2ch.netオカルト板で2016年8月20日と8月27日に行われた百物語のまとめです。

【第八十二話】『窓外を駆ける…』 わいと ◆JAcqDEcOkfoM


287 :わいと ◆JAcqDEcOkfoM @無断転載は禁止:2016/08/28(日) 00:16:11.94 ID:/70W9qeK0
【第八十二話】『窓外を駆ける…』


 その日、俺を含む3人(俺以外を仮にS木、N山としておこう)は、とあるマンションの一室で前日繁華街で騒いだ酔いを覚ますべく、休日午前の怠惰な時間を貪っていた。
 その部屋の主であるS木はもともとはN山の古くからの友人であり、つい最近俺ともつるむ間柄となった一人暮らしの気さくな法学部生だ。

「…なあ、腹も減ったし近くのコンビニへ買出しでにでも行かないか?」
「そうしようかあ」
 日曜日の朝っぱらから騒がしいTVのバラエティー番組を横目で眺めつつ、ゴロゴロしながらそうしたダルな会話を展開していた何とも親不孝な学生たちである。

 トトトトトト…

 表で何やら軽い足音がした。
 ふと俺が見やった窓の外では、レースのカーテン越しに赤いスカートを履いた幼児と思しき人影が、視界の右手から左手へと小走りで通り過ぎていく。

「危ないなあ、あんな子供をベランダで遊ばせるなんて。親御さんも注意してあげればいいのにね」
 誰に言うともなくそう呟く俺に、その窓に背を向けたS木が仕方なさ気な口調で返す。

「あ、あれね。俺も最初はそう思ったんだけど、いいんだよ放っておいても」
 その言葉が終わらぬうちに、今度は逆に窓外の左手から右手へと先ほど同様の軽い足音を響かせて走り抜ける女の子の影。

「放っておいても、って…。ここ5階だよ?万が一の事があったらまずいでしょ」
「いや、いいんだ。だってさ…」
 おもむろに立ち上がったS木は、勢いよくそのカーテンと擦りガラス窓とを開け放つ。
 同時に正午に近づきつつある無駄に健康的な陽光が、部屋全体に容赦なく降り注いだ。 その眩しさに一瞬目を細めながらも、ベランダからひょいと頭を覗かせる俺。

「ん…?」
 つい今しがた女の子が駆け抜けたはずのベランダは、両隣の部屋との間が避難用のパーテーションでびっちりと仕切られている。
「ちょ、これって…」

288 :わいと ◆JAcqDEcOkfoM @無断転載は禁止:2016/08/28(日) 00:18:23.11 ID:/70W9qeK0
 二日酔いの覚めやらぬ気だるげな表情でN山が口を開いた。
「そうなんだよね、お前はゆんべがここの初宿泊だから知らないのも無理ないなあ…。俺も最初はびっくりしたもんだったけどさ」
 それに呼応するかの如く涼しい顔で語るS木。
「うん。初めて泊まった人はたいてい引くよね。でも走るばっかでこっちにゃ別に実害は無いし、今回は昼間だからあんまり怖くないでしょ」

 そうは言われても、こちとらつい先日の五輪閉会式で某国総理が突如マ○オのコスプレで現れるのを目の当たりにした数十倍以上ものサプライズである。

「…あんたら、意外に肝が据わってるねえ」
 あっという間に二日酔いも覚め、いきなり脳内から帰宅命令の鞭が入った俺を尻目に、彼らは意地悪げに笑ったものだった。

 それから数ヶ月したある日の学食、N山との何気ない会話の中で俺はS木の近況を彼の口からから語られる事となる。

「そう言えば、例の『もののけマンション』に住んでるS木な、ついに引越ししたって」
「ほう。彼曰く『アレが出る以外は居心地のいいトコ』だったんじゃなかったの?」
「それそれ。アレがただベランダ走ってるうちはまだ良かったらしいんだけどな…」
 そこから急に声を潜めるN山。

「最近、アレが奴の部屋の前でピタッと立ち止まるんだと。それと同時に部屋の明かりが点いたり消えたり、PC電源は勝手に落ちたり…ってなカオスな事になってるらしい」

「ふーん。さすがのS木も怖気づいたってわけか」
 そこでニヤリと笑うN山いわく、

「いや。怖いってよりもむしろ、PCで纏めてた結構な量のレポートが何度かおじゃんにされたってのが直接の原因らしいよ。『オートバックアップ機能も無い古いテキストソフト
だってのに、毎度毎度抜き打ちでこんなイタズラされちゃ作業にならん!』ってS木の奴、そっちの方にアタマ来てたなあ」

 もう昔の話だけど、あの少女はまだあのベランダをトトトト走り回りながらからかう相手を探しているのかな?って、今でもちょっと思い出す。


【了】



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