あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・


「はぁ...はぁ...」
とある繁華街の裏路地。
薄暗く人通りも皆無なこの場所に一人の少年が佇んでいた。
先ほどまで走り続けていたのか息切れを起こしており、顔には玉のような汗が浮かんでいる。
バクバクという音が外に漏れでてるのではないのか思うほど心臓が脈を打つ。
(ここは人通りも無いし、流石に気づかれないよな...)
ビルに囲まれた路地をキョロキョロと見回す少年。
どことなく落ち着きもない。
なぜ彼は路地に身を隠すような真似をしなければならないのか。
事の始まりは十分前にさかのぼる。
この少年、「反町順(そりまちじゅん)」はいつも通り高校での授業が終わり帰路についていた。
普段と変わらない日常だった、街中でガラの悪い三人組に絡まれるまでは。
「兄ちゃん兄ちゃん、ちょっとお金が無くなったからさぁ、恵んでくれないかなぁ?」
リーダー格と思われる学生の一人が反町に金銭を要求してきた。
制服から見るに同じ高校の人間のようだ。
制服の上からでも分かる屈強な体と拳に反町は震え上がる。
恐怖のあまり反町は一目散に逃走するも、当然ながら、後ろから罵声をあげながら三人組が追いかけてくる。
街中を走り回り何とか路地の中に逃げ込んだのだ。
(き、気づかれないうちに逃げないと)
体が落ち着いてきた反町は改めて三人組から逃れようと路地を移動しようとした。
しかし、
「うわっ!」
足元にある何かにつまづいて転んでしまった。
「ったー...何だよ一体...」
今日はついてない、そんな事を思いながら立ち上がる。
足元には路地に似つかわしく無い蛍光色の種のようなものがが転がっていた。
どうやらこれにつまづいたようだ。
「な、何だこれ?」
ふと、気になって拾い上げる。
種は手のひらに収まる程度の大きさで眩しいほどのピンク色をしていた。
植物の種というよりは木の実に近い。
「変わった色だなぁ...何でこんな所にあるんだろう?」
反町は三人組の事を忘れて種に見入っていた。
「それにしても...何か美味しそうだな」
見れば見る程、非現実的な物体。
だが眺めているうちに反町の中に抑えきれない食欲が湧き上がってきた。
街中、それも路地に落ちているものを食べるなど普段ではあり得ない。
しかし、彼の中に生まれた食欲はそんな常識すらどうでもよくなる程までに肥大化していた。
(ああ、もう!我慢できない!)
そして、反町は種を口の中に放り込んだ。
種は見た目ほど硬くはなく普通に噛み砕く事が出来た。
食感はピーナッツに近く味や匂いは皆無に等しかった。
やがて種はあっという間に反町の胃の中に収まった。
「うーん、思ったより美味しくないなぁこれ」
あれほど湧いてきた食欲とは何だったのだろうか。
種の味は少なくとも反町を満足させるほどではなかった。
「そうだ!こんな事してないで逃げないと」
ようやく本来の目的を思い出し反町は歩き始めようとした。
だが、
「あ、あれ...?」
急に体がフラフラする。
先ほどの走り終えた時とは比べものにならないぐらい苦しい。
「はっ...ふぅ...あっ...」
何とか酸素を取り込もうと必死に呼吸する。
体が燃え盛るように熱い。
動きたくても硬直して動けない。
一体何が起きてるのか。
必死に理解しようとする反町に新たな現象が起こる。
「えっ...な、なに、これ...」
どこからともなく現れた糸のような物が彼の体に巻きついていくではないか。
無数の意図は体中にまとわりつきどんどん巻かれていく。
彼の体はさながら繭のように変化していく。
「なっ、なんだよこれぇ!どこから出てきたんだよぉ!」
必死に抜け出そうする反町だが動け事が出来ない。
そうこうしているうちに体の半分以上が繭になっていた。
「や、やめてくれぇ!やめっ、あぁ!」
反町はすっかりパニックになりただ叫び続けていた。
そして糸はとうとう首にまで到達する。
「嫌だぁ!た、助けてぇ!たすけっ...」
顔にも糸が巻かれていき叫び声も遮断されていく。
そして頭のてっぺんにまで糸が巻かれると、糸はそこで止まった。
「.......」
そこにあるのは反町順という学生ではなく等身大の繭だった。
微動だにせずただ立ち尽くす繭。
だが、繭の中では信じられない変化が起きていた。













気がつくと反町は裸になって空間の中に浮いていた。
ほのかに明るく、広々としている。
不思議と怖さはなくどこか温かい気持ちだった。
(ここは...どこなんだろう?僕はどうなったんだろう?)
疑問が反町の中に浮かび上がった時、変化は突然起きた。
「ううっ!」
突然、心臓がどくん、と跳ねた。
体が沸騰したかのように熱い、必死に呼吸しようとするも酸素が入ってこないのか苦しい。
だが、痛みはなくむしろ気持ち良さすら感じられた。
思わず体を抱きしめる反町。
「うっ...くっ...はぁっ...」
苦しい、熱い、気持ち良い、熱い、気持ち良い、苦しい、気持ち良い、熱い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い気持ち良い
「はぁっ...あっ...んあっ...」
全身が快感で満たされていく、口から漏れ出す声もどこか性的な物へ変わっていく。
その気持ち良さと共に反町の細胞が変化し始める。
細胞の一片一片が不思議な力で書き換えられ何かに上書きされるかのように変わっていく。
「くううっ!ううんっ!あああああああ!!」
自分の体に何かが起こっている、反町はおぼろげにそれを感じながらも変化の過程で発生する快感に翻弄されるがままだった。
そしてその変化は目に見える段階へと進む。
「あああっ!あ、あ、あんっ!」
一般的な男子高校生としては少し小柄な彼の体が大きくなる。
腕や足が細くしなやかな物へと変わりながら見えない手に引っ張られるかの様にするすると伸びていく。
伸びていきながら彼の体にわずかにある筋肉が萎み、皮下脂肪が体全体を満たし柔らかで丸みを帯びた物へ。
手足のみならず彼の体に生えている体毛が自然と抜け落ちていく。
抜け終わると彼の肌が白く透明感のある玉のような肌になる。
「はぁっ、ああっ、かはっ」
本来、体が成長する時はそれ相応の成長痛が発生する。
それが急激な物なら尚更だ。
しかし今の彼には痛みや苦しみが全て快感に変換されており、その狂いそうな気持ち良さに耐えることしかできない。
成長を続ける身長に比例するように短めに切りそろえられた髪の毛が長くなっていく。
同時に髪質が細く変化しあっという間にシャンプーのCMに使われそうなサラサラのロングヘアーが出来上がる。
すると、成長を終えた髪の一本一本が淡いピンク色に染まっていく。
ヘアカラーでもなく脱色したわけでもない、色素そのものが変化し美しいロングヘアーはアニメに出てくる美少女キャラのようなピンク髪になった。
「あっ、かっ、顔っ、がっ、くっ」
顔面が何者かによって弄られている感覚。
その感覚通り、彼の顔のパーツもまた変化の時を迎えていた。
眉毛が細くなり、ぱっちりと大きく見開かれていく目、瞳は髪と同じ淡いピンクに染まり唇も薄く紅が差し厚みを増して瑞々しくなっていく。
そして顔全体の骨格も小さな卵型に。
もはや少年であった頃の面影はほとんど無くなっていた。
「くうっ、はあっ、んあっ、ああっ、ああんっ、やんっ、はぁんっ」
喉仏が引っ込んで声がどんどん高く透き通った物になっていき、漏れ出る呻き声も性的な喘ぎ声に。
「やあっ、こっ、こかんっ、がぁ、いやぁっ」
声が変わり終わると股間に付いた男性特有の棒がしゅるしゅると縮み、まるで体に吸収されるようにして小さくなっていく。
やがて棒は彼の体から完全に消え失せた。
そしてその跡地にすっと一本の線が入るとお尻の奥にヒダが出来ていく。
その次にお腹の下の方に男性にはないはずの器官、そう、子宮が生まれたのだ。
この時点でお気付きの方もいるとは思われるが反町は少年から少女、いや、女性へと成長を伴った変化しようとしてるのだ。
何故このような事が起きているのか、それは本人は勿論誰にも分からない。
しかし、その細身ですらっとした長身な体、ピンク色に染まった髪、少女の可愛らしさと女性の色気を融合させた整った顔、鈴を鳴らしたようなよく通る可愛らしい声、影も形もない棒。
最早誰が見ても彼女が男性であった事に気付く者はいないだろう。
女性として最低限の変化を遂げた反町、
そして肉体の変化は彼女をより女性的に、より魅力的なものへと変えるために次の段階へと進む。
「あ、あ、ああああああああああああああああ!!」
さらに強い快楽が彼女を襲う、ただでさえ狂いそうになっていた精神がさらに揺さぶられる。
彼女の乳首が桜色に染まりながらぷくっと膨らむ。
その乳首を頂点にして胸が質量を増して、柔らかな脂肪で満たされていく。
それに呼応するかのようにお尻もまた脂肪が注ぎ込まれるかのように大きくなっていった。
胸と比べてハリがあり誰もが触りたくなるように臀部が育ち続ける。
寸胴ぎみのウエストも絞られるようにして細く、引き締まっていく。
「ぁんっ、ぼ、ぼくのぉ、からだ、ど、どうなってぇ、やぁん」
自分が自分じゃない者に変貌していることに反町はようやく気づき始めた。
重力を感じさせない美しい形を保ちつつ膨らみ続ける胸、その胸に負けない程の美しさを持ち豊満に育ったお尻。
その二つを強調させるくびれたウエスト。
平凡な少年は今、誰が見ても羨む程の完璧な女性に生まれ変わった。
だが、変化は終わりではない、むしろここから本番である。
「い、がぁっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
体を苛んでいた快感がさらに凶暴に、痛みすら伴うほどに強くなる。
それはこれから起こる変化の予兆であった。
背中の皮膚の下で何かを蠢いている。
それは本来人間の体にはないはずの物、しかし彼女の体の中で形成され質量を増し始めていた。
大きく実ったお尻の上、そこにも何かが生まれてもぞもぞと動き続ける。
おでこの近くから何かが顔を出す白く尖った物体、まるでファンタジーに出てくる角のようだ。
その角がめきめきと音を立てながら伸びていき、比例するようにして耳の先端が引っ張られて尖るようにして形を変える。
お尻の上で蠢く何かがぶすりと皮膚を突き破り姿を現した。
黒く先端がハート型になっており、さながらむちのようだ。
背中が大きく盛り上がってびりびりと皮膚の破ける音がする。
すると成長を続けていた胸が仕上げとばかりに一気に膨らんでぶるんと揺れた。
「いだいいいいいいい、いだいよおおおおおおおお」
暴力的な快感、破ける皮膚。
その二つの感覚は彼女の心を際限なく攻めていく。
そして。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
背中の皮膚が破け去り何かがバサリと飛び出した。
それは今まで出てきた物よりも一際大きく、現実離れしていた。
黒く染まったそれはコウモリの翼に良く似ていた、いや、似ているも何も翼そのものであった。
そう、彼女は今、人間という存在をやめて淫魔という人外へと変身したのだ。










先ほど生まれた繭。
あれほどの変化が内部で起きていたというのに繭は何の変化もない。
それもそのはず、中で変身に要した時間は数分だがは外側からすれば1秒にも満たないのだから。
その繭に突然ヒビが入る。
ピキッ、ピキッ、と音を立ててヒビは繭全体に広がる。
ヒビが繭全体に入ると繭は一気に割れ、中にいた人間が解放された。
しかしそこにいたのは先ほどの少年ではなかった。
「はぁ...はぁ...」
女性としては高く伸びた身長、細身ですらりと伸びた手足、透き通るような肌、異性のみならず同性ですら魅了されそうな現実離れした美貌、一般女性の平均を大幅に上回る大きさでありながら美しく上を向いた乳房、キュッと美しくくびれたウエスト、胸に引けを取らない程大きく形の良い臀部、脂肪で満たされむちむちとした健康的な太さの太もも、どこにも存在しない棒。
頭にはおでこをかき分けて突き出た一対の角、ファンタジー作品に出てくるエルフといったフィクションの存在でしかないはずの尖った耳、先っぽがハートの形をした黒い尻尾、体全体を包み込めるほどではないのかと思わせるほどの巨大な漆黒の翼。
その体を包むボンテージのような衣装。
「え...何これ...?」
体全体を見回した反町は驚愕した、それは当然のことだ。
頭に付いた角、体を動かすたびに揺れる豊満な胸、背中の翼。
性別のみならず人間というカテゴリまで変わってしまったのだから驚かない方がおかしいだろう。
「ど、どうしよう...このままじゃ僕、家に帰れない...」
体に対する驚愕が少し落ち着いた反町の心に焦りが生まれた。
三人組に追いかけられていたことなどすっかり忘れてしまっている。
と、その時。
「お姉さーん、何してんの?」
「っ!?」
今の今まで忘れていた、三人組のリーダーだ。
その後ろには後輩と思しき二人。
どうやら彼女が先ほどまで追いかけていた相手とは気づいてないようだ、まあ気づかなくて当然なのだが。
「え、あ、あの」
「おっ、戸惑ってるところもかーわいい!」
「先輩、この人すげー美人じゃないすか!誘いましょうよ!」
「でもこの人何でこんな所にいるんでしょうね、しかもすっごい際どい衣装だし羽生えてるし」
「コスプレだろコスプレ!ごめんなお姉さん、こいつらデリカシーなくて」
「先輩ひどーい!!」
勝手に盛り上がる三人組。
だが、反町にその声は届いていなかった。
(男、犯したい、めちゃくちゃにしたい、気持ちよくなりたい、犯したい)
頭の中に淫らな感情が流れ込んでくる。
(なに、これ...頭が変になりそう...)
変化の際に生じていた快感とは違った感覚が彼女の脳を揺さぶる。
(気持ちよくさせたい、思いっきりしゃぶりたい、犯したい、犯したい、犯したい)
感情は膨れ上がり、制御できないレベルにまで成長する。
そして、暴走する感情は彼女の心や精神にまで侵食し反町順という人物を書き換えていく。
(なにっ、これっ、ぼくっ、がっ、きっ、消えちゃうっ!)
少年としての記憶が跡形もなく消去され人格や思考が無理やり捻じ曲げられていく。
(やだっ、消えたくないっ!わたしっ、変わっちゃう!)
一人称も変化し、反町は確実に淫魔らしい性格へと変身する。
(あっ、犯したい、きえるっ、犯したい、犯したい、やだっ、犯したい、あっ、犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい犯したい)
そして、反町は完全に身も心も淫魔となった。
「ふ、ふふっ」
思わず笑みがこぼれる、三人も相手すればどんなに気持ちいいだろう。
会話に夢中でこちらに気づいてない三人組、その輪に入るかのように彼女はゆっくりと近づいていった。









数日後、裏路地で精液にまみれながら息絶えた三人組の変わり果てた姿が発見された。
それと時を同じくして反町順は行方不明となり警察による必死の捜索が行われたが依然としてその姿を見た者はいない。
そして最近、夜の街を飛び回り、男性を貪り食うという女性の噂が若者の間でちょっとした話題となっている。
彼女は一体何者なのか、そして反町順はどこへ消えたのか。
その真実は誰にも分からない。





匿名戦隊氏より修正していただきました。
ありがとうございました。

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