39無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:42:27No.15170159そうだねx8

ピシリ、パキ、カラカラ。石を砕くような乾いた音が聞こえ、目の前が明るくなった。
「ふい〜、やっと動けるようになったプス〜」
細かい石の殻を振るい落としながら伸びをする。この鈴瑚トプスは以前けいきマジロと一緒にコンクリートを食べ続け、その結果石になってしまったのだった。それが、原理は不明だがここに来てようやく元に戻れたというわけだ。
「プス……? あれ、ここどこプス……?」

周囲を見渡してトプスは困惑した。自分が見知った風景が見当たらない。いや、建物の配置や道路の形などは石になる前にいた場所と同じだ。ただその有様がまるで違う。家屋はどれも倒壊し、道路の舗装は砕け、あちこちがツタや雑草に覆われている。まるで打ち捨てられた廃村のように周囲に生き物の気配はない。
「動くなキュイ」
「プス!?」
唐突に背後から声をかけられた。いつの間に近づいたのか、何者かが鋭い視線を向けているのを肌で感じる。そしてその語尾には覚えがあった。

40無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:42:43No.15170160そうだねx8

「ら、ラプトルプスか!? トププス! 鈴瑚トプ――」
ズダダダダ、と銃声が鳴り響き、振り向こうとしたトプスの体に無数の穴が開いた。
「次、勝手に喋ったら撃つキュイ」
「いや、もう撃ってるんプスけ――」
ズダダダダダダダ。ダダダダ。ベシ。
二回くらい撃って最後に石を投げられた。既に体勢は向き直っている。目の前にいるのはギリースーツを着て武装したラプトルだった。喋ることといい、トプスの家族のラプトルとは別個体の様だ。

「キュイ。見たところバイオジュラ兵とも違うみたいキュイ。とはいえ、一般ジュラがこんなとこまで入り込むはずはないし、何者キュイ?」
「プス……答えていいプスか?」
「早く答えないと撃つキュイ」
「と、トプは鈴瑚トプスプスな! えっと、つきのみやこで、鈴瑚さんと清蘭さんとラプトルと、あっこれはあんたとは別のラプトルで、あとまゆマジロと一緒に暮らしてるんプス! 怪しくない、いたって普通の設定のトプスプス!」
「……つきのみやこ? よりにもよってそんなウソをつくとは、ふざけた奴キュイ」
「嘘じゃないプス! ほんとプス!」

41無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:43:26No.15170164そうだねx9

トプスはこれまであったことを必死になって説明した。始めは胡散臭そうに聞いていたラプトルだったが、話が終わるころには考え込むように唸った。
「キュイ…その話が本当となると……やっぱり……」
「トプも今何がどうなってるのかさっぱりなんプス! 今はいつなんプスか!? トプはどのくらい石になってたんプス!? みんなはどこにいるんプス!?」
「落ち着くキュイ。お前の話が本当だとすると、お前は1週間前の過去から来たってことになるプスな」
「…………プス?」
「キュイ」
「……いや、え? 1週間? そんだけしか経ってないんプス?」
「順を追って説明してやるキュイ。ついてくるキュイ」

そういって武装ラプトルは廃墟の町を歩きだした。他に選択肢もなく、トプスはその後ろについていく。

42無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:43:59No.15170165そうだねx9

「かつてこの世界を支配していたジュラにゃん帝国は知ってるキュイね?」
「歴史で習った覚えがあるプス。すごい独裁政治で、最後は自由の戦士に倒されたって」
「その皇帝だったエンペラージュラにゃんの子孫を名乗るジュラシック娘々が現れたんキュイ。そいつはエンペラージュラにゃんの正統後継者としてこの世界を支配すると言って、大量のバイオヨシカルノタウルスを率いて世界に宣戦布告をしたんキュイ」
「久々に邪悪なジュラにゃん来たプスな」
「当然みんな抵抗したキュイ。でも奴の作ったバイオジュラシックベースは無尽蔵にバイオジュラ兵を作り上げ、キリがなかったキュイ。そしてとうとう政府は……」
「どうしたんプス……? まさか……」
「戦術紅魔館を使用したキュイ」

トプスは思わず立ち止まり息をのんだ。なんという愚かな選択をしたのか。いや、あるいはそれほどまでに事態がひっ迫していたということか。自分が石になっている間に、そんな事態が進んでいたなんて、とても信じられなかった。

43無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:44:48No.15170166そうだねx9

トプスは思わず立ち止まり息をのんだ。なんという愚かな選択をしたのか。いや、あるいはそれほどまでに事態がひっ迫していたということか。自分が石になっている間に、そんな事態が進んでいたなんて、とても信じられなかった。
「で、その結果がこの光景キュイ」
「じゃあ、この緑は? まるで何千年も経ったようになってるのは?」
「それは知らんキュイ」
「ああ、そうプスか……」
「ともかく、首謀者のジュラにゃん自体はそれで倒せたんキュイ。ただ残ったバイオベースがいくつかあって、そこから自動で生み出されるバイオジュラ兵は命令に従って戦い続けてるキュイ。ラプたちはそいつらを駆逐するためにここに残って戦って……聞いてるキュイ?」

武装ラプトルの問いにトプスは答えなかった。先ほどから感じていた既視感。すっかり雰囲気は変わったけれど忘れるはずがない。自分たちは今、つきのみやこへの道を歩いている。トプスは武装ラプトルを追い抜いて歩き出した。次第に早足になり、すぐ駆け足になる。
「ここを、ここを曲がれば……コンビニがあって…その先に……!!」

44無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:45:47No.15170170そうだねx9

息を切らして駆け抜けたトプスの目に飛び込んできたのは大量のがれきが積み重なってできた山だった。そこにあったはずの家は、つきのみやこは見る影もない。
「どうやら、つきのみやこに住んでいたというのは本当みたいキュイ」
「そんな…そんな……みんなは……どうなったんプス……?」

ラプトルは深く息をつくと静かに語り始めた。自分たち義勇軍をまとめ導いた、つきのみやこメンバーの話を。

45無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:46:31No.15170174そうだねx9

もともとつきのみやこの住民たちは義勇軍として戦線に参加したわけではなかった。その始まりはバイオジュラ兵の侵攻に対する避難指示に逆らい、戦地に居座り続けたことにある。

曰く、家族を待っている。ここを離れるわけにはいかない、と。

家族の帰るべき居場所を守るため、つきのみやこの住民は武器を取って戦った。他に残った住民たちを指揮し、他方から集まってきた寄り合い部隊をまとめ上げ、一つの部隊を作り上げた。それがジュラシック解放戦線「イーグルラビィ」である。最も攻撃の激しい激戦区の中、イーグルラビィは必死の抵抗をとり続けた。それは単なる時間稼ぎに過ぎなかったが、多くのバイオジュラ兵の足を止めたことで周囲の戦局に変化をもたらし始めた。事態を重く見たジュラにゃんはつきのみやこへの総攻撃を開始。世界各地へ向けられた戦力が一点に集められた。
それはまさしく逆転への光明であった。

47無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:47:43No.15170177そうだねx9

「政府は戦術紅魔館をこの戦地へ投下したキュイ。避難指示は出していて、一般市民は既に避難済み……表向きはそうなってるキュイ。でも……」
その先を武装ラプトルは続けなかった。そして聞くまでもないことだった。事態を打開するには必要なことだったのかもしれない。しかしそれは家族の帰りを待つ一心で、わが身を犠牲にしてとどまり続けた英雄に対してあまりにむごい仕打ちだった。

「トプが……トプのせいで……みんな……」
「お前がリーダーたちの言ってた家族、だったんキュイね。今確信したキュイ」
泣き崩れるトプスの肩を武装ラプトルが優しく叩いた。

「こっちキュイ。リーダーに会わせててやるキュイ」
「え……?」

かつてつきのみやこのあった残骸の山に武装ラプトルが近づいていく。ぼろぼろの壁についている配電盤を開けると中には新品のように綺麗なスイッチが並んでいた。慣れた手つきでキーを打ち込むと近くにあった瓦礫が静かに動き道を作る。そこには地下への入り口が続いていた。階段を降りると綺麗に整備された通路が伸びている。頭の上で瓦礫が自動でしまっていった。

48無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:48:42No.15170179そうだねx10

「これは……」
「つきのみやこのメンバー、鈴瑚隊長が作った施設キュイ。我々イーグルラビィの本拠地になってるキュイ」
「さすがは鈴瑚さんプス…トプの元ネタだけはあるプス」
「頼れるリーダーだったキュイ。紅魔館で命を落とすまで、部隊を一人で仕切ってたようなもんキュイ。相棒が死んでからはだんだんおかしくなってたけど」
「鈴瑚さんそういうとこあるプスな」

廊下を進む武装ラプトルとトプス。左右には部屋が並び、時折同じような兵装のジュラシックたちと行き違う。各所には緊急の脱出口や隔壁なども配備されており、完全な軍事拠点となっているらしい。

49無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:49:20No.15170180そうだねx9

『あれ? トプスじゃん! あんた生きてたの? おかえりー』

天井のスピーカーから間の抜けた声が響いた。あまりのことにトプスはその場にひっくり返ってしまった。

「清蘭さん!? い、生きてたんプスか!? まさか!??!?!」

あのメンバーの中で誰が生き残っていようとも絶対死んでるだろうと思っていた。いや、そんな清蘭だからこそ逆に一人生き残るパターンもあるのか。いやいや、でもさっき相棒は死んだっていってたし。押し寄せてくる情報量に混乱するトプス。
しかし清蘭の声はあっさりと否定した。

『あ、私は生前の清蘭の思考を元に作ったAIだから。なんかねー、鈴瑚が死ぬ前に作ったんだって』
「えーあい……ってことはプログラムなんプス?」
『そうそう。今はこの施設の統括管理をやってるよ。偉いでしょ』
「えー…それ、大丈夫なんプスか……?」

51無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:49:55No.15170183そうだねx10

前を歩く武装ラプトルがひそひそと話しかけてきた。
(最初は管理AIとして働いてもらってたキュイ。でもあまりにミスが多いんで、今は天気予報と星占いだけ任せてるキュイ)
(あ、そうなんプスね……)
『ねーねー、外の天気どうだった? 大雨だったでしょ? だから傘持っていけって言ったのにー』

AI清蘭の声を聴きながら歩き続けると、一番奥の部屋へとたどり着いた。ドアには総指令室とあおりんごフォントで書かれている。
「ここにリーダーがいるキュイ」
「リーダーって……鈴瑚さんも清蘭さんも死んじゃったみたいプスけど、誰が……」
「会えばわかるキュイ」

そういってドアを開けると、いくつものモニターが据えられた広い空間に出た。並べられた機材には多くのジュラシックたちが座ってあちこちと通信をして情報を集めたり、支持を送ったりしている。その中央、全体を見渡せる位置に据えられた大きな椅子がゆっくりと回る。

その上にはまゆマジロが座っていた。

52無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:50:32No.15170185そうだねx8

「ま……まゆマジロ……プスか?」

わずかな面影を頼りに呼びかけるも、そこにいたのはよく知るまゆマジロとはかけ離れた姿だった。右腕は失われ、義手が据えられている。足も悪いのか、椅子のそばには松葉づえが立てかけられていた。他にも体のあちこちに深く、痛々しい傷がある。何より違うのはその瞳だ。こちらを見据える顔にかつての純粋無垢な瞳はなかった。戦火を、家族の死別を、多くの悲劇を見続けた悲しい瞳があった。
「まゆマジロ…生きて……生きてたんプスなぁ……」

それでもトプスにはそれが自分の家族であるとわかった。よたよたと歩み寄るトプスに周囲の兵士が警戒し構えるが、まゆマジロはそれを片手で制した。椅子の上から降り、松葉杖をついてトプスの方へと歩いていく。目には大粒の涙があふれていた。
「まゆマジロー! うわー! 生きてたプス! 会えたプスー!」
「はにー!!!!!」

53無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:51:04No.15170186そうだねx8

トプスとまゆマジロは大声を上げて泣いた。周りにいた兵士も、通信で繋がった先の部隊も訳も分からず混乱している。しかしつきのみやこの、リーダーたちの逸話を知るものが一人、また一人と事態を飲み込んでいった。自分たちを導き戦った英雄、その願いが今ようやく叶ったのだと。

『キュイー!』
「プス!?」

武装ラプトルの声とは違うラプトルの鳴き声にトプスは驚き顔を上げた。聞き間違えるはずがない、今度こそラプトルの声だ。あたりを見渡すトプスにまゆマジロが微笑みながら壁を指さした。そこには培養液に浸かったラプトルの尻尾があった。コポコポと泡立つ謎の溶液の中で電極に繋がれた尻尾がゆらゆらと揺れている。そのから伸びたスピーカーがまたラプトルの声を上げた。
『キューイキュイキュイ!』
「はにはに。はに、はにはにに!」
「あー、これも鈴瑚さんの作った装置なんプスか……いや、すごいんプスけど…尻尾でいいんプスな……」

54無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:51:31No.15170188そうだねx10

かくしてトプス、ラプトル、まゆマジロ、あと清蘭はもう一度揃うことができた。全員一緒ではなかったけれど、それでもまた家族と再会することができた。司令官の椅子に座り、まゆマジロとラプトル培養ポッドをひざに抱えながらトプスは決意を固めた。
「トプ、決めたプス。トプも一緒に戦うプス!」

諸悪の根源たるジュラにゃんは既に倒された。しかしバイオベースが残っている限り、バイオジュラ兵は生まれ続け、戦争は終わらない。自分を待ってくれていた家族のためにも、今度は自分が戦う番だ。トプスの目には強い覚悟が宿っていた。
「リーダー! 報告です! い、今、最後のバイオベースが陥落したと!」
「プス?」
「残ったバイオジュラ兵も駆逐したそうです!」

一瞬の静寂。次の瞬間、歓声の大爆発が起きた。誰もかれもが喜び、涙を流し、抱き合っている。あの武装ラプトルですら泣き笑いの表情で飛び上がっていた。

「……あれ、これもう終わった感じプス?」

55無題Nameとしあき 22/02/27(日)00:51:53No.15170189そうだねx13

各地に多くの、大きな傷跡を残して戦争は終わった。
義勇軍は解体され、皆それぞれの居場所へと帰っていった。かつてのつきのみやこは終戦記念と有事の際の前線基地に使うということでそのまま残すことになるという。トプスは、その生い立ちや終戦のその日に帰りついたことから自由の象徴とか平和の使者とか呼ばれ、マスコミに持てはやされた。調子乗りのトプスといえど、これは流石に居心地が悪かったらしく、すぐに表舞台に姿を見せることはなくなった。今では町の外れに居を構え、復興の進む街を眺めながらのんびり暮らしている。そばにはまゆマジロとラプトル(培養液)も一緒だ。

『今日は絶対雨降るよー。100%!』

青空はどこまでも広く、澄み渡っていた。

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