2ch.netオカルト板で2016年8月20日と8月27日に行われた百物語のまとめです。

【第六十八話】『すれ違った』 もち ◆m2nIThBwKQ


240 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @無断転載は禁止:2016/08/27(土) 22:00:32.28 ID:d+jFkzTK0
【第六十八話】 もち ◆m2nIThBwKQ 様
『すれ違った』

(1/3)
学生時代の友人のKは早朝のジョギングを日課にしていました。
当時住んでいたアパートから1kmほど離れたところにある公園。
まずは公園までゆるいジョグで向かい、公園内にあるちょっとした池の周りを
周回します。5周ほどすると大体トータルで5kmくらいになるので
そのノルマを終えたらまた自宅まで戻る、というのが彼の定番ジョギングコースでした。

時間は早朝。早ければ5時過ぎには起床して身支度を調えて出ていました。
池の周回コースは路面に100mごとのラインが書かれていて
しっかりアスファルト舗装もしてあるので、早朝の公園には彼と同じように
ジョギングを楽しむ人達がそれなりにいたのですが、さすがに5時台には数は少なく
彼がノルマを終える頃に、ジョギングウエア姿の人が集まってくる
といった感じだったそうです。


その日、Kが目を覚まして時計を見ると時刻は午前4時を過ぎたところでした。
「走るのにはまだ早いよなぁ」と考えたそうですが、結局は支度をして出かけました。
外はまだ薄暗く、街灯も点いているような中を公園に向かってのんびりとジョグ。
公園に入るといつもの池の周回コースを走り出しました。

一周目、さすがにこの時間はまだ誰も走っていません。
二周目、そろそろ明るくなりつつある空を見上げながら、コースを文字通り独走。
そして三周目に差し掛かったところで、彼の先を歩く男性の背中を見つけました。

241 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @無断転載は禁止:2016/08/27(土) 22:02:08.75 ID:d+jFkzTK0
(2/3)

男性はのんびりと歩いているので、軽いジョグのスピードでもすぐに追いつきます。
Kは男性を追い抜き様に、いつもそうしているように「おはようございまーす」と
挨拶をしながら男性を追い抜いて走り続けました。
男性から挨拶は帰ってきませんでしたが、特に気にすることはありませんでした。

三周目を終えて四周目、何事もなく周回を終えます。
汗をタオルでぬぐいつつ五周目に入って直線に入り間もなくすると、
先程挨拶をしたと思しき男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。

六十歳過ぎくらいの帽子を被った、Yシャツに灰色のスラックス姿の男性は
Kに気がついたのか、軽く手を挙げて会釈したそうです。
そして距離が近づき、すれ違う手前でKも会釈をしたのですが、すれ違うその瞬間。


「はやくみつけてくださいね」


その男性は穏やかな声でKにそう言ったそうです。
当然Kは「なんのことだ?」と思ったのですが、5周目は少しペースをあげて
走っていたので、そのまま走って行きました。

242 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @無断転載は禁止:2016/08/27(土) 22:05:13.83 ID:d+jFkzTK0
(3/3)

Kが五周目を終えて深呼吸を繰り返しながら公園出口へと向かう道すがら
公園の風景を眺めているとふと妙な物が視界に入りました。

太い枝ぶりの大きな木がいくつもあるのですが
そのうちの一本の木の下に「人が浮いて」いたのです。

Kは「最初、なにがそこにあるのか理解が追いつかなかった」と私に話しましたが
歩きながら木の方へ近づくと、「それ」に気づいてしまったそうです。

それは「浮いている」のではなく枝に結んだロープに吊られた人間だったのです。
Kは動揺しながらも、携帯電話で119と110に通報したのですが
警察と救急車が到着するまで現場を立ち去るわけにもいかず、
しばらくその場にいたそうです。


「すれ違ったあのおじさんだったよ」

「俺にみつけてくれって頼んだときには、もう亡くなっていたんだろうなぁ」


Kは第一発見者になってしまったので、その後色々面倒もあったそうなのですが

「ひょっとしたら、止めることもできたのかなぁ……」

そう語ったKの、なんともいえない沈痛な表情は今でも忘れることができません――。



【了】



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