく反応する。
(さあ、昨日の続きよ。どうせ、律子に手ほどきを受けたとしても自分でなんてしてないだろうし、
律子にされるがままだとすればアタシの方が千早に合ってるに違いないわ。)
昨日の事で伊織は確信していた。

ふにぃ・・・ツー
そして、指を立てながら殆ど無い乳房を五本の指で包み込むようにして、それぞれの間を狭めながら乳首へと滑らせていく。
「ふっ・・・うんっ・・・あっ・・・。」
(何?この感覚!?)
千早は初めての感覚に思わず声が漏れる。
伊織の五本の左指が乳輪に掛かって、もう少しで乳首に触れそうになると、触れずに離れていく。
「な、何で・・・。」
その行動に千早は切なそうな声を上げる。
「切ないなら自分で弄ってれば良いでしょ。」
伊織はにんまりして意地悪な口調で言う。
「くっ・・・。」
千早は仕方なく、自分の右手を自分の胸に持っていく。右の乳首を軽く持つが、どうしてもさっきの様な感覚にならない。
昨日の伊織の事を思い出して、親指、人差し指、中指の三本で摘んでみる。
くりっ
「んっ・・・。」
(少し・・気持ち・・・良いか・・・・も。)
目を瞑って、昨日の伊織からされたイメージを思い浮べながら、ぎこちなく指を動かし続ける。
くりくり・・・くりくり・・・
「あっ・・・ふぁ・・・くふぅ・・・。」
(きも・・・ち・・・良い・・・。)
自分の乳首が硬くなっていくのが感じられる。それと同時に、体全体が熱くなってきて蕾から蜜が溢れ出すのが何となく分かる。
伊織の方はその声を聞きながら、焦らして胸を弄っていたのを止めて人差し指で乳首をピンッと弾いた。
「ひんっ。」
千早は短く声を上げて弄っていた手が離れてビクンと仰け反る。
「随分と盛り上がってるじゃない。上は任せるわ。覚えちゃえば一人で出来るわよね。」
「水瀬・・さ・・・ん・・・。」
千早は弱々しい声で名を呼んだが、全く聞かずに伊織は両手の人差し指を下半身に掛けてツーっと走らせた。
千早はその間何も出来ずに、ゾクゾクしながらもピクッピクッと小刻みに動いていた。

ちゅくっ
伊織はあえてクリトリスを通過させて先に濡れている蕾に触れた。
「あふぅ・・・な、何で。」
千早は首を上げて伊織を切なそうに見ながら聞いた。
「何モノ欲しそうな顔してるのよ。だらしない顔しちゃって。アンタは自分の乳首弄ってなさいよ。」
「はい・・・。」
千早は素直に返事をして、伊織を見るのを止めて自分の両手で乳首を摘む。
「んっ・・・。」
ちゅくっ、ちゅぷっ、ぐちゅっ
「ひっ・・・あっ・・・ああっ・・・くぅん・・・。」
(頭が・・・真っ白に・・・なり・・・そ・・う・・・・。)
千早の声が上がるのと同時に、伊織は千早の蕾を丁寧に弄り始める。すっかり濡れた蕾からは卑猥な音がしていた。
くりくりっ、くにゅっ
「んっ・・・はぁ・・・あぁん・・・。」
千早は無意識に自分の乳首をこねくり回して更なる快楽を得ようとしていた。
「こんなに濡れちゃって、って聞こえて無さそうね。」
伊織は冷めた目で千早の背中を見ながら言った。
(じゃあ、最初の仕上げに行こうかしら。)
ぐちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゃぁ
両手の中指、薬指、小指で濡れて熱くなった蕾を丁寧に弄る。
「んくっ・・・んあっ・・・あぁぁ・・・凄い・・・。」
千早は蕾から腰に上がって来る感覚に喘いで、弄っている両手から力が抜け無意識に右手の人差し指の第二間接を噛んでいた。
(普通なら痛いだろうけど、コイツだったら・・・。)
くりっ
更に伊織は空いている左手の親指と人差し指でクリトリスを剥いて、右手の親指と人差し指で強めに摘んだ。
「ひゃぅぅうぁああああーーーーーー!!!」
その瞬間千早の腰から背中、脳天に一気に快感の波が駆け抜け、大きく仰け反って叫んだ後派手にイッた。
その直後、ビクッビクッビクッと大きく三回痙攣した後ぐったりとなっていた。

「・・・す・・・ご・・い・・・。」
(やっぱり思った通りね。)
「今日はこんなもんじゃないわよ。」
伊織はニッと笑いながら言う。
「ふぁ?」
とろんとしている千早は伊織の言葉の意味が分からずに、イッた余韻に浸っていた。
くりっ
「あひゃぅっ。」
伊織は再び千早のクリトリスを軽く摘む。
「水瀬さん・・・摘まないで・・・今イッたばかりで・・・敏感になっ・・・。」
くりりっ
千早の言葉を遮るように、伊織は無言のまま更にクリトリスを弄ぶ。
「・・・てるぅんはぁっ。」
再び脳天まで突き抜ける感覚に千早の言葉も動きも止まる。思わずつま先がピンッとなって、体が小刻みに震える。
「まだまだ、時間はたっぷりあるわ・・・じっくり激しく責めてあ・げ・る。」
伊織は仰け反った千早の耳元で、囁いた。
「そ、そんな、水瀬・・・・ひゃんっ。」
千早が話している途中で、伊織はクリトリスを放してその周りを指で摩る。
「返事は?」
ぐにゅぅ
伊織はそう言いながら、クリトリスの周りにある皮ごと強めに摘んで捻りを加える。
「はっ・・・んぁあ・・・いんぅっ・・・。」
「良い返事だわ。ご褒美にもっと、良くしてあげる。」
(私・・・どうなっちゃうんだろう・・・。)
そう思いながらも、千早は伊織の言葉に背筋がゾクゾクしていた。

「は・・・ひぃ・・・りんりんぅ・・・くりぃ・・・。」
午前中ずっと伊織にクリトリスを攻められ続けていた千早は半分白目を剥いてピクピクしながら呟くように身近に単語を発していた。
だらしなく開けっ放しの口からはよだれが出ていて、
蕾付近のシーツに蜜の染みが広がっていて太腿の内側や、菊門、お尻まで濡れていた。
「トドメさしてあげるわ。」
くりくりっ
伊織はそう言うと、すっかり赤くなって腫れ上がったクリトリスを右手の人差し指、中指、薬指で優しく摘む。
「んぁ・・・あぁ・・・。」
全身の感覚が敏感を通り越して、半分意識を失いかけていた千早の反応は鈍かった。
「全く、良く気が狂わずにここまで意識失わないわよね。でも、それもここまでよ。」
伊織は静かに言うと、左手で洪水状態の蕾を弄る。
ぐちゅっ、ぐちゃっ、ぬちゅっ
「あっ・・・うぁ・・・んっ・・・。」
千早の鈍かった反応が少しずつ良くなってくる。弄る度に千早は悶えて無意識に体をくねらせる。
伊織はその様子を見て、左手の人差し指を千早の蕾に沈めていく。
にゅぷぅっ
「ひあっ!?」
流石に異物感を感じた千早は、我に返る。
キューーー
その瞬間、伊織は三本の指で一気に千早のクリトリスを捻り上げた。
「あがぁああぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!」
千早は悲鳴に近い叫び声を上げる。痛みを通り越した快感が全身を駆け抜け、脳天に直撃する。
ビビックンッ
プッシャーーー
千早は目を見開いて不定期な痙攣をして、更に潮を吹いて激しくイッた。
「あ゛・・・う゛・・・ぁ・・・。」
快感は全身に染み渡り消え去る事無く、頭の中だけでなく全身を支配した。
まともに声も出せず千早はその感覚に支配されたまま30秒後意識を失った。
「さて、起きた後どうなるか、どうするか見物ね。にひひっ。」
伊織は悪魔のような笑みを浮かべて千早を見下ろしながら呟いた。

「おかしいな・・・。」
プロデューサーは夕日の差し込むレッスン場の端で、もう何度目かになる呼び出音鳴りっ放しの千早の携帯に首を傾げていた。
「プロデューサー、どうしたんですか?」
レッスンに一区切りついた律子が聞いた。
「いや、千早なんだが全然連絡取れなくてな。
ここでのレッスン入っていたんだが来ないし、連絡入れても呼び出しっぱなしで応答が無いんだ。」
困った表情でプロデューサーは答える。
「放っておくから愛想着かされたんじゃないんですか?」
律子は眼鏡越しに目を細めて冗談交じりに言った。
「おいおい、洒落にならんぞ。仕方ない、また夜にでも連絡入れてみるか。」
プロデューサーは諦めて携帯をしまう。
「冗談は置いておいて、流石に心配ですね。後で、私からも掛けてみますね。」
そう言いながら律子も心配そうな顔になる。
「ああ、頼む。それじゃあ、レッスンの続き行くぞ。」
「はいっ、宜しくお願いします。」
二人は、表情が真剣になってレッスン場の中央へと移動した。

伊織とマネージャーの方はTV番組の収録の為に楽屋に居た。
〜♪
「はい、どうされたんですか?」
マネージャーは携帯をすぐに取って相手に確認していた。
「プロデューサー?」
伊織に聞かれて、マネージャーはその場で電話しながら首を縦に振った。
「私の方には何も連絡ありませんよ。元々連絡が行くなら、そちらに行くと思いますし。
はい、こちらに来たら連絡します。はい、水瀬さんの方は順調です。はい、お疲れ様です。」
携帯を切った後、マネージャーは苦い顔をしていた。
「どうしたの?アイツ何だって?」
「ええ、それが・・・。如月さんと連絡が取れないとかで、こちらに連絡が来てないかという事なんですよ。」
伊織の問いに答えながら何とも言えない顔をしていた。
「来てたら連絡してるってのよ。ねえ?
全く、アイツ自身じゃないんだからさ、マネージャーがそんな大事な事放置する訳無いじゃないの。」
(ふ〜ん、起きれなかったんだ。)
伊織はマネージャーの言葉に内心ニンマリしていた。
「いえ、そんな事無いですよ。ただ、プロデューサーがかなり狼狽していたのでご本人も律子さんも心配です。」
マネージャーは伊織の言葉に首を横に振って否定しながらも、心配そうに答えた。
「まあ、大丈夫よ。アイツがこけても律子が何とかするって。」
「そうだと良いんですけれど・・・。」
(ホント、マネージャー人間出来過ぎなのよね。)
伊織は心配するマネージャーを見ながら何とも言えない顔を一瞬していた。
「まっ、ここで心配した所で任せるしかないし、余計な心配させてもしょうがないから、こっちはこっちで頑張りましょう。」
「はい、そうですね。」
伊織の言葉に、マネージャーは返事をして顔付きがキリッとなる。
「さ〜て、今日の伊織ちゃんオンステージ行くわよ。にひひっ♪」
笑顔になる伊織を見て無言で頷いた後、マネージャーは楽屋のドアを開けて伊織を促してスタジオへと向かった。

「んっ・・・。」
千早が目を覚ますと、周りは真っ暗だった。
(暗い?)
状況が分からずに、その場で目を瞑って千早は記憶を辿り始めた。
「や、やだっ。」
千早は思い出して、赤くなりながら思わず声が出てしまっていた。
「え、と、そうじゃなくて。」
誰も居ないのにその場でワタワタしながら周りをキョロキョロしていた。
(ここは、水瀬さんと一緒に居たマンションだった筈・・・。)
自信無さ気に結果を導き出した千早は、電灯のスイッチを探す為にベッドから立ち上がる。
カクンッ
「あれ?」
立ち上がろうとしたが、力が入らず腰砕けになる。へたり込んだ床がひんやり冷たかった。
(冷たくて・・・気持ち良い・・・。って、はっ!こんな事してる場合じゃない。)
千早は我に返って四つん這いでソロソロと壁まで辿り着いてスイッチを手で探した。
いつもならスイッチの位置が分かるオレンジ色の予備灯がついているのだが、視界がぼやけていて位置が良く分からなかった。
(部屋の造りが一緒なら、多分この辺に・・・。)
律子と居た時の寝室の記憶を辿って手を動かす。
パチッ
スイッチが指に触れて明るくなる。
「んっ・・・眩しっ。」
急に着いた蛍光灯の眩しさに目がついていけず思わず目を閉じた。そして、ゆっくりと少しずつ目を開けた。
「えっと・・・。」
目が慣れた千早は最初に時計を探した。
すぐに見つけたが、そのデジタル時計が示していたのは{20:38}だった。それを見た千早の顔から血の気が引いていく。
(ど、どうしよう・・・。)
千早は呆然としてそのまま壁に背中からもたれかかっていた。自分が一糸まとわぬ姿である事も忘れて。

♪〜♪〜
ビクッ
千早は驚いて音のした方を向く。自分の携帯が鳴っていた。
立ち上がろうとしたが、やはり足腰に力が入らないので、四つん這いで携帯の音のする方へ急いで移動した。
携帯を手に取って恐る恐る誰からの着信か表示を見てみると相手は・・・
(プロデューサー・・・。)
ちょっと無言のままだったが、一回深呼吸をした後出た。
「如月です。」
「「お、ようやく出てくれたか。大丈夫か?調子悪いのか?」」
怒鳴られると思った予想を反して、心配した様子のプロデューサーに千早は少し反応できなかった。
「「おい、千早大丈夫か!?」」
「すいません・・・。体調が悪くて・・・。」
千早は嘘なのと、気不味さも手伝っていつもとは違い小さな声で答えた。
「「分かった。今夜はゆっくり休んでくれ。
一応明日の朝電話するが、調子悪かったらそっちから先に連絡くれても良いからな。
体が資本だから、調子悪かったら無理せずゆっくり休んでくれて構わないからな。」」
「はい・・・。すいません。」
(プロデューサー心配してくれているのに・・・私。)
千早は複雑な心境だった。
「「謝る事無いさ。それじゃあ、長電話するのも悪いからな。また、明日。」」
「はい・・・。」
絶えられずに、千早は自分から携帯を切った。そして、そのまま電源も切っていた。
「私・・・最低・・・。」
そう呟いて俯いた千早の目にはうっすらと涙が光っていた。
「っくしゅん。」
そこで、くしゃみをして初めて自分が裸だった事に気が付く。急いで服を着たが何となく寒気が続いているような気がしていた。
(帰らないと・・・。)
千早は一刻もその場を離れたいと思い、急いでマンションを後にした。

「ふう・・・。」
律子は溜息をついて携帯を切った。
(呼び出しも出来ない・・・か。千早、どうしちゃったのかしら・・・。)
レッスンが終って伊織と合流する前に、
千早の携帯に掛けていたが{電波の届かない場所に居られるか電源が切れている為掛かりません。}
のメッセージしか流れて来なかった。
「仕方ない、プロデューサーに任せよう。」
そう呟いてから、気持ちを切り替えてレッスン場をプロデューサーに続いて後にした。

千早は無事アパートに着いたが、長時間裸だったのが災いして、
それから熱を出して寝込んでしまい三日間仕事をキャンセルせざるを得なくなった。
その三日の間に、プロデューサーと律子、そして伊織もそれぞれ短い時間だけだったがお見舞いに来ていた。
ただ、当の千早は熱で半分意識が無く、誰が来ていたのか良く分かっていなかった。

・・・四日後・・・
千早はすっかり熱が下がり、ようやく起き上がって色々一人で出来る様にまで回復していた。
(昨日までの記憶がかなりおぼろげ・・・。)
台所でおかゆを作りながら、千早は少し苦笑いしていた。
出来上がったおかゆを食べ終り、千早は携帯の電源を入れてプロデューサーに掛けた。
「「もう大丈夫か?」」
開口一番、元気な声が聞こえてきた。
「はい、すいませんでした。」
千早は申し訳無さそうに答える。
「「いや、流石に止みあがりだから今すぐどうこうは言わない。とりあえず三日後までにコンディションを整えられるか?」」
「大丈夫です。」
「「それじゃあ、三日後の朝に迎えに行く。遅れた分、しっかり取り戻すつもりで居てくれよ。」」
「宜しくお願いします。」
「「良い返事だ。ゆっくり休んで体力回復に努めてくれ。じゃあ、またな。」」
「はい。では、失礼します。」
千早は向こうが切れるのを待ってから、切った。
「ふぅ・・・。」
千早はちょっと緊張していて、電話が終りホッとして溜息をついた。
おもむろにカレンダーを見てから、自分の中で空白だったこの三日間を何とか思い出そうと目を閉じた。

(あの日・・・帰ってから熱を出して・・・。)
千早は休んでいる間、何とかして記憶の無い三日間の事を思い出そうとしていた。
(プロデューサー・・・律子さん・・・。)
ほんの少しの断片的な記憶だけがおぼろげに思い出される。
「え・・・。」
(・・・水瀬さんも!?・・・。)
断片的な記憶に伊織の姿が映った瞬間、千早は思わず声を上げた。
(あんなことされて・・・・。でも・・・何で?)
見舞いに来た理由が分からずに千早は考え込んでいた。
その答えが見つからず、記憶も断片的なものしかないまま、時間が過ぎて行った。

・・・三日後・・・
「おはようございます。プロデューサー。」
「おはよう。千早。元気になったみたいだな。」
「はい、遅れた分を取り戻したいと思っていますので宜しくお願いします。」
千早はそう言ってプロデューサーに頭を下げた。
「よし、そうと決まったら早速レッスン場に移動するか。」
「はいっ。」
気合の入った返事をした千早は、先を歩くプロデューサーについて行った。
「おはよう、千早。」
事務所から出ようとしてすれ違う前に、律子の方から声を掛けた。
「あっ!律子さん。お見舞いありがとうございました。」
声を掛けられた事に気が付いた千早は、慌てて頭を下げながらお礼を言った。
「顔色も凄く良くなったみたいだし、良かった。レッスン頑張ってね。」
律子は微笑みながら言う。
(この笑顔・・・ドキドキする・・・私やっぱり・・・。)
「は、はい。」
少し照れながらも、なるべくそれが表に出ないように返事をした。
「プロデューサー。一応体調完璧にして来たとは言え病み上がりですからね。ちゃんと限界は見極めて下さいよ。」
「分かってるよ。そっちももうすぐ収録なんだろ?伊織はどうした?」
一緒に居る筈の伊織の姿が見えなかったので思わず聞いた。

「後ろに居ますよ。」
「へ?」
そう言って、正面に振り向くと伊織がうさちゃんを持ちながらちょっと不機嫌そうに上目使いで睨んでいた。
「アンタね、事務所の廊下で立ち止まってんじゃないわよ。通れないでしょ!」
「ああ、悪いな。」
プロデューサーは気不味そうに頭を掻いて道を空けた。
「千早、アンタ随分と顔色良くなったじゃない。」
「あ、ありがとうございます・・・。」
千早は断片的な記憶と、その前に有った事を思い出して思わずどもっていた。
「律子、収録時間大丈夫?」
そんな千早を気にせずに伊織の方はすぐに律子の方へ向いて聞いた。
「マネージャーが待ってるから早く行きましょう。」
「はいはーい。」
そう言うと、二人から律子と伊織が離れて行った。
「さてと、俺等も行くか。」
「はい。」
そう返事した千早だったが少しだけ、離れていく二人を見送っていた。

「病み上がりもあるし、今日はここまで。」
プロデューサーがレッスンの途中で合の手を入れた。
「はぁっ・・・はぁ・・・あ、ありがとうございました・・・。」
(いつもの半分くらいしか持たない・・・。)
千早は悔しさもあったが、ここまで体力が落ちているとは思っておらず驚いていた。
「少しずつ戻して行けば良いさ。また、体を壊したら元も子もないからな。」
「はい・・・。」
(悔しい・・・。)
俯きながら少し瞳が潤んでいた。
「千早ならすぐに戻して、先に進めるさ。じゃあ、今日はお疲れ様。明日以降のスケジュールは携帯に送っておくから。」
「分かりました。」
千早の返事を聞いてプロデューサーはレッスン場から去って行った。
「こんなのじゃ・・・駄目・・・。」
ドンッ!
誰も居ないレッスン場で千早はそう呟きながら床を手で強く叩いた。

次の日からの千早の言動には鬼気迫るものがあった。
三日後には、以前の体力を取り戻していた。

♪〜
(メール・・・。)
千早は移動中の車の中で何気なく鳴った携帯を取り出した。
(水瀬さんから・・・。題名は「業務連絡」?)
何とも言えない感じだったが、平静を装った顔で、内容を確認した。
{今夜21時に赤坂のマンションへ一人で来なさい。}
短い内容だったが、それを見て千早の顔がひくついた。
「どうした千早?変なメールだったのか?」
「は、はい・・・。良くある迷惑メールでした・・・。」
隣に入るプロデューサーから声を掛けられて、誤魔化すように答えた。
(水瀬さんからの呼び出し・・・。どうしよう・・・。)
携帯をしまってから千早は迷っていた。
その日のレッスンは無難にこなしたが、メール内容が気になって想いの外集中できていなかった。
「千早、今日はなんだか上の空っぽかったけど大丈夫か?」
「はい、すいませんでした。また、明日宜しくお願いします。」
千早は謝った後、頭を下げた。
「送ろうか?」
「いえ、ご心配無く。一人で帰れますので。」
心配そうに聞くプロデューサーにキッパリと答えて千早はレッスン場から去って行った。
更衣室に入ってから時計を確認する。
(8時30分・・・ここからだともう間に合わない・・・一番早く着けて電車と駅から走っても・・・
9時20分といった所かしら・・・。)
手早く着替えながら、片手で器用に携帯を持って伊織に送れる旨をメールする。
そして、着替え終わると一目散に走ってレッスン場からの最寄駅へと走り出した。

伊織の方は既にマンションに居て、律子と出演した映像を一人で見ながらチェックしていた。
(全体的には上手くまとまってるカンジだけど・・・。)
「ここの動きアタシミスってる・・・。ここは律子・・・。小さいミス意外と有るわね・・・。」
真剣な眼差しでVを見ながら、いつしか声に出ていた。

♪〜
メールの着信音がして、伊織はVにストップをかけた。
(律子からかな・・・。何だ千早か・・・。)
喜んで携帯を取り出した後、がっかりした伊織だったが、メールの内容を確認した。
{お詫び
20時30分にレッスンが終った為、お約束の時間に着く事が出来ません。申し訳ございません。
予定では21時20分にはつけると思いますので、お待ち下さい。}
「ふ〜ん・・・。」
(走ってくるつもりね。随分と体力が余ってるのね。後でへばらないと良いケド。)
伊織はメールを見ながら目を細めた。

{ゴメン・ネ(涙)
今日は家の事で帰る事になっちゃって本当にごめんね。明日は一緒にお泊りしようね。また、明日の朝に。楽しみにしてるから。}
「ふう、まあ新堂さんが直々に迎えに来られたら止められないわ。」
律子はさっき送られて来た、伊織のメールを見ながら苦笑いして呟いた。
ただ、これが伊織の嘘だとは気が付いていなかった。
携帯をテーブルの上に置いた後、ベッドに身を投げた。
(伊織・・・。千早・・・。ちゃんと答え・・・出さないとね・・・。)
律子は天井を見つめながら二人を思い浮べる。
「勝手な・・・女・・・。」
そう呟いて、メガネを右手で取ってから左腕で視界を塞いだ。

「はあっ・・・はあっ・・・。」
千早は肩で息をしながら、ハンカチで汗を拭いていた。
(21時15分・・・間に合った。)
ピンポーン♪
時計を見た後、呼び出しのインターホンを押した。
「「息整えながら、ゆっくり上がって来なさいよ。」」
プツッ
「はい・・・あっ!?」
すぐに出た伊織の声でそれだけ言うと千早の返事も聴かずにあっという間に切れてしまった。
千早は、言われた通り息を整えながら、エレベーターに乗って伊織の居る部屋へと向かった。
部屋の前に着く頃には、もう息は整っていた。
(水瀬さん、怒ってる感じではなかった・・・。今日・・・帰れるかな・・・。)
一抹の不安を抱えながらインターホンを押した。
「いらっしゃい。とりあえず、食事まだでしょ?」
伊織はすぐにドアを開けて千早を招き入れながら聞いた。
「は、はい・・・。」
千早の方は、以前の事もありつい返事がどもってしまう。
「じゃあ、準備出来てるから一緒に食べましょ。」
「お邪魔します。」
返事をして靴を脱いでから、千早は伊織に着いて行った。

「ふ〜ん。相変わらずの鬼っぷりよねアイツ。」
伊織はデザートのプリンを食べながら呆れたように言った。
「でも、今のままでは、水瀬さんや律子さんの所になんて駆け上がれないし・・・。」
千早は真剣な表情をして呟くように言う。
「目指すのはトップアイドルだけなの?」
「えっ!?」
思わぬ伊織の質問に千早は驚いて顔を上げた。
「律子の隣に居たいんじゃないの?」
「そ、それは・・・。」
ジト目で見る伊織の言葉に、思わず千早は目を背けた。
(良い度胸してるじゃないの・・・。)
「何だかんだ言っても・・・否定はしないワケね・・・。」
ビクッ
静かに言う伊織が立ち上がって近付いてくるのが分かって、千早は身を強張らせる。
「でも・・・律子は渡さないわよ・・・。それに・・・アンタは・・・堕ちて行くんだから・・・にひひっ。」
伊織は耳元で囁くように言ってから最後に笑った。それはいつもの無邪気な明るい笑みではなく、静かで少し低めの声だった。
(水瀬・・・さ・・ん・・・。)
その笑い声を聞いて、千早は背筋に悪寒が走った。
その後、伊織の顔を見ようとしたが金縛りにあったように動けない。さらに、言葉すら発する事が出来なかった。
「分かってるのよね千早・・・。ここに来る意味・・・。」
伊織はそう言いながら目を細める。
「不安と裏腹の快感、悦楽への背徳感・・・。期待してるんでしょ?」
「・・・。」
千早は何も言えずにその場で固まっていた。
クイッ
「あっ・・・。」
「アンタはね・・・。真面目だから、逆に堕ちるのも早いわよ。」
伊織は千早の顎を持って自分の方へ向かせて静かに言った。
(そんな事・・・。)
千早は言葉に出したかったが、伊織の目を見ていると何故か口に出せなかった。

「明日、お昼過ぎからのレッスンよね。」
「どうしてそれを?」
流石に千早は驚いて思わず聞く。
「アンタに答える必要は無いわ。まだまだ夜はこれから・・・アンタが堕ちて行くのもこれから・・・。」
伊織はニッと笑って言う。
千早の方は、その顔を見て血の気が引いて何も言い返せなかった。
(もしかして・・・私・・・心の奥では・・・期待しているの・・・かも・・・。いいえ・・・そんな事は・・・。)
ただ、心の中では言い返せない自分が何故なのかを問うように自問自答していた。
「ほら、気持ち良くしてあげるから脱いで・・・。」
「で、でも・・・。」
伊織の言葉に、消え入りそうな声で視線を逸らしながら千早は抗う。
(ふ〜ん、拒否しないんだ・・・。)
「無理矢理される方が良いんだ?」
「そ、そんな事・・・。」
意地悪な口調でそっと耳元で囁かれると、少し恥ずかしくなって千早は思わず口に出す。
「じゃあ、脱いで。」
「・・・。」
千早は無言のままで居たが、自分からシャツのボタンを外し始めた。少しずつ伊織の目にピンク色の可愛いブラが見え始める。
「へ〜。随分と可愛いの着けてるのね。随分と色気づいてきたじゃない。」
伊織は少し皮肉って言う。
「くっ・・・。」
千早はちょっとムッと来て思わず伊織を睨んだ。
「な〜に?随分と反抗的な目してるじゃないの?」
キュッ
伊織は目を細めて、シャツの間から右手を入れて、ブラ越しに千早の乳首をいきなり捻った。
「くひっ!」
千早はいきなり来た感じに声が出て、身を強張らせた。
コスコスッ、クニクニッ
伊織は無言のままブラ越しに千早の乳首を弄った。

「はぁあ・・・駄目・・・。」
(気持ち・・・良い・・・。)
千早は胸から来る気持ち良さに思わず甘い声が漏れる。
「もう感じてるんだ・・・。いやらしい・・・。」
そう言いながら、動けない状態で両手が止まっている千早のシャツのボタンを空いている左手で外していく。
「ほら、早く脱いで。」
「は、はい・・・。」
千早は大人しく従ってシャツを脱いだ。その間に、伊織の方はテーブルの下に潜る。
「胸は自分で弄って。代わりに下は私が攻めてあげるから。」
テーブルの下で見えない伊織の言葉に、変な期待感で千早の背筋はゾクゾク来ていた。
(私・・・望んでる・・・。)
そして、自分のブラの下から手を入れて直接乳首を弄り始めた。
「ぁ・・・。」
伊織の方は、閉じている両膝に手を置く。何も言わずに左右に分けて股を開いていく。
(逆らわないんだ・・・。ふ〜ん。)
ニヤニヤしながら伊織はそのままかなり大きく千早の股を開いた。
(やだっ・・・私・・・凄い格好・・・してる。)
股を開かされているのに気がついた千早は、思わず自分の体勢を見て恥ずかしくなって赤くなった。
スッ
伊織はそんな千早の様子が見えるわけでもなく、スカートの中へ右手を伸ばした。
ツーーッ
千早の左足の太腿に自分の人差し指を当ててから撫でるように股の方へと滑らせていく。
「ひゃん。」
太腿からのくすぐったい感触に千早は可愛い声を上げてピクピクッと反応する。
「ほ〜ら、手がお留守じゃないの?」
見えてない伊織だったが、様子を見ていて千早の動きが止まっているのを予想して言う。
「は・・・ぁ・・・。」
千早は言われて、自分の胸に再び手を伸ばした。

ピンクのブラは既にずり上がっていて、代わりに綺麗なブラと同じ位の色の乳首が見えていた。それを、自分の両手で軽く摘む。
クリッ
「んふぅ・・・。」
声を殺そうとして、少しくぐもり偽見の声を上げる。
(駄目・・・気持ち・・・いぃ・・・。)
クニクニッ
「ひゃうっ!?」
いきなり自分の股をパンティ越しに指で弄られて声を上げて仰け反った。
「もう濡れてるじゃない・・・。やっぱり正直よね・・・。」
「そ・・・そんな・・・ああっ!」
くちっ、くにゅっ
千早が答えようとすると、伊織は容赦無く右手で椅子とパンティの間に指を滑り込ませて下から弄る。
「何か言った?」
「そ・・・ふぁあ・・・。」
伊織はニヤニヤしながら千早の反応を楽しむように、右手の指を巧みに動かして蕾の辺りを重点的にパンティの上から弄る。
「私の指、濡れてるし、千早のここ熱くてふやけちゃいそうよ。」
くちゅぅっ
伊織はそう言いながら、パンティをずらして直に蕾に指が触れる。
「や・・・ぁ・・・あひぃっ!」
ビクビクッ
千早は少し腰が浮き上がって、仰け反る。
「逃げちゃ駄目でしょ・・・。それに自分でもちゃんとしなさいよね。」
そう言って空いている左手で、千早のスカートの上から左桃の付け根を押さえて浮いている身体を再び椅子に座らせる。
それと同時に、右手で上手くパンティをずらして生地をクリにあてる。
「あぁぁ・・・あたってるぅ・・・。」
(擦れて・・・気持ち良い・・・。)
生地が擦れて当る感触は、指で触れるのとは違って変な感触だった。
力んでいた力が抜けて、椅子に座り直してもたれかかるような状態になった。
(気に入ったみたいね・・・。)
コスコスッ
伊織はその様子を見て、わざと生地や指がクリに触れない位置で千早を焦らし始めた。
(な、何で?)
「み、水瀬さん・・・。」
「な〜に?」
切なそうに言う千早に伊織は意地悪っぽく聞き返す。
「その・・・あの・・・。」
千早は自分から言えずに恥ずかしそうに言い切れずに口篭る。
ピタッ・・・
「えっ!?」
伊織は指の動きを止める。それに驚いて千早は思わず声に出てしまう。
「して欲しいなら、それなりの言い方ってもんがあるでしょ。」
「・・・して下さい・・・。」
伊織に言われて小さな声で千早は言った。
「な〜に?聞こえないんだけど〜?」
「そ、そんな・・・。」
千早は伊織の言葉に少し顔を赤くしながら答える。
「良く聞こえないって言ってるんだけど?」
伊織は追い討ちをかけるように強い口調で言う。
「水瀬さん・・・。お願いします・・・。私を・・・気持ち良く・・・して・・・下さい・・・。」
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなほど、顔や耳まで真っ赤にしながらも千早は言い切った。
(言ってしまった・・・。)
千早の中のプライドや理性というものが崩れた瞬間だったのかもしれない。
「良いわよ・・・。」
伊織は千早の言葉に、とても14から15歳になろうかと言う少女とは思えないような大人びた口調で静かに答えた。
(水瀬さん・・・。)
その言葉に、千早は伊織が自分よりも年下の存在である事が吹き飛んだ。それと同時に、期待で背筋がゾクゾクとしていた。
伊織は、スカートの上に置いてあった左手もめくり上げるようにして股の方へと入れていく。

スッ、ススッ
右手でパンティの生地を細くしてクリを左右から擦るようにゆっくりと動かす。
「はぁ・・・ぁあ・・・。」
千早はその感触に酔うような声を上げる。そして、自分でも再び乳首を弄りだした。
クリクリッ、キュッ
「水瀬さん・・・もっと・・・。」
「しょうがない後輩ね。にひひっ。」
伊織はそう言いながらも、悪戯っぽく笑う。
クニッ、コスッ、くちゅぅっ、
「うはぁっ・・・ああっ・・・いぃ・・・。」
右手の中指で直接クリを弄って、親指と人差し指でパンティの生地を持って時間差でクリを擦る。
更に左手ですっかり濡れている蕾を下から上に向かって指でなぞり上げる。
千早は下半身から来る感覚でおかしくなりそうになっていた。
クリッ、クニッ、ペロッ
千早自身も更に快感を求めるべく、乳首を弄りながら自分の右の乳首を舐める。
「はあっ・・・ああんっ・・・んふぅ・・・。」
(まずは一回トドメね・・・。)
キューッ!ツプゥッ
パンティの生地を離してから右手の親指と人差し指でクリを一気に捻るのと同時に、
左手の人差し指と中指を濡れている蕾の中へ少し入れた。
「んぅうひゃぅあぁぁぁああーーーー!!!!」
ビビビクッ
乳首を舐めていた千早は、頭まで一気に突き抜けた感覚に口が乳首から離れて大きく仰け反って派手に叫んで
小刻みに震えながらイった。
「こんなものじゃないわよ。分かってるわよね千早?」
伊織は千早の蜜で濡れている、左手を見ながら目を細めて言う。
「はぁっ、はぁ・・・はひぃ・・・。」
千早はうつろな目で少し荒く息をしながら天井を見上げていたが、呂律の回らない言葉だったがはっきりと答えた。

ポタッ・・・ポタッ・・・
椅子から千早の蜜が床に向かって垂れていた。
既に時計は2時を回っている。最初の行為から3時間以上が経過していた。
「はひぃ・・・みなへひゃん・・・もっろぉ・・・。」
千早はピクピクしてうつろな目のまま、呟いていた。口は半開きの状態でよだれが首まで垂れていた。
「また今度ね。アタシもあんたも明日仕事あるんだから。先にシャワー浴びてさっさと寝なさいよね。」
伊織はテーブルの下から出てきて、千早の横に立つとはっきりと言い切った。
「れもぉ・・・。」
千早はうつろな目のまま切なそうに伊織を見て言う。
「言う事聞かないと、もうシテあげないわよ。」
伊織は目を細めて静かに言う。
「・・・はひぃ・・・。」
残念そうに拗ねた子犬のように寂しく千早は答えた。
「スカートも、パンティも・・・どうやらブラも汚れちゃってるから洗濯機に放り込んでおいて。
そうすれば明日の朝には乾燥まで終るから。ほら、早く行って。」
千早は名残惜しそうに、時々振り返って伊織の顔を見ながらも浴室の方へとヨロヨロ歩いていった。
(あんだけして、腰抜けてないし・・・。律子もそうだけど、全くタフよね。)
半分呆れた表情になって、伊織は千早を見送っていた。
「ふあぁ・・・。浴室でまたさかってないと良いんだけど・・・。」
伊織は欠伸をしながら、一旦部屋を出て寝室へと向かった。

ザーーー
千早はボーっとしたままシャワーを頭から浴び続けていた。
(私・・・自分から・・・望んで・・・求めて・・・。)
少し赤面しながら、さっきまでの事を思い出していた。
(律子さんとは違う、水瀬さんにしか出来ない事・・・。凄く気持ち良かった・・・。)
そう思って、右手で自分の乳首へ、左手を股へ伸ばした瞬間、
「ちょっと、千早!アンタいつまで入ってんのよ、さかってるワケ?」
「えっ!?あっ!?すいません。もう少しで出れます。」
突然伊織の怒鳴り声が聞こえて、慌てて千早は髪と身体を洗い始めた。
「ったく・・・もう3時半回るってのに勘弁してよね。アタシは今日早いんだから。」
伊織はブツブツ言いながら、脱衣所にある洗濯機の中身を確認していた。
(まあ、昼前には間に合うわね。後は・・・着替えはこれで良しと。)
バスタオルと一緒に、淡い水色のブラとパンティを洗面台の上に置いた。
「着替え置いとくから、それ着てベッドでさっさと寝て頂戴ね。」
「はいっ。」
(着替えがある?)
伊織の意外な言葉に千早は返事をした後ちょっと首を傾げていた。
伊織の方はそれだけ言うと部屋に戻って、千早の座っていた椅子を中心に汚れた部分を拭き始めた。
手早く済ませてから、椅子に座るとウトウトし始めていた。

千早が浴室から脱衣場に出ると、バスタオルと新しい下着が置いてあった。
「これ・・・なのかしら?」
(随分とお洒落で可愛いデザインだけど・・・。)
淡い水色の下着を見ながら、千早はバスタオルで身体を拭いた後、髪を別のバスタオルで包んだ。

そして、まずブラを取って身に付けてみた。
(ぴったり・・・。)
驚くと同時に、複雑な心境だった。
「あ・・・。」
(急がないと・・・。)
すぐに我に返って、千早はパンティも履いてからバスルームを後にした。
(一声掛けた方が良いかしら・・・。)
部屋から明かりが漏れているのに気がついた千早はちょっと迷っていた。
「よしっ。」
意を決して千早は部屋のドアを開けて中を覗いた。部屋を見渡すと、伊織が椅子に座って寝息を立てていた。
(水瀬さん寝てる・・・。もう4時。無理も無いか・・・。)
少し苦笑いしながら、寝ている伊織にそっと近付いて行った。
「水瀬さん、水瀬さん・・・。」
千早はゆっくりと揺すりながら、伊織を起こしにかかった。
「ぅ・・・ん・・・。」
「すいません。長湯してしまって。私の方は終りましたので寝させて頂きます。」
「そう・・・。ピンクも悪くないけど、それも案外似合ってるじゃないの。」
伊織は寝惚け眼で千早の下着姿を見ながらいつもの口調で言った。
「あ、ありがとうございます。」
(なんで照れてるんだろう・・・。)
千早はちょっと俯いて赤くなりながらお礼を言った。
「ふぁ・・・じゃあおやすみ。起きてからにしよ。ほら、さっさと寝室行って。」
「は、はい。」
伊織に押されて、千早は下着姿のまま寝室へと移動して行った。
寝室に二人で入ってから、伊織は先にベッドに身を投げた。
「アンタはそっちね。じゃあ、おやすみ・・・。すぅ・・・スー。」
「はい、おやすみなさい。」
伊織は千早の返事を聞くまえにすぐに寝息を立てていた。
(可愛い寝顔。)
何となく寝顔を見てから、千早も下着姿のままベッドに潜り込んだ。
疲れていたのもあって、あっという間に深い眠りについていた。





無題(律子×伊織×千早 百合1スレ474)後編に続く

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