FFシリーズ総合エロパロスレのまとめ

―――やっと12往復。

 汗が張り付く額を皮手袋で拭うと、なんとも粘っこい手触りがした。
泥でも付いたかな・・・と少し後悔し、ホープは背負っていた麻袋を地面に置く。

 人間が大きな代償を払って神より勝ち得た自由、その象徴グラン=パルス。
何世紀も滋養を蓄え続けた肥沃な大地は、農業に練達などしていない人間の
蒔いた種子もわずか半年で見事な穀物に生育させた。

 刈り取り脱穀した作物を袋に詰めて、家の中に運ぶ。数が少ないながら運搬用
の車両もあるにはあるのだが、ほとんどは大人数で構成したコミュニティに貸し
出されているために自分たちは使えない。だからこうして結構な重量の袋を担い
で耕作地から自宅まで運ぶ、運ぶ。

 パルムポルムで暮らした14年間はおろか、その後の激動の日々ですらこんなに
重い荷物を運んだ経験が無かった。一応世界を救う大偉業を成し遂げた1人とし
て、なんとも恥ずかしいような情けないような複雑な気分になった。

 実際、あの冒険の日々よりもここでの暮らしの方が何倍でも長く感じるよ、と
誰ともなしに心でつぶやく。9ヶ月程前にこのパルスで生きていくことになった
生き残ったコクーン市民と聖府軍、そして「元」パルスのルシ達。
 
 不思議とパルスの怪物は人間には手を出さない。あの巨大なファルシ=タイタン
の中で人間は今のところパルスの生活環に組み込んでも問題無しとの判断なのだろ
うか。あるいは文明の利器をほとんど持たない人間なんて、この広大な大地から見
れば一々斟酌するにも及ばないノミの様なものなのかもしれない。

 ただそれでも1月喰わなければ死ぬし、季節を持つグラン=パルスを野宿で生
き延びるほど人間の皮膚は厚くない。今までファルシに頼り切っていた日々の糧
を自力で作り出す必要が有った。パルスには野生の果物や魚が豊富にあるが、お
そらく1千万人近くはいるであろうコクーンからの移民者全員を養うにはやはり
恒久的に農業を行うのは必然だった。

 コクーンでも趣味で食べ物を栽培していた人間はいた。パルスに群生している
植物の中で、常日頃主食にしていたものに似通った種類を幾つか選び出し、その
人達の信用できるか不安な指導の下に皆が割り当てられた土地に蒔いて育てる。
無事に育つことを願いつつ過ごす事半年、ついに収穫の喜びを迎えることになっ
たわけだった。

 水辺のそばにホープの住居はある。ほとんどの住民はパルスのあちこちに点在
している集落の廃屋を利用するか、有り合わせの木材で簡易な家を建てた。一連
の事件で身内を失った子供や生活力のあるとは言えない独身者などは一定の人数
ごとコミュニティを作りまとめて住む。集落は主にその様な団体が利用する流れ
が出来たので、自然ホープや仲間達は後者の選択肢をとった。そもそもコクーン
市民は自分の目から見ても余りにも自立心が無いし、加えてこの状況なので固ま
って行動することは生きる上で重要だ。

 父親はパルムポルム出身者で構成されるコミュニティの1つで暮らしている。
元来顔が広かった事もあり、コミュニティのリーダー役を任されているそうだ。
では自分と仲間達はと言うと―――― 


「帰っていたのか?」
間口から声が聞こえてきた。さっきまでの自分と同じように麻袋を抱えて入って
来た女性は、ホープがきっちり整列させている麻袋の横に無造作に担いでいた袋
を置いた。

「ちゃんと並べてくださいよ、ライトさん。」
これ見よがしに丁寧に袋を並べ直してやりながら、ホープは同居人の女性に文句
も並べた。スノウはセラと事実上新婚生活の真っ只中、サッズはドッジとともに
暮らしたいが、ドッジが2人は寂しいだろうしセラに懐いているのでその4人で
母屋と離れのある家を建てて使っている。そこから100mと離れていないここ
がホープとライトニングの現在の住居。

 父親と暮らすことも考えたが前述の事情もあるし、何より新居決定会議の席で
微妙にあぶれ気味のライトニングとホープは一緒に暮らす方向でトントンと話が
進んでしまった。正直なところ嬉しさと気恥ずかしさで一杯だったが、スノウに
悟られるのが嫌で会議では終始ムッツリ黙りこんでいた。

 ただいざ一緒に暮らしてみるとライトニングは意外とがさつと言うか、雑だ。
物事に頓着しない性格のせいもあってか、さっきの様なやり取りが日に3度は
絶対に交わされる。その度にライトニングは今の様にわかっているよと曖昧に
受け流して去って行くか、例の綺麗な瞳で「器が小さいな」という視線を送っ
てホープを怒らせる。

 でもそれで良かった。旅の途中特にライトニングと過ごす事が多かった多感な
少年は、今ははっきりとした好意を同居人に持っていたから。こうしたフランク
な会話の風通しが頻繁に無かったとしたら、とっくに自分の気持ちに押しつぶさ
れていたに違いない。

 14歳、まだ子供だと思う。世界中の14歳よりも修羅場をくぐったつもりで
はいる。けれど重たい麻袋1つ運んだこともなかった。グラン=パルスから遥か
なコクーンを眺めて小さいと感じたが、そのコクーンの殻に包まれていただけの
14年間。守れない、これじゃ絶対守れない。あの夕日の中ライトニングに抱き
しめられて、無我夢中で話した言葉。まだまだそんな資格は自分にない。

 だからパルスでの生活では率先してライトニングをリードしているつもりだ。
並べた麻袋は20、ライトニングが8袋、自分が12。21歳のライトニングが
1.5倍年上だから、自分が1.5倍運んでやろう。そんな良くわからない理由でも、
一人前の男に成る努力をしてる気分になれて心地よかった。集落での会合や折衝
も、2人世帯の代表として出席している。


けどな・・・と声に出してホープはうつむいた。結局はライトニングの手の上で
保護されている気もする。会合の後にライトニングは重要事項をホープではなく
サッズに聞いているし、運んだ麻袋の数が男の証明になると胸は張れない。
もっと、心の底から感心させて見たい。見直して欲しい。愛して・・・あ、愛?


「な、何を考えてるんだ、僕・・・!」
腰掛けていた麻袋から立ち上がって、顔を手で覆う。そう言えば顔が汚れている
かも知れないんだっけ、と考えながら、頭の中でさっきの言葉を反芻する。
ライトニングが好きだ、その事は絶対に間違いない。けれど見返りの愛情なんか
期待したこともなかった筈なのに、いつの間にか彼女にも自分を同じように愛し
て欲しいなんて大それた事を求めていたんだろうか。

 駄目だ、生意気にも子供の自分が年上の女性に好意なんて持つから、こんな分
不相応な欲まで出て来るんだ。こんな事じゃ今の均衡さえ崩れてしまう、ライト
ニングと離れたくはない。ただでさえ水浴びの後や寝床に入るために薄着になっ
たライトニングを見て、思わず心の中で彼女を裸にしてしまい、後で罪悪感に駆
られる事もある。この上妙な色心を持っていると、何時爆発するかわからない。

 向こうの部屋からライトニングの呼ぶ声がした。うやむやにするのは気が済ま
なかったが、ひとまずこの思考の渦から抜け出せる事を感謝しつつ、ホープは声
のした部屋へ赴いた。

「飯だぞ。」
まるでチョコボに乗った時みたいなイントネーションだなと思いながら、食事の
配膳を手伝った。魚と葉野菜の煮物がメインだ。明日からは倉庫に眠る雑穀類を
使って食事を作る予定だから、こういう栄養バランスの食事は今日が最後かも知
れないと少し感傷的になった。

 食事中の話題も自然今日の事になる。各家庭植えた種類が少し違うので、明日
はまた会合を開いて作物の生育状況を報告しあい、これからの主流銘柄を決定し
ていくらしい。もちろん普段のホープなら
「じゃあ、明日も僕が出席してきます。」
と意気込むところだが、今日はそんな気分になれなかった。

「そうですか、じゃあライトニングさんお願いします。」
珍しいな、とライトニングの目が見開いた。
「どうしたんだ、いつもなら率先して参加したがるじゃないか。」
「いえ、いいんです。」
どうせ僕が聞いてきた内容もサッズさんに確認を取るじゃないですか、とは言え
なかった。それでも十分棘のある言い方をしてしまったのだろう。ライトニング
は食い付いてきた。
「なんだ、嫌なことでもあったか?癇癪を起こして。」
子供だな、と暗に言われた気がした。悪いのは自分だがどうにも腹が立ってしま
い、ホープは食事を一気にかき込むと乱暴に席を立った。

 奥の部屋に向かう背にライトニングは声をかけてこない。それすら軽く見られ
ている証拠に思えて、うっすら涙が滲んで来た。寝るには早いが寝床に潜り込み、
毛布を被っているとどっと昼間の疲れが出てきたので、ホープはうつらうつらと
眠りに就いた。



「ホープ、起きろ。」
体を揺すられて目を覚ますと、覗き込んできているライトニングと目が合った。
顔が上気しているようだ。
「あれ、お風呂用意したんですか?」
インフラの整っていないパルスでは毎日入浴など面倒で出来ない。せいぜい少し
湯を沸かして体を拭くくらいだ。
「今日は私もお前も随分汗をかいたからな、まだ湯は熱いからお前も入れ。」
先ほどの気まずさもあったので、言われるままにさっさと浴室に向かった。


 体の汚れを落とすと、随分気持ちもさっぱりしてきた。今日は疲れたから余計
な事も考えてしまっているんだろう。また明日から頑張ろう。いい気分で自分の
部屋の戸を開けると、寝床の端にライトニングが腰掛けていた。

「ライトさん?どうしたんですか?」
いくら自分が14歳だからといって、こんな夜中にライトニングが自分の部屋に
いることは珍しい。寝床の反対側に腰掛けると、ライトニングが話を切り出した。
「今日のお前は何かおかしいと思ってな。心配事でもあるのなら聞かせて欲しい
から待っていた。」

 何かと言われてもさっきまでと違い落ち着いた気分なので今更考えていたこと
を伝えるのは照れが入る。だから曖昧に返事を濁したが、ライトニングは中々し
ぶとく食い下がる。

「別に何でもないんですよ。」
「そう言うがやはりどこか普段と違う。遠慮せずに話すんだ。」
「本当にもう大丈夫なんですってば。」
「もう、か。やっぱり何かあるじゃないか。さあ話せ。」

 前から思っていたがこの人は超頑固だ。満足するまで決して引き下がらないの
だろう。仕方ないのでポツリポツリと話し出す。意外にもライトニングは真剣な
表情で頷きながら聞いてくれた。頷くたびにパステルピンクの湿った髪が揺れて
ホープの目と思考を奪う。あの頃は首までしかなかったライトニングの髪は、今
では肩を少し過ぎるくらいまで伸びている。元々美しい顔立ちに女性らしい柔和
なイメージも加えられ、否が応にもドギマギさせられる。

 一通り話が終わると静かな沈黙が部屋に落ちてきた。ライトニングはゆっくり
話の中身を咀嚼し終わると、淡く微笑んでホープに語る。
「済まなかったな。」
ホープにはいまいち意味がわからない謝罪だった。どちらかと言えば変に意地を
張った自分が馬鹿だったという話のはずなのに、何故ライトニングが謝る必要が
あるのだろう。

「パルムポルムでの約束を覚えているか?」
「はい、ライトニングさんが、僕を守ってくれるってことでしたよね。」
「その後だ。」
「・・・・。」
「お前が私を守る、守れるようになると言ってくれた。」
「私はお前の言葉が嬉しかった。けれどセラのこともあったし、私自身背伸びし
て生きていたから、お前に守られるわけにはいかないと決め込んでいたんだ。」

でもな、と続ける。
「惰性で半分保護者を気取っていたんだが、最近になって目覚しくお前が成長し
ているのは気づいていたぞ。」
ライトニングは立ち上がると、ホープの腕を引っ張り自分と並ばせた。以前は頭
一つ分以上違った身長が、今ではホープの目がライトニングの肩くらいには来て
いる。
「わからないかも知れないが、声も随分変わってる。艶っぽいくらいに男の声に
なって来た。お前が思うよりもずっと、お前は大人になっているんだ。」

「なんでそんなに焦っていたんだ?」
「僕は・・・」
言葉には出来そうもなかったので、ライトニングの目をじっと見つめた。精一杯
の気持ちを視線に込めて。

 
 どれだけそうしていたかわからない。やがてこちらの言いたいことが伝わった
のか、ライトニングはそっと視線を外して横を向いた。拒絶ではない、ホープの
気持ちをしっかり理解した上で、どう対応するか考えているのだろうか。だがそ
の横顔がとても綺麗で、思わずホープは距離を詰めてライトニングの二の腕を掴
んで引き寄せた。

 ライトニングはこちらを向いたが黙っていて何も言わない。ホープも勢いでこ
んな体勢をとったもののどうすればいいかわからない。わずかに窓から差し込む
月の光がライトニングの顔を神々しいまでに飾っている。ホープが青みを帯びた
瞳に見とれていると、ライトニングがそっとその瞳を閉じた。

 もう何も考えられない、夢中で唇を合わせる。二の腕を掴んでいた手を背中に
廻すと、ライトニングの手もおずおずとホープを抱きしめて来た。ゆっくり寝床
に座ると、流れのままにライトニングを組み敷いた。

 どんどん熱情が自分の中から溢れて止められない。自然ライトニングの唇に触
れるだけでは満たされず、乱暴に貪る形になった。ライトニングも嫌がるそぶり
を見せないので、ホープは安心して欲求のままに行動していった。組み敷いたた
めに不自然にライトニングの肩に置いているままにした右手を、ゆっくりと薄着
の胸にあてがって揉む。ライトニングがピクっと反応した。目を見開いたような
気配があったが、止める素振りは無い。

 服の中に手を差し込んで直に肌を触ると、ライトニングの息が荒くなったよう
に感じる。いくらか逡巡したが、手を下腹部からそっと下に動かし


「こら、それはまだ早い。」
ぴしゃっと手をはたかれた。体を離されると、ライトニングはさっさと服を整え
た。急に現実に引き戻されたのに頭が追い付かずホープが呆けていると、
「もう少し頼りになったらな。」
と額に優しく口付けされた。

「どうやらこのA-1が一番実りが良いらしいな。来年からはこの種と、これに早く
実を結ぶB-3を交配した種を主に植えていく事にしましょう。」
部屋の壇上で決議を発表したサッズは、降りてくるやいなやホープに笑って声を
かけた。
「どうしたんだ、今日はやけに引き締まった良い顔してるじゃねえか。」
「わかりますか?」
余裕を持った微笑をたたえて、ホープはおどけて答えてみせる。

「守るものができたんですよ。」


END
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