最終更新:ID:ZZmXL7YO8A 2012年03月23日(金) 11:19:31履歴
ピンポーン――
そのベルチャイムが鳴ったのは、俺が玄関に入ってすぐだった。
あまりのタイミングに、俺は警戒しつつドアの覗き穴を覗いた。
「遠山さーん、宅配便でーす」
確かに宅配便のようだ。だが、俺にはそういう物が届く予定は無かった。
祖父さんたちからも何も聞いてない。
不振に思いながらも、俺はドアを開け、荷物を受け取った。
宛先は確かに俺――遠山キンジ。送り主を見ると……そこには有名な通販サイトの名前があった。
そこなら俺も何度か利用したことがある。本やDVDを探して買うのに便利だからだ。
だけど、ここ最近は注文していない。
品名を見ると、そこには『事務用品』とある。
なおさら俺には心当たりがない。
俺が不思議に思って、リビングのソファでその箱を眺めていると――
ガスッッ!
「こら、バカキンジ。なにをボンヤリしてるのよ」
後頭部に衝撃を受けると同時に、そんな罵声が浴びせられた。
振り返るとそこには見慣れたピンクのツインテール、アリアが仁王立ちしている。
その右手にはカバンが下げられている。どうやらそれで俺は殴られたようだ。
当然のように自分のスペアキーで鍵を開けて入ってきている。もうツッコむ気にもならん。
「今日はチームのみんなでミーティングするから、先に帰って部屋を片付けとけっていったでしょー」
いつものアニメ声でギャンと怒鳴り散らす。
そのすぐ後にはレキがいつもの無表情で立って、なんのフォローもすることなく俺を見下ろしている。
「いや、違うんだ。俺は覚えの無い荷物が届いたから、それをチェックしていたんだ」
いいつけを守らず、ただサボってた分けではないので、俺は弁解した。
「ほら、これ」
俺は荷物をアリアに差し出す。
「覚えの無い荷物って……あんた」
アリアも箱を受け取り、ジロジロと箱を見てチェックしている。
ワレモノと記載されているので、そう乱暴には扱えない。
アリアは耳を近づけたり、ニオイをかいだりしているが、何も発見などは無いようだ。
レキはまだ黙ってその様子を見ている。こちらはそんな不振な物を手に持つ気も無さそうだ。
「特におかしな物ではなさそうね。まぁ、ちゃんと調べないと、はっきりしないけど」
アリアは荷物を俺に返してきた。
「それで、どうすんのよ。ていうか、ホントに心当たり無いの?」
「無い」
俺は荷物を受け取り、そう断言した。
「アリアにも心当たりないんだな?」
「なんでわたしがあんたの名前で通販を利用すんのよっ」
だよな。俺は荷物を改めて眺めた。
「んー、白雪と理子にも一応確認してみて、心当たり無いようだったら送り返すか……」
どんなトラップかもしれないのに、そう簡単に開けるつもりはない。
「そうね。もしくは学校の調査機関に調査を依頼するか、ってところね」
アリアもそういってソファに腰を下ろした。
レキも黙ってその隣に座る。
そういえば、ハイマキがいないな。聞くと、「外にいます」とだけ答えてくれた。
もうちょっと何かあるだろう、まぁ、あんまり広くないから、それでいいんだけど……。
「それで? 白雪と理子は?」
「もう帰って来ると思うわ。ジャンケンで買出し担当になったから、いろいろ頼んだの」
そう話すうちに玄関辺りが騒がしくなった。
「いやぁ、まさかゆきちゃんがそんな食べ方するなんてね。くふふっ」
「もぉっキンちゃんたちには言わないでね」
二人も勝手知ったるとばかりに、平然と入ってくる。
「たっだいまー」
「ただいまです。あの、キンちゃんの好きなものとかも、色々買ってきましたです」
それぞれ大きなビニールを下げた二人もソファに腰掛る。これで五人揃った。
並びは奥から、理子、白雪、俺、アリア、レキ。
また女子に囲まれたよ。各々の匂いが混じって、なんかヤダな。
「白雪、理子。これになんか心当たりがないか?」
俺は例の荷物を持ち上げて、二人に問いかけた。
「ん? 何それ。ちょっと貸して」
理子がヒョイッと荷物をかっさらう。
それでも乱暴に扱ったりせずに外観をチェックしている辺りは、さすがである。
「んー、知らない。はい、ゆきちゃん」
「えっ…えと……、わたしも知らない……で――」
荷物を渡されてチェックした後、心当たりは無さそうなので俺に渡そうとした白雪の動きが止まる。
「どうしたの? なにか不審物!?」
アリアがその様子に気付いて警戒の声をだす。これは本気っぽいぞ。
俺も立ち上がった。ふと見ると、理子も真剣な顔つきで立ち上がっている。
レキは少し離れて、いつもの無表情のままこっちを見ている。
「白雪、荷物を置きなさい。すぐに鑑識科を手配するわ」
「おい白雪、どうしたんだ? なんか感じたか?」
白雪は超能力者だ。そのチカラで何か異常を感じ取ったのかもしれない。
「ゆきちゃん、どうしたの?」
理子も警戒モード全開のようだ。
「白雪さん……」
レキも心なしか心配そうだ。つーか、それだけかよ。
「……白雪?」
俺は全く動こうとしない白雪に声をかける。
「もしもし武偵高? こちら神崎・H・アリア。至急――」
「ちょっと待って!」
アリアが携帯で武偵高に電話して、鑑識科に出動要請をしようとするのを大きな声で白雪が止めた。
「どうした? なんか分かったか?」
俺はその真剣な様子を見て、アリアの方を向き、手で電話を中断させる仕草をした。
アリアもそんな俺を見て何かを悟ってくれた。
「ごめんなさい、また連絡します」
白雪はS級の超能力者だ。アリアもそれを信じて、電話を切った。
「白雪、どういうことなの?」
アリアの額には汗がにじんでいる。
「ゆきちゃん、まさか超常現象系?」
理子もいつものおちゃらけた感じはない。
「白雪さん……」
レキは変わらずだ。
白雪を中心にリビングが異常なほど深刻なムードになる。
そんな中、白雪が荷物を持ってゆっくりと立ち上がった。
「おい、大丈夫なのか?」
俺の問いかけに、ゆっくりと白雪はこっちを向いた。ん、なんか口が動いているぞ。
「……うぶ、だいじょうぶなの……」
白雪が小さな声でそう言っている。
「だいじょうぶ? 不審物じゃないのか?」
「ホントに? じゃあ何?」
「さっきちょっと調べた感じじゃ、爆弾って感じでもなかったけど?」
「白雪さん……」
俺たち四人に見守られた白雪は、なんだかぎこちない笑顔を作ってみせた。
「だ、だいじょうぶなの。ここ、これは、わた、わたしががが、たむ、頼んだもののだったたった」
白雪が急に壊れたロボットのような喋り方になった。
「だ、だだらら、だいじょうぶなのでありますでございますっ」
白雪の顔は青ざめてしまっている。
「ほんとか? お前が頼んだ物なんだな?」
「じゃあ、普通の通販なのね?」
「なーんだ、ゆきちゃんチョーシリアスだから、理子もあせちゃった」
「白雪さん……」
俺たち四人に白雪が、コクコクと何度も頷いている。
だけど、俺には白雪が何か隠しているようにも見える。
まさかまた、一人で危険を背負い込むつもりじゃないのか?
そう思った俺が、白雪の肩に手をかけようとした瞬間――
「ほんとにだいじょうぶだから。注文したのを……そう、忘れてたのっ」
白雪が必死のまなざしで俺を見ている。これはあの時とは違う。
どうやら危険性は無いようだ。
「いや、それならいいんだ」
俺は手を下ろした。
「ほんとに大丈夫なのね? ――もしもし、武偵高?」
アリアは再度携帯を使いはじめた。おそらくさっきの電話のフォローだ。
「あーよかった。てっきりテロかと思って、窓から逃げること準備をするとこだった」
理子はソファに座ると、ビニールからいちご牛乳を取り出して飲みはじめた。
「白雪さん……」
レキもまたソファに戻ってきた。ここにきたすぐと何も変わっていない。
こうして、不審物騒動は何事も無く治まった。
俺も喉が渇いたので、理子にペットボトルのお茶を出してもらう。
アリアにももまんを出し、レキにはカロリーメイトを出す。
理子はそれからお菓子やジュースをテーブルに並べている。
「おい、白雪も座れよ」
いつまでも立ったままの白雪に声をかける。だけど、なんだか放心状態だ。
それでも俺たちに何度か呼ばれ続けるうちに、「あ、う、うん…座るよ」と気がついたようだ。
「ちょっと今回は早とちりだったわね」
「そうだよう。ゆきちゃんも人が悪いねぃ」
アリアと理子はすっかりリラックスしている。レキは黙ったままだけど。
「まぁたしかに、俺たちももうちょっと白雪の話を聞いとくべきだったな」
俺も安心しきっていた。
「そ、そうだね。ホントにごめんなさいです」
白雪も笑っている。少しぎこちない気もするが。
そう笑いながら、白雪は荷物をそーっと自分の背中に隠そうとしてるのが目に入った。
まぁ、特に気にはならなかった。
しばらくはみんなでお菓子を食べたり、雑談などしていた。
――が、しかし――
「でも……、なんで白雪さんは、キンジさんの名前で通販を利用したんですか?」
レキがボソッとつぶやくように言った。
確かに。
さっきアリアも「なんでわたしがあんたの名前で通販を利用すんのよっ」って言ったっけ。
「何でだ? 白雪」
俺も気になった。
「えっ……? え…っと、それ……は……、その……」
白雪が急にしどろもどろになる。
「あれ? ゆきちゃん、まさかヘンなモノ、頼んだんじゃない?」
「ギクッ!!!!!」
理子の問いかけに、白雪がマンガのような声を出した。
「え? マジ? 冗談のつもりだったんだけど……」
理子が顔を引きつらせる。がすぐにニヤッと笑い出す「くふっ」
「ちょ、ちょっとヘンなモノってなんなのよ?」
アリアは真剣は表情で理子を問い詰める。
「えーっと、それは理子りんの口からは言えないのでありますっ」
理子がビシッと敬礼して答える。
「ちょっと、なんなのよっ。白雪」
「あわわ、あわわわわわわわわっ」
白雪は顔を真っ赤にして、両手をバタバタさせはじめた。
「こ、こ、こ、こ、これは……」
白雪はさっき背中に隠した荷物を取り出そうとしているが――
「そーい」
理子がそれよりも早く荷物を取り出して、立ち上がる。
「アリアんや、ゆきちゃんを抑えといてくんない」
そして箱を開封しはじめる。
「ダメですっ。やめてーーーっ」
白雪も理子を止めようと手を伸ばすが、アリアが俺を飛び越えて、白雪を押さえ込む。
「なんなのよっ、気になるじゃない」
「ならないで、気にならないでーっ」
さすがS級武偵アリア、対格差があろうと、完璧に白雪を押さえ込んでいる。
その間も理子は開封作業をすすめている。
ガムテープを剥ぎ取り、中からプチプチに包まれた物体を取り出した。
「キャーー。後生です、そこまでで勘弁してくださいーーーー」
白雪は必死に懇願するが、アリアは押さえ込みを解かず、理子を手を止めない。
笑ってはいたが、さっきの騒動のことを根に持っていたようだ。
「くふふっ」
理子が最後の包装を解いた。
「やーーめーーてーーーーっ」
白雪は大きな声を出して、顔を伏せた。もう耳まで真っ赤だ。
「じゃーーん」
理子がまるで優勝者がトロフィを掲げるかのように、箱の中身を持ち上げてみせる。
「…………おい」
「……何、あれ?」
「白雪さん……」
時間が止まる。
「バ・イ・ブ、キターーーーーーーー」
理子の歓喜の声の後、静寂が訪れる。あれはなんだ?
いや、その形状が意味するものは分かる。俺の股間についているモノと似ているから。
しかし用途が分からない。白雪はあれをどうするというんだ? なんだか背筋がゾッとした。
「キンジ、あれは何なの?」
アリアにいたっては、その形状の意味すらも分かっていないようだ。
「俺に聞くな。いや、お前はまだ分からなくていいんだ」
アリアはキョトンとしている。
「くふっ。アリア、レキュ、見て見てー。ポチっとなー」
その物体にはスイッチが付いているようで、理子がそれを押したようだ。すると――
……ウィーーーーン……
物体の先のほうがグルグルと円を描くように動き出した。
「キャハハハハーー」
理子はそれをテーブルに置いて、お腹を抱えて笑い転げている。
「ちょっと、何これ? 理子、説明しなさいよ。キンジも」
アリアは眉をひそめている。
「……」
レキは無表情のまま、テーブルの物体を見ている。
俺はどうすることできず、ただ固まってしまった。
「…違うんです…」どこからか声がする。
「違うんです。間違えたんです……」アリアの下の白雪が喋っているようだ。泣いているようでもある。
「ちゃんと配達日を明日に指定してたんです……」白雪はブツブツと喋っている。
「だから明日はみんなよりも早く帰ってきて受け取るつもりだったんです……」グスッと鼻をすする。
「それがなんで今日届くんですか……」
だんだん声が熱を帯びてくる。
アリアも不気味に思ったようで、押さえ込みを解いた。
「しかもそれをなんで他人が開けるというのです…………かっっ」
白雪が刀を抜いて理子に斬りかかる。
だが理子もすぐに立ち上がって、その斬撃をみごとにかわす。
しかも例の物体をまるでナイフにようにその手に持っている。
「ゆきちゃんにこの名刀キンジJr.の攻撃がかわせるかな?」
戦闘狂の理子はノリノリだ。
「おい、ヘンな名前を付けるな」
確かにアレをジュニアっていうよな、と納得しそうになった。
「ねぇ、なんであれがキンジJr.なの?」
アリアは首をひねっている。
「……」
レキは黙ったままだ。もういいよ。
あぁ、この戦いを止めなきゃならんのか。どうすりゃいいんだ。
アリアはあの物体の意味を俺に聞き続けているし、レキは……うん、期待してないし。
「違いますっ。それはジュニアなんかじゃありませんっ」
何を言ってるんだ白雪……。
白雪の必殺の斬撃も理子が見事にかわしている。が、それも限界のようだ。
理子は例の物体を手に持ってはいるが、それで刀を受けることができるでもない。
ほとんど余裕もない。そろそろ止めないと、流血沙汰になってしまう。
だが、理子は冷静だったようだ。通常時の俺よりか何枚も上だった。
「奥義、真剣ジュニア止めっ!」
白雪が理子の頭めがけて斬り下ろした刀を、理子が例の物体を真横にして受ける。
本当ならそんなものごと真っ二つになってしまうところだが、そうはならなかった。
白雪も俺たちの白日の下に晒されたとはいえ、せっかく取り寄せたんだ、どこかで勿体無いと
思ったのかもしれない。
見事に白雪の刀は、例の物体に傷さえつけることなく、ピタリと止まっていた。
「できません……」
突然白雪が震える声を出した。
「わたしにはできません……」
ヘナヘナとその場に座り込む。
「わたしには……、わたしには、キンちゃんを斬るなんてできませんからーー」
白雪は顔を伏せて泣き出した。
「いあやいや、それはおれじゃないし」
あえて深い意味はツッコまないでおく。
「ねぇ、あれは何なの? キンジとかジュニアとか。説明しないと風穴っ」
アリアはなんだか怒り出した。
「キャハハハハハハハハ」
理子はまた笑い転げている。
「白雪さん……」
レキはそう呟いただけだった。
なんだ、コレ?
この状況、誰かなんとかしてくれよ。
例の物体がウィーンウィーンと動き続ける中、俺はアリアに自分で調べるよう言いながらも
泣き続ける白雪の背中を軽く叩いてやったりした。
理子はまだずっと笑い転げていたし、レキは九時にはさっさと自分の部屋に帰っていった。
おしまい
そのベルチャイムが鳴ったのは、俺が玄関に入ってすぐだった。
あまりのタイミングに、俺は警戒しつつドアの覗き穴を覗いた。
「遠山さーん、宅配便でーす」
確かに宅配便のようだ。だが、俺にはそういう物が届く予定は無かった。
祖父さんたちからも何も聞いてない。
不振に思いながらも、俺はドアを開け、荷物を受け取った。
宛先は確かに俺――遠山キンジ。送り主を見ると……そこには有名な通販サイトの名前があった。
そこなら俺も何度か利用したことがある。本やDVDを探して買うのに便利だからだ。
だけど、ここ最近は注文していない。
品名を見ると、そこには『事務用品』とある。
なおさら俺には心当たりがない。
俺が不思議に思って、リビングのソファでその箱を眺めていると――
ガスッッ!
「こら、バカキンジ。なにをボンヤリしてるのよ」
後頭部に衝撃を受けると同時に、そんな罵声が浴びせられた。
振り返るとそこには見慣れたピンクのツインテール、アリアが仁王立ちしている。
その右手にはカバンが下げられている。どうやらそれで俺は殴られたようだ。
当然のように自分のスペアキーで鍵を開けて入ってきている。もうツッコむ気にもならん。
「今日はチームのみんなでミーティングするから、先に帰って部屋を片付けとけっていったでしょー」
いつものアニメ声でギャンと怒鳴り散らす。
そのすぐ後にはレキがいつもの無表情で立って、なんのフォローもすることなく俺を見下ろしている。
「いや、違うんだ。俺は覚えの無い荷物が届いたから、それをチェックしていたんだ」
いいつけを守らず、ただサボってた分けではないので、俺は弁解した。
「ほら、これ」
俺は荷物をアリアに差し出す。
「覚えの無い荷物って……あんた」
アリアも箱を受け取り、ジロジロと箱を見てチェックしている。
ワレモノと記載されているので、そう乱暴には扱えない。
アリアは耳を近づけたり、ニオイをかいだりしているが、何も発見などは無いようだ。
レキはまだ黙ってその様子を見ている。こちらはそんな不振な物を手に持つ気も無さそうだ。
「特におかしな物ではなさそうね。まぁ、ちゃんと調べないと、はっきりしないけど」
アリアは荷物を俺に返してきた。
「それで、どうすんのよ。ていうか、ホントに心当たり無いの?」
「無い」
俺は荷物を受け取り、そう断言した。
「アリアにも心当たりないんだな?」
「なんでわたしがあんたの名前で通販を利用すんのよっ」
だよな。俺は荷物を改めて眺めた。
「んー、白雪と理子にも一応確認してみて、心当たり無いようだったら送り返すか……」
どんなトラップかもしれないのに、そう簡単に開けるつもりはない。
「そうね。もしくは学校の調査機関に調査を依頼するか、ってところね」
アリアもそういってソファに腰を下ろした。
レキも黙ってその隣に座る。
そういえば、ハイマキがいないな。聞くと、「外にいます」とだけ答えてくれた。
もうちょっと何かあるだろう、まぁ、あんまり広くないから、それでいいんだけど……。
「それで? 白雪と理子は?」
「もう帰って来ると思うわ。ジャンケンで買出し担当になったから、いろいろ頼んだの」
そう話すうちに玄関辺りが騒がしくなった。
「いやぁ、まさかゆきちゃんがそんな食べ方するなんてね。くふふっ」
「もぉっキンちゃんたちには言わないでね」
二人も勝手知ったるとばかりに、平然と入ってくる。
「たっだいまー」
「ただいまです。あの、キンちゃんの好きなものとかも、色々買ってきましたです」
それぞれ大きなビニールを下げた二人もソファに腰掛る。これで五人揃った。
並びは奥から、理子、白雪、俺、アリア、レキ。
また女子に囲まれたよ。各々の匂いが混じって、なんかヤダな。
「白雪、理子。これになんか心当たりがないか?」
俺は例の荷物を持ち上げて、二人に問いかけた。
「ん? 何それ。ちょっと貸して」
理子がヒョイッと荷物をかっさらう。
それでも乱暴に扱ったりせずに外観をチェックしている辺りは、さすがである。
「んー、知らない。はい、ゆきちゃん」
「えっ…えと……、わたしも知らない……で――」
荷物を渡されてチェックした後、心当たりは無さそうなので俺に渡そうとした白雪の動きが止まる。
「どうしたの? なにか不審物!?」
アリアがその様子に気付いて警戒の声をだす。これは本気っぽいぞ。
俺も立ち上がった。ふと見ると、理子も真剣な顔つきで立ち上がっている。
レキは少し離れて、いつもの無表情のままこっちを見ている。
「白雪、荷物を置きなさい。すぐに鑑識科を手配するわ」
「おい白雪、どうしたんだ? なんか感じたか?」
白雪は超能力者だ。そのチカラで何か異常を感じ取ったのかもしれない。
「ゆきちゃん、どうしたの?」
理子も警戒モード全開のようだ。
「白雪さん……」
レキも心なしか心配そうだ。つーか、それだけかよ。
「……白雪?」
俺は全く動こうとしない白雪に声をかける。
「もしもし武偵高? こちら神崎・H・アリア。至急――」
「ちょっと待って!」
アリアが携帯で武偵高に電話して、鑑識科に出動要請をしようとするのを大きな声で白雪が止めた。
「どうした? なんか分かったか?」
俺はその真剣な様子を見て、アリアの方を向き、手で電話を中断させる仕草をした。
アリアもそんな俺を見て何かを悟ってくれた。
「ごめんなさい、また連絡します」
白雪はS級の超能力者だ。アリアもそれを信じて、電話を切った。
「白雪、どういうことなの?」
アリアの額には汗がにじんでいる。
「ゆきちゃん、まさか超常現象系?」
理子もいつものおちゃらけた感じはない。
「白雪さん……」
レキは変わらずだ。
白雪を中心にリビングが異常なほど深刻なムードになる。
そんな中、白雪が荷物を持ってゆっくりと立ち上がった。
「おい、大丈夫なのか?」
俺の問いかけに、ゆっくりと白雪はこっちを向いた。ん、なんか口が動いているぞ。
「……うぶ、だいじょうぶなの……」
白雪が小さな声でそう言っている。
「だいじょうぶ? 不審物じゃないのか?」
「ホントに? じゃあ何?」
「さっきちょっと調べた感じじゃ、爆弾って感じでもなかったけど?」
「白雪さん……」
俺たち四人に見守られた白雪は、なんだかぎこちない笑顔を作ってみせた。
「だ、だいじょうぶなの。ここ、これは、わた、わたしががが、たむ、頼んだもののだったたった」
白雪が急に壊れたロボットのような喋り方になった。
「だ、だだらら、だいじょうぶなのでありますでございますっ」
白雪の顔は青ざめてしまっている。
「ほんとか? お前が頼んだ物なんだな?」
「じゃあ、普通の通販なのね?」
「なーんだ、ゆきちゃんチョーシリアスだから、理子もあせちゃった」
「白雪さん……」
俺たち四人に白雪が、コクコクと何度も頷いている。
だけど、俺には白雪が何か隠しているようにも見える。
まさかまた、一人で危険を背負い込むつもりじゃないのか?
そう思った俺が、白雪の肩に手をかけようとした瞬間――
「ほんとにだいじょうぶだから。注文したのを……そう、忘れてたのっ」
白雪が必死のまなざしで俺を見ている。これはあの時とは違う。
どうやら危険性は無いようだ。
「いや、それならいいんだ」
俺は手を下ろした。
「ほんとに大丈夫なのね? ――もしもし、武偵高?」
アリアは再度携帯を使いはじめた。おそらくさっきの電話のフォローだ。
「あーよかった。てっきりテロかと思って、窓から逃げること準備をするとこだった」
理子はソファに座ると、ビニールからいちご牛乳を取り出して飲みはじめた。
「白雪さん……」
レキもまたソファに戻ってきた。ここにきたすぐと何も変わっていない。
こうして、不審物騒動は何事も無く治まった。
俺も喉が渇いたので、理子にペットボトルのお茶を出してもらう。
アリアにももまんを出し、レキにはカロリーメイトを出す。
理子はそれからお菓子やジュースをテーブルに並べている。
「おい、白雪も座れよ」
いつまでも立ったままの白雪に声をかける。だけど、なんだか放心状態だ。
それでも俺たちに何度か呼ばれ続けるうちに、「あ、う、うん…座るよ」と気がついたようだ。
「ちょっと今回は早とちりだったわね」
「そうだよう。ゆきちゃんも人が悪いねぃ」
アリアと理子はすっかりリラックスしている。レキは黙ったままだけど。
「まぁたしかに、俺たちももうちょっと白雪の話を聞いとくべきだったな」
俺も安心しきっていた。
「そ、そうだね。ホントにごめんなさいです」
白雪も笑っている。少しぎこちない気もするが。
そう笑いながら、白雪は荷物をそーっと自分の背中に隠そうとしてるのが目に入った。
まぁ、特に気にはならなかった。
しばらくはみんなでお菓子を食べたり、雑談などしていた。
――が、しかし――
「でも……、なんで白雪さんは、キンジさんの名前で通販を利用したんですか?」
レキがボソッとつぶやくように言った。
確かに。
さっきアリアも「なんでわたしがあんたの名前で通販を利用すんのよっ」って言ったっけ。
「何でだ? 白雪」
俺も気になった。
「えっ……? え…っと、それ……は……、その……」
白雪が急にしどろもどろになる。
「あれ? ゆきちゃん、まさかヘンなモノ、頼んだんじゃない?」
「ギクッ!!!!!」
理子の問いかけに、白雪がマンガのような声を出した。
「え? マジ? 冗談のつもりだったんだけど……」
理子が顔を引きつらせる。がすぐにニヤッと笑い出す「くふっ」
「ちょ、ちょっとヘンなモノってなんなのよ?」
アリアは真剣は表情で理子を問い詰める。
「えーっと、それは理子りんの口からは言えないのでありますっ」
理子がビシッと敬礼して答える。
「ちょっと、なんなのよっ。白雪」
「あわわ、あわわわわわわわわっ」
白雪は顔を真っ赤にして、両手をバタバタさせはじめた。
「こ、こ、こ、こ、これは……」
白雪はさっき背中に隠した荷物を取り出そうとしているが――
「そーい」
理子がそれよりも早く荷物を取り出して、立ち上がる。
「アリアんや、ゆきちゃんを抑えといてくんない」
そして箱を開封しはじめる。
「ダメですっ。やめてーーーっ」
白雪も理子を止めようと手を伸ばすが、アリアが俺を飛び越えて、白雪を押さえ込む。
「なんなのよっ、気になるじゃない」
「ならないで、気にならないでーっ」
さすがS級武偵アリア、対格差があろうと、完璧に白雪を押さえ込んでいる。
その間も理子は開封作業をすすめている。
ガムテープを剥ぎ取り、中からプチプチに包まれた物体を取り出した。
「キャーー。後生です、そこまでで勘弁してくださいーーーー」
白雪は必死に懇願するが、アリアは押さえ込みを解かず、理子を手を止めない。
笑ってはいたが、さっきの騒動のことを根に持っていたようだ。
「くふふっ」
理子が最後の包装を解いた。
「やーーめーーてーーーーっ」
白雪は大きな声を出して、顔を伏せた。もう耳まで真っ赤だ。
「じゃーーん」
理子がまるで優勝者がトロフィを掲げるかのように、箱の中身を持ち上げてみせる。
「…………おい」
「……何、あれ?」
「白雪さん……」
時間が止まる。
「バ・イ・ブ、キターーーーーーーー」
理子の歓喜の声の後、静寂が訪れる。あれはなんだ?
いや、その形状が意味するものは分かる。俺の股間についているモノと似ているから。
しかし用途が分からない。白雪はあれをどうするというんだ? なんだか背筋がゾッとした。
「キンジ、あれは何なの?」
アリアにいたっては、その形状の意味すらも分かっていないようだ。
「俺に聞くな。いや、お前はまだ分からなくていいんだ」
アリアはキョトンとしている。
「くふっ。アリア、レキュ、見て見てー。ポチっとなー」
その物体にはスイッチが付いているようで、理子がそれを押したようだ。すると――
……ウィーーーーン……
物体の先のほうがグルグルと円を描くように動き出した。
「キャハハハハーー」
理子はそれをテーブルに置いて、お腹を抱えて笑い転げている。
「ちょっと、何これ? 理子、説明しなさいよ。キンジも」
アリアは眉をひそめている。
「……」
レキは無表情のまま、テーブルの物体を見ている。
俺はどうすることできず、ただ固まってしまった。
「…違うんです…」どこからか声がする。
「違うんです。間違えたんです……」アリアの下の白雪が喋っているようだ。泣いているようでもある。
「ちゃんと配達日を明日に指定してたんです……」白雪はブツブツと喋っている。
「だから明日はみんなよりも早く帰ってきて受け取るつもりだったんです……」グスッと鼻をすする。
「それがなんで今日届くんですか……」
だんだん声が熱を帯びてくる。
アリアも不気味に思ったようで、押さえ込みを解いた。
「しかもそれをなんで他人が開けるというのです…………かっっ」
白雪が刀を抜いて理子に斬りかかる。
だが理子もすぐに立ち上がって、その斬撃をみごとにかわす。
しかも例の物体をまるでナイフにようにその手に持っている。
「ゆきちゃんにこの名刀キンジJr.の攻撃がかわせるかな?」
戦闘狂の理子はノリノリだ。
「おい、ヘンな名前を付けるな」
確かにアレをジュニアっていうよな、と納得しそうになった。
「ねぇ、なんであれがキンジJr.なの?」
アリアは首をひねっている。
「……」
レキは黙ったままだ。もういいよ。
あぁ、この戦いを止めなきゃならんのか。どうすりゃいいんだ。
アリアはあの物体の意味を俺に聞き続けているし、レキは……うん、期待してないし。
「違いますっ。それはジュニアなんかじゃありませんっ」
何を言ってるんだ白雪……。
白雪の必殺の斬撃も理子が見事にかわしている。が、それも限界のようだ。
理子は例の物体を手に持ってはいるが、それで刀を受けることができるでもない。
ほとんど余裕もない。そろそろ止めないと、流血沙汰になってしまう。
だが、理子は冷静だったようだ。通常時の俺よりか何枚も上だった。
「奥義、真剣ジュニア止めっ!」
白雪が理子の頭めがけて斬り下ろした刀を、理子が例の物体を真横にして受ける。
本当ならそんなものごと真っ二つになってしまうところだが、そうはならなかった。
白雪も俺たちの白日の下に晒されたとはいえ、せっかく取り寄せたんだ、どこかで勿体無いと
思ったのかもしれない。
見事に白雪の刀は、例の物体に傷さえつけることなく、ピタリと止まっていた。
「できません……」
突然白雪が震える声を出した。
「わたしにはできません……」
ヘナヘナとその場に座り込む。
「わたしには……、わたしには、キンちゃんを斬るなんてできませんからーー」
白雪は顔を伏せて泣き出した。
「いあやいや、それはおれじゃないし」
あえて深い意味はツッコまないでおく。
「ねぇ、あれは何なの? キンジとかジュニアとか。説明しないと風穴っ」
アリアはなんだか怒り出した。
「キャハハハハハハハハ」
理子はまた笑い転げている。
「白雪さん……」
レキはそう呟いただけだった。
なんだ、コレ?
この状況、誰かなんとかしてくれよ。
例の物体がウィーンウィーンと動き続ける中、俺はアリアに自分で調べるよう言いながらも
泣き続ける白雪の背中を軽く叩いてやったりした。
理子はまだずっと笑い転げていたし、レキは九時にはさっさと自分の部屋に帰っていった。
おしまい
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