2ch.netオカルト板で2016年8月20日と8月27日に行われた百物語のまとめです。

【第九十話】 『そこのピンク』 モヒート ◆KicDEug6lI


311 :モヒート ◆KicDEug6lI @無断転載は禁止:2016/08/28(日) 01:29:14.77 ID:nEYsEHHZO
【第90話】
『そこのピンク』

(1/2)
小学校中学年の頃は探検ごっこに夢中で、
怪しげな噂の真相を探るべく、友人達と現場に突撃を繰り返していた。
大抵は徒労に終わるのだが、ごく稀に不思議な体験をする事もあった。

早春のある日、「隣に石の十字架が立っているサイロがあり、その中に吸血鬼が封じ込められている」
との情報を入手した我々探検隊は、早速調査に乗り出した。
現地に着くと噂通り、2階建て程の高さの小型サイロと、同じぐらいの大きさで石作りの、少し歪な十字架があった。
まさに血沸き肉躍る光景だった…が、どう見てもそこは私有地で、勝手に入り込める感じではない。
泣く泣くサイロの調査を諦めた我々は、吸血鬼の痕跡があるかも知れないと周辺探索に切り替えた。
幸いこの敷地の周りは自然が豊富で、実に探検しがいがある。
少し歩くと、白樺林と小川、そして切り出し途中のような岩がゴロゴロ転がる場所に出た。
(今にして思えば、ここもサイロ所有者の私有地だったのかも知れない。不法侵入してごめんなさい)不気味な噂の現場近くのため、恐らくは誰も知らないであろう手付かずの遊び場。
我々は宝物を発見したような興奮で、本来の目的を忘れ遊び始めてしまった。

この時期は白樺の断面から流れ出る樹液が飲めた。もう少し暖かくなれば野の草で遊び花の蜜も楽しめる。
夏は白樺の木陰で涼みながら川遊びだ。木々の間を駆け巡る鬼ごっこはスリル満点だろう。

妄想は膨らむ一方で、ここを秘密基地にしよう!などとはしゃいでいた所、急に岩陰から人が現れ声を掛けて来た。

312 :モヒート ◆KicDEug6lI @無断転載は禁止:2016/08/28(日) 01:32:05.54 ID:nEYsEHHZO
(2/2)
「あのー、俺達R中生なんだけど」
男子中学生2人は近所の中学校の名前を口にした。
「俺達がタバコ吸ってた事、学校には言わないでくれるかな」
え?タバコ? 秘密基地に夢中で人がいる事すら気付かなかった皆は、何の話か分からずキョトンとするばかり。
そんな鈍い反応に、余計な事を喋ったらしいと気付いた中学生は切れ気味になって続けた。
「そこのピンク、お前が悪いんだぞ!」
は?ピンク?
「あ!?何処行った!ピンクの奴!」
「そこの木の上からこっち見て、ニヤニヤしてた奴いたろ!上下ピンクの奴!!」
そう言われても、自分達の中にピンクを着てる奴はいなかったし、誰も木に登っていない。
そいつが見てたんだ!何処に行ったんだ!と騒ぐ中学生にこちらは戸惑うばかり。
「ピンクの奴!隠れないで出て来い!!」
そう中学生が叫んだ途端、白樺の一枝だけが、激しく揺れ出した。
風もないし、まだ葉のない季節だから、枝に人や動物が乗っていない事は目に見えて明らかなのに。
ザザザザザザ…と音を立てる枝は凄い勢いで上下し、もう折れるんじゃないかという程。
「うわあああああああ!!!!!??」
情けない叫び声を上げながら、全員がその場から逃げ出した。
走って走って、動けなくなるまで走った自分達は、残雪の上にへたり込みようやく人心地ついた。

「何もいないのに枝動いてたな」「大体上下ピンクの奴って何だよ」「それはきっとあれだ……吸血鬼なんだよ」
「「「スゲー!!!」」」

あの中学生の事はめんどいので放っておいたが、何で自ら中学校名までバラしたのか、未だ理解に苦しむ。
秘密基地の方は、ビビりの自分達が躊躇している間に周辺に有刺鉄線が張られてしまい、結局遊ぶ事は出来ずじまい。

本題の吸血鬼の件は、クラスメートに自信満々で報告するも、
「吸血鬼が昼間出るわけないじゃん」という至極真っ当な一言で終了してしまったのだった。

【了】



次の話へ


コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

管理人/副管理人のみ編集できます