俺ロワ・トキワ荘で行われているリレー小説「孤島の実験記録」のまとめWikiです。

「やあ」

装置は歌う。
この滅びの地に招かれた者達に。
等しく、滅びの歌を語りかける。



ただ、一人を除いて。



「ぬぉぉぉぉぉん!! まっきっこぉ〜〜〜ん!!」
面倒な人に出会ってしまった、というのが正直な感想だった。
目覚めて、動画を見て、何が起こってるのか分からなくて。
事態が飲み込めないなりに何かを掴もうと歩き出した途端に、そんな叫び声が聞こえてきた。
体を折り曲げて、ハゲはじめたおでこを地面につけ、拳を振り回しながら泣き叫ぶ。
そんな男の姿を見て、面倒だと思わない方が異常だろう。
しかし、そのまま放っておくのも気が引ける。
かといって、どう声をかければいいのかは分からない。
一人でおどおどとしていると、泣き叫んでいた男がこちらに気づいた。
まずい、と思ったのは直感だ。
何がまずいのかはわからないが、とにかくまずいのだ。
逃げるか、それとも――――
「選べるわけ無ぇだろバッキャロー!!」
怒号に足を縫い止められる。
思わず全身が震え、目は男を見つめ続けてしまう。
「俺が生きようとすれば蒔子が死ぬ、蒔子が生きれば俺が死ぬ。
 ダメなんだよぉ〜、俺と蒔子は、ロミオとジュリエッツなんだよぉ〜!!」
切れ目なく喋る男の言葉に、すっかりと飲み込まれてしまう。
「あの、えっと、その……」
言葉に迷った隙に、言葉を差し込まれてしまう。
「分かるか少年? 俺にとって蒔子は必要不可欠のかけがえのない存在だ。蒔子なしの人生など考えられない。
 よりにもよって、蒔子の命を奪ってまで生き残るコトなんて、言語道断だ!
 でも! 蒔子が「先生、あたしのために死んでよ」とか言うなら! それはそれで!! いいけど!!
 だけどもだけど!! 俺やっぱり死にたくねぇよぉぉぉぉぉぉ!!」
服を掴まれたり、力強く語られたり、鼻水をつけられたり。
一人で話を進められているので、別に自分は居なくてもいいと感じている。
さて、どうするか。
「はぁ〜〜〜〜俺も蒔子も生き残れるスーパーラクチンな方法無ぇかなぁ〜〜〜〜。
 あんた、知らない?」
「いや、知らないけど……」
「だよなぁ……」
問いかけに対しては、しっかり否定していく。
寧ろ、そんなものがあるのならば自分が知りたいくらいだ。
「じゃ、俺行くわ」
「えっ」
一人で話を始めて、一人で完結させた男はそのまま背中を見せて立ち去っていく。
あまりの急展開に、話についていくことができない。
「だって解毒剤無いと死ぬからな、誰かに見つけられちゃたまんねーし」
とぼとぼと足を進め、男は早々に立ち去っていく。
そう、解毒剤。
それが無ければ、未来を手にすることはできないのだ。
自分も例外ではなく、それを手に出来なければ死ぬ。
きっと、彼と同じようにそれを追い求めるのが正解なのだろう。
"死にたくない"のならば、それが今判明している"道"だ。
……だが、それを選ぶという事は「他者を蹴落とすこと」に直結する。
先ほどちらりと見た名簿には、見知った名前があった。
あれが本当で、この場所に彼らがいるという確証は無い。
だが、もしこの場所に彼らがいるならば。
自分には、彼らを殺すことも、蹴落とすこともできやしないのだ。
代わりに、彼らがいるとするならば。
"道"は一つではない。
そうあの時、みんなで戦った様に――――

ヒュンッ。

……ドサリ。

「――――えっ?」
ぼうっとそんなことを考えていたとき、黒い何かが横切った気がした。
超速で吹っ飛んでいった「何か」を見る。
それは、先ほど別れた筈の男の、変わり果てた姿だった。
顔はひしゃげ、体の骨という骨が折れている。
まるで、ダンプカーにでも轢かれたかのように。
間違いなく、生きてはいないだろう。
だが、こんな竹林の中をダンプカーが突っ切れるわけが無い。
では何故、男はこんな姿になって死んでいるのか?
「あ……」
その答えは、すぐに訪れた。
隆々とした筋肉、悪魔のような仮面。
闇を纏った「それ」は、自分の目の前に唐突に現れた。
理解するのも容易だ、この男に全力で突き飛ばされれば、さっきの死体が出来上がるだろう。
そして、さっきの死体が出来上がっているという事は。
自分が今どういう状況なのか、理解することも容易だ。
「たすk「砕けよ」」
だが、理解した上での行動は、実らない。
声を出そうと思った瞬間に、ぐしゃりという音が聞こえて。
そこから、何も感じなくなったから。



「……と、いうのはみなさん向けの説明です」
そんな言葉と共に、画面が切り替わる。
そう、たった一人だけ、動画に"続き"がある人間がいた。
男の名はグラント、暗黒空手の使い手であり、サウスタウンの実質的な支配者であるカイン・R・ハインラインの右腕である。
その男に対してだけ、なぜ動画に続きがあったのか。
答えは、簡単な話だ。
「単刀直入に言いましょう、貴方には毒を仕込んでいません」
男の置かれていた状況だけが、特殊だったから。
なぜ、男は毒を仕込まれなかったのか?
毒がないのならば、その場からすぐに脱出して終わりではないのか?
それを解決するのも、また簡単な話だ。
「貴方の心臓近くに、弾丸がありますね?
 それのせいで、毒を盛ろうが盛るまいが貴方は死にます」
そう、自身でさえも自覚していたこと。
自分の心臓には、今もなおその蔵を破らんと弾丸が迫っている。
長くはない、そう認識していたからこそ彼はその現実を受け止められる。
だが、動画はまだ続く。
「けれど、どうでしょう。考え方を変えてみればいい。
 貴方は、貴方だけは、"誰かを救うことが出来る"
 それは、貴方だけに許された権利なんです。
 ……私から告げたいのは、それだけです。
 後は、自由にしてください」
ぶつり、と切れる映像。
世迷言を、と言い端末を仕舞おうとする。
その前に名簿アプリにだけ、目を通すことにした。
このアプリは、時間の経過と共にランダムで名前が書き込まれ、数時間で全ての名前が明らかになるらしい。
何故、それを開こうと思ったのかは分からない。
だが、今思えば呼ばれていたのかもしれない。
そこに、載っていた、たった一つの名前。
「カイン・R・ハインライン」に。
その瞬間、やるべき事は決まった。



「待っていろ、カイン」
身体についた血を拭うことすらせず、魔神は進む。
これが罠だったとしても、全てが偽りだったとしても。
魔神は、己の命を賭してでも生き残らせたい男がいる。
その男の未来を閉ざしうる可能性は、一つでも多く潰しておきたい。
故に、誰も生き残らせない。
先に解毒剤を見つけられ、服用されてしまったら、終わりなのだから。
「必ず、必ずや!」
そう、彼こそが、カイン・R・ハインラインこそが、この澱んだ世界で生き残るべき人間だ。
いずれ死にゆく人間に出来ることなど、知れている。
寧ろ、本望とも言える。

あの男の、役に立つことが出来るのだから。

魔神は進む。
今し方砕いた命を乗り越え。
自らの命をも引き替えに。
希望を掴みに、魔神はただ進む。

【芳賀佑一(ユーイチ)@デビルサマナー ソウルハッカーズ 死亡】
【田口イエスタディ@変ゼミ 死亡】

【D-8/竹林/1日目-朝】
【グラント@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜2)
[思考-状況]
基本:解毒剤の確保、及びカインへの譲渡
1:解毒剤を探しうる可能性を持つ者は、排除。
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009:得たものと失ったもの
時系列順
011:「抗う覚悟はできている」
投下順
はじまり
グラント
031:ばいばい
芳賀佑一(ユーイチ)
おわり
田口イエスタディ
おわり

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