あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・


その街は、湖の畔にあった。
規模こそあまり大きくないものの、肥沃な土地のおかげで作物は実りやすく、
また王の都へ向かう街道の宿場としても良い位置にあり、国すべてを見渡しても
なかなかに豊かな街であった。
しかし、その街は同時に、人ならざる魔性の者たちが引き寄せられる街でもあった。
湖が魔の力を帯びており、それに惹かれるのではと噂されていたが、真偽のほどは分からなかった。
歴代の領主は騎士団を増強し、民衆からも兵を募るなどするものの、度重なる魔物の襲撃に頭を痛めていた。
しかし、北からやってきたという一人の旅人が領主にこう言ったのだ。
ここに住まう事を許していただければ、魔物から街を守りましょうと。
領主と旅人は契約し、それ以来、魔物は姿をみせなくなった。


「ボルスト湖の旅人の伝説」より

少年はいつものように、書物に囲まれながら、一冊の本を開いていた。
年季の入った本棚が壁を覆い、革表紙の厚い書物がぎっしりと並べられている。
天井から吊り下げられた、電球タイプのシャンデリアが、部屋全体を黄白色に
染めていた。
ぺら、とページをめくる音が、書斎の空気に溶けていった。シャンデリアの
明かりだけでは文字を追うには少々足りないが、机の上の読書灯がしっかりと
照らしてくれるので、さほど問題はなかった。
突然響く、ノックの音。少年は本から顔をあげ、どうぞ、と声を上げた。
「やはり、こちらでしたか」
これまたアンティークな雰囲気の扉を開けて、純白のドレスを纏った一人の少女が姿を見せた。
色白の肌に、美しい金糸の長髪。十代半ばといった雰囲気には少々不釣合いな、しっかりと存在を
主張する胸。そして──背中から生えた、純白の一対の羽。人のものとは思えないような美しい造詣の
顔立ちと相まって、伝説にある天使のようだった。
「どうしたの?」
問いかける少年は、机の前に立つ天使の少女よりさらに若い。ようやく二桁に届いたかのような
幼い顔立ちに、少女ほどではないがやはり白い肌。対照的な真っ黒いローブを纏い、魔法使いという
言葉が似合うような雰囲気だった。
「…現れました」
はあ、と少年はため息をつく。
「今夜は、ゆっくり過ごせるかと思ったんだけど」
ぱたりと本を閉じて、席を立つ。
「今日は、シーナだったね」
「はい、私です。<融合>を済ませてから行きますか?」
「その方がいいかな。人に見せるものでもないしね」
「エリウス様の仰せのままに」
少女──シーナが一礼する。少年──エリウスは彼女の前に立つと、二人は向かい合う。
すると突然、二人を中心に風が吹き始めた。
閉じた本の表紙が開き、ぱらぱらとページがめくれる。エリウスのローブとシーナのドレスがばさばさとはためく。
二人は気にもせず、軽く目をつぶったまま、エリウスが口を開いた。
「盟約を基に乞う、魂ひとつになりて、我に力を貸さん」
歌うような、独特の符丁。最早使うものも無くて久しい、古の言葉。
シーナが右手を、彼に差し出す。エリウスはその手を取ると、甲に軽く口付けを落とした。
迸る閃光。
直視も難しい、眩い光にシーナが包まれて。そのまま一歩、また一歩とエリウスに近づく。そして未だに目を開かない彼を、
ぎゅっと抱きしめる。
先ほどとは比較にならない光が溢れ、爆発する。次の瞬間には風がやみ、書斎は元の薄暗さを取り戻した。
そして、あの風の中心にいた二人は、エリウス一人になっていた。着ていたローブは光に溶けてしまったのか、肉付きの
薄い裸身を露にして、肩で息をしながら立ち尽くしていた。
思春期直前の、ほっそりとした体つき。体毛もほとんど生えておらず、肌は男女の性差をそれほど意識させない。
しかし下腹部の彼自身は、歳相応とはとても呼べないほどに大きくいきり立ち、顔つきとのギャップを感じさせた。
「う、うああ…」
顔を歪めて、肩を握り潰さんばかりで抱くエリウス。体の中で何かが燃えているような熱さが、全身に広がっていく。
彼はこれが自身の魂がシーナのそれとひとつになり、作り変えられていく熱さだと知っている。
「かはああっ、くう」
怒張した男根がわずかに震えると、白濁液を放出しはじめた。数度の放出でも収まることはなく、びくびくと蠢きながら、
尽きることなく湧き出していく。それは自身から睾丸を伝い、真紅のカーペットに落ちてゆく。
「あがああああっ!」
突如襲った甘い痺れ。ついに耐え切れなくなった彼は、床に膝をつくと、体を弓なりに反らして震えさせた。本格的な
変身、いや<融合>が始まったことを知る。
ぶら下がる睾丸の付け根がざわざわと波打つと、周囲の皮膚が、その下の肉が蠢いて形を変えていく。うっすらと窪みが
出来上がると、それは深くなり、隙間へと変化していく。
「はあっ!んああああっ!」
ハスキーなエリウスの嬌声は、少し高くなる。色素の薄いプラチナ・ブロンドの髪がざわめくと、僅かにボリュームを増していく。
歪んだ表情はすでに、苦痛以外の色で染まっていた。
「ひぁ、あ、ああ、あああ…」
目じりに浮かんだ歓喜の涙が、頬を滑り落ちていく。すっかり成長した股間の「隙間」は妖しく震えると、睾丸の片方を
吸い込むようにして飲み込み始めた。性器を歪にゆがめられていく痛みと、それを上回る快楽に、エリウスはさらに
高くなった声を上げた。
「あつ、い、いい!くはあっ!」
片方は完全に飲み込まれ、もう片方も半分以上が埋没している。やがてそれも完全に埋まってしまうと同時に、男根がまるで
それを祝うかのように盛大に精を吐き出した。
睾丸を飲み込んだ「隙間」はひくひくと震え、白に薄く色づいた液を滴らせる。体の中に飲み込まれた睾丸が、左右に分かれて
移動しながら、少年、いや男性にはありえない器官へと形を変えていくのをエリウスは感じた。
「ひき、かあ、ひゃ、あっ」
すっかり、少女のものと化した喘ぎ。肩幅が少し広がって、腰周りが質量を増していく。髪はすでに肩までになり、色が明るさを
増していった。
肉棒が急速に縮み始めると、両脚の変化が始まった。凶悪さを失いながら、歳相応のものへ、さらにその下になっていくのと対照的に、
肉付きの薄かった太腿が太りはじめ、成長していく。足がすらりと伸びていき、それに合わせるように、上体も伸び始めた。
「うあ、はあ、ああん!」
男根はもう小指の先程にまでになり、精を吐き出すこともできなくなっていた。そのまま隙間へ飲み込まれると、陰核に成り果てる。
その周囲が再び蠢いて──
少女の秘裂が、完成した。
少年から少女へ。思考、理性、記憶、魂そのものが混ざり合い、溶け合う。そして、エリウスでもシーナでもない、全く新しい人格が形作られる。
二人の中に内包されていた魔力が漏れ、再び旋風が生まれた。彼、いや、彼女を中心に渦巻くそれは先程よりも威力を増し、書斎を倒壊させるほどに
なっていたが、どういう原理なのか、それは彼女の周囲にのみ限定され、机の上の手紙などが吹き飛ばされることはなかった。
強大なその力は、それを行使しやすいように、彼女の体をさらに適した形へと作り変えていく。
「んぁ!ひう、ひゃあああっ!」
薄い胸板が少しづつ盛り上がり、膨らみを形作りはじめた。その先端も少年のものから少女のものへ、そして大人の女性のものへと膨らんでいく。
頭髪はゆるやかなウェーブを描き、腰に届く直前で止まる。色が明るさを増し、シーナのような美しいブロンドに染まる。
腰が引き締まり、くびれとなって現れると、臀部の肉付きが増し始めた。繊手の指も伸び、女性的な細さを匂わせる。幼い顔つきは、その中性な印象を
上塗りしながら、整った女の顔に変わっていく。見開かれた濃緑の瞳は、わずかな間に底の見えない澄んだ青に変わった。
少し前まで、思春期前の男の子だったと誰が信じられるだろう。彼の外見はすっかり、10代後半の女性へと変わり果てていた。
それでもなお、変化は止まらない。
「ひぃ、ひぁ、はぅ、んひ、くは」
両足はすっかり伸びて、細くも力強い、相反する雰囲気を纏っていた。太腿は魅惑的な柔らかさを持ち、ようやく変化が止まる。未だ尻の柔肉は成長を
止めず、さらに豊かになっていく。それは胸も変わらず、すでに彼女の両手では納まりきらないほどに溢れながらも、垂れ下がることはなく、ますます
瑞々しく成長していく。男の象徴はすっかり女の象徴に成り代わっていたが、花開くことはなく幼く閉じられたまま、彼女が変身の快感に喘ぐたび、
秘蜜を吐き出していた。
腰周りは美しい凹のラインを描き、神が手がけた彫刻のような神々しささえ漂う。両耳は先端がわずかに尖り、人ならざるものへ変わり果てつつある
ことを物語る。
「はぁ、ああ、ぼ、ぼく、は…」
突如声が、エリウスのものに戻った。麗しい大人の女になったその顔は、体が変容する、常人ではとっくに崩壊しているほどの凄まじい快楽に悦び、
溶けきっていた。
「わ、わたぁ、しぃ、は、ぁ…」
次に口から漏れたのは、熱に浮かされたようなシーナの声。溶け残った二人の人格が入れ替わりながら、完全に境目を無くして行く。
背中の一部、腕の付け根あたりの白い肌の下で何かが生まれた。それはもぞもぞと蠢きながら、背中を破らん勢いで盛り上がっていく。耐え切れなく
なりつつある肌が異様なほどに張り詰め、すこし裂けた。しかし鮮血が溢れ出ることはなく、代わりに姿を覗かせたのは、純白の羽根。体の内側から
出てきたにも関わらず、一片も赤に染まっていない、シーナのもののような羽根。
「「あああああああああああああ!」
両の二の腕をきつく抱いて、背中を弓そらせる。二人の声が同時に吐き出されながら混じり合い、ハスキーな印象の女性の叫びとなる。二人が完全に融合を
終えた瞬間だった。背中の裂け目は広がっていき、大きな羽が一対、ばさりと勢いをつけて広がった。
そこで魔力の風はやみ、書斎に再び静けさが戻った。風の中心には、エリウスでもシーナでもない、別の存在が膝をつき、深く息を吐いていた。
緩やかに流れる髪は、人のものとは思えないほどに綺麗な金色で。女性的な曲線を豊かに描くその裸身は成熟した若さと神聖さに溢れ。
人間味を感じられない、恐ろしい程に整った顔は上気し、背中を破った白翼の幅は、長身な彼女の身長をも超えるほどに大きい。
「ふぅ…」
息を吐いて立ち上がった彼女は、軽く背伸びをしたあとに、何事かを呟いた。それは人間には理解できない、天使と呼ばれる存在のもの。
「ふぁぁ…」
力の奔流が、彼女を包む。強大な力を帯びて性質が変わり、絨毯に染み込まないまま足元に広がっていた、粘ついた白濁の水溜り──彼と彼女が散々放出したものだ──
が震えると、まるで意思をもったかのように白い素足に纏わりつき、登っていく。指先から膝へ、無毛の秘所へ、ふくよかな尻へ、腰へ、胸へ、腕へ。要所を覆いながら
取り付くと、姿を変えていく。
「完了、っと」
わずかな時間で、彼女の言葉通り、全ては終わった。
足先と脛は鎧のようなもので覆われ、脛の半ばまである長めのスカートがはためいた。臍から胸はプレートに守られ、豊かな双丘を覆い隠す。手袋の上に篭手のようなもの
をつけている。その手にはいつの間にか、彼女の身長と同じくらいの大剣が握られていた。そのすべてが純白と純銀を基調に彩られ、それはまるで天より舞い降りた天使、
いや──
「行くか。封印されし戦乙女の力、たっぷり刻み付けてやる」

机の後ろ、両開きの窓が、見えない力で押し開けられた。背中の羽を羽ばたかせると、彼女──戦乙女はふわりと宙に浮く。
「赤い月か。奴らにうってつけだな」
呟きを残して、夜の闇を白銀の一閃が飛び去った。ふわりと舞う一枚の羽根。それは不気味に紅い月に照らされてなお、白く輝いていた。


遥か昔、この地を訪れた旅人は、3人の僕を従えて、安住の地とする代わりに、人に仇なす魔性のものを切り捨てる。
領主は市長に、共に戦う騎士は警察や州兵に変わった現代でも、契約に基づき、街を守っているという。

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