あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・

 
 一見平和な県立片秦(へんしん)高校。放課後の学校は人気も少なく、長い廊下に茜色の西日が差し込んでいた。
 そんな廊下を息を切らしながら駆ける、半そでワイシャツに黒い学生ズボン姿の少年がいた。彼の名は七戸 隼 (しちのへ しゅん)、この学校に通う一年生である。男の子にしては細く華奢な体つきで、身長も前から数えたほうが早いくらいには小さい。色素の薄い、少し長い髪に中性的な顔つきもあって、ともすれば女の子のように見えなくもない。年頃の彼にはそれが若干のコンプレックスになっていたりするのだがここでは割愛しよう。
 そんな彼が必死に廊下を駆け抜け、角を曲がり、階段をすべるように駆け下りて、たどり着いたのは一階にある非常口。そのドアノブに手をかけ必死に回そうとするのだが…
 
 「くっ、やっぱり、だめか…」
 
 銀色のノブは回るそぶりも見せなかった。ガチャガチャと音すら立たず、まるで何かで固着されているかのように全く動かない。
 
 「こうなったら…っ」
 
 隼は傍らに置いてあった消火器を両手で掴むと、それを思いっきり非常口のガラス戸に向けて投げつけた。ガラスが割れる音が響き、その破片があたりに飛び散る──はずであった、普通なら。しかし。
 
 「やっぱり、だめだ…」
 
 どういうわけかガラスは割れるどころか傷ひとつつかないまま、ガン、と硬い音がして、隼の足元に消火器が転がっていた。投げつけた消火器は何の変哲もないガラスに跳ね返されたのだった。
 
 「学校に、閉じ込められたか…」
 
 彼はこの異変に気付いてからすぐさま行動を起こしていた。学校中を駆け巡り、脱出口を捜していたのである。そしてここが最後の希望だったのだが、それは今絶たれたのである。
 それでも、彼の表情や口ぶりに、恐怖や焦燥といった感情はほとんどない。むしろそれらよりも、面倒なことに巻き込まれたというような呆れ、諦観、そして忌避が色濃い。それは彼が、いや彼らがこの異常事態を引き起こした原因を知っており、さらにそれらに対抗する「力」を持っているからであり、そして彼自身はその「力」をあまり使いたくないからであった。「力」を行使するために、彼は彼でいられなくなる。根本から作り変わらなければならないのだが──
 
 「うう…またあんな恥ずかしい格好するのは嫌だなぁ」
 
 心底嫌そうな顔で隼が呟いたその時。
 
 「正義の味方がそんなことではだめだよー、少年!」
 
 見知った声に振り向くと、そこには見知った女子生徒が腰に手をあて仁王立ちをしていた。
 
 「げえっ、つー姉…」
 
 まるでとある三国志漫画で関羽にばったり出くわした曹操のような顔になった隼。ジャーンジャーンという効果音がつきそうな顔である。彼にそんな顔をさせた女子生徒はそのドヤ顔のままつかつかと隼に歩み寄ると、ぽん、と彼の肩を叩き、にっこり笑って一言。
 
 「昔の人は言いました。諦めたらそこで試合終了だよ、と」
 
 そんな彼女は、男子生徒では小柄な彼よりもさらに小さく、赤色のリボンタイに白いワイシャツ、グレーのスカートというこの学校の女子生徒の格好をしていなければ中学生、あるいは小学生に間違われそうな体形だった。その体形にふさわしい胸はほとんど真っ平らで、女性らしい凹凸とはまったくと言っていいほど見られない。少しグレーのかかった黒髪は腰下あたりまで伸びて、彼女の動きに合わせて揺れている。その顔もまた幼さが色濃く残るものの、人好きするような悪戯っぽさと色香もわずかに含んでいた。
 
 「…いや諦めてはいませんけど」
 「ではなぜそんな疲れたような顔をしているんだい?」
 「…つー姉は本当は分かっているくせに」

  いじけたような隼の態度に、彼が「つー姉」と呼ぶ彼女──この片秦高校二年生、大石田 つばさは悪戯っぽい笑みを消して、悲しそうな表情で問いかけた。
 
 「…そんなに私と一緒に、戦うのが嫌、かな?」
 
 消え入りそうな声で、彼女はわずかに俯いた。
 
 「そんなに、嫌、かな…」
 
 そんな彼女を見て、彼は──
 
 「その手には乗りませんからね」
 「ちっ」
 
 全く意に介した様子もなく、それどころか呆れたような雰囲気で隼は彼女の演技を見破った。小さいころから彼女を知り、最近ようやく恋人へステップアップした元・幼馴染の演技など、隼にとって見破るのは容易い。一方見破られたつばさはあからさまに舌打ち、据わった目つきで「かくなる上は」とぼそりとつぶやき、目にも止まらぬ早さで隼の背後に回る。
 
 「ちょ、つー姉っ!?」
 「君が、変身するまで、イカせるのを、やめないっ!」
 
 そのまま背後から隼に抱きつく、というか半ば羽交い絞めにするようにして、つばさはあろうことか右手で隼の股間をズボンの上からまさぐり始めた。
 
 「ま、またガンダムネタですかっ!女の子がイカせるとか言わないでください!というかどこ触ってるんですか!」
 「ここか〜?ここがええのんか〜?」
 「ちょ、先輩、じゃなかったつー姉、やめてくださいよ本当に!」
 「暴れんなよ、暴れんな!」
 
 一部どこぞの淫らな夢のようなやりとりを交わしながら、隼はなんとかつばさの抱擁、ならぬ羽交い絞めを解こうとするも、相手は一年先輩とは言え小柄な少女であるにも関わらず、完全に押さえ込まれ振りほどくことは叶わない。それもそのはず、彼女の家はありとあらゆる格闘技を教える道場であり、幼い頃から父親にみっちりと仕込まれてきたその技は、素人の後輩なぞ右手で股間をなでまわすくらいの余裕をもってしてもなお、押さえ込むのは容易いのだ。
 
 「ふふ。口で拒否していても体は正直だねー?」
 「う、うう…」
 
 つばさは勝ち誇ったようににやにや笑い、隼は顔を少し赤く染めて恥ずかしそうにうなだれた。彼のズボンの下は彼女の巧みな手業によって、むくむくと起き上がり、固さを増してきていたからだった。
 
 「よーしおねーさんもっと気持ちよくしてあげちゃうぞー」
 
 言いながら、つばさは隼のズボンのチャックを下げ、そこから全く躊躇せず繊手を潜り込ませ、今度は薄いトランクスの生地越しに彼の陽物を愛撫しはじめる。すでに隼は抵抗するそぶりも見せず、ただ恥ずかしそうに俯き続けるだけだった。
 
 「う、あっ…つ、ねえ…っ」
 「…びくびくしてるね、こんなに熱くなって」
 
 ズボン越しよりもはっきり感じられる彼女の手の暖かさと刺激に、隼は身じろいだ。すっかりいきり立ち、ズボンの中で窮屈そうにしている彼の分身は、ついに先走りの汁をにじませ始める。
 
 「窮屈そうだねー。どれ、出してあげますか」

  股間をまさぐる片手で器用にトランクスを少しずりさげ、脈打つ男根を掴み、社会の窓から優しく脱出させる。窮屈さから開放された彼自身は、透明な雫をしたたらせながら股間にそそり立つ。
 
 「えい」
 「っうわぁっ!」
 
 拘束する必要はもうないと判断したつばさは、左手で茎をやさしくしごきながら、右手で亀の頭部分をすっぽり包み込むようにしながら、ぐにぐにと揉みしだくように指を蠢かせる。そのたびに隼のからだはぴくりと震え、快楽に声が出てしまう。
 
 「つ、つぅぅ、ねぇっ、う、ぼ、ぼく、もう」
 「ん、もうかい?今回は案外と早いねー」
 「っっくぁ!、う、うう」
 
 ニヤニヤと笑みを浮かべたままで、さらに両手の愛撫を加速させる。
 彼自身が熱く脈打ちながら、ついに限界に達しようとしたところで──
 
 「っああっ!!…な、なん、で…」
 
 突然つばさは右手を離した。時折睾丸を優しくマッサージしつつ陰茎をさすっていた左手は、その根元をぎゅっと握り、そのせいで彼は快楽を吐き出せずにいたのだ。
 抗議の意を含ませながら切なげな声を上げる隼の耳元で、つばさは艶っぽい声で囁く。
 
 「だーめだよ、一人でイッたら。変身できないでしょ?」
 
 そして彼を解放すると、するりと前に立ち、彼女は彼と対峙した。
 
 「それに、さ。気持ちよくなるなら、二人で、ね?」
 
 綺麗な童顔を羞恥に染めながら、しかしその行動は大胆で、彼女は自分のスカートの裾を掴むと、ゆっくりとたくし上げていく。その仕草に隼は思わず息を飲み、視線をはずすことができなかった。
 じらすような速度でスカートの幕が上がっていき、その奥に隠されていたものが露になったとき、彼は思わず目を見開いた。
 
 「つ、つー姉…ぱ、パンツ、は…」
 
 スカートの下には白い肌と、ぴったりと閉じた彼女の幼い花弁があった。それらを守るはずの薄い布地はどこにもなく、しかもその花弁の周囲は蜜でぬめり、その透明な蜜が薄い肉付きの腿を伝い、滴り落ちていた。
 
 「へへ。変身するんだ、って思ったら…ぐしょぐしょになっちゃって。脱いできちゃった…テヘペロ」
 「いや…テヘペロじゃないでしょう…」
 
 つばさにツッコミを入れながらも、先輩であるつばさの、幼い少女のようなそこについつい目がいってしまう。そしてこれから行われるであろうことを思い出すと、じらされたままの彼自身に、ますます血流が向かってしまう。
 
 「さっきから、ビクビクしてるね…」
 
 いつものような、つばさのからかうような悪戯っぽい笑み。いつもと変わらないはずの笑みが、どうしようもない淫靡なものに見えたのは、隼の錯覚だったのか。
 
 「…だから、ね?」
 
 心臓が暴れている。息が荒くなり、体中がじわりと熱くなる。
 
 「変身、しよ?」
 
 つばさの手によって快楽の頂上近くまですでに押し上げられていたせいで、彼女と出会うまで心にあった拒否も羞恥も、風に吹かれる蝋燭の炎であった。その炎は、やけに湿っぽい蠱惑的なつばさの言葉で、完全に消えてしまった。
 
 「つ、つー姉っ!!」
 「きゃっ、もう、強引だねぇ…んっ、ちゅ、くちゅ…」
 
 つばさの言う通り、隼は小柄な彼女の体を強引に抱き寄せると、その顎を持ち上げて、いきなり口づけを始めた。
 
 「ちゅ、ちゅる、ん、んふ…」
 
 唇を啄むようなキスはすぐに舌をからめ合う深いものになる。隼の背中に両手を回し、つばさも彼により強く密着する。
 
 「ん、んん…きゅ、んちゅ、んんんっ」
 
 互いの舌が絡まり合う蛇のように求め合う。互いの唾液が口の中で混ざり合い、二人はそれをゆっくりと、喉へ流し込む。
 
 「ん、んく、んん……んんんっ!!」
 「う、うう、んう……うううっ!!」
 
 そうしてゴクリと、自分と相手のものがまざりあったものを嚥下した瞬間。二人の中をびりっとした甘い刺激が駆け巡り、体の奥底に小さな熱が生まれた。今までに感じていたものとは明らかに別の、自分という炉の中に火がくべられたような不思議な感覚。どちらともなく唇が離れ、それを惜しむ唾液のアーチが二人を繋ぎ、そして切れた。
 
 「は、ぁぁ……はじまっちゃった、ね…」
 
 朱の差した頬で微笑むつばさ。その言葉が意味することを、隼も知っている。

 なぜなら二人は、ふつうの人間ではなくなっていたからだ。


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 3か月前の放課後。下校途中の二人は一人の少女によって連れ去られた。

 ──魔法世界、マキリスタ。私はそこから来たの。

 二人を拉致し、「作り変えた」少女は不可思議な力によって動けない二人にこう言い放った。

 この世界とは違う、別の次元。魔法、と呼ばれる力によって栄えた別の世界。
 
 ──その魔法世界が、この「無魔世界(ノル・マキリスタ)」を手中に収めるため。その尖兵であり、手駒である「魔法少女(マギラナ)」へ、あなたたちを作り変えるわ。

 残酷な宣言と共に、抵抗できぬまま二人は、体内に魔石を埋め込まれ、ルーンを刻まれた。最後に、服従させるための魔法具──アーティファクトを埋め込まれる前に、二人は封印を破り、脱出した。
 それ以来、彼らは戦い続けている。自分たちと、この世界──ノル・マキリスタを付け狙う者たちと。そして今日もまた、<魔法世界>からの刺客──自分たちと同じ魔法少女との戦いが始まるのだ。

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 「う、うう、うあああ…」
 「あ、ああん、あはぁ…」

 加速度的に増していく、体の熱。血液とは明らかに違うものが全身を駆け巡る度に感じる、甘い痺れ。心臓は限界まで早打ち、淫らに湿った息を吐く二人。ズボンのチャックの間からそそり立つ隼の男根と、スカートの下、ショーツという薄い布にさえ守られていないつばさの秘裂は、欲望に塗れた透明な汁を滴らせている。

 「ああ…しゅん、くん……」
 「つ、つぅ、ねぇ…」

 二人に点いた劣情の炎が、一気に燃え上がった。

 「つ、つーねぇっ!つばさねえさんっっ!!」
 「あ、ああああ…!隼くんっ!しゅんくんっっっ!!!」

 限界を突破したつばさと隼は、互いの名を呼びながらもう一度強く抱き合い、そして隼が少し身をかがめ、つばさの年頃の平均より細い太ももを両腕で抱くようにして、彼女の小さな体を持ち上げる。つばさは躊躇うどころか、少しでも早く捨て去ってしまいたいもどかしさと共に、スカートのホックをあっさり外して、ばさりと床に脱ぎ捨てると、隼の肩から首の後ろへ手を回し、彼に縋り付く。そして──

 「う、うああああああああああ!!!」
 「あ、あ、あ、っあああああああああああああああああんっっっ!!!!」

 隼が腰を軽く突き上げ、つばさが少し腰を落とす。互いを求めてやまない二人の淫らな部分が繋がった。その悦びと快楽のあまり、つばさは隼自身を根本まで銜え込みながら、きゅうきゅうと締め付けて達し、隼はつばさの中を貫き、その奥で絶頂を放った。

 「う、うあ、うううううっ!!」
 「あ、ああ、ああああああああああああ…!」

 無限とも思える短い快楽の放出を終えた隼。どこまでも昇っていくような有限の高みへ昇りつめたつばさ。しかし二人の肉体は満足を覚えず、さらなる高みを、快楽を執拗に求めていた。証拠に彼の剛直はさらにいきり立ち、彼女の中は彼をすっぽり包んだまま離そうとしなかった。
 そして二人は、収まりのつかない劣情のまま、貪り合い始める。

 「あんっ!!あ、ああ、あ、あ、あ、あ…っ!!!」
 「う、うう、ううううっ!!」

 肉を打ち付ける音に混じって、いやらしい水音がかすかに聞こえる。そしてそれらをかき消すかのような、しん、と静まり返った廊下に響く、つばさの快楽に染まりきった嬌声。貫く度、貫かれる度狂おしいほどの悦楽が二人の体に迸る。

 「うあんっ!!んうぅっ!!ひゃ、くふ、んあっ!!!」
 「くっ、ううっ、うあああ…っ」

 普通の人の身ならばありえない。気を失うか、気を違えるほどにその性感は暴力的で、強すぎるものだった。立ったままの隼につばさがしがみつく、下品な比喩で駅弁と呼ばれる体勢のまま、ただの人間であれば壊れてしまう快楽の理由を、それが自分たちの体に埋め込まれた、透き通る色の小さなクリスタル──魔石によるものだと知っている。人間から、人間を超える圧倒的な力を持った存在、魔法少女へと作り変えるために、それぞれの魔石が全身に、その力──魔力を流し込んでいるのだ。流し込まれた魔力は、細胞のひとつひとつに沁みわたり、変質させていく。この壮絶な快楽は、変質していく細胞の、肉体の悲鳴であり、嬌声なのだと二人は知っている。

 「あ、ああ、!だめぇっ!!で、でて、き、ちゃううううっっ!!」
 「う、うあああ!くうううううううぅっ!!」

 二人は胸元にむず痒さを覚え、一際高く叫んだ。首の根本の皮膚が蠢き、ピンポン玉くらいの大きさに膨らむと、ぷち、と皮膚を割って、球体が顔を覗かせた。つばさの胸元には赤く輝くルビーのような輝きを持った、隼の胸元には青く透き通るサファイアのような煌きを持った、二つの球体。皮膚を割いたのにも関わらず、血の一滴も流れ出ないそれらは半分が露出し、もう半分が体内にめり込んでいる、宝石を直接体に縫い付けたような異様な姿。無論、隼もつばさも、自分たちの体内に潜んでいたこの異様な宝石の正体を知っている。内部にぼんやりと何か明かりのようなものが灯ったこの球体こそ、今二人を作り変えようとしている魔石なのだった。

 「あんっ!!んあ、くひ、いいいいっ!!あ、ひゃうぅぅっ!!」

 つばさの長い髪が揺れる。隼に腰を突き上げられ、自分の奥にこつこつと、彼の男根の先が当たっているのが分かる。意識が飛びそうになるのをこらえながらも、彼女は自身がさらなる絶頂へと導かれているのが分かる。それに比例して、あの胸元の球体も、灯った輝きが徐々にはっきりと、強くなっていく。隼も同様で、限界が近づいていく程に、青い輝きがより輝度を増していく。
 
 「う、あ、あああああ…っ!!」

 二つの荒い吐息の音色が混じり合う。その時が近い二人は、ラストスパートと言わんばかりに、さらに激しく互いを求め合う。

 「ああ!!ん、ん、んああああ!!しゅん、しゅんっっ!!!」
 「ねえさんっ!つばさねえっ!!つばさ、つばさぁっ!!」

 腰を激しく打ち付けて、お互いの名を呼び合い、さらに強く抱き合い。つばさの両脚が隼の腰をぎゅっと挟み、魔石の輝きは直視できないほどに強く光り。
 
 「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
 「ううううああああああああああああああああああああ!!!!」

 叫び声のような絶頂の嬌声と共に、光の爆発が全てを包んだ。




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