最終更新:ID:n4q5Iu8Qcg 2013年11月10日(日) 22:11:15履歴
「やあ」
装置は歌う。
この滅びの地に招かれた者達に。
等しく、滅びの歌を語りかける。
ただ、一人を除いて。
「ぬぉぉぉぉぉん!! まっきっこぉ〜〜〜ん!!」
面倒な人に出会ってしまった、というのが正直な感想だった。
目覚めて、動画を見て、何が起こってるのか分からなくて。
事態が飲み込めないなりに何かを掴もうと歩き出した途端に、そんな叫び声が聞こえてきた。
体を折り曲げて、ハゲはじめたおでこを地面につけ、拳を振り回しながら泣き叫ぶ。
そんな男の姿を見て、面倒だと思わない方が異常だろう。
しかし、そのまま放っておくのも気が引ける。
かといって、どう声をかければいいのかは分からない。
一人でおどおどとしていると、泣き叫んでいた男がこちらに気づいた。
まずい、と思ったのは直感だ。
何がまずいのかはわからないが、とにかくまずいのだ。
逃げるか、それとも――――
「選べるわけ無ぇだろバッキャロー!!」
怒号に足を縫い止められる。
思わず全身が震え、目は男を見つめ続けてしまう。
「俺が生きようとすれば蒔子が死ぬ、蒔子が生きれば俺が死ぬ。
ダメなんだよぉ〜、俺と蒔子は、ロミオとジュリエッツなんだよぉ〜!!」
切れ目なく喋る男の言葉に、すっかりと飲み込まれてしまう。
「あの、えっと、その……」
言葉に迷った隙に、言葉を差し込まれてしまう。
「分かるか少年? 俺にとって蒔子は必要不可欠のかけがえのない存在だ。蒔子なしの人生など考えられない。
よりにもよって、蒔子の命を奪ってまで生き残るコトなんて、言語道断だ!
でも! 蒔子が「先生、あたしのために死んでよ」とか言うなら! それはそれで!! いいけど!!
だけどもだけど!! 俺やっぱり死にたくねぇよぉぉぉぉぉぉ!!」
服を掴まれたり、力強く語られたり、鼻水をつけられたり。
一人で話を進められているので、別に自分は居なくてもいいと感じている。
さて、どうするか。
「はぁ〜〜〜〜俺も蒔子も生き残れるスーパーラクチンな方法無ぇかなぁ〜〜〜〜。
あんた、知らない?」
「いや、知らないけど……」
「だよなぁ……」
問いかけに対しては、しっかり否定していく。
寧ろ、そんなものがあるのならば自分が知りたいくらいだ。
「じゃ、俺行くわ」
「えっ」
一人で話を始めて、一人で完結させた男はそのまま背中を見せて立ち去っていく。
あまりの急展開に、話についていくことができない。
「だって解毒剤無いと死ぬからな、誰かに見つけられちゃたまんねーし」
とぼとぼと足を進め、男は早々に立ち去っていく。
そう、解毒剤。
それが無ければ、未来を手にすることはできないのだ。
自分も例外ではなく、それを手に出来なければ死ぬ。
きっと、彼と同じようにそれを追い求めるのが正解なのだろう。
"死にたくない"のならば、それが今判明している"道"だ。
……だが、それを選ぶという事は「他者を蹴落とすこと」に直結する。
先ほどちらりと見た名簿には、見知った名前があった。
あれが本当で、この場所に彼らがいるという確証は無い。
だが、もしこの場所に彼らがいるならば。
自分には、彼らを殺すことも、蹴落とすこともできやしないのだ。
代わりに、彼らがいるとするならば。
"道"は一つではない。
そうあの時、みんなで戦った様に――――
ヒュンッ。
……ドサリ。
「――――えっ?」
ぼうっとそんなことを考えていたとき、黒い何かが横切った気がした。
超速で吹っ飛んでいった「何か」を見る。
それは、先ほど別れた筈の男の、変わり果てた姿だった。
顔はひしゃげ、体の骨という骨が折れている。
まるで、ダンプカーにでも轢かれたかのように。
間違いなく、生きてはいないだろう。
だが、こんな竹林の中をダンプカーが突っ切れるわけが無い。
では何故、男はこんな姿になって死んでいるのか?
「あ……」
その答えは、すぐに訪れた。
隆々とした筋肉、悪魔のような仮面。
闇を纏った「それ」は、自分の目の前に唐突に現れた。
理解するのも容易だ、この男に全力で突き飛ばされれば、さっきの死体が出来上がるだろう。
そして、さっきの死体が出来上がっているという事は。
自分が今どういう状況なのか、理解することも容易だ。
「たすk「砕けよ」」
だが、理解した上での行動は、実らない。
声を出そうと思った瞬間に、ぐしゃりという音が聞こえて。
そこから、何も感じなくなったから。
「……と、いうのはみなさん向けの説明です」
そんな言葉と共に、画面が切り替わる。
そう、たった一人だけ、動画に"続き"がある人間がいた。
男の名はグラント、暗黒空手の使い手であり、サウスタウンの実質的な支配者であるカイン・R・ハインラインの右腕である。
その男に対してだけ、なぜ動画に続きがあったのか。
答えは、簡単な話だ。
「単刀直入に言いましょう、貴方には毒を仕込んでいません」
男の置かれていた状況だけが、特殊だったから。
なぜ、男は毒を仕込まれなかったのか?
毒がないのならば、その場からすぐに脱出して終わりではないのか?
それを解決するのも、また簡単な話だ。
「貴方の心臓近くに、弾丸がありますね?
それのせいで、毒を盛ろうが盛るまいが貴方は死にます」
そう、自身でさえも自覚していたこと。
自分の心臓には、今もなおその蔵を破らんと弾丸が迫っている。
長くはない、そう認識していたからこそ彼はその現実を受け止められる。
だが、動画はまだ続く。
「けれど、どうでしょう。考え方を変えてみればいい。
貴方は、貴方だけは、"誰かを救うことが出来る"
それは、貴方だけに許された権利なんです。
……私から告げたいのは、それだけです。
後は、自由にしてください」
ぶつり、と切れる映像。
世迷言を、と言い端末を仕舞おうとする。
その前に名簿アプリにだけ、目を通すことにした。
このアプリは、時間の経過と共にランダムで名前が書き込まれ、数時間で全ての名前が明らかになるらしい。
何故、それを開こうと思ったのかは分からない。
だが、今思えば呼ばれていたのかもしれない。
そこに、載っていた、たった一つの名前。
「カイン・R・ハインライン」に。
その瞬間、やるべき事は決まった。
「待っていろ、カイン」
身体についた血を拭うことすらせず、魔神は進む。
これが罠だったとしても、全てが偽りだったとしても。
魔神は、己の命を賭してでも生き残らせたい男がいる。
その男の未来を閉ざしうる可能性は、一つでも多く潰しておきたい。
故に、誰も生き残らせない。
先に解毒剤を見つけられ、服用されてしまったら、終わりなのだから。
「必ず、必ずや!」
そう、彼こそが、カイン・R・ハインラインこそが、この澱んだ世界で生き残るべき人間だ。
いずれ死にゆく人間に出来ることなど、知れている。
寧ろ、本望とも言える。
あの男の、役に立つことが出来るのだから。
魔神は進む。
今し方砕いた命を乗り越え。
自らの命をも引き替えに。
希望を掴みに、魔神はただ進む。
【芳賀佑一(ユーイチ)@デビルサマナー ソウルハッカーズ 死亡】
【田口イエスタディ@変ゼミ 死亡】
【D-8/竹林/1日目-朝】
【グラント@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜2)
[思考-状況]
基本:解毒剤の確保、及びカインへの譲渡
1:解毒剤を探しうる可能性を持つ者は、排除。
装置は歌う。
この滅びの地に招かれた者達に。
等しく、滅びの歌を語りかける。
ただ、一人を除いて。
「ぬぉぉぉぉぉん!! まっきっこぉ〜〜〜ん!!」
面倒な人に出会ってしまった、というのが正直な感想だった。
目覚めて、動画を見て、何が起こってるのか分からなくて。
事態が飲み込めないなりに何かを掴もうと歩き出した途端に、そんな叫び声が聞こえてきた。
体を折り曲げて、ハゲはじめたおでこを地面につけ、拳を振り回しながら泣き叫ぶ。
そんな男の姿を見て、面倒だと思わない方が異常だろう。
しかし、そのまま放っておくのも気が引ける。
かといって、どう声をかければいいのかは分からない。
一人でおどおどとしていると、泣き叫んでいた男がこちらに気づいた。
まずい、と思ったのは直感だ。
何がまずいのかはわからないが、とにかくまずいのだ。
逃げるか、それとも――――
「選べるわけ無ぇだろバッキャロー!!」
怒号に足を縫い止められる。
思わず全身が震え、目は男を見つめ続けてしまう。
「俺が生きようとすれば蒔子が死ぬ、蒔子が生きれば俺が死ぬ。
ダメなんだよぉ〜、俺と蒔子は、ロミオとジュリエッツなんだよぉ〜!!」
切れ目なく喋る男の言葉に、すっかりと飲み込まれてしまう。
「あの、えっと、その……」
言葉に迷った隙に、言葉を差し込まれてしまう。
「分かるか少年? 俺にとって蒔子は必要不可欠のかけがえのない存在だ。蒔子なしの人生など考えられない。
よりにもよって、蒔子の命を奪ってまで生き残るコトなんて、言語道断だ!
でも! 蒔子が「先生、あたしのために死んでよ」とか言うなら! それはそれで!! いいけど!!
だけどもだけど!! 俺やっぱり死にたくねぇよぉぉぉぉぉぉ!!」
服を掴まれたり、力強く語られたり、鼻水をつけられたり。
一人で話を進められているので、別に自分は居なくてもいいと感じている。
さて、どうするか。
「はぁ〜〜〜〜俺も蒔子も生き残れるスーパーラクチンな方法無ぇかなぁ〜〜〜〜。
あんた、知らない?」
「いや、知らないけど……」
「だよなぁ……」
問いかけに対しては、しっかり否定していく。
寧ろ、そんなものがあるのならば自分が知りたいくらいだ。
「じゃ、俺行くわ」
「えっ」
一人で話を始めて、一人で完結させた男はそのまま背中を見せて立ち去っていく。
あまりの急展開に、話についていくことができない。
「だって解毒剤無いと死ぬからな、誰かに見つけられちゃたまんねーし」
とぼとぼと足を進め、男は早々に立ち去っていく。
そう、解毒剤。
それが無ければ、未来を手にすることはできないのだ。
自分も例外ではなく、それを手に出来なければ死ぬ。
きっと、彼と同じようにそれを追い求めるのが正解なのだろう。
"死にたくない"のならば、それが今判明している"道"だ。
……だが、それを選ぶという事は「他者を蹴落とすこと」に直結する。
先ほどちらりと見た名簿には、見知った名前があった。
あれが本当で、この場所に彼らがいるという確証は無い。
だが、もしこの場所に彼らがいるならば。
自分には、彼らを殺すことも、蹴落とすこともできやしないのだ。
代わりに、彼らがいるとするならば。
"道"は一つではない。
そうあの時、みんなで戦った様に――――
ヒュンッ。
……ドサリ。
「――――えっ?」
ぼうっとそんなことを考えていたとき、黒い何かが横切った気がした。
超速で吹っ飛んでいった「何か」を見る。
それは、先ほど別れた筈の男の、変わり果てた姿だった。
顔はひしゃげ、体の骨という骨が折れている。
まるで、ダンプカーにでも轢かれたかのように。
間違いなく、生きてはいないだろう。
だが、こんな竹林の中をダンプカーが突っ切れるわけが無い。
では何故、男はこんな姿になって死んでいるのか?
「あ……」
その答えは、すぐに訪れた。
隆々とした筋肉、悪魔のような仮面。
闇を纏った「それ」は、自分の目の前に唐突に現れた。
理解するのも容易だ、この男に全力で突き飛ばされれば、さっきの死体が出来上がるだろう。
そして、さっきの死体が出来上がっているという事は。
自分が今どういう状況なのか、理解することも容易だ。
「たすk「砕けよ」」
だが、理解した上での行動は、実らない。
声を出そうと思った瞬間に、ぐしゃりという音が聞こえて。
そこから、何も感じなくなったから。
「……と、いうのはみなさん向けの説明です」
そんな言葉と共に、画面が切り替わる。
そう、たった一人だけ、動画に"続き"がある人間がいた。
男の名はグラント、暗黒空手の使い手であり、サウスタウンの実質的な支配者であるカイン・R・ハインラインの右腕である。
その男に対してだけ、なぜ動画に続きがあったのか。
答えは、簡単な話だ。
「単刀直入に言いましょう、貴方には毒を仕込んでいません」
男の置かれていた状況だけが、特殊だったから。
なぜ、男は毒を仕込まれなかったのか?
毒がないのならば、その場からすぐに脱出して終わりではないのか?
それを解決するのも、また簡単な話だ。
「貴方の心臓近くに、弾丸がありますね?
それのせいで、毒を盛ろうが盛るまいが貴方は死にます」
そう、自身でさえも自覚していたこと。
自分の心臓には、今もなおその蔵を破らんと弾丸が迫っている。
長くはない、そう認識していたからこそ彼はその現実を受け止められる。
だが、動画はまだ続く。
「けれど、どうでしょう。考え方を変えてみればいい。
貴方は、貴方だけは、"誰かを救うことが出来る"
それは、貴方だけに許された権利なんです。
……私から告げたいのは、それだけです。
後は、自由にしてください」
ぶつり、と切れる映像。
世迷言を、と言い端末を仕舞おうとする。
その前に名簿アプリにだけ、目を通すことにした。
このアプリは、時間の経過と共にランダムで名前が書き込まれ、数時間で全ての名前が明らかになるらしい。
何故、それを開こうと思ったのかは分からない。
だが、今思えば呼ばれていたのかもしれない。
そこに、載っていた、たった一つの名前。
「カイン・R・ハインライン」に。
その瞬間、やるべき事は決まった。
「待っていろ、カイン」
身体についた血を拭うことすらせず、魔神は進む。
これが罠だったとしても、全てが偽りだったとしても。
魔神は、己の命を賭してでも生き残らせたい男がいる。
その男の未来を閉ざしうる可能性は、一つでも多く潰しておきたい。
故に、誰も生き残らせない。
先に解毒剤を見つけられ、服用されてしまったら、終わりなのだから。
「必ず、必ずや!」
そう、彼こそが、カイン・R・ハインラインこそが、この澱んだ世界で生き残るべき人間だ。
いずれ死にゆく人間に出来ることなど、知れている。
寧ろ、本望とも言える。
あの男の、役に立つことが出来るのだから。
魔神は進む。
今し方砕いた命を乗り越え。
自らの命をも引き替えに。
希望を掴みに、魔神はただ進む。
【芳賀佑一(ユーイチ)@デビルサマナー ソウルハッカーズ 死亡】
【田口イエスタディ@変ゼミ 死亡】
【D-8/竹林/1日目-朝】
【グラント@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜2)
[思考-状況]
基本:解毒剤の確保、及びカインへの譲渡
1:解毒剤を探しうる可能性を持つ者は、排除。
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田口イエスタディ | おわり |
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